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日本におけるまち歩きツアーの現状と動向について

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1.はじめに  筆者は、「地域観光ガイドの組織と活動について」と題する論文(2015年発行名古屋短期大学 紀要第53号)において、日本各地のまち歩きツアーやそれを担うボランティアガイド組織につい て論じた。日本全国には多くの観光ボランティアガイド組織が存在し、自分の都道府県内の組織 の情報を取りまとめたり研修を行ったりといったサポートを行う都道府県も多い。その背景には、 2003年の観光立国懇談会報告書の副題として掲げられ、今でも観光庁のビジョンとしてホーム ページに掲載されている「住んでよし、訪れてよしのまちづくり」に代表される観光政策と、そ れに基づく観光庁や日本観光振興協会といった国レベルでの指導やサポート体制があるだろう。  これらの観光ボランティアガイドは一般的に無料の案内ツアーを実施している団体が多い。し かし、実費、あるいは一人当たり定額の参加費を課す団体もあり、さらには食事や体験プログラ ムなどを含む、より付加価値の高い内容とともに商品としての対価を課すケースも見られる。こ のまち歩きガイドの商品化が始まったのは、2006年の「長崎さるく博」(実際にはその2年前か らプレさるくとして始まった)がきっかけではないかと思われる。  辻(2015)では、そのような日本におけるまち歩きツアーの成り立ちと変容について考察した が、その後日本における観光を取り巻く状況がどのように変化し、それが観光ボランティア組織 によるまち歩きツアー、商品としてのまち歩きツアーや体験型ツアーにどのような影響を与え、 それらがどのように変わってきたのか、約5年を経て現在の状況を再度整理することがこの研究 の目的である。 2.観光をめぐる状況  まず、日本における観光を取り巻く状況や、観光ボランティア組織の現在の状況について述べ たい。 ⑴ 訪日外国人旅行者の増加の継続  表1は、2012年からの訪日外国人数、出国日本人数、日本人国内旅行者数、日本人国内宿泊 旅行者数の推移を表すものである。少子高齢化が進行する中で、日本人の国内旅行者数と国内宿 泊旅行者数は、多少の増加と減少を繰り返し、横ばいといった状況である。2018年の日本人国 内旅行者数は対前年比13.2%減という大きなマイナスとなっているが、これは自然災害や天候不

日本におけるまち歩きツアーの現状と動向について

辻 のぞみ

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順、連休の日並びの悪さなどが影響したものと分析されている。日本人の海外旅行については 2016年からプラスに転じ、2018年には、2012年に記録した過去最高値をようやく更新し、2019 年にはついに2,000万人を越えた。  一方、訪日外国人旅行者数については、2012年に前年の東日本大震災による落ち込みから回 復して以降高い伸び率が続き、2018年は一桁の伸びに落ち着き、また2019年は日韓関係の悪化 により訪日韓国人が大幅に減少したことにより全体では2.2%の増加にとどまったものの、日本 人の国内旅行や海外旅行に比べるとその高い成長の継続ぶりは明らかである。3,000万人という 訪日外国人旅行者数は、日本人延べ国内旅行者数の5億6千万人や日本人延べ国内旅行宿泊者数 の4億4千万人に比較すると小さい数字であるが、訪日外国人旅行者の平均滞在日数は、5.2日 (2017年)(1)であり、日本国内の旅行市場においてその数の増加とともに重要性が増しているこ とは間違いない。2012年以降、やはりインバウンド観光客が大幅に増加したことが、日本の観 光にとって最大の変化要因であろう。 表1.訪日外国人数、出国日本人数、日本人国内旅行者数、日本人国内宿泊旅行者数の推移 訪日外国人数 増減 出国日本人数 増減 日本人国内旅 行者数(万人) 増減 日本人国内 宿泊旅行者 数(万人) 増減 2012 8,358,105 +34.4 18,490,657 +8.8 61,275 0.0 41,318 +3.6 2013 10,353,904 +24.0 17,472,748 ‒5.5 63,095 +3.0 43,240 +4.7 2014 13,413,467 +29.4 16,903,388 ‒3.3 59,522 ‒5.7 42,868 ‒0.9 2015 19,737,409 +47.1 16,213,789 ‒4.1 60,472 +1.6 43,846 +2.3 2016 24,039,700 +21.8 17,116,420 +5.6 64,108 +1.6 42,310 ‒3.5 2017 29,691,073 +19.3 17,889,292 +4.5 64,751 +1.0 42,991 +1.6 2018 31,191,856 +8.7 18,954,031 +6.0 56,178 ‒13.2 44.373 +3.2 2019 31,882,100* +2.2 20,080,600* +5.9 未発表 ─ 未発表 ─ *は2020年1月17日発表による暫定値 出典:訪日外客数・出国日本人数……日本政府観光局    日本人国内旅行者数……観光庁「旅行・観光消費動向調査」    日本人国内宿泊旅行者数……観光庁「宿泊旅行統計調査」 ⑵ 通訳案内士法の改正  日本においては1946年に施行された「通訳案内業法」のもと、長らく外国人旅行者に対して 外国語で観光案内を行って報酬を得るという行為には、国家資格である通訳案内士の資格が必要 であった。その試験はかつては非常にハードルが高いとされ、近年でも年によってばらつきはあ るが、英語の場合、合格率は10%∼20%台となっている。また訪日外国人旅行者のうち圧倒的 多数を占める個人旅行者の中で、通訳案内士を雇って旅行する層は非常に限られており、資格の 取得の難しさに比して通訳案内士の仕事だけで生計を立てるのは容易ではなく、この試験は、職 業として通訳案内業に携わるためというより、外国語学習に関心のある層が定年後の趣味や生き がいとして挑戦する類の国家試験であるのが実態であった。しかしながら、より合格者を増やし 業務の適正化を図るため、試験の一部免除の制度、特例措置を導入するなど、2006年に「通訳 案内士法」への改正が行われた。

