実務に現われた労働法・経済法-2-著者
高津 幸一
著者別名
K. Nidaira
雑誌名
東洋法学
巻
16
号
1
ページ
35-47
発行年
1972-11
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00006099/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja実務に現われた労働法・経済法︵二︶
高 津 幸
一
四、経済法・労働法における共同行為の原理 五、抵当証券の売渡と出資取締法四 経済法・労働法における共同行為の原理
e 共同行為の地位 経済法の分野においても、労働法の分野においても、共同行為に関する法は、これらの法分野におけるかつての主 役であった統制法に代って、今や主役の座につこうとしている。即ち、一方で、価格統制法に代表される経済統制法 が重要性を減ずると共に、相互に競争関係にある独立の事業者が共同して対価等を定めて相互に一定の制限を課し、 その自由な事業活動を拘束して公正な競争を制限するカルテル︵不当な取引制限︶が経済法の中心課題となり、また 実務に現われた労働法・経済法︵二︶ 三五東洋法学 三六
他方.労働条件を統制する労働基準法より.労働者が労働力︵原則として代替性の強い労働力︶を売る同業者として 団結し、取引の相手方である使用者に対し、私的独占・取引制限・不公正取引等の共同行為を行うことを目的とむて 結成した労働組合を保護し育成する法が重要性を帯びつつあるのである。これらの共同行為法の現代における重要性 に鑑み.実務においてもその基本原理を正しく理解した上で法の運用をはからねばならないのである。ここでは.主 として.これら双方の関係.共同行為の影響。共同行為の意図.共同行為の探求.の諸基本問題について考察してみ る嬬ととする。 経済法の分野における共同行為法であるカルテル禁止法は.同業者の結合を否定することにより資本主義の積極面 である自由競争の維持促進をはかるものであり、労働法の分野における共同行為法である労働組合法は、同業者の結合 を促進することにより資本主義の積極面である自由競争の維持促進をはかるものである。このように.カルテル禁止 法と労働組合法という.現代社会の二つの基本的な共同行為法は同一の目的のために.全く正反対の方法をもって社 会に臨んでいる。しかし.これらはあくまでも同一の目的をもった法であるから.その外形上の矛盾抵触はその目的 ︵一︶ との関連において解消されることが可能なのである。 それでは.この外形上の矛盾の調整はどのようにしてなされるか。米国においては労働組合の反トラスト法違反問 ︵二︶ 題が絶えず論じられ続けてきた。シャーマン法においては、その被適用者が限定きれておらず.同法が労働組合に対 ︵三︶ して適用されることがしばしばあった。クレイトン法は.その六条において.人間の労働は商品でないこと、反トラ スト法は労働団体の存在および運営を禁止しまたはかかる団体の加盟者がその適法な目的を適法に遂行することを禁止しもしくは制阪するものと解してはならないこと、を規定し、また二〇条において、禁止命令は、作業もしくは労 働を行うことをやめること、作業に従事しないように平和的に人を説得すること、を禁止してはならないと規定し た。しかし、裁判所は、これらの規定を、雇用者と現在または将来の被雇用者との間の直接的な労働争議に関するも ︵遇 のであると解し、それ以外の場合には労働組合に反トラスト法違反の成立を認めたので、さらにノリス・ラガーディ ア法が作られ、労働組合の活動は、取引制限になるものでも、その活動が労働争議に関するものであれば、反トラス ト法の適用は除外されるとされた。ただ、これでも、労働組合の反トラスト法違反という問題が一切消滅したわけで はない。日本においてはこの種の問題はこれまで顕在化はしていなかったが、労働組合の組織形態における米国との 違いを越えて、現象自体は存在している模様である。ただ、注意すべきは、労働組合を通じて行なう共同行為の中に は当該組合の組合員の労働条件自体に向けられているもののほか、生産物の品種数量に向けられたもの、さらには価 格や市場の統制にまで向けられたものがあり、争議行為にまで発展した場合には、その正当性の限界の問題として十 分考察しなければならない問題が含まれているということである。 結論としては、より多くの取引において、契約当事者が対等の立場に立って自由に意思を決定できるにはどうした らよいか、ということを基調として、共同行為の否定と促進の両法制の調和を保つべきであろう。 口 共同行為の影響と意図 労働組合法は共同行為を促進するものであるから、共同行為がかりに取引に影響を及ぼさなくても、当該共同行為 実務に現われた労働法・経済法︵二︶ 三七
