• 検索結果がありません。

租税条約と国内租税法令の抵触(1) : Treaty Override を巡る英国の議論を素材として

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "租税条約と国内租税法令の抵触(1) : Treaty Override を巡る英国の議論を素材として"

Copied!
18
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)租税条約と国内租税法令の抵触 ⑴ ── Treaty Override を巡る英国の議論を素材として── 鈴 木 悠 哉. 目次. 2─1.この疑問に答えるための足がかりとして,. はじめに. 以下の二点を指摘しておこう.. 第 1 章 国際法違反に関する仮説の存在─合致. 1)まず,国際法と国内法 1)との関係は,国際 法学における主要な論点の一つである2).. の推定─ 第 1 節 概説 . 2)次 に,こ の 論点 は,租税法学 に お い て も,. 第 2 節 英国における展開. 専ら租税条約3)と国内租税法の関係という問題. 第 3 節 国際租税法における展開-租税条約. 意識の下,議論の対象となってきた4).. 適合解釈─. 2─2.さて,この問題,すなわち,租税条約と. 小括. 国内租税法の関係という問題は,概ね,以下の. 第 2 章 Treaty Override 概説. 五点に類型化することが,できるようである5).. 第 1 節 1989 年 OECD 報告書 第 2 節 1994 年シンポジウム 小括(以上・本号) 第 3 章 英国における Treaty Override の展開 第 1 節 理論─ Baker の所論を中心に─ 第 2 節 実証 小括 おわりに. はじめに 1.租税条約と国内租税法令の抵触という問題 状況に対し,英国の議論を参考にアプローチし ていく.これが,本稿の概要である.以下,詳 しくみていこう. 2.そもそも,この問題状況は,国際租税法に 関する研究全体の中で,どのように位置付ける ことができるのか.とりわけ,租税条約と国内 租税法令の関係という問題意識の中で,どのよ うな位置を占めるのか.. . ※脚注番号 126 番以降の脚注は,次回を参照. 1)以下では,憲法を含まない. 2)詳細 は,山本草二『国際法 [ 新版 ] 』81 頁以 下(有斐閣,1994) . 3)以下では,所得課税に関するものに限定する. 4)我 が 国 に お け る 代表的 な 文献 と し て,谷 口勢津夫『租税条約論』 (清文社,1999)及 び 井 上康一 = 仲谷栄一郎『租税条約 と 国内税法 の 交 錯』 (商事法務,2007) .租税法 に お け る 一般国際 法の影響を分析したものとして,J. Martha, The Jurisdiction to Tax in International Law: Theory and Practice of Legislative Fiscal Jurisdiction (1989). な お,同書 の 紹介・分析 と し て,鈴木悠 哉「 [書評]国際租税法における立法管轄権の意義」 横国 18 巻 1 号 233 頁以下(2009)も参照. 5)こ の 類 型 化 は,Sasseville, A TAX TREATY PERSPECTIVE: SPECIAL ISSUES, in 2 EC and International Tax Law Series: Tax Treaties and Domestic Law 37, 37─38(G. Maisto ed. 2006)を 参 照しつつ,租税条約と国内租税法の関係をより包括 的に捉え得る類型化として,筆者が独自に考案した ものである.ちなみに,この Sasseville の論稿は, 租税条約と国内租税法の相互関係が問題となる局 面を,以下の⑴ないし⑶に類型化している..

(2) 136 (658). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). 1)第一に,租税条約が国内租税法に直接働き. に定義がない場合,それを適用する締約国の. かけることで,国内租税法の効力を制限する場. 国内法令を参照するよう定めている条項を有. 合 が あ る.租税条約 は,締約国間 に お け る 国. す る10).逆 に,国内租税法 が 用 い て い る 一定. 6). 際的二重課税の排除を主たる目的とする .か. の文言につき,その定義を租税条約が行って. かる目的を達成するため,租税条約は,締約国. いる場合もある11).. が自国の国内法に基づいて行使している課税権. 3)第三に,租税条約上の規定が,締約国の国. に,一定の制約を加える7).換言すれば,締約. 内法令に基づく課税処分や課税上の緩和措置の. 国双方が合意の上で,一定の所得に対する課税. 妥当根拠となっている場合がある.前者の例が. 権8)を,全部又は一部放棄するのである9).. 特殊関連企業条項であり,締約国はこの条約規. 2)第二に,租税条約と国内租税法の双方にお. 定を執行すべく,国内法上,移転価格税制を定. いて,適用の際,いずれかを参照することが必. める12).後者の例が二重課税の排除方法を定め. 要となっている場合がある. 多くの租税条約は,. る規定であり,この条約規定は,二重課税の排. 租税条約が用いている文言について当該条約内. 除措置(外国税額控除等)を定める国内法との. . ⑴国内租税法が,租税条約の適用に影響を与え る局面. ⑵租税条約が,国内租税法の適用に影響を与え る局面. この二つが,本文中で述べた類型の 2)に該 当する. ⑶租税条約と国内租税法とが抵触する局面. これが,本文中で述べた類型の 5)に該当する. 6)二国間租税条約 の 多 く は,条約名又 は 条約 の前文において,この旨定めている. 7)この点に関する包括的な研究として,井上 = 仲谷・前掲注 4)がある.なお,このような租税 条約の効果は,各締約国において,租税条約を含 む国際法が国内的効力を有することを,一応の前 提としている.もっとも,後でみるように,国際 法につき,国内的国力を一般に認めない憲法体制 を有するという英国においても,個別の国内立法 で租税条約に国内的効力を認めている.第 3 章第 1 節第 1 款.国際法一般の議論に関しては,岩沢・ 後掲注 19)を参照. 8)通常は所得の源泉地国の課税権が制限の対象 となるものの,居住地国の課税権が制限の対象とな ることもある.後者の例として,米国連邦財務省が 2006 年 11 月 15 日に公表したモデル租税条約の第 17 条第 2 項 が あ る.こ の 点,横浜国際租税法研究 会訳(鈴木悠哉分担) 「 2006 年アメリカ合衆国モデ ル租税条約」租税研究 718 号 271 頁以下(2009)を 参照.この点は,後に述べる Saving の原則とも関 連することに,留意しなければならない. 9)例えば,OECD(経済協力開発機構)が 2008 年に公表したモデル租税条約では,源泉地国は,利 子についてはその総額の 10 パーセントまで課税で き(第 11 条第 2 項) ,使用料については全く課税で きない(第 12 条第 1 項) .. 関係では,確認的性質を有する13). 4)第四 に,租税条約上,一定 の 場合 に 当該租 税条約が効力を有さず,国内租税法が適用とな る旨,明文規定が存する場合がある.これに は,以下の二つがある14).一つが,国内法令が 定める租税の減免等につき,租税条約がこれを 制限することはない,と定める条約規定であ る(い わ ゆ る Preservation Clause).二 つ が, 自国居住者・市民に対し国内法に基づき課税す る上で,一定の例外を除き租税条約は影響を及 . 10)OECD モデル租税条約では,第 3 条第 2 項 がこの条項に該当する. 11)こ の 具体例 に つ い て は,Sasseville, supra note 5, at 37─38 を参照のこと.我が国には租税条 約の実施に伴う特例等に関する法律があり,この 法律の第 3 条の 2 第 1 項は,租税条約の定める限 度税率で配当に対し租税を源泉徴収する旨,規定 している. 12)金子宏「移転価格税制 の 法理論的検討─ わが国の制度を素材として─」 『所得課税の法と 政策 所得課税 の 基礎理論下巻』369 頁(有斐閣, 1996) . 13)渡辺淑夫『最新外国税額控除[三訂版] 』7 頁以下(同文館出版,2008) . 14)先の米国モデル租税条約では,それぞれ第 1 条第 2 項 と 同条第 4 項 が こ れ に 該当 す る.こ れ らの規定が創設的なものか,それとも,租税条約 上の原則を確認したものかについては,議論が分 かれているものの,この点についてはさしあたり, 井上 = 仲谷・前掲注 4)36 頁,80 頁を参照..

