総括酸素移動容量係数の算出方法に関する考察
平山公明
今岡正美
片山けい子
(昭和54年8月31日受理)Studies on Computation of Over-all Oxygen
Transfer Coefficients
KimiakiHIRAYAMA MasaharuIMAOKA KeikoKATAYAMA
Abstract The‘‘moment method”is one of reliable methods for calculating over−all oxygen transfer coe伍cients(KLの.However, this method requires such the condition that dissolved oxygen concentration should be zero at the start of measurement. From a practical point of view, this condition cannot always be satis丘ed. A‘‘modi丘ed moment method”is then presented in this paper, which utilizes a quadratic moment in order to make it applicable even if initial dissolved oxygen concentration is not zero・ The‘‘table C8 method”, the‘‘measurment Cs mehtod”, the‘‘log・difference method”and the‘‘modified moment method”are compared. It is found that the calculated values according to the‘‘modi丘ed moment method”and the‘‘log・difference method”agreed exactly with measured values of dissolved oxygen concentration and that these two methods were more reliable than the other two methods.
1・はじめに
総括酸素移動容量係数(KLa)は水中への酸素の溶 解速度を示す指標であり,この値を算出することが, 下水処理場のぼっ気槽や,河川,湖沼での酸素供給能 力を知る上で常に必要となる。KLaを算出する方法 として,Table C、法をはじめとするいくつかの方法 が知られており,橋本,藤田の報告1)2)によれぽ,そ の中でもモーメント法が良い再現性をもち信頼度の 高いものとされている。ところで,モーメント法は 本来,BODの酸素消費曲線の反応速度定数を算出す るためにMoore 3)らが考案したものである。 BOD 反応の場合,初期BODが必ずゼロとなるために,こ の方法を応用してKLaを求めるモーメント法は,岩 本4)の報告,あるいは前回の報告5)で指摘されるよ うに,測定開始時の溶存酸素濃度をOmg/1にするこ とが必要である。ところが,通常,KLaを測定する 際には酸素濃度の初期値をゼロにすることはあまりな く,0.1∼2mg/1の酸素が水中に残っている状態で測 定を開始することが多い。酸素濃度の初期値がゼロで ない場合でも,対数差法によれぽKLaの算出が可能 であることを前回の報告5)で示したが,2次までのモ ーメントをとれぽ,計算が多少繁雑になるけれども, モーメント法によってもKLaの値を計算することができる。すでに,Mooreらの報告3)にはBOD反応
に誘導期が存在する場合のデータの取り扱い方法とし て,2次のモーメント法が簡単に紹介されているが, 本報告ではその方法をKLaの算出方法に応用して他 のいくつかの算出方法と比較し,その有効性を確かめ た。2・KLaの各種算出方法
前回の報告では,実験開始時の溶存酸素濃度がゼロ であるという条件のもとで5種類の算出方法を比較した。今回は酸素濃度の初期値がゼロでないという条件
のもとでKLaを算出するが,このような条件でも
KLaの算出が可能な方法はTable C、法,実測C・ 法,対数差法およびモーメント法の4方法である。こ れらの方法は,前回に述べた方法5)と比べると,未知 数がひとつ増えるため計算手順がやや繁雑になる。以 下にその計算方法の概略を述べる。 (1)Table Cs法および実測Cs法 酸素が水中へ溶け込む時の酸素濃度の時間変化は次 式で示される。讐LK・・(c・・−CL) (・)
CL:水中の溶存酸素濃度〔mg/1) C・:水中の飽和溶存酸素濃度〔mg/1) KLa:総括酸素移動容量係数〔1/hr〕 t:時間〔hr〕 (1)式を積分すると ln(Cs−CL)ニーKLat十CC:積分定数
となる。よって CL=Cs−A exp(−KLat)A:定数
(2) (3) となる。(2)式より,もしC・の値が前もってわかっ ていれぽ,ln(C・−CL)とtとは直線関係にあり, その傾きからKLaを求めることができる。 Table Cs 法では何らかの計算式かあるいは数表によってC・を 求め,実測Cs法では十分ぽっ気を行った水の溶存酸 素濃度を理化学的な方法で測定してCsを求める。 C・ の決め方を除いたそれ以外の点については,Table Cs法も実測Cs法も全く同じ方法で計算が行われる。 本報告では,純水中の飽和溶存酸素濃度として衛生工 学ハンドブック6)に記載されている値を,Table C・ 法のCs値として用いた。また,実測C・法のC・値 は,散気管で十分ぽっ気した検水の溶存酸素濃度を, ウィンクラー法のナトリウムアザイド変法で測定する ことにより求めた。以上のようにして求めたCsを用 い,tiに対して1n(C、−CL(川)をグラフ上にプロ ットし,その傾きを最小自乗法によって計算しKLa の値を求めた。さらに(3)式中のAの値を求めるた めには R=Σ〔CL(の一{C・−Aexp(−KLati)}〕2 i (4)でRを定義し,このRの値が最小になるようにAの
