聴覚障害児の補聴器装用における発声の変化に関する研究
85
0
0
全文
(2) 目. 次. 1 はじめに. …. 1. II 目的. …. 4. 111 方法. …. 5 5. 1.事例 1)事例の選定条件 2)事例の概要 2.手続き 1)発声・発語の採集 2)コミュニケーション行動の記録 3)聴力および補聴器装用状態の記録 4)聾学校における保育状況の経緯 5)家庭環境状況の経緯 6)結果の処理 7)分析の視点 8)各事例の分析の視点および、分析時点の選択 1V 結果. 5. 5. 10 10. 10 11. 11 11. 11 11. 12. … 19 19. 1.事例Aの補聴器装用による行動の変化 1)発声の質的変化 2)発声・発語の機能的変化 3)発声・発語の量的変化 4)補聴器装用に関わる諸条件. 19. 25 37 42. 2.事例Bの補聴器装用による行動の変化 1)発声の質的変化 2)発声・発語の機能的変化および量的変化 3)補聴器装用に関わる諸条件. 43. 3.事例Cの補聴器装用による行動の変化 1)発声の質的変化 2)発声・発語の機能的変化および量的変化 3)補聴器装用に関わる諸条件. 61. 48 60. 61. 61. 70. V 考察. … 71. VI 結論. … 80 80 81. 1.まとめ 2.今後の課題 〈参考文献〉. … 82.
(3) 1. eまじめeこ. 聴覚刺激が入力されるということは、音声言語習得に欠かすことのできない重 要な要因である。乳児はその他の視覚的刺激などとともに聴覚刺激を受けとめ、 (インプット機能)音の存在を知り、また自らの発声を聞くこと(フィードバヅ ク機能)によって言語を習得していくのである(岡本,1990;金山,1995;加藤, 1987;村井,1980)。. その聴覚機能に高度の障害がある場合、健聴者とは著しく異なった発声(phon− ation}や調音(articulation)を余儀iなくされ、①摩擦音の破裂音化、②濁音の清 音化、③母音の中性音化(neutralization}、④各種子音の母音化、⑤語尾音の脱. 落、⑥過法の鼻音化、⑦息継ぎの不安定さ、⑧リズムパターン、ピヅチパターン、. およびイントネーションパターンの単調さといった発声の質的要因が、音声言語 の明瞭度を下げているといえる(吉野,1985;加藤,1987;須藤,1986;村井,1980)。. また、村井(1980}は、 「聴覚障害児は、自分が表現したいことが相手に理解さ. れず、また母親も、聴覚障害児が表現していることを十分理解できないために、. 母子ともにフラストレーション状況に陥ることがしばしばみられる」と発声の機 能的側面への影響を示唆している。 さらに、 「聴覚障害児の発声活動の一般的特徴は、まず発声の量と種類が各月 齢を通じて、健聴児に比し著しく少ないことである(村井,1980}」と発声の量的側 面への影響も示唆されている。. 一方で、補聴器装用によって適切な聴覚刺激が入力されることで、発声時の呼 気調整や音声のピヅチコントロールなどに改善が見られることが経験的にもよく 知られている。また、岡本(1995)は、補聴器装用後のコミュニケーション障害の 一1.
(4) 変化について述べている。. この知見は、聴覚障害児に周囲の聴覚刺激を入力することが、その後の音声言 語習得はもとより、コミュニケーション行動にも重要な影響を及ぼすことを示し ている。. また、小田島(1995)は、 「乳幼児期の難聴は言語発達の面で重要であり、また. 社会性や情緒形成Aの影響を考えると、その早期発見が重要な課題となる」と述 べている。聴覚障害児教育においては、障害を可能な限り早期に発見し、補聴器 を装用して音の存在を認識させるための指導が、その後の音声言語獲得に有効で あると考えられ(岡本,1980;今井1980)、実施されている。. このように、聴覚刺激の入力と発声の各側面(質的・機能的・量的)との関係 や、聴覚刺激の入力と行動との関係については、これまでの先行研究により一定 の知見が得られてきている。しかし、各側面の特徴を総合的にとらえて、聴覚刺 激の入力と発声および、発声の出現を支える行動の関係を検討していく必要があ るにもかかわらず、こうした研究は見あたらない。とりわけ発声が未分化であり、. 聴覚刺激が音声習得の要因として最も注目される1、2歳の聴覚障害乳幼児につい て検討することが重要であると考える。. そこで本研究では、聴覚障害乳幼児が補聴器を装用して、聴覚刺激が入力され ることと、発声、および発声に関する行動との関係について継時的に情報を収集 した上で総合的に検討することとした。. 本研究を通じて、障害の程度の異なる聴覚障害乳幼児における聴覚刺激と言語 発達の関係について、これまでの研究では明らかにされてこなかった知見が得ら れるものと考えられる。. さらに、聴覚障害児の発声、および発声に関する行動の変化についての客観的 な指標を提供し、聴覚的印象には明確に現れてこなかった子どもの発声の変化に 関する情報を母親が得られるようにすることで、母子間にみられるフラストレー 一2一.
(5) ション状況へのアプローチについても示唆を得たいと考えている。. 一3一.
(6) II. 目的. 本研究では、聴覚障害児が補聴器を装用し、聴覚刺激が以前より増幅して入力 されるようになったことによって、発声そのも⑱がどのように変化していくのか、 また、発声の変化に関わる行動がどのように変化するのか、その過程をみていく ことを目的とした。. ①発声の質的変化に視点を当て、発声される音声そのものがどのように変化し たかを検討する。. c ②発声の機能的変化に桿点を当て、大人とのやりとりを中心に、コミュニケー ションがどのように変化したかを検討する。. ③発声の量的変化に視点を当て、聴覚活用をすることによって、発声量が変化 するのかどうかを検討する。. 一4一.
(7) III. 方法. 1.事例. 1)事例の選定条件 本研究では、A聾学校保育相談部の1歳児クラスに来談している、補聴器を未 装用か、まもなく装用を予定しているもの、および、補聴器を装用し、聴能訓練 を開始して間もない聴覚障害児を対象事例とした。. なお、初期言語発達に重要な阻害を及ぼすとみなされるものおよびその他の阻 害要因を持つものといったものは対象から除いた。. ①重複障害のあるもの ②両親が聴覚障害者であるもの ③多動行動等あり、調査条件に著しく適合しないもの. 以上の条件に合わせて、3名を対象事例とし、各事例については、事例A、事. 例B、事例Cとした。. 2)事例の概要 対象3事例について、. A聾学校に来談するまでの状態の概要は、以下に述. べている。. 事例A(2歳2ヶ月 男) ①周産期の状態 平成5年4月28日生れ、三胎40週、. 正常分娩で出生した。. 一5一.
(8) ②聴覚障害発見時の状況 Aが2歳1ヶ月の頃、ことばが出ない、大声で呼んでも振り向かないことから、 両親が聞こえていないことに気付いた。. 平成7年5月30日、聴覚障害(高度難聴)と診断される。. 平成7年6月29日(2歳2ヶ月)に、A聾学校の教育相談に来談、保育相談部に 入学した。. ③補聴器装用時の状況 平成7年7月12日に、RION HB−36M補聴器を装用した。. 補聴器装用を嫌がる態度は、特にみられなかった。. 平成7年7月18日から左右同型の補聴器で両耳装用を開始した。 なお、調査開始時点(平成7年6月29日)は、補聴器を装用していなかった。. ④家庭環境等. 家族構成は、父、母、Aの3人である。. 事例B(1it 11ケ月 女). ①周産期の状態. 平成5年6月22日生れ、在胎38週、帝王切開で出生した。出生日、半日間保育 器に入った。. ②難聴発見時の状況. Bが10ヶ月の頃、名前を呼んでも振り向かないことから、両親が聞こえてい ないことに気付いた。. 一6一.
(9) 平成6年6月27日、聴覚障害(高度難聴)と診断される。. 平成6年7月4日(1歳1ヶ月)に、A聾学校の教育相談に来談、保育相談部に入 学した。. ③補聴器装用時の状況 平成6年7月19日に、補聴器を装用した。. 補聴器装用を嫌がる。家庭では装用したり、しなかったりした。. 片耳交互装用を5ヶ月間行い、平成6年12月19日(1歳6ヶ月)から同型の補聴 器を両耳装用した。. 調査開始時点では、RION HB−53W補聴器を両耳装用しており、補聴器装用から 10ヶ月経過していた。. ④家庭環境等 家族構成は、父、母、兄、Bである。. 事例C(1歳8ヶ月 女) ①周産期の状態. 平成5年9月ll日生れ、在胎39週で、正常分娩で出生した。周産期の異常は特 にみられなかった。. ②難聴発見時の状況. Cが7ヶ月の頃、名前を呼んでも振り向かないことから、両親が聞こえていな いことに気付いた。. 平成6年8月、聴覚障害(高度難聴)と診断される。 一7一.
