当院における間質性肺炎合併肺癌手術例
国立療養所富士病院 呼吸器外科
天白典秀 霜多広 緒方孝治 平野竜史
西海昇 堤正夫 石原重樹 並河尚二
【要旨】 特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia以下IIPとする) に肺癌を合併する頻度は少なくない。今回、当院において最近経験した 間質性肺炎合併肺癌の2症例に対し縮小手術を行い、いずれも周術期の IIP急性増悪なく経過は良好であった。 IIP合併肺癌の治療は、肺癌の根 治性と低侵襲性を満足させる外科手術を第一に考える。 Key words:間質性肺炎、肺癌 【はじめに】 IIPに肺癌を合併する頻度は少なくなく、近年の報告では約10∼20%とさ れている1)−2)。今回、最近当院にて経験したIIP合併肺癌に対し手術を行 った2例について、文献的考察を加えて報告する。 【症例1】 症例:69才男性 主訴:症状はなし 現病歴:平成11年よりIIPの診断で当院外来通院中。平成13年2月8日 に施行した胸部CTで、左上葉に腫瘤影を認め精査入院となる。 既応歴:なし 喫煙歴:20本/日、52年間。喫煙指数;1040 入院時現症:両背側下部にfine crackleを聴取。血液生化学検査:LDH2151U/L KL−61350 U/ml
呼吸機能検査:%DLCO 59.7%
胸部単純X線では、左上肺野に径約1.5cmの腫瘤影を認め、両下肺 野にはすりガラス状陰影を認めていた(図1左)。胸部CTでは左上葉S1+ 2区域に1.7×1.4cm大の胸膜嵌入を伴う腫瘤を認め(図1右上、図2)、 両肺下葉には蜂窩肺がみられ、間質性肺炎の所見を呈していた(図1右 下)。また、気管支肺胞洗浄の細胞分画では、リンパ球分画の上昇は認め なかった(表1)。ガリウムシンチグラムで集積は認めなかった。 TBLBで確定診断は得られなかったが、画像所見上肺癌が強く疑われた ため外科的切除を計画した。なお、術前の病期診断はcTINOMO stage I Aであった。IIPを併発しているため手術侵襲を少なくすることと、比較的肺 の状態が良好な上葉に腫瘍が存在していることを考慮し、胸腔胸下肺部 分切除を行った。 切除標本の病理組織では、層状分化および細胞間橋が一部に認められ る中分化型扁平上皮癌(図3左)と、同じ切除標本から採取された腫瘍周 辺の肺胞組織には、肺胞隔壁の所々に繊維化巣が存在し弱い炎症細胞 浸潤を伴う間質性肺炎の像を呈していた(図3右)。 術前、術後の肺機能の推移を表2に示す。肺酸素化能は術前後とも良 好に保たれ、KL−一一6の値も術直前が1230 U/m1,術後1030 U/m1と大 きな変化はなかった。 術後経過は良好で第22病日に退院となった。 【症例2】 症例:65才男性 現病歴:平成12年11月の検診で、胸部X線上左上肺野に腫瘤影を指摘 され当院紹介入院となる。 既応歴:なし 喫煙歴:10本/日、50年間。喫煙指数;500 入院時現症:両背部にfine crackleを聴取。
血液生化学検査:LDH2151U/L KL−62240 U/ml
血液ガスデv−一・タ:PaO257.3 torr 呼吸機能検査:%DLCO 76.8%胸部単純X線では、左上肺野に径約2cmの腫瘤影を認め、両下肺野 はすりガラス状陰影を呈していた(図4左)。胸部CTでは左上葉S1+2区 域、胸膜直下に径2.2×2.Ocm大の血管の集籏を伴う不正形の腫瘍が 存在し(図4右上、図5)、また両肺下葉にすりガラス陰影とそれに伴う蜂窩 肺を認めていた(図4右下)。ガリウムシンチで集積はなかった。 TBLBで術前の確定診断は得られなかったが、画像所見上肺癌が強く疑 われたため(cTINOMO stage I A)、症例1と同様に胸腔胸下左肺部分切 除を施行した。 切除標本の病理組織では、一部に角化傾向を伴いシート状配列を示す 中分化型扁平上皮癌(図6左)と、同じ切除標本から採取された腫瘍周辺 の肺胞組織には、不均一に広がるリンパ球浸潤を伴った繊維化巣がみら れ、間質性肺炎像(図6右)を呈していた。 術前、術後の肺機能の推移を表3に示す。肺酸素化能は術前、若干低 値であったが術後もほぼ同等に保たれ、KL−一一6の値も術直前が2130 U/ml,術後1730 U/mlと手術前後の増悪はなく、術後経過は良好で第2 9病日に退院となった。 【考察】 文献によってことなるが、最近の報告ではIIPに肺癌を合併する頻度は10 ∼20%と報告されている1)『2)。