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大学新入生を対象とした傾聴スキルに関する心理教育の効果

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(1)

大学新入生を対象とした傾聴スキルに関する心理教

育の効果

著者

堀 匡, 吉武 清實, 池田 忠義, 佐藤 静香

雑誌名

東北大学高等教育開発推進センター紀要

6

ページ

71-78

発行年

2011-03

URL

http://hdl.handle.net/10097/57543

(2)

1 .はじめに

(1)学生相談活動における予防教育 近年の少子化・高学歴化の影響で,大学進学率は年々 上昇しており,平成17年以降は,大学および短期大学 への進学率が50%を上回っている1).「全入時代」と 言われるように,ほとんどの青年が「大学生」を経験 する時代に突入し,学生の多様化が急速に進んでいる. 今後は,多様な学生の様々な訴えにどのように対応し, 彼らが健全な大学生活を送れるようにいかに支援して いくかということが,学生支援における重要な課題の 一つとなる.そのような中,学生支援に関わる学生相 談機関には,問題を抱えて来談に至った学生への個別 対応だけでなく,より多くの学生を対象とした不適応 の予防のための教育的取り組みの必要性が求められて いる. 学生全般への不適応予防の教育的な取り組みとし て,筆者ら東北大学学生相談スタッフは,平成15年度 から,「学生生活概論」を開講している2).この授業は, 全学部の 1 年生を対象とした教養科目であり,日々の 相談所活動の中で得た知見をより多くの学生に還元 し,学生が大学生活の中で出会うおそれのある問題へ の予防・対処ができるようにすることを意図した,予 防教育である2).予防教育的授業は,大人数の学生を 対象とするため講義形式を主とする場合が多いが3) 本研究は,体験的要素を取り入れた心理教育的授業を 実施し,その効果を検討するものである. (2)心理教育的授業のテーマ設定 大学生の不適応の予防に寄与しうる要因の一つに ソーシャルサポートがあげられる.ソーシャルサポー トとは,「ある個人を取り巻く様々な他者からの有形・ 無形の支援」を指すものである4).従来の研究から, ソーシャルサポートは,ストレスに対するとらえ方を 変化させ5),適応的なストレス対処行動を促進する6) などの効果を有することが報告されており,多くのサ ポートを有する者は,ストレス負荷が高い状況におい ても精神的健康状態を保つことができるとされる.わ が国の大学生を対象とした研究においても,親しい友 人や家族からのサポートは精神的健康状態の維持や向 上に効果があることが明らかにされている4, 7).また, 援助要請行動の研究においては,ソーシャルサポート の多い人は,少ない人に比べて,問題を抱えた場合に, カウンセリングや心理療法などの専門的援助を受ける ことに対しても肯定的であることが示されている8) 以上のことから,大学生のソーシャルサポートを高め るような心理教育を実施することは,大学生のストレ ス耐性を高めるとともに,必要な専門的援助資源の活 用を促し,大学生活への適応につながると考えられる. ソーシャルサポートを高めるためには,当事者の他 者へのサポート提供を促進させることが重要となる. なぜなら,ソーシャルサポートは日常的な対人相互作 用の結果として生じるものであり,他者への積極的な サポート提供は,提供した相手のサポート返報行動を 促進させたり,必要な場合に相手にサポートを要求し 易い良好な人間関係を維持したりすることにつながる からである.これまでの研究においても,個人のサポー ト提供量と受容量との間には正の関連があること9) や,情緒的サポートを上手に提供する能力の欠如は, 他者との間に葛藤関係を生じさせ,個人がサポートを 必要とする際に適切な要求が困難になることを示唆す

論  文

大学新入生を対象とした傾聴スキルに関する心理教育の効果

堀     匡

1)*

,吉 武 清 實

1)

,池 田 忠 義

1)

,佐 藤 静 香

1) 1 )東北大学高等教育開発推進センター学生相談所 *)連絡先:〒980-8576 宮城県仙台市青葉区川内41 学生相談所 [email protected]