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 さらに、1946年以来外国人を有償でガイドするために必要だった国家資格を不要にするとい う大きな変革をもたらしたのが、2018年1月4日の改正通訳案内士法の施行である。通訳案内 士の名称が「全国通訳案内士」となったほか、通訳案内士の業務独占規制が廃止され、資格を有 さなくても、有償で通訳案内業務を行えるようになるなど、通訳案内士制度が大きく変わった。 国家試験としての通訳案内士試験は継続され、これまでの「通訳案内士」は、名称独占資格(資 格を有さない者が、当該資格の名称や類似名称を用いることを禁止する規制)により、「全国通 訳案内士」と名乗ることができるが、外国人旅行者を有償で案内するために必ずしも必要な資格 ではなくなった。また、これまでの各特例法に基づき導入されていた各地域特例ガイドについ て、通訳案内士法の本則に位置づけ、新たに「地域通訳案内士」制度ができ、これまでの「地域 限定通訳案内士」と「地域特例通訳案内士」は「地域通訳案内士」とみなされることとなった。  この改正により、言ってみれば「誰でも」、外国人旅行者を案内して報酬を得ることができる こととなった。日本人に対して有料でガイドを行っている観光ボランティア組織の中には、外国 人に対しては料金を課すことは法律違反となるため外国人を案内活動の対象としていなかった組 織もあるが、それらの組織も有料で外国人を案内することが可能となった。また、国家試験の高 いハードルを超えなくても、外国人旅行者を楽しませるコミュニケーション力やホスピタリティ や熱意のある人材であれば、自分のアイデアや能力次第で、商品としての外国人旅行者向けまち 歩きツアーや体験型ツアーのガイドを生業とすることも可能となったと言える。 ⑶ 観光ボランティアガイド組織の現状 ①日本観光振興協会の「観光ボランティアガイド団体調査結果」に見る状況  日本観光振興協会が運営するホームページ「全国観るなび」には全国の観光ボランティアガイ ドグループを検索することができるデータベースが搭載されている(2)。観光ボランティアガイド組 織は、ほとんどが特定の市、町、地域の名称を冠し、特定のエリアを対象として活動していると思 われるが、中には美術館、博物館、動物園、城、寺社など、特定の施設を対象とする団体もある。  同協会の1994年3月発行の資料には、観光ボランティアガイド組織の設立は、「1980年代後半 から急増し、1990年代以降設立の勢いはさらに強まっている」と記述されている。この時点で 同協会の把握する組織数は107であったが、翌年1995年の調査では359を数えている(3)。西村 (2009)は、特に1990年代に入ってから全国各地で、地域住民による地域ガイドが積極的に行わ れるようになったと述べている(4)。その後も全国のボランティアガイド組織数はほぼ右肩上がり に増加を続けたが、2013年の1,748団体をピークに、その後は1,700団体弱で横ばいとなってお り、成熟した状況が感じられる。  現時点での同協会による最新の調査結果である、「平成29(2017)年度観光ボランティアガイ ド団体調査結果」によれば、2017年度の全国の組織数は1,693、ガイド数は46,159人となってお り、前回2015年度調査結果と比較して組織数は微増、ガイド数はやや増加した。都道府県別の 内訳を見ると、東京都においてガイド数が1,334人から3,545人に増加しており、これは2020年 の東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催と無関係ではないであろう(5)  男女比は、全体では男性の方がやや多く58%を占める。平均年齢は2013年度報告書では63.5