(3) 租税条約と国内租税法令の抵触 ⑴(鈴木). (659) 137. ぼさない,と定める条約規定である(いわゆる. になった.. 15) Saving Clause) .. 1)第一に,租税条約と国内租税法の関係とい. 5)第五に,租税条約と国内租税法とが,何ら. う問題状況は,それぞれ独立した幅広い問題状. かの形で抵触している場合がある.これには,. 況の集合体であること.. 以下の二つがある.一つが,租税条約上のある. 2)第二に,租税条約と国内租税法の抵触とい. 規定と, 締約国のある国内租税法とが相矛盾し,. うのは,まさに,この幅広い問題状況を構成す. いずれかの適用がもう片方の不適用を意味する. る独立した一つの構成要素であること20).. 16). ことがある .二つが,租税条約がある権利・. 2─4.な お,そ の 一方 で,本稿 の 考察対象 は,. 義務を定めつつも,締約国がそれを行使・履行. 国際法と国内法の抵触が問題となる局面の一端. するのに何らかの理由で. 17). 国内法を必要とす. に過ぎないことを確認しておきたい.いまかり. るにも関わらず,かかる国内法が存在しないこ. に国内租税法に軸足を置くと,それとの抵触が. とがある. 18). .. 問題となるのは,租税条約に限らない.一国の. 2─3.以上,租税条約 と 国内租税法 の 関係 と い. 国内租税法のある規定と,当該国が関係する租. う問題を,五つに類型化してきた.本稿が対象. 税条約以外の国際法との間に抵触が存する場合. とするのは,第五の類型の一,すなわち,租税. もある21).これとは逆に,租税条約のある規定. 条約と国内租税法の相矛盾という現象である19).. と,締約国の国内法令の内,租税とは一見関係. さらに,この類型化から,二つのことが明らか. がなさそうな国内法令との間に抵触が存する状 況も想定し得よう.換言すれば,租税条約と国. . 15)Saving Clause に つ い て は,鈴木悠哉「居 住者に対する租税条約の適用局面─ Saving の原則 は確立しているか─」本誌 15 巻 1・2 号 97 頁以下 (2010)も参照. 16)これが「抵触」という言葉の本来的意味で ある.この点に関しては,広部和也「国家管轄権 の 競合 と 配分」山本草二先生古稀記念『国家管轄 権─国際法 と 国内法─』144 頁(勁草書房,1998) を 参照.同稿 は「抵触」と「競合」と を 対比 し, 後者は,複数の事柄が互いに並立・併存すること を意味する,としている. 17)これに関しては,後掲注 19)を参照. 18)谷口・前掲注 4)32 頁 は こ れ を,租税条約 と国内法との「消極的抵触」と称している.なお, 国際法と国内法の「積極的牴触」と「消極的牴触」 につき,山本・前掲注 2)82 頁以下. 19)なお,英国が締結した租税条約の規定の一 部が,英国の国内法による変型を経ることなく, 英国 に お い て 国内的効力 を 有 さ な い と い う 現象 が,“treaty underride” との名称の下,英国では近 時,話題となっている.Roxan, UNITED KINGDOM, in 2 EC and International Tax Law Series: Tax Treaties and Domestic Law 313, 323 n. 47(G. Maisto ed. 2006). かかる現象の背景には,後述す る英国の憲法体制が前提としてある.現に,この 問題が英国固有の問題であることを指摘するもの と し て,Jones, THE INTERACTION BETWEEN TAX TREATY PROVISIONS AND DOMESTIC LAW, in 2 EC. 内租税法の抵触は,租税に関する国際法と租税 に関する国内法令とがたまたま抵触していると いういわば二重の偶然の産物である.もっとも, 一国の国内租税法を,当該国が関係するすべて の国際法との関係で検討することも,その逆も, . International Tax Law Series: Tax Treaties Domestic Law 123, 136(G. Maisto ed. 2006) . もっとも,我が国のように,条約に対し一律に国 内的効力を認める憲法体制であっても,条約規定の 国内適用可能性の観点から,別途,立法措置を必要 とする場合がある.この問題の検討は,他日を期し たい.なお,谷口・前掲注 4)30 頁以下も参照.条 約 の 国内適用可能性 に つ い て は,岩沢雄司『条約 の国内適用可能性─いわゆる “SELF-EXECUTING” な条約に関する一考察─』 (有斐閣,1985)を参照. 20)こ の 点,前掲注 5)で 掲 げ た Sasseville の 論稿も,租税条約と国内法の抵触を独立した範疇 に分類していたことに留意. 21)一例をあげると,近時,欧州共同体加盟国 との関連では,加盟国の国内租税法が欧州共同体 を設立する条約との関係で問題となり,この点に 関する司法裁判所の判断が相次いで出ている.こ の現象は,まさに国内租税法と租税条約以外の国 際法との関係が問題となっている,と観察するこ とができよう.この問題の検討も,他日を期したい. and and.

(4) 138 (660). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). 共に困難であるし,そのことに積極的意義も見. 3─1.第一 に,本稿 は,か か る「借用」の 論理. 出し難い.故に租税に直接関係のある国際法と. 的帰結として,英国に焦点をあてて検討を進め. 国内法に限定の上,両者間の抵触を考察すること. る.. には,一定の合理性を認めることができよう22).. 1)英国には昔から, 「国際法は国法の一部であ. 3.以上,本稿 の 検討対象 の 位置付 け を 行って. る( International law is a part of the law of the. きた.ここで改めて,本稿が,国際法学が展開. land) . 」という原則が存在し,かかる原則が世. してきた議論を充分踏まえて議論を進めること. 界中に伝播し,各国の憲法規範に浸透した 25).. の必要性を説いておきたい.租税条約と国内租. 条約及び国際法規の遵守を謳う日本国憲法第 98. 税法との抵触が,国際法と国内法の抵触という. 条第 2 項 26)も,この原則との関係で理解可能で. 現象の一断面である以上,そこには国際法学が. あるという27).このことからも, 「国際法の黎明. 影響を及ぼす.このため,租税法学からこの問. 期に於いて,その形成に果たした国際法学者の. 題へ接近する上では,国際法と国内法の関係に. 役割の大きさは,英国に於けるその役割と共に. つき国際法学が展開してきた諸説を,いわば借. 28) 特記さるべきである」 といえよう.. 用して23)議論を進める必要があると言えよう24).. 2)もとより,国際法(とりわけ,条約)が国. これとの関連で,本稿の方針として,以下の三 点を指摘しておきたい. . 22)山本・前掲注 2)81 頁 は,国際法 と 国内法 の抵触の要因を,「同一の主題に関して国際法と国 内法が同時に作動しうる共通分野(common field) が発生」することに求めている.なお,この点に 関しては,後掲注 37)も参照. 23)この点につき,Avi-Yonah, Essay: International Tax as International Law, 57 Tax L. Rev. 483, 483(2004) は, 「国際租税法の専門家の大部分は,自分達が(国 際公法か,国際私法かを問わず)国際法を主に専門 としているとは考えない.寧ろ,国境を越える取引 をふとしたことから取り扱うこととなる租税法の専 門家と考えているのである」と述べている.本稿の 特色は,まさに租税法・国際租税法を専門とする筆 者が,国際法の議論を借用して分析を進めるところ にある. なお,我が国の近時の研究で,国際租税法研究 における国際公法の重要性を説くものとして,中 里実「課税処分における契約の尊重」租税研究 708 号 90 頁以下(2008)及び中里実「課税管轄権から の離脱をはかる行為について」フィナンシャル・ レビュー 2 号 5 頁以下(2009)がある. 24)単純な比較は難しいかもしれないものの, 例えば所得税法が,所得の性質に応じて経費控除 のあり方を異なる態様で定めていることが,日本 国憲法 14 条との関連で,かつて争いになった(最 大 判 昭 和 60 年 3 月 27 日 民 集 39 巻 2 号 247 頁). この事件においては,所得税法の定めが憲法に適 合するか否かが争いになった.そこではまず,問 題となっている所得税法の定めがどのようになっ ているかを理解することが,大きな意味を持って. . いた.この事件を,租税法の論者が検討を加える 必要性は,この点に由来する.この事件の評釈と し て,金子宏「判批」判例評論 332 号 164 頁以下 (1986)等を参照. なお,税理士の,依頼人に対する損害賠償責任 及 び 職業賠償保険 が 争 い の 対象 と なった 事例 が, いくつか存在する(例えば,最判平成 15 年 7 月 18 日民集 57 巻 7 号 838 頁等) .そ こ で は,民商法等 を根拠とした税理士の損害賠償責任が争いになっ た.もっともそこでは,問題となった税理士の行 為を,租税法の観点から評価することが必要であっ た.このため,この一連の事件は,租税法の分野 における重要な検討対象となった.この点に関す る文献として,少し古いものの,日税 39 巻(1999) に所収の諸論稿を参照. このように,憲法適合性や損害賠償責任が絡む 事例においては,問題となっている法令や行為の 法的評価を,それぞれの分野に応じて個別に検討 する必要がある.本稿は,租税条約と国内租税法 令の抵触という点を検討するものである.そこで は,租税条約 の 規定 と 国内租税法令 の 規定 が,具 体的にどのような定めになっているかを検討する ことが不可欠であり,かかる検討の上では,租税 法に関する専門知識が欠かせない. 25)深 津 栄 一「 『 International law is a part of the law of the land 』の原則について(一) 」日法 20 巻 4 号 353 頁以下(1954) . 26)宮澤俊義著 = 芦部信喜補訂『全訂 日本国 憲法』801 頁(日本評論社,1978) . 27)深津・前掲注 25)353 頁以下. 28)深津・前掲注 25)357 頁.このこととの関 連で,条約法に関するウィーン条約の解釈規則の草.

