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"失踪"と「消滅」 -村上春樹の短編小説「象の消滅」のタイトル訳をめぐって

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Academic year: 2021

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(1)“失踪”と「消滅」 ――村上春樹の短編小説『象の消滅』のタイトル訳をめぐって 関 氷氷(浙江外国語学院) 楊 炳菁(北京外国語大学) 要旨:『象の消滅』は村上春樹の短編小説で、「僕」の住んでいる町に引き取ら れた老象がある日突然いなくなったことが「僕」によって語られた物語である。 この短編は 1988 年に中国語に翻訳されて以来、複数の訳本が存在しており、そ のうちほとんどすべての訳者が小説のタイトルを“大象失踪”あるいは“象的失踪” と翻訳している。周知のように、タイトルの翻訳はきわめて重要で、それは原作 のタイトルと同様、「読者の読みのベクトルを指示する指標」であると同時に、 テクストの「全体をくくる」役割も果たしているのである。従って、テクストに おける「象事件」の主体である「象」とその「象事件」の要約といってもよい「消 滅」でできたタイトルが“大象失踪”あるいは“象的失踪”と翻訳されるのは、果た して妥当であるのだろうか。本稿は以上の問題意識を持ち、言語の対応性及び テクストの解読から『象の消滅』のタイトル訳を考察する。. 1、はじめに 1985 年に発表された『象の消滅』は、村上春樹の名高い短編小説で、町に引 き取られた老象がある日突然いなくなったことが「僕」という一人称で語られ た物語である。この短編は最も早く中国語に翻訳された村上春樹の小説の一つ で、その翻訳史は 1988 年の 12 月に遡れる。1988 年、中国社会科学院主宰の 『世界文学』第 6 期に黄鳳英訳の「大象失踪」が掲載され、また同年の十二月、 上海訳文出版が編集刊行する『外国文芸』の第 6 期にも賈春明訳の「象的失踪」 が載せられた。1992 年、『ノルウェイの森』の中国語訳を出版した漓江出版社 は『好风长吟(「風の歌を聴け」の初期訳名)』というタイトルで村上春樹の小 説集を刊行し、その中に張潔梅が翻訳した「大象失踪」が収録された。1999 年、 漓江出版社は五巻の“村上春樹精品集”を発行し、林少華訳の「象的失踪」は“精 品集”の短編集に収録され、表題作にもなった。ちなみに、この“精品集”の出版 にあたり、漓江出版社は林少華以外の訳者を排除し、村上春樹の中国語訳を林 訳に統一した。2001 年、上海訳文出版社は村上春樹の作品の版権を取得し、 『ノ. 107.

(2) ルウェイの森』をはじめ、七編の村上春樹の小説(集)を翻訳、出版した。その うち、『象的失踪』は短編集『パン屋再襲撃』に収録され、その訳者は漓江出版 社の“精品集”と同様、林少華であった。 以上の中国大陸における「象の消滅」の翻訳史を考察すればわかるように、 「象の消滅」というタイトルは“象的失踪”あるいは“大象失踪”と翻訳された。そ もそも、タイトルというのは単なる作品の題名だけでなく、「読者の読みのベク トルを指示する指標」1であり、テクストの「全体をくくる」2 役割も果たして いるものである。この意味で言えば、タイトル訳はきわめて重要で、それは言語 そのものの転換であると同時に、外国語で書かれた原作をいかに理解し、さら にその理解をどのような訳語に集約するかというテクスト解読の問題にも関わ っているのである。この事を考えて「象の消滅」のタイトル訳を分析すればわか るように、“象的失踪”あるいは“大象失踪”における“象”と“大象”は「象」の訳語 に当たる。これは「僕」の住んでいる町に引き取られた動物の象のことで、地方 版のトップニュースにあげられた「象事件」の主体とも言える。“象”あるいは“大 象”は、原作における「象」と同義で、訳語が原作の表現と完全に対応している と言ってよいだろう。ちなみに、中国語においては、“象”と“大象”はそれほど大 差がなく、いずれも動物の象を指示している。 一方、“象的失踪”あるいは“大象失踪”における“失踪”は「消滅」の訳語であり、 4 人の大陸の訳者はいずれも“失踪”をもって「消滅」を翻訳したのである。小説 を読めばわかるように、「消滅」こそ肝心なことであり、前述の「象事件」に対 する要約と言ってもよいだろう。従って、“失踪”と翻訳された小説のキーワード、 いわば「象事件」の要約は果たして原作の表現である「消滅」と完全に対応して いると言えるだろうか。また“失踪”によって、読者に解読の指示を与え、テクス ト全体を締めくくることができるのだろうか。本稿は以上の問題意識をもって、 「消滅」の訳語である“失踪”の妥当性について検討したい。. 2、言語の対応性から“失踪”の妥当性に関する考察 そもそも文学の翻訳においては、言語そのものに対する理解とテクスト全体 に対する理解という二つの過程があり、この二つの理解が行われたうえで、は じめて文学の翻訳が成立すると言えよう。したがって、本節は言語そのものに 対する理解を中心に、「消滅」と“失踪”の意味をそれぞれ考察し、言語の対応性. 108.