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歳、2017年度報告書では65.1歳とやや上昇しているが、やはり定年退職後の活動の場としての 観光ボランティアガイド組織の意義が推察される。  外国語で観光ボランティアガイドを行っているかどうかについては、2017年度の同調査では、 全体の22.2%の組織が外国人観光客に対応していると回答しており、2013年度の15.3%より増加 している。実際の案内実績については、2017年度の同調査では年間案内実績の10.9%が外国人と なっている。  都道府県別の組織数(( )は2013年度報告書の数字)を見ると、最も多いのは兵庫県の79組 織(67)、山形県の71組織(73)、長野県の66組織(51)、愛知県の65組織(60)である。さら に静岡県55組織(56)、北海道53組織(58)、新潟県52組織(55)、大分県46組織(54)と続く。 一方、最も少ないのは香川県と和歌山県の13組織(14)である。( )の2013年度報告書の数字 と比較すると、増えたところもあれば減ったところもあり、特に全国的にどちらかの傾向がある わけではないようである。  表2は、有料・無料の状況について、3カ年度の調査結果を比較したものである。  有料でガイドを行っている団体は全体の26.3%、実費を徴収している団体が29.0%(実費とは、 ガイド料としてではなく、交通費、資料代、入場料等として料金を課すこと)を占める一方、 まったく無料の団体が28.8%である。なお、「その他」および「無回答・不明」についてその内 容を同協会に確認したところ、2013年度の「不明」、および2015年度、2017年度の「その他」に は、条件により無料の場合と有料の場合がある団体がここにカウントされていることや、年に よって分類の基準が異なっている可能性があることがわかった。つまり、実費・条件付きを含め 有料でガイドを実施している団体は2017年度は7割近いことがわかり、過去3回の調査結果を 比較してみると、全く無料でガイドを行う団体の割合は減少していることがわかる。 表2.観光ボランティアガイドの有料・無料の状況 無料 実費 有料 その他 無回答・不明 2013年度 35.7% 15.5% 35.6% ─ 13.2% 2015年度 32.5% 22.1% 37.8% 4.5% 3.0% 2017年度 28.8% 29.0% 26.3% 15.1% 0.9% 出典:日本観光振興協会 平成25,27,29年度観光ボ ランティアガ イド 団体調査結果  有料でガイドを行っている団体について料金設定を見ると、「ガイド1人あたり」が最も多く 34.4%、「お客様1人あたり」が15.4%、「ガイド1時間あたり」が8.9%、「ガイド1回あたり」 が6.5%を占める。31.7%を占める「その他」は、季節、案内場所、時間帯、人数、コース、対 象者など様々な条件によって料金が異なる。  「お客様1人あたり」の料金設定は、500円以上1,000円未満が最も多く29.8%、次に300円未 満が19.3%、その他が15.8%、300円以上500円未満と1,000円以上2,000円未満が12.3%、2,000 円以上が10.5%と最も少なくなっている。  高齢化社会の日本における、定年退職後の人々の活動の場のひとつとして、観光ボランティア ガイド組織は全国的に発達を遂げている。地元の歴史や文化の語り部として来訪者へのおもてな

