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アナログテレビ放送の終焉 : 6. 700MHz 帯を使った新しいITS アプリケーション

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(1)700MHz 帯を使った ⑥ 新しいITSアプリケーション 屋代智之. 千葉工業大学. 700MHz 帯とは. 5.8GHz 帯と 700MHz 帯で比較すると,大気中の吸 収は 5.8GHz 帯が 700MHz 帯のほぼ倍近くであり,.  今までアナログテレビに用いられてきた 700MHz. 電波の届く距離で比較しても 700MHz 帯の方がは. 帯の一部が ITS(Intelligent Transport Systems)に. るかに遠方まで届く.. 割り当てられた.これは,これまで放送用に 1 対多 の通信 (文字通りブロードキャスト) として使われて きた電波帯域を,自動車などが双方向の通信に用い. 700MHz 帯の割り当て状況. ることを意味している.ここでは,その電波的な特.  地上テレビジョン放送のデジタル化に伴う,アナ. 性について概観する.. ログテレビ放送停波後の電波帯域をどのように利用.  基本的に,電波は周波数が高い(波長が短い)ほ. するか,という点については,電波行政を所轄する. ど,回折しにくくなる.電波を遮る物体がある場合. 総務省が情報通信審議会情報通信技術分科会の下に. に,可視光と同じように影となる部分ができてしま. 電波有効利用方策委員会を設置し,検討を行って. い,結果としてその部分では通信が途絶えることに. きた.ここで 2007 年 6 月に「VHF/UHF 帯におけ. なる.このような現象をシャドウイングと呼ぶ.た. る電波の有効利用のための技術的条件(諮問第 2022. とえばアナログテレビの場合には,送信側アンテナ. 号)」に関して公開された一部答申では,UHF 帯の. を東京タワーのように高いところに取り付け,受信. 「ITS」への割り当てが認められ,その周波数幅が. 側の八木アンテナを建物の屋上に付けることにより,. 10MHz とされた(図 -1).. 極力影とならないようにし,それでも影になってし.   こ こ で は, 基 本 的 に は 710MHz に 近 い 部 分 に. まうところではケーブルテレビなどを利用していた.. ITS を配置することとされ,715MHz ∼ 725MHz.  より高い周波数を利用しているものほど,シャド. の 10MHz 幅が割当案として示された.. ウイングの影響は大きい.たとえば ETC (Electronic.  この時点で ITS として想定されたアプリケーシ. Toll Collection System:ノンストップ自動料金支払. ョンは「ITS インフラ協調安全運転支援システム」. いシステム) などで用いられている 5.8GHz 帯の電波. (詳細は後述)である.しかし,実はこの時点では,. は,このシャドウイングが発生しやすい周波数帯で. ITS としてこの 10MHz をどのように利用するか,. ある.料金所のゲートにある送受信機はシャドウイ. という明確なプランは決定していなかった.ITS で. ングを利用して,自身が設置されたゲート以外を通. はすでに通信に 5.8GHz 帯を用いることが決定して. 行する車両と通信を行わないように設計されている.. おり,この 2 つの周波数帯の特性の違いや利用形態.  また,周波数が高いほど大気に吸収されやすいと. の違いについてはこの後に検討されることになる.. いう特徴もある.さらに,特定の周波数帯の電波.  その後,同省の『グローバル時代における ICT. は周波数が空気中の分子の固有振動数に一致する. 政策に関するタスクフォース 電気通信市場の環境. 場合には大きな減衰が起こることが知られている.. 変化への対応検討部会「ワイヤレスブロードバンド. 情報処理 Vol.52 No.7 July 2011. 811.