(10) 平成6年8月24日(0歳11ヶ月)に、A聾学校の教育相談に来談、保育相談部に 入学した。. ③補聴器装用時の状況 平成6年9月にRION HB−11(ベビー}補聴器を装用した。. 補聴器装用を嫌がる態度は、特にみられなかった。. 平成7年5月19日に同型の補聴器を両耳装用を開始していた。 調査開始時点に装用していた補聴器はRION HB−53Wであった。. 一8一.
(11) Table 1. 事例の概要. 事例. A. B. C. 性別. M. F. F. 年齢. 生年朋. 1歳llケ月. 2歳2ヶ月. H5, 4, 28. H5, 6, 22. 在胎週. 40W. 38W. 出産時の状態. 正常. 帝瑚開. 1歳8ヶ月. H5, 9, 11. 3gw. 正常. 聞こえないことに. 叶いた時期. 難聴と診断された月齢. (年朋). 保舗始月齢. (朝田. 補聴器装朋齢 (年朋). 調査開姶時点の月齢. (年朋). 2:傾. 0:10頃. 2:1. い0. (H7, 5, 30). (H6, 6, 27). 2:2. 1:0. (H7, 6, 29). (H6, 7, 4). 212. 1:0. (旺7,7,12). (H6, 7, 19}. 2:2. 1:11. (H7, 6, 29). (H7, 5, 25). 9. 。:7頃. O:11 (H6, 8). O:11 (H6, 8, 24). 1:0 (H6, 9). 1:9 (H7, 5s 26).
(12) 2.手続き. 1)発声・発語の採取 発声・発語の採取は、事例の胸の位置にワイヤレスマイクを装着し、テープ レコーダー及び、ビデオテープレコーダーに録音した。. ①場所:A聾学校 保育室. ②記録用使用機器:SONY MICROPHONE WCS−180. SONY VIDEO CAMERA RECORDER CCD−F340. SONY ELECTRET CONDENSER MICROPHONE EMC−989. soNy TcM−seooEv. 2)コミュニケーション行動の記録 個別保育中の事例のコミュニケーション行動の記録は・ビデオテー九コー ダーに録画した。. ①場所:A聾学校 保育室. ②使用機器:SONY VIDEO CAMERA RECORDER CCD−F340. 一10一.
(13) 3)聴力および補聴器装用の状態 A聾学校で実施している補聴域値検査記録を参考にした。. 4)聾学校における保育状況の経緯 各事例が、聴覚障害と診断されて、A聾学校教育相談に来談してから、どの ような経緯をたどっているのか、また、調査開始時点から調査終了時点まで、 どのような保育がおこなわれていたかの情報を収集した。. 5)家庭環境状況の経緯 事例が出生してから、どのような形で、聴覚障害が発見されたのか、また、 発見されてからの家庭環境の変化の情報を収集した。. 6)結果の処理 結果の処理には以下の機器を使用した。. ・音声分析. KAY DSP SONA−GRAPH MODEL 5500. ・行動観察記録 SONY VIDEO TV RECORDER EV−DT2 NTSC 8. 7)分析の視点 ①補聴器装用による発声・発語の質的変化. 各事例の発声・発語から、周囲の雑音が少なく、その日の発声の特徴的な ものを選出し、補聴器装用による発声・発語の質的変化を検討する指標とし た。. 発声・発語の質的変化を捕らえる視点として、以下の項目に着目し、検:討 一11一.
(14) した。. 1}音声分析器によるフォルマント分析. ②補聴器装用による発声・発語の量的変化 各事例の保育場面の中から、周囲の雑音が少なく、遊びを通して大人と子 どもが関われている場面を選出し、補聴器装用による発声・発語の量的変化 を検:討する指標とした。. 発声・発語の量的変化を捕らえる視点として、以下の項目に着目し、検討 した。. 1}自発および、模倣発声・発語回数 2}語音の広がり. なお、発声・発語回数は、呼気が続いている間を1回とし、3分間に何回 発声・発語があったかを測定した。. ③補聴器装用による発声・発語の機能的変化 各事例の保育場面の中における、各調査日の特徴的な行動や、発声・発語 を分析の視点に合わせて、選出し、補聴器装用による発声・発語の機能的変 化を検討する指標とした。. 発声・発語の機能的変化を捕らえる視点として、以下のコミュニケーショ ン行動に着目し、検討した。 1)聴性行動 2}交互作用. 8)各事例の分析の視点および、分析時点の選択 前項で述べた分析の視点に従い、各事例ごとの音声サンプルの選択と、分. 一12一.
(15) 析の視点を述べる。. (1)事例Aの音声サンプルの選択と分析の視点. ①発声の質的変化に関する場面の選択と分析の視点. 事例Aの発声の質的な変化を捉える視点として、サウンドスペクトル グラフによる音声のパターン分析をおこなった。分析には事例Aを追跡 調査した4時点の中において共通にみられた発声の中から3母音の連続 音である/a・Ula/を用いた。3母音の連続音を発声の変化の指標としたの. は、以下の3点の理由によった。 ・3音がいずれも母音であるため、各音のフォルマント構造の変化を容易. に検出できること ・フォルマントの周波数分布が容易に測定できること. ・3音間のフォルマントの遷移(わたり)の検出が容易に観測できること なお、3母音の連続音/aUl a/からみられる発声の変化の分析の観点を. 以下の3点のとした。 1)三音のフォルマント構造の変化 2}フォルマントの周波数分布. 3}3音闇のフォルマントの遷移(わたり). ②発声・発語の量的変化に関する場面の選択と分析の視点 事例Aの発声・発語の量的変化を捕らえる視点として、語彙の広がり. の分析をおこなった。分析には、事例Aの保育場面での発声・発語を指 標として用いた。. なお、事例Aの量的変化を捕らえる分析の観点として、語音に着目した。. 一13一.
(16) ③発声・発語の機隼的変化に、坐する場面の選択と分析の視点. 事例Aの発声・発語の機能的変化を捉える視点として、サウンドスペク トルグラフによる音声の分析をおこなった。分析にあたっては、事例Aを. 追跡調査した4時点のセヅションにおいて、共通にみられた発声・発語の 中から、大人の発声「ちょうだい」を模倣する音声を選択した。. なお、模倣音声からみられる発声の変化の分析の観点を、以下の3点と した。. 1)模倣のタイミング 2}大人のフォルマント構造との一致 3)抑揚の模倣. ④音声サンプルの採取時点の選択 音声サンプルを選択した時期は以下の4点である。 1)1時点(H7,7,6,2:2). 事例Aの個別保育の初日にあたり、この時点においては、 補聴器装用はおこなわれていない。. 2)2時点(H7,7,13,2:2}. 補聴器装用後2日目にあたる。片耳装用で、RION社製 HB−36であった。. 3)3時点(H7,9,19,2:4). 補聴器装用後68日目にあたる。2時垂目の5日後(H7,7, 18}. に同型の補聴器を両耳に装用している。個別保育回数4回 一14一.
(17) 目にあたり、油団保育は5回おこなわれている。. 4)4時点(H7,10,6,2:5). 補聴器装用ac 85日目にあたる。個別保育回数6回目にあた. り、集団保育は12回忌こなわれている。. (2)事例Bの音声サンプルの選択と分析の視点. ①発声の質的変化に関する場面の選択と分析の視点 事例Bの発声の質的な変化を捉える視点として、サウンドスペクトル グラフによる音声のパターン分析をおこなった。分析には事例Bを追跡 調査した4時点の中において共通にみられた発声の中から母音の/a/を用. いた。母音の/a/を分析の指標として用いたのは、以下の2点の理由によ つた。. ・母音であるため、.フォルマント構造の変化を容易に検出できること. ・フォルマントの周波数分布が容易に測定できること なお、母音の/a/からみられる発声の変化の分析の観点を以下の2点と した。. 1)各音のフォルマント構造の変化 2)フォルマントの周波数分布. ②発声の機能的変化に関する場面の選択と分析の視点. 事例Bの発声・発語の機能的変化を捉える視点として、コミュニケーシ ョン行動の変化の分析をおこなった。分析には、事例Bが一定の場所で. 一15一.
(18) 大人とのやりとりを行った場面を1分間駅レ存・コミュニケーション行 動の変化の分析の観点を以下の点とした。 1)聴性行動 2}交互作用. ③発声の量的変化に関する場面の選択と分析の視点 事例Bの発声・発語の:量的変化を捉える視点として、自発的および、模 倣による発声・発語回数の測定をおこなった。. 測定には、①で述べた場面を含む場面の中からできるだけ同じ条件で行わ. れた場面を3分間選択し、指標として用いた。発声・発語の量的変化の分 析の観点を以下の2点とした。 1)自発発声回数. 2)模倣発声回数. ④音声サンプルの採集時点の選択 音声サンプルを選択した時期は以下の4点である。 1)1時点(H7,6,9,1:11). 保育開始日より11ヶ月、補聴器装用より10ヶ月の時点 ある。. 2)2時点(H7,6,15,1:1U. 保育開始日より11ヶ月、補聴器装用より11ヶ月の時点で ある。. 3}3時点(H7,9,26,2;2}. 一16一.
