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朗読音声の熟達に関する音響的研究
一朗読非熟達者の熟達過程における音響的特徴ー
教科・領域教育専攻
言語系コース(国静
村 田 真 樹
1
.
研究の目的
本研究は,実験音声学的手法を用いて,朗読非
熟達者の熟達過程における音響的特徴について明
らかにすることを目的とする。
2
.
研究の概要
朗読音声の研究については,ポーズ・イントネ
ーションの視点からし、くつカ報告されている。た
とえば,郡(2014)は;CDとして販売されている朗
読の熟達者6名分の『ごん狐』の朗読音声を使用
し,朗読の熟達者に共通する特徴を検討している。
6名分の朗読音声を検討することによって,模範
となり得るイントネーションとポーズの挿入位置
を示し,参考資料としてまとめている。その中で
も,朗読熟達者の文内のイントネーションの使い
方を示すことによって,非熟達者が目指すべき一
つの姿を具体的に提示したことは重要な示唆であ
る。しかし,朗読の本難句な「朗読者が原作者や
登場人物など,文学作品(台本)におけるさまざま
な表現主体の立場(特にその視点と心情)に立って,
実際に彼らの心情を直接表現しなければならな
い。
J
(東 2008:121)読み手に委ねられている部分
(熟達過程)のアブロローチがおこなわれていないた
め,熟達するまでの示唆が得られない。
このような問題は,郡(2014)に限られたもので
はなく,これまでの朗読音声の研究(山田2007,白
勢 2011,・・・)にも共通していえることである。熟
達した朗読音声には,それぞれに熟達過程が存在
指導教員
田 中 大 輝
する。熟達過程を考慮せず,朗読の非熟達者が熟
達者の朗読音声をそのまま模倣すると,単なる技
術の学習に終わるおそれがある。したがって,朗
読音声の熟達に関する音響的研究をおこなうため
には,具体的に読み手の熟達過程を示す必要性が
あると考える。
そこで,本研究では, 2週間分(15回分)のプロ
グラムを作成した。プログ、ラムは熟達の一つのき
っかけとして,登場人物の状況や心理状態のイメ
ージを持って朗読する手がかりそ継緋
J
切こ取り組
む効果を明らかにしたものである。これによって,
従来の研究とは異なり,読み手に委ねられている
部分(熟達過程)の内容が明らかになる。統一した
プログラムを経て,プログラム前後の朗読音声が
どのように変化しているのかを観察し,朗読音声
における熟達過程の音響的特徴について明らかに
する。朗読音声の熟達に関しては,ポーズ・ヒoツ
チ・フォルマントの視点から総合的に検討する。
3
.
実験の概要
本研究では,朗読音声の熟達過程を考察するた
めに2週間分のプログラムを作成し,学生(18,19
歳:女十自に取り組んでいただいた。実施期間は,
2017年5月10日(第1回)から5月24日(第15回)
である。学生には1日 1回, 1週間に6回分のプ
ログラムを各自に取り組んでいただいた。また,
プログラムはワークシートの形式を採用しており,
学生が取り組みゃすいように補助している。
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4
.
調査結果
読み手(A---F)の初回(5/10)と最終回(5/24)の朗
読音声を比較・検討した。その結果,朗読非熟達
者の熟達過程における音響的特徴が明らかになり,
『やまなし』の「地の文」と「会話文jにおける
熟達の指標として, (1) ---(7)の仮説を提示した。
その中から,(7)の仮説を取り上げる。
(
7
)
音色の変化について,
I
いま,おかしなものが
来たよ」の会話文において,無声音(高周波)の音
色が強いささやき声に変化する例(E2)がみられた。
フォルマント周波数の 3000Hz---4000Hzの音の強
さが明らかに変化しており,最終回の朗読では,
3000Hz---4000Hzの高い周波数帯の音色が表れてい
た。音色の変化から,兄の会話文の内容(かわせみ
の急襲を目の当たりにして,ぶるぶる震えている
状況)や兄の蟹の心理状態(恐怖)を深くイメージ
していることが考えられる。そのため,明瞭で聴
き取りやすい声に注目するだけではなく,ささや
き声のような明瞭で、はない声にも注目する必要性
があると考えられる。登場人物の状況や心理伏態
のイメージを音色で表現する読み手は,熟達して
いると考えられる。
5
.
結論
本研究は,朗読非熟達者の熟達過程における音
響的特徴について明らかにすることを目的とし,
実験音声学的手法を用いて,プログラム前後の朗
読音声の比較・検討をおこなってきたo 第
4
章で
は,地の文の川、さな谷川の底を写した二枚の青
い幻燈です。」を取り上げて,読み手 (k' F)の初回...
と最終回の朗読音声を比較・検討した。その結果,
6例中 4例 (A,C, D, E)の朗読に相対的な熟達がみら
れると判定した。次に,第
5
章では,兄弟の会話
文と兄父の会話文を取り上げた。地の文と同様に,
初回と最終回の朗読音声を比較・検討した結果,
兄弟の会話文は, 6例中 2例 (E,F)の朗読に相対的
な熟達がみられると判定した。また,兄父の会話
文では, 6例中 6例 (A,s, C, D, E, F)の朗読に相対的
な熟達がみられると判定した。全体的には, 18例
中12例の朗読に相対的な熟達がみられた。熟達の
指標については,第
4
章の第
2
節,第
5
章の第
3
節において, (1) ---(7)の仮説として提示すること
ができた。
以上,本稿では,ポーズ・ヒ。ッチ・フォルマン
トの視点から朗読音声の熟達について迫り,朗読
非熟達者の熟達過程における音響的特徴について
明らかにしてきた。今回は,個人の朗読音声の熟
達していく過程に主眼を置いたが,今後は,読み
手の視点だけではなく,聴き手の視点を含めた聴
取実験をおこなう必要がある。さらに,第
4
章,
第
5
章において,熟達の指標として提出した(1)
---(7)の仮説を検証する課題が残っている。その他
にも課題は残っているが,朗読音声の熟嵐晶程に
おける研究成果が国語科教育,音声言語教育,実
際の教育現場に繋がることを期待したい。
文 献
郡史郎(2014) I朗読の物語におけるイントネーシ
ヨンとポーズ
:
:
-
w
ごん務叫の6種の朗読におけ
る実態ーJW言苦文化研究]40:257-279
白勢彩子(2011) I朗読音声のイントネーションの
定性的比較
J
W
東京学芸大学紀要人文社会科学
系 1.]62: 63-68
東百道(2008)W朗読の理論感動をつくる朗読をめ
ざして』木鶏社
山田彩子(2007) I朗読音声のイントネーション」
『悌加に学大朝
1
7
L
紀要.]35:53-67