(2) 特集. アナログテレビ放送の終焉. 現在 地上テレビ ジョン放送 (13∼52ch). 地上テレビジョン放送 (53∼62ch). 放送FPU 770 [MHz]. 710 2012年7月25日以降 地上テレビ ジョン放送 ガード バンド (13∼52ch) 710. 715. ITS. ガード バンド. 725. 放送FPU. 電 気 通 信. 770 [MHz]. 730. 図 -1 UHF 帯の周波数配置案(当初). 実現のための周波数検討ワーキンググループ(周波. なされている.たとえば車載機を搭載した車両の近. 数検討 WG) 」 』において,周波数割り当てについて. くの家庭や車載カーナビがテレビ放送を受信する際. 再度検討が行われた.ここでの検討の中心は LTE. に,ITS の通信による干渉で映りが悪くならないよ. (Long Term Evolution:3.9G の携帯電話技術)な. うにすることや,携帯電話との相互干渉を避けると. どのワイヤレスブロードバンド通信に関する周波. いうことが検討課題である.. 数割り当てに関するものである.この WG におい て,700MHz 帯に関する LTE の割り当ても諸外国 の動向を考慮するべき,との意見から割り当て周. 従来の ITS アプリケーション. 波数帯域の見直しが行われた.この関連で,最終.  すでに,移動体である自動車を対象とした,通信. 的には ITS に割り当て予定とされていた 715MHz. を用いるサービスは数多く実現されている.自動車. ∼ 725MHz についても,割り当てを柔軟に検討す. を取り巻く通信とそれによるサービスを表 -1 に示. る,とされた.ここでは 4 つの案が併記されており,. す.また,この表には記載していないが,地上デジ. その案の中には ITS に対して 755MHz ∼ 765MHz. タル放送などの放送メディアを用いたサービスも今. を割り当てるとした案も存在する.なお,ここでも. 後実現されると考えられている.. ITS への周波数割り当てが 10MHz 幅であるという.  このように多様なメディアが利用されている現状. 点に関しては変更されていない.. を鑑みると,それぞれのサービスに対して,特定の.  ここでの周波数の違いは 40MHz 程度(周波数に. メディアを専用に使うのではなく,汎用の通信プラ. して 5% 程度)であるが,実際の道路環境で利用す. ットフォーム上でさまざまなアプリケーションが利. ることを考えると,電波の回折や反射などで特性に. 用可能になるべきであるという考え方も出てくる.. 違いが出ることが想定される.早めに割り当てが確. それぞれのサービスに対して,通信で必要とされる. 定されることが望ましい.. 要件が異なるために,統合化は簡単ではないが,今.  なお,700MHz 帯の割り当てでは,他の通信との. 後,より広帯域な通信が実現できるようになれば,. 干渉を避けるために 5MHz 幅のガードバンドが設. 複数のメディアの統合などが実現可能になると考え. けられているが,隣接する周波数帯域を用いる地上. られる.. デジタル放送および携帯電話(図 -1 では「電気通信」.  本章では,今までに検討および実現されてきた. と記載されている)との干渉を避けるための検討が. ITS アプリケーションについて簡単に紹介する.. 812 情報処理 Vol.52 No.7 July 2011.

(3) 6. 700MHz 帯を使った新しい ITS アプリケーション は TDMA(Time Division Multiple 通信(メディア). サービス. GPS. 位置検出. Access:時分割多重アクセス)系の独 自プロトコルが利用されている.ETC で用いられる通信を DSRC(Dedicated. 電波ビーコン 光ビーコン. Short Range Communication:専用狭. VICS. 域 通 信 ) と 呼 ぶ. こ の た め に,ARIB. FM多重放送 携帯電話(3G) WiMAX,LTEなど DSRC 路車間通信 車々間通信. (Association of Radio Industries and. テレマティクスサービス. Businesses:電波産業会)が定めた規格 が ARIB STD-T55 である.また,これ. ETC,ITSスポットサービス. を ETC 以外のサービスにも適用できる. インフラ協調運転支援システム. ように拡張したものが ARIB STD-T75 である.. 表 -1 自動車を取り巻く通信とサービス.  この ARIB STD-T75 を用いて,2011 年 3 月までに全国の高速道路上に約. 路車間通信を用いたアプリケーション. 1600 の路側機を設置し,ITS スポットサービスが.  通信を用いる代表的な ITS アプリケーションと. 