釧路キャンパス「教育フィールド研究」による教育効果の検討 -テキストマイニングの手法を用いた振り返り活動の分析-
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第66巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 66, No.1. 平 成 27 年 8 月 August, 2015. 釧路キャンパス「教育フィールド研究」による教育効果の検討 ― テキストマイニングの手法を用いた振り返り活動の分析 ―. 森 健一郎・八木 修一・津田 順二・安川 禎亮・西村 聡* 北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻(釧路担当) *. 北海道教育大学釧路校. A Study of the Effect of Field Study at Kushiro Campus ― Application of Text Mining Approach to Reflection ―. MORI Kenichiro, YAGI Shuichi, TSUDA Junji, YASUKAWA Sadaaki and NISHIMURA Satoshi* Hokkaido University of Education Advanced Teacher Professional Development Program *. Hokkaido University of Education, Kushiro Campus. 概 要 本学釧路キャンパス第1学年と第2学年の学生が「教育フィールド研究」を終えたときに記 述した事後指導のシートから,自由記述の部分を抜き出して収集した。テキストマイニングの 手法で分析し,次のような示唆を得た。ア)全体として共通に見られる視点は,「児童との接 し方」である。イ)第1学年で,現在の教育の重点の一つである「特別支援」について,すで に強く意識されている。 「教育フィールド研究」の事前指導でも「特別支援」は一つの重点項 目として扱われていることから,学校現場での実践を通して「特別支援」を捉えることは,非 常に教育効果が高いと思われる。ウ)第2学年で,「発問」や「工夫」といった授業観察の視 点になりうる語句が書かれている。「教育フィールド研究」の第2学年時のねらいの一つに「授 業観察の観点を養う」がある。学生の記述から判断すると,このねらいは概ね達成されたと判 断できる。. 1 序 論 本研究の目的は,1)全体として, 「教育フィールド研究」を経験した学生は,どのような点に着目して 振り返りをおこなっているのか。2)第1学年と第2学年では,振り返りの視点が変化しているのかどうか。 また,変化しているとすれば,どのような点が変化しているのか。以上の2点を実証的に検討することで,. 311.
(3) 森 健一郎・八木 修一・津田 順二・安川 禎亮・西村 聡. 第1学年から実施している「教育フィールド研究」や,その振り返り活動が,教職への意識づけや教職適性 の自覚化にどれだけ貢献しているのかを,より客観的に示すことである。 本学における「教育フィールド研究」とは,中央教育審議会答申(2006a)で示された「教職実践演習」 と呼ばれる必修科目を構成する実習の一つである。この答申では,「大学の教職課程で養成すべきとされて きた資質能力のうち,専門的な知識・技能以外については,これまで基礎資格(学士の学位等)の取得及び 教職課程の科目の単位修得等により確認されている部分があるものの,教員の役割等を踏まえた実践的指導 力の基礎などの最終的な形成は,教職指導等を通じて個々人において形成されているとして,明示的には確 「今後は,課程認定大学において,教員として最小限必要な資質 認されてこなかった」1)という認識に立ち, 能力の全体について,教職課程の履修を通じて,確実に身に付けさせるとともに,その資質能力の全体を明 2) としている。この方策を具体化したものとして「教職実 示的に確認する方策を講ずることが必要である」. 践演習」と呼ばれる必修科目群が創設され,教職課程をもつ大学では,各校の特色を生かしながらより実践 的な教育課程を構築することが求められている。 釧路キャンパスでは, 「教育実践フィールド科目」 (教育実習関連科目群)を設定し,これを大きく3つ(「教 育実習」 , 「教育フィールド研究」,「教育実践論」)に分けて展開している。「教育実習」は,第3学年で実施 するもので, いわゆる世間一般で言われるところの「教育実習」が中心となって構成されている科目である。 