説 苑
曙女医蕪、堅巻平門二言〕
先天性筋ジストロフィー(福山型)の.リハビリテーション効果
都立医療短.期大学 ヤマ ガタ ヨシ コ山 形 恵 子
都立北療育医療センター フジ モト テル ヨ コ藤 本 輝 世 子
(受付平成5年6月25日) Effect of Rehabilitation on Fukuyama Congen量tal M“sclllar I)ystrophy Yoshiko YAMAGATA Tokyo Metropolitan College of Medical Allyed Sc孟ences Teruyoko FUJIMOTO Tokyo Metropolitan Kita・Ryoiku Medical Center Among the Fukuyama・congenital muscular diseases, FCMD, which is frequently reported in Japan, presentS with distinctive symptoms associated with multiple joint contractures, impaired intelligence and hypotonia. Patients exhibit trunk flaccidity soon after birth, followβd by development− al retardation and poor physical growth. Rehabilitation with comprehensive medical and educational care in these patients should emphasize nqt only exercise training, but also provide guidance to facilitate both mental and physical development allowing adlustment to daily living. Of the 22 FCMD patients presented herein,17 have died. Early rehabilitation together with school education for total human development enabled then to have better communication and relations with other people, thus making it easier to accept assistance from persons other than their parents. Although most patients are not likely to survive beyond their teens, our present series of FCMD patients inc董udes a 30・year・old woman. The objective of rehabilitation should be ch量ld rearing(cultivation of human potentia1)to facilitate adjustment to daily living. はじめ.に 福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)症は 1960年福山1)∼3)により報告された疾患で,他の国 の報告に比べ日本の報告例が多い特殊性がみられ る.その後検討が進み,1981年4)には診断基準が確 立され,類似疾患との鑑別も検討されている(表 1).何らかの発達は4∼5歳頃までは期待できる ので,育児指導は重要な要素となる5)∼7). 近年医療の進歩,入間のQOL(quality of life) が注目され,育児,療育が理解されてきた.障害 を持ちながら身体機能の維持,精神機能の発達を促すリハビリテーションの立場からFCMDの療
育を整理してみた.合併症や事故による幼少期死 亡例を除けば多くが学童期から青年期へ成長を続 けている. 今回10年前(1983年)の報告例8}に追加し,成長 期にある症例の社会活動,援助問題も調査し検討 を加えた. 調査対象 最近30年間に経験観察できた22例(表2)で検 討した. 各症例の経過は男:11例中途中死亡9例,女:表1 先天性筋ジストロフィー症の診断基準と細分類4) A:必須条件 1)男女とも同頻度に罹患 2)生後8ヵ月以前に発症 3)運動発達遅延 4)全身性左右対称性筋弱力,筋緊張低下 5)深部腱反射消失または減弱 6)顔面表清筋罹患 7)血清ck値上昇 8)筋組織病変一通常の筋ジストロフィー所見と一致する B 3徴候による細分類 精神 歩行 筋仮性 細分類 遅滞 能力 肥大 1型(典型的FCMD) 十 一 十∼一 II型(重症CMD) 一 一 一 HI型(非典型的FCMD) + 一 一 IV型(非典型的FCMD) ± 十 十 V型傘 + 一 ∼ 自験 例数 48 2 4 3 4 串筋組織中に炎症性細胞浸潤散在を認め,ステロイドホルモ ンに若干反応する.その他はすべて1型と一致する. 1!