(5) 租税条約と国内租税法令の抵触 ⑴(鈴木). (661) 139. 内的効力を有する上で,国内立法の個別制定を. 3─2.第二に,英国を検討対象とする上で,国. 必要とする憲法体制を英国が有することは,既. 際法 と 国内法 の 関係 に 関 す る 諸理論34)の 内,. に指摘がある29).とりわけ, 「条約に国内的効. 等位理論を参考として議論を進めていきたい.. 力を認めないという憲法体制の下においては…. 等位理論は,英国の論者であるフィッツモーリ. 条約の国内的効力がその国の国内法の効力上の. スが唱え,当の英国や日本では,比較的広い支. 階層のどこに位置づけられるかという問題が…. 持を集めているという35).以下,その意味する. 条約の実施のための国内立法措置として処理さ. ところを敷衍しておこう36).. れる….…それら…立法措置の効力関係は全く. 1)まず,等位理論においては,国際法と国内. 30) 国内法秩序に依存する」 .これは後述の通り31),. 法 が 同時 に 作動 す る 共通分野 は 存在 せ ず 37),. 英国において,条約締結が国王の排他的権限に. そ れ ぞ れ は 別個 の 固有 の 分野 で 最高 で あ る.. 属することとも関連を有する.ただ,条約締結. よって,両者間には,法規範体系そのものとし. に議会の関与を高めることで,国内法による条. ての抵触も優劣関係もない38).. 約義務の不履行を実際的に回避する試みがある という.この点,条約締結過程に対する議会の 関与という制度が一番初めに生まれたのが英国 であること32)との関連でも,英国に注目する 価値があると言える33). . 案に関わったのが,すべて英国の学者(L. Brierly/ H. Lauterpacht/G. Fitzmaurice/H. Waldock の四名) であったことは,注目に値しよう.坂元茂樹『条約 法の理論と実際』171 頁(東信堂,2004) . 29)小寺彰 ほ か 編『講義国際法[第 2 版]』112 頁(有斐閣,2010).なお,畝村繁『英米における 国際法と国内法の関係』33 頁(法律文化社,1969) は,先の「国際法は国法の一部である.」という原 則につき,その成立当初における「国際法」は一 般国際法 に ほ か な ら な かった,と 指摘 し て い る. これと同じ指摘を行う英国の論者として,エイク ハース ト = マ ラ ン チュク・後掲注 67)108 頁 . 深 津 栄 一「『 International law is a part of the law of the land 』の 原則 に つ い て(四)」日法 21 巻 2 号 193 頁以下(1955)も,この場合の国際法の意義に 関し,議論が分かれている点を指摘している.高 野雄 一『憲 法 と 条 約』116 頁(東 京 大 学 出 版 会, 1960)は,ここでいう「国際法」に条約も含むと 解しつつ,条約については一定のものにつき,国 会の介入を条件として,この原則が妥当する,と している. 30)高野・前掲注 29)122 頁. 31)第 1 章第 2 節. 32)波多野里望 = 小川芳彦編『国際法講義[新 版増補]』33 頁(有斐閣,1998). 33)比較法 と い う 視座 か ら 観 る と,本稿 は, 五十嵐清『比較法入門』33 頁(日本評論社,1972) が 述 べ て い る「機能的比較法」を 採用 し て い る. 同書は,「同一の文化的・社会的・経済的水準にあ. . る国の間(とくに英米法と大陸法)では,法体系 の相違にもかかわらず,同一の問題に対する法的 解決は驚くべきほど一致していることが明らかに されている.相違しているのは,その解決に達す るための法的構成である. 」と述べている.本稿は, 英国を比較対象とする上で,本文中で述べた「国 内法による条約義務の不履行を実際的に回避する 試み」という,まさに機能に着目しつつ,その機 能を達成するための英国における法的構成に着眼 するものである.なお,比較法という点に関しては, 後掲注 46)を参照. 34)詳細 は,小寺 ほ か・前掲注 29)105 頁以下 等を参照. 35)小寺 ほ か・前掲注 29)107 頁以下.等位理 論を日本に紹介したのは,山本草二である.同 107 頁.なお,等位理論を支持する英国の論者の見解 と し て,I. ブ ラ ウ ン リー(島田征夫 ほ か 訳) 『ブ ラ ウ ン リー 国際法学 補正版』46 頁(成文堂, 1992) . 36)以下 の 記述 は,山本・前掲注 2)85 頁以下 を 参考 に し た.な お,広部・後掲注 46)27 頁以下 は,これと同じ考え方を, 「調和理論」と呼んでい る. 37)前掲注 22)でも述べた通り,山本・前掲注 2)81 頁は,国際法と国内法につき,両者が同時に 作動しうる共通分野の存在を認めている.これと の関連で,この等位理論に関する記述をどう理解 すれば良いのか,興味深い. 38)この点を捉え,等位理論が二元論に近い, と 述 べ る 見解 と し て,小寺 ほ か・前掲注 29)108 頁及び同書初版の書評である森川俊孝・書斎の窓 540 号 48 頁(2004)を 参照.な お,田中忠「国際 法と国内法の関係をめぐる諸学説とその理論的基 盤」山本草二先生還暦記念『国際法 と 国内法─国 際公益の展開─』27 頁以下(勁草書房,1991)も, 併せて参照..

