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精神障害を有する者の作業選択に伴う意味の度合いと生活満足度

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Academic year: 2021

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はじめに  近年、クライエントの「願望」や「必要性」を 反映した「意味ある作業」の可能化を目指した作 業療法の実践が重要視されるようになった。クラ イエントにとって「したい作業」や「行う必要があ る作業」で、個人的に有意義と感じる作業が「意 味ある作業」であり、それができるようにするこ とが作業療法実践の目標となってきている。そし て、その実践のプロセスはトップダウンアプロー チが有用であると言われ、近年数多く報告される ようになった。トップダウンアプローチとは、個 人的に重要な作業の問題を捉え、それを遂行する ために必要な援助を行う、目的志向的な介入方法 である。例えば、「意味ある作業」におけるクライ エントの遂行度と満足度を高めることを通じて、生 活満足感の向上や健康促進を目指す作業遂行プロセ Model)では、第一段階において、カナダ作業遂 行 測 定(COPM:Canadian Occupational Performance Measure)により、「したいと思う」、「する必要があ る」、「することを期待されている」という意味に基 づく作業に焦点を当てた評価から開始する1)、2)。ま

た 2002 年に、アメリカ作業療法士協会(AOTA: American Occupational Therapy Association)が発表し た「作業療法実践の枠組み−領域とプロセス(OTPF: Occupational Therapy Practice Framework)」3)におい

ても、作業療法のプロセスは、「何をしたいと思う か」、「何をする必要があるのか」にまず焦点を当て る。このように国際的には近年、作業の可能化を通 して生活満足感を含む QOL や健康促進を目指す視 点を前提としたトップダウンアプローチが重視され ているようになっている。  作業療法の実践において、このような作業に焦点

精神障害を有する者の作業選択に伴う

意味の度合いと生活満足度

國貞将志 港 美雪 山口隆司 小池伸一 The degree and the life satisfaction of the meaning with the occupational choice of people having the mental disease

Masashi KUNISADA,Miyuki MINATO,Ryuji YAMAGUCHI,Shinichi KOIKE 要   旨  本研究では精神障害を有する者 36 名を対象に、典型的な 1 日の作業を選択する際に伴う意味の度合 いと生活満足度との関係を明らかにすることを目的に調査を行った。作業選択に伴う意味を「願望」、 「必要性」に分類し、それぞれの主観的な度合いと生活満足度との相関について分析を行った。その結果、 すべての作業において、その選択に伴う2つの意味の度合いの高さと生活満足度には正の相関はみられ なかった。作業療法において、クライエントが「願望」「必要性」の意味を強く伴う作業を選択し、従 事することを作業療法士が支援するだけでは、必ずしも生活満足感にはつながらないことが示唆された。 キーワード:作業選択、生活満足度、作業科学