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る報告が認められている10) これらの研究結果を受けて,堀11)は,サポート提 供とソーシャルスキルとの関連について検討した. ソーシャルスキルとは,対人場面において適切かつ効 果的に反応するために用いられる,言語的・非言語的 な対人行動と,そのような対人行動の発現を可能にす る認知過程との両方を包括する概念であり12),他者へ の効果的なサポート提供においては不可欠な要因であ る.堀11)の研究では,大学生を対象に,どのような 種類のソーシャルスキルが,家族や親しい友人へのサ ポート提供を促進しうるかについて,質問紙調査を用 い,探索的に検討している.調査の結果,個人の「関 係維持スキル」と「記号化スキル」の高さは,家族と 親しい友人へのソーシャルサポート提供量の多さと正 の関連を示し,さらに家族や親しい友人へのサポート 提供の多さを介して,それぞれのサポート源からのサ ポート受容量をも増加させうることが明らかとなっ た.「関係維持スキル」とは,相手との関係を維持す るために他者を受容したり,支持したりする言動であ る.また,「記号化スキル」とは,コミュニケーショ ンの過程において,個人が相手に自らの意思を伝える ための非言語的な行動である.これらのスキルの向上 について,堀11)はカウンセリングの領域で扱われる 積極的な傾聴スキルの習得が有用であることを示唆し ている.積極的な傾聴スキルとは,相手の話をよく聞 き,どのような人であっても批判することなく受容し, 共感的に接する関わり方である.このような関わり方 は,人間関係の最も初歩的かつ重要なスキルであり, 信頼感の形成を促進し,相手との関係を安定させる効 果を有する14)とされる.近年では,カウンセリング の分野だけでなく,非専門家における人間関係(例え ば,上司と部下など)の改善においても適用され,効 果をあげている13).積極的な傾聴スキルの訓練は,相 手の言ったことをそのまま反射して返したり,相槌を 打ちながら相手の話に関心があることを示すなどのい くつかの言語的・非言語的サブスキルの習得から構成 されている.これらのスキルの習得は,相手を受容・ 支持するための言動や,非言語的なレベルでの相手へ のポジティブな意思表示を強化させるため,「関係維 持スキル」や「記号化スキル」を高め,他者へのサポー ト提供の促進につながることが予想される. (3)本研究の目的 そこで本研究では,大学生を対象に,積極的な傾聴 スキルに関する心理教育を実施し,傾聴スキルに関す る知識,関係維持スキル,記号化スキル,および家族・ 親しい友人へのサポート提供における効果について検 討することを目的とする.また,心理教育の内容評価 と改善点についても併せて検討する.

2 .方法

参加者 筆者らが担当している授業である「学生生 活概論」の受講生を対象とした.本授業は,全学教育 科目(総合科学群カレントトピックス科目)の 1 つと して開講されている.2010年 6 月 1 日の授業テーマを 「コミュニケーションスキル①―『話を聴く』力をつ ける―」と題し,積極的な傾聴スキル習得のための心 理教育を実施した.効果評価の測定のために,授業実 施前(プリテスト)と授業実施の翌週の授業終了後(ポ ストテスト)に質問紙調査を行った.効果評価の測定 に関しては,授業のはじめに,①効果評価のための質 問紙への回答は任意であること,②回答しないことで 不利益を被ることはないこと,③いったん同意しても 途中で同意を撤回することができること,④調査紙は 無記名で回答し,得られた結果は統計的に処理される ため,個人のプライバシーが侵害されることはないこ とを説明し,参加者の同意を得た.授業を受講し, 2 回の調査に回答した学生は,135名であり,そのうち 回答に不備のあったもの, 2 年生以上のものを除外し た112名をデータ解析の対象とした. 授業の概要 まず,対人関係において上手なタイプ の人と下手なタイプの人(攻撃タイプ,引っ込みタイ プ)がいることを,それぞれのタイプの特徴をあげて 説明した.次に,上手な人と下手な人の違いを分ける 重要な要因として,コミュニケーションにおけるソー シャルスキルという考え方についての説明を行った. 具体的には,コミュニケーションは,技術(スキル) として学ぶことができることを説明し,訓練で上達す る部分がある点を強調した.そして,言語的コミュニ ケーションと非言語的コミュニケーションそれぞれに