(19) 保育開始日よ,り14ヶ月、補聴器装用より13ヶ月の時点で ある。. 4)4時点(H7,10,4,2:2}. 保育開始日より15ヶ月、補聴器装用より14ヶ月の時点で ある。. 3)事例Cの音声サンプルの選択と分析の視点 ①発声の質的変化に関する場面の選択と分析の視点. 事例Cは発声が表出しなかったため、発声の質的変化に関する分析は行 えなかった。. ②発声の機能的変化に関する場面の選択と分析の視点. 事例Cの発声・発語の機能的変化を捉える視点として、コミュニケーシ ョン行動の変化の分析をおこなった。分析には、事例Cが一定の場所で 大人とのやりとりを行った場面を1分間選択した。コミュニケーション行 動の変化の分析の観点を以下の点とした。 1}聴性行動 2)交互作用. ③発声の量的変化に関する場面の選択と分析の視点. 事例Bの発声・発語の量的湾牛を凝える視点として、自発的および、模 倣による発声・発語回数の測定をおこなった。. 測定には、①で述べた場面を含む場面の中からできるだけ同じ条件で行わ 17 一.
(20) れた場面を3分間選択し、指標として用いた。発声・発語の量的変化の分 析の観点を以下の2点とした。 1}自発発声回数 2)模倣発声回数. ④音声サンプルの採集時点の選択 音声サンプルを選択した時期は以下の3点である。 1)1時点(H7,6,7,1:8). 保育開始日より9ヶ月、補聴器装用より8ヶ月の時点である。. 2)2時点(H7,6,30,1:9). 保育開始日より10ヶ月、補聴器装用より9ケ月の時点で ある。. 3)3時点(H7,7,10,1:9}. 保育開始日より10ヶ月、補聴器装用より9ヶ月の時点で ある。. 一18一.
(21) TV. 結果. 1.事例Aの補聴器装用による行動の変化 1)発声の質的変化分析の結果 4時点における事例Aの同一発声[aua]に聞こえた音声を捉えてパターン分 析した結果を図N−1−1∼1−4に示した。以下、時点ごとにうられた特徴を述 べていく。. サウンドスペクトルグラフにおけるパターン分析のグラフの縦軸は、周波 数を表しており、一目盛りは1000Hzで周波数範囲はOHz∼8000Hzを示している。 また横軸は時間を表しており全体で4秒間を示している。. 1}1時点(H7,7,6,2:2}にみられた音声特徴. a)フォルマント構造. 聴覚的印象は母音として聞き取れるにも関わらず、発声の立ち上がり部 分は子音の破裂音様の状態を呈している。第1音の[a]は、フォルマント様. の共鳴帯はみられるものの、不明確である。加えて広い周波数帯域にわた つたノイズの分布がみられた。第2音の[ua]と第3音の[a]については第1、. 第2フォルマントの構造が確認され、母音の特徴を呈しているが、第2音 においてはノイズ成分の重なりがあり、第3音の[a]には、なん語にみられ る多くの周波数帯にわたる共鳴帯がみられる。 b}フォルマントの周波数分布 [a] [ua][a]の3音ともに、第1フォルマントは500Hzを中心に±3000Hz. に分布していて、特に弁別できていない。第2フォルマントにおいては[u] に相当するとみられる部分に1000Hz前後のボイスバーがみられる。 一19一.
(22) c)3二間の遷移 [a][U月[a]の3音間のフォルマントの遷移は、立ち上がり部のノイズ部. 分と第2フォルマントの変化によって、明確な母音語音として弁別はでき ないが、3音の弁別としての手がかりは認められる。. 2)2時点(H7,7,13,2:2)にみられた音声特徴. a}フォルマント構造の状態. 1時点において立ち上がり部分にみられたノイズ成分は著しく減少した。 母音[a][UI ][a]の第1フォルマントは3音ともに変イbがみられない。しか. し第2フォルマントは[a]と[ua]は違っており、また[a]は第1音と第3音 は、同一の構造を持っていることが分かる。 b)フォルマントの周波数分布. [aHulHa]の3音ともに第1フォルマントは500Hzを中心に±3000Hzに分 布していて、特に弁別できていないことは1時点と同様であっ. た。. 第2フォルマントにおいては[W]に相当するとみられる部分の1000Hz前後 へ のボイスバーはやや不明確になり、1500Hz付近にやや明確なボイスバーが 出現している。. c)3音間の遷移 【a] [Ui][a]3音間のフォルマントの遷移はあまり認められず、抑揚のな. い長音化した発声になっている。明確な母音語音として弁別はできないが、. 第2フォルマントの変化によって、3音の弁別としての手がかりは認める ことはできる。. 3)3時点(H7,9,19,2:4)にみられた音声特徴. 一20一.
(23) a)フォルマント構造の状態 この発声は立ち上がり部分から母音[a]が始まり、[ua]から[a]と連続的. に移行している。第1フォルマントは第1音と第2音、また第2音と第3 音と変化がみられる。第2フォルマントも[a]と[UI]は違っており、また [a]は第1音と第3音は同じ構造を持っている。 b}フォルマントの周波数分布. 第1音と第3音の[a]の第1フォルマントは1000Hzから+300Hz位に位置 している。これに対して【UI]の第1フォルマントは500Hzを中心に分布して いて、あきらかに第1音、第3音の[a]と弁別できている。また、[a]は2 音ともに第2フォルマントは2000Hzを中心に分布していて、第2音の[UI 1 の1500Hzとは明確に異なっている。. c)3音色の遷移 [a][ur][a]3山間のフォルマント遷移は母音問で認められる。明確な母. 音語音として弁別が可能になってきたことを現しており、これは聴覚的印 象とも一致するものである。. 4)4時点(H7,10,6,2:5}にみられた音声特徴. a}フォルマント構造の状態. この発声は立ち上がり部分が破裂音様のスパイクフィルがみられ、母音 [a]がはじまり[UI]から[a]と連続的に移行している。第1フォルマントも. 第2フォルマントも第1音、第2音また、第2音と第3音に変化がみられ る。第2フォルマントも[a]と[UI 1は違っており、また、[a]は第1音と第. 3音は同一の構造を持っている。. 一21一.
(24) b}フォルマントの周波数分布. 第1音と第3音の[a]の第1フォルマントは1000Hzから+300Hz位に位置 している。これに対して[ml ]の第1フォルマントは500Hzを中心に分布して. いて、あきらかに第1音、第3音の[a]と弁別できている。また、[a]は2 音ともに第2フォルマントは2000Hzを中心に分布していて、第2音の[UI ] の1500Hzとは明確に異なっている。. c)3音間の遷移 [a][ua][a]3音間のフォルマント遷移は母音間で認められる。明確な母. 音語音として弁別が可能になってきたことを現しており、これは聴覚的印 象とも一致するものである。. 一22一.
(25) 一濠憲. ”,. ll ’tt ’. i’. 瀦鞭1臨翻. ..,..li. ’i. i. ls. 欝. ・艦 9額,. 婁. 轡. ’. 1. 器 1. 図N−1−1. 音声のパターン分析停例A). 図1V−1−2 音声のパターン分析. (駒A). ?.
(26) 1. 漣. 図W−1−3 音声のパターン分析. (事例A). 図W−1−4 音声のパターン分析. (一一). 1.
(27) 3)発声・発語の機能的変化 1)1時点(H7,7,6,2:2}にみられた発声模倣の特徴. ①発声・発語場面にみられた聴性行動と交互作用. 1時点における事例Aに発声・発語の機能的な面をみた結果を図N−2−1 に、発声・発語が生じた場面をTable 2に示した。この保育場面は事例Aを 中心に指導者と父親の3人でかかわっている場面である。. 事例Aの方に転がっていったボールを指導者が取り上げ、玩具の中にボ ールを落とす動作をさせた。その時にたてた音を刺激音として、 「ポトン」. という擬音語をつけ加えた動作が繰り返されている。. 事例Aは指導者の擬音語を聞きながら、ボールを落としたときに生じる 音にも気づいており、何度も同じ動作を繰り返している。 指導者の刺激音[tSodai]に対しては[u:】と反応しているが、明確には音. の弁別はまだ十分にできているとは言えない段階である。. 幽幽行動は随所にみられ、ボール入れによって生じる音と、その音に対 する指導者の発声が事例Aの行動の基盤となり、行動が続いている。. 交互作用は、Table 2のAl→T2→A3のやりとりにみられる他は指導者 から事例への一方的なかかわりが多くみられた。 ②音声特徴 a}模倣のタイミング. 指導者の「ちょうだい」と言う発声はあるが、事例Aの発声はすぐ後の タイミングで発声されているわけではなかった。 b)大人のフォルマント構造との一致 Tの発声「ちょうだい」.[ti’ o;dai]の[ti o】の破擦部分が事例Aの発声の立. ち上がり部分にもみられる。第2音では母音のフォルマント構造がみられ、 の発声とのフォルマントの長さの一致はみられなかった。 c}抑揚の模倣. フオルマントにわたりもみられず、抑揚の模倣はみられなかった。. 一25一.