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しを提供してきたボランティアガイド組織はしかし、DMO を推進する国の政策のもとで、行政 による着地型観光への取り組みが増すのに伴い、地域により、組織により、その運営やガイドの 役割に差異が出てきているように思われるが、アンケート調査報告に表れた数字だけではわから ないことも多い。さらなる調査によりその背景を探ることにより、近年ビジネスとしての有料の まち歩きツアーや体験ツアー商品が増加している状況が、ボランティアガイド組織の運営方針に どのような影響を与えているのか、分析を深める必要がある。 ②言語障壁緩和施策としての「善意通訳」(グッドウィルガイド)制度  日本においては、まだ少子高齢化が問題視されず、インバウンド観光客が成長戦略の切り札と も目されていなかった時代から、外国人旅行者の言語障壁を緩和し、国内各地を安心して旅行で きる受け入れ環境の整備促進のための施策が、インバウンド観光政策において重要視されてき た。東京オリンピックが開催された1964年、国際観光振興会(JNTO)により、「善意通訳」 (グッドウィルガイド)制度が全国的な事業として始められた。これは、「街角や車中、駅など で、言葉がわからず困っている外国人を見かけたら積極的に声をかけてお助けしましょう」とい う、小さな親切運動である。善意通訳として活動したい人は、JNTO に申し込むと登録証とバッ ジが交付され、そのバッジをつけての活動は本人に任されている。地域ごとに熱心な登録者が集 まって組織化されたのが、善意通訳組織(SGG=Systematized Goodwill Guide)であり、JNTO の 英語のウェブサイトでは現時点で全国95の組織が紹介されている(6)。これは辻(2015)における 89より増加しており、この精神は継続していることがわかる。SGG の運営や活動内容は組織に よって大きな違いがあるが、大都市や有力観光都市の SGG を中心として、企業、団体、個人か らの依頼による同行ガイド、自治体が運営する観光案内所でのボランティアなど、自治体等とも 密接な関係を持って活動している団体も多い。  以上2.⑴∼⑶で見てきたように、訪日外国人旅行者数の大きな増加が継続し、通訳案内士に 関する法律が改正される中で、観光ボランティア組織や善意通訳組織はそれらに対応して、外国 人対応をする組織が増加し、SGG の数も増加している。しかしながらそれらの活動内容や運営 体制に大きな変化や変革の動きは見られないようである。 3.商品としてのまち歩きツアー/体験型ツアーの状況 ⑴ 日本人向けまち歩きツアー商品に見る変化  辻(2015)では、「長崎さるく」から始まった有料の着地型観光商品としてのまち歩きツアーに ついて論じ、自治体の補助金なしに自立運営されている例として「大阪あそぼ」の事例を取り上 げた。その後も多くの地域で行政、NPO 法人、観光まちづくりに熱意のある個人など、様々な関 係者が主体となり、あるいは主導して、従来型ボランティアガイドの活動を越えたまち歩きツアー への取り組みが行われている。例えば名古屋市では、「長崎さるく」や「大阪あそぼ」を手がけた のと同じ総合プロデューサーにより2013年に始まり、年に1度3週間ほどに渡り開催される「やっ とかめ文化祭」のプログラムとしての有料まち歩きツアーが実施されている。また、東京都では

