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の消滅時効の起算点について

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(1)

0名

( X

ら︶は︑右炭鉱を経営する被告企業六社

I Y )

に対して︑じん肺に罹患したのは坑内外における粉

Y

ら六社の安全配慮義

務違反を理由とする損害賠償を請求する︵慰謝料等の包括・一

律請求︶とともに︑国

( Y )

に対して︑各炭鉱企業と一体となっ

て石炭増産を推進し︑その結果

x

らをじん肺に罹患させ︑ある

いは︑各炭鉱企業に対して監督を尽くし︑じん肺の発生を防止

すべき義務を負いながら︑この義務の履行を怠った責任がある

として︑国家賠償法一条に基づく損害賠償を請求したが︑本件

は︑前者に関するものである︒

︵最三判平成一六年四月二七日判例時報一八六0

号一五︱一頁︑判例タイムズ︱一五︱一号一︱一八頁︑労働判例

八七

二号

一︱

二頁

筑豊じん肺訴訟上告審判決︵日鉄鉱業関係︶

の 消 滅 時 効 の 起 算 点 に つ い て

̲̲̲̲̲ l/1119,

例 批 評 一

̲

̲

 119

.I

II

L.

 

̲̲̲ 19999,. 

10 

雇 用 者 の 安 全 配 慮 義 務 違 反 に 基 づ く 損 害 賠 償 請 求 権

25‑1

2‑101

(香法

2 0 0 5 )

(2)

(1

第一審判決︵福岡地飯塚支判平成七年七月二

0

日︶は︑被告 企業の安全配慮義務違反の責任を肯定し︑被害の程度に応じて

一人

あた

り一

0

0

万0

円か

ら︱

︱︱

10

0万円の損害賠償を認容し た︒なお︑国

Y

の責任については︑これを否定した︒

損害賠償請求権の消滅時効については︑時効期間を一六七条 の 一 0年と解するとともに︑その起算点を一六六条一項の問題 と捉えたうえで︑最終の行政上の決定を受けた時から進行を開 始するとしたため︑

X

らのうち一六名については時効の完成が

認められた︒

なお︑より重い行政上の決定を受けることなく死亡した者に ついては︑じん肺の病状がより重症度の病状へ進行することが 確定しうる場合には︑その損害が確定した時つまり死亡時から 進行を開始すると解して︑期間の満了を認めなかった︒

x

ら ︑

Y I I Y

とも控訴したが︑

Y

らのうち三社が控訴段階で 訴訟上の和解に応じたため︑

X

ら計︱︱一五名と残り三社との間

での控訴審判決となった︒

(2

控訴審判決︵福岡高判平成一三年七月一七日︶も︑

Y

らの責 任を肯定し︑一人あたり一0

0

0万

円か

ら︱

一五

0 0万円の慰謝 料を認容した︒なお︑控訴審では︑国

Y

についても規制権限の 不行使による国家賠償法上の責任が肯定されたため︑

X

らの

一 部につき︑被告企業について認められた慰謝料額の三分の一の

旨 範囲内で︑

Y

がこれを負担するよう命じられている︒

損害賠償請求権の消滅時効の起算点については︑第一審判決 と同様に︑じん肺の病変の特質をとくに考慮して︑消滅時効は 最終の行政上の決定を受けた時から進行を開始すると解すると ともに︑最終の行政上の決定を受けた日から訴え提起の日まで

に 一

0年を経過していたが︑死亡時から訴え提起の日までは一 0年を超えていなかった者については︑消滅時効は死亡の時か ら進行を開始するとした︒そしてさらに︑このように解したと

しても時効期間の満了が認められる一二名につき︑

Y

らが消滅時 効 を 援 用 し て 損 害 賠 償 義 務 を 免 れ る こ と は

︑ 著 し く 正 義 に 反 し︑条理にも悴るから︑時効の援用は権利の濫用として許され

Y

ら三杜と

Y

が上告したが︑上告審係属後︑

X

らと

Y

らのう ち二社との間で和解が成立し事件が取り下げられたため︑最終 的には本件の上告人は

Y l

︵日

鉄鉱

業︶

Y

︵国

︶の

みと

なっ

た︒

Y

については︑同日付けで別個の判決︵最高裁平︱︱︱︱羹一七六

0号︶が下されている︒

最高裁は︑以下のとおり判示して︑上告を棄却している︒

雇用者の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消

ないとした︒

10 

25‑1

2‑102

(香法

2 0 0 5 )

