ペプチド固相合成法を用いるJBIR-126の全合成、原
発性アルドステロン症の迅速診断を指向したカリク
レイン検出法の開発、およびペイロードMonomethyl
auristatin Eの合成研究
著者
大山 皓介
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第19195号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00129250
博士論文
(要約)
ペプチド固相合成法を用いる
JBIR-126 の全合成、
原発性アルドステロン症の迅速診断を指向した
カリクレイン検出法の開発、
およびペイロード
Monomethyl auristatin E の合成研究
令和元年度
東北大学大学院
薬学研究科
分子薬科学専攻
大山
皓介
ペプチド固相合成法を用いるJBIR-126 の全合成、原発性アルドステロン症の迅速診断を指 向したカリクレイン検出法の開発、およびペイロードMonomethyl auristatin E の合成研究
反応制御化学分野 B7YD1002 大山 皓介
本論文では固相法を用いた生物活性新奇鎖状ペプチド JBIR-126
の全合成、Pro-Phe-Arg-pMA を用いたカリクレインの電気化学的検出法の開発、Monomethyl auristatin E の合成研究
に関する研究成果について論述している。
第一章「序論」では近年の創薬研究の現状と非天然型含有アミノ酸を用いた創薬の有用性 について述べている。また、高血圧関連疾患である原発性アルドステロン症診断法の重要性 について述べ、電気化学的手法が迅速診断を可能にすることについて触れ、その開発の重要 性を明らかにしている。さらに、抗体薬物複合体 (ADC 薬)について概説し、ADC 薬の課題 とMonomethyl auristatin E (MMAE)を固相法により合成する意義と目的を明らかにしている。
第二章「ペプチド固相合成法を用いたJBIR-126 の全合成」では液相法を用いた JBIR-126 の合成経路の確立と誘導体合成を指向したJBIR-126 の固相合成について述べている。JBIR-126 (1)は非天然型アミノ酸であるa-メチルセリンおよびピロリジノグリシンを含む中分子 鎖状ペプチドである (Figure 1)。1 は白血病細胞に対して弱いながら毒性を示すのに対し、 ピロリジン環を持たない JBIR-34 (4)は細胞毒性を示さないことから、活性発現にはピロリ ジノグリシン部位が必須であることが示唆される。著者は、1 の生物活性および構造的特徴 に興味をもち、誘導体合成を可能とする合成経路の確立を目的に1 の全合成を行なった。 2,6-ジトロトルエンを出発原料に 7 工程の変換を経て、インドール 7 を合成した。続いて、
7 に対する TFAA を用いた Friedel-Crafts 型アシル化と、NaH-水を用いた加水分解により、
所望のインドール-3-カルボン酸 8 を調製した。次に、別途不斉合成したa-メチルセリン誘 導体を縮合した後、オキサゾリン環を構築することで目的の 9 を合成した。また、ピロリジ ノグリシン部位の合成は Hanessian らが報告している手法を参考に、次のように行った。す なわち、Cbz-D-プロリンより 3 工程の変換で得たメチルエステル 11 に対して、a位の立体 選択的な酸化と光延反応を用いたアジド基の導入、続く還元と Boc 基による保護を行うこ とで12 へと導いた。最後に、別途調製したa-メチルセリン誘導体と縮合することで、ジペ プチド13 を得ることができた。得られた 13 に対し 9 を縮合することで 14 とし、全ての保 護基を加水素分解により除去することで、目的とする1 の全合成を達成した (Scheme 1)。 (Figure1) HO Cl N N O NH H N O OH O OH O NH HO Cl N N O NH OR O O NH R = H, JBIR-148 (2) R = Me, JBIR-149 (3) HO Cl N N O NH H N O OH O OH O H JBIR-126 (1) R R = Me, JBIR-34 (4) R = H, JBIR-35 (5)
ペプチド固相合成法を用いるJBIR-126 の全合成、原発性アルドステロン症の迅速診断を指 向したカリクレイン検出法の開発、およびペイロードMonomethyl auristatin E の合成研究
反応制御化学分野 B7YD1002 大山 皓介
本論文では固相法を用いた生物活性新奇鎖状ペプチド JBIR-126
の全合成、Pro-Phe-Arg-pMA を用いたカリクレインの電気化学的検出法の開発、Monomethyl auristatin E の合成研究
に関する研究成果について論述している。
第一章「序論」では近年の創薬研究の現状と非天然型含有アミノ酸を用いた創薬の有用性 について述べている。また、高血圧関連疾患である原発性アルドステロン症診断法の重要性 について述べ、電気化学的手法が迅速診断を可能にすることについて触れ、その開発の重要 性を明らかにしている。さらに、抗体薬物複合体 (ADC 薬)について概説し、ADC 薬の課題 とMonomethyl auristatin E (MMAE)を固相法により合成する意義と目的を明らかにしている。