値を決めるのがよい。ゆえtc RをAで偏微分して ∂R/∂A=0とおくと ΣC■(ti)exp(−KLati)−C・Σexp(−KLati) i i+繹・xp←2KLat・)=O (5)
したがって A={CsΣexp(−KLati)一ΣC■(ti)exp i i (一一一KLati)}/Σexp(−2KLati) i となる。 (2)対数差法 At間の濃度差をdで表すと (6) d(の=CL(t) −CL(t−dt)=Aexp(−KLat) {exp(KLa・dt)−1} (7) 両辺の対数をとると lnd(の=−KLat十lnA{exp(KLa・dt)−1} (8) となる。右辺の第2項はdtを一定にしておくと定数になるので,lnd(のとtとは傾きが一KLaの直線
関係になる。そこで,CLの測定を等時間間隔にto, tl, t2,…tn.1(ti−ti−1 ・ dt(一定))と行い, d(ti)= CL(zの一CL(ti−1)とすれぽ, tzとlnd(tz)の組み合わ せから最小自乗法を用いてKLaを求めることができ る。C・とAを求めるには(4)式で定義したRを最小 にすることを考える。未知数はAとCsなので, R をAとC・で偏微分したものをゼロとおいて連立方 程式を解く。∂R/∂A=Oより ΣCL(ti)exp(−KLati)−CsΣexp(−KLati) i i 十AΣexp(−2KLati) ==O (9) t また∂R/∂Cs=0より ΣCL(彦の一nCs+AΣexp(−KLα励=O i t (10) が得られる。この連立方程式を解くと A=ΣC・ω・Σ・xp←KLat・) nΣexp(−2KLati) −nΣCL(のexp(−KLati) 一{Σexp(−KLati))2 C、=ΣCL(tτ)+AΣexp(−KLati) (11) n (12) となる。 (3)モーメント法 (3)式において酸素の初期濃度がゼロ,すなわちt=0の時CL=0とするとA=Csとなり(3)式は
CL =C,{1−exp(−KLat)} (13) となる。離散的にとられたCL−tの値から(13)式に従ってKLaを算出する場合,未知数はCsとKLa
の2つである。だから0次と1次のモーメント,つまりΣCLとΣtCLの値を計算すれぽCsとKLaを求
めることができる。この方法が従来行われているモー メント法である。 t=0の時CL十〇であれぽ(3)式中のAはA十C、 となり,KLaを算出する際の未知数はC、, KLa, A の3つとなる。したがってモーメント法を用いて計 算するには,2次までのモーメントすなわち,ΣCL, ΣtCL,Σt2C■が必要となる。 2次までのモーメントを用い,(3)式よりKLaを 算出することを考える。CLの値はdt間隔にto, tl, t2,…, tn.1(ti −ti.1 ・= dt(一定))とn個とられてい るものとする。そうすると0次,1次,2次のモーメ ントMo, M,, M2はそれぞれ M。==ΣCL(の=nC、−AΣexp(一一・KLati) (14) M、=ΣtτCL(zの=C・Σz乞一.AΣ彦‘ exp(一一一KLati) (15) M2=Σ彦τ2CL(τの=C・211ti2−AZIti2 exp(一一KLat・t) (16) となる。便宜上 Σexp(−KLati)=Eo Σtiexp(−KLati)=El Σti2exp(−KLati)=E2 とおくと(14)式より C、=M・+AE・ n これを(15)(16)式に代入して整理すると nM一ハ40Σti =A(E。Σtz−nEl) nM2−M。Z’ti2=A(E。Σti2−nE2) よって nM一MoZ”ti_E。Σあ一璽塾L nM2−Md。Zlti2 E・Σ彦Z2一ηE2 (17) (18) (19) (20) が得られる。(20)式の左辺は測定されたデータから計 算される。一方,右辺はtiさえ定めておけぽKLaの みに依存する関数である。そこで,たとえぽti=0, 1,2,…,9hrn=10と定めておき,右辺をいろいろ なKLaの値に対して計算を行い, KLaと(EoΣti − nEi)/(E。Σti2−nE2)の関係をグラフにしておけぽ, 測定結果よりKLaが求まる。また(18)式より 画 言 ぼ 0.130 崎 」 兀0・120 崎 0.110 陥← 0.20図一1KLaと
.EoΣti2rE2 0.30・ KLa(1/hr) EoΣτ仁E1 の関係 0.40・ 80 口 1 75 鵬 70 閏 5.0 4.0 3.0 0「」 @ .20 0.30 0.40 Ki.α(1/hr) 図一2KLaと.EoΣti−nEi, Eoの関係 ”Mr碧ΣZ⊆E・71・・一・E・ (・・) であるから,KLaと(EoZ’ti−nEi)の関係をグラフ にしておけぽ,(20)式で求まったKLaの値から (nMi−MoZ’ti)/Aの値が求まりAの値を求めるこ とができる。さらに(17)式よりカCテ妬一E・ (22)
であるから,KLaとEoの関係をグラフにしておけ
ぽ,求めたKLaの値から(nCs二Mo)/Aの値が求
まりCsの値を求めることができる。 図一1にt・i =O,1,2,…,9hr n=10とした時のKLa 表一1 測 定 値 の 例 ti (hr) CL(の(mg/1) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 1.34 2.89 4.00 4.79 5.40 5.84 6.21 6.47 6.65 6.80表一2 2次のモーメント法での計算例