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に対する法の取扱いに差異を生じない。しかしカルテル禁止法は共同行為を禁ずるものであるから.現実に市場の競 争に影響を与えなければ法は関心を示す必要がないのではないか.との問題を惹起する。わが国において独禁法違反 には現実の影響を必要とするかどうか両説あることは周知のとおりである。米国においては.。バーシ⋮・イリーガル とされる場合には影響の立証は不要であるが︵もっとも.影響がなかったという反対の立証がなされれば違反となら ︵五︶ ない︶.ルール・オブ・りーズンにかかる場合には影響の立証が必要とされる.西ドイッの旧カルテル法は実質的影 響の存在を同法違反の要件としていたが.競争制限禁出法の条文は徽の間題を意識的に避け.判例にその解決を委ね ︵穴︶ ている.同国最高裁の判決によれば.跡をたどれるような影響を関係者に与えることが同法違反の要件であり、それ で十分であるとされ.また.そのような影響が具体的事例においてあったとみるかどうかは事実審の専権事項である とされている。両国の考え方は表現の上では大幅な相違点を有しているが.いずれにおいても実際の運用としては. かかる要件の立証は︵それが必要とされる場合に︶.かなり容易に認められている。 共同行為参加者が取引に影響を及ぼす意図ないし認識を持つことが法の特馴の規定に服する要件とされるかどうか ということになるとさらに微妙である。カルテル禁止法についてまず考察すると.わが国ではこの点の議論が十分に なきれてはいないが.米国では、パーシ⋮・イリ!ガルとされる場合にはこのような意図は不要であるが、ル⋮ル・オ ︵韓︶ ブ⑲リーズンにかかる場合にはこのような意図が立証されなければならないとされている。もっとも.ここに意図と いっても、それは主観的な動機ではなく、客観的な行為の認識であると説明されている。西ドイッでは共同行為によ り取引に影響を及ぼすという意図の立証は一般には不要であるが、当該共同行為が他の意図を明白にもっているときには単に競争制限禁止法違反の事実の存在の可能性を認識するのみでは同法違反とならないとされている。いずれも ︵八︶ 大いに参老とすべきであろう。 労働組合法について考察すると、労働者の共同行為には労働条件を向上させるという方向で使用者との取引に影響 を及ぼす意図の存することが法の特別の保護を受ける要件であり、また、使用者の側からそれを認識すること︵認識 すべき状況の存在で足りると解してよかろうが︶が不当労働行為の要件である。労働者が共同行為をなすに際して労 働条件向上の希望を持っていることは通常は推定されてよいが、ここに必要な意図とは単なる内心の希望ではなく、 取引に影響を及ぼす意図をいうものであるから、労働者の当該共同行為の中に団体交渉を求める行為が含まれていな い場合には問題を生ずる。何故ならば、使用者との取引に影響を及ぼすには団体交渉が不可欠だからである。ことに ︵九︶ 組織的労働者団体︵労働組合、争議団︶が未成立の場合に問題は大きい。労働者側に団体交渉を持つ準備態勢が完備 していることは、かかる共同行為が法の保護を受けるための要件であると解すべきであろう。 日 共同行為の探求 カルテル禁止法においては、国法の展開は共同行為を積極的に探し出すことに向けられている。国家は、行政的措 置および刑事手続︵国によっては、さらに民事訴訟手続︶をめぎして共同行為を探求していく︵勿論、私人が契約の 効力を争い、また損害賠償を求めて共同行為を探求することも重要である︶。かかる手続において、問接証拠の証明 力の問題が惹起きれ、米国においても、西ドイツにおいても、それが安易に認められすぎることが指摘されている。 実務に現われた労働法・経済法︵二︶ 三九