(3)

滅時効の起算点について

﹁雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺にかかったことを 理由とする損害賠償請求権の消滅時効は︑じん肺法所定の管理 区分についての最終の行政上の決定を受けた時から進行すると 解すべきであるが︵最高裁平成元年困第一六六七号同六年二月

三一日第三小法廷判決・民集四八巻︱一号四四一頁︶︑じん肺に

よって死亡した場合の損害については︑死亡の時から損害賠償 請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である︒な化な ら︑その者が︑じん肺法所定の管理区分についての行政上の決 定を受けている場合であっても︑その後︑じん肺を原因として 死亡するか否か︑その蓋然性は医学的にみて不明である上︑そ の損害は︑管理ニー四に相当する病状に基づく各損害とは質的

に異なるものと解されるからである﹂︒

2

消滅時効の段階的完成にともなう損害額の控除について 証原審は︑当該元従業員の損害を︑管理二に相当する病状に 基つく損害とは別個のものであるとして︑これを︑じん肺によ る死亡それ自体に係る損害として評価し︑その額を定めたもの であり︑このような場合についてまで︑上記の消滅時効にかか

る慰謝料相当額を控除しなければならないものではない︒﹂

本判決の意義 本判決は︑じん肺を原因とする死亡の場合に雇用者の安全配 慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効がいつから進行 を開始するかという問題について︑最高裁としてはじめて死亡 時から進行すると判示するとともに︑消滅時効の段階的完成に ともなう損害額の控除の問題については︑消滅時効が完成して いるとしても各損害は別個のものであるから︑その消滅時効に かかる慰謝料相当額をじん肺による死亡それ自体の損害額から

控除すべきではない︑という注目すべき判断を示したものである︒

長崎じん肺訴訟上告審判決の射程範囲 雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺に罹患したことを理 由とする損害賠償請求権の消滅時効については︑判旨も引用す る長崎じん肺訴訟上告審判決により︑最終の行政上の決定を受 けた時から進行を開始すると解され︑それまでの見解の対立に

(3 ) 

終止符が打たれた︒

しかし︑最終の行政上の決定を受けてから一

0

年を経過した が︑その後のじん肺を原因とした死亡の時から一

0年を経過し ていない場合に︑この長崎じん肺訴訟上告審判決の判断枠組み

0

1 ︱ ︱  

25‑l・2‑103 

(香法

2 0 0 5 )

(4)

がどこまで妥当するか︑という射程範囲の問題が残った︒この

点に関しては︑次のような一︱つの対立する評価がみられた︒そ

の一っとして︑﹁例えば最終行政決定後一0

年を経て症状が悪 化して死亡した場合に︑じん肺による死亡という損害について

の賠償請求をしようとしても︑本判決︵長崎じん肺訴訟上告審判

決ー筆者注︶によれば最終行政決定時から既に一0年を経てい るので賠償請求権は消滅時効にかかったと解される可能性があ

る︒しかしこれでは死亡についての損害賠償請求権を行使する

(4 ) 

機会が全くないことになり不合理﹂との評価があった︒その一

方で︑これは︑最終的に賠償請求可能な程度に認識可能な損害

が客観的・具体的に現実化︑顕在化した時点から時効は進行を

開始するという立場に立ちつつ︑ただ損害の発生が現実化︑顕 在化した時点として比較的容易に判定可能な客観的事実である

﹁最終の行政上の決定﹄および﹃死亡﹄の場合のうち︑最終の

行政上の決定を受けた場合を事案に即して判断したまでで︑死 亡の場合にその損害賠償請求権の消滅時効が別途進行を開始し うることまでを否定するものではないのではないか︑との評価

(5

もあ

った

その後の裁判例をみると︑本判決の控訴審判決︑秩父じん肺

( 6

)  

訴訟の第一審判決︵浦和地熊谷支判平成︱一年四月一一七日︶︑

(7 ) 

および︑控訴審判決︵東京高判平成一三年一0月二三日︶︑米

軍横須賀基地じん肺訴訟第一審判決︵横浜地横須賀支判平成一

( 8 )  