実用化されている(東日本大震災の影響で,北関東. して,VICS と ETC がある.. 以北のスタートは延期されている).現状では,従.  VICS(Vehicle Information and Communication. 来の VICS よりも広範囲での渋滞情報の提供程度し. System:道路交通情報通信システム)は,道路上に. か行われていないが,将来的にはこれを用いて交通. 設置された光ビーコンや各都道府県警察,道路管理. 事故を回避する安全運転支援システム等のサービス. 者が収集した交通情報を,VICS センターで集約・. が実用化される予定である.. 処理し,電波ビーコンや光ビーコン,FM 多重放送.  これらの路車間通信を用いたサービスに対して,. を用いて渋滞情報などとして提供するシステムであ. 車に搭載された車載器同士で直接通信を行う車々間. る.このシステムでは,道路脇や道路上方に設置さ. 通信については,実用化が遅れている.この要因と. れた電波ビーコンや光ビーコンと,車両に搭載され. しては,車々間通信の場合には,相手の車両に車載. た車載器の間で通信を行う,いわゆる路車間通信に. 器が搭載されていないと通信できないことや,周辺. 分類される技術が用いられている.光ビーコンでは. の車両台数が動的に変化することに対応することが. 赤外線が,電波ビーコンでは 2.5GHz 帯が,FM 多. 困難であること,車載器を搭載するコストに見合う. 重放送では 76 ∼ 90MHz 帯が用いられている.こ. アプリケーションが見つかっていないこと,などが. のうち,光ビーコンでは,情報収集のために双方. 挙げられる.. 向の通信を行っているが,電波ビーコンおよび FM 多重放送では,車載器への情報提供のみが行われて. 車々間通信の状況. いる.また,提供される情報の更新周期が比較的長.  車々間通信に関しては,ITS 情報通信システム推. いこともあり,電波ビーコン,光ビーコンとも,通. 進会議の車車間通信システム専門委員会が 2007 年. 信速度は 64kbps 程度である.. 5 月に「5.8GHz を用いた車車間通信システムの実験.  ETC は,車両が料金所をノンストップで通過. 用ガイドライン」(ITS FORUM RC-005 1.0 版)を. できるように,通信を用いて課金を行うシステム. 策定した.さらに,2009 年 2 月には,RC-005 を引. である.国内では 5.8GHz 帯が,海外では 5.9GHz. き継ぐ形で,同会議の運転支援通信システム専門委. 帯が利用されている.また,プロトコルも国内で. 員会(車車間通信システム専門委員会から名称変更). 情報処理 Vol.52 No.7 July 2011. 813.

(4) 特集. アナログテレビ放送の終焉. が「700MHz 帯を用いた運転支援通信システムの実. ステムとは,車々間通信により,車載器が周辺の車. 験用ガイドライン」(ITS FORUM RC-006 1.0 版). 両の情報を収集し,車両が安全に走行することを支. を策定した(その後,1.5 版が策定されているがそ. 援するシステムである.さらに,車載器や車両に搭. 2). .これらのガイドライ ちらは公開されていない ). 載されたセンサなどだけでは得られないような情報. ンにより,さまざまなアプリケーションの検討がな. については,インフラとして設置されたセンサや路. されている.. 車間通信などを用いて検出し,路車間通信を用いて.  2009 年 6 月に総務省の「ITS 無線システムの高度. 車両に提供する.. 化に関する研究会」がまとめた報告書では,安全運.  安全運転支援システムを実現するために,日米欧. 転支援システムで用いる周波数帯は,2012 年から. で検討されている通信方式をまとめたものを表 -2. 利用可能となる 700MHz 帯を優先して実用化のた. に示す.欧米ともに,5.9GHz 帯が割り当てられて. めの検討を進めるとしている.. おり,700MHz 帯のように低い周波数帯が割り当て.  2009 年 7 月から,情報通信審議会の ITS 無線シ. られているのは日本のみである.. ステム委員会が,700MHz 帯安全運転支援システム.  また,日本はチャンネル数が 10MHz 幅の 1 チャ. の技術的条件に関する調査を行っており,ここでは. ンネルのみと少なくなっている.このため,700MHz. RC-006 を用いて,車々間通信と路車間通信を同時. 帯のみですべての通信を行うことは非常に困難であ. に行うことを検討している.なお,この委員会の最. ると考えられている.. 終報告書は 2011 年 3 月にまとめられる予定であっ.   一 方,700MHz 帯 は, そ の 周 波 数 特 性 か ら,. たが,本稿執筆時点ではまだ公表されていない.. 5.8GHz 帯あるいは 5.9GHz 帯に比べて,より遠く.  