(28) ・発声場面の特徴. 発声模倣のあった時点から±15秒の保育場面はTable 2に示したとお りである。. Table 2 発声:場面. 事例A. 大 人 1,(T)Aの方に転がっていったz}1 一一ルを. とって「あ一とった」と言う。 1,「う一」と言って玩具のふ・. XN N たを取り、Tの方に持って. N. N. いく。. Si 2,(T)(F)玩具の口を指さして、. *「ここにお漏蕩識薩」 「ここに置いて」と言う。. 2,玩具の口を手でたたき、ふ. たを元に戻してその上を *「繊灘」と言ってたたく。 /t. ・3,(T}「ちょうだい」と言って、ボール. を差し出す。. /1. 3,Tの手からボールを取り、 vx. 玩具の中に落とす。 ・4,(T)「ポトン」と言う。. 4,Tの手からボールを取り、. xl 玩具の中に落とす。. V. 5,Tの手からボールを取り、. /f. 玩具の中に落とす。. fl. 1. ・5,(T)「ポトン」と言う。. /. レ. 6,Tの手からボールを取り、. 玩具の中に落とす。. / /. P. x. ・6,(T)「ポトン」と言う。. /. /7,(T)「ポトン」と言う。. 7,落ちていくボールを見ていし る。. 一一. 一>8,(T)「くるくるくる、いっぱいいつば. いやね」と言う。. (T:指導者、F:父親) →と1警灘乏は、発声模倣を表し、 一一は、やりとりの交互作用を表す。. 一26一.
(29) (T). 1. ヨ 1. (事例A). 難 …’. c. .・’鷲.駈ノ・町1;・. 趣.. ・揉 ’. 瞳. ,. 図1V−2−1 発声模倣の音声分析.
(30) 2)2時点(2:2)にみられた発声模倣の特徴. 2時点における事例Aに発声・発語の機能的な面をみた結果を図N−2−2 に、発声・発語が生じた場面をTable 3に示した。この保育場面は事例Aを 中心に指導者と父親の3人でかかわっている場面である。. つなき合わせて遊ぶ玩具のパーツを指導者もしくは父親が事例Aに手渡し する際、 「ちょうだい」と発声し、事例Aに発声模倣させようとしている。. 事例Aは指導者もしくは父親から受け取ったパーツをつなぎ合わせる動作 を繰り返している。また、パーツを受け取るときに大人が発声してることに も気付いており、自らも発声を繰り返している。. 父親の「ちょうだい」に対しては「わ一わ一」と反応しているが、音の弁 別は十分にできていないものの、手を伸ばしてパーヅを受け取る行動から 機能的に発声されているといえる。. 聴性行動も随所にみられ、父親もしくは指導者の発声による、事例Aの反 応が繰り返されている。. 交互作用は、指導者もしくは父親からの刺激に事例Aが反応するという形 でやりとりが続いており、大人からの刺激が一方的になることはなくなった。. ②2時点(H7, 7,13,2:2}にみられた音声特徴. a)模倣のタイミング. 父親が「ちょうだい」と発声したすぐ後の、タイミングのよい模倣がみら れた。. b}大人のフォルマント構造との一致. 事例Aの発声の子音部分の構造は、不明確ではあるが、後続の母音とは明 らかに区別できる子音の摩擦成分らしきフィルがみられる。母音部分のフォ ルマント構造は明確にでている。. フォルマントの長さも、Fの発声とほぼ同じ長さを保ち、一音の間隔も保母 同様の発声になっている。 c)抑揚の檬倣. フォルマントにわたりもみられず、抑揚に模倣はみられなかった。. 一28一.
(31) ・発声場面の特徴. 発声模倣のあった時点から±15秒の保育場面はTable 3に示したとお りである。. Table 3 発声場面 大 人. 事例A. ・1,(T}「ちょうだ一い」と言って、つな. 1!. ぐおもちゃのパーヅを差し出す。. //. 1,「うわうえ一」と言って、. 〈 N. XN. Tを見る。. 3,Tの持っているおもちゃの. ,92,(T)「ちょうだ・一…一い」と言う。 ei NN. Nk. パーヅを指さし、 「う一. NNN. う一」と言う。. 雨3, (T)「これもあるね一」と言って、持. っているパーヅを差し出す。 (T)「ちょうだ一い」と言って、手を. 合わせてちょうだいのサインをす る。 (F)*「ちン轟講だ繕鱗」と言う。 4,*「わ驚襲鱗藤1」と言って、. 手を伸ばし、パーヅを取る・、 “’. `4,(T)「どうぞ一」と言ってパーヅをわ. たす。 、 5,(T)・ちょうだ一い」と言らてつなげ tt. /. たパーヅを差し出し、 「どうぞ一. ノ. f. 」と言ってわたす。. t. 5,つなげたパーツを受け取るレ. (T:指導者、:F:父親). →とi灘難は、発声模倣を表し、. rは、やりとりの交互作用を表す。. 一一. 一29一.
(32) (F). 欝、1、’ツ灘. 奮1ご. −’ゴ ・釦. 暁.. …・2・. 粟 ,,、轍. D羅羅翻繍黙. {. 器 1. (事例A). 図1V−2−2. 発声模倣の音声分析. 門轡1・「.
(33) 3)3時点(H7,9,19,2:4)にみられた発声模倣の特徴. 3時点における事例Aに発声・発語の機能的な面をみた結果を図1V−2−3 に、発声・発語が生じた場面をTable 4に示した。この保育場面は事例Aと 母親がかかわっている場面である。. この保育場面は母親が持っている牛乳パヅクを事例Aに手渡しし、積んだ り、牛乳パックを振って音を立てたりする動作をさせた。. 事例Aは母親の発声や、牛乳パヅクの音に気付いており、母親から牛乳パ ヅクを受け取り、同じ動作を繰り返すだけでなく、音刺激に反応している。. 母親の「ちょうだい」に対しては「うわ占うわ一」と反応しているが、音 の弁別ができ始めていると言える。. 急性行動は随所にみられ、音刺激によってやりとりが成立している。. 交互作用は母親からの刺激に事例Aが反応し、事例Aの発声にも母親が反 応ずる自然な形でみられるようになった。. ②音声特徴 a)模倣のタイミング. 母親の発声のすぐ後のタイミングのよい発声がみられた。 b)大人のフォルマント構造との一致. 母音部分はフォルマント構造が明確に出ていて、Mの発声のパターンと 類似していた。[dai]の[d]の音声は、破裂音ではなく、母音の変化として 表出されている。. 発声時間もMの刺激音声とほぼ同じ長さを保ち、一音の間隔もほぼ同様 の発声になっている。 c)抑揚の模倣. フォルマントにわたりもみられず、抑揚に模倣はみられなかった。. 一31一.
(34) ・発声場面の特徴. 発声模倣のあった時点から±15秒の保育場面はTable 4に示したとお りである。. Table 4 発声模倣 大 人. 事例A 1,Mから牛乳パヅクの玩具を ・. xx. 受け取り、積む。. XN. N1,(M)「よいしょ」と言って、 Aが重ねた. 牛乳パヅクを押さえる。. 2,他の牛乳パックに手を伸ば・、 し、Mを見る。. N. xx. 92,(M)牛乳パヅクを取り上げ、カラカラ. t/. / tlt. と音を立てて振り、 「これ?」と 言う。. 3,「わ一」と言って、他のパ〈 x ヅクを指さす。. XN. 93,(M)「これ?」と言って、別のパヅク. tl. を出してくる。. ノ〆. 4,牛乳パヅクを指さしたままP 「あった」と言う。. 4,(M)*「ち灘∴う霧毫験」と言う。. 5,*「難ζ馨ミ馨毒藁鋤譲懸」と言っ 、. N. て手を差し出す。. xx. 95,(M)「どうぞ一」と言って、牛乳パヅ. xt. クをわたす。. ノ〆. 6,牛乳パヅクを受け取り、積蟹 x. XN. む。. a」6,(M)「よいしょ、高い高いやね」と言. う。 / / ノ. 7,Mのまねをして、手をゆら P. ・ (M}「あ一ぐらぐらぐらぐらするわ」. と言って、手をゆらゆらさせる。. ゆらさせる。 (M:母親). →と1搬灘は、発声模倣を表し、 一〉は、やりとりの交互作用を表す。. 一32一.
