(東京女医大誌 第25巻 第7号頁243−250昭和30年7月)
〔C.pc(第12回臨床病理集談会)〕
腸膿瘍を合併しアこ先天性肺動豚弁口狭窄症
第72回東京女子医科大学々会例会
昭和30年4月28口 臨床講堂にて
病 歴
患老;6年エ0四丁 ♀ 1954年10月18日死亡 淘’会. 冨 田 轍:授 既種歴;体重900匁,成熟児として順調に生 る。母乳栄養,種痘,麻疹を経過。百日咳,ジフ テリー未患。3才の時扁桃腺炎。 家族歴;両親健康,同胞3人中三者は長子にて 他の2人は健康。潰伝的疾患なし。 現症歴;乳児期は発育がおそbと思った丈で顔 色異状に気付かす。授乳,入浴時にも特別のごと なし。 ○歩行開始2才。歩くと息切れして長く歩けす。 二二より心臓病と言われこの頃より顔面チアノー ゼ有るに気すく。01954年9月現在,歩行50m位で息苦しくな
る。登校は自転車に乗せてつれていってもらう。 入浴時異常なし。食慾良好ならす。 01954年9月20日 午前中元気があったが午後 より38。Cの発熱あり。嘔吐2回。夕:方呼吸困難 約15分つss一く。左半身の痙攣2回20分つつありそ の後ぐっ.すりねむる。 09月2エB 朝38。C 午前10時頃呼吸困難10 分位。午後1時入院。来院時も時k’痙攣あり。 入院時象要所見;体格中,栄養中等,爪床口 唇,日腔粘膜等著明なチアノーゼ有り。捲に鼓俘 指をみとめる。意識明瞭,一門120緊張良,呼吸 平静,眼瞼結膜暗赤色にて眼脂te’ 1)。瞳孔正常。 舌苔あり地図状舌を呈す。淋巴腺腫脹ニヵ所にあ り。 心:心尖搏動左乳線より1横指外。心濁音界の 左縁は左乳線外1横指にあり,左第2,第3肋間 に強く,左回4,右第2肋間に弱い収縮期性雑音 をきく。 肺:o,B 腹部:o,B,肝脾をふれす。 反射:膝蓋腱,アキレス腱反射は左にあり右は 不明。項部強直なし。Kernig e, Babinsk.i←う 入院後経過;体温:表参照
痙攣嘔吐:入院時のみにて,あとは現れす。
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2 神経症状:9月25日左頬に攣縮あり。10月1日 より堂々頭痛を訴へる。腱反射多くは左側が冗 進。 〆 10月6Hより左手に麻痺。 Kernig, Babinski は全経過中〔→。 腹部:著変なきも10月14日頃より屡k腹痛あ り。食慾,二丁,9月末までは良好であったが以 後悪v・。 心所見:入院時と略々同様。両側鎖骨下に収縮 期性雑音をぎ玉,右Parasterna1−linie Va ,O、搏動 ふれる。Schwirrenなし。 諸検査成績; ,血液:9月23日血色素130%,赤血球600万。 白血i求76000 白血ヨ求分癸頁 (1. 0, 皿. 22, 皿. 23,INr.12, V.6計57)ヘマトクリット 57%。 血液循環時間:臆肺13”,搏耳19,i。 脳脊髄液:9月25日10月2日の検査にて液圧300 及370 mmH z O,細胞数1及4。No皿e, Pandy 共にe。 培養;血液培養常にe,ワ氏反応e。 尿; 9月中著変なきも10月初旬より蛋白弱陽 性,白赤血球少数をみとめる。 赤血.球沈降速度:30分∼0,1時聞∼0,2時
間∼2mm。
笠井助教授 小児科としては,先天性心疾患それに始めのう ちはAnginaが二つたものだと考へてをりまし た。 その後,検査を致し症状をみておりますと, 熱,嘔:吐がありHirnembolieではないかしらと 老へました。Herzの方はFallotを疑い,それ にHirnembolieを考へて,その:方針で治療をし てき一ました。 内科の先生!此んな症状でしたらどんなもの でしょう。 山田助教授 その所見ではHerzの左の方はわかってますが 右の:方はどうであったか。左第三肋間に収縮期雑 音があったが,それに第二肺動脈音の充進があっ たかどうか。それに麻痺とありましたが,運動麻 痺であったかどうか。右の方のHerzが大きかっ たかどうか。 笠井二野授 別に大きいと言う程でも無いです。 山田助教授 血圧はわからないですか。 笠井助教授 わからないでづ』。 山田助激授 私の考へでは,右にもHerz大ぎく,Zyanose・ ちょめい,それから左第3肋間に強い収縮期雑音 が聞かれた。第2肺動肱音の充進があったかどう か?,無かったとしたらFa110tが内科でも考へ られます。 その時不思議に思われるのは,血液循環時間が 延長しているのではなv・かという事であります。 若しFallotならば短縮してもよいのではないか と思うが,此の点Fallotとしたらi理解に苦しむ。それからKrampfがあったというのはHerz