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産業労働局観光部振興課を主管部署として、都内各地の魅力を発信し、地域の観光振興につなげ る取組として、都内各地の観光協会等のまち歩きツアーを集めた、期間限定(2019年は9月から 12月の約3ヶ月)のまち歩きツアーイベント、「ぶらっTokyo さんぽ」を実施している(7)  このようなまち歩きツアーの多くは行政の補助金や支援により運営されているものと思われ る。そんな中で補助金なしどころか、多くのツアーが公開と同時に予約で埋まり、ビジネスとし て十分成り立っている例として、2011年に始まった「まいまい京都」がある。その後も「まい まい京都」と同様のコンセプトで名古屋のまちを中心とした東海エリアで「体験」、「学び」、「見 学」、「まち歩き」などのツアーを実施する「大ナゴヤツアーズ」が2017年に始まり、一部のツ アーは予約が取れないほど人気となっているという。  まち歩きツアーは、単に史跡や町並みをめぐるだけではなく、食、老舗や特徴のある商店や飲 食店、工場、工房、文化、祭り、──それらを単に見たり話を聞くだけではなく、体験したり参 加したりすることができる──など、そのテーマと内容も多様化している。これらのツアーはマ ス向けではなく、参加可能人数は20人前後であることが多く、手配や準備には手間も人手もか かるであろう。しかしオンリーワンのガイドの語りとテーマを絞った付加価値のあるツアー内容 が、たとえ料金が高めであっても「刺さる」顧客層は一定数存在することが、筆者が各地で商品 としてのまち歩きツアーに参加した経験から実感されるところである。  しかしながら、補助金なしの自立運営によるまち歩きツアーがどの程度広がっているのかを判 断するためには、もっと事例を集める必要がある。 ⑵ 外国人向けまち歩きツアー/体験型ツアーの状況  3.⑴では日本人客を対象にしたまち歩きや体験ツアーについて述べたが、では増加する訪日 外国人旅行者を対象としたまち歩きツアーはどうなのであろうかと調べてみると、日本人向けま ち歩きツアー商品以上に、ここ数年目覚ましい変化が起きているようである。  京都については訪日外国人旅行者が急増する以前から外国語での有料ウォーキングツアーも存 在していた。しかし外国語での有料ガイドには通訳案内士の免許が必要であることや、そもそも 訪日外国人旅行者向けにビジネスとしてのまち歩きツアーや着地型体験型ツアーの需要が小さい ことから、全国的には商品としてのこれらのツアーは発達してこなかったと考えられる。海外に 目を向けてみると、例えばロンドンでは、ウォーキングツアーを主催する団体の一つに “London Walks” があるが、そのホームページでは、“London Walks is the oldest urban walking tour company on the planet”、“London Walks was founded half a century ago” という記述がある。実際筆者は1990 年代半ばにこの London Walks のウォーキングツアーを多数体験し、予約不要の現地集合でも安 定した集客があり、ガイドの語りがツアーの魅力であることなど、日本にはないツアー商品であ ることが大変印象に残っている。ロンドンのように歴史が町並みや建物という目に見える形で残 り、世界中から観光客が集まる大都市だからこそ可能なツアー商品であり、当時まだ訪日外国人 旅行者数が300万人台という日本においては、日本人向けであればともかく、外国人向けには到 底ビジネスにはならないことは明らかであった。  しかし状況は変化した。ここでは TripAdvisor で検索して得られる旅行商品の情報によってそ

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の一端を明らかとしたい。 ①多種多様な商品と催行会社の登場  2020年1月6日に TripAdvisor のウェブサイトを閲覧したところ、「東京23区」の、英語によ る1時間∼1日以内の「ウォーキングツアー」は537件が掲載されていた。また、その多くがま ち歩きを含むと思われる「グルメツアー」が111件あった(図1)。 図1.TripAdvisor 東京23区のウォーキングツアー  どのようなツアーが掲載されているのかよりイメージできるよう、以下にいくつかのツアー名 と主催団体・会社名、料金、時間を挙げることとする。  これらの例からも、東京の観光魅力には食の要素が重要な役割を占めていることが示唆されて いる。食が関わるツアーはいくつかの店を回るものが多いが、立ち寄る店での飲食代は全く含ま れていないものから、数杯のドリンクや各店での食べ物が含まれているものまで様々である。  一般的なウォーキングツアー、まち歩きツアーとしてはツアー料金は高めに感じられるものが 多い。感覚的には、表の一番最後にある「渋谷公式ウォーキングツアー」の1,500円が、一般的 なウォーキングツアーとしてリーズナブルな料金である。「まいまい京都」のツアーが、2,500円 からの設定となっているのと比べても、また、「London Walks」のツアーが一律10ポンド(約 1,400円)であるのと比べても、また、日本では英語が外国語であるため、日本語によるツアー 商品より割高になり得ることを勘案しても、この表にある多くのツアーは高いと感じられるが、 食や体験を含み、それなりの付加価値をつけて訪日外国人旅行者の消費拡大に結びつけようとす るのは、国の観光政策と合致している。また、二人以上の集客がある限り毎日催行としているツ アーが多く、一度に多くの集客を想定しておらず2名程度の少人数での催行が多いのではと想像 され、高めの料金設定は仕方がないのかもしれない。また、時間的にも、ロンドンなどでの通常 のウォーキングツアーは1時間半程度が多いが、表3では3時間かそれ以上という長時間のツ アーが多い。

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表3.TripAdvisor に掲載されている東京のウォーキングツアーの例

ツアー名 催行会社名 料金/時間

有楽町、新橋、銀座の食べ歩きツアー (2∼10人) Arigato Japan Food Tours ¥20,109/3時間 地元民が案内する東京三軒茶屋裏通り居酒屋プライベート