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おいて効果的なコミュニケーションスキルを知識とし て獲得し,意識して使用することの重要性を述べた. この後,本日の授業テーマとして,人間関係の最も 初歩的で,重要なスキルである,人の話を上手に聴く ための傾聴スキルを学ぶことを伝え,傾聴スキルの構 成要素別に詳細な説明を行った.傾聴スキルの構成要 素としては,「受容的態度」,「話すきっかけを与える こと(効果的な質問)」,「反射させながら聴くこと」, 「身体を使って聞くこと」,「相手のしぐさを読み解く こと」の 5 つを取り上げた.これらの構成要素とその 説明は,相川14)を参考にした. 「受容的態度」に関しては,①相手の話を途中で遮 らないこと,②話題を変えないこと,③相手の話に対 して道徳的判断や倫理的判断をしないこと,④話し手 の感情を否定したり,否認したりしないこと,⑤相手 に時間的圧力をかけないことの 5 点について,順に具 体例や,具体的な対話場面を取り上げて例示し,コミュ ニケーションに及ぼす効果について説明した.「話す きっかけを与えること(効果的な質問)」に関しては, コミュニケーションにおいて 2 タイプの質問方法(開 かれた質問と閉じた質問)があることをそれぞれ具体 的な対話場面を取り上げて説明し,「開かれた質問」 には,会話を促進させるための機能や相手の話題に関 心を示す機能があることを強調した.そして, 2 つの 対話場面を提示し,それぞれについてどのような「開 かれた質問」が可能かについて参加者に考えさせ,指 定のシートに記入させた.記入後,周囲の人と話し合 わせ,他者の質問の仕方をモデリングしたり,質問を 練習したりするための時間を設けた.その後,筆者ら が解説を加えた.「反射させながら聴く」に関しては, 相手の感情に焦点を当て,相手の言った言葉をそのま ま返しながら聴く方法や,より高度な反射として相手 の話を要約し,返す方法について説明した.そして, 2 つの対話場面を提示し,それぞれについて,反射の 技法を使ってどのように応答するか参加者に考えさ せ,指定のシートに記入させた.記入後,周囲の人と 相談し,他者の応答の仕方をモデリングしたり,技法 を練習したりするための時間を設けた.その後,筆者 らが解説を加えた.「身体を使って聴く」に関しては, 相手の話を,肯定的感情を持って聴いていることを表 現するための非言語的スキルについて説明した.具体 的には,姿勢,視線,リラックスしていること,うな ずきや相槌を入れること,表情や声のトーンに関する 注意点を,具体例を挙げて説明し,コミュニケーショ ンに及ぼす効果について解説した.「相手のしぐさを 読み解く」に関しては,コミュニケーションにおいて 相手の表情や声のトーンなど非言語的側面の注目すべ きポイントについて説明した.そして, 2 人の人物の 表情を提示しそれぞれ,どのような感情を示している か,どのような言葉をかけることが効果的なという点 について参加者に考えさせ,指定のシートに記入させ た.記入後,筆者らが解説を加えた. 効果評価の指標 効果評価の指標として,以下のよ うな質問項目を取り上げた. 知識項目 傾聴のための知識を問う項目を 4 項目作 成し,使用した.本項目は,すべて 4 つの選択肢から 正しい答えを選択する回答方法であった(項目例「人 の話を聴く(傾聴する)ための態度として適切でない ものを 1 つ選んでください」).正解は 1 点,不正解は 0 点で得点化し,得点が高いほど正確で多くの知識を 有することを示す. ソーシャルスキル 成人用ソーシャルスキル自己評 定尺度15)のうち,「関係維持」( 4 項目),「記号化」( 4 項目)の 2 下位尺度を使用した.それぞれの項目に対 して該当する程度を「ほとんどあてはまらない( 1 点)」 ~「かなりあてはまる( 4 点)」の 4 件法で評定する ものである.得点が高いほど,各スキルが高いことを 示す.Cronbachのα係数を算出したところ,すべて α=.70以上を示し,データ解析においては許容できる 範囲にあると考えられた. サポート提供 福岡16)のソーシャルサポート測定 尺度を,サポート提供を問う項目として適切な表現に なるよう各項目の一部を修正して用いた.具体的には, 各項目の先頭に「相手が」という表現を加え,回答者 がサポート提供者としての立場であることを認識しや すいように修正した(項目例 相手が落ち込んでいる とき,元気づける).サポート源として,家族と親し い友人を設定し,各サポート源との関係において,そ れぞれの項目のようなサポートを普段どの程度してあ げているかについて「全くあてはまらない( 1 点)」