fehlerだったら解るが, Herzが肥大して,衰弱 が起つたんだろうと思うんですが。そういう事か ら矢張りEmbolieを考へる事が一番妥当だと思いますが,Fa110tでEmbolieがそんなに簡単
にくるかどうかは一寸解りませんが症状から言う とEmbolieの症状だと思v・ます。 笠井助教授 あとレントゲンと,E. K. G.がとってありま すから,見てV・た穿きたいと思V・ます。 榊原激授 あの,左の方は大き過ぎる様な気がしますが, 年は幾つですか。 笠井助教授 6年10ケ月でございます。 榊原激授 まあ,呪ういうZyanoseがある点から言うと ProbabilityにおいてFa110tを考へるんであり ませうが,心音が特に弱かったと言う事,収縮期 雑音が弱くて左:右同様に聞かれたというごと,特 にC.P.Cに出て来ているとV・う事から老へると (笑声)何か他のものではないかと思います。 Herzが:左右に大きいという凄から例ば一心房だ と考へると,これは生れてすぐZyanoseがくる はすだが,此の揚合大きくなってからぎているか ら,それより末梢の方に短絡のあるもの例へば Truncus arteriosusの様なものでせうか。 それ’からHirnembolie と腹痛,これは恐らく MesenterialgefEssの栓塞ではないかと考へま がす。Zyanoseがありますから,赤血球が非常(2) (1) ゾ di 毒
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scVp . . llし 「”’i∴・’乱』』「’∵、三、lli 一∼1一∼一一隔∼i”・’融》㌔;」一∼』 に多くなって血液の濃縮がありますのが原因にな ってその結果Emoblieを起し,:更に何かの機転 で炎症を合併したんではないかと思V・ます。 笠井助教授 一寸伺v・まう’がZyanoseがあるとよくBauch・ schmerzをうったへるんですが, うったへるわ けはなんですか? 榊原教授 特に末期になって血流そのものが遅くなると, 沢山赤血球があり血液の濃縮があるから。 笠井助教授 左様ですか。此のBauchschmerzが最後迄解 らなかったんですが,虫のせV・かと思ってV・まし たが一向治りませんでした。死亡する迄痛がって いたもんですから。ありがとうござvoました。此 れ,E.K.Gですが私,一寸わかりませんから内 科の先生御説明を。 山田助教授 此のE.K.Gは標準四肢誘導の1皿1ですが此 れから言v・ますと,Sinusrythmusでpが綺麗に 出ております。Hauptzackeが第一誘導で下向 き,第三誘導で上向きで,Hauptzacke第三誘導 が一番高い。立つた形のHarzとV・うことになり ます。であとは心筋障碍,ST−Tの形で心筋障碍 を判断しますが,第三誘導で少しSTが平だV・感 じがするが,此では心筋障碍は判断出来ませ んへ一寸私は,aVRの誘導でHauptzackeが上
向きになってV・るのが理解に苦しむんですが普通 は逆転しているんですが。 此れは胸部誘導ですが此れでゆくと第一の Hauptzackeが逆になるのだが,此れは上向きに なって此れから云うと右のHypertrophieがあり ます。此れからみると,Myokardの変性の所見無
