地域の価値共創における中間支援組織の意義と役割 ─石垣市の移住・定住支援─
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(2) 論文. 釣島などから成る尖閣諸島を市域とするが、尖閣諸島の島々は現在無人と なっている。石垣島は、沖縄本島・西表島に次ぐ沖縄県内で3番目に大き 2. な島で、八重山地方の政治・経済の中心地である。面積は 222.25km 、周囲 162.2km で、沖縄本島の那覇からは 410km、台湾の台北からは 250km と台 2). 湾に近く 、2013 年に開港した新石垣空港には、沖縄本島は勿論、東京羽 田・成田、大阪関西、名古屋中部、福岡の各空港からの直行便が乗り入れて おり、宮古や与那国などの島だけでなく、台北や香港への国際線も利用でき 3). る 。また石垣島離島ターミナルからは、竹富島や西表島をはじめとする八 重山諸島の各島へのフェリーが運航されており、八重山地方の交通における ハブでもある。年間平均気温は 24.3℃と温暖な亜熱帯海洋性気候であり、豊 かな自然や独自の文化と交通の利便性から観光地としてだけでなく移住先と しても人気が高い。特に沖縄への移住ブームが起こった 2001 年から 2007 年 頃には、多くの人が移住したが、移住先についての理解不足や住民とのコ ミュニケーション不足などにより地域に馴染めずに短期間で離島し定住に 4). 至った人はわずかであった 。このような経験から、石垣市では移住先の実 態を理解した上で移住してもらうことを政策の基本として掲げており、情報 提供をはじめとする移住希望者への支援業務を「一般社団法人ゆんたくガー デン(以下、ゆんたくガーデン) 」に委託し、協力して移住・定住促進を図っ ている。 本研究では、石垣市のゆんたくガーデンを事例に、移住・定住促進にお 5). ける中間支援組織 が果たす役割について価値共創の視点を中心に考察す る。まず「石垣市人口ビジョン」 、 「石垣市移住・定住支援計画(平成 29 年~ 33 年度) (以下、支援計画) 」などの文献から石垣市の移住・定住支援につい ての概略を把握し、次に移住・定住の現状と促進施策の基本的な方針、支援 計画実施の進捗及び COVID-19 による計画への影響などについて石垣市の移 住・定住促進の担当部署である企画政策課に 3 回( 2017 年 2 月、2019 年 2 月、 2020 年 7 月)にわたる聞き取り調査を行った。また、2019 年 2 月、2020 年 7 月に、ゆんたくガーデンの活動内容や実績、市との関係、移住希望者及び 受入れ地域の現状、COVID-19 の影響などについてゆんたくガーデンの代表 28.
(3) 地域の価値共創における中間支援組織の意義と役割. 理事に聞き取り調査を行い、併せて 2019 年 6 月のゆんたくガーデンが主催 したイベントと 2020 年 6 月に開催された 2 回のリモート移住相談室に参加し て、移住希望者・移住者・住民に対するインタビューを実施した。. 2.S-D ロジックにおける価値共創とサービス・エコシステム Vargo and Lusch( 2004 )は、それまで支配的であった有形財( Goods )中 心のグッド・ドミナント・ロジック( Goods Dominant Logic、以下 G-D ロ ジック)に対し、無形財( Service )を中心に据えたサービス・ドミナント・ ロジック( Service Dominant Logic、以下 S-D ロジック)を提唱した。S-D ロ ジックでは、個人や組織などの主体が、有形財であるグッズと無形財のサー ビスィーズを包括した上位概念としてのサービス( Service )を相互に交換 することによって価値が創造されると考える。そしてここでのサービスは、 「他者あるいは自身のベネフィットのために専門化されたナレッジやスキル 6). (オペラント資源 )の適用」と定義される。製品やサービスィーズは、企業 が自社の資源を適用して製造したサービスであり、製品やサービスィーズを 通して価値の提案を行う。買い手は企業の価値提案に対して自らが持つ資源 を適用して価値を認めれば購入する。価値は買い手が認めたときに初めて生 じるため、S-D ロジックにおいては、価値は常に主体間の間で共創される。 例えば、酷暑の時期に冷蔵庫が故障した場合「新しい冷蔵庫」には高い価値 を認めるだろう。一方極寒の地に住む人にとっては「新しい冷蔵庫」の価値は 低い、あるいはそもそも価値を認めない可能性もある。このように価値が共 創されるかどうかは、主体が置かれた文脈に左右されるため、S-D ロジック では、価値は「文脈価値( value-in-context )」と呼ばれる。また G-D ロジック における交換価値( value-in- exchange )が、企業が生産過程で製品やサービ スィーズに投入した価値を販売という形で提案し、その際提示される金額を 価値として捉えるのに対し、文脈価値は購入時だけでなく使用・経験を通じ て共創される。 文脈価値は、主体の主観によって判断されるので、時間的・空間的状況 とともに、主観に影響を与える主体間の関係についても文脈を構成する要 地域創造学研究. 29.