(35) (M) {き. ロ ちゼ. ゴ」・. 鐵. L奮 竃}. 鰻. 懸一疏識麟照門灘,_ 、.黛隻__.熱蕊姦・lll賦__. 、. ・三軸三三簸;融癖壷蒲…一 ・ ゆでぶいご. 』㌢淋 ド. ヒへ. 藤、・瓢:1∵. 騰四. 官i二t/. ・琴訊 ツ. 暁−. 赫. 轍3,馳』‘’tl、ヒ1 噂r鰯機、. D. . L亀、、tt. ,蚤 ..D. ヒ、芦』 b藤 、1. 奮. Vl−t. h購繍幽噸蝋・. 1. 器 t. (事例A). 濾鑑、. .一届.L、.轟=・轟∴♂、、・_・_、_・一 … 噛、牽5㌦レ. 、. ヤこ,t“,:■b. ;. ’/’・”tt・・謡・・A.,.㌦卍.・駈、、.・’・一・「. ト層、【. 、瀦・−‘溢憲. 蕊蹴樋譜. .仰・P昨「 2F智ツ1仰寸. ト. な. キ よ. 三三 翫L∴「㌃. 齢融…熱 .暫 逸 、i『”’L」. 雛 , ‘. 図IV−2−3. 発声模倣の音声分析.
(36) 4)4時点(H7,10,6,2:5)にみられた発声模倣の特徴. 4時点における事例Aに発声・発語の機能的な面をみた結果を図IV−2−4 に、発声・発語が生じた場面をTable 5に示した。この保育場面は事例Aを 中心に指導者と母親の3人でかかわっている場面である。. 指導者が母親と事例Aに絵カードを見せ、絵の名称を答えさせた。 事例Aがリンゴのカードをみるのと同時に母親が、発声し、絵の内容を理 解させようとしている。事例Aはその発声に気付いており、同じように発声 しながら動作も模倣した。. 母親の刺激音「ちょうだい」に対しては、 「うわ一うえ」と反応しており、. 刺激音の弁別もできており、発声が機能的におこなわれていた。 軸性行動は随所にみられ、発声刺激によるやりとりがおこなわれていた。. 交互作用は、母親から事例A、事例Aから母親と自然なやりとりが続いた。. ②音声特微 a)模倣のタイミング. 母親の発声のすぐ後、タイミングのよい発声がみられた。 b)大人のフォルマント構造との一致. 発声時間もMの刺激音声とほぼ同じ長さを保ち、一音の間隔がほぼ同様に なっている。 c)抑揚の模倣. 音律(プロソディ)の模倣が明確に出現している。 Mの【dai]と言ったときの語尾の抑揚の上がりが、そのままの形で事例A の発声に持ち込まれていて、同様の抑揚がみられた。. 一34一.
(37) ・発声場面の特徴. 発声模倣のあった時点から±15秒の保育場面はTable 5に示したとお りである。. Table 5 発声場面. 事例A. 大 人 !ノ. ・1,(T}(M)「1、2、3くるり」と言』って. TがカードをAに見せる。. / /. 1,カードを見る。. 冷2,(M}「あ、Aちゃんの好きな、トントン lt. ’. 1. トン」と言って、包丁で切るふり をする。 「リンゴ」と言う。. ’. ’. (T)「これは?」と言う。. 2,「わ、わ、わ、わ、」と言V って、包丁で切るふりをす. N. N. t N. る。. t 9”. R,{M)Aに合わせて「トントントン」と. 言いながら切るふりをする。 (T}「リンゴ」と言う。 (M)「リンゴ」と言う。. (M)カードを机の上に置き「旧いとこ. ね」と言う。 (M)Tの手元を見て、手を出し、 「1こ. 3,Mのまねをして、手を出し *「綾幾熱麟獄1薦」と言う。 tl ノ. 1. 5,新しいカードを見て、 「うv 一」と言う。. ・4,(T)新しいカーードを見せて「これは?. 」と言う。. 5,(M)「あ、Aちゃんこれ、ほら、ぼうし. 」と言って、カードを指さす。. (T:指導者、M:母親) →と線鱗は、発声模倣を表し、 一一は、やりとりの交互作用を表す。. 一35一.
(38) (M). 窓 1. (事例A). 図N−2 一・4. 発声模倣の音声分析.
(39) 1)発声・発語の量的変化. 発声・発語の量的変化は、各時点ともに保育場面中の3分間における語音を取 りあげ、意味的な広がりと自発および模倣発声、発語の出現回数を測定したもの である。. 1)1時点(H7,7,6,2:2). ①語音の広がり. 1時点における保育場面で、事例Aが発声した語音はTable 6に示したと おりである。. Table 6 語音の広がり. 語音の意味. 語音. う一. [UI ]. あうあ. [aui a]. あ一. 回. ああ. [aa]. ちょうだい. (ここに表記した語音は必ずしも初出語音ではない。) 1時点における保育場面では、[a] [UI ]が表出していた。. ②自発および、模倣発声・発語回数. 事例Aの保育;場面からTable 6で示した場面を含む3分間の自発発声・発. 語は、15回あった。模倣発声・発語は、みられなかった。. 一37一.
(40) 2)2時点(H7,7,13,2:2}. ①語音の広がり. 2時点における保育場面で、事例Aが発声した語音はTable 7に示したと おりである。. Tabユe 7 語音の広がり. 語音の意味. 語音. つ、 つ. [UI t UI ]. どうぞ. うわ一. [ui wa]. あうあ. [aui a]. う一一一. [UI ]. うわうわうわ. [ul w a, ul w a, ul w a]. からからから. おうお一. [ow o]. ちょうだい. あっ. [a]. つ、 つ、 つ、. ばっ. ぐるぐるぐる. [UI , UI t UI ]. (ここに表記したものは必ずしも初出語音ではない。) 2時点における保育場面では[a][ua][o】[wa]が表出していた。. ②自発および、模倣発声・発語回数. 事例Aの保育場面からTable 7で示した場面を含む3分間の自発発声・発 語は、15回あった。模倣発声・発語は、6回あった。. 一38一.
(41) 3)3時点(H7, 9,19,2:4). ①語音の広がり. 3時点における保育場面で、事例Aが発声した語音はTabユe 8に示したと おりである。. Table 8語音の広がり 語音の意味. 語音 あ一あ. [ataJ. あ一あ. あった. [a,ta]. あった. おうあ. [OUI a]. うんあ. [Ulna]. あうあ. [awa]. うわっうえ一 [Ulwa, uae] ‘まaま一. [papa]. あっちや. [a, ’eJ a]. やって ばいばい. あ一. [aj. まんま. [皿anma]. Xeま‘まeま. ちょうだい. [papapapa】. あうえうえ一 [aUl eUl e]. おちゃ. まんま. ばらばらばら あけて. (ここに表記した語音は必ずしも初出語音ではない。) 3時点における保育場面では、[a] [UI ][e] [o][ta][ma][tf a][pa][wa] [n]が. 表出していた。. ②自発および、模倣発声・発語回数. 事例Aの保育場面からTable 8で示した場面を含む3分間の自発発声・発語 は、6回あった。模倣発声・発語は、4回あった。. 一39一.
(42) 4)4時点(H7,10,6.2:5). ①語音の広がり. 4時点における保育場面で、事例Aが発声した語音はTable’9に示したと おりである。. Table 9 語音の広がり 語音の意味. 語音 う一わ. [ua t w a]. もっかい. [mo, kai]. もう1回. わ一わ. [wa, wa]. ないわ. やって うんちゃ. [ja, te]. やって. うわうわ. [ut wa, ul wa]. ないわ. うわ一うわ うわ一わ. [UL互wa2 U工wa]. ちょうだい. [ui n’tS a]. [UI UI ]. ひ. つつ一 つ. [ul wa, wa]. [Ui t UI ]. ヨ. つ、 つ一. ぶつぶ一. わ一. [wa]. かい. [kai]. うわうえうえ うわ一. [ul waul eu[ e]. うわ一うえ. [ua w a, ul e]. ないわ. うえ一ちゃ一 ぼ一ひ. [ui e, ’tS a]. できた. [bo, Q i]. ぼうし. わ一わ一. [wa, wa]. ばいばい. あっと. [a, t o]. ありがとう. うわ一わん. [ua wa, wan]. うわわわわ. [ul wawawawa]. んぱぱ一. [npapa]. うわうわうわ. [ul wa, ul wa, u wa]. ばっ. [pa]. ばっ. あっ. [a]. あっ. [es e, 一tJ’ e, ’tS e]. ちょきちょきちょき. ぽ一ん. [p o, n]. ボーン. え一. [e]. あれ一. ちえちえちえ. もう1回. [ui wa]. ぞうさん ばば. トントントン. (ここに表記した語音は必ずしも初出語音ではない。). 一40一.
(43) 4時点における保育場面では、[a][i][wHe][o][kaHte][to][mo][ja][w a][一tJ’ a] [t∫ e][bo][pa][po][g i] [wa][n]が表出していた。. ②自発および、模倣発声・発語回数. 事例Aの保育場面からTable 9で示した場面を含む3分間の自発発声・発語. は、14回あった。模倣発声・発語は、8回あった。. 一41一.