(6) 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). 140 (662). 2)故に等位理論においては,国際法との絡み. 3─3.第三に,これまでとの関連で,以下の二. で国内法令が当然に無効とはならない39).ただ. 点の必要性が指摘できよう.まず,等位理論の. 国家は,国内で国際法上の義務に適合する行動. 母国である英国に焦点を当てる必要性である.. をとれない場合,国際法違法行為として国際面. 次に,租税条約と国内租税法との抵触に関する. において国家責任の追及を受ける.その結果,. 英国の事例を,前提となる理論と共に子細に検. 国家は, 自国の国内法を国際法に適合させる 「法. 討する必要性である.この二つの要請を満たす. 的義務」を負う40).かかる「法的義務」の履行. のが,いわゆる Treaty Override に関する議論. には,国内法と国家機関の介在が必要である.. である.詳しくは後に述べる45)ものの,この. そこで各国の裁判所等は,国際法と国内法の抵. 議論の嚆矢は,1989 年に OECD が報告書を作. 触の具体的内容把握と,抵触する両者のいずれ. 成したことにある.そこで問題となっていたの. かを適用可能な実定法として選定することで,. は,租税条約に反する国内租税法を,国家が意. 41). その抵触を調整する .この調整は,各国の憲. 図的に立法する事態であった.そこでは,1980. 法判断の下にある.かかる国内裁判所による国. 年の米国における不動産外国投資税法 (Foreign. 家実行. 42). が,等位理論. 43). においては重視すべ. き対象なのである44). . 39)「国際法優位の一元論」の論者であっても, 国際法と矛盾する国内法が無効であるとは考えて いないという.小寺彰『パラダイム国際法 国際 法の基本構成』49 頁(有斐閣,2004). 40)これは,国際法と国内法の両秩序における 義務が矛盾抵触する場合に国家がどうするかとい う問題(動的な過程)であり,国際法と国内法の いずれが優位するかという問題(静的な視角)と は区別できる.小寺・前掲注 39)53 頁以下. 41)広部・後掲注 46)28 頁 は,こ の よ う な 裁 判手続きを調和理論と照らして考察し,「国際法と 国内法の関係に固有の表面上の抵触を…解釈や証 拠についての規則を可能なかぎり駆使して…回避 しまたは最小限にしようとするものであ」る,と している.後に述べる(第 1 章第 1 節)合致の推 定は,かかる調和理論との関係で理解することが できるのかもしれない.なお,ブラウンリー・前 掲注 35)42 頁以下も参照. 42)山本・前掲注 2)53 頁は,国家実行として, 外交書簡,政策声明,法制意見,新聞発表,判決, 国内法令,行政機関 の 決定・措置,条約 そ の 他 の 国際文書の受諾,条約草案に対する回答などをあ げている. 43)小寺・前掲注 39)53 頁以下 は,二元論 や 国際法優位 の 一元論 に 比 し て,等位理論 が「現実 をより的確に説明していることは事実である」と している(もっとも,二元論も国際法優位の一元 論も,等位理論の掲げる調整という過程を取り込 むことで,国際法と国内法の関係をより理論的に 説明することができる,と説く). 44)こ の 点,広部・後掲注 46)28 頁 は,先 の. Investment in Real Property Tax Act)が 念 頭にあったようである.後に 1994 年,関西大 学において,これをテーマとしたシンポジウム が開催となった.そこでは,その米国をはじめ とした四箇国の識者が,自国の国内法令と自国 が当事国となっている租税条約の抵触が問題と なった 具体例 に つ き,言及 し た.そ の 際,明 らかになったのが,英国における後述の Collco 事件において問題となった国内法が,米国より ずっと早い 1955 年において立法となっていた ことである.この意味で英国は,等位理論と並 び,Treaty Override に関しても母国であると 言えよう. 4.以 上 の 理 由 か ら,本 稿 は,租 税 条 約 と 国内租税法令 の 抵触 と い う 論題 に,Treaty Override を巡る英国の議論を検討することで 接近していく46). . 調和理論を, 「裁判手続にとらわれることなく,国 際法と国内法が相互に補い,関連しながら,国際 制度として機能する過程と認識している. 」と述べ ている. 45)第 2 章第 1 節. 46)広部和也「国際法 に お け る 比較法的方法─ 国際法と国内法に関連して─」山本草二先生還暦記 念『国際法と国内法─国際公益の展開─』18 頁(勁 草書房,1991)は,題名の通り,国際法と国内法の 関係を研究する上で比較法的方法が有する意義を 述べるものの,その前提として「法の国際化」をあ.

(7) 租税条約と国内租税法令の抵触 ⑴(鈴木). (663) 141. 4─1.本稿は,以下の三章から成る.. 4─2.総じて,Treaty Override という現象を,. 1)第 1 章 は,ま ず,国家 は 本来,国際法違反. 英国法の文脈で,及び,英国が関連する国際租. を行うことがない,との仮説が存在することを. 税法の文脈で,どのように位置付けることがで. 見る.その上で,かかる国際法上の考え方が英. きるのかに焦点を当てていきたい.結論を先取. 国法において,さらに国際租税法において,ど. りすると,英国の国内裁判所は,自国の租税法. のように展開しているのかを観察する.. 令を可能な限り租税条約と適合させるべく解釈. 2 )第 2 章 は,1989 年 に OECD が 公 表 し た. する.ただし,国内租税法が租税条約を明白に. Treaty Override に関する報告書を軸として,. 侵犯しているようであれば,裁判所はかかる国. 1994 年のシンポジウムにおける論者の報告内. 内法を優位させる.租税条約と国内租税法の抵. 容を整理・検討する.ここでは,日本,米国及. 触という現象は,この二つの原則の狭間で解. びドイツの論者の報告内容を検討し,後で英国. 決を見るべきものである.もっとも,Treaty. の検討を行う際の準備を行う.. Override を巡る諸理論は,具体的事例による. 3)第 3 章 は,英国 に お け る Treaty Override. 裏打ちを必ずしも満足に得ていない.. の展開を,理論面と実証面の双方から整理・検 討する. . げている.ここでは,国内法が対外的事項を扱うこ とで,当該法が国際的効果を獲得する過程が焦点と なっている.同稿 38 頁以下は,かかる場合の例とし て税法をあげており,法の適用関係が国家領域を越 えることで,いわゆる域外適用の問題が生じる可能 性を指摘している.この点,村井正「国際租税法の 課題─租税条約 の 動向─」租税 21 号 162 頁(1993) が Treaty Override につき,税法の域外適用の文脈 で言及しており,本稿との関連でも興味深い.この 点に関しては,後掲注 104)も参照. ちなみに,広部論文の 6 頁は,一つの国の法秩序・ 法制度を取り上げることであっても,何らかの意 味で比較に対する態度があれば,十分に意味があ る,と述べている. なお,前掲注 15)で触れた先行業績との関連で, 本稿の位置付けについて言及しておきたい.前掲 の 先行業績 で 検討 し た の は,租税条約 が 有 す る 国内的効力の具体的内容の一つであった.すなわ ち,租税条約は,自国居住者への課税に影響を与 えることがそもそもできるのかどうかという,租 税条約プロパーの見地からの検討であった.本稿 は,前掲の先行業績の延長線上にある.すなわち, 租税条約の有する国内的効力の具体的内容を一応 の前提としつつ,その効力を国内租税法令が覆え していると認識すべき現象が,本稿の検討対象で ある.ここでは,租税条約の有する国内的効力の, 当事国における位置付けと,それとの関連でみた 当該当事国の国内法の効力という租税条約当事国 の国内的事情とも言うべきものが大きな意味を有 する.この点を捉えれば,本稿は,前掲の先行業 績の,いわば続編であると言えよう.. 第 1 章 国際法違反に関する仮説の存在  ―合致の推定―  第 1 節 概 説 1.国際法が国内的効力を有するための諸要件 は,各国 の 憲法 の 規律事項 で あ る47).国際法 に反する国内法が,そのこと故に当然無効と なることはなく,国家は国際法に反する国内 法を制定し,それを国内的に有効に適用する こ と が で き る(もっと も,国際的 に は 国家責 任が生ずる48)). 2.一方で,国家による国際法違法行為に関し ては,国際法上,ある種の仮説が存在する.こ の意味するところを見るために,以下,代表的 な文献の一部を引用しておこう. . 47)山本・前掲注 2)91 頁. 48)山本・前掲注 2)91 頁.な お,条約法 に 関 するウィーン条約は,その草案段階において,条 約上の義務不履行についての国家責任に言及して いない.それというのも, 「こうした事項は委員会 (国際連合の国際法委員会─注)によって別個に検 討される問題として予定されている国家の国際責 任という一般的課題の一部分を構成するため,委 員会は条約法法典化からそれらを除外し,これを 国家の国際責任に関する研究との関連において取 り上げるにとに (ママ─注)決定した. 」からである. 小川芳彦「国際法委員会条約法草案のコメンタリー (一) 」関学 18 巻 4 号 714 頁(1967) ..