「教育フィールド研究」は,第1学年から学校などで現場体験をおこなう内容が中心となっている。「教育 実践論」は,理論と実践をつなぐために配置されており,主に「総合的な学習の時間」,「道東の教育」,「特 別支援教育」 , 「自然体験教育」,「環境教育」といった内容で構成されている(表1)。 「教育フィールド研究」は,さらに「「教育フィールド研究」Ⅰ」から「「教育フィールド研究」Ⅷ」まで 開設されている。学校現場での教育実践体験が主となるものが「「教育フィールド研究」Ⅰ・Ⅴ」と「「教育 フィールド研究」Ⅱ・Ⅵ」であり,「「教育フィールド研究」Ⅲ・Ⅳ・Ⅶ・Ⅷ」は,地域での社会教育実践体 験活動などが主となっている。釧路キャンパスの学生の多くは,第1学年で「「教育フィールド研究」Ⅰ・Ⅴ」 を,第2学年で「「教育フィールド研究」Ⅱ・Ⅵ」を履修している。 表1 釧路キャンパスの教育実践フィールド科目 教育実践フィールド科目 教育実習. 「教育フィールド研究」. 教育実践論. 基礎教育実習. へき地校体験実習Ⅰ 「教育フィールド研究」Ⅰ・Ⅴ. 総合的な学習. 教育実習Ⅰ. へき地校体験実習Ⅱ 「教育フィールド研究」Ⅱ・Ⅵ. 道東の教育. 教育実習Ⅱ. 特別支援教育実習. 「教育フィールド研究」Ⅲ. 特別支援実践論. 教員採用直前実習. 「教育フィールド研究」Ⅳ. 自然体験教育. 「教育フィールド研究」Ⅶ. 環境教育. 「教育フィールド研究」Ⅷ (平成26年度「教育実践フィールド科目ハンドブック」より). 前出の答申ではさらに, 「教職実践演習は,教職課程の他の科目の履修や教職指導の成果が,学生の中で 統合され,最終的に教員として必要な資質能力が形成されたことを確認するという,他の科目にはない特色 を有している。3)(下線部筆者)」とされている。 このことは,個々の科目の評価を適切におこなうことは当然ではあるが,それだけでは充分ではなく,大 学の教育課程全体を終えたときに学生にどのような資質能力が身に付いたかを検証しなければならないこと. 312.
(4) 釧路キャンパス「教育フィールド研究」による教育効果の検討. を意味する。このことは同時に,各大学において,どのような資質能力を育成するべきか明確にしなければ ならないことを示すと言える。釧路キャンパスにおいては,「教育実践フィールド科目ハンドブック」を作 成し,学生・教員の双方で各科目での到達目標を確認できるようにしており,地域や学生の実情に合わせて 毎年改訂されている。 このような流れの中, 「教育実践フィールド科目」の各科目の履修を終えた後,それらの資質能力が身に 付きつつあるか検証する手法を確立することが求められている。各科目でアンケートや自由記述による振り 返り活動が実施され,そこでは,学生がどのような意識で講義や実習に取り組んでいるのかが明らかになっ ている。そして,その結果を踏まえた実践の改定も例年おこなわれている。本研究では,釧路キャンパスで 第1学年から実施している「教育フィールド研究」や,その振り返り活動が,教職への意識づけや教職適性 の自覚化にどれだけ貢献しているのかを,より客観的な手法を用いて具体的に示すことを試みた。「教育実 践フィールド科目」における「教育フィールド研究」が,教員としての資質能力の育成に貢献していること をより客観的な手法で検証することにより,指導にあたる大学教員自身が「養成しようとする教員像を明確 4) ための一助になると考える。 に持つ」. 「教育フィールド研究」に関わる先行研究については,栢野ら(2012),栢野ら(2011),玉井ら(2010), 玉井(2007)などが挙げられる。これらの先行研究からは,第1学年時から第2学年,第3学年と進んでい く中で, 「学習指導力」や「協働性」など,教師の資質に対する意識が,より具体的かつ総合的なものに変 化していること,また,指導場面の捉え方が柔軟になり,方法論に多様性がみられるようになることなどが 報告されている。そして,明らかになった視点や課題をもとに, 「教育実践フィールド科目」の運営形態や「教 育実践フィールド科目ハンドブック」の内容が,より実質的なものになるように改善されている。これらの 先行研究は,教育系大学で育成すべき教員の資質能力を具体的に示し,教員養成系大学における教育の方向 性を明らかにする研究の一部として位置づけられる。「教職実践演習」は,平成18年に示されて以来,教員 養成系の各大学でさまざまな工夫が試みられているが,どのような資質能力が身に付いているかを明確にす る手立てについては,まだ検討の余地が残されている状況でもある。