ツアー

Tokyo Memories ¥19,400/4時間

渋谷食べ放題ツアー (2∼10人) WashokuClub ¥14,585/4時間

東京隠れ家グルメツアー Secret Food Tours Tokyo ¥14,505/3.5時間

東京の魚市場フードツアー Ninja Food Tours ¥11,500/3時間

築地市場食べ歩きと文化ツアー Japan Wonder Travel ¥11,140/3時間

新宿ナイトツアー Street Food Japan ¥11,046/3時間

東京の夜景撮影ツアー (2∼6人) アイ エクスプローラ ¥9,900/2.5時間

古き良き東京を体験:谷中ウォーキング ツアー (2∼10人) OMAKASE ¥9,375/3時間半

私たちと1400年の歴史を楽しみましょう! 下町ップロ ¥8,000/3時間半

東京観光半日ツアー Japan Panoramic Tours ¥7,000/3時間

築地魚市場ウォーキングフードツアー Magical Trip ¥6,800/3時間

東京小グループ徒歩ツアー:人形町と日本橋界隈 アーバンアドベンチャーズ ¥6,587/3時間 東京への旅を地元の人と始めましょう:プライベート&

パーソナライズ

City Unscripted Tokyo ¥6,509/3時間

日本酒と地元料理で新宿を探索 WOW! JAPAN Experience+ ¥6,500/3時間 地元のように食べて飲む:レストラン、居酒屋、ラーメン

ツアー (2∼8人)

Best Experience Japan ¥5,000/3時間

東京パブ・クロール 東京パブクロール ¥2,900/4.5時間

渋谷公式ウォーキングツアー Hang Out Japan ¥1,500/1時間20分

出典:TripAdvisor ウェブサイトを2020年1月6日に閲覧

 まち歩きツアーには当てはまらないので例には挙げなかったが、他にも多くの自転車によるま ちめぐりツアーや、歩きの部分は両国駅と相撲部屋の往復だけの、朝の相撲部屋を訪れるツアー、 ABC クッキングの関連会社と思われる ABC Cooking Travel 社が主催する魚市場見学ツアーと巻 き寿司体験、ガイド兼ドライバー付き車によるプライベートツアーなど、実に多種多様なツアー が市場に出回っている。  催行会社については、そのほとんどはここ数年、訪日外国人旅行者の増加とともに出現した旅 行会社のようである。中にはインバウンド旅行関連のコンサルティングや情報発信、マーケティ ング等を手がける一方、インバウンドビジネスの一つとしてこの事業に参入したと思われる会社 や、日本人旅行者を対象にオーストラリアへの観光宣伝を行っていた会社が、逆に訪日オースト ラリア人等外国人旅行者向けに設立した会社もある。とにかく様々な新しいプレーヤーがインバ ウンド観光旅行者相手の事業に参入している状況である。 ②まち歩きツアーと行政の関わり  東京におけるまち歩きツアーを取り上げるにあたり、東京都の関わりについても述べる必要が あるであろう。東京は日本の都市観光の中心であり、また日本のゲートウェイであり、観光、ビ ジネス、イベントなど必然的に内外から多くの人が集まる大都市でありながら、行政として大き