四年

0月七日︶が死亡時別途起算説を採用している︒

たとえば︑秩父じん肺訴訟第一審判決は︑﹁各管理区分の決 定があった時点において︑その決定に相当する病状に基づく損

害が発生しあるいは死亡の時にそれに相当する損害が発生し︑

同時にそれについての損害賠償請求も法律

t

可能となり︑しか

も︑各管理区分の決定あるいは死亡に基づく損害は︑各々法的

にみて質的に異なるものと解すべきなのであるから︑より軽い

管理区分決定から切り離されたより重い管理決定に相当する病 状に基づく損害も︑法的には存在するものといわざるを得な

い︒したがって︑少なくとも消滅時効の進行に関しては︑各管

理区分の決定あるいは死亡の時からそれぞれ個別の損害として

進行すると解すべきである﹂としており︑既に本判決と同様の

判断を示していた︒

これに対して︑本判決の第一審判決︑および︑北海道石炭じ

( 9

)  

ん肺訴訟第一審判決︵札幌地判平成︱一年五月二八日︶は︑最

応 長崎じん肺訴訟上告審判決以降の裁判例および学説の対

10

25‑ l•2-104

(香法

2 0 0 5 )

(5)

死亡時別途起算説と純粋死亡時起算説の検討 本判決は︑じん肺を原因とする死亡時も︑行政上の決定を受 けた時と同じく︑その時点から消滅時効が改めて進行を開始す

るという死亡時別途起算説を採用した︒そして︑その根拠は︑

﹁その者が︑じん肺法所定の管理区分についての行政上の決定

を受けている場合であっても︑その後︑じん肺を原因として死

亡するか否か︑その蓋然性は医学的にみて不明である上︑その

終行政決定時起算説を維持していた︒

なお︑じん肺法等に基づく行政上の管理区分決定を受けるこ

となく死亡した者については︑長崎伊王島じん肺訴訟の第一審

( 1 0 )

 

判決︵長崎地判平成六年一︱一月一三日︶︑控訴審判決︵福岡高

判平成八年七月三一日︶︑そして上告審判決︵最判平成︱一年

( 1 2 )

 

四月一︱︱一日︶は︑損害が確定する死亡時を消滅時効の起算点と

( 1 3 )

 

解していた︒

他方︑学説上においては︑前述したように︑死亡時別途起算 説の立場に立つと︑潜伏性︑遅発性︑累積性︑拡大進行性のあ るじん肺被害が早い時期から段階的に顕在化︑現実化して長期 間重篤なじん肺被害に苦しんでいる被害者ほど︑かえって消滅 時効の完成によって救済されなくなるとして︑純粋死亡時起算

( 1 4 )

 

説が有力に主張されていた︒

10 五

損害は︑管理︱

‑ 1

四に相当する病状に基づく各損害とは質的に

異なるものと解されるから﹂という点に求められている︒以下︑

この点から検討することにしよう︒

長崎じん肺訴訟上告審判決は︑じん肺の病変の特質︑とくに

疾患の潜伏性︑遅発性︑累積性︑拡大進行性を重視して︑管理

ニー四の各行政上の管理区分決定に相当する病状に基つく各損

害は質的に異なるものと解したうえで︑重い決定に相当する病 状に基づく損害はその決定を受けた時から発生し︑したがっ

て︑その時点からはじめてその損害賠償請求権を行使すること

が法律上可能となるとして︑雇用者の安全配慮義務違反により じん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効

は最終の行政上の決定を受けた時から進行するものと解し︑さ

らに︑本判決は︑じん肺によって死亡した場合の損害につき︑

死亡時から損害賠償請求権の消滅時効が進行を開始すると解し

て︑死亡時別途起算説をとることを明確にしたのである︒

この見解は︑最終的に賠償請求可能な程度に認識可能な損害

が客観的・具体的に現実化︑顕在化した時点から消滅時効は進

行を開始すると解し︑﹃最終の行政上の決定﹄および﹃死亡﹄

という事実を︑損害の発生が現実化︑顕在化した時点として比

( 1 5 )

 

較的容易に判定可能な客観的事実と解する私見にも符合する︒

ところで︑純粋死亡時起算説を主張される松本克美教授は︑

25‑1

2‑105

(香法

2 0 0 5 )

(6)