(44) 4)補聴器装用に関わる諸条件 事例Aの調査時期におこなった聴力検査の結果は、Table正0に示したとお りである。なお、聴力検査は何れも担任教師が、聾学校の聴力検査室にて実 施している。. Table lOの縦列は調査時点を表し、横列は検査周波数ごとの測定値を表し ている。事例Aは、H7, 7,12に補聴器を装用したので、 H7,6,7の聴力検査は裸. 耳で行った。以降の値はすべて補聴器を装用した状態での値である。事例A は高度難聴に分類される。 L 補聴器を装用した翌日のH7,7,13、夏休み中のH7,8,21の聴力検査結果のう. ち、500Hzの聴力レベルが補聴器装用前よりやや悪くなっているが、事例Aの 年齢からいっても、明確に適合する検査法はなく、検査時の事例Aの状態に よっても測定値にばらつきがみられ、必ずしも聴力の閾値や補聴閾値を示し ているとはいえないものであると考えられる。また、さらに加えて補聴効果 が進むことによる閾値の上昇も十分に考えられることである。Table 10をみ. ると、第一次検査時点における盗塁特性と比較すると、何れの検査時点にお いても補聴器装用による効果が確認される。. Table 10 聴力検査結果. 検査時点. H7, 6, 7 (2:1). 500Hz 1000Hz 2000Hz 4000Hz * 68dB * 73dB * 76dB * 76dB. H7, 7, 13 (2:2). 74dB. 57dB. 64dB. 60dB. H7, 8, 21 (2:3). 74dB. 52dB. 42dB. 43dB. (*は、補聴器装用前の裸耳聴力を示す。). 一42一.
(45) 2.事例Bの補聴器装用による行動の変化 1)発声の質的変化分析の結果 4時点における事例Bの同一発声[a:]に聞こえた音声を捉えてパターン分 析した結果を図IV−2−1∼2−4に示した。以下、時点ごとにみられた特徴を述 べていく。. サウンドスペクトルグラフにおけるパターン分析のグラフの縦軸は、周波 数を表しており、一目盛りは1000Hzで周波数範囲はOHz∼8000Hzを示している。 また横軸は時間を表しており全体で4秒間を示している。. 1)1時点(H7, 6,9,1:11)にみられた音声特徴. a}フォルマント構造. 聴覚印象としては、発声のはじめにスパイクフィルがあり、その続きに歪 みがかかった[a:]と捉えられる発声がみられる。その音は語音として同定す. るには未分化な音と位置づけられる、ごく歪みの多い発声である。. フォルマント構造は、第一フォルマントとみられる強いボイスバーが1本 くっきりと見えている。またその上に第2フォルマントとみられるエネルギ. 一の弱いボイスバrがあることが確認できた。しかし、第1フォルマントの エネルギーが強く、明確な[a:]の語音と同定できないと考えられる。. 発声開始時点には、破裂音様のスパイクフィルがあり、発声の開始がかな り強い瞬間的な呼気の流出伴っていることをうかがわせる。発声[a:]の後端. 部分は[u]様音声へと連なっていて、2音節の連続音を発声する可能性がみら れる。. b)フォルマントの周波数分布. 事例Bの[a:1の第1フォルマントとみられるボイスバーは1200Hz辺りを中. 心周波数として分布しており、第2フォルマントは2400Hz辺りにごく弱いエ ネル油団のボイスバーとして表出している。語音の構成として[a:]の識別に はあまり寄与していないことを示している。. 一43一.
(46) 2}2時点(H7, 6,15,1:11)にみられた音声特徴. a}フォルマント構造の状態 2時点で捉えた[a:]の発声は、聴覚的印象においても語音[a]として同定で. きるものであった。第1フォルマント、第2フォルマントに加えて第3フォ ルマント、第4フォルマントの確認ができた。 しかし発声の後半部分は特定の共鳴帯でなく広い周波数分布を持つ共鳴帯 が見受けられる。これは哺語様音声の特徴の一つとされている兆候と考えら れる。発声開始時点においては1時点と同様の破裂音様の特徴がみられた。 b}フォルマントの周波数分布. 2時点における第1フォルマントの周波数は1200Hz辺りにある。第2フォ ルマントは1800Hz近辺、第3フォルマントは2300Hz近辺にみられ、第4フォ ルマントは2800Hz近辺に表出した。噛語様の発声と重なる部分においては [a:]の発声時のフォルマント構造が崩れており、発声が変質していることが うかがえる。. 3}3時点(H7,9,26,2:2}にみられた音声特徴. a)フオルマント構造の状態 3時点で捉えた[a:]の発声は、聴覚的印象においても語音[a]として同定で. きるものであった。第1フォルマント、第2フォルマントは比較的明確に認 められたが第3フォルマントはエネルギーが弱く確認しがたい。. 2時点にみられた噛心様の発声は全く認められなくなっている。開始時点 における1、2時点と同様の破裂音様の特徴がみられたがエネルギー的には ごく弱いものになっている。 b)フォルマントの周波数分布. 3時点における第1フォルマントの周波数は1000Hz辺りにある。第2フォ ルマントは1800Hz近辺にみられる。発声の後半部においては[a:】の発声時の. フオルマント構造が崩れており、2時点ほどではないにしても発声が変質し ていることがうかがえた。. 一一. @44 一.
(47) 4)4時点(H7,10,4,2:2)にみられた音声特徴. a}フオルマント構造の状態 4時点で捉えた[a:】の発声は、聴覚的印象においても語音[a】として同定で. きるものであった。第1フォルマント、第2フォルマントに加えて第3フォ ルマント、第4フォルマントの確認ができた。 特に発声開始時点にみられた破裂音様の特徴的な発声はなくなり、発声開 始時点から共鳴を伴った母音発声が出現した。 b)フォルマントの周波数分布. 4時点における第1フォルマントの周波数は1200Hz辺りにある。第2フォ ルマントは2500Hz近辺にみられる。発声は一定のパターンで持続発声してい る。. 一45一.
(48) ; ’”. ごll窯〔1. 娠庫 …. 一一11一. .ヰ. ー 気.. 麟.:1. 1騨墜蟄懇. 鯛. 購 詣’. D ・’箸. 図N−2−1. 音声のパターン分析 (事例B). t. 8 1. 1. 懸騰. 羅鞍. 瀧. 撫鯉1.灘 ,. ●璽. 図1V−2−2. au. 1’. 音声のパターン分析. (纂例β).
(49) 騨. 盤滋轄 慧:灘饗 IRzzX−:. , . o..匪 ,倉レ. 図W−2−3. 1. 音声のパターン分析. (事・例B). ミ 1. 藷{癖謙:ll謙. 鮭. 戴、,、. 瞳1簿, 図]V−2−4. D.. ?. 耀鍵. 、舞. 豊 騨 ●. 音声のパターン分析白白の. 囑.
(50) 2)発声・発語の機能的変化および量的変化. 1)・1時点(H7,6,9,1:11). ①発声・発語の機能的変化∼コミュニケーション行動の分析∼. 1時点で行われた大人と、事例Bのやりとりは、Table llに、やりとりの 中で表出した聴性行動はTable 12に示した。. この保育場面はままごとの中で、パンを切る遊びがテーマになっており、. 事例Bを中心に指導者と母親の3人でかかわっている場面である。事例Bは、 パンを切った後、オーブンで焼いたり、お皿にのせて食べたりする動作はで きておらず、包丁でパンを切り、切ったパンをまたつないだりする動作を繰 り返している。. 母親と指導者は、事例Bの動作に対して、対応した行動をとるとともに、. 母親は、Table llの事例Bの6、事例Bが包丁でパンを切る動作を「よいし ょ」と言語化したり、事例Bが包丁でパンを切る際、 「トン」と発声し擬音 語をつけ加えるなどして、聴覚刺激を与えている。また、Table 11の大人の. 発声6、指導者の「わたしがする一」と言う発声のように、事例Bの発声す るべきことばを代弁した発声もあった。. 事例Bは音の存在に気付いており、母親の「トン」と言う発声によってパ ンを切ったり、指導者の「ぺつた一ん、あつまれ一」と言ってパンをもう一 度つなぐことを促したことに対してパンを差し出し反応したことなど、動作 による聴性行動は表出した。しかし、音を弁別することのできる段階ではな く刺激音に対する発声による反応はみられなかった。. やりとりの交互作用はわずかしかみられず、ほとんどは事例Bの動作を捉 えてそれを音声刺激に変えて与えていると言った一方的なかかわりであった。. 一48一.
