言語教育研究 第 2 号(2011 年度)
外来語に見られる開音節化規則の習得
―中国語母語話者への調査に基づいて―
顧氷馨キーワード
外来語,日本語化規則,開音節化規則の習得,中間言語,誤用分析はじめに
筆者は来日後,日常生活では外来語に戸惑って意味が理解できないという経験を何度もし た。特に辞書を引いても解釈の出ていない新語に遭った時は,いつもその意味を調べようもな く諦めてしまっていた。そこで,たくさんの工夫をしたら,筆者は知らない外来語に出会うた びに,それと似た英単語がないかと考えてみるようになった。筆者はこんなストラテジーで, 外来語の意味を推測し,カタカナでの表記も簡単に覚えられるようになってきた気がする。 カッケンブッシュほか(1993)の研究によると,日本語の外来語は8割以上が英語からの借 り入れであり,しかも一定の規則に基づく体系的な日本語化が行われており,その規則を学習 者に説明することは日本語教育上に意義があるとしている。 一方,中国では近年英語教育が盛んに行われ,たとえ英語専攻の学生でなくても,大学時代 では最低英語のCET4(注1)試験に通らなければならない。そのため,中国の大学生にとって は,英語を学ぶことは大学時代の最も重要な課題の一つだと言える。もちろん,日本語を専攻 とする学生も例外ではない。 このように,筆者自身の経験および中国での英語教育背景を考えた上で,中国人学習者は日 本語と英語を同時に勉強しているうちに,外来語の開音節化規則を内在的に構築しているので はないかと考え始めた。さらに,英語を原語とする外来語の日本語化規則が,どのように中国 人学習者の中で構築されているかを見ることにより,中間言語の一端が明らかにできると考え た。そこで,本稿では,中国人学習者がどのように日本語化規則を習得(注2)しているのかを 開音節化規則を中心に考察する。 具体的な研究課題は以下の通りである。 (1) 長い英語学習歴を持つ中国人日本語学習者は,日本語化規則の開音節化規則をどのよう に内在的に構築しているのか。 (2) 原語が英語である外来語の日本語化規則の習得が英語レベルの違い,日本語レベルの違 いによってどのように影響されているのか。 (3) 日本語化規則の習得の過程で現れた学習者の特徴,および開音節化規則の特徴は何か。 (4) 開音節化規則を習得していくうちに,どのような誤用が現れるのか,それぞれの誤用が どうして起きたのか。1.1 日本語化について 英語の語彙や表現を外来語として表記する時には,1)開音節化,2)促音挿入,3)母音の日 本語化,4)子音および半母音の日本語化,5)スペルに基づいた日本語化,6)アクセントの日 本語化,といった6つの日本語化規則が適用されるという(カッケンブッシュ.大曽1990)。本 稿では,中国人学習者が外来語の日本語化規則をどう内在的に構築しているかを見るため,開 音節化をとりあげて考察する。 1.2 開音節化について
日本語は開音節(open syllable)を原則とするのに対して,英語は閉音節(closed syllable) が原則であり,sprint[sprint]のように子音が2つ以上並ぶことが可能である。そのため,日 本語化の際は,英語を開音節化すること,つまり母音を添加または挿入することが要求される。 さらに,開音節化規則は次のように分類される(カッケンブッシュ&大曽 1990)。 基本規則 例外規則 [t,d]には[o](規則3.2) →[t]が[tsu]になる(規則3.3) [tʃ,dʒ]には[i](規則3.4) 残りの子音には[u](規則3.5) →[k]が[ki]になる(規則3.6.2) [ʃ]が[ʃi]になる(規則3.6.3) [ʒ]が[ʒi]になる(規則3.6.4) 1.3 日本語化規則の習得について 日本語化規則の習得に関する研究としては,管見の限りでは,茜(1998,1999),小林,カッ ケンブッシュ,深田(1991,1999),小林(1997,1998),山縣(1999),張(2006)がある。 まず,日本語化規則の習得については,小林(1997:55)は「日本語学習者(英語を母語とし ない)は「基本的な開音節化規則→子音による例外規則→語彙による例外規則」の順で,開音 節化規則を縦断的に習得している」という。小林(1998:85)は,「日本語学習者(英語母語話 者)にとっての外来語の習得は,個別的な単語の暗記ではなく,日本語化規則の体系を自己の 中に構築しながら進んでいくプロセスである」と論じている。そこで,「学習者が日本語化規則 を体系的に構築する」という記述が興味深い。ただし,それはあくまでも英語母語話者を対象 に行われた調査から得られた結果であり,小林(1997:55)も英語を母語としない日本語学習者 に対して調査を行ったにもかかわらず,中国人学習者のことに触れていない。そのため,英語 を第二外国語とする中国人日本語学習者がどのように日本語化規則を構築しているのかについ て調査分析した研究はないと言っても過言ではない(注3)。 次に,開音節化規則の誤用分析については,小林(1997)では,開音節化規則において例外 といえる規則は,習得しにくい,つまり,有標な規則であると指摘されている。 一方,茜(1999:93)は,開音節化規則において顕著な誤用類型を次のようにまとめている。