東洋 法学 四〇 これに対し、労働組合法においては.共同行為は積極的に承認されているのであるから、その存在自体には国家は 探求する関心を有しないのが建前である。国法は、共同行為を排除しようとする取引相手方︵使用者︶の行為を禁ず ることに向けられる。もっとも.労働者の団結行為だけについてはこれで明快に説明がつくのであるが.争議行為に ついてはさらに問題がある。 労働争議という形態の共同行為は.円滑かつ有利な団体交渉を通じて労働者の地位の向上をはかるために行なわれ るものであるから.労働者としては.その際に.かかる共同行為が特定の内容の団体交渉と結びついたものであるこ とを明らかにせねばならず.そのためには.使用者にかかる共同行為の存在を認識せしめねばならない。使用者に対 して秘密裡になされた共同行為は.その観点から.法の保護を受け得ない.このような場合には.使用者の不当労働 行為意思の存否を論ずるまでもないのである. 以上は.資本主義社会の中において.その健全な発展を求めて立法された経済法・労働法の基本的性格を.共同行 為を通じて見た概観である。 8 これらの法が.ことに揖本において.異質的なものとして受けとられている重要な原因の一つは.私法的分野における経 済法の発達の貧困さに由来する。この点については.拙稿﹁独禁法違反の契約の効力﹂ジュリスト四二二号、 ﹁独禁法違反 による損害賠償﹂ジ.一リスト四五二∼殴五五号. ﹁民商法と独禁法の競合﹂公正取引二五一号、 ﹁裁判所の労働経済政策と 判例分析﹂東洋法学一五巻二号参照。きらに、労働組合法についていえば.同盟罷業等は労働者の単なる共同行為にすぎず しかも國家の法がそれを積極的に容認している︵禁止されたカルテル協定とは全く異なる︶種類の行為なのであるから、か かる行為を労働者が行うことは何ら異常なことではないのであるにも拘わらず、一部組合活動家が自己の権力欲のために誇
大宣伝をするため、一般労働者および一部使用者に何か通常の法律関係と異なる異様なものを感じきせている、ということ に注目せねばならない。 目幻薯○博畠讐Φ︾寓o導o蜜の窪角巴ポ2簿δ類巴Oo鷺臼葺88ω9伍鴇夢①︾筥圃窪自ωけび簿窯ω堕這綴は一三ぺージにわた って詳細に﹁労働組合と反トラスト法﹂について論じている。 目 代表的なケースは、組合が原告製造の帽子のボイコット運動をした事件であるい8≦①︿印罫&880 。βρ⑬置︵お○O Qy 圏U唇一。図等一簿圃轟寄霧⑦○ρ<﹂︾①①は語︸鱒躍¢φ赴G 。︵H8一︶旧じ ご①α暁。識○暮o o8器○ρ<。ざ∬讐塁導窪ω8蓉 ○暮$残、の︾のω8鑓慧oPN鳶q.ρ零︵お曽︶● 園 類①ω①pけ嵩oび 凶 呂綜ぴ鍵 悶陰唇oω①鋤民陣葺①簿 囚 後者については、拙稿﹁民商法と独禁法の競合﹂公正取引二五一号参照 ㈹ いわゆる未組織労働者にも労働組合法の保護はあり、労働組合がなくとも使用者に不当労働行為が成立することはありう る。親睦会総会で年末手当の要求、労働組合の結成などを討議したところ、その二日後に副会長が解雇された場合にっき、 福島地労委は不当労働行為の成立を認めている︵昭和三三年一〇月一七日命令︶。
五 抵当証券の売渡と出資取締法
抵当証券を売渡す方法により資金を受入ないし回収することはどのような規制に服するか。 このような企画が適法なものであるかどうかを判断するに際しては、まず、予定されている行為が﹁出資の受入、 預り金及び金利等の取締等に関する法律﹂ ︵以下﹁出資取締法﹂という︶に違反するかどうかという点を考察せねば 実務に現われた労働法経済法︵二︶ 四一東洋法学 四二
ならない。この法律は.保全経済会の事件︵昭和二八年︶を契機として、街の金融・利殖機関を取締ることを目的と して.昭和二九年法律第一九五号として成立したもので.その第一条は、 ﹁何人も、不特定且つ多数の者に対し、 後日出資の払いもどしとして出資金の全額若しくはこれをこえる金額に相当する金銭を支払うべき旨を明示し.又は 暗黙のうちに示して.出資金の受入をしてはならない﹂と定めている。この規定に違反した者は.三年以下の懲役若 しくは三十万円以下の罰金に処せられ.またはこれらを併科きれる︵第二条桶項一号︶。きらに.法人の代表者又 は法人若しくは人の代理入.使用人その他の従業者が法人又は人の業務又は財産に関して遠反行為をしたレ弧曇は..町 の行為者が罰せられるほか.その法人又は人に対して罰金刑が科せられる︵第二二条一項︶。前記第一条にかかる行 為の脱法行為についても同様である︵第二条一項二号︶. 第一条に違反した契約の私法上の効力については特段の規定がなく.その判断は解釈論に委ねられているが.ツ町の 最も重要なポイントは.この規定が単なる警察的取締や営業許可制の目的のために設けられていると解しうるか.そ れとも市民経済秩序の安全維持の観点から経済統制の目的のために設けられているものであると解しうるか.という ことであり.後者であるとすると.この規定に違反した契約は民法第九〇条、九一条により私法上無効であると解し てよさそうである。しかし.後述のように誇大広告の防止がこの条文の主眼であるとすると、この規定に違反しても 法律行為の私法上の効力が否定されるという結論には導かれないであろう。 