(51) Table ll コミュニケーション行動. 事例B. 大 人. 1,包丁を持って、パンを切る。〈一. 一一. P,(M)「トントン」と言ってから別の包. 丁を持ち、再び「トントン」と 言って、まな板をたたく。 2,包丁を持って、パンを切る。〈一. 一一. Q,(T}(M}「トン」と言う。. 一一. R,(T)(M}「トン」と言う。. *1. 3包丁を持って、パンを切る。〈一 *2. 4,包丁を持って、パンを切る。〈一 一4,(T)(M}「トン」と言う。 *3. T,(M)包丁でまな板をたたく。. 一一. 5,#「あ■…一・」と言ってMの包丁9(. を取り上げ、自分の横に置 ’. XN. く。. 為6,(M}「あかんの。はい、わかった」と. 言う。 (T}「わたしがする一」と言う。 6,包丁を持って、パンを切るく一. 一一. V,(M)「よいしょ」と言う。. *4. 7,持っているパンをすべて切・、 巡8,(T}(M}「やった一」’と言っ℃、拍手す り終わる。. る ・9,(T)「ぺつた一ん。あつまれ一」と言 ノ. t. ノ 8,パンを一切れ持ってMに差 《 し出す。*5 9,「う一」と言って、パンを Mにわたす。*6 10,残りのパンを持つ。. /. ってパンをもう一度つなぐことを 促す。. >10,(M}「ちょうだい」と言って手を合わ /. せる。. 11,(M)「ぎゅ、ぎゅ」と言ってパンをつ ないでまな板の上に置く。 》12,(M)「これもぺつた一・一一んする?」と言. 11,パンをMに差し出す。*7 媛. う。 づ13,(M)「これも?」と言ってパンを受け 取る。. まな板の上で「ぎゅ、きゆ」と言 いながらパンをつなぐ。 (T}「ぺつた一ん」と言う。. (M}「パンをすべてつないでまな板に のせる」 (Table l1の#は、質的変化の分析に使用した音声である。*は、大人とのやりと りの中でBが聴性行動を示した部分である。) 一層ま交互作用を示す。. 一49一.
(52) Table 12 聴性行動. 聴性行動. NO,. 音刺激. *1. Mの発声. パンを切る。. *2. Mの発声. パンを切る。. *3. Mの発声. パンを切る。. *4. Mの発声. パンを切る。. *5. Tの発声. パンを差し出す。. *6. Mの発声. パンをわたす。. *7. Mの発声. パンを差し出す。. ②発声・発語の量的変化∼自発的および模倣発声・発語回数の測定∼ Table 12の保育場面を含む3分間の自発的発声・発語回数:は7回あった。 模倣発声・発語はみられなかった。. 一50一.
(53) 2)2時点(H7,6,15,1:11). ①発声・発語の機能的変化∼コミュニケーション行動の分析∼. 2時点で行われた大人と、事例Bのやりとりは、Table l3に、その中で表 出した聴性行動はTable l4に示した。. この保育場面は、中に石のはいっている牛乳パヅクを使った遊びがテーマ. になっており、事例Bが母親とかかわっている場面である。母親は牛乳パヅ クのたくさんはいった段ボールの横に座っており、事例Bに牛乳パヅクを手 渡ししながらかかわった。事例Bは渡された牛乳パヅクを積みあげたり振っ て音を立てたりする動作を繰り返した。. 母親は、事例Bの行動に対応した反応をするとともに、Table 13の大人の. 1、3、6、7、8のように事例Bの行動を「よいしょ」と言語化したり、 「かして一」 「聞こえないわ」 「聞こえた聞こえた」と、事例Bの発声する. であろうことばを代弁し、発声した。また、牛乳パックを振ったときに出る 音を「がらんがらん」と擬音語をつけ加え表現するなど、』聴覚刺激を頻繁に 与えた。. 事例Bは母親の発声や牛乳パヅクを振ったときにたてた音に気付いており、 Table 13の事例Bの1のように母親の発声によって牛乳パヅクを積んだり、. Table l3の事例Bの2の様に牛乳パヅクを振ったときの音を聞いて、手を伸 ばし牛乳パックをとったり、逆にTable 13の事例Bの6のように牛乳パヅク の音がしなかったことに対して首を傾げたりするなど、聴性行動は随所にみ られた。. また、大人からの一方的なかかわりが減少し、先に述べた照性行動に母親 が再び反応したり、Table 13の大人の発声の4のように「がらんがらん」と. 言って牛乳パヅクを振ることで、事例Bの興味や好奇心を引き出し、反応を 誘発する事によって交互作用を含んだやりとりが行われるようになった。. 一51一.
(54) Table l3 コミュニケーション行動. 事例B. 大 人 ノ. ・1,(M)「よいしょ、積んでいって、よい. / tr. しょ、よいしょ」と言いながら、 牛乳パヅクを積む。. レ. 1,牛乳パヅクを積む。*1. /2,{M)「がらんがらん」と言って、牛乳 ノ パヅクを振る。. 2,Mの方を見て#「あ一」と言VNx って牛乳パヅクを取る。*2. 、. )93,(M}「はい、はい、かして一やろ」と ノ x. 3,牛乳パヅクを積む。 4,別のパヅクを取り、振る。. ニ. 自つ。. ひ. 一>4,(M}「がらんがらん」と言う。. *3. 5,Mの持っている大きな箱を 》5, (M)「どうぞ一」と言う。. 取る。. 6,大きな箱を振り、首を傾げ《 巡6,(M)「あれ一ないわ、聞こえないわ」 と言う。. る。*4 7,牛乳パックを持って振る。 ・、. 巡7,(M}「がらんがらん、聞こえた」と言. *5. って、手を耳に持っていく。 8,別の牛乳パヅクを持って振・、. り、Mの方を見る。*6. \. 、. 逼8,(M)「聞こえた聞こえた、がらんがら んと言う。. (M}「ちょうだい」と言って、手を合 わせる」 9,後ろを見ている。 K 1・9,(M}「なに?」と言う。. 10,牛乳パヅクを持ち、振る。・、 巡10,(M)「がらんがらん」と言う。 *7. (Table 13の#は、質的変化の分析に使用した音声である。*は、大人とのやりと りのなかでBが聴性行動を示した部分である。) 一Xま交互作用を示す。. 一52一.
(55) Table l4聴性行動. NO,. 音刺激. 聴性行動. *1. Mの発声. 牛乳パヅクを積む。. *2. 牛乳パヅクの音. 牛乳パヅクを取る。. *3. 牛乳パヅクの音. 牛乳パヅクを振る。. *4. 音がしなかったこと. *5. 牛乳パヅクの音. *6. Mの発声. *7. 牛乳パヅクの音. 首を傾げる。. パンを差し出す。. パンをわたす。. 牛乳パヅクを振る。. ②発声・発語の量的変化∼自発的および模倣発声・発語回数の測定∼. Table l4の保育場面を含む3分間の自発的発声・発語回数は11回あった。 模倣発声・発語はみられなかった。. 一53一.
(56) 3}3時点(H7, 9, 26,2:2}. ①発声・発語の機能的変化∼コミュニケーション行動の変化∼. 3時点で行われた大人と、事例Bのやりとりは、Table 15に、その中で表 出した慢性行動はTab五e 16に示した。. この保育場面は、メガホンを使った遊びがテーマになっていて、事例Bを. 中心に、指導者1、指導者2の3人でかかわっている場面である。事例B、指 導者1、指導者2とも同じメガホンを持っている。事例Bはメガホンそのもの に興味を示している段階であり、メガホンの機能を十分に利用した遊びをす る段階で、メガホンの紐を触ったり、指導者のメガホンに自分のメガホンを 重ねたりする遊びを繰り返した。. 指導者1、指導者2は、事例Bの動作に対して対応した行動をとるとともに、 Tabユe 15の事例Bの3のように、メガホンの紐を触っている動作に対して、. 「くるくるくる」といって、事例Bの行動を言語化した。また、Table 15の. 事例Bの7のように、事例Bが自分のメガホンを指導者のメガホンに重ねた 行動に対して、指導者が2つのメガホンを指しながら、 「いっしょ、いっし. ょ」と発声し、事例Bが発するであろうことばを代弁した。さらに、メガホ ンで「お酷い」と呼びかけるなど、頻繁に聴覚的刺激を与えていた。. 指導者1、指導者2の与える音声刺激に対して、事例Bの行動が誘発される という聴性行動として同定できるものは少ないが、Table 15の大人の発声1. のように「お凹い」という呼びかけに対して、事例Bは「あ一」という発声 での反応が表出した。. やりとりは、ほとんどが事例Bの行動を捉えて、それを音声刺激に変えて 与えているという大人からの一方的なかかわりであった。. 一54一.
(57) Table l5 コミュニケーション行動. 事例B. 大 人 、・1,(T1)メガホンを口に当て、 「お一い」. ! 1,メガホンを目に当て、 「あく 一」と言う。*1 \. ノ. と言う。. x. 逼2,(Tl}メガホンを目に当ててBを見る。. 2,自分のメガホンをT1のメガ・ ホンに重ねる。 \. x. 逼3,(T2}T1とBのメガホンを指さしして、. 「いっしょいっしょ」と言う。 4,(T1)「Bちゃん」とメガホンで呼ぶ。 3,メガホンの紐をさわる。 ・、 》5,(T2)「くる、くる、くる」と言う。. 4,メガホンを鼻に当て「あ一ぐ jと吾う。*2 へ. x. XQ 6,(T2)Bのまぬをして「お一一い」と言う. 5開平搾T1のメガホンに\ N. 鳥7,(TD重なったメガホンで「お一い」と 言う。 / (Tl)「あれ?」と言う。. 6,メガホンをはずし、T1を見k て笑う。. 8,(Tl}「メガホンを口に当て「お一い」 と言う。 7,メガホンをT1のメガホンに・、. 重ねる。. ’. x. XQ 9,(T2)TlとBのメガホンを指さしして、. 「いっしょいっしょ」と言う。 (Tl}「いっしょやね一」と言う。 8,メガホンをT1のメガホンに・ 重ねる。 \. N. XQ 10,(Tl}「あれ?」と言う。’. 9,重ねたメガホンを押す。. ! 10,声を出して笑う。. ・、 》11,(Tl)押されて後ろにのけぞり、 「う 〆 わ一」と言う。. 〆. 12,(T1}「Bちゃん」とメガホンで呼ぶ 11,メガホンの紐をさわる。. (Table 15の*は、大人とのやりとりの中で、 Bが聴性行動を示した部分である。) rは交互作用を示す。 一一. 一55一.