言語教育研究 第 2 号(2011 年度) (1) [k/ʃ/ʒ/tʃ/dʒ]の音は習得しにくい。 (2) 語中の[s/z]“question/Disney”「dizni」には[u]が添加されにくい。 (3) 英語の歯間摩擦音 “th”[ɵ]の表記に,開音節化規則の体系が反映されにくい。 (4) 例外規則の習得に関しては,規則(3.6.2)の「ケーキ,ステーキ」以外は極端に悪い。 上記の先行研究における開音節化規則の誤用分析は,その誤用種類に主眼を置くものが多 い。そこで,本稿では開音節化規則に現れた誤用種類を纏めた上で,その誤用原因を検討する。 1.4 先行研究に残された課題 以上のように日本語化規則の習得に関する先行研究を概観した結果,次の課題が残されてい ることが分かった。 (1)先行研究は英語話者を対象に行ったものが多いため,英語を第二外国語として学ぶ中国人 日本語学習者の日本語化規則習得状況は明らかにされていない。そこで,本稿では中国人学習 者を調査対象者とした。さらに,調査協力者を日英ダブル専攻のグループと日本語専攻のグル ープに分け,その結果の違いを見る。 (2)調査方法としては,いずれも調査協力者に英単語を提示して,外来語を記入してもらうテ スト形式が用いられた。調査語の英単語は,山縣(1999)以外では,すべて小林,カッケンブッ シュ ,深田(1991)が挙げた48語(資料1)が用いられた。この48語は外来語として調査協力者 にとって未習であるとされているが,“チョコレート”,“カラー” のような,日常生活で遭遇し やすい外来語も含まれている。そのため,日本語化規則からの推測ではなく,記憶に沿って表 記した可能性もあると思われる。そこで,本稿では,そのような可能性を極力排除すべく調査 語を改めて厳選した。 (3)先行研究では開音節化規則の誤用について言及したものはあるが,体系的な誤用分類およ び誤用原因の分析は行われていないため,本稿では,誤用のパターンを纏めた上で,その原因 を検討する。
2.調査の概要
2.1 調査協力者 調査協力者のプロフィールは表1で示す通りである。 表1 調査協力者のプロフィール 所属大学 所属専攻 外国語学習状況 学年 調査人数 中国 A 大学 日本語専攻JP 第一外国語:日本語 第二外国語:英語 4 年生 40 名 日英ダブル言語専攻JE 第一外国語:英語 第二外国語:日本語 4 年生 92 名92名,「日英ダブル言語専攻JE」(日本語を第二外国語とする)4年生40名である。 2.2 調査語 本稿では以下のような選定基準に従って調査語22語(資料2)を改めて厳選した。 1.外来語は調査協力者にとって未習である。 2.外来語の原語が英語であり,しかも,その英単語が大学レベルの中国人学習者なら習得すべ きもの。この基準に合わせるため,中国大学入学試験の英語単語リストと中国大学英語4級試 験の単語リストに現れる英単語だけを選定の対象にした。 3.調査語(1)∼(11)は国立国語研究研(2002)の調査によって,日本人にとって認知率が 50%以下のものである。 4.可能な限り先行研究にある開音節化規則をすべて含むような外来語を選定した。そこで,カ ッケンブッシュ&大曽(1990)で挙げた例を参考にして,調査語12 ∼ 15を選定した。 5.開音節化規則以外の日本語化規則もバランスよく含まれるため,カッケンブッシュ&大曽 (1990)を参考にした上で,調査語(16)∼(22)を選定した。 2.3 データの収集 調査は2010年9月10日に,中国A大学で実施された。22個の英単語と調査協力者の日本語 と英語の学習状況を聞く質問項目が書いてある調査用紙を配布して,英単語を日本語の外来語 としてカタカナで記入してもらった。
3. 計量的分析と考察