(4) 論文. 素として捉えられ、主体間のネットワークである「サービス・エコシステム ( Service Ecosystem ) 」が提示された。サービス・エコシステムは、「共通 の制度的な理論とサービス交換を通じた価値創造によって結びついた資源 統合のアクターから成る、自己完結的かつ自己調整的なシステム」 ( Vargo and Akaka 2012 )であり、組織を超えた社会的構造にまで視野を広げ、S-D ロジックの発展に寄与する概念として注目を集めている(大藪 2015、庄司 2017 )。 Vargo and Lusch( 2017 )は、サービス・エコシステムについて「どのよう に構築されるのか」 「どのように適応し、進化するのか」 「要となるアクター はどのようにしてその地位を確立するのか」など 10 項目にわたる課題を示 し、今後の研究による精緻化の必要性を主張している。. 3.石垣市の人口推移と移住・定住支援 (1) 人口の推移 石垣市の人口は、2019 年 10 月 1 日現在 48,132 人で、全国的には減少に転 じた 2009 年以降も増加傾向にある(図 1 )。2017 年の合計特殊出生率は、都 道府県別では沖縄県が 1.94 と最も高いが、その中でも石垣市は 1.97 と県全体 7). を超える数値となっており 、出生率の高さが人口増加の最大の要因である。 全国の 1.43 に比べると高いとはいえ、現状の合計特殊出生率は人口を維持す る 2.0 には達しておらず、近年は未婚化・晩婚化が進展しており今後出生率 は低下すると思われる。また死亡数も増加しており、近い将来自然動態は減 少に転じると予想されている。 転出と転入による社会動態の推移を表わしたものが図 2 である。移住ブー ムが去った 2009 年以降は、2015 年を除き 2017 年まで毎年減少が続いてい たが、2018 年・2019 年は増加となっている。年齢階層別では、男女ともに 15 ~ 19 歳、20 ~ 24 歳で、月別では毎年 3 月が大幅な転出超過となっており、 進学や就職が転出の主な理由と考えられる。石垣市内の高等教育機関として は 2 つの専門学校があるが、大学への進学を希望する場合は市外に転出する 必要がある。 30.
(5) 地域の価値共創における中間支援組織の意義と役割 (⼈) 49,000 48,132. 48,000. 47,564 47,562. 47,000. 46,651. 46,789. 46,922. 47,035. 47,665. 47,860. 47,152 47,091 47,185. 46,309. 46,000. 45,819 45,183. 45,000. 44,642 44,078. 44,000. 43,724 43,302. 43,439. 43,000. 42,000. 41,000. 40,000. 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 (年). 注)各年 10 月 1 日現在の推計人口 図 1 石垣市の人口推移. 出典: 「沖縄県人口移動報告年報」 を基に筆者作成. ︵⼈︶. 500 417 400. 300. 290 . 189 . 200. 160 123 . 100. 66 11 . 0. 2005. 2006. 2007. 2008. 2009. 2010. 2011. ‐100. 2012. 2013. ‐200. 2015. ‐169 . 2017 ‐35 . 2018. 2019. ‐189 . ‐218 ‐300. ‐400. 2016. ‐101 . ‐103 ‐155 . 2014. ‐306 (年). 図 2 石垣市人口の社会増減の推移. 出典: 「沖縄県人口移動報告年報」 を基に筆者作成 地域創造学研究. 31.