そのような中で,北海道教育大学にお ける「教育実践フィールド科目」-「教育フィールド研究」の実践は先進的なものと言える。今後,ますま 5) す「教員免許状の授与の前提として,教員として最小限必要な資質能力の全体を確認(保証)すること」. が求められると思われる。ここで,どのような資質能力が身に付いているかを明確にする手立てについて検 討しておくことは,意義のあることであると考える。. 2 方 法 1年間に渡る「教育フィールド研究」を終えた第1学年と第2学年の学生が記述した事後指導のシートか ら,自由記述の部分を抜き出して収集した。この事後指導では,「教育フィールド研究」における自分の活 動を振り返り,学生同士で意見交流などをおこなっている。これは,学生同士で意見交流をし,それに対し て大学教員からコメントをするという形式をとっており,学生の「教育フィールド研究」で得た経験などを 整理して体系化することをねらいとしている。 自由記述の部分を検討の対象とした理由は,項目に対して答えるアンケートよりも,学生が「教育フィー ルド研究」の活動中に注目していたことや悩んでいたこと,新たに気づいたことなどが表出されやすいので はないかと考えたからである。得られた記述は,すべてテキストファイル化し,テキストマイニングの手法 で分析した。 本研究では, 第1学年と第2学年の学生84名の自由記述を分析対象とした。この自由記述は, 「あなたが「教. 313.
(5) 森 健一郎・八木 修一・津田 順二・安川 禎亮・西村 聡. 育フィールド研究」で学んだことはどんなことですか」という問いに答えたものである。今回の分析では, 句点までのまとまりを1文として,200の文が収集された。 分析では,フリーのソフトウェアである「KH Coder」6)を用いた。ソフトウェアを利用することで,分析 者の予断をなるべく交えずに,テキスト中のデータの特徴を探り,データを要約することができる。このソ フトウェアで利用できる分析手法のうち,本研究では,「頻出150語のリスト」,「共起ネットワーク」,「対応 分析」を活用した。「頻出150語のリスト」の上位に位置する語群を概観することで,全体の大まかな傾向を つかむことができる。 「共起ネットワーク」と「対応分析」は,どちらも分析結果に基づいた図を作成し, 語句と語句とのつながりを探る手法である。 「共起ネットワーク」によって得られた図からは,文章の中で 強調された語句やそれらの関連性を推測することができる7)。「対応分析」によって得られた図からは,関 連の強いカテゴリーは近くに,弱いカテゴリーは遠くにプロットされる。これにより,集計表や通常のグラ フ表現だけでは簡単に読み取れないデータの傾向を直感的に把握することができる。. 3 結 果 作成された「頻出150語のリスト」は表2の通りである。なお,分析に際して,「教師」と「教員」と「先 生」 , 「子供」と「児童」, 「学級」と「クラス」といった,意味が同じであるが表記が異なるものについては, どれか一つに統合する作業をおこなった。例えば今回は, 「教師」と「教員」と「先生」については「先生」, 「子供」と「児童」については「児童」 , 「学級」と「クラス」については「学級」で統一した。また,「特 別支援教育」など,いくつかの語句が複合しているものについては,「特別」,「支援」,「教育」などと分割 されないように,まとまりとして強制的に抽出するような指定をおこなった。今回,その対象とした語句は, 「先生方」 , 「関わり方」 , 「大切さ」 , 「特別支援学級」,「低学年」,「環境整備」,「発達段階」など,およそ 100種類である。さらに,「言う」,「思う」など,どの文章にも含まれる語句は分析の対象としないように指 定をおこなった。 「共起ネットワーク」によって描かれた結果は図1の通りである。今回用いたKH Coderではこうした語 句間の類似度(どんな文章で使用されているか)を数値化し,語句間のネットワーク図を自動的に描く。図 1では相対的に強く互いに結びついている単語同士を自動的に検出してグループ分けを行い,ネットワーク 図によって示している。各グループは色分けされ,緑色,黄色,青色,赤色などによって示される。この場 合,同じグループに含まれる単語は実線で結ばれるのに対し,互いに異なるグループに含まれる単語は破線 で結ばれる。そして単語間を結ぶ線の太さは,単語間の共起の程度が強いほど太く描画される。なお,この 手法を用いる際は,図が煩雑になりすぎると傾向をつかむことが困難になるため,分析の範囲を絞り込むこ とが必要となる。今回は,描線の本数が45本になるように設定し分析をおこなった。. 314.