第二章「ペプチド固相合成法を用いたJBIR-126 の全合成」では液相法を用いた JBIR-126 の合成経路の確立と誘導体合成を指向したJBIR-126 の固相合成について述べている。JBIR-126 (1)は非天然型アミノ酸であるa-メチルセリンおよびピロリジノグリシンを含む中分子 鎖状ペプチドである (Figure 1)。1 は白血病細胞に対して弱いながら毒性を示すのに対し、 ピロリジン環を持たない JBIR-34 (4)は細胞毒性を示さないことから、活性発現にはピロリ ジノグリシン部位が必須であることが示唆される。著者は、1 の生物活性および構造的特徴 に興味をもち、誘導体合成を可能とする合成経路の確立を目的に1 の全合成を行なった。 2,6-ジトロトルエンを出発原料に 7 工程の変換を経て、インドール 7 を合成した。続いて、
7 に対する TFAA を用いた Friedel-Crafts 型アシル化と、NaH-水を用いた加水分解により、
所望のインドール-3-カルボン酸 8 を調製した。次に、別途不斉合成したa-メチルセリン誘 導体を縮合した後、オキサゾリン環を構築することで目的の 9 を合成した。また、ピロリジ ノグリシン部位の合成は Hanessian らが報告している手法を参考に、次のように行った。す なわち、Cbz-D-プロリンより 3 工程の変換で得たメチルエステル 11 に対して、a位の立体 選択的な酸化と光延反応を用いたアジド基の導入、続く還元と Boc 基による保護を行うこ とで12 へと導いた。最後に、別途調製したa-メチルセリン誘導体と縮合することで、ジペ プチド13 を得ることができた。得られた 13 に対し 9 を縮合することで 14 とし、全ての保 護基を加水素分解により除去することで、目的とする1 の全合成を達成した (Scheme 1)。 (Figure1) HO Cl N N O NH H N O OH O OH O NH HO Cl N N O NH OR O O NH R = H, JBIR-148 (2) R = Me, JBIR-149 (3) HO Cl N N O NH H N O OH O OH O H JBIR-126 (1) R R = Me, JBIR-34 (4) R = H, JBIR-35 (5)
(Scheme 1) 一方、最終工程の脱保護において、インドール上のクロル基も同時に還元されたデクロロ 体15 が約 1:1 の比で生成したことから、脱保護条件について検討した結果、水素源に Et3SiH を用いることで、生成比を大きく向上させることに成功した。デクロロ体は Cbz 基の除去 と競合することで生成することから、筆者はピロリジン上の保護基を Boc 基へと変更し、 多様な誘導体の迅速合成に向けた固相合成を試みた。実際に、Fmoc 法による固相合成を検 討し、適切な縮合条件を用いることでテトラペプチド16 を良好な純度で得た。最後に、オ キサゾリン環を損なうことなく Boc 基を除去することで 1 の固相全合成を達成した (Scheme 2)。確立した固相合成経路を用いて類縁体合成も展開した。 (Scheme 2) 第三章「原発性アルドステロン症の迅速診断を指向したカリクレイン検出法の開発」では、 電気化学的手法を用いたカリクレイン検出法の開発について述べている。原発性アルドス テロン症は高血圧の一つで、その患者は近年増加傾向にあることから、懸念されている疾患 の1 つである。電気化学測定は簡便かつ迅速に行うことができるので、原発性アルドステロ ン症患者において高発現する酵素カリクレインの検出に適していると考えた。カリクレイ ンは Pro-Phe-Arg を特異的に認識するため、Pro-Phe-Arg に対して適切なマーカとなる官能 基を導入したペプチドを調製し、カリクレインと反応を行い、生じたマーカーを電気化学的 NO2 NO2 BnO Cl N 1) TFAA, DMF rt, 1 h, 72% 2) NaH, DMF, H2O 75 oC, 2 h, 82% BnO Cl N O OH BnO Cl N N O O OH BnO Cl N N O NH H N O OBn O OH O NCbz HO R N N O NH H N O OH O OH O NH Hydrogenolysis BocHN OMe O NCbz 6 7 8 9 NCbz O OH OMe O
NCbz 1) Davis reagent, NaHMDS THF, —78 oC, 1 h, 87%
2) PPh3, DPPA, DIAD
THF, rt, 12 h, 57% 3) Reduction and protection
H2N H N OBn O OH O NCbz 3 steps 7 steps 10 11 12 13 9 EDCI, HOAt, DIEA
14 16% 56% DMF, rt 22 h, 67% JBIR-126 (1) (R = Cl) 15 (R = H) HO Cl N N O NH H N O NBoc O O OH O FmocHN OH NBoc O HO Cl N N O OH O FmocHN O OH Trt O Trt JBIR-126 (1) 1) Cleavage 2) Deprotection 16
手法を用いて検出することに より、間接的にカリクレイン が測定可能であると考えた。 共同研究者である末永、井上 らによって、他の酵素検出に
おいてp-methoxy aniline (pMA)がマーカーとして有用であることが報告されており、pMA を