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~「非常によくあてはまる( 5 点)」の 5 件法で評定 した(全 9 項目).得点が高い方が多くのサポート提 供をおこなっていることを示す.Cronbachのα係数 を算出したところ,いずれもα=.90以上を示し,高い 内的整合性が確認された. 授業評価に関する項目 授業終了後に以下の(a) ~(d)の項目について,それぞれ 5 件法で回答を求 めた.(a)授業への関心度(今日の授業にどの程度興 味を持てましたか:1 .全く興味を持てなかった, 2 . あまり興味を持てなかった,3 .どちらともいえない, 4 .ある程度興味を持てた,5 .かなり興味を持てた), (b)授業の難易度(今日の授業はどの程度難しかっ たですか: 1 .非常に難しかった, 2 .少し難しかっ た, 3 .ちょうど良い, 4 .やや易しかった, 5 .非 常に易しかった),(c)授業の有益さ(今日の授業は, 今後役に立ちそうですか:  1 .全く役に立ちそうに ない, 2 .あまり役に立ちそうにない, 3 .どちらと もいえない, 4 .ある程度役に立ちそう, 5 .かなり 役立ちそう),(d)不安や心配の変化(授業を聞いて, あなたの不安や心配に変化はありましたか: 1 .かな り増えた, 2 .ある程度増えた, 3 .変化なし, 4 . ある程度減った, 5 .かなり減った).また,授業に 関する感想を自由記述にて回答を求めた. データ解析 各効果評価指標のプリテストとポスト テストの得点比較(対応のあるt検定)を行った.また, 授業評価に関する項目について集計を行った.データ 解析には,統計ソフトSPSS Statistics 19.0(IBM)を 用いた.