要するに︑純粋死亡時起算説は︑進行するかもしれないし進 前述したように︑死亡時別途起算説をとった場合︑最も重い行政上の決定を受けてから一0年以上を経てもなお生存している被害者は︑逆に生存している間に損害賠償を請求しても時効の完成によって救済されなくなるのではないか︑という点を指摘

( 1 6 )  

されていた︒そして︑松本教授は︑﹁じん肺のような進行性被

害の場合には︑異質の損害が段階的に発生するのではなく︑被

害の固定していない段階では︑損害賠償請求権の前提となる損

害が不確実なのだから︑提訴段階で顕在化した損害については

賠償請求が可能だとしても︑その後で進行するかもしれないし

進行しないかもしれない︑その意味で客観的な予見可能性のな

い損害についての損害賠償請求権の行使が法律上可能であった

とはいえないはずである︒結局︑提訴時点で把握可能な損害は

その時点で生じたとみるのが論理的である﹂として︑﹁提訴時

点での進行被害はその時点でのみ客観的に顕在化したことにな

るので︑提訴時点で初めてその時点の損害についての賠償請求

権を法律上行使可能となったと解すことになる︒すなわち︑結

果的には︑それ以上じん肺症の進行による損害の拡大があり得

ない死亡時までは当該提訴の対象となる具体的な損害賠償請求

権の消滅時効は進行しないという死亡時説が妥当﹂と主張され

たの

であ

る︒

行しないかもしれない損害につき提訴段階で顕在化した損害に

ついての賠償請求は認めつつも︑その賠償請求権の消滅時効は

権利行使のない間は進行を開始せず︑これ以上損害の進行があ

りえない死亡時からはじめて進行を開始すると解されているわ

( 1 8 )  

けである︒そうすると︑純粋死亡時起算説は︑﹁各行政上の決

定あるいは死亡に基づく各損害は法的にみて質的に異なる﹄と

解する︑じん肺被害に特有の﹁損害﹂の把握方法をとらないと

いう前提の下に成り立っていることがわかる︒純粋死亡時起算

説がこのように解される理由は︑明らかに︑被害者救済の見地

から︑被害の固定しない段階つまり死亡時以前での時効の進行

を阻止しようとするためであった︒しかし︑そこには幾つかの

疑問がある︒次に︑この点を検討してみよう︒

まず第一に︑純粋死亡時起算説は︑損害が不可逆的に拡大進

行するという特殊性を持つじん肺被害についても︑それを原因

とする死亡を︑たとえば︑交通事故による後遺症の場合と同様

に︑症状の固定と解される︒しかし︑ある時点で症状が固定し

たものとして︑交通事故による後遺症とじん肺による死亡とを

果たして同列に扱ってよいだろうか︒交通事故による後遺症の

場合︑生存を前提にもはや治癒できない症状を後遺症と捉えた

うえで︑その損害賠償請求権の時効起算点は症状の固定した

( 1 9 )

 

時︑すなわち︑その損害の進行が止んだ時と解されている︒こ

10 六

25‑1 ・ 2  ‑106 

(香法

2 0 0 5 )

(7)

れに対して︑じん肺による死亡は︑不可逆性・拡大進行性のあ る被害が死亡という極限的・終局的な損害にまで逹したことを 意味し︑交通事故による後遺症の場合のように症状が固定した

という意味で損害の進行が止んだわけではない︒したがって︑

このように︑﹃生存﹄を前提とした症状固定時起算説をじん肺 による﹃死亡﹄の場面にまで拡張して適用することは妥当でな

( 2 0 )

 

いように思われる︒

第一一に︑純粋死亡時起算説は︑提訴段階で顕在化した損害に

ついては賠償請求が可能であるとされる︒しかし︑被害者は実 際上行政上の決定以外に提訴段階で顕在化し賠償請求可能な損 害をいかに客観的・具体的に把握して賠償請求していくのだろ うか︒行政上の決定に基づく以上に困難がともなうように思わ

れる

第三に︑純粋死亡時起算説は︑死亡時まで時効が進行しない ︒ ことの不利益は安全配慮義務に違反している雇用者側が当然に

( 2 2 )

  負うべきとの価値判断の下で︑死亡するかもしれないし死亡し ないかもしれない損害については提訴段階ではじめて権利行使 が可能となるのでその時まで時効は進行しない︑つまり︑提訴 による権利行使時からはじめて時効が進行を開始すると解され るようである︒しかし︑もしこれが︑権利行使のない限り死亡 時まで時効は進行しないが︑死亡以前に損害賠償請求権が行使

