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胆石症の手術入院を契機として診断されたインスリノーマの1例

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胆石症の手術入院を契機として

診断されたインスリノーマの1例

髙 橋 憲

, 大 矢 敏 裕,

本 広 志,

多 胡 賢 一, 清 水

尚, 沼 賀 有 紀,

家 里

裕, 横 森 忠 紘, 竹 吉

要 旨 症例は 69 歳女性で, 2008年 4月, 検診の上部消化管造影検査で胆石症を指摘され, 小千谷 合病院消化器 科を受診した. 5月に腹腔鏡下胆囊摘出術を行ったが, 術後に低血糖発作が頻発した. 境界型糖尿病の既往が あり,同院内科に定期通院中であったため,内科に転科し精査を行った.Turner indexが高値であり,腹部造影 CT で膵尾部に径 5 mmの high densityな結節を認め, インスリノーマが強く疑われた. 局在診断かつ手術治 療目的に消化器科に転科した. 経皮経肝門脈採血で脾静脈末梢 1/3から中枢 1/3にかけて急激なインスリン 濃度の増加がみられた. 膵ダイナミック CT では膵尾部に径 15mmの結節を認めた. 動脈造影で腫瘍濃染な く, 内視鏡的逆行性膵管造影で主膵管に異常は認められなかった. 7月に手術を行い, 術中超音波で局在が断 定できたため, 術式は核出術とした. 病理組織診断は islet cell tumor (typical case), ホルモン産生はインスリ ン (+),グルカゴン (−),ソマトスタチン (+/−)であった.術後は難治性の膵液漏となり,退院まで 6か月を 要したが保存的に治癒し, 現在外来で経過観察中である. インスリノーマは比較的稀な疾患であり, 若干の文 献的 察を加えて報告する.(Kitakanto Med J 2011;61:63∼68) キーワード:インスリノーマ, 低血糖, 膵内 泌腫瘍, 神経内 泌腫瘍, NET 緒 言 膵内 泌腫瘍は膵腫瘍の 2%を占める比較的稀な疾患 である. 今回, 我々は胆石症の手術入院を契機として診 断された膵内 泌腫瘍であるインスリノーマの 1例を経 験したので, 若干の文献的 察を加え報告する. 症 例 患 者:69 歳, 女性. 主 訴:低血糖発作. 現病歴:2008年 4月, 検診の上部消化管造影検査で胆石 症を指摘され, 小千谷 合病院消化器科を受診した. 治 療の希望があり, 5月に腹腔鏡下胆囊摘出術を行った. 術 後経過観察の簡易血糖検査で低血糖が頻回に報告され た. 境界型糖尿病で同院内科に通院中であったため, 精 査目的に内科に転科した. 内科で Turner index の上昇と 腹部造影 CT で膵尾部に小結節を認めたため, インスリ ノーマの存在が強く疑われた. 局在診断, 治療目的に消 化器科に転科した. 既往歴:20年前より高血圧があり, 内科で降圧剤投与を 受けていた. 境界型糖尿病も指摘されているが薬物投与 なく経過観察中であった. 家族歴:特記すべき事項なし. 入院(消化器科転科)時現症:身長 150cm, 体重 51.0kg, 体温 36.0℃, 脈拍 65/ ・整, 血圧 156/93mmHg, 意識清 明,眼瞼結膜に 血・黄疸なし,腹部は平坦・軟であり,腹 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科臓器病態外科学 2 新潟県小千谷市本町1-13-33 小千谷 合病院 消化器科 平成22年11月18日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科臓器病態外科学 竹吉 泉