(8) 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). 142 (664). 1)「国際法によって所有を禁じられているよう. 行する用意があるという条件付きである.しか. な国内法上の規範を, 国家が所有する場合とか,. しながら,そうした放棄が行われていない場合. 或いは,国際法に従って所有しなければならな. には,国内裁判所は,司法上の利益が要求する. いような国内規範を,国家が所有しない場合に. 事件において,かれらの主権者は,このような. は,その国家は国際的な法的義務に違反してい. 権利の利用に黙示的に同意しているものと推定. るのである.しかし,そのような場合でも,そ. 51) しなくてはならない.」 . の国の裁判所は,国際法上の必要条件に適合す るように国内法を単独で変更することはできな. 2─1.この引用箇所の意味することを要約する. いのである.…しかしながら,たとえ,国際法. と,「第一は…国際法と国内法との抵触を回避. と抵触する場合でも,国内裁判所は国内法を適. する解釈の方法…であり,第二は国際法の国内. 用しなければならないけれども, その場合には,. 的効力を確保するに必要なある種の国内法規の. このような抵触の存在に対する一つの仮説があ. 52) 存在の推定である.」 本稿は,この内第一と. るのである.つまり,国際法は,さまざまな国. 関連するものであるので,以下ではこの第一に. 家の共通と同意に基礎付けられているので,文. 絞って,若干敷衍していくこととしたい53).. 明国で,国際法と抵触する規範を故意に制定す. 1)そ も そ も 国際法 は,各国 の「共通 の 同意」. るということは,あり得ないのであって,した. に基づくので,各国が国際法と矛盾する国内法. がって,国内法の一部が,表面上,国際法と抵. 規を意図的に制定することは,あり得ない54) (こ. 触するように見える場合には,それは,もし可. こでは,国際法が国内でいかなる序列を有する. 能であれば,このような抵触を本来的に含まな. 55) かということは,関係がない) .. いものとして常に解釈されなければならない,. 2)そのため,国内法を,国際法に合うよう解. 49). という仮説である. 」. 釈することになる56).. 2)「国際法によって必要とされる或る規範に関. 3)そのような解釈を行うのは,各国の国内裁. して,文明国の法令が欠けている場合には,そ. 判所である57).ここで問題となっているのは,. の国の裁判所は,そのような規範は,国内法に. 国内裁判所,すなわち,国内法を適用する機関. よって暗黙裡に採用されているものと推定すべ きである.国家群の構成国である国家が,自国 の国内法に,このような規範が欠けていること を,意図的に望んだりはしないということは勿 50) 論のことと考えられ得る」 .. 3)「国家は,国際法によって享有するすべての 権利を必ずしも利用する必要は無く,その結果 として,あらゆる国家は,このような権利の全 部,または一部を国際法に基づいて明示的に放 棄することができるということは,疑いない が,それは,このような権利に関係する義務が, もし,あるとして,あくまでも,その義務を履 . 49)L. オッペ ン ハ イ ム(広井大三訳)『オッペ ンハイム 国際法』35 頁以下(進明堂,1999). 50)オッペンハイム・前掲注 49)36 頁.. . 51)オッペンハイム・前掲注 49)36 頁. 52)深津栄一「国際法と国内法との 『合致の推定』 の 問題」日法 24 巻 1 号 51 頁(1958) .同稿 は,前 掲注 49)の Oppenheim の書籍で,Lauterpacht が 監修したものを取り上げている. 53)ちなみに第二は,前掲注 19)で触れた “treaty underride” と関連を有する. 54)深津・前掲注 52)66 頁.こ の 深津論文 は, 慣習国際法を検討対象とするものの,条約におい ても同様のことが言える,と著者自身が指摘して い る.同 52 頁.な お,国際法学会編『国際関係法 辞典 第 2 版』476 頁(三省堂,2005)も参照. 55)国際法学会編・前掲注 54)476 頁. 56)深津・前掲注 52)66 頁.小寺 ほ か・前掲 注 29)116 頁はこれを,国際法の間接適用と呼ん でいる.これは,国内実施(国際法の内容を国内 法に書き換えてその国内的実現を図ること)とは 異なる.同. 57)深津・前掲注 52)67 頁..

(9) 租税条約と国内租税法令の抵触 ⑴(鈴木). における「法技術」 ・ 「法解釈」の問題である58).. (665) 143. 法府が救済を行う65).. もっとも,ここで国内裁判所は,国際法を適用 するという立場において,このような解釈をな. 第 2 節 英国における展開. しているのである59).. 1.このように国内裁判所は,国際法が絡む局. 2─2.以上が,国際法と国内法との 「合致の推定」. 面において,「合致の推定」と自国の憲法規範. 60). と称するものである .再度整理すると,各国. の狭間に位置することとなる.国内裁判所は,. の共通合意という国際法の性質を前提に,国内. 「極限まで」前者を貫くものの,国際法に対す. 裁判所が自国の国内法を国際法に合致するよう. る自国法の抵触が明白で「他に解しようのない. 解釈する,というのである.以下ではこの点に. 場合」,自国の憲法規範に従うのである66).. ついて, もう少し踏み込んで所論を見てみたい.. 2.この「合致の推定」は,英国でも妥当して. 1)このような国内裁判所による解釈は,多く. い る よ う で あ る67).もっと も,「合致 の 推定」. の場合,ある国際法(条約)と,時間的に後に. という国際法上の要請に加え,後に見るように,. 成立した国内法との間で抵触の存在如何が問題. 英国の憲法規範の下でも,国際法の遵守が大き. 61). となる場合に働く .すなわち,国内法が国際. な柱となっている68).この点,国際法(とりわ. 法に比していわゆる後法であれば, 「立法者は. け,条約)を個別立法で受容する憲法体制との. 国際義務に違反するつもりはなかった. 」とい. 関連で興味深い69).一方で,国際法に対する自. う擬制の下,国際法を解釈基準とすることが正 当となるのである62). 2)ただし,国際法と国内法が同等の地位にあ る憲法秩序において,問題の国内法が国際法に 抵触することが明瞭の場合,国内裁判所は当該 国内法を適用することになる63).国内裁判所は, 国際法上の要請により自国法を国際法に合致す るよう解釈するものの,まさに「国内」の機関 として,国際法に反する解釈を国内法に行うこ ともできる64).この場合,その国の行政府と立 . 58)深津・前掲注 52)51 頁. 59)深 津 栄 一「『 International law is a part of the law of the land 』の原則について(三)」日法 21 巻 1 号 79 頁(1955). 60)実際は,先の第二も含めた二つを合わせて, 「合致の推定」と呼ぶ.深津・前掲注 52)54 頁. 61)高野・前掲注 29)169 頁及 び 深津・前掲注 59)79 頁. 62)小寺ほか・前掲注 29)117 頁.なお,岩沢・ 前掲注 19)333 頁以下 は,国内法 が 条約 よ り 前法 である場合であっても,国家が国家責任を負うこ とを避けることが望ましいということに鑑み,条 約が国内法の解釈基準となることを認めるべきで ある,という. 63)高野・前掲注 29)169 頁. 64)深津・前掲注 52)69 頁.. . 65)深津・前掲注 52)69 頁. 66)高野・前掲注 29)169 頁. 67)深津・前掲注 52)54 頁.なお参考までに, 「合致の推定」に言及するものとして,英国の論者 の手による国際法に関する文献の該当箇所を掲げ ておこう(順不同.もっとも, いずれの文献も, 「合 致の推定」という呼称を用いていない) . ・J. L. ブライアリー(一又正雄訳) 『國際法─平 時國際法入門─』80 頁(有斐閣,1955) . 「こういう推定も行われる.即ち,イギリスの 国会も…国際法に違反しようと意図することはな いであろう,従って,制定法も,国際法に違反す るという結論を避け得る場合には,これに違反す ると解釈されることはないであろう,という推定 である. 」 (引用にあたり,旧字体は新字体に改め た. ) ・N. チェイ ン バーズ(清水良三訳) 『国際法』9 頁以下(成文堂,1976) . 「議会はどのような型のものであれ国際法を無 視することを意図するものではないという前提が ある.この前提は破ろうとすれば破れないもので はないが,議会は其のようなことはしないことに なっている. 」 ・エイクハースト = マランチュク(長谷川正国 訳) 『現代国際法入門』103 頁(成文堂,1999) . 「イ ギ リ ス 裁判所 は,通常,国会制定法 を イ ギ リスが以前に締結した条約と抵触しないように解 釈する. 」 (脚注番号省略) 68)第 3 章第 2 節第 1 款第 3 項. 69)岩沢・前掲注 19)337 頁 は,国際法 が 国内.