(6) 釧路キャンパス「教育フィールド研究」による教育効果の検討. 表2 頻出150語のリスト 抽出語 児童 学ぶ 先生 授業 仕事 関わり方 先生方 接す 見る 自分 学級 距離 難しい たくさん 感じる 仕方 指導 教える 考える 作業 大切さ 発問 対応 学び 学校 関わる 協力 経験 見える 工夫 フィールド 違い 違う 楽しい 環境整備 観察 言葉 視点 実際 準備 小学生 少し 生かす 多い 知る 低学年 特別支援学級 フィールド生 運営 改めて. 出現回数 105 46 46 35 30 23 21 19 17 13 11 11 10 9 9 9 9 8 8 8 8 8 7 6 6 6 6 6 6 6 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 4 4 4 . 抽出語 学べる 学年 基礎実習 気 教育 教室 小学校 先生同士 大学 大変さ 注意 理解 裏 良い タイプ 意識 一番 引率 影響 覚える 休み時間 言動 言葉遣い 行う 高学年 今年度 昨年 姿 子 時間 自主性 実習 取る 授業づくり 授業中 初めて 触れ合う 深い 進め方 接する 前 多く 大切 大変 中学年 内容 必要 勉強 褒める 目線. 出現回数 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3. . . 抽出語 様子 理由 流れ いろいろ ひとつ やり方 アドバイス スキル 意図 意味 異なる 一人一人 引っ越し作業 応じる 会 各学年 各作業 学校現場 活動 簡単 間近 機会 吸収 掲示物 喧嘩 行く 行動 合わせる 黒板 今回 最初 作る 作成 参考 使い方 子ども 指導方法 時期 授業計画 振り返る 新た 辛い 数多い 世界 性格 生活 生徒 選ぶ 増える 存在. 出現回数 3 3 3 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2. 315.
(7) 森 健一郎・八木 修一・津田 順二・安川 禎亮・西村 聡. 図1 共起ネットワーク図. 「対応分析」によって描かれた結果は,図2,図3の通りである。これによって得られた図からは,文章 の中で強調された語句やそれらの関連性が可視化されており,語句相互の位置関係からテキスト群の傾向を 推測することができる。この手法を用いる際は,図が煩雑になることを避けるため,テキスト中のすべての 語句を分析対象にするのではなく,絞り込むことが必要となる。今回は,差異が顕著な語句40個を分析対象 とした。図2はその結果である。左側に見られる表示「第1学年」の方向にあり,またグラフの原点から遠 い語句ほど,第1学年の文章に特徴的に見られるものとなる。そして,右側に見られる表示「第2学年」の 方向にあり, グラフの原点から遠い語句ほど,第2学年の文章に特徴的に見られるものとなる8)。したがって, この図2では, 原点に近い語句ほど,特徴がない(どの文章にも出現する傾向がある)ことになる。そこで, 学年ごとの違いがより明確に把握できるように,原点から離れた語句上位30個のみラベル表示をする設定を おこない再度描画した。その結果が図3である。図3では,原点に近いと判断された語句がドット表示のみ になり,学年ごとの傾向がつかみやすくなっている。. 316.
(8) 釧路キャンパス「教育フィールド研究」による教育効果の検討. 図2 対応分析から得られた図(差異が顕著な上位40語で描画). 317.