3 .結果

1 )効果評価の指標について t検定の結果を表 1 に示した.知識,家族へのサポー ト提供において,有意差が認められ(t(111)=10.71,  p<.001; t(111)=2.48, p<.05),いずれもプリテスト の得点に比べてポストテストの得点が有意に高かっ た.また,記号化スキル,親しい友人へのサポート提 供においては,傾向差が認められ(t(111)=1.95,  p<.10; t(111)=1.73,p<.10),いずれもプリテストの 得点に比べてポストテストの得点が高かった.一方, 関係維持スキルにおいては,統計的に有意な変化が認 められなかった(t=0.52, n.s.). 2 )授業評価項目の集計 授業評価に関する項目の集計結果を図 1 ~ 4 に示し た. (a)授業への関心度については,「ある程度興味を 持てた」と回答した参加者が56名(50%),「かなり興 味を持てた」と回答した参加者が47名(42%)であり, 9 割以上の参加者が興味を持って取り組んでいた.一 方,「どちらともいえない」と回答した参加者は, 5 名( 4 %)存在し,「全く興味を持てなかった」,「あ まり興味を持てなかった」と回答した参加者はいな かった. (b)授業の難易度については,「ちょうど良い」と 回答した人が過半数(73名)を占め(63%),「やや易 しかった」と回答した人が13名(12%),「非常に易し かった」と回答した人が 9 名( 8 %)であった.一方, 表 1  受講前後における効果評価指標の平均値の比較 得点範囲 講義開始前  (プリテスト) (ポストテスト)受講後1週間後  t値 (両側検定) 平均値 SD 平均値 SD 知識 0~4 2.27 1 3.45 0.77 10.71*** 関係維持スキル 4~16 11.38 1.83 11.46 1.72 0.52 記号化スキル 4~16 9.96 2.28 10.25 2.29 1.95† 家族へのサポート提供 5~45 27.76 7.73 28.73 8.64 2.48*** 親しい友人へのサポート提供 5~45 32.62 5.95 33.35 6.41 1.73† †p<.10,*p<.05,**p<.01,***p<.001

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15名(13%)が「少し難しかった」と回答した.「非 常に難しかった」と回答した参加者はいなかった. (c)授業の有益さについては,「ある程度役に立ち そう」と回答した人が52名(46%),「かなり役立ちそ う」と回答した人が44名(39%)であり, 9 割以上の 参加者が何らかの役に立つと感じていた.一方,きわ めて少数ながら,「全く役に立ちそうにない」,「あま り役に立ちそうにない」と回答した参加者が合わせて 3 名( 3 %)存在し,「どちらともいえない」と回答 した参加者が 8 名( 7 %)存在した. (d)不安や心配の変化については,「ある程度減った」 と回答した人が過半数(64名)を占め(57%),「かな り減った」と回答した人が 8 名( 7 %)であった.一 方,変化なしと回答した人が35名(31%)存在し, 1 名( 1 %)のみが,「ある程度増えた」と回答した.「か なり増えた」と回答した参加者はいなかった.

4 .考察

本研究は,大学生を対象に,積極的な傾聴スキルに 関する心理教育を実施し,その効果について検討する ことを目的とした. 1 )効果の検討 分析結果から,①積極的な傾聴に関する知識が向上 し,②家族へのサポート提供量に増加が認められた. また,③記号化スキルが向上し,④親しい友人へのサ ポート提供量が増加する傾向が認められた.しかし, 関係維持スキルには統計的に有意な変化は認められな かった. 積極的な傾聴に関する知識への効果について 心理 教育の受講により,積極的な傾聴スキルに関する知識 向上の効果が認められた.授業評価の難易度において は,「非常に難しかった」と評価した参加者はおらず, 図 1  (a)授業への関心度 無回答 4% どちらともいえない 4% ある程度 興味を持 てた 50% かなり興 味を持て た 42% 図1 (a)授業への関心度 図 2  (b)授業の難易度 無回答 4% 少し難し かった 13% ちょうど良 い 63% やや易し かった 12% 非常に 易しかっ た 8% 図2 (b)授業の難易度 図 3  (c)授業の有益さ 無回答 5% 全く役に 立ちそう にない 1% あまり役 に立ちそ うにない 2% どちらとも いえない 7% ある程度 役に立ち そう 46% かなり役 に立ちそ う 39% 図3 (c)授業の有益さ 図 4  (d)不安や心配の変化 無回答 4% ある程度 増えた 1% 変化なし 31% ある程度 減った 57% かなり 減った 7% 図4 (d)不安や心配の変化