野中途中死亡8例で,現在男2,女3例が生存 している. 地域の乳幼児期からの通園,学校教育経験は, 過年児で経験しなかった2例(女性)を除き,20 例全員が受けている. 成人(!8歳以上)に達した2例(女性)は,1 例が地域の通所福祉作業所,他の1例は施設入所 中で,病院内の作業訓練室の集団指導を受けてい る. 結 果 1.国際障害者年以前のリハビリテーション目 標 体調不良,病弱な本疾患児はややもすると医療 (合併症治療)中心のrehabilitationが生活の大部 分を占めていたが,子供の発達を促すことの重要 性,教育界の協力で効果を挙げていることに気付 き,両者の歩み寄りがみられた(1975年頃).当時 は多少の反発や行き過ぎもみられたが,生命の危 険に気付き,両者の調節がある程度可能となって きた. このような環境の中で,FCMD児を子供の集団 に参加させ,遊びの経験を通して社会生活への適 応を訓練,学習することが目標とされてきた.10 年前(1982年)でさえ日本の肢体不自由児養護学
校にFCMD児の在席は少なく,教師の理解も低
い状況にあった. 学校教育前段階としての地域乳幼児通園,保育 園,幼稚園など親子の療育参加はすでに1/4世紀を かけて進歩し,今では療育の入口としての位置が 確立されているが,10年前は必ずしも医師の理解 でさえ充分とは言えなかった. 幼児期は精神面,運動面ともに発達が期待され, 移動や座位が困難でも表情,声によるコミュニ ケーションは全例に観察され,病院受診時に比べ 自宅,通園では様々な反応を引出すことが可能で あった. 子供の発達指導には,子供の興味を利用すると 表2 調査対象者22名(男11名.女11名)男性 i月齢)定量 i年齢)座位 現 状 女性 i月齢)定頸 i年齢)座位 現 状
M1 5一 1.6−13 中3在学中 Hi 7一 1.0一 死亡
M2
5一 4.0−10 死亡Y
5一 1.2−13 中1在学中T
4一 1.0一 死亡 S 18一 不能 10歳死亡 F 9一 1.3一 死亡 Ty 5一 1.1−8.0 12歳死亡Mo
6一 5.0−10 死亡 Sa 6一 2.0−10 14歳死亡My
9一 2.0−7.0 12歳死亡 Ko 4一 1.Q−15 15歳死亡 Si 11一 不能 死亡M
5一 1.3−16 30歳生存A
8一 2.0−15 20歳死亡 Su 6一 LO−15 死亡 Fu 8一L645
死亡K
24一 2.6−18 18歳生存 Ti 8一 1.6−15 死亡 Ki 12一 2.0−10 死亡H
6一 1.6−10 中3生存中 Se 7一 1.0−15 23歳死亡共に,常に親の精神面の安定,継続する育児作業 と障害を配慮した幾つかの作業=自分で動けない 子供への援助理解,継続実行することに重点が置 かれている9)lo).しかし根気を要するこれらの作業 は親の不安感,拒否を生じやすい.専門職員には 負担を感じない行動も,親や介助者にとって価値 観が異なり,自宅での実践は行われにくい. 食事形態は離乳食レベルから援助,指導を行い, 多少の好き嫌いがあっても栄養摂取は可能とな り,親を勇気付けていく.常食(幼児食)に移行 できる例が多い. 排泄の習慣付けも実施される.FCMD児でも発 達の良い例では平均よりやや遅れるが自立(排泄 のサイン,言語)を獲得している.通園ではオム ツ使用例にも排泄リズム観察やトイレで便器に座 る練習(尿器など)も行う.食事に比べ排泄訓練 は親の価値観が低く,実践できない親が多い. 座位保持は体幹のバランスや介助手段により多 くが可能となる.早ければ2歳頃から安定し, 10∼15歳頃まで維持でぎる例が多い.しかし移動 動作(寝返り,いざり移動)は短く,11歳頃が限 界となっている. 2.国際障害者年子の10年の変遷 子供の発達を期待していなかった親にとり,学 校教育に参加し,毎日(体調により様々)親を離 れ学校に登校する事実は,喜びと共に驚きを与え た.しかし入学当初は教師がどう子供に接したら よいか理解できない場面もあったが,多くの FCMD児は幼児期の通園経験〔他人に慣れる訓 練〕があり,加えて施設の職員からは適切な情報 が伝達されるので,手さぐりながら子供とのコ ミュニケーションが成立してくる.夏休み明けの 9月頃より子供同志の慣れも手伝って,安定した 人間関係がみられる.時にはこの安定状況が過大 な目標に向かわせることもあるが,教員の補数担 任制をとる養護学校では,校医との連絡もあり 徐々に安全範囲について理解されてくる. 先に述べたように小学校高学年頃より,多くの FCMD児は運動機能低下を生じてくる. 座位も不安定になるが,興味のある場面では20 分以上も座位を保ち,逆に不快な場面では数分も 図1 Y女児,12歳 学校の教室での座位姿勢.尖足が目立つ. 図2 Y女児,13歳現在 手動車椅子の運動困難.胸ベルトで座位を保っている. 保持できない等の自己表現もする.また教室の机 や椅子への配慮は,教師が気付かないと,普通の 物を利用し(図1),変形している足先が床に接す る不安定な姿勢にも気がついていない.中学1年 の現在,座位が不安定で車椅子移動も困難となっ た(図2). 食事は小学3∼4年懇懇から,むせ易くなり, 水分の連続飲みも困難となってくる.教師は機能 低下に気付かず,牛乳をストローで飲むことを要 求していた.機能低下時の注意は親だけでなく, 教師にも伝達したいものである. 言語を獲得した子供も,年齢と共に開口位が増 え,舌の肥厚も加わり,発声が不明瞭で,声のトー ンが単純になってくる.しかし興味のある場面で