(9) 森 健一郎・八木 修一・津田 順二・安川 禎亮・西村 聡. 図3 対応分析から得られた図(差異が顕著な上位40語で描画,原点から離れた上位30語のみラベル表示). 「頻出150語のリスト」 , 「共起ネットワーク」,「対応分析」を活用して得られた結果をまとめると以下の ようになる。 1)共起ネットワーク図からは,記述全体の傾向が読み取れた。記述全体の傾向としては, 「授業観察(朱 色) 」 , 「環境整備(薄い紫色)」,「視点(水色)」,「先生方の動き(桃色)」,「特別支援学級(黄緑色)」, 「仕事(黄色)」, 「低学年(灰色)」, 「関わり方(橙色)」, 「難しい(青色)」という語句を含んだ記述が, それぞれグループを形成している。 2)対応分析によって得られた図より,第1学年の学生の記述で特徴的であった語句は,「自分」,「特別 支援学級」 , 「環境整備」 , 「学ぶ」などである。第2学年の学生の記述で特徴的であったものは,「関わ り方」 , 「フィールド」,「発問」,「距離」,「工夫」などの語句である。. 318.
(10) 釧路キャンパス「教育フィールド研究」による教育効果の検討. 4 考 察 本研究は,教育系大学で育成すべき教員の資質能力を具体的に示し,教員養成系大学における教育の方向 性を明らかにする研究の一部として位置づけられる。釧路キャンパスで第1学年から実施している「教育 フィールド研究」や,その振り返り活動が,教職への意識づけや教職適性の自覚化にどれだけ貢献している のかを,より客観的な手法を用いて具体的に示すことを試みた。得られた結果は次の通りである。 1)記述全体としては, 「授業観察」, 「環境整備」, 「視点」, 「先生方」, 「特別支援学級」, 「仕事」, 「低学年」, 「関わり方」,「難しい」という語句を含んだ記述が,それぞれグループを形成していた。 2)第1学年の学生の記述では, 「自分」 , 「特別支援学級」,「仕事」,「環境整備」,「学ぶ」などの語句が その特徴としてあげられる。第2学年の学生の記述では, 「関わり方」, 「フィールド」, 「発問」, 「距離」, 「工夫」などの語句が,その特徴としてあげられる。 これらの結果を踏まえ,釧路キャンパスの学生が「教育フィールド研究」を通してどのような考えをもっ たのかを,全体と学年ごとの観点から考察をおこなう。 1)について,記述内容と分析結果の双方から判断すると,学生の記述全体が,主に「授業の仕方」,「協 力して環境整備をすることの大切さ」, 「実際の学校現場を見る視点」, 「先生方の考え」, 「特別支援学級」, 「先 生の仕事」 , 「低学年の対応の違い」,「児童との接し方・関わり方」,「教えることの難しさ」という9つの観 点から構成されていると言える。前出の中央教育審議会答申(2006a)では,教育実践演習で扱う内容として, 「使命感や責任感,教育的愛情等に関する事項」,「社会性や対人関係能力に関する事項」,「幼児児童生徒理 解や学級経営等に関する事項」,「教科・保育内容等の指導力に関する事項」の4つの事項を含めることが適 当である9)としている。学生達の9つの観点と,中央教育審議会(2006a)からの4つの事項との整合性を 考察すると,少なくとも4つの事項のうち,「社会性や対人関係能力に関する事項」,「幼児児童生徒理解や 学級経営等に関する事項」 , 「教科・保育内容等の指導力に関する事項」の3つについては,「教育フィール ド研究」を通して確実に意識化されていると思われる(表3)。「使命感や責任感,教育的愛情等に関する事 項」についても,まったく意識化されていないとは考えられないが,今回のデータからは明確には読み取れ なかった。今後, 「教育フィールド研究」における「使命感や責任感,教育的愛情等に関する事項」を構成 する要素にはどんなものがあるのかを整理していきたい。 表3 中央教育審議会(2006a)で示された内容と「教育フィールド研究」で意識化された内容との関連. 釧路キャンパスの学生が 「教育フィールド研究」を 通して意識化したと思われる内容. 授業の仕方 協力して環境整備をす ることの大切さ 実際の学校現場を見る 視点 先生方の考え 特別支援学級 先生の仕事 低学年の対応の違い 児童との接し方・関わ り方 教えることの難しさ. 中央教育審議会答申(2006a)で示された「教育実践演習で扱う内容」 使命感や責任感,教 社会性や対人関係能 幼児児童生徒理解や 教科・保育内容等の 学級経営等に関する 指導力に関する事項 育的愛情等に関する 力に関する事項 事項 事項 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○. ○. ○ ○. 319.