また,ユビキタス特区として,デンソーと網走市. まで電波が届き,またシャドウイングの影響を受け. が共同で網走市において「車々間通信による安全運. にくいという特性がある.そのため,RC-006 では,. 転システム」 (700MHz 帯,5.8GHz 帯)を,トヨタ. 具体的な衝突防止システムについても想定シナリオ. などがつくば市,横須賀市において「路車間+車々. が記載されている.ここで想定されているものは,. 間通信によるインフラ協調安全運転支援システム」. 左折時,右折時(遮蔽車両無),右折時(遮蔽車両有),. (700MHz 帯,5.8GHz 帯)を,富士通,トヨタ自動車,. 出会い頭の衝突事故等である.これらのうち,右折. トヨタ IT 開発センターが木更津市において,「路. 時(遮蔽車両有)の衝突事故,出会い頭衝突事故に. 車間+車々間通信によるインフラ協調安全 運転支援システム」 (700MHz 帯)を行うな ど,各地で ITS に関係するプロジェクト が実施されている.. 700MHz帯で想定される ITSアプリケーション. ITSインフラ協調安全運転支援システム  前述のように,現在は 700MHz 帯を用 いた車々間通信について,実験用ガイド ラインが策定された状況である.700MHz. 日本. 北米. 欧州. 規格・委員会. ARIB RC-006. IEEE 802.11p/ 1609 draft. ETSI ES202 663 Draft. 使用周波数. 715∼725MHz. 5.850∼ 5.925GHz. 5.875∼ 5.905GHz. チャンネル数. 10MHz×1ch. 10MHz×7ch. 10MHz×3ch. 変調方式 伝送速度. 直交周波数分割多重方式(OFDM) 3∼18Mbps. アクセス方式 通信形態. 3∼27Mbps. 3∼27Mbps. CSMA/CA 同報. 同報,一対多,一対一. 帯で想定されているアプリケーションは 「ITS インフラ協調安全運転支援システム」 である.このインフラ協調安全運転支援シ. 814 情報処理 Vol.52 No.7 July 2011. 表 -2 日米欧の ITS インフラ協調安全運転支援システム用無線方式の比較 ※参考文献 1)から抜粋.

(5) 6. 700MHz 帯を使った新しい ITS アプリケーション ついては,相手車両を見通せない環境(Non Line of. する.これらについて,それぞれを適切な周波数帯. Sight:NLOS 環境)となるので,700MHz 帯を用い. に割り当てる手法や,重要な情報は 2 つの周波数帯. ることの有用性が高い.. で同時に送信する手法などが考えられている..  図 -2 に右折時衝突事故が発生する状況を示す..  ただし,それぞれの周波数特性が異なることから,. このように,対向車線にも右折車両が存在する場合,. どちらの帯域をどのような目的で利用するかについ. その車両によって視界が遮られる.対向車両が大型. ては,今後より詳細に検討する必要がある.. 車であれば,かなり広い範囲が NLOS 環境となる.  出会い頭衝突事故が発生する状況を図 -3 に示す.. 700MHz 帯を用いた通信の問題点. このように,交差点近くに建物がある場合,それに.  前述したように,700MHz 帯の電波は回折しや. よって見通しが遮られ,図の下から出る車両は,右. すいことから,シャドウイングの影響を受けにくい. 方向から接近する車両に気が付かないことが起こ. ため,見通しのない NLOS 環境での通信に適して. り得る.. いる.しかし,同時に 5.8GHz 帯に比べ,電波がよ.  このようなケースでは,交差点に設置されたセン. り遠くまで届いてしまうために,車々間通信に用い. サで周辺車両の情報を集め,それ を路車間通信によって各車両に提 供するか,700MHz 帯のように回 折の大きい周波数帯を用いる必要 がある.図 -2 のように大きな交 差点であれば,センサを設置する ことも不可能ではないが,図 -3 のような小さな交差点まで網羅的 にセンサを設置することは現実的 ではない.結果として,このよう なケースでは,通信だけで安全 を確保する必要があり,700MHz 帯を活用する必要が出てくるので ある.   こ の よ う に,700MHz 帯 は 非 常に有望な周波数帯域である が,一方で割り当てられた帯域 が 10MHz 幅と少なく,さまざま な通信を行うのに十分ではないと. 図 -2 右折時衝突事故発生状況(遮蔽車両有). いう問題がある.そこで,現在検 討 さ れ て い る の が,700MHz 帯 と 5.8GHz 帯を同時に用いる方式 である.インフラ協調安全運転支 援システムでは,車載器から路側 機,路側機から車載器,車載器か ら車載器という 3 つの通信が混在. 図 -3 出会い頭衝突事故発生状況. 情報処理 Vol.52 No.7 July 2011. 815.