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腔鏡下胆囊摘出術のポート を臍下, 胸骨剣状突起下, 右季肋下鎖骨中線上および前腋窩線上に計 4か所認め た. 血液検査所見(Table1):血算,生化学検査で明らかな異 常を認めなかった. 胆囊摘出術後は簡易血糖測定による 血糖値 50未満の低血糖が頻回に認められた. 内科入院 時に plasma glucose (PG) と immunoreactive insulin (IRI) の測定を行った. インスリン抗体結合率および血 清 C-peptideは正常であったが, PG の低下にたいして IRI が抑制されず, Fajans indexが 0.33, Turner indexが 535と上昇を認めた. インスリン自己免疫症候群は否定 的であり, インスリノーマの存在を疑った. 腹部ダイナミック CT検査(Fig.1):全ての phaseにお いて膵尾部に径 15mmの high densityな結節を認めた. 内視鏡的逆行性膵管造影:膵管の形状, 走行に異常を認 めなかった. 腹部血管造影検査:腹腔動脈, 肝動脈, 脾動脈, 上腸管 膜動脈造影を行ったが, 腫瘍濃染は認めなかった. 経皮経肝門脈採血(percutaneous transhepatic portal venous sampling : PTPVS)(Fig.2):脾静脈末梢 1/3か ら中枢 1/3にかけて IRI の急激な増加 (step up) が認め られた. インスリンを産生する腫瘍は膵体尾部に存在す ると えられた. 術前診断:膵尾部に単発性に存在する径 1.5cmの腫瘍が ありインスリンを産生している可能性が極めて高いこ と, 血清カルシウム値, 家族歴より多発性内 泌腺腫症 1 型 (MEN1) が否定的であること,腫瘍が主膵管へ圧排や 浸潤をしている所見はないことより, 典型的な膵に限局 する単発の良性インスリノーマであると診断した. 以上 より治療を開腹膵腫瘍核出術の予定とした. Table 1 血液検査所見 (血算) (生化学) Ht 39.5 % AST 20 IU/l Hb 13.4 g/dl ALT 15 IU/l RBC 419 ×10 /μl T-Bil. 0.7 mg/dl WBC 3990 /μl ALP 297 IU/l Plt. 15.6 ×10 /μl γ-GTP 12 IU/l Amy 62 IU/l (血糖関連) BUN 12.1 mg/dl PG 32↓ mg/dl Cr. 0.61 mg/dl

IRI 10.7 μU/ml Na 136 mEq/l

CPR 1.0 U/ml K 3.7 mEq/l

IRI 抗体結合率 3.6 % Cl 99 mEq/l

Fajans index 0.33↑ Ca 9.5 IU/l

Turner index 535↑ Grunt index 3.0

Fig.1 腹部ダイナミック CT で膵尾部に径 1.5cmの high densityな結節を認めた (矢印). aは動脈相, b は平衡相.

Fig.2 経皮経肝門脈採血所見.数値は血清 IRI 濃度 (μU/ml). 丸数字はそれぞれ,①上腸管膜静脈 (SMV).② SMV・ 脾静脈 (SV)合流部.③門脈.④脾門部.⑤ SV末梢 1/3. ⑥ SV中枢 1/3. を示す. ⑤から⑥にかけて IRI 値の急 上昇がみられる (矢印).

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手術所見:腫瘍は膵体部の背側に存在した. 術中エコー で腫瘍は単発で径 2 cm大であり, 主膵管への浸潤は認 められなかった. 予定通り膵腫瘍核出術を行った. 摘出 標本肉眼的所見を Fig.3に示す.

病理所見(Fig.4):Pancreas: Islet cell tumor (typical case). 明らかな悪性像は認められない. ホルモン産生は インスリン (+), グルカゴン (−), ソマトスタチン (+/−) を確認している. 術後経過:術後に膵液瘻を発症し, 寛解・再発を繰り返 したため退院は術後 6か月と長期化したが, 保存的に治 癒し, 現在外来で経過観察中である. インスリノーマの 再発はみられていない. 察 膵内 泌腫瘍は全膵腫瘍の 1∼ 2%を占める比較的稀 な 腫 瘍 で あ る. 2005年 の Neuroendocrine Tumor Workshop Japan (NET Work Japan) によると, 人口 10