出資取締法第一条による一定の行為の禁止は、全ての人に向けられており.一定の業種を特に定めているわけでは ない。禁止される行為は.一定の方法にょる﹁出資金の受入﹂である。しかもその方法は.法の規定する特定の趣旨を﹁不特定かつ多数の者に対し﹂ ﹁明示し、又は暗黙のうちに示す﹂というものである。ここに、 ﹁多数﹂というの は、出資の取締という問題の性質からみて、五、六人よりは多いことを意昧するであろうし、しかもそれは、 ﹁不特 定﹂でなければならない。もっとも、特定の営業をなしている者、ということでは、ここにいう﹁不特定﹂でない、 ということはできない。それらの者の間に従前から一定の緊密な関係がある場合に初めて︵例えば、五年来の事業者 団体で、月一回の総会があり、会員は毎回大多数が出席していた、等の場合における会員はそれにあたるであろう︶ ﹁特定の者﹂ということができるのである。 それでは、次に、 ﹁抵当証券の売買﹂という形態で金員を不特定多数の者から集めることは出資取締法第一条にい う﹁出資の受入﹂にあたるであろうか。抵当証券は、いうまでもなく、抵爵権と被担保債権とを合体して証券化し、 裏書により転々流通させるものであり、抵当証券法︵昭和六年法律第一五号︶に基づくものである。 出資取締法が立法される契機となった保全経済会問題が衆議院法務委員会でとりあげられたとき、村上法務省民事 局長︵当時︶は、 ﹁匿名組合名義ばかりでなく、あるいは貸金、預金、信託、あるいは社債類似の証券、有価証券 の売買その他どんな名義を用いましても正規の金融機関でないものが大衆の資金を受入れるということがありますと 法外な条件で大衆をつる、巧みに宣伝をするということがあれば、同様の害毒を流す可能性があるのであります﹂と 述べ、証券売買の形態による資金の受入についても取締の必要が唱えられていたのであるが、立法された出資取締法 はこの点について何ら明確に触れておらず、その解説文献においても証券売買の形態にょる出資の受入というものを 特に間題としてはいない。この点からすると、証券の取引については証券取引法にその規制を全て委ね、それ以外は 実務に現われた労働法・経済法︵二︶ 輯三
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全く自由に許容しているのだ、という建前で立法されていると解してよいことになろう。 そうであれば.事業資金を貸付けた者が抵当権の設定を受け、特約に基づいて抵当証券の発行を受け、その抵当証 券を自ら.またはその委託した者によって売渡させる行為は出資取締法にいう﹁出資の受入﹂には該当しないことに なるであろう。しかし.事業資金の融資を受けた者が自らイニシアチブをとって抵当証券の売渡しの委託を抵当権者 ︵事業資金を貸付けた者︶から受け.右証券を不特定多数の者に売渡し.もって実質的には自己のためにその事業資 金を集めたとみられる場合には︵貸付をなした者のために回収きれた資金であるところの証券売渡代金が再三にわた り繰り返し同一事業者に貸付けられるという事情があれば.一般にこのような場合であると推定されよう︶. ﹁出資 の受入﹂という点については本法の脱法行為にすぎないとみられうるであろう︵後述︶。なお.抵当証券が大いに社 会的経済的作用を営んでいるドイッなどにおいてとは異なり.賑本においては抵当物件の所有者が自ら抵当証券の発 行を受ける制度は存しない。このことは.所有者抵当が認められないことの当然の帰結とされている。 証券を手段として用いて資金を集める︵回収する︶という方法をとる場合には.さらに.前述のように.証券取引 法による規制の問題を老えねばならない。しかし.日本の証券取引法は﹁証券﹂の定義を限定的に列挙しており︵二 条一項︶.政令による指定︵同項九号︶も未だなされていないから.結局﹁抵当証券﹂は証券取引法による規制の範 囲外にあるといわねばならない。 それでは再び出資取締法に戻って、同法一条が禁止している出資金の受入方法について考察しよう。そこに規定さ れている. ﹁後日出資の払いもどしとして出資金の全額もしくはこれをこえる金額に相当する金銭を支払うべき旨﹂を示すという文言はどういう意味を持っているのであろうか。これは、まさに同法一条の立法趣旨の中心がどこにあ るかを問うことになるのである。 