(6) 論文. (2) 石垣市の移住・定住支援施策 前述したように、石垣市の人口は自然減によって減少に転じる可能性が高 く、人口の大幅な減少を防ぐためには社会増によって自然減を補う必要があ る。そこで 2017 年には、移住・定住先としての石垣市の認知度を高め、人 口の社会増をゼロ以上に維持することを目指して支援計画が策定された。こ の計画では、 ( 1 )移住希望者への効果的な情報発信、( 2 )移住者と地域をつ なぐネットワークの構築、 ( 3 )移住やその後の仕事・住まいの支援、( 4 )専 門性を有する人材の移住・定住支援という 4 つの項目について具体的な施策 が掲げられており (表 1 ) 、石垣市が事務局を務め学識経験者や地元関係団体、 公募市民や市職員などで構成される「石垣市移住・定住支援協議会」による 定期的な達成度の検証とそれを反映した重要業績評価指数(以下、KPI )によ る達成率の把握及び目標値の見直しが行われている。2020 年 7 月時点にお ける平均達成率は 45%で、 「移住希望者への効果的な情報発信」については、 ほぼ予定通りに KPI の目標数値を達成している一方、計画策定時に想定した 状況と現状との間に乖離があり、目標値を変更する必要が生じている施策も ある。 例えば「移住者と地域をつなぐネットワークの構築」の KPI の 1 つである 「各地域・集落ごとの世話役の配置」 については、各地区の公民館長に世話役 を依頼することを想定していたが、特に移住者が多い地域では必ずしも公民 館が地区の意見を代表しているわけではなく、またそれぞれの公民館長で移 住促進に対する考え方も異なるために移住の世話役を依頼するのが難しい地 区もある。また 「移住やその後の仕事・住まいの支援」の空き家バンクについ ても、修理しないと住むのが難しい家や、住む人がいなくても仏壇や荷物が 残っているという家も多く、2020 年 7 月時点での登録件数は 1 件に過ぎない。 問い合わせてくる側も一般の不動産会社より安く古民家が借りられると考え ている場合が多く、貸し手と借り手の意識のずれによってマッチングが難し い状況である。 支援計画では、 「移住者と地域をつなぐネットワークの構築」の取組みとし て、①移住コンシェルジュの養成、②移住者受入体制(地域のネットワーク 32.
(7) 地域の価値共創における中間支援組織の意義と役割. づくり)の構築、③移住者支援組織( NPO 法人等)の設置、を挙げている。石 垣市は、補助金などの助成メニューや空き家バンクなどの制度を整えるが、 移住体験ツアーや移住相談会のような移住促進のための具体的な業務は、支 援計画による取り組みによって養成された移住コンシェルジュや設置された 移住者支援組織などの民間に任せるという方針を取っており、これら業務は 一括してゆんたくガーデンに委託している。 表 1 支援計画の基本方針と具体的施策 基本 〇地域コミュニティの維持・存続 ⽅針 〇⼈材が不⾜する分野の担い⼿の確保 地 (1)移住希望者への効果的な情報発信 域 ・移住フェア・移住相談会の開催 住 を 促 す た め の 具. ・ 産 業 等. ・移住ガイドブックの作成 ・企業ガイドブックの作成. ・移住・定住ポータルサイトの設置 ・移住体験ツアーの実施. に (2)移住者と地域をつなぐネットワークの構築 貢. ・移住コンシェルジュの養成. 献. ・移住者受⼊体制(地域のネットワークづくり)の構築. す. ・移住者⽀援組織(NPO法⼈等)の設置. る (3)移住やその後の仕事・住まいの⽀援 体 ⼈ ・空き屋バンクの創設 的 材 ・⼟地の利活⽤に関する調査・検討 な の ・遊休農地の利活⽤に関する調査・検討 施 移 (4)専⾨性を有する⼈材の移住・定住⽀援 策 住 ・⽣涯活躍のまち(⽯垣版CCRC)の導⼊ ・ 定. ・地域おこし協⼒隊の導⼊ ・福祉実習⽣(保育⼠・介護⼠等)の受⼊れ⽀援. 出典:「石垣市移住・定住支援計画」 より筆者作成. 地域創造学研究. 33.