(3) から“失踪”の妥当性について検討していきたい。 まず「消滅」について考察する。『日本国語大辞典』、『広辞苑』など日本の 国語辞書で調べれば、「消滅」は次のように説明されている。 消えてなくなるようにすること。消えてなくなるようにすること。(『日 本国語大辞典』) 消えてなくなること。消してなくすこと。(『広辞苑』) 消えてなくなること。それまで存在していたものがなくなってしまうこと。 (『大辞泉』) 消えてなくなること。(『スーパー大辞林』) その存在が消えて無くなること。(『新明解国語辞典』) 消えてあとかたもなくなる(=滅)こと。また、消してなくすこと。(『岩 波国語辞典』)」 以上の解説をまとめてみれば、現代日本語においては、「消滅」は基本として 「消えてなくなること」を意味しており、「消してなくすこと」がその二番目の 意味にあたることがわかる。そして、「象の消滅」における「消滅」は、「象」 という修飾語が来ており、「象」が「消滅」の主体であることが「の」という格 助詞によって表されているのである。従って、「象の消滅」はイコール「象が消 滅する」、言い換えれば、「消滅」は「消えてなくなること」を意味しており、 「消してなくすこと」と理解するのはむしろ不自然になるだろう。 「消滅」の意味は以上で、次に、訳語の“失踪”について考察する。中国語の総 合辞書である『辞海』によれば、“失”は「①遗失;丧失(なくなる)②过失;错 误(過失)③耽误;错过(逸する)④不自禁;忍不住(思わず…してしまう)」 という四つの意味があり、“踪”は「①脚印;踪迹(足跡)②追踪(追跡する)」 という二つの解釈が存在する。このような解釈からみれば、“失踪”はおそらく “失”の①の解釈――遗失;丧失(なくなる)と“踪”の①の解釈――脚印;踪迹(足 跡)の組み合わせであろう。実際に『汉语大辞典』、『现代汉语大辞典』、『新 华词典』など中国の国語辞書で調べれば、“失踪”は殆ど「寻不到踪迹;下落不明 (足跡が見つからない;行方不明)」と解釈されて、勿論この「寻不到踪迹;下 落不明」は主に人のことを指しているのである。. 109.