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るため、小林は、在宅生活者 154 名を対象に、典型 的な 1 日に選択した作業に関して、「願望(したい) によるものか」、「義務(しなければならない)によ るものか」、「両方の意味を持つものか」、「どちらの 意味もないものか」について聴取し、どのように 生活満足感に影響を与えているのかについて調査し た。その結果、「願望」と「義務」の両方の意味を 伴う作業の数が多い対象者は生活満足感が高く、ど ちらの意味もない作業の数が多い対象者は生活満足 度が低かったことを報告している。そして、このよ うな意味を伴う作業を生活にとり戻すことを目標に することにより健康促進に寄与できることを示唆し ている4)  しかし、作業選択にどの程度、「願望」や「必要性」 といった意味が伴うことで、生活満足度に影響を与 えるのかについては明らかにされていない。また精 神障害を有する人々を対象とした報告もほとんどな い。このように作業選択に伴う意味が、どのように 生活満足感や健康に影響を与えるのかといった作業 科学の知識は、作業に焦点を当てた実践を行うため には必要である。  本研究は、精神障害を有する人々が日常的な作業 の中で、どのくらい「願望」および 「 必要性 」 を感 じて選択しているか、またそのことはどのように生 活満足感と関係があるのかについて明らかにするこ とを目的に調査を実施した。 方  法 1.対象者と調査期間  岡山県と広島県の 3 ケ所の精神障害者社会復帰施 設および通所リハビリテーション施設の利用者 143 名(男性 102 名:女性 41 名、統合失調症 108 名: その他 35 名)のうち研究の協力の承諾が得られた 36 名(男性 25 名:女性 11 名、統合失調症 28 名: その他 8 名)を対象者とした。対象者の平均年齢は 46.4±10.7 歳で地域生活年数の平均は 12.8±10.7 年 であった。調査期間は平成 18 年 3 月∼ 5 月に行い、 調査の時間と場所は対象者にとって、リラックスし た状態で行えるよう配慮した。 2.調査方法  調査は直接聞き取り法で行い、筆頭著者が個別に 実施した。聞き取りの内容は、1)1日 24 時間の 1 時間単位の具体的な作業内容、2)各作業に伴う 「願望」、「必要性」の2つの選択の意味の度合いに ついて、それぞれ聞き取りを行った。具体的には聴 取した作業内容について願望は「どのくらいしたい と思いましたか?」、必要性は「どのくらい自分に とって必要性を感じましたか?」と質問し回答を得 た。各意味の度合いについては、対象者の主観に基 づき「1 から 10 で言えば何点くらいですか?」と 質問し 10 段階で評価した。  聞き取った作業内容および意味の度合いは著者ら が作成した作業質問紙に筆頭著者が記述した。表1 にその記入例を示す。また「願望」、「必要性」の2 つの意味を伴わない作業については「その他」とし て対象者が評価した。  生活満足感の評価には生活満足度 100 点法を用い た。この方法は、口頭で「最も満足な生活を 100 点 とした場合、あなたの今の生活の満足度は何点くら いですか?」と質問し点数を得るもので、工夫版 PGCモラールスケールや主観的幸福度スケールと の強い相関が認められているものである5)。さらに 調査において特記すべきことは、備考欄に自由記述 として記録した。 3.分析方法  各対象者別に聴取した「典型的な作業内容」にお 表1 作業調査票と記入例 (一部省略)

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ける1時間ごとの「願望」と「必要性」の度合いの 1日 24 時間分の総和(満点 240 点)と生活満足度 との相関分析を行った。分析にはピアソンの相関係 数を用いた。統計処理には、統計ソフト SPSS11.0J for Windowsを用い、有意水準は危険率 5%未満と した。 結  果  表 2 に示すように、1 日における作業選択に伴う 「願望」と「必要性」の度合いは、すべての作業に おいて、生活満足度と正の相関はみられなかった。 また自由記述欄には、生活満足度が 60 点以上の高 満足群(21 名、全体の 58.3%)の対象者は、生活満 足度が高い理由について「生きがいとなる作業があ る」、「期待しているだけの収入がある」、「居場所が い理由については、「収入が得られない」、「他にや ることがない」、「他の選択肢があれば、もっとやり たいことがあったと思う」といったことが挙がって いた(表3)。 考  察  本研究の結果から、対象者が「願望」、「必要性」 を強く感じる作業を選択し、行うことは必ずしも 生活満足度向上につながらないことが明らかになっ た。つまり作業選択に伴う意味の度合いが同じで あっても、生活満足度が高い対象者と低い対象者が 存在する結果となった。その要因として高満足群の 自由記述欄には 1 日の作業体験を通して「生きがい」 を感じたり、収入や他者からの承認といった「報酬」 を得たりといった個人の目標達成に関する情報が挙 表2 作業選択に伴う各意味の総和と生活満足度の相関係数 (n=36) 表3 生活満足度の違いによる自由記述の比較 (n=36)