(58) Table l6 聴性行動. 聴性行動. NO,. 音刺激. *1. Tの発声. (模倣)「あ一」と言う。. *2. Tの発声. (模倣)「あ一」と言う。. ②発声・発語の量的変化∼自発的および模倣発声・発語回数の測定∼. Table l6の保育場面を含む3分間の自発的発声・発語回数は、10回あっ た。模倣発声・発語は、5回あった。. 一56一.
(59) 4}4時点(H7,10,4,2:2). ①発声■’発語の機能的変化∼コミュニケーション行動の分析∼. 4時点で行われた大人と、事例Bのやりとりは、Table 17に、その中で表 出した聴性行動はTable 18に示した。. この保育場面は、ふえの音を聞いて、聞こえたら穴のあいた積み木を棒に. 通すという遊びがテーマになっている場面で、事例Bを中心に指導者、母親 の3人がかかわっている。. 指導者の吹くふえの音刺激をきっかけに、事例B、母親、指導者が穴にあ いた積み木を棒に通していく動作を繰り返している。事例Bはこの遊びのル ールを理解しており、ふえの音が聞こえるまでは、人差し指を口に当てる動 作を行い、音が聞こえるのを待って、音が聞こえたら積み木を一つ棒に通す という流れを繰り返している。. 指導者と母親は、事例Bの動作に対して対応した行動をとるとともに、積 み木を棒に通す際、積み木が落ちる音に合わせて「ポトン」という擬音語を. つけて動作を繰り返したり、Table 17の大人の発声の6のように事例Bの発 止するであろうことばを代弁したりして聴覚刺激を頻繁に与えた。. 事例Bは、ふえの音に気付いており、Table l7の事例Bの3、9のように ふえの音が聞こえたら積み木を棒に通す、Table 17の事例Bの7のように聞 こえなかったら笑うなどの動作での油性行動が表出した。. やりとりは、大人から事例Bへ、事例Bから大人への自然な交互作用が表 出した。. 一57一.
(60) Table l7 コミュニケーション行動. 事例B. 大 入. 1,「あ、あ」と言って積み木・ をさわる \ 曽1,(M)指を口に当てて「しい一」と言う. 2,指を口に当て、しい一の格ピ xx 好をする。*1. x. XQ 2,(M)指を口に当てて「しい一」と言う. 3,積み木を手に取り、棒に通∠. /3,(T)ふえを吹く。 一>4,(T)(M)「あ、聞こえたよ一」と言って. す。*2. 手を耳に当てる。 (T)「ひとつぽと一ん」と言う。 (M)「そこあいてるわ」と言う。 5,(M}「お母さんもぽと一ん」と言って 積み木を棒に通す。 (T)「ぽとん」と言って積み木を棒に 通す。. 4,積み木に手を伸ばす。. 》5,(M)「待って、待って、まだ聞こえて. 5,「あ、あう一」と言って棒e へ に通っている積み木を指さ ’ し、見る。. ないよ」と言って手を振る。 、、. 為6,(M)「あ、ここ1っ、1つやね」と言. って指で1を示す。 ・7,(M}「Bちゃん、しい一」と言って指 / を口に当てる。 /! (T}口に手を当てて「しい一」と言う 6,指を口に当て、しい一の格G ノ. 好をする。*3へ. ’ 38,(T}ふえを吹くまねをする。. 7,Tの顔を見て笑う。*4. el. 独9,(T)Bの顔を見て笑う。 (M)「ないな一」と言う。 (T)「ないね一」と言う。 8,指を口に当て、. しい一の格・、. 好をする。*5. (M}「先生吹いてないわ、きこえない わ」と言う。 Ns 10,(T)(M)「しい一」と言って指を口に. 当てる。 9,積み木を持つ。*6. ぐ. 一li,(T}ふえを吹く。. (Table l7の*は、大人とのやりとりの中で、 一一. ヘ交互作用を示す。. 一58一. Bが聴性行動を示した部分である).
(61) Table 18 聴性行動. Nb,. 音刺激. *1. Mの発声. *2. ふえの音. *3. T,Mの発声. *4. ふえの音が. 聴性行動. (模倣)「しい一」の格好をする。. 積み木を手に取る。. (模倣)「しい一」の格好をする。. Tの顔を見て笑う。. 聞こえないこと. *5. ふえの音. 「しいご」の格好で. 音を聞こうとする。. *6. ふえの音. 積み木を手に取る。. ②発声・発語の量的変化∼自発的および模倣発声・発語回数の測定∼ Table 18の保育場面を含む3分間の自発的発声・発語回数:は6回あった。. 模倣発声・発語回数は12回あった。. 一59一.
(62) 4)補聴器装用に関わる諸条件 事例Bの調査時期におこなった聴力検査の結果は、Table l9に示したとお りである。なお、聴力検査は何れも担任教師が、聾学校の聴力検査室にて実 施している。. Tab工e 19の縦列は調査時点を表し、横列は検査周波数ごとの測定値を表し. ている。この値はすべて補聴器を装用した状態での値である。事例Bは高度 難聴に分類される。. Table l9によるとだいたいの傾向としてH7.4.20の結果と比べて、おおむね 補聴閾値は上昇しているとみて良い。 語彙、会話帯に重要な影響を持つ500,1000,2000Hzが会話帯域に入ってきて いる。. Table 19 聴力検査結果. 検査時点. 500Hz 1000Hz 2000Hz 4000Hz. H7, 4, 20 (1:1i). 76dB. 68dB. 78dB. 72dB. H7, 6, 9 (1:11). 76dB. 73dB. 75dB. 63dB. H7, 8, 9 (2:2). 75dB. 71dB. 76dB. 85dB. H7, 8, 24 (2i2). 67dB. 58dB. 66dB. 73dB. 一60一.
(63) 3.事例Cの補聴器装用による行動の変化. 1)発声の質的変化. 事例Cの場合も個別保育中の発声・発語を採集するよう他の2事例と同様の準 備をしていたが、本研究の調査時点においては、笑い声、泣き声、叫び声以外に 発声・発語発語はみられなかった。感情表出は主として笑い声、泣き声で表すこ とが多く、また要求行動はクレ■・・一■ン現象や指さしですませていた。このために.3. 時点間の発声・発語の変化を比較するための音声サンプルの採集は不可能であっ た。さらにまた、各時点内の変化を比較するための音声サンプルの採集も不可能 であった。. この結果、事例Cについては発声・発語を質的変化の分析は実施できなかった。. 2)発声・発語の機能的変化および量的変化. 1}1時点(H7,6,7, l18). ①発声及び、発声の変化に関する行動の機能的変化. 2時点で行われた大人と、事例Cのやりとりは、Table 21に、その中で表 出した聴性行動はTabユe 22に示した。. この保育場面はままごとごっこがテーマになっていて事例Cを中心にして 母親と指導者がかかわっている場面である。事例Cはまだ材料を集めて、お 鍋やレンジを使って、仕上げていくといったような一連の動作はできておら ず、手元にあるスパゲティや目玉焼き、パン、ご飯といったものを茶碗や皿. 一61一.
図
+7
関連したドキュメント
Denison Jayasooria, Disabled People Citizenship & Social Work,London: Asean Academic Press
現在入手可能な情報から得られたソニーの経営者の判断にもとづいています。実
いかなる保証をするものではありま せん。 BEHRINGER, KLARK TEKNIK, MIDAS, BUGERA , および TURBOSOUND は、 MUSIC GROUP ( MUSIC-GROUP.COM )
2020 年 9 月に開設した、当事業の LINE 公式アカウント の友だち登録者数は 2022 年 3 月 31 日現在で 77 名となり ました。. LINE
6 Baker, CC and McCafferty, DB (2005) “Accident database review of human element concerns: What do the results mean for classification?” Proc. Michael Barnett, et al.,
②防災協定の締結促進 ■課題
また、視覚障害の定義は世界的に良い方の眼の矯正視力が基準となる。 WHO の定義では 矯正視力の 0.05 未満を「失明」 、 0.05 以上
在宅の病児や 自宅など病院・療育施設以 通年 病児や障 在宅の病児や 障害児に遊び 外で療養している病児や障 (月2回程度) 害児の自