万人当たりの膵内 泌腫瘍の有病患者数は 2.2人, 1年 間の新規発症率は 1.0人と推定された. 膵内 泌腫瘍の 内訳は機能性腫瘍が 42.3% (インスリノーマ 31.7%, ガ ストリノーマ 8.6%など), 非機能性腫瘍が 47.7%であっ た. MEN1合併率はインスリノーマは 7.4%, ガストリ ノーマが 27.3%であった. 全体数が少ないながら,イン スリノーマは機能性腫瘍では最も頻度は多い. 単発性 90%, 良性 90%であり, 本症例はインスリノーマの 典型例といえる. 最近では膵内 泌腫瘍やいわゆる消化管カルチノイド を 称して消化器神経内 泌腫瘍 (Gastroenteropan-creatic neuroendocrine tumors: NET)と呼ぶことが多く なり, (現在では正式にはカルチノイドという消化管 Fig.3 摘出腫瘍は最大径 15mmの周囲に薄い被膜を伴い, 内部は充実した 弾性 の腫瘤であった. Fig.4 HE 染色にて腫瘍細胞と正常膵細胞との境界は明瞭であった. 免疫染色にて インスリン (+), シナプトフィジン (+) であり,インスリノーマと診断され た.

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NET に与えられていた名称は消えている) が, 本稿で は膵内 泌腫瘍と表記した. インスリノーマの診断は存在診断と局在診断に けら れる. 存在診断はインスリンの自律性過剰 泌による低 血糖の証明にある. 症状としては Whippleの 3徴 (①空 腹時意識消失発作,②発作時血糖が 50mg/dl,③ブドウ糖 投与による症状改善) が典型例といわれているが, 意外に見落とされやすく長年, 精神疾患として経過観察 されていることもある. 本症例において過去の内科で の血液検査結果を調べてみたところ,時折 PG が 70前後 であることがあった. 問診してみると低血糖発作と思わ れる冷汗や軽度の意識低下などの症状が数年前より時々 あったとのことであった. 今回, 胆石症治療のため入院 し, 術後の血糖測定は全患者に対しルーチンとして行っ ていたため頻回の低血糖が判明したが, 検診で胆石症を 指摘されなかった場合や患者が胆石の治療を希望しな かった場合は診断が大幅に遅れた可能性も十 に えら れた. 空腹時インスリン自律 泌能基準として Fajans index : IRI/PG>0.3, Grunt index : PG/IRI<2.5, Turner index: IRI×100/PG−30>200がある が,

感度・特異度ともに不十 であるとの報告も多い. 本

症例では Grunt indexが 3.0と基準を満たしていなかっ たが,Fajans indexが 0.33,Turner indexが 535でありイ ンスリノーマ疑いとした. 紀田ら は, 自験例と正常耐糖 能 者 を 比 較 検 討 し た 結 果 Fajans>0.22, Grunt<4.5, Turner>30程度がインスリノーマ疑いの基準値として 妥当であると報告しており, この基準に当てはめれば本 症例は全ての指標でインスリノーマ疑いとなった. 局在診断は画像診断と機能的局在診断がある. 画像 診断は腹部超音波 (超音波内視鏡, 術中も含む), CT, MRI, 動脈造影などの検査によるが, 単発性が多いので CT や MRI で描出されれば十 なことが多い. いずれ も動脈相早期に一様に造影される. しかしながら 5 mm 以下の腫瘍は描出されないこともあり診断率は低い とされていたが,MDCT の出現により検出感度はより良 くなってきている. 本例では動脈造影では腫瘍濃染が なかったが,ダイナミック CT では典型像を示し,確定診 断の一助となった. 機能的局在診断として選択的動脈内刺激薬注入法 (Selective arterial secretagogue injection test: SASI