(6) 特集. アナログテレビ放送の終焉. た場合,ある車両が送信した電波の影響を受ける. を特定の時間に局所的に活用することで,より電波. 車両が多くなる.CSMA(Carrier Sense Multiple. を有効に利用することが可能となると考えられて. Access:搬送波感知多重アクセス)系の通信プロト. いる.. コルを用いた場合,これは衝突の頻発やスループッ.  また,すでに実用化している通信との関係も検. トの低下となって現れる.道路上の車両数は,混雑. 討する必要がある.たとえば,5.8GHz 帯を利用す. 度によって極端に異なるが,最も混んでいる状況で. る場合には,ETC や ITS スポットサービスなどで. も通信が行える必要があるとするのであれば,たと. DSRC を利用している地域近傍での混信対策が必要. えば車線数の多い道路が交差しているような環境で. となる.逆に VICS の電波ビーコンや光ビーコンが. 渋滞が発生しているような状況を想定する必要があ. ある地域や,DSRC の通信機器がある地点では,そ. る.このような場合,渋滞している車両はあまり動. れらの通信を活用することも考えられる.VICS 系. いていないものの,対向車線は高速に動いている可. の通信は基本的に速度が遅いので,安全運転支援シ. 能性がある.このため,たとえば低速車両は通信頻. ステムとして有効利用することはなかなか難しいが,. 度を下げるといった通信の混雑対策は高速車両と低. ETC で用いられている DSRC であれば,1Mbps. 速車両の事故を予防するという観点では問題がある. ∼ 4Mbps 程度の速度での通信が可能であり,うま. と考えられており,抜本的な対策はいまだ検討中. く活用すれば相互に補う形での利用が可能であると. である.. 考えられる..  また,電波が届く範囲が広いということは,いわ.  さらに,第 3.9 世代移動通信システム(3.9G)とし. ゆる隠れ端末問題がより広範に発生するということ. てすでに実用化されている WiMAX や LTE,第 4. を意味する.都市部などでは,建物による遮蔽が発. 世代移動通信システム(4G)として検討されている. 生する.このため,それほど離れていない 2 地点で. WiMAX2 や LTE-Advanced と呼ばれる携帯電話. も電波が届く範囲が大幅に異なることが起こり得る.. 用の無線通信の利用も考えられる.これらは市場. これが原因となって,周辺で行われている通信が検. 規模が大きいため,圧倒的に低いコストで設置さ. 出できず,誰も通信をしていないと思って電波を送. れることになる.これらを有効活用し,その上で. 出してしまうことによって他の通信を妨害してしま. 700MHz 帯や 5.8GHz 帯を利用しなければできない. う現象が隠れ端末問題である.さらに自動車環境の. ようなアプリケーションについては,これらの周波. 場合,車両による遮蔽が起こるため,状況はより複. 数を利用する,というアプローチをとる必要が出て. 雑となる.このような環境下でブロードキャストベ. くるのは必至であると思われる.. ースの通信を行う場合,何らかの隠れ端末対策が必 須となると考えられる.  また,現在の 700Hz 帯の割り当てが 10MHz 幅. 今後のITSアプリケーションの展望. しかないという問題点に対して,ソフトウェア無線.  本章では,700MHz 帯を含む ITS アプリケーシ. を利用し,いわゆるホワイトスペースを活用するこ. ョンの今後の動向について,筆者の予測を交えて解. とが検討されている.ソフトウェア無線とは,ハー. 説する.. ドウェアではなく,ソフト的にさまざまな無線通信 方式を切り替えることが可能な無線通信方式である.. 次世代安全運転支援システム. また,ホワイトスペースとは,他の通信に割り当て.  安全運転支援システムを構築するという目標のも. られている周波数帯でありながら,地域的な割り当. と,すでに多くのプロジェクトが進行中である.そ. てなどにより,地理的あるいは時間的に使われてい. の中には,車両間での安全確保だけではなく,道路. ない電波帯域のことである.このホワイトスペース. 交通における弱者である二輪車や歩行者の安全を確. 816 情報処理 Vol.52 No.7 July 2011.