この点について、立法当時の解説文献︵立法関係者のもの︶は完全に一致しており、要するに同法一条の立法趣旨 は誇大広告の防止、即ち、元利金の返済が確実であるかのように装って大衆を欺き、唱大衆から資金を集めることによ る危険の発生を防止するため、かかる広告を禁ずることにある、というのである︵田宮重男﹁出資の受入、預り金及 び金利等の取締等に関する法律の解説﹂金融法務事情三九号、津田実﹁出資の受入、預り金及ぴ金利等の取締等に関 する法律﹂法曹時報六巻七号、同﹁街の金融、利殖機関を取り締る﹂時の法令二二〇号、法務省刑事局・﹁出資の受入 預り金及び金利等の取締等に関する法律等について﹂検察月報六四号︶。しかも、その後もこれと異なる見解は発表 されておらず、これを支持する最近の論文も存する︵竹内昭夫﹁ネズミ講の法的規制﹂商事法務研究五六四号︶。な お、かかる行為が詐欺罪に該当するような場合には、同法違反の罰則は適用されないことになっているから︵第二 条二項︶、同法一条は詐欺罪にあたらない程度の誇大広告を禁止するものであるということになろう。 出資取締法第一条の立法趣旨が誇大広告の防止にある、ということは、次のことを意味する。即ち、書面による広 告、または口頭による出資の勧誘に際して、 ﹁出資元本を保証する﹂、 ﹁出資金の中途回収を希望の際には元本の確 保がはかられるよう、自らそれを引受けて消却しまたは責任をもって出資金返還請求権を譲り受ける第三者を斡旋す る﹂等、出資金の全額もしくはこれを超える金額に相当すξ金銭を支払うべき旨を﹁明示﹂すること、および、過去 の実績一覧表を示すなどして、あたかも出資金の全額もしくはこれを超える金額に相当する金銭を支払うべき旨を 実務に現われた労働法・経済法︵二︶ 四五
東洋法学 照六
﹁暗黙のうちに示﹂すことが違法なのであって.出資の受入自体はどのような態様でなそうとそれに対する禁止はな い、ということである。そこで、もし、 ﹁出資元本を保証する﹂というのではなく、 ﹁事業により収益があがれば元 本に利潤を付して償還するが、損失が生じた場合には元本に欠損が生ずることもある。しかし.相当の利潤を付して 償還する見込である﹂旨を表示し. ﹁出資金の申途回収を希望の際には元本の確保がはかられるよう責任を持つ﹂と いうのではなく. ﹁回収希望の際には時価で第三者に権利を譲渡できるよう斡旋に努力する﹂旨を表示し.過去の実 績一覧表を掲げた場合には﹁これは過去の実績であって.今後の企画がこれと同一の成果を収めるかどうかはわから ない﹂旨を付記するならば.何等違法なものではなく.法は単にそのようにすべきであるということを命じているに すぎないのである。 この法律第一条の政府原案は. ﹁出資金の全額もしくはこれをこえる金額に相当する金銭の支払がある旨の誤解を 生じさせるような仕方を用いて出資金の受入をしてはならない﹂と規定していたが、衆議院大蔵委員会においては、そ れではその取締の対象が明確ではなく.不当に拡張解釈されるおそれがあるという理由で.この部分は削除されてい る。そこで.津照実氏前掲解説が. ﹁単にこの事業は成功するとか.有利確実であるとか.事業が成功した場合には 出資金の全額が返還されるとかを示し又は宣伝することは.この規定に違反するものではないと解しなければならな い。﹂としているのは当然である。しかも.営業の自由は.契約の自由の最も重要な部門の一つとして歴史的に確立 されてきたものであり、日本国憲法も基本的人権の一つとして保護しているところであるから︵二二条、職業選択の 自由︶.本法の拡張解釈によって営業の自由が不当に侵害されることがあってはならないのである。ただ、そのことは、欺擶的方法により大衆から資金を集める無責任な行動を許容するための口実となってはならないのであることは 十分に再認識されねばならないであろう。 それでは、典型的な出資の受入以外の方法で事業資金を集める場合に、本法で禁止されているような形態の誇大広告 をなすことは適法であろうか。誇大広告一般ということであれば、別に公正競争の観点から︵一般消費者の利害を考 慮に入れて︶、 ﹁不当景品類及び不当表示防止法﹂ ︵昭和三七年法律第二二四号︶がそれを禁止しており︵もっとも 資金を集める種々の形態のうち、どこまでが同法一条、四条にいう﹁商晶又は役務の取引﹂に該当しうるかというこ とは一つの問題であるが︶、本法による一定の行為の禁止も、それを正常な取引と一般大衆の保護という観点から厳 格にその内容を限定して解する限り、むしろ当然の規定と解しうるのであって、従って、典型的な出資の受入以外の 方法f抵当証券の売買1によって事業資金を集める場合にも誇大広告をすることは、本法の脱法行為にすぎない とみられる虞が多分にあることは前述のとおりである。 実務に現われた労働法・経済法︵二︶ 四七