IIP合併肺癌の手術に関しては、 IIPの活動 性の評価、術後残存呼吸機能の評価、急性増悪の可能性等を考慮し、 適切な手術術式を選択する必要があるといえる。 当院における過去5年間のIIP合併肺癌に対する切除例は、肺癌手術 症例184例中4例、2.2%となっている(表4)。下の2例は今回提示した 症例である。うち肺葉切除を2例、肺部分切除を2例に施行、組織型は扁 平上皮癌3例、腺癌1例で、4例中1例を術後のIIP急性増悪で失ってい る。 今回症例提示した2例は、いずれも両側肺下葉優位のIIP病巣が認めら れる一方で間質性病変が軽度で比較的状態の良い上葉に腫瘍が存在し ていたため、上葉切除による残存肺機能は理論値以上に低下することが 予想された。また、術前の画像診断で末梢肺野の扁平上皮癌が疑われ、
術中の迅速病理診断でそれが確認されたこと、胸部CTで縦隔リンパ節等 の腫大はなくcNOであったことも考慮し、縮小手術を選択することとした。 周術期のIIP急性増悪の予防に関してはさまざまな意見があるが、決定 的なものはない。文献的には術中の酸素濃度を必要最小限に保つことが 重要であるということ以外に定説となるものはない3)。 周術期のステロイド予防投与に関しても意見の分かれるところであるが、 今回提示した症例のように、CTで蜂窩肺を呈するいわゆるUIP(Usual interstitial pneumonia)の場合にはステロイドの反応性が不良であると考え られるため、石岡ら4)が提案したIIPに対するステロイド薬の適応に従い、気 管支肺胞洗浄でリンパ球分画の上昇が認められる症例でなければ、ステロ イド予防投与は行っていない5)−6)。 【結語】 IIP合併肺癌手術例を2例経験した。いずれも胸腔鏡下肺部分切除を行 い、周術期のIIP急性増悪なく術後経過は良好だった。 IIP合併肺癌の治療は、肺癌の根治性と低侵襲性を満足させる外科手 術を第一に考える。 【文献】 1)小倉剛ほか:特発性間質性肺炎における肺癌の合併とその臨床的特
徴、日胸疾会誌35;294−2gg、1gg7
2)竹内栄治ほか:肺癌を合併した特発性間質性肺炎症例の臨床的検討、日胸疾会誌34;653−658、1gg6
3)小西晃生ほか:間質性肺炎を合併した肺癌手術症例の検討、日臨麻 誌14;617−−623、1994 4)石岡伸一ほか:間質性肺炎のステロイド治療とその限界、AnnualReviw呼吸器1997,228−234、1997
5)堀尾博俊ほか:肺癌術後急性増悪を来した特発性間質性肺炎の1救命例、日胸疾会誌34;439−443、1gg6
6)土田正則ほか:間質性肺炎を合併した肺癌手術症例の周術期管理 に関する検討、肺癌39;987−994、1999【表1】 気管支肺胞洗浄(BAL): 分画〔stab.0% seg.2.5%1ym.4.5%eos.4.5% macrophage 88.5%〕 CD4/CD8=2.0 baso.0%mo.0% 【表2】症例1の術前・術後の肺機能
PaO2
PaCO2
VC
%VC
FEV1.O FEV1.0%DLCO
%DLCO
KL6
mmHg 93.1 82・9 mmHg 39.8 39.6L3.754.Ol
% 112 120L2.963.06
% 75.5 75.7 ml/m’n/mmHg堰@X山
% 52.ヱ ヱ3上 IU/L ユ3五Ω 123Ω 82.1 41.2 1.Q3Q 【表3】症例2の術前・術後の肺機能 症伊2 入 、術直前 lll後PaO2
PaCO2
VC
%VC
FEV1.O FEV1.0%DLCO
%DLCO
mmHg
mmHg
L%
L % ml/e/mmHgi
顕
39.2 2.50 81.4 1.91 79.9 10.6 76.8 66.8 39.3 2.51 82.0 1.94 88.2 12.9935
幽
42.3【表4】当院におけるIIP合併肺癌切除例(平成8年4月∼平成13年3月) *肺癌手術症例184例中4例(2.2%) 年齢/性 部位/腫瘍径 術式 組織型/病理病期 術後経過
65M
72M
69M
65M
左S9 右S2(63x25) +S8(15x12) 左S1+2 (12×10) 左Sl+2 22×20 左下葉切除 NDO 右上葉切除+右下葉 部分切除NDO 左上葉部分切除 (VATS) 左上葉部分切除 (VATS) 中分化扁平上皮癌 pTINIMOstage ll A 高分化型腺癌 pT2NIMIstagerV 中分化型 扁平上皮癌 中分化型 篇平上皮癌 44ケ月癌死
IIP増悪で IOO病日死亡 2ケ月 無担癌生存 4ケ月 無担癌生存 【図1】彩鞘
シ 蕊灘麟灘
tt }弼」、 ・・捲 1[ ら ス・ 1【図4】