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そのような本人の目標・目的が作業体験を通して十 分に達成されないことが自由記述欄に挙がってい た。土屋らは高齢者にとっての「必要性」と「主観 的 QOL」の関係について、「作業の必要性があって も、その作業に役割や目的を見出せなければ、主観 的 QOL が低下することにつながる」と報告してい る6)。また Egan らは、「人は作業の体験を通して個 人的に重要な目標や目的が達成された時、その作業 は意味のあるものとなり、満足することができる」 としている7)。このように作業選択に伴う意味の度 合いが高くても、その後の作業体験での意味(個人 的な目標・目的の達成)につながらなければ生活満 足度向上につながらないと考えられる。本研究の結 果においても、高満足群は「生きがいとなる作業が ある」、「期待しているだけの収入がある」といった 目標・目的の達成に関する自由記述の内容があり、 このような作業体験に伴う意味の存在が生活満足度 の高さへ影響を与えていたことが考えられる。それ に対して低満足群は「収入が得られない」といった 目標・目的の未達成により作業体験に伴う意味が乏 しくなり、生活満足度が低下したのではないかと思 われる。加えて「他にやることがない」、「他の選択 肢があれば、もっとやりたいことがあったと思う」 といった記述内容から、限られた選択肢の中で「願 望」や「必要性」の意味を強く伴う作業を選択して いることが考えられ、対象者自身の新のニーズが反 映されていないことが生活満足度低下につながった ものと考える。したがって作業療法ではクライエン トが、どのような文脈から、その作業を選択したの かについて把握することおよび、その作業を遂行す ることが、どのような個人の目的・目標につながる のかについて理解しながら、それを達成できるよう に介入することが大事であり、作業選択に伴う意味 に加えて、作業体験に伴う意味も重視することが重 要であると示唆された。 おわりに  本研究の限界は、対象者が一部の限定された地域 の精神障害者社会復帰施設および通所リハビリテー ション施設の利用者に偏っていたことである。そ のため、本研究の結果を地域で暮らす全ての精神障 害を有する人々に一般化することはできない。した がって、今後は結果の一般化について検証していく ことが課題である。また今後、質的研究を行うこと で、精神障害を有する人々の意味を伴う作業選択が、 どのような体験をすることによって、「有意義な作 業の体験」につながるのか、そしてどのように生活 満足度向上につながるのかについてのプロセスを明 らかにしていきたい。そして、このような作業科学 の知識を生かし、精神障害を有する人々が作業を通 して地域で当たり前の生活を営めるようになること へつながる実践に取り組み、作業療法の発展に貢献 していきたいと考える。 謝  辞  調査にご協力いただいた精神障害者小規模作業 所、精神科デイケアの利用者の皆様および職員の皆 様に感謝いたします。 Abstract

I investigated it for the purpose of clarifying relations with the degree and the life satisfaction of the meaning to be accompanied with when I chose occupation of a day for 36 people having the mental disease in this study. I classified meanings with the occupational choice in "want", "necessity" and analyzed it about correlation with each subjective degree and life satisfaction. As a result, in all occupation, the equilateral correlation was not watched in height and life satisfaction of the degree of two meanings with occupational choice. That it was not always connected in life feeling of satisfaction was suggested only by a client chose occupation to be strongly accompanied with a meaning of the "want" "necessity" in occupational therapy, and an occupational therapist supporting that I engaged.

引用文献

1)Fearing, Law, & Clark(1997)Enabling Occupation: An Occupational Therapy Perspective. Canadian Journal of Occupational Therapy 64:11

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2)吉川ひろみ 上村智子訳(2004)カナダ作業療 法士遂行測定第 3 版

3)AOTA(2002)Occupational therapy practice framework:Domain and process. Amer J Occup Ther 56:609−639 4)小林法一 宮前珠子 清水満(2002):日常的 な作業に個人が付与する意味に基づく作業バ ランス−健常者と老人保健施設入所者の比較− 作業療法 21 巻特別:603 5) 小林法一 宮前珠子(2002)高齢者の主観的 QOLの評価− PGS モラールスケールの工夫と 満足度 100 点法について 総合リハ 30 巻 4 号: 359−362 6)土屋景子 井上桂子(2004)主観的 QOL 評価 に基づいた作業療法 - 高齢障害者維持期におけ る試み - 作業療法 23 巻:143−152 7)カナダ作業療法士協会(2000)作業療法の視点 −作業ができるということ:3・40・42

8)Heard C(1997):Occupational role acquisition a perspective on the chronically disabled. Amer J Occup Ther 31:243−247

9) 金子晃一 伊藤哲寛 平田豊明 他(2002)精 神保健福祉法 星和書店:14,

参考文献

1)鷲田孝保(1999)基礎作業学 協同医書:220 2)B. Rosalie, J. Miller, et al(1995)作業療法実践

のための 6 つの理論 協同医書出版社:5

3) Crepeau, Cohn & Schell(2005)Willard Spackman's Occupational Therapy Ninth Edition:29

4)丸山ひろみ(2004)生活場面における権利の視 点−生活支援センターのかかわりを通して−精 神保健福祉 35(4):322−325

5)吉川ひろみ(2005):作業療法における「作業」の 変遷 作業療法ジャーナル 39(12):1160−1161

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参照

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