test) または PTPVS を行う. 本症例で

は PTPVSを行い脾静脈末梢 1/3から中枢 1/3にかけて 血清 IRI の step upが認められた. CT 検査と併せ, イン スリノーマは膵体尾部に存在すると診断できた. 膵内 泌腫瘍は高率にソマトスタチン受容体の発現が あり, ソマトスタチン受容体シンチグラフィーが, 高い 感度と特異度で膵内 泌腫瘍を検出でき, 欧 米では主要な検査となっているが, 本邦では保険適応と なっていない. 治療は外科的切除が唯一の根治治療である. 単発であ れば可能な限り核出術を行う. 単発であっても主膵管と の距離が近い場合や, MEN1合併に多い多発例では体尾 部切除や膵頭十二指腸切除を行う. 本症例では術中 超音波でも術前診断同様に膵体部の単発腫瘍であり, 主 膵管と離れていることを確認したうえで核出術を行った が, 術後膵液瘻を生じた. 距離が離れていても電気メス の熱の波及による主膵管の損傷または縫合止血の際の主 膵管の損傷などが えられた. 肝転移をしていても切除, 肝動脈塞栓術, ラジオ波焼 , 化学療法, 放射線療法などを併せて可能な限り減量 を行う. 切除不能な腫瘍に対しては, 内科的治療を行うことに なるが体系化された薬物療法がなく, 治療に難渋するこ とが多い. 腫瘍細胞を破壊する目的の抗癌剤は欧米で はストレプトゾシン (streptzocin)が第一選択であるが本 邦では未承認である. 腫瘍 泌抑制としてソマトスタチ ン誘導体であるオクトレオチド (octreotide) が長時間作 用性薬剤の登場により い易くなっている がインス リノーマへの保険適応はない. 対症療法として腫瘍細胞 から直接インスリン 泌を抑制するジアゾキシド (di-azoxide) が海外では以前より 用されているが, 本邦 では 2008年より高インスリン血性低血糖症に適応とな り国内で入手し易くなったが, 厳密にはインスリノーマ への保険適応はない. その他, 子標的治療薬の臨床試 験が行われており将来的には抗癌剤との併用によるレジ メンが開発される可能性はある. 結 語 胆石症の手術入院を契機として診断されたインスリ ノーマの 1例を経験したので若干の文献的 察を加えて 報告した. 文 献 1. 林宏行, 福冨 晃, 朴 成和ら. 特集 神経内 泌腫瘍 に対する治療戦略 膵内 泌腫瘍の診断と治療. 癌と化 学療法 2009 ; 36: 1611-1618. 2. 小山善久,岡田 良,八島 玲ら.Ⅷ.内 泌・代謝 116. インスリノーマ. 綜合臨牀 2007; 56: 1671-1677. 3. 土井隆一郎. 特集 レジデントのための内 泌外科の常 識 膵内 泌腫瘍の診断と治療. 外科治療 2007; 97: 173-182. 4. 今村正之. 説 消化器神経内 泌腫瘍の診断と治療.日 本消化器病学会雑誌 2010; 107: 365-373. 5. 五十嵐久人,河邉 顕,伊藤鉄英ら.〔特集〕膵内 泌腫瘍 の最近の知見 膵内 泌腫瘍の診断と内科的治療―1.イ

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A Case of Insulinoma Incidentally Diagnosed

after a Laparoscopic Cholecystectomy

Norifumi Takahashi,

Toshihiro Ooya,

Hiroshi Matsumoto,

Kenichi Tago,

Hisashi Shimizu,

Yuki Numaga,

Hiroshi Iesato,

Tadahiro Yokomori

and Izumi Takeyoshi

1 Department of Thoracic and Visceral Organ Surgery, Gunma University Graduate School of Medicine, 3-39-22 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8511, Japan

2 Department of Gastroenterology, Ojiya General Hospital, 1-13-33 hon-cho, Ojiya, Niigata 947-8601, Japan

A gallstone was found in a 69-year-old woman during an upper gastrointestinal tract imaging test in April 2008,and she consulted the Department of Gastroenterology at Ojiya General Hospital. Laparos-copic cholecystectomy was performed in May, and symptoms of a hypoglycemic attack were seen postoperatively. Therefore,she received a detailed examination. The Turner index was elevated at 535. Enhanced computed tomography(CT)showed a 0.5-cm hypervascular lesion in the pancreatic tail. An insulinoma was strongly suspected. Percutaneous transhepatic portal venous sampling (PTPVS)showed a rapid rise in insulin concentration in the splenic vein from a point 1/3 distal to a point 1/3 proximal. Dynamic CT showed a 1.5-cm hypervascular lesion in the pancreatic tail. Angiography and endoscopic retrograde pancreatography revealed no abnormalities. Enucleation of the tumor was performed in July. Pathological examination revealed an islet cell tumor(typical case). Immunohistochemical staining for insulin, glucagon, somatostatin, and synaptophysin was performed. Insulin and synaptophysin were positive. The patient has had no recurrence in the 28 months after surgery.(Kitakanto Med J 2011; 61:63∼68)

Key words: insulinoma, hypoglycemia, pancreatic endocrine tumors, neuroendocrine tumors, NET

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