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くウォーキングツアー事業に関わっている。  一つには東京都観光ボランティアによるガイドサービスがある。東京都では産業労働局観光部 を主管部署として、言語別に観光ボランティアの募集・登録を行い、「外国人旅行者向け観光ガ イドサービス」、「都庁案内・展望室ガイドサービス」、「街なか観光案内」、「派遣ボランティア業 務」に活用している。そのうち、「外国人旅行者向け観光ガイドサービス」がウォーキングツ アーに当たる。ホームページ(8)にはその運用について次のように記載されている。  ・7言語(英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、中国語、韓国語)でのガ イドサービスが利用可能。  ・1カ月前∼3日前までに予約が必要。出発時間は決まっているが希望日は参加者のリクエス トベース。  ・公共交通機関や徒歩による移動が主体。  ・ガイドサービスへの参加者数は、5名まで。  ・同行するガイドは参加人数に係らず2人。  ・同行するガイドにかかる料金は、参加者が負担。  ・案内コースは13コース。  東京都では、このような充実したまち歩きツアーをボランティアベースで提供している。ただ し参加者は、自分の交通費(出発地点である東京観光情報センターバスタ新宿から、コースによ り異なる目的地に移動するための地下鉄・JR 料金等)および、規則で必ず2名同行することに なっているガイドの交通費を負担するため、無料ではない。一人当たりに必要な料金は、ガイド の分を参加者で頭割りすることから、参加者の人数によって変わってくる。  このツアーの利用実績については公表されていないが、デパ地下や歌舞伎町を含む新宿界隈を 訪れるコースは人気があると聞いた。バスタ新宿から近く交通費もかからないからであろう。  もう一つは都内各地の観光協会等のまち歩きツアーを集めた期間限定のイベント、「ぶらっ Tokyo さんぽ」である。歴史、文化、自然、グルメ等をテーマに47コース(英語ツアーを含む) が設定され、2019年は9月14日から12月15日まで実施された。これは日本人向けをメインとし て実施されている企画だが、12コースが外国人向けに設定され、英語では “TOKYO HALF-DAY GUIDED WALKING TOURS” というタイトルの元に、各ツアーが英語ページに掲載され販売され た。ツアー料金はその内容によって大きく異なるが、品川の和菓子屋などをめぐる1,000円のツ アーから、浴衣生地の染めを体験し、自分の浴衣をお土産に持ち帰る10万円のツアーまであり、 外国人向けには体験型の内容が多く料金設定も高めとなっているようである。各ツアーは、都内 の区や観光協会などが関わって企画・造成されたもので、都がそれを一つに束ねたという形に なっている。

③従来とは異なる free walking tour の登場

 例えばロンドンやバルセロナの観光情報サイトでは、無料をうたうウォーキングツアーを多数 見つけることができる。しかしながらその意味合いは日本と異なり、「あなたの満足度とお財布 の事情に応じて、自分で参加料金を決めてください」という「商品」である。例えば “walking tours in London” で検索すると、いくつかのウェブサイトが出てくるが、これらのウェブサイト

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 図2. GuruWalk の料金についての 説明 からは、どこも、無料と謳い客に評価に見合った料金の判 断をゆだねるからこそ、質の高いツアーが提供できるのだ という考えに立っていることがわかる。いわば商売として の無料ツアーである。  今回東京のウォーキングツアーについて調べていて驚い たことの一つが、海外のウォーキングツアーと同じコンセ プトでの “free walking tour” がいくつも登場していたこと である。

一つの例は2017年6月に始まった Tokyo Localized Walking Tours である。この会社が提供するツアーのうち谷中の ウォーキングツアーは有料で金額が明記されているが、そ れ以外の「定番東京ツアー」、「明治神宮と原宿」、「夜の ウォーキングツアー」、「渋谷の夜のウォーキングツアー」、 「浅草ウォーキングツアー」などは free と書かれている。 しかし FAQ を読むと、ガイドへのチップをすすめてい る(9)  もう一つの例は GuruWalk である。世界のいくつかの都 市で展開しており、いわばグローバルチェーンの「無料」 まち歩きツアーの会社である。ホームページは英語とスペ

イン語で作成されており、“The best free tour guides are here” と書かれている。Free walking tours in Tokyo と謳いながら、その説明には、「ツアーが終わったら guru(ガイド)にあなたが適当だ と思う額を支払いましょう。5ユーロの人もいれば50ドルの人もいるかもしれない。あなた次 第です!」と書かれている(10)  このようなツアーが出現する前、日本における無料のまち歩きツアーはボランティアガイド団 体や行政が提供するもののみであった。日本はチップの習慣がない国である。感謝やお礼の気持 ちをお金で受け取ることには慣れていない。無料といったら無料なのである。

 “Tokyo free walking tours” で google 検索をすると、図3の通り一番上に出てくるのは www.tfwt. jp である。これはその名も Tokyo Free Walking Tour という純粋なボランティアガイド団体による ウォーキングツアーである。2008年に JNTO の善意通訳組織として登録し、皇居東御苑、浅草、 明治神宮と原宿、上野公園で、あらかじめ決まった日時に、予約なしの現地集合で集まった外国 人旅行者に対し、1.5∼2.5時間の無料のガイドツアーを行っている。一方、その下に出てくるい くつかのウエブサイトは、商品としての “free walking tour” である(図3)。

