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<書評・レヴュー>大森宣暁「 子育て世帯の多様なライフスタイルを実現する都市と交通のあり方」(『都市計画学会学会誌』,2013)

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Academic year: 2021

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(1)書評・レヴュー. 「子育て世帯の多様なライフスタイルを 実現する都市と交通のあり方」 大森宣暁著 『都市計画学会学会誌』2013年10月号 p.28-32 所収. 栗林祐未. 「ベビーカー論争」を背景に,2014年3月,国土交通省がベビーカーマ ークを創設し,ベビーカー利用者と周囲の乗客の双方が配慮すべき注意点 をまとめ,発表した。実のところ公共交通機関におけるベビーカー利用に 関しては,2009年頃から西本由紀子を中心に研究が進められているもの の,都市・交通分野において子育てが重要な研究対象として認識されはじ めたのは2000年代に入ってからであり,非常に歴史が浅い。研究内容と しても,ベビーカー利用等の子連れでの移動に加えて,子育てマップや子 育て支援施設整備に関する研究が多く,いずれもミクロの視点での研究が 中心である。 いっぽう著者の大森宣暁は,都市交通計画を専門とする研究者で,都 市・交通分野における子育て関連研究の中心的存在である。彼は2007年 頃から,自身の専門であるアクティビティベーストアプローチの視点で 「子育てしやすいまちづくり」をテーマに研究を進めてきた。そうした状 況の中,大森は本論文で,子育て世帯の多様なライフスタイルを実現する ための都市と交通のあり方について,子育て中の親の日常生活とバリアに 焦点を当てて論じている。 本論において「子育て世帯の多様なライフスタイル」とは, 「個人・世 帯特性」に関する中長期的な意思決定と,日々の「活動・交通パターン」 といった短期的な意思決定において,多様な組み合わせを選択でき,かつ 柔軟に変更可能なことと定義されている。その定義を踏まえ,著者は子育 116. 書評・レヴュー.

(2) て世帯の日常生活を制約するバリアについて,交通システム,活動機会, 子育て支援サービス,子どもの存在によるスケジュール制約,子育て生活 に必要な情報,子育てや子ども連れ外出に対する人々の意識・理解の6つ に分類して整理し,各バリアを緩和するための環境整備や情報提供,コミ ュニティ形成,経済的支援など,対応の具体的内容の例を示している。こ の分類は,2011年に彼が共著として発表した「子育て中の女性の外出行 動とバリアに対する意識に関する研究」において初めて試みられ,以後の 研究において精査され,確立されたものである。 さらに著者は6つの分類の中で,「子育てや子ども連れ外出に対する人 びとの意識・理解に関するバリア」を緩和することが最重要であると主張 している。この主張の背景に,子育て経験の違いによる子育てや子ども連 れ外出に対する意識の違いによって,トラブルが生じているという現状が 存在するためである。特にベビーカー利用による外出について,著者は諸 外国との比較を通じて分析を行っている。たとえば,「ベビーカーで公共 交通利用時に周囲の乗客から親切な行為を受けた人の割合」について,諸 外国では乗降の際の配慮など何らかの親切な行為を受けている人の割合が 高い一方で,日本では特に親切な行為を受けていないとの回答が過半数を 占める。また,「公共交通車内でベビーカーを折りたたむかどうか」につ いて,日本と韓国では混雑時を含めると80%以上が折りたたむと回答し ているのに対し,特にスウェーデンとドイツでは常に折りたたまない人が 過半数を占めている。当然国民性や文化の違いはあるものの,日本ではこ のようにベビーカーで公共交通を利用しにくい状況を著者は指摘し,状況 改善のためには周囲の乗客の子ども連れに対する意識や理解の向上も必要 であると述べる。その点で,冒頭で触れたような国土交通省のベビーカー 論争への対応を当論文が促していることは言うまでもない。 こうした内容を踏まえた上で,本論は子育て世帯のバリアに関する6つ の分類や,子育て世帯の移動と活動に関する分類などの整理を通じ,交通 計画における子育てバリアフリーに関する研究をマクロの視点で捉え,ミ クロの視点での研究の位置付けの指針となる論文であるといえよう。ただ しマクロな研究とミクロな研究とは,それら自体が序列を持つものではな く,マクロの視点を持つ著者がミクロの視点での研究も行うことによる相. 子育て世帯の多様なライフスタイルを実現する都市と交通のあり方. 117.

(3) 互補完性に意義があると考えられるため,今後のさらなる研究に期待した い。また,今後の研究の指針として,著者がこの論文で指摘した「子育て や子ども連れ外出に対する人びとの意識・理解に関するバリア」の緩和に 着目していくことが最重要であるのは言うまでもない。公共交通機関にお けるベビーカー利用に関する意識調査については,西本らが乗客・ベビー カー利用者の双方の視点から既に実施しており,乗客の意識からは,子連 れ外出者を支援するという社会の風潮が徐々に浸透してきていることが明 らかになっている。一方で,現状として,移動弱者という点でベビーカー 利用者が高齢者や障害を抱える人よりも軽んじられている傾向があるよう に筆者は考える。今後は,移動弱者として相対的にベビーカー利用者に対 する意識・理解を向上していくことも必要であろう。. (都市イノベーション学府博士前期課程・都市地域社会専攻). 118. 書評・レヴュー.

(4)

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