(10) 144 (666). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). 国法の抵触が明白である場合,英国の憲法体制. の議会を拘束しない」というものがある71).もっ. の下,当該自国法を適用することとなっている. と も,国際法 の 論者 に よ る と,1972 年欧州共. 70). ようである .. 同体加盟法の成立を契機に,国会主権の名目化. 3.こ れ に 加 え,英国特有 の 憲法原理 で あ る,. とでもいうべき現象を観察できるという72).同. いわゆる国会主権(議会主権)の存在を見逃す. 法は,直接効果を有する共同体法が創設した権. ことができない.一言で言うと, 「議会の立法. 利を,英国において「採用可能な共同体法上の. 権限に対しては…何ら法的統制が存在しない」. 権利」とする73).そこで問題となっているのは,. のであり,具体的構成要素として, 「議会は後. かかる共同体条約の直接効力を前提としつつ,. . 法の解釈基準となる上で,必ずしも国内的効力を もつ必要はない,と説く.同旨を述べるものとし て,ブラウンリー・前掲注 35)47 頁.なお,経塚 作太郎「条約の国内実施及び適用をめぐる若干の 問題─英米仏国 の 法規慣行 を 中心 に ─」同『条約 法 の 研 究』(中 央 大 学 出 版 部,1967) は,「英 国 では条約そのものは国内裁判所で直接適用された り,個人に直接権利義務を附与するものではなく, 変型した制定法だけが国内に施実(ママ─注)さ れるものとなすことは,英国の慣行から必ずしも 厳格に主張し得るものとはいえないように思われ る.」(191 頁),及び「条約の適用に当っては,条 約の不履行を避けるように成立時期の前後に関係 なく,常に国内法の解釈を操作してきている英国 の慣行からは,条約を国内法と同等とみて…後法 は前法を破る…の原則を適用して説明することは できない.また,つとめて両者の矛盾を避けるよ うに調整し,両立せしめてきている結果から,常 に…上位法は下位法を破る…の原則を適用して解 決しているとも思われないのである.」(209 頁)と し て い る.さ ら に,同書 220 頁 は,「一般 に,国 内で法を作る働きは,議会の法の定立…のみでは なく,法の執行においてもこの作用が果たされる ものと考えられている.裁判所の中でなされる法 の解釈もまた,一種の立法であり,その限りでは, 国家法を条約に矛盾しないように解釈し,調整し ていることは,積極的な国家法の改廃を伴わなく ても,或る意味で新立法または現行法の改正であ り,条約履行の確保のための行為であり,条約優 位の態度を示していると考えられるのではないだ ろうか.」と述べている. 70)深津・前掲注 52)69 頁.同稿がここで引照 しているのは,1906 年の Mortensen v. Peters 事件 である.この事件と,本文で述べたこととの関連性 を説くものとして, ブラウンリー・前掲注 35)40 頁. ちなみにこの事件は,国際慣習法と英国の国内 法との抵触が争点となった事件のようである(松井 芳郎ほか編『判例国際法[第 2 版] 』33 頁(東信堂, 2006)は,この事件を「慣習国際法に対して英国の 制定法が優位するとされたスコットランドの判例 として有名」としている.この事件については他に. 国会主権を維持することなのである74). 4.な お,条約締結 に 対 す る 立法府 の 関与 を, 英国において国際法を遵守するための手段とし て指摘する声もある.英国において,条約締結 は国王の排他的権限に属し75),このことが,条 約に国内的効力を持たせるために議会の個別立 法を必要するという憲法体制の裏付けにもなっ ている76).ただ,ここに議会の関与を高めるこ とで,国内法 に よ る 条約義務 の 不履行 を 実際 的に回避する試みがあるという.具体的には, 締結予定 の 条約 を 一定期間,議会 の 閲覧 に 付 したり,あるいはより直接的に,ある種の条 . も,田畑茂二郎 = 太寿堂鼎編『ケース ブック 国際 法[新版] 』23 頁以下(有信堂,1987)を参照) . な お,畝村・前掲注 29)186 頁 は, 「議会 の 意 図する目的の達成のための解釈が国際法違反回避 のための解釈に優先し,国際法違反回避のための 解釈というのも,実は議会の制定法の意思解釈に す ぎ な い」と し て い る(同書 は こ の 記述 を, 「国 際法および国際法との関連における国内法の解釈」 と題する章で行っている) . 71)加藤紘捷『概説イギリス憲法─由来・展開 そして改革へ─』135 頁(勁草書房,2002) . 72)小森光夫「条約 の 国内的効力 と 国内立法」 山本草二先生古稀記念『国家管轄権─国際法 と 国 内法─』551 頁(勁草書房,1998) . 73)デイヴィッド・エドワード = ロバート・レ イン(庄司克宏訳) 『EU法の手引き』70 頁(国際 書院,1998) . 74)小森・前掲注 72)551 頁.この問題に関し ては,エドワード = レイン・前掲注 73)71 頁以下 も参照. 75)ブラウンリー・前掲注 35)40 頁. 76)こ の 点,高野・前掲注 29)120 頁 は, 「条 約の締結に国会の承認を必要としないということ と,成立した条約に国内的効力を認めないという ことが,結び付いている. 」と述べている..