(8) 論文. 4.ゆんたくガーデンの移住・定住支援活動 (1) ゆんたくガーデンの設立と石垣市からの業務受託 ゆんたくガーデンの代表理事である O 氏は、東京都新宿区の出身で、沖 縄本島の宜野湾市を経て 2011 年 8 月に石垣市に移住した。実家は歌舞伎町 のゴールデン街でスナックを経営していたため都会の真ん中で生まれ育った が、両親の故郷である九州で夏休みなどを過ごすことも多く小さい頃から東 京での生活に違和感を覚えていた。大学の海洋学部を中退後旅行専門学校に 通い、卒業後は旅行会社をはじめ複数の職を経験した後実家を改装してバー を開業した。O 氏が地域の活性化に初めて関わったのは、新宿でバーを経営 していた時である。その頃のゴールデン街は寂れていて、客も昔からの高齢 者が残り若い客が寄り付かなくなっていた。そこで町おこしのためにゴール デン街の HP を作成した。HP を作成した当初は、古くからの店主からは勝 手に作ったと怒られたが、次第に理解してもらえるようになった。全盛期の 1984 年には 304 あった店舗が、当時は 134 と半分以下になり空き店舗だらけ だったので、賃貸料が安く若い人でも出店しやすい状況であったために若い 店主も増えており、彼らにも声を掛けてそれぞれの店の HP を作成するよう 勧めた。また O 氏の店の顧客には出版社の人が多かったので HP を取上げて もらうよう働きかけた。その 3 年ほど後には、ゴールデン街の 43 店舗を集 めて納涼祭を実施した。このイベントは、現在ゴールデン街の組合が引き継 いだ形で継続しており 130 店舗が参加している。他にもゴールデン街の魅力 を伝えることを目的に、グランド・キャバレーを貸切った「桜フェスティバ ル」 というイベントを行い、10:00 から 24:00 までの間に 1,200 人が訪れた。 2006 年 9 月にはゆんたくガーデンの前身となる「時の旅人プロジェクト」 というサークルを立ち上げた。きっかけは、茅ケ崎で海の家の権利を得た友 人に依頼されてその運営を手伝ったことである。海の家がオープンする夏の 間は、新宿の店は従業員に任せていたが、新宿の店に来てくれる顧客も湘南 まではなかなか足を運んでくれなかった。そこで東京からも来てもらえる ようにと考えて会員制のサークルを作ったのが時の旅人プロジェクトであっ た。新宿の店の顧客を中心に 30 名ほどの会員が集まり、夏に茅ケ崎に来て 34.
(9) 地域の価値共創における中間支援組織の意義と役割. もらうだけでなく、年間を通じて自然保護を目的とした様々な活動を逗子 で行った。また拠点となる場所の必要性を感じ、逗子に家を借りて会員が滞 在できる場所を確保し、会費にはこの家を利用できる権利が含まれるように した。移住後も時の旅人プロジェクトは継続し、会員も 100 名を超え、2012 年には名称を「ゆんたくガーデン」に変更した。2011 年 8 月に石垣に移住し てきた直後には、島の住民と知り合うきっかけがなかったため、10 月頃に ミクシィで移住者の会の呼びかけを行い、12 月に 1 回目の会を開催したと ころ 15 名の参加者があった。参加者は全員時の旅人プロジェクトに加わり、 現在でもその約 40%が会員として残っている。 ゆんたくガーデンが石垣市から業務を受託するきっかけとなったのは、 2016 年度に沖縄県が移住・定住促進事業として行った「地域の世話役養成塾 8). (以下、養成塾) 」 に O 氏が参加したことである。養成塾の研修には自然保 護に関連した内容も含まれており、移住前から自然保護活動に関わり石垣島 の自然保護に強い関心を持っていた O 氏は「他の誰かではなく自分が」と思 い参加者として手を挙げた。この養成塾には、ゆんたくガーデンの理事とな る Y 氏も参加しており、考え方や方向性が一致していることから一緒に仕事 をすることになった。 この時の養成塾は 2017 年 2 月に終了したが、終了時に行われた懇親会で 同席した石垣市の担当者から O 氏に対してゆんたくガーデンの法人化と移 住促進に関する業務の委託について打診があった。これを受けて、2018 年 4 月にゆんたくガーデンを法人化して「一般社団法人ゆんたくガーデン」が設 立され、同年 10 月の移住体験ツアーのプロポーザルに応募して採択された。 前述したように石垣市は、支援計画に従って移住コンシェルジュを養成し、 移住者支援組織を設置して、その支援組織に移住促進の具体的業務を任せる ことを方針としており、養成塾に参加した移住コンシェルジェである O 氏や Y 氏が運営するゆんたくガーデンに移住促進業務を委託することは、市の方 針に沿ったものである。2019 年からは移住体験ツアーだけでなく石垣市の 移住・定住支援に関わる幅広い業務をゆんたくガーデンに委託している。. 地域創造学研究. 35.