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多くの参加者にとって(83%),「ちょうど良い」もし くは「易しい」と評価されていた.このことから,本 授業の内容は比較的わかりやすく構成されていたと言 え,そのことが知識の向上につながったと考えられる. 特に授業においては,日常的な具体例や具体的な対話 場面を多く取り上げるように心がけたが,このような 工夫は,わかりやすさを高めた可能性がある. ソーシャルスキルへの効果について 心理教育の受 講により,記号化スキルを向上させる効果があること が示唆された.参加者の感想からは,「非言語的スキ ルの重要性も改めて感じた.よく考えてみると,相手 の表情や声のトーンは時によっては話している内容以 上に強い印象を受けることがあるな,と思う」(S40)注) や「非言語的なメッセージが相手に与える影響はとて も大きいと思った.やたら目をそらす人は,自分の話 に興味があるのだろうかと思うし,反対に目を見てう なずいてくれる人には,より話を広げたいと思う」 (S 5 ),「言葉にどれだけ力を持たせるのかは,非言 語的スキルに多くの割合を占めているのだと思いまし た」(S116)のような報告が認められた.このような 報告から,本授業で,普段意識しないコミュニケーショ ンの非言語的な側面に注目したことにより,参加者が その重要性の認識を高めたと考えられる.そして,非 言語的メッセージの重要性の認識の高まりから,参加 者は相手への支持や肯定的な感情を非言語的なメッ セージとしても意識して表現していくことを心がける ようになり,記号化スキルの向上につながったと推察 される.このことは,「非言語的メッセージへの注意, 話を聞く態度などに気を付けて,好意,自分の意見, 表情,感情,配慮などを表現して相手になるべく伝え るようにして,友達と友好関係を作り上げていきたい と思います」(S89)のような参加者の感想からもう かがえる. 一方,関係維持スキルに関しては統計的に有意な向 上は認められなかった.関係維持スキルは,相手との 関係を維持するために他者を受容したり,支持したり する言動であるが,測定項目の中には,「まわりの人 たちとの間でトラブルが起きても,それを上手に処理 できる」という対人葛藤処理に関する項目も含まれて いた.したがって,本研究で実施した傾聴スキル獲得 のための心理教育の効果は,関係維持スキル全般の向 上としては反映されにくかったと考えられる. サポート提供への効果について 心理教育の受講に より,家族および親しい友人へのサポート提供を促進 させる効果があることが示唆された.積極的な傾聴ス キルに関する知識の向上や記号化スキルの高まりによ り,参加者が,他者への関わりにおいて,援助的な行 動,特に非言語的な側面の行動を意識して実行するよ うになったためと考えられる.参加者の回答からも, そのことはうかがわれ,「これからはコミュニケーショ ン能力が重要になる機会が多くなるので,今回の授業 で学んだことを活かして,コミュニケーションがうま く取れるようになりたいと思う」(S 6 )のように, 多くの学生が,受講後の感想において,学習したスキ ルを日常生活に適用させたいと回答していた. 2 )授業評価の検討 (a)授業への関心度について  9 割以上の学生が興 味を持って受講しており,大学生活への適応において 本授業のテーマが参加者のニーズに合致したもので あったと言える.これまでの研究から,「対人関係」は, 大学生の主要な悩みの一つに挙げられており,学生相 談所などの相談機関に寄せられる相談件数も多いこと が報告されている17).これらの事を考慮すると,円滑 な対人関係を築く基盤となるソーシャルスキルについ て体験的に学習できる心理教育的授業は,大学生の不 適応の予防を目標とする際に重要な取り組みとなりう ると考えられる. (b)授業の難易度について 先述のとおり,多く の参加者にとって(83%),「ちょうど良い」もしくは 「易しい」と評価されており,本授業の内容は比較的 わかりやすく構成されていたと言える.しかし,少数 ながら「少し難しかった」と回答している参加者も存 在した(13%).そこで,「少し難しかった」と回答し た参加者の授業後の感想を見てみると,「もともと自 分は昔から人とコミュニケーションをとることがあま り上手ではなかった」(S40)や,「私自身,あまりコミュ ニケーションが得意なほうではなかった」(S106)の ように元来からコミュニケーションの苦手意識のやや 強い参加者が多く含まれていた(10名,67%).コミュ