(11) 租税条約と国内租税法令の抵触 ⑴(鈴木). 約の批准に際し,議会の承認が必要な場合が 77). ある .条約の締結に対する議会の関与は,行 政行為に対する政治的・立法的コントロールを. (667) 145. しなければならないだろう82).なお,この条約 締結に対する議会の関与が,「合致の推定」を 裏付けていることを指摘する論者がいる.曰く,. 意味し78),これは,条約締結権が国王に排他的. 「議院内閣制を採用する英国では,議会と条約. に属する英国においては, 特に深い意味を持つ.. 作成の担当者たる政府との関係が相互に密接で. さらに,条約の締結上,制定法の公布という形. あり,両者の矛盾はよほど防がれている.…外. で議会の承認が必要ということになれば,それ. 交関係に関する国王の大権行為は…国内裁判所. は条約の国内実施を確保し,国内法との矛盾を. の審査の対象とはならない….条約と国内法が. 避けるための事前の国内的調整とも言える79).. 矛盾すると主張される場合,裁判所は国内法の. こう見ると,条約に国内的効力を一般に認める. 解釈権は有しても条約についてはこれを有しな. 憲法体制の国と,実態はほとんど異ならないと. い….条約の解釈権は締結権者たる Crown に. 80). いう .. あり…裁判所はこの解釈を決定的なものとして. 5.このように, 国の統治制度内部の相互関係が,. 採用してきている.(このため─注)条約と国. 国際法と国内法の齟齬を回避する方向で機能し. 内法が矛盾すると主張される事件で,結果的に,. ているのである81).先に述べた「合致の推定」. 条約の側を存続せしめようとする意図によって. を貫き得ない局面は,このこととの関連で理解. 支配されるであろうことは想像に難くない….. . 77)エ イ ク ハース ト = マ ラ ン チュク・前掲注 67)103 頁及びブラウンリー・前掲注 35)40 頁以 下.な お,小森・前掲注 72)548 頁以下 も 併 せ て 参照.ここで,批准前に議会の承認が必要な条約 とは,条約に基づく課税や条約の実施のために財 政資金が必要な条約等,国民の権利に影響を与え る条約である.なお,これは,行政府の条約締結 に国会の承認を必要とする国々において,国会の 承認を得て締結となる条約の種類とほぼ一致する, という.高野・前掲注 29)69 頁. 78)高野・前掲注 29)68 頁. 79)経塚・前掲注 69)206 頁.これとの関連で, 波多野 = 小川・前掲注 32)36 頁は,条約の批准の 意義を,国内法を条約に合致させる必要性に求め ている. 80)小森・前掲注 72)549 頁. 81)条約締結時における国内法令との整合性に つ き,柳井俊二「国際法規 の 形成過程 と 国内法」 山本草二先生還暦記念『国際法 と 国内法─国際公 益の展開─』94 頁(勁草書房,1991),芹田健太郎 「条約締結 に 関 す る 国内手続」国際法事例研究会 『日本の国際法事例研究⑸条約法』34 頁(慶應義塾 大学出版会,2001)及 び 谷内正太郎「国際法規 の 国内的実施」山本草二先生還暦記念『国際法 と 国 内法─国際公益 の 展開─』114 頁以下(勁草書房, 1991)が,我が国の審査状況を述べる.これによ る と,外務省条約局 で 条約規定 を 検討 し,関係法 令については各主管官庁(外務省自身のこともあ る.)の関係部局と協議して政府内部の意思統一を 図り,署名の段階では,閣議決定に先立って内閣. したがって,裁判所は…国内法の解釈を操作す ることによってつとめて条約に矛盾しないよう に調整=両立せしめようとすることが行われる ….このことは,実際にも英国の裁判所を支配 83) する原則とされている.」. 対外関係を受け持つ行政権に,議会を通じた 民主的統制が加わる.これを受けて,国内法令 の解釈権を有する裁判所が,国内法令の解釈を 通じて,国際法違反という事態を回避するので ある. . . 法制局での整合性審査があるという.この仕組み を評して,柳井論文は, 「条約作成に当たって…各 側面において整合性のとれた国際法規を形成する ための制度的保証としては…我が国の制度が世界 で最も徹底したものであると思う. 」と述べている. 82)高野・前掲注 29)152 頁 は, 「現在 の 国家 及び国際社会の構造において,国内立法の権限と 条約締結の権限とが機能的に非常に接近しつつも なおそこに本質的な差異が認められることが…三 権分立の下で,国会に立法権を集中し,一方,国 会の参加を認めつつも政府に条約締結権を認めて いる国々…の制度の基底にあると解さなくてはな らない. 」と説く. 83)経塚・前掲注 69)207 頁以下..

(12) 146 (668). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). 第 3 節 国際租税法 に お け る 展開―租税条約 適合解釈―. 通り,租税条約が二重課税を防止すべく,締約 国の租税法令を制限するからである90).. 1.租税条約においても,前提は同じである.. 4.このように,国際租税法の論者も,「合致の. 締約国が租税条約に効力を与える態様は,各締. 推定」に類する状況を想定していることが分か. 約国の国内法が決めるのであり,租税条約自体. る.冒頭にも述べた通り,本稿では,租税に関. 84). はそれについて沈黙している .では,先の「合. する国際法(租税条約)と租税に関する国内法. 致の推定」を,国際租税法の専門家はどのよう. との間の抵触如何が,たまたま問題となる局面. に理解しているのであろうか.. を取り上げる.租税条約と国内租税法は,相互. 2.これについては,既存の租税法律に関する. に密接な関連を有するが故に,相互に抵触し,. 「租税条約適合解釈」という名の下に,類似の 状況を想定する論者がいる85).これには,租税 86). 条約を特別法とみなす,という操作が伴う . さらに,先にも述べた「合致の推定」の限界, すなわち,自国法の国際法違反が明白な場合に ついても,別途考慮がある.曰く, 「一方の締 約国による条約上の義務の明白な侵害…は,解 釈の問題ではない.解釈に関し問題が生じるの は,後の法律が条約規定に違反しているかどう か不明瞭な場合のみである.…国際法上の義務 との一致は, 国内法がかかる解釈の余地を有し, …国際法上の義務が方法的に正確に解釈される 場合において,関係国によってのみ達成できる 87) ことに留意しなければならない. 」. 3.この租税条約適合解釈の前提として,それ を唱える論者は,租税条約が国内租税法と密接 な関連を有することを指摘する88).国内租税法 と密接な関連を有するのは,租税条約の特色の 一つである89).それは,本稿の冒頭にも述べた . 84)Williams, General Report, in International Fiscal Association, 83b Cahiers De Droit Fiscal International Practical Issues in the Application of Double Tax Conventions 19, 23(1998). 85)谷口・前掲注 4)33 頁.同旨 を 述 べ る も の と し て,Urahigashi, Comments on the Report by Professor Tadashi Murai: Interpretation of Tax Treaties in Japan, in Interpretation of Tax Law and Treaties and Transfer Pricing in Japan and Germany 119, 120(K. Vogel ed. 1998). 86)K. Vogel, Klaus Vogel on Double Taxation Conventions 71(3rd ed. 1997) .な お,第 2 章 第 2 節第 3 款も併せて参照.. . 87)Vogel and Prokisch, General Report in I nternational F iscal A ssociation , 78a C ahiers De Droit Fiscal International Interpretation of Double Taxation Conventions 55, 60(1993) .木 村弘之亮「二重課税条約の解釈」法研 68 巻 6 号 11 頁(1995)も併せて参照. 88)Taniguchi, Comments on the Interpretation of Tax Treaties: The Intertwinement of Tax Treaties with Domestic Tax Law in Japan, in Interpretation of Tax Law and Treaties and Transfer Pricing in Japan and Germany 123, 125(K. Vogel ed. 1998) . 89)租税条約を他の条約と比較した際の相違点 として,Avi-Yonah, supra note 23, at 483 は他にも, ①国籍や領域ではなく,居住地管轄や源泉地管轄 に言及していること,②対外事項の所管省庁では なく,財務関係の所管省庁が締結すること,及び ③解釈において,条約法に関するウィーン条約が 定めるのとは異なる原則が支配していることを 指摘 す る.こ れ に 加 え,Wouters and Vidal, THE INTERNATIONAL LAW PERSPECTIVE, in 2 EC and International Tax Law Series: Tax Treaties and Domestic Law 13, 15(G. Maisto ed. 2006)は,租 税条約の大部分が二国間条約であることを指摘す る. 90)Lenz, GENERAL REPORT, in International Fiscal Association, 42 Cahiers De Droit Fiscal I nternational 294, 294(1960); Wouters and Vidal, supra note 89, at 15. Vogel and Prokisch, supra note 87, at 74─75 は こ れ に 加 え,租税条約 に 具体的規定が欠けている場合は,国内法令がこれを 補完する役目を有することを指摘する.もっとも, 同じ論者は,VOGEL, supra note 86, at 55 において, 国内法令を参照した租税条約の文言解釈の局面で, 租税条約と国内租税法令が相互に独立した法的有 効範囲を有することを強調している.この点に関し ては,鈴木悠哉「 1960 年代のドイツ連邦共和国に おける国際的二重課税排除の議論─H. Debatin の論 説を手がかりに─」横国 15 巻 2 号 69 頁(2006)も 参照..