マーカーとして選択した。本研究では、pMA の切断反応が酵素反応により進行するのか、 カリクレインにより切断されたpMA を定量的に測定可能であるか、カリクレインの検出限 界はどの程度であるかを明らかにする目的で行なった (Scheme 3)。 実際に、Pro-Phe-Arg にマーカーとして pMA を導入した基質とカリクレインを 1 時間反応 させ、サイクリックボルタンメトリーによる電気化学測 定を行った。その結果、基質そのものは電気化学活性を 持たず、カリクレインと基質が反応することでpMA が遊 離し、0.55 V vs Ag/AgCl に pMA 由来の酸化電流を観測す ることができたことから、pMA はカリクレイン検出のマ ーカーとして利用できることを見出した。また、クロノ アンペロメトリー法による測定から pMA は定量的に基 質ペプチドから遊離することが分かった (Figure 2)。ま た、基質の濃度と電流値の関係は、ミカエリスメンテン 式に当てあてはめることができたことから、本反応が酵 素反応により進行していることを明らかにし、基質と酵 素が親和性を持つことも分かった (Figure 3)。さらに、 カリクレインの検出限界はサイクリックボルタンメト リーを用いて0.01 unit/mL であると決定した。第 3 章で は、酵素活性が弱いカリクレインを電気化学的手法によ り迅速かつ簡便に検出できる新たな手法になることを示 した。
第四章「ペイロードMonomethy Auristatin E の合成研究」では、現在抗体薬物複合体(ADC 薬)において最も多く用いられている MMAE (17)の簡便合成を指向した合成研究について述 べている。17 は抗体と複合した ADC 薬のペイロード部分を担い、強力な抗がん活性を有す る鎖状ペプチドである。これまでに17 の類縁体であるドラスタチン 10 (18)の全合成例は多 数報告されているが、いずれの合成も液相法を用いたもののみである。固相上で17 を合成 することができれば、17 とつなぐリンカーも固相上で伸長することができるようになり、 リンカーの開発をはじめとするADC 薬の開発をより加速すると考えた。17 は非天然型アミ ノ酸すなわち、ドラプロリン(Dap)、ドライソロイン(Dil)、N-メチルバリンとバリン、およ (Figure 2, pMA の定量性の測定) (Figure 3, 測定 30 秒後における電 流値と基質濃度の関係性) -0.01 0.04 0.09 0.14 0.19 0.24 0 10 20 30 40 Cu rr ent ( μA ) Time (s) 0.01 0.02 0.05 0.075 0.1 0.2 0.5 base line Pro-Phe-Arg-pMA (mM) (Scheme 3) y = 3.2679ln(x) + 23.578 0 5 10 15 20 25 0 0.2 0.4 0.6 Cur re nt ( nA ) Substrate concentration (mM) current at 30 s
Michaelis menten kinetc fitting O H N O N H H N NH H2N HN N H O OMe kallikrein H2N OMe p-methoxyaniline (pMA) 酵素反応により進行するのか pMAを定量的に測定可能か カリクレインの検出限界
びノルエフェドリンより構成される (Figure 4)。非天然型アミノ酸を調製したのち、固相上 での部分構造の連結を計画した。 (Figure 4) ドライソロインは19 を出発原料に、4 工程の化学変換を行うことで 20 へと導いた。塩基 性条件下、20 に対してメチルトリフラートを作用させることでジメチル化を行い、保護基 の掛け替えを行うことでFmoc-Dil-OH (22)を調製した。一方で、ドラプロリンは、23 と毒性 が低く反応性の高いアクリル酸24 を用いた森田-Balis-Hilman 反応によりその基本骨格の構 築を試みた。検討の結果、40 ℃でマイクロ波を照射する条件において、望む 25 を収率よく 与えた。その後、5 工程の変換により Fmoc-Dap-OH (26)へと導いた (Scheme 4)。 (Scheme 4) 各部分構造の合成を完了したので固相上での連結を試みた。トリペプチド27 までの伸長 はDIC/HOAt を用いた縮合条件に付すことで円滑に進行した。一方、N-メチルアミドの形成 は、酸クロライド 28 を用いた条件において低収率ながら進行することを確認した。今後、 N-メチルバリンと連結することで 17 へと導くことが可能となる (Scheme 5)。 (Scheme 5) 第五章「結論」では、本論文の内容を総括した。 HN O H N O N O N O O O H N OH Ph MMAE (17) N O H N O N O N O O O H N N S Dolastatin10 (18) Dil Dap Val N-Me-Val Norephedrine BocHN OH O BocHN O OH OH BocN O OH O MeOTf, NaH FmocN O OH O 76% 4 steps 2 steps FmocN O O OH BocN O H O O BocN OH O DABCO O 75% CF3 CF3 CF3 CF3 µW, CH2Cl2, 40 oC 5 steps 24 24 19 20 21 22 23 25 26 HN O N O O O H N Ph SiEt Et O FmocHN O Cl FmocHN O N O N O O O H N O Ph SiEt Et DIEA, CH2Cl2, rt, 12 h, 30% 17 27 28 29