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ニケーションの苦手意識の強い人にとっては,ソー シャルスキルを知識として学んでも実生活でどのよう に実行すればいいのかという点に不安を抱きやすく, それゆえ本授業も少し難しく感じたと推察される.こ のような参加者が含まれていることを考慮すれば,ス キルの実行に関わる学習をもう少し授業内容に加えて いく必要があるかもしれない.具体的には,実践的な ワーク部分の課題を追加したり,隣の席の人同士ペア になって,現実場面でのやり取りを模擬練習する課題 を取り入れるなどの工夫が考えられる. (c)授業の有益さについて  9 割以上の学生が何ら かの役に立つととらえており,本授業の内容が,学生 生活の不適応予防に有益なテーマであったことがうか がわれる.また,授業への関心度の高さと合わせて考 えると,このように有益であると評価した人の割合が 非常に高かったことについては,本研究の参加者が新 入生に限定されていたことも影響している可能性があ る.大学新入生は,新しい環境に移行し,新規の対人 関係を形成していく必要に迫られる.そのため,対人 関係形成・維持に効果的なソーシャルスキルに関する 授業は,現在直面している問題に直結する情報であり, その有益性が実感されやすかったと考えられる. (d)不安や心配の変化について 半数以上の参加 者(64%)が,不安や心配が減じたと評価しており, 本授業は,比較的多くの学生にとって大学生活への不 安軽減の効果を有することが示唆された.参加者の感 想には,「本日の授業を受け,コミュニケーションス キルについての考えが大きく変わった.それは,コミュ ニケーションスキルというのは,もともとの性格とは 異なって,努力しだいで上達する,ということだ」(S37) や「コミュニケーションスキルは練習次第で鍛えられ るということには何か希望感のようなものをもらった 気がする」(S46)のような報告が多く見受けられた. このことから,ソーシャルスキルという概念を学んだ ことにより,参加者は,コミュニケーションには練習 によって改善できる部分があるという安心感や希望感 を持つことができ,不安や心配の低減につながったと 考えられる.

5 .おわりに

対人関係に関するスキルの学習などは少人数の体験 型のグループワーク形式をとって実施されることが多 いが,人数が比較的多い本授業においても,ワークシー トを導入するなどの実施上の工夫を取り入れること で,実施可能であることが示唆された.このような体 験的要素を取り入れた心理教育的授業実施の結果,積 極的傾聴に関する知識の向上,記号化スキルの増加, 家族および親しい友人へのサポート提供の促進の効果 を有することが明らかとなり,予防教育としての有効 性が一部実証されたといえる.   しかしながら,今後の課題として以下の 2 点があ げられる. 1 点目は,「記号化スキル」および「親し い友人へのサポート提供」への効果が傾向差にとど まった点である.学習したスキルの定着を図るために は,ホームワークとして,簡単なワークを課すなどの 工夫が必要であると考えられる.例えば,日常生活に おけるスキル実行の程度を一定期間モニタリングして きてもらうなどの課題は,参加者のスキル実行への意 識を高め,定着を促すと考えられる. 2 点目は,統制 群の設定に関する問題である.本研究は,教養科目の 授業の一テーマとして実施したため,統制群を設定す ることができなかった.知識やスキルの向上が心理教 育受講の効果であることをより明確にするためには, 今後,統制群を設けた比較実験により厳密に検討する 必要がある. 注) 鉤括弧(「 」)の後の(S番号)は,回答した学生 の番号を示すものである. 付記 本研究は文部科学省科学研究費補助金(課題番号: 21730553)の助成を受けて行われた. 引用文献 1 ) 内閣府.子ども・若者白書(平成22年度版).http:// www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h22gaiyoupdf/ index_pdf.html 2010 2 ) 長尾裕子,吉武清實,池田忠義,高野明,佐藤静香. 予防教育としての講義「学生生活概論」の意義に関

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