(4) 「消滅」と“失踪”の意味は以上のようなもので、次に両者の比較を行いたい。 すでに両者の解釈からわかるように、「消滅」と“失踪”はいずれも存在していた 人や物などがなくなることを意味し、これは両者の意味上における共通点と言 えよう。ただ、この意味上における共通点はともに変化の結果に着目し、実際の 用例として「権利が消滅する」と言えることに対し、 「権利が失踪する(“失踪”)」 とは言いにくいのである。これを言いかえれば、つまり「消滅」も“失踪”も確か に両方とも存在していた人や物などがなくなることを意味しているが、両者の 相違点も明らかにあり、類義語のように簡単に入れ替えることが殆ど不可能に 近いと言えるであろう。実は「消滅」というと、物事の「有」から「無」への変 化、いわば「完全に消えてしまった」というイメージが強く、それに対して、“失 踪”(失踪、行方不明)は単なる物事の姿を見せない、「無」になるかどうかは 未知のことであろう。そして、「消滅」に伴う変化は自然的、断続的なイメージ もあり、それに対して、“失踪”は人為的、突然性を伴った変化と言えよう。 以上の比較からわかるように、「消滅」も“失踪”もともに存在していた人や物 などがなくなることを意味しているが、相違点が明らかで、“失踪”をもって「消 滅」を翻訳するのはむしろあまり妥当ではないと言えよう。. 3、テクストの考察から“失踪”の妥当性に関する考察 「消滅」と“失踪”の対応性から言えば、“失踪”をもってタイトルの「消滅」を 翻訳するのは妥当性が低く、“失踪”という訳語はおそらくテクスト解読に由来 したものであろう。つまり“失踪”は訳者がテクストを通読した上で選出された もので、決して「象の消滅」というタイトルだけへの理解ではとどまらないだろ う。したがって、本節はテクスト全体に目を向けて考察を進めたい。なお、考察 作業は以下の通りである。 (一)訳本と原作の選定。本稿は現在大陸で最も広く読まれている上海訳文 出版社の「象的失踪(林少華訳)」3 と、講談社の『村上春樹全作品 1979~ 1989⑧』に収録された「象の消滅」4 をそれぞれ訳本と原作として採用する。 (二)訳本と原作との比較。「消滅」と“失踪”の表現に集中し、以下の二段階 に分けて作業を行う。1、原作における「消滅」を取り出し、それに対応す る訳語を確認する。2、訳本における“失踪”を取り出し、それに対応する日本 語の表現を確認する。. 110.

(5) (三)「消滅」と“失踪”の対応表を作成し、分析を行う。 「消滅」と“失踪”の対応表 訳 1 2. 文(頁). 原 文(頁). 大象从镇上的象舍中失踪的事,我. 街の象舎から象が消えてしまったこと. 是从报纸上知道的。(21). を、僕は新聞で知った。(39). 我这人看报总是从第一版依序看下. 僕は一ページ目から順番に新聞を読んで. 去,因此过了好半天才接触到关于. いく人間なので、その象消滅の記事に行. 大象失踪的报道。(21). きあたるまでにかなりの時間がかかっ た。(39). 3 4. 大象失踪的报道登在地方版头条。. 象消滅の記事は地方版のトップに載って. (21). いた。(39). 上面说人们发现大象失踪是五月十. 人々が象のいないことに気づいたのは五. 八日(即昨天)下午二时。(22). 月十八日(つまり昨日)の午後の二時であ った。(39). 5. 失踪的不仅仅是大象,(22). 消えたのは象だけではなかった。(40). 6. 但“大象问题”的处理过程很可能同. この「象問題」の処理経過は象消滅とかな. 大象失踪有相当密切的关系,还是. り密接な関係があるかもしれないので、. 容我记述下来为好。(24). あえてここに記述しておく。(41). 总之便是这样平安无事地过了一. とにかくそのようにして何事なく一年が. 年,此后象突然失踪。(28). 過ぎた。それから象が消滅してしまった. 7. のだ。(45) 8. 显而易见大象并非什么逃脱,而明. 象が脱走なんかしていないことは一目瞭. 明是“失踪”。(28). 然だった。明らかに象は「消滅」している のだ。(45). 9. (訳漏れ). 10. 报纸也好警察也好镇长也好,至少. 新聞も警察も町長も象が消滅したという. 表面上都不愿意承认大象失踪这一. 事実を少なくとも表面上は絶対認めよう. 事实。(29). とはしていなかった。(47). 对那些甚至没有认真设想过大象失. 象が消滅した可能性さえ真剣に考慮しな. 踪可能性的家伙,无论说什么都是. いような連中に何を話したところで、ま. 徒劳的。(31). あ無駄というものだ。(48). 12. 大象失踪了一周之后,(32). 象の消滅から一週間たった頃(49). 13. 一头年老的象和一个年老的饲养员. 年老いた象と年老いた飼育係が一人この. 纵使从这块土地上失去踪影,也不会. 土地から消滅してしまったところで、社. つまり象は逃げたのではなく、「消滅」し たということだ。(47). 11. 对社会的趋势造成任何影响。(32) 会の趨勢には何の影響もないのだ。(49). 111.