(10) 論文. (2) ゆんたくガーデンの活動 ゆんたくガーデンは、 「自然保護部」 「文化保護部」 「移住定住部」の 3 つの 9). セクションからなる 。自然保護部は、八重山の自然・文化・歴史等を伝え る「しまみん紙芝居」を実施している。 「しまみん」とは、石垣島にいたとされ る幻のヤマネコ「しまみんちゅう」にちなんだゆんたくガーデンのオリジナル キャラクターで、このしまみんが紙芝居で八重山について語るというもので ある。文化保護部では、石垣島の島言葉の普及・継承と島言葉を通じて石 垣島や八重山の風土・文化を伝えることを目指し、定期的に「スマムニ(島言 葉)講座」を開催している。この講座の受講生は、 「スマムニ広め隊」として市 内のデイサービス施設等に慰問に訪れ、島言葉による民話の披露や歌の公演 を行っている。また移住定住部は、市から受託した移住促進業務をはじめと した移住・定住支援を行うセクションで、石垣市の移住の窓口となっている。 表 2 ゆんたくガーデンの活動 ( 2018 年度下期・2019 年度上期) 年度 ⽉. 活動. 10 移住者の会「秋のBBQパーティー」開催 11 「しまみん紙芝居」開始 12 第1回⽯垣市移住体験ツアー実施 2018 下期. 移住者の会「年忘れ鍋パーティー」開催 1 「平得種取祭」⾒学会実施 第2回⽯垣市移住体験ツアー実施 2 スマムニ広め隊 デイサービス施設慰問 3 新春ゆんたく会「紙芝居と三線ライブ」開催 ヨットで海の環境学習 4 マーペー(野底岳)登⼭ 「移住者ウエルカムBBQパーティー」開催 ⻄表島「船浮⾳まつり」のエスコート 5 スマムニ広め隊 デイサービス施設慰問 沖縄県社協主催「⽩保のハーリー移住体験ツアー」コーディネイト. 2019 6 移住者交流会開催 上期. ⽩百合まつり「茶⽊みやこ&池原コーイチLive」開催 7 「オリオンビアフェストで⼀緒に飲もう」開催 スマムニ広め隊「スマムニを話す⼤会」参加 「⽩保豊年祭」⾒学会実施 8 第1回習慣⽀援機能拡⼤研修参加 9 「とぅばらーま⼤会」⾒学会実施. 出典:ゆんたくガーデン 「石垣島ゆんたく通信」 より筆者作成 36.
(11) 地域の価値共創における中間支援組織の意義と役割. 表 2 は、2018 年度下期と 2019 年度上期のゆんたくガーデンの活動をまと めたものである。スマムニ講座のような定例の活動は除いている。移住希望 者・移住者と住民・地域との交流を促し、八重山の文化への理解を深める幅 広い活動を行っていることがわかる。 移住体験ツアーや移住相談の参加者は、ゆんたくガーデンの会員として登 録され、ゆんたくガーデンが実施するイベント等に参加することができる。 2020 年7月現在の会員数は 316 名で、島民 75 名、移住者 81 名、移住希望者 を含む島外在住者 160 名となっており、様々なイベントに参加すれば、石垣 島や八重山についての理解を深めるだけでなく、移住前から島での人的な ネットワークを構築することができる。人的ネットワークがあれば、移住後 に困ったことがあっても支援を得ることができるため移住後の不安を軽減す ることになる。また移住後の実際の生活や各地区の状況について知り、移住 に際して必要となる不動産の情報等も得ることができるので、移住前の期待 と移住後の実際の乖離による短期の離島を防ぐことにもなる。 (3) 移住・定住支援活動の拡大 ゆんたくガーデンは、築 80 年を超える古民家を拠点として活動してきた が、老朽化が進み雨漏りが酷いだけでなく台風の際に床が落ちることもあっ たため、2020 年 8 月に石垣市役所にも近く中心地から徒歩で行ける距離にあ る古民家に拠点を移した。新拠点は「八重山院(やいまいん)」と名付けられ、 ゆんたくガーデンの本部であるとともに移住体験・研修施設としても利用さ れる。また同時期に北部の伊土名にも移住体験と研修のための施設として 「知魚楽荘(ちぎょらくそう) 」が開設された。 「知魚楽」とは、荘子外篇第十七 の秋水篇の荘子と恵子の問答に因んだもので、 「石垣島の良さを理解するた めに試しに移住体験してみよう」 という意味が込められている。 知魚楽荘の利用目的は、①移住スタイルを確立するためのステップ利用と ②移住に関する施設利用の 2 つに大別される(図 6 ) 。移住スタイルを確立す るためのステップ利用としては、 「お試し移住」、「二段階移住」、「二拠点移 住」 、 「就労移住」 、 「石垣島移住体験ツアー」がある。お試し移住は、2 週間か 地域創造学研究. 37.