3.1 単語レベルでの成績 外来語調査の成績を単語レベル(22点満点)で採点した。採点方法は小林(1997)を参考に し,単語全体を日本語の外来語として正しく表記できた場合は1点,1箇所でも間違っている 場合は0点として,部分点は与えなかった。また,ひらがなで表記されている場合も正解とし た。単語レベル(30点満点)で採点した場合の最高点,最低点,平均点,平均正解率は表2の 通りである。 表 2 単語レベルでの成績 単語レベル(22点満点) JP JE 最高点 16点 10点 最低点 0点 0点 平均点 5.8点 3.6点 平均正解率 26.4% 16.5%言語教育研究 第 2 号(2011 年度) いずれも極めて低い結果となった。これにより,日本語化規則に従って未習語としての外来語 の表記を推測する力はいずれも高くないと分かった。専攻別で見ると,平均正解率はJEより JPのほうが高い。これは,日本語を第一外国語とするJPはJEより規則をより身につけていて 未知語を推測する力が少し強いことを示唆している。 3.2 開音節化規則の成績 調査語に開音節化規則が含まれる箇所をチェックポイントとして,合計34個のチェックポ イントでの成績を考察する。その最高点,最低点,平均点,平均正解率は表3のとおりである。 表 3 開音節化規則レベルでの成績 開音節化規則レベル(34点満点) JP JE 最高点 32点 31点 最低点 2点 9点 平均点 24.7点 24.8点 平均正解率 72.6% 72.8% 表3を見ると,開音節化規則での平均正解率は,JPは72.6%,JEは72.8%であった。これに より,半分以上の学生が開音節化に成功していることが分かった。 また,この正解率が単語レベルの正解率より顕著に高いという結果から,単語全体のカタカ ナ表記は間違えたが,開音節化は成功した学生が多いという解釈ができる。そこで,他の日本 語化規則と比べると,開音節化規則が習得されやすいことが分かった。
4.開音節化規則の誤用分析
解答に表れた中間言語に焦点をあて分析した結果,7種類の誤用が見られた。 4.1 例外規則の未習(JP 3.8%,JE 4.9%)(注 4) 調査協力者が例外的なものが含まれる箇所を基本原則に従って開音節化した場合は,その誤 用を「例外規則の未習得」と名づけた。本稿では,カッケンブッシュ&大曽(1990,p30)の分類 に従って,規則(3.3)( [t]→[tsu])および規則(3.6.2)([k]→[ki])を開音節化の例外規則 として扱う。 4.1.1 例外規則(3.3)の未習(JP 2.0%,JE 2.6%) 本稿では,例外規則(3.3)の習得を考察する調査語は “settlement” である。JPの2.0%,JEの 2.6%は基本原則に従って,[t]を[to]に開音節化した。カッケンブッシュ寛子ほか(1993)が, 初級教科書19種から収集した外来語に開音節化規則がどの程度適用されるかを調査した結果 によると,[t]は83.75%の確率で[to]になるのに対して,僅か5.85%の確率でしか[tsu]にな らないということである。そのため,調査協力者と出会った外来語の中には,“[t]→[tsu]” よ り “[t]→[to]” の方がはるかに多いと言える。その影響で,[t]が[tsu]になるという例外が4.1.2 例外規則(3.6.2)の未習(JP 1.8%,JE 2.3%) 本稿では,調査語 “brake” が例外規則(3.6.2)の習得状況を考察するものである。基本原則 に従って[k]を[ku]に開音節化したのはJPの1.8%,JEの2.3%に上った。そこで,基本規則 は調査協力者に定着しやすいということが言えるのではないかと思われる。 以上の分析から見ると,学習者には開音節化の基本規則が定着している者は多いが,それら を例外に対しても過剰に使用している傾向があることが分かった。そのため,例外規則を適用 すべき個別単語への学習者の注意を喚起する必要があるのではないかと考える。 4.2 日本語化ルートの間違い(JP 3.4%,JE 4.3%) カッケンブッシュ(2008)によると,外来語がどのように英語から変化してきたのかを辿る と,その日本語化のルートは二種類あるという。1つは耳で聞いた音の模写であり,もう1つは スペルから類推して決まる形である。データ分析の結果,調査協力者が間違ったルートによる 日本語化を行った例が見られた。特に,発音優先による日本語化の誤用がより多く見られた。 原語の発音に忠実に日本語化を行う傾向が調査協力者に強かったということである。 4.2.1 発音優先による日本語化の誤用(JP 3.0%,JE 3.9%) これは,スペルにより日本語化するべきところで,発音により日本語化した誤用である。発 音優先による誤用はJP全体の3.0%あるが,スペル優先による誤用はJPのわずか0.4%しかない という結果からは,外来語の音形は原語の音形に基づくという考え方がJPには強いと言える のではないかと思われる。例えば,“monitoring→モ−ニ−ト−リン” のような誤用が多く見ら れた。カッケンブッシュ.大曽(1990.p95)は,英単語 “monitoring” に含まれるスペル “ng” の 日本語化を,規則(7.2.1)として次のように述べている。 “ng”というスペルは英語では “single[siŋgl]” のように,[ŋg]と発音される場合と,“singer [siŋər],hanger[hæŋər]” のように,[ŋ]と発音される場合があるが,日本語ではどちらも 「ン」+ガ行音という形になる。これは “ng” というスペルによるものである。 そのため,調査語 “monitoring” [‘mɔnitəriŋ]における “ng” は[ŋ]と発音されるが,スペル により日本語化すると “ング” になる。調査協力者は発音により日本語化したため,語末の “グ” を数多く省略した。これは特にJPに多く見られた。 4.2.2 スペル優先による日本語化の誤用(JP 0.4%,JE 0.4%) 発音による日本語化の箇所を,スペルに従って日本語化を行ったのはJPの0.4%,JEの0.4% であった。例えば,catch-up→カットアップ,incentive →インセンチウィ。“catch-up” の下線 部分は発音によって日本語化され,“チ” にするべきなのだが,調査協力者はスペル “t” に従っ て日本語化したのではないかと思われる。また,“incentive” における子音 “v” については,カ ッケンブッシュ.大曽(1990:77)によると,有声の唇歯摩擦音[v]は日本語には存在しない.
言語教育研究 第 2 号(2011 年度) 日本語化したことから,スペル “v” の発音に近づける工夫が行われたのではないかと思われ る。
4.3 母音の長,短音の弁別困難(JP 1.8%,JE 3.3%)
これは,調査協力者が短母音の代わりに長母音を添加して起こった誤用である。長母音には [i](JP1.0%,JE2.6%)(catch-up→キャーチ―アップ),[u](JP0.8%,JE0.7%)(incentive→イ
ンセンティブ―)が見られた。母音[i]の長,短音の弁別困難の誤用原因としては,次のこと が考えられるのではないかと思われる。 1.長,短母音[i]の添加条件不明 この場合では,教育の場でそれぞれの条件を絞って,相違点に主眼を置き,学習者に誤用訂 正すれば,母音[i]添加の長,短音弁別に少しでも気づきを高めるのではないかと思われる。 2.長音拍と促音拍の混乱 誤用 “フェローシップ→フェロ―シープ”,“インターンシップ→インタンシープ” の場合は, 長音拍と促音拍の混乱も原因として考えられる。その前提は調査協力者がすでに「フェローシ ップ」,「インターンシップ」という調査語における “シ” と “プ” の間に一拍があることを知っ ていることである。ただし,それが長音拍であるかそれとも促音拍であるかについてははっき りと覚えていないのではないかと思う。そのため,この場合の誤用は,長音拍と促音拍の混乱 から起こったと思われる。つまり,促音の挿入条件を学習者に説明する必要性が示唆されたの ではないかと思われる。 ただし,規則をまず覚えて,それに従って意識的に語形を生成する覚え方をする(演繹的学 習を好む)人もいれば,新しい単語をどんどん覚えて無意識に規則を習得していく(帰納的学 習を好む)人もいるので,学習者の学習タイプに合わせる心がけが必要ではないかと思われ る。
さらに,一人ずつの表記を見ると,JE25は英単語の “orange” を「オレンジー」と,“average” を「エブルレ―ジー」と日本語化し,さらに,“fellowship” を「フェ―ロシープ」と, “internship” を「インタ―シープ」と日本語化した。JE25はこの四つの調査語すべてに共通す る誤用を起こした。それは母音[i]の長音化である。これによりJE25が自ら構築したルールに 従って,そのルールに基づいて同じような誤表記を繰り返していることが分かった。 4.4 音節脱落(JP 1.1%,JE 2.8%) 「音節脱落」には,「語尾脱落」,「語中脱落」,「語頭脱落」が見られた。 4.4.1 語尾脱落(JP 0.7%,JE 2.5%) 「語尾脱落」とは,“private→プラィ” のように,途中で英単語の開音節化をやめたため起こ った誤用である。 「語尾脱落」という誤用が起こった理由は,調査協力者がテストを受けた時に,焦って飛ばし たままになったためか,それとも時間切れのためだろうか。或いは,途中までしか日本語化が 分からなかったのか。これはフォローアップインタビューなどで明らかにするしかない。それ に,この誤用が起きた英単語の発音記号を見ると,ほとんどのアクセント記号が語頭にある。