(6) 14. 15 16 17. 也有可能我是极其无意识地想向某. それとも僕はごく無意識的に誰かに――. 人——似可与之畅所欲言的一个人. 上手く話すことができそうな誰かに――. —— 阐 述 我 对 大 象 失 踪 的 看 法 。. 象の消滅についての僕なりの見解を語り. (36). たいと思っていたかもしれない。(53). 糟糕的是她对大象失踪事件怀有非. 彼女は具合の悪いことに象の消滅事件に. 同一般的兴趣。(37). 人並み以上の関心を持っていて、(53). “一头大象居然突然失踪,肯定谁都. 「象が一頭突然消えてしまうなんて、誰. 始料未及。”(37). にも予測できないですものね。」(54). 本来戒烟已有三年之久,而在大象. 三年も禁煙していたのに、象が消えて以. 失踪之后,又开始故态复萌了。 (37) 来また煙草を吸うようになってしまった のだ。(54) 18 19. “就说关于大象失踪多少有所预. 「象が消えることは少しは予測できたっ. 料?”(37). ていうことなの?」(54). “我说‘一头大象突然失踪,肯定谁都. 「私が『象が消えてしまうなんて誰にも. 始料未及’,你回答‘是啊,或许是’。”. 予測できないもの』と言ったら、あなたは. (37-38). 『そうね。そうかもしれない』って答えた のよ。」(54). 20. “我恐怕是那头失踪大象的最后一. 「僕がその消えた象のおそらく最後の目. 个目击者。我见到大象是五月十七. 撃者だっていうことなんだ。僕が象を見. 日晚上七点左右,得知大象失踪是. たのは五月十七日の午後の七時過ぎで、. 第二天偏午时分。”(38). 象がいなくなっているのがわかったのが 翌日の昼過ぎ、」(55). 21 22 23 24. 以上就是我关于大象失踪说的所有. それが象の消滅についての僕の話の総て. 的话。(43). だった。(59). 在谈完与其他事几乎毫不相关的大. 消えた象についての殆んど何のとりかか. 象失踪的话之后,(43). りもない話のあと(59). “过去,家里养的一只猫倒是突然失. 「昔、うちで飼っていた猫が突然消えち. 踪来着,”(43). ゃったことがあるけれど」(60). “不过猫的失踪和象的失踪,看来不. 「でも猫が消えるのと象が消えるのとで. 是一回事。”(43). は、ずいぶん話が違うわね」(60). 25. 自从经历大象失踪事件以来,(44) 象の消滅を経験して以来、(60). 26. 大象和饲养员彻底失踪,再不可能. 象と飼育係は消滅してしまったし、彼ら. 返回这里。(44). はもう二度とはここに戻ってこないの だ。(61). 上表は原文と訳文における「消滅」と“失踪”の対応関係を示すものである。上 表の対応関係を見れば、タイトルの「消滅」を除いて、原作では 15 箇所の「消. 112.