(11) 森 健一郎・八木 修一・津田 順二・安川 禎亮・西村 聡. 2)について,記述内容と分析結果の双方から判断すると,第1学年の学生は,「自分が教員に向いてい るのかどうか」 ,「特別支援学級の児童との関わり方」,「学校の環境整備の必要性」,「教師としての仕事につ いて学ぶ」といった視点から振り返りをおこなっていた。第2学年の学生は,「児童との関わり方」,「「教育 フィールド研究」の意義」, 「授業における発問の仕方」, 「児童との距離感」, 「学級経営や授業の工夫」といっ た視点から振り返りをおこなっていた。前出の答申では,「教職指導」の充実の一環として,「教職指導は, 学生が教職についての理解を深め, 「教職への適性について考察」10)させることを教員養成課程の大学に求 めている。その点で,第1学年の学生から得られた「自分が教員に向いているのかどうか」,「教師としての 仕事について学ぶ」という視点からの振り返りがあることは,指導のねらいを達成していることを示してい る。このような「教職への適性について考察」を第1学年でおこない,第2学年で,「授業における発問の 仕方」 , 「学級経営や授業の工夫」といった実践的な視点から振り返りがなされていることは,中央教育審議 11) で言及された「教職課程全体を通じて行う計画的な教職指導」という方向性にも合致する。 会答申(2005a). この「教職課程全体を通じて行う計画的な教職指導」については,中央教育審議会答申(2005b)によると, 「複数のモデルカリキュラムが開発されたものの,必ずしも十分活用されるには至っていない」12)とのこと である。教職課程全体を通じた計画的な教職指導を考える上で,釧路キャンパスの「教育実践フィールド科 目」-「教育フィールド研究」における活動は,有効なモデルカリキュラムの一つになりうると考える。 さらに,1)と2)の分析結果と考察から以下のことが示唆される。 ア)全体として共通に見られる視点は, 「児童との接し方」であるため,継続的かつ多角的に指導してい く必要がある。 イ)第1学年で,現在の教育の重点の一つである「特別支援」について,すでに強く意識されている。「教 育フィールド研究」の事前指導でも「特別支援」は一つの重点項目として扱われていることから,学校 現場での実践を通して,大学入学後の早い時期から「特別支援」を捉えることは,非常に教育効果が高 いと思われる。 ウ)第2学年で, 「発問」や「工夫」といった授業観察の視点になりうる語句が書かれている。「教育フィー ルド研究」の第2学年時のねらいの一つに「授業観察の観点を養う」がある。学生の記述から判断する と,このねらいは概ね達成されたと判断できる。そして,この時期に授業観察の観点を養えることは, 第3学年で実施する教育実習をより効果的に進めるために有益である。. 5 結 果 釧路キャンパスの第1学年と第2学年の学生が「教育フィールド研究」を終えたときに記述した事後指導 のシートから,自由記述の部分を抜き出して収集し,分析した。その結果,1)記述全体としては,「授業 観察」 , 「環境整備」, 「視点」, 「先生方の動き」, 「特別支援学級」, 「仕事」, 「低学年」, 「関わり方」, 「難しい」 という語句を含んだ記述が,それぞれグループを形成していた。2)第1学年の学生の記述では,「自分」, 「特別支援学級」,「環境整備」,「学ぶ」などの語句がその特徴としてあげられる。第2学年の学生の記述で は, 「関わり方」,「フィールド」,「発問」,「距離」,「工夫」などの語句が,その特徴としてあげられる。 これらの結果から考察した結果,以下のような示唆を得た。 ア)全体として共通に見られる視点は, 「児童との接し方」であるため,継続的かつ多角的に指導してい く必要がある。 イ)第1学年で,現在の教育の重点の一つである「特別支援」について,すでに強く意識されている。「教 育フィールド研究」の事前指導でも「特別支援」は一つの重点項目として扱われていることから,学校. 320.