(12) 論文. ら 1 か月の期間知魚楽荘に滞在しながら石垣島に住むための研修を受けるも ので、二段階移住は石垣島北部の更にローカルな地域や西表島等の離島に移 住する前に、まず市街地に住んでみて島の暮らしに慣れ定住できるかを確認 するためのものである。また二拠点移住は、島外の居住地と石垣島を往来し ながら島についての理解を深め将来の移住に備える意味がある。職業体験を しながら滞在する就労移住や移住体験ツアーに参加してより短期に滞在する こともできる。移住に関する施設利用は、ワーキングホリデーやインターン シップの受入れやイベントの開催等、島内外の交流の場として利用される予 定である。施設が充実したことにより、移住・定住支援活動の広がりと交流 促進機能の一層の強化が期待される。. 図 3 ゆんたくガーデンの移住体験・研修施設. 出典:石垣市 HP 地図とゆんたくガーデン資料より筆者作成. 38.
(13) 地域の価値共創における中間支援組織の意義と役割. 図 4 新拠点兼南部の移住体験・研修のための施設 「八重山院」. 出典:ゆんたくガーデン作成資料. 図 5 北部の移住体験・研修のための施設 「知魚楽荘」. 出典:ゆんたくガーデン作成資料 地域創造学研究. 39.
(14) 論文. Ⅰ. 移住スタイルを確⽴するためのステップ理由 ・お試し移住:住むための研修付き(2週間〜1カ⽉) ・⼆段階移住(ステップ移住):市街地でまず住んでからローカルへ ・⼆拠点移住(マルチ移住):県外/県内から離島のお試し ・就労移住:職業体験(農業・マリン・酪農・観光) ・⽯垣島移住体験ツアー(宿泊研修利⽤) Ⅱ. 移住に関する施設利⽤ ・北部地域交流、施設ワーキングホリデー ・学⽣インターンシップ、ヒアリング受⼊れ ・⾃然観察会、北部の⾃然を知るエコツアー ・北部地域を知るゆんたく交流会 ・1⽇移住体験ツアープラットフォーム 図 6 知魚楽荘の利用概要. 出典:ゆんたくガーデン作成資料. 5.ゆんたくガーデンの移住・定住支援活動と地域価値共創 企業にとって価値共創とは、顧客の消費プロセスで企業と顧客の直接的な 相互作用によって顧客にとっての価値を創り上げることであり、顧客との接 点を持ち、その接点においてインタラクティブなコミュニケーションを交わ し、そのプロセスの中で相互作用を通じた企業と顧客との価値共創が行われ ることで、顧客にとっての文脈価値が共創される(松村 2016 ) 。価値を生み 出すためには、共創的なコミュニケーションが行われる「場」が必要であり、 地域の価値共創においても協働力を引き出す活力ある「場」を生成することが 重要である (藤岡 2018 ) 。 ゆんたくガーデンは、行政と密接に連携しながら移住・定住を支援する サービスをワン・ストップで提供している。ゆんたくガーデンが開催する移 住相談会やイベントは、移住希望者と島の移住者・住民との間でのインタラ クティブなコミュニケーションによって直接的な相互作用を生み出す「場」で あり、移住希望者は移住のための情報だけでなく島の生活や環境・文化等に ついて理解を深め、島の様々な地域資源に価値を認めれば価値が共創され移 40.