(7) 6. 700MHz 帯を使った新しい ITS アプリケーション 保しようとするものもある.道路交通の問題点とし. 者,二輪車,自転車などの安全性を確保するアプリ. て考えると,交通事故の死傷者の大多数は,自動車. ケーションが必要となる.その際に通信手段として,. の搭乗者ではなく,歩行者や二輪車,自転車などに. 700MHz 帯あるいは 5.8GHz 帯が使われるのか,現. 乗っている人であるので,これは当然の流れである. 在の携帯端末で利用可能な無線 LAN や Bluetooth. といえる.. などが用いられるのか,という点については,現.  ここで,歩行者の動きが予想しにくいなどさまざ. 時点では予測するのが困難である.筆者としては,. まな問題があるが,最も大きな問題は,歩行者や自. 700MHz 帯はともかく 5.8GHz 帯の利用については. 転車の場合,機器を動作させるための電源確保が自. シャドウイングや消費電力の問題など技術的にも難. 動車に比べて難しいという点である.スマートフォ. しい点が多いと感じている.. ンなどの携帯端末の発達により,ある程度の電源を 持ち,無線 LAN や GPS などのデバイスを搭載し. 今後のアプリケーション展開. た機器を歩行者が保持する,ということは想定でき.  700MHz 帯の電波が回折しやすいという点は,. る状況になっている.しかし,これらの歩行者が常. ITS において大いに利用価値があると考えられる.. に GPS で自身の位置を測定し,それを何らかの通. 見通せない場所にいる車両との通信技術が確立され,. 信手段で外部にブロードキャストし続けるという想. 安全運転支援が行えるようになると,さまざまなア. 定は現状の電源容量ではあまり現実的ではない.. プリケーションの実現性が高まることになる.最終.  自転車も電源については同様の問題を抱える.ま. 的には全自動で走行する車両を開発することが目標. た,歩行者に比べて高速での移動を行うため,移動. となるが,そのまえに,車両の実質的な視界が大幅. 速度が低速であるという前提でたとえばブロードキ. に広がることから,衝突をしない自動車の実現が現. ャストの間隔を長くする等の省電力化を実現するこ. 実味を帯びてくる.今までの,「見通しの悪い交差. とは困難である.. 点」「見通しの悪いカーブ」がもしも電子的になくな.  二輪車 (いわゆるバイク) は,さらに高速で移動す. るのであれば,多くの事故が防げることになるであ. るが,電源に関してはバッテリを搭載しているため,. ろう.その一方で,なんらかの事情で携帯端末を持. 歩行者や自転車よりは問題が少ない.. たない歩行者や,バッテリが上がってしまった車両.  歩行者,自転車,二輪車についてはアンテナの搭. で電波を送受信できない場合などでも対応可能な,. 載位置も問題となる.一般に車両では最も高い部分. Fail Safe な技術開発が必要となってくる.. 近くにアンテナを設置し,シャドウイングの影響を.  見通せない位置にいる車両と通信が行えるように. 避けようとすることが多いが,歩行者などでは,ど. なってくると,たとえば高速道路の合流部などでよ. うしてもアンテナの搭載位置を車両に比べて低くせ. り安全かつスムーズに合流を行うことが可能となる.. ざるを得ない.また,特に歩行者が携帯端末を体に. また,安全運転支援をさらに進めて,たとえば見通. 密着して保持するような場合,人体が遮蔽物となる. しの悪い交差点などで,車両が来たときだけ仮想的. という問題もある.遮蔽の影響は周波数帯や端末保. に信号のような制御を行い,安全かつ効率的な道路. 持方法,保持者の体格などによっても異なるが,混. 交通を実現することも可能になるかもしれない.. 雑している場所などで,人の密度が高まると遮蔽の.  ただし,これらは技術的に実現可能,ということ. 影響も大きくなるものと思われる.. であり,これがサービスとしてペイするか,ビジネ.  いずれにしても,スマートフォンなどの携帯端末. スとして成り立つか,というのは別問題である.ど. とは別に歩行者用の端末を保持させることは現実的. のようなサービスをどのように展開すればよいのか,. ではないため,歩行者側の端末や自転車,二輪車側. というのは,さまざまな成功例と失敗例から学び取. の端末として携帯端末を利用しつつ,車両や歩行. るしかないところではあるが,1 つにはここ数年のス. 情報処理 Vol.52 No.7 July 2011. 817.