(12) 釧路キャンパス「教育フィールド研究」による教育効果の検討. 現場での実践を通して「特別支援」を捉えることは,非常に教育効果が高いと思われる。 ウ)第2学年で, 「発問」や「工夫」といった授業観察の視点になりうる語句が書かれている。「教育フィー ルド研究」の第2学年時のねらいの一つに「授業観察の観点を養う」がある。学生の記述から判断する と,このねらいは概ね達成されたと判断できる。. 謝 辞 本研究は,科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究,課題番号:25590215,代表者:津田順二)の助成を受け たものである。. 註 1)中央教育審議会答申(2005), 「教職実践演習(仮称) 」の新設・必修化―教員としての資質能力の最終的な形成と確認―, http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/05121201/007/009.htm 2)同上 3)同上 4)同上 5)同上 6)樋口耕一(2004),テキスト型データの計量的分析-2つのアプローチの峻別と統合-,理論と方法,19⑴,関西学院大 学社会学部数理社会学会 7)このような方法は,アンケート調査の自由回答文の分析,商品のイメージ調査,コールセンターの質問データの自動分析 などに広く用いられている。 8)表示の「第1学年」と「第2学年」の背景にある正方形の大きさが異なっている。これは,それぞれのサンプル数の大き さを面積で表したためである。 9) 中 央 教 育 審 議 会 答 申(2006a), 教 職 実 践 演 習( 仮 称 ) に つ い て,http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/ chukyo0/toushin/attach/1337016.htm 10)中央教育審議会答申(2006b),「教職指導」の充実-教職課程全体を通じたきめ細かい指導・助言・援助-,http:// www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/attach/1337006.htm 11)中央教育審議会答申(2005a),今後の教員養成・免許制度の在り方について(中間報告) ,http://www.mext.go.jp/b_ menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05120802.htm 12)中央教育審議会答申(2005),教職課程の改善・充実-「教職指導」の充実と大学における組織的指導体制の整備等-, http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/attach/1346011.htm ※ウェブページの最終アクセス日は,すべて平成27年3月30日。. 参考文献 教育実践フィールド科目ハンドブック作成委員会(2014) ,教育実践フィールド研究科目ハンドブック,釧路校教育実習委員 会 栢野彰秀,玉井康之,近江道郎,西出勉,倉賀野志郎,山瀬一史,村上知子,八木修一,赤田裕喜彦,小林宏明(2012) ,教 育フィールド研究を経た学生の共同体験と協働性意識の発展,北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要,2,北海 道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 栢野彰秀,玉井康之,赤田裕喜彦,西出勉,近江道郎,倉賀野志郎,山瀬一史,村上知子,小林宏明(2011) , 「学習指導力」 に関する学生意識の質的検討:釧路校「教育フィールド研究」の実践を通じた学生の認識の発展,北海道教育大学紀要(教 育科学編),61⑵,北海道教育大学. 321.
(13) 森 健一郎・八木 修一・津田 順二・安川 禎亮・西村 聡. 玉井康之,倉賀野志郎(2010),「理論と実践の往還」を目指す「教育フィールド研究」の体系化と「教職実践演習」への連動 性の課題,日本教育大学協会研究年報,28,日本教育大学協会 玉井康之(2007) ,生涯学習社会下における教員養成のキャリア教育としての教育フィールド研究の意義と内容-釧路校の実 践内容を中心として,北海道生涯学習研究,7,北海道教育大学生涯学習教育研究センター. (森 健一郎 釧路校准教授) (八木 修一 釧路校教授) (津田 順二 釧路校教授) (安川 禎亮 釧路校准教授) (西村 聡 釧路校准教授) ※所属などはすべて執筆当時のものである。. 322.
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