(13) 租税条約と国内租税法令の抵触 ⑴(鈴木). (669) 147. かつ,その抵触を回避すべく,国内租税法を解. 3.このように,英国においても,国際法に対. 釈すべきである,という要請が働くのである91).. す る 自国法 の 適合 と い う 状況 は,国内裁判所. 故に,これまで述べてきた国際法上の「合致の. の 国内法解釈92)と,立法府 と 行政府 の 連携 と. 推定」を巡る議論の延長線上で,租税条約適合. いう二本の柱の支えるところとなっている.で. 解釈を論じる必要があると言えよう.. は な ぜ,国際租税法 の 分野 に お い て,租税条 約に反する国内法の立法,すなわち,Treaty. 小 括. Override という現象が問題となるのか.これ. 1.以上,国家による国際法違反に関する仮説,. まで述べてきた,国際法と国内法との合致の推. すなわち, 「合致の推定」に関し,その意味す. 定との関連で,Treaty Override という現象を. るところと,英国における展開,さらには,国. どのように位置付けることができるのか.次章. 際租税法における展開を見てきた.. 以下では,この点に関し,議論を進めていくこ. 2.これまでの議論を振り返っておこう.. とにしよう. . 1)国際法が文明国の共通合意であることから, 国家は国際法を意図的に侵犯することはない,. 第 2 章 Treaty Override 概説. との仮説が存在する.この仮説は,国家による. 第 1 節 1989 年 OECD 報告書. 国際法遵守の姿勢を裏付けている.. 1.Treaty Override と い う 言葉 を 一番初 め に. 2)これに基づき,各国の国内裁判所は国内法. 用い,これに関する議論の口火を切ったのが,. の解釈権を有する機関として,自国法を解釈す. 1989 年に OECD の租税委員会が公表した報告. る上で,自国が当事国となっている国際法と齟. 書93)である.同報告書は,Treaty Override を,. 齬しない解釈を可能な限り模索する.かかる解. 「国家間の条約上の義務に明らかに矛盾する効. 釈態度は国際租税法においても,租税条約適合. 果を生ぜしめることを意図した立法府による国. 解釈の名の下に,認識が進んでいる.. 内法の立法」94)と定義している.. 3)もっとも,かかる解釈が不可能なほど自国. 2.同報告書 は,Treaty Override に 該当 す る. 法の国際法違反が明らかな場合がある.この場. 具体例として,以下の二例をあげる.. 合,国内裁判所 は,自国 の 憲法体制 に よって. 1)A国が,利子及び使用料といった具体的種. は,国際法違反の国内法を適用しなければなら. 類の所得に対する新しい源泉徴収税を導入す. ない.これはとりわけ,英国の憲法体制下にお. る.A国の租税条約は,利子及び使用料は,源. いては,妥当する.. 泉地国における課税を免除すると規定してい. 4)もっとも,そのような英国においても,自. る.A国は,A国において課税を確かに行わな. 国法と国際法との調和を目指すべく,国王大権. いとの租税条約上の義務にも関わらず,国内的. に専属する条約締結過程に議会を関与させると. 理由から新税を課し,還付を行わないよう立法. いう動向を観察することができる.このような. する95).. 制度の仕組みは,国内裁判所が自国法を国際法 に適合するよう解釈するための礎にもなってい るのである. . 91)これとの関連で,中尾武彦『国際租税制度 概観』42 頁(社団法人日本租税研究協会,1989)は, 「考えてみれば,各国において租税条約が国内法に 優先するとされているところに租税条約を締結す る意味があるのである.」と述べている.. . 92)具体的事例の検討を行う必要性は,この点 からも導き出すことができよう. 93)OECD, T ax T reaty O verride(1989), reprinted in 2 Model Tax Convention on Income and On Capital(OECD)§ § 8(Apr. 29, 2000) [hereinafter cited as TREATY OVERRIDE] . 94)Id. at para. 5. 95)Id. at para. 28..

(14) 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 5 号(2011 年 1 月). 148 (670). 2)B国は,不動産の譲渡から生じる譲渡所得. 的に紹介しておこう.主に,Treaty Override の. に対して課税する.納税者はB国において,納. 定義,及 び,自国内 に お け る Treaty Override. 税者自身と不動産との間に法人を介在させ,不. の法的位置付けを中心として,みていくことと. 動産自体ではなく,当該法人の持分を売却する. したい.. ことによって租税の支払を回避するための方途. 第 1 款 日本の論者|村井正|. を発見した.B国は,B国の租税条約が OECD. 1.日本の論者である村井は,Treaty Override. モデル条約第 13 条に従っている場合,当該法. の定義につき,先の OECD 報告書が示した定. 人の持分の売却から生じる譲渡所得に租税を課. 義を,そのまま踏襲しているようである101).. することができない.B国はB国の租税条約を. 2.その上で村井は,日本の憲法体制の下では,. 適用する目的上,不動産会社の持分の売却を,. Treaty Override が,国際法違反に加え,国内. 不動産の売却であるとみなすよう立法する96).. 的にも違憲の問題を生じ得る,としている102).. 3.同報告書は,この二例は,あくまでも仮設. 3.な お 村井 は,Treaty Override の 問題 を,. 的事例である,としている97).ただ,この二つ. 国際的租税回避 へ の 対抗措置 の 問題 と し て 位. の内,B 国の例は,米国が 1980 年に導入した. 置付 け る103).こ こ で 問題 と なって い る の が,. 不動産外国投資税法を意識した事例である,と. 租税回避 に 対抗 す る た め の 国内立法 が,既存. 98). の指摘がある .. の租税条約に違反する場合である104).村井は. 4.こ の よ う に,同報告書 が 定義 す る Treaty. こ の 場合,か か る 国内法 に 頼 る の で は な く,. Override は,立法府 に よ る 租税条約違反 の 国. 租税条約 を 改訂 し,否認 す べ き 租税回避行為. 内租税法の制定であり,しかも,その制定が意. につき,条約上に詳細な定めを置くことを説. 図的である場合である.その上で同報告書は,. く105).. 事例を引くことで,米国を暗に名指ししてい る.同報告書の眼目は,OECD 加盟国に対し, Treaty Override を避けるよう勧告することに 99). あった . 第 2 節 1994 年シンポジウム 1.この OECD 報告書を受けて,1994 年,日本, 米国, ドイツ, 及び英国の論者が,Treaty Override を巡って研究報告を行った100).英国の論者の報 告内容は次回に第 3 章で詳細に取り扱うことと し,本節ではそれ以外の論者の報告内容を,端 . 96)Id. at para. 31. 97)Id. at para. 27. 98)占部裕典『国際的企業課税法 の 研究』286 頁(信山社,1998 年). 99)TREATY OVERRIDE, supra note 93, at R ⑻─ 18 . 100)このシンポジウムの内容は,村井正編『国 際 シ ン ポ ジ ウ ム 国際租税秩序 の 構築』(関西大 学法学研究所,1995)を 参照.同報告書 の 英語版 と し て,Proceedings of International Symposium. . 1994 Shaping an International Tax Order(T. Murai ed. 1996). 101)村井正「タックス・トリーティー・オーバー ライド─日本の視点─」村井正編『国際シンポジ ウム 国際租税秩序の構築』8 頁(関西大学法学研 究所,1995 年) . 102)村井・前掲注 101)7 頁. 103)村井・前掲注 101)18 頁以下 は, 「乱暴 に 図式化すれば,タックス・トリーティー・オーバー ライドの問題は,概ね国際的租税回避に対する防 止策の問題と要約することができよう. 」と述べて いる. 104)村 井・前 掲 注 101)16 頁 以 下.な お,同 じ箇所には,租税条約未締結国との関係でも,国 内法の域外適用の問題が生じ得る,との指摘があ る.この点に関しては,前掲注 46)も参照. 105)村井・前掲注 101)18 頁以下.そ の 理由 として,以下の三点があがっている. 1)租税回避は許すべきでないと一般的に言う ことはできても,どのような行為が租税回避に当 たるのかについて,意見が一致することは,少な い(国内的にも,国際的にも,同様である) . 2)よって,租税回避を防止するためとはいえ, どのような手段・方法をとっても良い,というこ とにはならない..

参照

関連したドキュメント

・関  関 関税法以 税法以 税法以 税法以 税法以外の関 外の関 外の関 外の関 外の関係法令 係法令 係法令 係法令 係法令に係る に係る に係る に係る 係る許可 許可・ 許可・

 所得税法9条1項16号は「相続…により取 得するもの」については所得税を課さない旨

 そして,我が国の通説は,租税回避を上記 のとおり定義した上で,租税回避がなされた

[r]

[r]

1ヵ国(A国)で生産・製造が完結している ように見えるが、材料の材料・・・と遡って

それを要約すれば,①所得税は直接税の中心にして,地租・営業税は其の

た意味内容を与えられている概念」とし,また,「他の法分野では用いられ