(8) 特集. アナログテレビ放送の終焉. マートフォン市場の急成長や Twitter や Facebook. 者が,新しくビジネスが可能で有用なアプリケーシ. などの成功を参考にして,いかにユーザ視点で考え. ョンを考えられるかどうかで 700MHz 帯が有効利. るか,ユーザによって提供される情報を活用するか,. 用できるかどうかが変わる.その意味では,まさに. といった点を検討する必要があるであろう.. これからが勝負である.  最後に,本稿執筆中に東日本大震災が発生した.. 今後に向けて. 被災された方に心からお見舞い申し上げる.また, これに関連して発生した計画停電の影響で,交差点.  あと 1 年ほどで,700MHz 帯という今まで ITS. の信号が消えたことにより交通事故も発生している. では利用されていなかった周波数帯が利用可能にな. と聞く.本稿で紹介したインフラ協調安全運転支援. ろうとしている.今まで,ITS においてもさまざま. システムも,インフラに依存する面が少なくない.. なサービスに関する研究がなされてきているが,実. 改めて,インフラが機能しない状況でも,最低限の. 現したサービスで利用されている通信は,路側機や. 安全を確保できるようなシステムにする必要性を痛. インフラと車載機器との間の通信のみを利用してお. 感している.. り,サービスを提供できる場所が限られていた.こ.  また,震災の影響で,本稿に記述した内容が変更. れに対して,サービス提供場所を限らない車々間通. になる可能性があるが,締切の関係で十分にフォロ. 信のような技術は,長らく研究されてきていながら,. ーすることができなかった.ここにお詫びするとと. 実用化への一歩を踏みだせないでいた.その大きな. もに,その点をご了承いただけると幸いである.. 要因として,どのようにして普及させるか,という 問題が大きい.通信相手が近傍にいなければ車載機 は何の役にも立たないからである.700MHz 帯の活 用は,この問題を少しだけ解消することが可能であ る.より遠くの車両,遮蔽車両の向こうにいる車両. 参考文献 1) 関 馨:欧米の協調システムの動向:自動車研究,Vol.32, No.3, pp.8-14(Mar. 2010). 2) ITS FORUM RC-006(http://www.itsforum.gr.jp/Public/J7 Database/p34/ITSFORUMRC006V1_0.pdf) . (2011 年 4 月 3 日受付). とも通信が可能になるので,普及率が低くても,通 信を行える可能性が高くなるからである.ただし, 遠方の車両と通信を行って,かつ有効なアプリケー ションが存在する必要がある,という意味では,問 題の本質はあまり変わっていない.ここで我々研究. 818 情報処理 Vol.52 No.7 July 2011. 屋代智之(正会員) ■ [email protected] 1998 年慶應義塾大学大学院博士課程了.同年より千葉工業大 学工学部情報ネットワーク学科専任講師.現在,同大学情報 科学部情報ネットワーク学科教授.ITS,モバイルコンピュ ーティングなどの研究に従事.博士(工学).2010 年より ITS 研究会主査 ..

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