10 七

されればその時点から時効は進行を開始するということを意味 しているとすれば︑果たしてこのような考え方は理論的に妥当 といえるだろうか︒というのも︑死亡時まで時効は進行しない と解されるなら︑その時まで損害賠償も請求できないと解さざ

( 2 3 )

  るをえないように思われるからである︒しかも︑提訴段階では じめて権利行使が可能となると解される点は︑客観的に提訴可 能な段階から損害賠償請求権の消滅時効は進行を開始しうると 解する余地をも排斥する趣旨だととれなくもないが︑もしそう

だとすれば︑なお一層︑賛成することができない︒

確かに︑死亡時別途起算説をとった場合︑被害者側に再三の 権利行使を強いたり︑これにともなう訴訟経済上の負担を増大 させたりする可能性は否定できない︒しかし︑起算点との関連 で︑生理的には一個の病像の連続的な進行にすぎないじん肺被 害を医学上予見不可能な損害と捉え︑各行政上の決定に相当す る病状に基づく損害が別個に発生すると規範的に解することに

( 2 4 )   より︑従来の進行性被害の時効起算点に関する考え方を拡張し てあてはめることにともなう問題点を回避できるとすれば︑そ

( 2 5 )

 

の意義は決して小さくないように思われる︒

また︑たとえば︑行政上の管理区分︱︱一の決定を受けてから一

0年以上が経過して提訴し︑時効の完成を理由に敗訴した後 に︑より重い行政上の管理区分四の決定を受けたり︑死亡した

25‑l・2‑107 

(香法

2 0 0 5 )

(8)

りした場合に︑その決定に相当する病状や死亡に基づく損害の

賠償責任を安全配慮義務に違反している雇用者側に負わせるこ

とで︑被害者側と雇用者側との間の利害の調整は充分に図られ

このようにみてくると︑本判決は妥当であったというべきで

( 2 6 )  

あろ

う︒

なお︑起算点に関して︑鉱業法︱一五条二項や製造物責任法

五条︱一項などを類推適用すべきことが以前から有力に主張され

ていることは︑周知のとおりである︒しかし︑鉱業法︱一五条

二項に関しては︑同法︱一六条で鉱業従事者の業務上の負傷︑

疾病および死亡についてその適用が除外されている︒したがっ

て︑想定されている損害の態様を異にする鉱業法︱一五条︱一項

をこの場面に類推適用することには躊躇を覚える︒他方︑製造

物責任法五条一一項や大気汚染防止法︱一五条の四︑水質汚濁防止

法二0条の三などは︑人身被害に対する損害賠償請求権につい

て損害の発生した時から時効期間が進行を開始すると定めてい

る︒規定の趣旨︑損害の態様からみて︑これらの起算点が参考

とされるべきであろう︒ ているとはいえまいか︒

の把握の仕方にあるといえよう︒

この問題についても︑じん肺被害につき特有の﹁損害﹂の把 握方法をとる死亡時別途起算説の立場に立てば︑以前の行政上

の決定に相当する損害の賠償額は︑それが消滅時効にかかって

いたとしても︑じん肺による死亡自体の損害額から控除される

べきではない︑という結論を導きやすかったように思われる︒

なぜなら︑じん肺被害の場合に時効が別途に進行すると解され るのは︑事後的にみて異質な損害が段階的に発生していると評

価されるからであって︑進行性被害が単純に口軍的に拡大してい

るとみられるからではなかった︒翻って︑じん肺被害を従前の

進行性被害と同様に解される純粋死亡時起算説からは︑かえっ

( 2 7 )

 

て控除を認めざるをえなくなるのではなかろうか︒

ここでもまた︑間題の根源は︑じん肺被害についての﹁損害﹂

残された課題

死亡時別途起算説をとった場合に最大の間題は︑行政上の決

定後

0

年以上が経過してもより重い行政上の決定を受けな かったり死亡するに至らなかった被害者は︑その最終的に賠償

請求可能な程度に認識可能な損害が客観的・具体的に現実化︑

いて

5

消滅時効の段階的完成にともなう損害の控除の問題につ

10

25‑1

2‑108

(香法

2 0 0 5 )

(9)