われる。さらに,脱落した音節を見ると,average→エ(4人),incentive→インセンティ−(2 人)のように,子音[v]が含まれる音節の数が多い。これは,子音[v]の日本語化の困難さか ら来るものではないかと思われる。今後はデータを増やしてこれを検討したい。 4.4.2 語頭脱落(JP 0.3%,JE 0.3%) “question mark→マーク” のように,英単語における最後の部分しか開音節化できなかった ため起こった誤用を「語頭脱落」と名付けた。この誤用の原因としては,前の音節の日本語化 が難しい,あるいは,語尾の日本語化に馴染みがあるなどが考えられるのではないかと思われ る。 4.4.3 語中脱落(JP 0.1%) 「語中脱落」とは,“settlement→セルメント” のように,英単語の語中における音節あるいは アルファベットの開音節化を省略したために起こった誤用である。この誤用の原因としては, その箇所の日本語化が分からない,または,単にそれを見逃したなどの可能性があるのではな いかと思われる。 上記で述べた三種類の誤用は,いずれでも調査協力者の態度にかかわる可能性があるのでは ないかと思われる。例えば,注意力の低下,または,テストへの抵抗などである。そのため, この種類の誤用原因の中には,調査協力者の心理的要因も含まれているのではないかと思われ る。 4.5 英語誤発音の干渉(JP 0.1%,JE 0.3%) 本稿では,英単語の発音を間違えたため起こった誤用を「英語誤発音の干渉」だと判断した。 例えば, “arrange” →アリンゴ,“average” →アウァラゴ。英語では,“g” は常に[g]の音を表 すわけではなく,“i” や “e” の前では[dʒ]と発音される。恐らく調査協力者は “g” の発音を [g]だと判断し,[g]に母音[o]を添加し,その結果カタカナで表記するとき「ゴ」としたと 思われる。これは英語の発音を正しく認知できないため生じた誤用ではないかと思われるが, 誤用率がそれほど高くないので,極めて個人的な問題かもしれない。 4.6 異なる母音の添加/挿入(JP 1.1%,JE 3.6%) 英単語の開音節化はすなわち母音の添加または挿入ということである。そのため,「音節脱 落」以外の開音節化の誤用は,すべて「母音添加または挿入の間違い」という大きい枠に入れ ることができると思われる。それをさらに分析すると,(1)例外規則の未習得,(2)日本語化 ルートの間違い,(3)母音の長,短音の弁別困難,(4)英語誤発音の干渉などに分けられる,こ れらが誤用の原因と考えられた。本稿では,“royal→レオイレ” のように上記のどれにも属さ ない,単なる母音の添加または挿入が間違った誤用を「異なる母音の添加/挿入」と名付けた。 仮名表記自体が開音節の拍に対応するものであるため,正しくない母音の添加または挿入はこ のテスト調査法に伴って必然的に発生する結果である。 4.7 記入ミス(JP 0.3%,JE 0.7%)
言語教育研究 第 2 号(2011 年度) 思われるものを「記入ミス」と名付けた。例えば,アレンジ→アレンド。これは体系的に行わ れたものではないと思われる。“presence” → “プレゼント” のように,調査協力者の記憶にあ る他の外来語からの干渉は誤用の原因かもしれないが,調査協力者本人に聞かないと分からな い。そのため,この種の誤用については,その原因について本人にインタビューする必要があ ると思われる。
おわりに
今後は,統計的手法で開音節化規則の性質および調査協力者の習得特徴について考察を深め たい。さらに,JP,JEの結果を比較した上で,日本語レベルと英語レベルのどちらが日本語化 規則の習得に与える影響が強いのかを明らかにしたい。また,今回は調査協力者の誤用を以上 のように7種類に分類したが,この誤用の原因は学習者自身にはどう解釈されるのかを考察す るため,学習者にインタビューを行い,学習者の観点から誤用の原因を究明したいと考える。注
(1) College English Test Band 4,省略でCET-4である。中国では大学生を対象に行われる英語試験で あり,大学によって実施する時期は異なるが,2年生の頃は多い。 (2) 門田(2010,p5)によると,「習得」とは,acquisitionの日本語訳であり,「獲得」と訳すこともある。 「習得」は,特に意識しなくても自然に手に入れる無意識的なプロセスである。本研究では,この 定義に依拠して「習得」という言葉を使用した。 (3) 張(2006)は中国人日本語学習者を対象に,初級,中級,上級,各レベルによる習得状況の推移と いう視点で日本語化規則の習得状況を考察したが,結論が述べられていない。 (4) 数字は各誤用がチェックポイント総数(JP:34箇所×92人,JE:34箇所×40人)に占める比率。
引用文献
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