く,唯右のHypertrophieあり, Herzが立っ てV・るとV・うことがE.K.Gから判定出来ると思 います。 笠井助教授 何か色々の御意見伺わせてV・たN“〈.gございま せんでせうか。此んな事も調べておけばよかった ということ。教へていた穿き度いと思います。 一寸,状態が悪かったもんですから精密検査が よく出来なかったんですが,此れ位の状態ならこ んな事出来たんではなV・かとV・う事等教へてV・た Y’ ォたV・と思います。 無ければ病理の方の御説明願V・ます。 今井教授それでぼ饒剖の結果をお話し致します。結論が ら言へばひどV・肺動豚弁口狭窄症と脳膿瘍という tとになります。此の二つは此の例では直接の関 係はなV・様に思われます。 病理解・剖学的診断は。1)肺動肱弁口の狭窄,2) 卵円孔の温存,3)右上の拡張性肥大,右房の拡 張,4)三尖弁の二二性心内膜炎,5)脳膿瘍,6)亜 急性腎:炎,7)亜急性脾炎,8)急性胃炎,9)著明な 鼓桿二等です。 次に臓器の目方ですが,体璽は測り方が不正確 であったのでこ玉には書いてありませんが,大体 普通の大きさの子供です。脳は13209,心2509で 何れも大分重い。肺は左右共に65g。脾は42gで 少し重く,肝は6509。腎は左右各々909でかなり 重い。 外見所見で顕著なことは,口唇に強v・Zyanose あり,手足の指に高度の鼓桿指をみとめること, 叉胸廓の前後径がながく,心臓部がや明彰話して v・ることです。 先づ心臓から説明致します。外観は写真(1)の ような形で鳥山の肥大が著明です。心嚢液はやN 増加して居ました。大高台の周囲に血管がよく発 達しています。此の右室の切口の所で右心室の特 にCon.usの所が大変厚いのがお分かりと思v、ま す。写真(2)は肺高富弁口を肺動山側から見たも ので弁膜が癒合,肥厚して鉛筆のしん位内径のか たい管になっています。よく見ますと癒合した弁 膜は肺動四壁の所では一応3つに分れています。 ファロ ・一 JI四徴症では屡k弁が2枚であったり, 大きさに不同があったりするのですが此の例では 略A’同じ大きさに分れてV・るとV・う事から一度は 3枚に出来たのだが後で癒合したもので先天性の 崎型といってもファP ・一の様な心臓の発生の上の 障碍ではなくて胎生時の心内膜炎:と考へた方がよ v・と思v・ます。ファロ・一にある様なConusの Stenoseはありません。その次の写真(3)は右房 から卵円孔を見たところです。卵円孔の開存とい っても普通の開存の例の様に一つの大きい孔があ るのではなく大体は一応膜が出来ているのです が,それに飾の様に孔があV・ています。したがっ て房中隔欠損としてはあまり大きV億味はないと 思v・ます。次は三尖弁ですが:普通より肥厚してv・ る上に辺縁に粟粒大のいぼ状の附着物が少数あり ます。これはそうたやすくははがれナ,又弁膜の 破壊性変化もありまぜん。此の標本は三尖弁と右 房,右室壁とを一枚の標本につくったものでこれ でも気室のMuskeIの厚くなっているのが分かり ます。普通は此の四分の一位の厚さです。此処に 在るのが三尖弁ですがほY“全体線維性の肥厚があ って一血栓の心心,弁破壊はありません。たΨ所々 小さい隆起がありますがそれを拡大して見ますと 此の標本の様に(写真4及4’)此の部の結合織の 膨化,結合織性の細胞の増殖があり,表層では
Azan染色で濃く二二する液体のDurchtrank−
ungがあり一部は小潰瘍を形成してv・ます。し かし,細菌性心内膜炎の様な強VO壊死性の変化は なく,又細菌も切片標本で見出されません。 今御参老までにファロ ・一 ta敗血症をkombinie・ renした例を出してみると, (写真5)これも三 尖弁に出来ているのですが着附してV・る.血栓の中 に,多数の菌生落があり,叉壊死性の変化が強V・ のが分かります。これなら心室中隔の欠損があれ ば血.栓がはがれて大循環に入り,脳に感染性の栓 塞をおこすことはあり得るわけです。こ玉に見て V・る例の心内膜炎(三尖弁の)が今のファローの 例と同じ様なものなら.前醗が卵円孔を通して脳に 行くとV・うことも老へられないごとではなV・ので す。