は大声を発し,歌ったり要求もできるので,人間 関係は維持しやすい.言語の獲得ができなかった 子供でも声による意思の表現はなんとか可能で, 慣れた教師や親には理解できる.中学レベルでは, 更に生活環境でのルールや社会に対する知識も学 習させる. K例(IQ35)の中学2年前期の記録では,国語: 物語のすじを理解し出てくる言葉を使っての言葉 遊びに参加できた.数学:大小の区別や量の違い を絵カードを利用し学習させたが数の処理は理解 しにくく,集中しないと記録されている.しかし キャンデーや菓子類を利用すると,多い方を要求 するとも記録され,物により敏感度の異なる点が みられた.保健体育,音楽:FCMD児を含む多く の子供達の関心は,給食,体育,音楽に集中して いる.保健体育では耐久性,体力測定を子供に適 合した範囲で行っている.例えば1分間に手を何 回動かしたか等の記録がある。 診察場面では競争心の引き出しは困難である が,学校ではより積極的な参加や適応場面を観察 することができる. 普通校では,身体機能が著明に発達する学年で, FCMD児は機能低下が目立ってくる.しかし生活 への適応性,精神面の成長(親からの分離=自立 的精神活動)は拡大してくる.運動機能の低下と 共に,背甲変形や四肢関節の変形拘縮が著明とな る. 体調を整えながら学校生活に参加できるよう に,生活環境を調節する必要がある. 座位を保てなくなる誘因は,頭部の支持性の低 下による,肩周辺の筋力低下が著明で,頭の傾き を立ち直らせる筋力の低下が考えられる(図3). このような状況では体幹を安定する椅子や胸高な ベルトで体を支える方法(図4)等,個人に適し た手段を利用する. 給食の形態は,身体機能の低下に従って徐々に 下げ,キザミ食,ペースト食など離乳中期レベル の例もあり,安全に栄養を補給し,口腔内の感覚 も満足させている.介助のスピードは低下させ, ゆったりした環境で与えている.時には口腔内吸 引を必要とする場面もみられる. 図3 K女児,18歳 介助で床上座位可.座位は不安定,口は開口位を示し ている. 図4 K女児,18歳 車椅子上で胸ベルトを使用すれば,座位は保持できる. 開口位はかわらない. K例は1993年3月高校を卒業し地域の福祉作 業所に参加している.幽幽の変形は著明で心肺機 能を圧迫していると考えられる.脳のCTでは軽 い脳の萎縮が認められる.心電図には著明な変化 を認めない.検査所見に比べ,運動機能の低下は 著明で,座位時間は減少している. 国際障害者年後の10年で,学校教育への関心は 深められ,実践されてきたが,成人期に達した子 供達への援助は,親の老齢化と共に再び様々な困 難を生じている.
図5 Se女性,22歳 20歳当時のベット上の座位姿勢.枕を前に抱き体を支 えている. 図7 M女性,29歳現在 背柱の側攣は著明でS型を示している.骨の萎縮もみ られる.(上部胸椎右回,下部腰椎左突) 警 図6 M女性 29歳当時のCT像,脳の萎縮がみられる. 3.成人期を迎えた若い障害者への対応 1983年の私達の報告にもあるように,子供の発 達を促すことは充分理解されたのであろうか.現 実はまだ不完全な状況にある.卒業後の社会参加 は色々検討されていても,実践は進んでいない. 成人期の機能は座位保持困難,食事は全介助で, 多くが軟食,ペースト食になっている.排泄は予 告できてもオムッに逆もどりする場合が多い.し かし声による要求や意思の疎通が可能で他人との 会話に参加することができる.手に触れての感触 遊びや音楽遊びは好まれ,通所施設や病院では活 用されている. Se例:肺炎を繰り返し度々入院したが,体調の 良いときは〔座らせて〕の要求で,図5のような ロールを抱いた姿勢をとらせることができた. M例:29歳頃より時々呼吸困難を訴え,体調維 .泌恥鱒翫㎡弦 図8 M女性,30歳現在 車椅子上で胸ベルト使用し,座位を保っている.開口 位多く,発声は不明瞭だが,声は大きい.時々背部痛 や呼吸困難を訴える. 持に注意している.CT(図6)で脳の萎縮がある. X−P像では,背柱のS型変形(図7)がある.股 関節脱臼はない.30歳現在の座位姿勢(図8)で は,開口位が多く,舌の肥厚が著明で,発語は不 明瞭になってきた.摂食時は軽く口唇を閉じるも, 飲み込みは悪く,むせ易い.食事形態はペースト 食となっている.最近はベットで寝ている時間が 増えている.
M例は病院の筋疾患病棟に入院しているので, 25歳頃から機能低下を気づかって,作業療法士に よる集団作業場面に参加させ,紙細工や革細工な ど,作業療法士の介助で触覚や,ルール,会話を 楽しんでいる.約1時間の問車椅子に座り,興味 ある場面は声をだして話に参加する.動作の指示 が気に入らない場面では,疲れた,呼吸が苦しい など,拒否と体調不良の区別のつきにくい行動も 観察されている. 考 案 慢性疾患の社会参加は困難iが多い.成人FCMD のリハビリテーション目標は個人の運動,精神機 能を活用した生活援助にある.問題は幼児期から の親の〔障害〕受け止め方=障害受容,に様々な