(15) 地域の価値共創における中間支援組織の意義と役割. 住に至る。またゆんたくガーデンは、移住希望者や移住者・住民というアク ターによるサービス・エコシステムを形成し、常に新しい会員を受け入れる ことで拡張している。移住希望者は、移住前からこのサービス・エコシステ ムの一員となることで、移住前にサービス交換や資源統合によって移住のた めの課題解決や移住の意思決定を行うことができ、移住後もエコシステム内 で必要な資源を入手し、問題の解決や機会の追求を行うことができるので、 定住促進を促す効果が認められる。 ⽯垣市 助成(補助⾦など). 移住・定住⽀援業務委託. ゆんたくガーデン. 移住希望者. 移住定住部. ゆんたく ガーデン会員. ⾃然保護部. 移住者 住 ⺠. ⽂化保護部 移住者. 図 7 ゆんたくガーデンを中心とした移住・定住支援の仕組み. ゆんたくガーデンの代表理事である O 氏は、元々は島外から移住してきた ため移住者にとって必要な情報について理解しており、民間の立場から移住 者にとって必要な情報を提供している。例えば移住に当たっては住居を探す 必要があるが、行政が不動産会社を紹介する場合は公平性の観点から特定の 企業だけを紹介することはできない。民間であるゆんたくガーデンに業務を 地域創造学研究. 41.
(16) 論文. 委託することで、移住者に寄り添ったサービスを提供する企業を選んで紹介 することが可能となる。また O 氏は、これまで自らが中心となって地域の活 性化に関わってきた経験を持っており、東京時代も含めた豊富な経験を活か してイベントをはじめとする交流を促す活動を企画することで活力ある「場」 の生成に寄与している。 移住者であるゆんたくガーデンのスタッフが、自らの経験に基づいて移住 者の視点に立った支援を行うことや移住希望者が移住前から価値共創の主体 としてサービス・エコシステムに加わることは。初頭性効果の観点からも、 移住後の価値共創を促し定住を促進する効果が期待できる. 10 ). 。. 6.おわりに 本研究では、石垣市の移住・定住を支援する中間支援組織であるゆんたく ガーデンを事例に、S-D ロジックの価値共創の視点からその意義と役割につ いて考察し、以下の点が明らかになった。第一に、移住・定住を支援する中 間支援組織は、イベントなどの活動によって共創的なコミュニケーションの 「場」 を生成し地域の価値共創を促進する。第二に、中間支援組織の会員によ るサービス・エコシステムが形成されることで、アクター間でサービス交換 や資源統合によって必要な資源の入手が行われ、問題解決や機会追求が可能 となるため移住や定住が促進される。第三に、行政が業務を民間の中間支援 組織に委託し連動することで、公平性の維持のために制限を受ける行政の限 界を超えたサービスをワン・ストップで実施することが可能となり移住希望 者の利便性が向上する。そしてこのような移住する側の視点に立った支援策 を、移住者が運営する支援組織を通じて、それを必要とする移住希望者に、 適切なタイミングで提供されることができれば、地域の文脈価値の共創に繋 がる。第四に、移住者と住民双方について理解が深く、地域活動の経験を持 つアクターが支援組織の要となることが、価値を共創する活力ある「場」の維 持には有益である。 企業のマーケティングから生まれた S-D ロジックを地域の分析に適用した 研究は、まだ緒に就いたばかりである。またサービス・エコシステムに関す 42.