しかし此の例の三尖弁の変化はそうbう菌の 感染のある血栓性心内膜炎:の像とは異り,もっと mildでロイマチス性内膜炎といわれる変化に 近いもので,直接弁膜組織に菌が附着して’おこっ たものではない。したがって,此の例では心内膜 炎は脳の感染の原因ではなくて,脳膿瘍の結果を こった全身反応の一部と考へた方がよいと思V・ま す。勿論此の例は肺動H永弁口の狭窄により右心の 圧が非常に高いため,機械的刺戟と三二って三尖 弁に変化がお乙つたもので,普通の心ではもし, この様な変化がおこるとすれば僧帽弁又は大動二 野におこるのでせうQ三野の例の心筋の中の小動 豚を注意して見ると写真(6)(7)の様に小動肱内 膜に丁度三尖弁に見たような動豚内膜炎が見られ るところがあります。又左室心筋線維の肥大が顕 著である上,染色の態度が一様でないのは軽度の 変性の傾向をしめしています。 脳は全体に腫脹していますが特に右側が強くは れ,普通よりやはらかくなって居ます。割を入れ ますと頭頂葉を中心として前頭葉の主に白質の中 に全体として超鶏卵大で中に悪臭のある緑:黄色の 一 247 一6 濃い膿を入れた膿瘍があります(写真8)。周囲と の境界は内側では比較的scharf,外側は不規 則,前頭部は更に不規則で一部出1血を伴って新し V・崩壊の像をみとめます。組織像では此の所見に 一致して境界のSchanfな部は線維の増生が多く (写真9),不規則な所では脳実質内に出血を伴う 化膿性の炎症がdiffusに広がり脳膜の近くでは 軽V・脳膜炎の像があります。膿瘍壁の膿苔の中に は多数の菌集落をみとめます(写真10)。そうv・う 訳でAbscessが相当日数をへて居り,一部は進 行性であったことが分かります。症状が現れたの はAbscessがひろがって脳膜に及び,又運動神 経線維を侵したためでAbs㏄ssの古さは,症状よ りもつとさかのぼって老へてよいと思V・ます。此 の例ではどこから菌が入ったのか分かりません。 たy“前に申しました弁の変化から三尖弁の卵白物 の栓塞によるものではなめことはたしかです。 次は腎の変化ですが此の人のNiereは90g小 児にしては大きVb。顕微鏡標本の弱拡大でこの様 に糸毬打が大きく見えます。対照として同年令の 他の子供の:Niereをみると(写真11)此れは同 じ拡大ですが,糸毬体の大きさが大変ちがV・ま す(写真12)。 もっともZyanoseが強く赤血球 増多のある例では糸毬体は一般に大きいようで す。強拡大で見ますと糸毬体の細胞の増加があ lP,蹄係基底膜の膨化,肥厚が見られます。 H:arnは10月初め頃からEiweiss赤血球,白一血 球が出て来てV・ますがこの腎の所見から亜急性腎 炎:が併せて起つたためと老へられます。これも脳 濃艶がもとになった全身性の反応の一部です。 それからMilzは429で子供にしては大きい。 組織学的に脾髄の細胞増加,線維の増生による髄 索の拡張がありこれも脳の感染によるものです。 以上で主な所見をのべましたが,猶急性の胃炎 がみられます。胃粘膜全体に強い発赤と浮腫状の 腫脹があり組織学的には(写真13)粘膜固有層に 充血と多形核白血球の浸潤があり,変化の強いと ころでは粘膜上皮の欠損があります。腹痛の原因 の一部はこれで叉榊原先生の云われたような1血液 の濃縮による1血流の変化も特に心の衰弱が来れば 腹痛の原因となり得るでせう。 こSで今一度臨床症状をふりかへって見ます と,生下時よりあった肺動肱弁口狭窄に原因不明 の脳膿瘍を合併し,膿瘍の存在はそれが進行拡大 して,脳膜に近づぎ叉運動性神経に障碍をあたへ ではじめてたしかな脳症状となって現われたもの で,その他の臨床的,病理学的所見はそれから誘 発された変化であると老へられます。実物は止拠 にありますから御覧下さい。(拍手) 笠井助教授 御質問は? 榊原教授 心室中隔欠損は全然ありませんでしたか? 今井教授 ありませんでした。 冨田教授 別に何か御質問,御意見などありますでせうか なければ之でを終ります,どうもありがとう存じ ました。 (1) (2)
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