顕在化した時点から一0

年の時効期間が経過していることを理 由に救済されなくなるのではないか︑ということである︒この 場面で時効の完成を認めることの不当性は明らかである︒そう すると︑被害者救済に最も厚い純粋死亡時起算説を採用しない ことにともなうこの不都合はいかにして回避すべきであろう

か︒私見では︑この問題は︑個別・具体的な諸事情を考慮し︑

信義則・権利濫用の適用可能性を探ることにより処理されるべ

きと解する︒というのは︑じん肺訴訟の場合︑当事者の容態︑

その置かれている社会的・経済的状況︑損害の態様︑規模︑発 生の経緯などの主観的・客観的事情を総合考慮すると︑その適 用可能性が極めて高いケースと評することができるからであ る︒すなわち︑じん肺被害の場合︑一般に︑より重篤な被害者 ほど長期間じん肺被害に苦しんでいると考えられるが︑その重 篤な被害者ほど時の経過という一事をもって救済の道を閉ざさ れかねない︒他方︑そのような被害者に比べて重症度の低い被 害者に対しては時効期間の未了を理由に損害賠償責任を負うこ

とになる一雇用者︑しかも︑重大な健康被害を惹起する原因を専

ら作出し︑かつ︑充分なじん肺防止対策を講じてこなかった雇 用者が︑より重篤な被害者に対しては消滅時効を援用して賠償 責任を免れようとする行為は︑著しく正義・衡平の理念に反す るから︑時効の援用は権利の濫用として許されないと解すべき

であ

る︒

10 九

純粋死亡時起算説をとった場合︑信義則・権利濫用の適用余 地は死亡時別途起算説をとった場合ほど広くなく︑したがっ て︑法的安定性を害するものではないともいえよう︒極力時効 期間の進行開始を回避しあるいは繰り下げて︑消滅時効が完成 しない方向で解釈を探る純粋死亡時起算説は︑確かに被害者救 済に徹した解釈といえよう︒しかし︑被害者救済に徹した解釈 を探ろうとするあまり︑起算点のとり方︑﹁損害﹂の把握の仕 方に問題を残す解釈となってはいないだろうか︒そうであると すれば︑それよりもむしろ︑あえて椙義則・権利濫用といった

一般条項の適用可能性を探る余地を広く残した解釈とはいえ︑

死亡時別途起算説をとるほうが︑私には妥当なように思えたの (1

)

判例時報一五四三号三頁︑判例タイムズ八九八号六一頁︑訟務月報四

三巻 二号 三一 二七 頁︒ ( 2 )

判例時報一七八五号八九頁︑判例タイムズ一〇七七号七二頁︒

( 3 )

詳細は︑石松勉﹁判例研究﹂岡山商科大学法学論叢四号(‑九九六年︶

一四 万頁 以下 参照

︒ ( 4 )

松本克美﹃時効と正義﹄︵日本評論社・ニ

0

0二

年︶

︱‑

︱‑

︱‑

八頁

︒た

し︑松本教授は︑別の機会に︑長崎じん肺訴訟上告審判決のとる異質損

害段階発生説からは︑死亡時別途起算説を積極的に否定したともいえな

( 2 8 )

 

であ

ろう

25-l•2-109

(香法

2 0 0 5 )

(10)

い︑とされている︵同﹁判例研究﹂法律時報七四巻一0

号︵ 二 0

0二

年︶

九九 頁参 照︶

︒ ( 5 )

石松﹁前掲判例研究﹂一五0頁以下︒なお︑本判決を掲載する判例時

報一八六0

号一 五一 二頁 のコ メン ト都 分も 参照

︒ ( 6 )

判例時報一六九四号一四頁︒

( 7 )

判例時報一七六八号一五四頁︒

( 8 ) 判例 時報 一八

︱︱ 一号 六五 頁︒

( 9

)

判例時報一七

0‑

︱一 号三 頁︑ 判例 タイ ムズ 一

o ・

四号六一三貝︑訟務月報

四六

巻七

号︱

10

六五 頁︒ ( 1 0 )

判例時報一五二七号︱二頁︑判例タイムズ八六七号六0頁︑労働判例

六七 三号 二七 頁︒ ( 1 1 )

判例時報一五八五号三頁︑判例タイムズ九一=一号二三七頁︑労働判例

七六0

号八 頁︒ ( 1 2 )