(7) 滅」があり、一箇所の訳漏れを除けば、すべて“失踪”と翻訳された。前述のよう に、「消滅」は小説における「象事件」の要約に当たり、テクスト全体を締めく くる役割を果たすタイトルの中核である。したがって、テクストにおける「消 滅」の多用はタイトルの「消滅」と呼応し、これらはすべて“失踪”と翻訳される のもタイトル訳の“失踪”との一致性を保つためである。一方、訳本においては、 25 箇所の“失踪”(タイトルを含まず)が存在し、「消滅」と対応する 15 箇所を 除けば、「消えてしまった」、「消えた」、「消えて」、「消えてしまう」、「消 える」、「いない」などと対応している。これを言い換えれば、原作における「消 滅」は“失踪”と翻訳されたが、訳本における“失踪”は必ずしも「消滅」の訳語と は限らないということである。原作と訳本との比較によって、“失踪”の複雑性が 浮き彫りとなり、“失踪”と翻訳された表現に対する再検討が必要であると思わ れる。 “失踪”と翻訳された表現を再検討する際、まず注目するところは「消滅」と「消 滅」以外の表現との関係である。比較の結果から見れば、「消滅」以外の表現は 「消える」(「消える」の活用形も含む)に集中し、「いない」は一回くらい“失 踪”と翻訳されたことがある。前述のように、「象の消滅」における「消滅」は 「消えてなくなること」を意味し、「消える」は「消滅」の同義語と理解しても よいであろう。また、「いない」は「消えてなくなること」の結果に当たり、「消 滅」と緊密な関係を持っていると言えよう。従って、“失踪”と翻訳された表現は 互いに類似性が高く、言語転換においては、一律に“失踪”と翻訳される可能性も 充分考えられる。ただ、ここで指摘しておきたいのは、たとえ一律に“失踪”と翻 訳されていても、原作における表現が異なっており、これは小説の表現を豊か にするためのレトリックというよりむしろ作者の意識的な使い分けと言ったほ うがよいだろう。 前掲の表にまとめられた例を詳しく見たらわかるように、「消滅」は小説の全 体を通して多用されているが、特に前半の部分に集中し、「僕」の叙述にしか使 われていないのである。一方、「消える」は小説の書き出しの「街の象舎から象 が消えてしまったことを、僕は新聞で知った」(39)を除いて、ほとんど後半 の女性編集者の話や女性編集者と「僕」との会話で用いられ、新聞記事及び町の 住民の話には使われていないのである。これはきわめて興味深いことで、言い 換えれば、小説における「消滅」及び「消滅」の同義語である「消える」は、特. 113.

(8) 定の登場人物と関わり、作者によって意識的に使い分けられている表現である。 「消滅」及び「消滅」の同義語である「消える」は特定の登場人物と関わり、 意識的に使い分けられていることはきわめて重要で、これによって、テクスト における「消滅」及び「消滅」の同義語の「消える」の意味合いが浮上し、「象 事件」の背後に隠された「僕」及びその他の登場人物の「象事件」への態度が判 明すると言えよう。周知のように、「象の消滅」は、語り手の「僕」によって展 開された物語である。したがって、「僕」の叙述にしか使えない「消滅」は他な らぬ「僕」の「象事件」への判断と言ってよい。そして、「僕」と「消滅」の組 み合わせと同様、「消滅」の同義語である「消える」もそれを使う女性編集者の 「象事件」への態度を表しているのである。従って、「消滅」及び「消滅」の同 義語である「消える」は単なる表現そのものの区別ではなく、小説における登場 人物の態度表明の役割も果たしており、「象の消滅」はまさにその微妙な表現の 食い違いによって成立した人々の「象事件」への認識と言ってよいだろう 5。従 って、これらの表現を一律に“失踪”と翻訳するのは「僕」を「僕」以外の登場人 物と同一化させ、語られた物語の背後に隠されたテクスト解読の可能性を抹殺 したとも言えよう。. 4、終わりに 言語の対応性から考察すれば、「消滅」と“失踪”とは完全な対応関係にあると は言えず、また、テクスト解読の角度からみても「消滅」及び「消滅」の同義語 が一律に“失踪”と翻訳されるのもテクスト解読の可能性を抹殺したと言ってよ いだろう。従って、“象的失踪”あるいは“大象失踪”という「象の消滅」のタイト ル訳は十分に妥当性があるとは言えないと思われる。 注 1.. 前田愛(1993)『増補. 文学テクスト入門』筑摩書房 p95. 2.. 同上 p96. 3.. 村上春樹(2008)『再袭面包店』(林少華訳)上海訳文出版社 p21-44. 4.. 村上春樹(1991)『村上春樹全作品 1979~1989 ⑧』講談社 p37-61. 5.. 楊炳菁、関氷氷(2014)「“大象失踪”的背后——论《象的失踪》中“我” 所观察的社会」『日语学习与研究』5 p87‐93 参照. 114.

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参照

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