(17) 地域の価値共創における中間支援組織の意義と役割. る課題も今後の研究の蓄積が待たれている。ゆんたくガーデンは、新たに移 住希望者滞在施設を整備するなど移住者と地域を結ぶインターフェースとし ての機能充実を図っており、今後の活動の拡張によるサービス・エコシステ ムの進化について分析するのが次の課題である。. 謝辞 本研究は、JSPS 科研費( 18K18280 )の助成を受けたものである。ここに 記して謝意を表す。また調査にご協力いただいた一般社団法人代表理事大倉 氏、石垣市役所企画政策課とゆんたくガーデンのイベント・移住相談会に参 加された皆様に深謝いたします。. 注. 1) 2020 年 7 月の東京圏の転入者数は 29,103 人、転出者数は 30,562 人で、1,459 人 の転出超過となっている。総務統計局「住民基本台帳人口移動報告 2020 年(令 和 2 年)7 月 結 果」https://www.stat.go.jp/data/idou/sokuhou/tsuki/index.html より 2020 年 9 月 16 日取得。 2) 石垣市観光交流協会 HP「石垣島を知る」 (https://yaeyama.or.jp/info-ishigaki/ ) より 2020 年 10 月 5 日取得。 3) 南ぬ島石垣空港 HP( https://www.ishigaki-airport.co.jp/index.html )より 2020 年 10 月 5 日取得。 4) 「石垣市人口ビジョン」によると、移住ブームの際の I ターンによる流入は、 2006 年から 2007 年がピークであったが、石垣市以外を本籍とする人の流出が 2008 年にピークを迎えていることから、移住ブーム時の移住者が定着しなかっ たと推測されている。 5) 中間支援組織については様々な捉え方があり、必ずしも明確に定義されてい るわけではない。本研究では、「行政と地域の間にたって様々な活動を支援す る組織」 (特定非営利活動法人北見 NPO サポートセンター http://www9.plala. or.jp/kitami-npo/tyukan.html より 2020 年 9 月 16 日取得) と定義する。 6) オペラント資源は、価値を創造するために他の資源を操作する知恵やスキル などの無形の能力である。これに対し、価値創造のために操作される資源を オペランド資源と呼ぶ。例えば、ある製品を生産する場合、生産に必要な技 術や知識はオペラント資源であり、製品の原材料はオペランド資源である。 7) 沖 縄 県 HP 保 険 医 療 部 八 重 山 保 健 所「Ⅱ 総 務 企 画 班」 ( https://www.pref. okinawa.lg.jp/site/hoken/hoken-yaeyama/somu/gaiyou/documents/03_. 地域創造学研究. 43.
(18) 論文 soumu.pdf )2020 年 7 月 23 日取得。 8 ) 沖縄県が移住者受け入れ促進のために 2016 年度から実施した事業で「 3 年間で 各市町村に 1 人以上の移住希望者と地域住民をつなぐ世話役を養成すること」 を目標に実施された。募集は県内の各市町村を通じて行われた。 9 ) 一般社団法人ゆんたくガーデンHP( https://www.yuntaku-garden.net/nature/ ) 2020 年 10 月 7 日取得。 10 ) Asch( 1946 )は、最初に提示された情報が最初の印象を作り出し、最初の印象 が、その後の判断に重要な影響を与えるという印象形成による初頭効果を実 証したが、この初頭効果が、地域の印象形成や移住者の移住後の行動にも影 響する。詳しくは、大和( 2020 )を参照。. 引用・参考文献. 1 ) Vargo, S. L., and R. F. Lusch( 2004 )"Evolving to a New Dominant Logic for Marketing" Journal of Marketing, Vol.68, No.1, pp.1-17 2 ) Vargo, S. L., and M. A. Akaka( 2012 ) “ Value Cocreation and Service Systems( Re )Formation: A Service Ecosystems View ”, Service Science, Vol.4, No.3, pp.207-217 3 ) 大藪亮( 2015 ) 「サービス・ドミナント・ロジックと価値共創」 、村松潤一編著 『価値共創とマーケティング論』、pp.54-69、同文舘出版 4 ) 庄司真人( 2017 ) 「地域の価値共創:サービス・エコシステムの観点から」 、 『サー ビソトロジー』、Vol.4、No.3、pp.18-23、サービス学会 5) Vargo, S. L., and R. F. Lusch( 2017 )“ Service-Dominant Logic 2025 ”, International Journal of Research in Marketing, Vol.34, pp.46-67 6) 村松潤一( 2016 ) 「価値共創とは何か」、村松潤一編著『ケースブック価値共創 とマーケティング』、同文舘出版、pp.1-17 7 ) 藤岡芳郎( 2018 ) 「地域活性化活動における場の生成プロセスについて 価値 共創アプローチでの理論的考察」、 『大阪産業大学経営論集』 、第 19 巻、第 2・3 合併号、pp.25-42 8 ) Asch, S. E.( 1946 )“ Forming Impressions of Personality ”, Journal of Abnormal and Social Psychology, No.41, pp.258-290 9 ) 大和里美( 2020 ) 「竹富島の移住者価値とネットワークが果たす役割」、『地域 活性研究』、Vol.12、pp173-181. 44.
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