労働判例七六0

号七 頁︒ ( 1 3 )

なお︑一︱︱井三池炭鉱じん肺訴訟の第一審判決︵福岡地判平成二二年一

二月一八日判例タイムズ︱10七号九二頁︶参照︒

( 1 4 )

松本﹁前掲書﹄三0

八 ー ︱ ︱

10

頁︑ 三二 四ー 一三 一五 頁‑

: 1八 ー

︱ ︱ ︱ ご

九頁のほか︑同﹁前掲判例研究﹂九七頁以下︒同旨のものとして︑神戸

秀彦﹁じん肺訴訟の消滅時効論の損害論的検討﹂福島大学行政杜会論集

三巻四号(‑九九一年︶=︱‑八頁︑飯塚和之﹁民法判例レビュー﹂判例

タイムズ八七八号(‑九九五年︶四八頁︑新美育文﹁判例評論﹂私法判

例リマークス一一号[‑九九五年︿下﹀](︱九九五年︶三五頁︒

( 1 5 )

石松﹁前掲判例研究﹂一五四ー一五五頁︒なお︑新美﹁前掲判例評論﹂

三五 頁参 照︒

松本﹃前掲書﹄二六八頁︑同﹁前掲判例研究﹂九九頁など︒

松本﹃前掲書﹄二七一ーニ七二頁︒

17  16 

ヽ ヽ

( 1 8 )

新美﹁前掲判例評論﹂三五頁も参照︒

( 1 9 )

四宮和夫﹃事務管理・不当利得・不法行為下巻﹂︵青林書院・一九八

五年︶六五0

頁参 照︒ ( 2 0 )

なお︑平井官雄﹁債権各論

不法行為﹂︵弘文常・一九九一年︶一六I I

八頁 参照

︒ ( 2 1 )

ただし︑じん肺法上の管坪区分決定の意義︑および︑それを時効起算

点とすることの問題性については︑岩村正彦﹁判例研究﹂ジュリスト一

0八二号︵/九九六年︶一九

0

1一

九一 頁を 参照

︒ ( 2 2 )

松本﹁前掲判例研究﹂九九頁︑同﹁前掲書﹂︱︱二0

頁な ど︒ ( 2 3 )

松久三四彦﹁判例批評﹂判例評論三二三号(‑九八六年︶三九頁︑石

松﹁前掲判例研究﹂一石ニー一五三頁参照︒

( 2 4 )

たとえば︑最判昭和四︱一年七月一八日民集ニ︱巻六号一五五九頁︑最

判昭和四九年九月二六B交通民集七巻五号︱二三三頁など参照︒

( 2 5 )

高橋箕﹁判例評釈﹂判例評論四三三号(‑九九五年︶四六頁︑久保野

恵芙子﹁判例評釈﹂法学協会雑誌︱︱二巻︱二号(‑九九五年︶一七八

‑1一七八四頁など参照︒ただし︑高橋箕﹁判例評釈﹂判例評論

J i 五 三

号(

‑0

0五年︶四.頁は︑質的に異なる損害という表現は誤解を招き

やすいと指摘されているが︑疑問が残る︒山本隆司・金

1 1 1

直樹﹁判例評

釈﹂法学協会雑誌︱二二巻六号︵二

0

0五年︶︱‑三四頁の注

( 4 )

照︵ 金山 執筆

︶︒

( 2 6 )

原田剛﹁判例解説﹂法学セミナー五九八号︵二

0

0四年︶︱‑六頁︑

高橋﹁前掲判例評釈﹂判例評論五五一二号四一頁参照︒なお︑高橋﹁前掲

判例評釈﹂五五三号四二頁は︑純粋死亡時起算説にも一定の理解を示さ

れて いる

︒ ( 2 7 )

ただし︑松本﹁前掲判例研究﹂九九1100頁は︑控除を認めると実

際上賠償額が低額になることを理由に︑控除を認めない︒

10 

25-1•2-110

(香法

2 0 0 5 )

(11)

( 2 8 )

松本﹃前掲書﹂︱︱︱︱︱︱ー三一四頁︑石松﹁前掲判例研究﹂一五五

1‑

五七頁など︒なお︑福島地いわき支判平成二年二月二八H判例時報一三

四四号五三頁も参照︒

25‑1

2‑111

(香法

2 0 0 5 )

参照

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