 日本は、言語障壁緩和という外国人旅行者への便宜供与に発したボランティアガイドによる無 料のガイドサービスが充実した国となっていた中で、ここ数年の訪日外国人旅行者の大幅な増加 により、ロンドンやバルセロナで見るのと同じようなコンセプトの “free walking tour” が登場し、 これが従来型の純粋なボランティアによる無料のウォーキングツアーと混在する状況となってい る。free を謳う商品としてのウォーキングツアーを日本において利用するのは、チップに慣れて

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図3.“Tokyo free walking tours” での 検索で表示された画面 いる外国人旅行者なのでそれほど摩擦は起こらないの かもしれないが、チップ文化のない日本にこのような ツアーが進出してきていることは、もっと注目され、 問題提起がされるべきではないだろうか。そもそもそ のようなツアーが果たして適切なクオリティを保証す るツアーなのであろうか。筆者が行ったバルセロナ観 光局の職員や、同局が主催する有料ウォーキングツ アーのガイドからの聴取(2017年2月)によると、 バルセロナの無料ウォーキングツアーは、無料と謳っ ても参加者のチップをあてにしているものであり、資 格のない質の低いガイドによりツアーが行われている という否定的な認識が示されたことからも、欧州にお いても必ずしもあまねく受け入れられているやり方で はないのかもしれない。(辻、2018) ④まち歩きツアーとナイトタイムエコノミー  上述の①において商品としてのまち歩きツアーを調 べる中で、飲食店巡りのツアーを中心に、夜に実施さ れるツアーも散見された。ヘリコプター遊覧、夜景の 写真撮影、ショーの鑑賞など、まち歩きではない夜の 観光商品もあり、TripAdvisor での検索では41件が東 京23区の「ナイトライフ」として掲載されていた。  観光施設、ショッピング施設、飲食施設等の閉店時 間が早く、夜のアクティビティが少なくナイトライフ を楽しむ機会が乏しいとされる日本において、夜に行 われるまち歩きツアー商品は、外国人旅行者に向けた 日本の観光魅力の増進となり、ナイトタイムエコノ ミーの活性化にもつながるものである。 4.まとめと課題  訪日外国人旅行者の大幅な増加によって、商品としてのまち歩きツアーが増加し、その内容も 食をはじめとして日本ならではの多種多様な体験型のツアーが現れている。  急激にこのような商品やそれを提供するプレーヤーが増加した背景には、インターネットによ る旅行情報や商品の流通によるところが大きいであろう。Tripadvisor や Viator、Voyagin などの グローバルなオンライン旅行情報や商品のポータルサイトを通じて、どんなに小規模な旅行商品 でも、世界中どこにいる人とでもつながることができ、情報収集も予約も可能である。商品の提 供側にとっても、どんなに小さな会社でもあるいは個人でもツアーを企画し情報発信することが

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可能である。そして口コミというフィードバックが、さらにその商品を購入する人への働きかけ になる。サプライヤー対旅行者、また旅行者対旅行者の「旅マエ、旅ナカ、旅アト」のサイクル が、オンライン旅行情報サイトや着地型ツアー予約プラットフォーム上でグローバルに展開され ており、そこにはどんなにローカルなまち歩きツアーもはまるのである。  また、これだけの数や種類のガイド付きまち歩きツアー、体験ツアーが提供されるようになっ た背景には、2.⑵で述べた、2018年1月の通訳案内士法改正の影響があるのではないだろう か。各社のツアーを担当しているガイドの紹介を見ると、日本人のみならず在日外国人も非常に 多く、通訳案内士の資格を保有しているとは思えないガイドが多い。彼らは少なくともこの法律 の改正までは有償でガイドを行うことはできなかったはずである。  一方で従来のボランティアガイドによる無料のまち歩きツアーの多くもそのまま継続している が、観光協会の DMO 化の推進や、国の「稼ぐ観光」、「外国人旅行者の消費額を増加させる」な どの方針の広まりに対応するかのように、参加者に実費や参加費を課すケースも増加している。  日本におけるまち歩きツアーをめぐる状況は、本稿2.や3.で挙げたように、欧米諸国とは異 なる背景や文化の違いもあり、特に “free walking tour” については引き続き今後の変化を注視し ながら、さらに深い分析を続けていきたい。 参考資料 ⑴ 法務省「出入国管理統計年報」より日本政府観光局(JNTO)が作成。https://statistics.jnto.go.jp/ graph/#graph--average--length--of--stay ⑵ 日本観光振興協会ウェブサイト 「全国観るなび」http://www.nihon-kankou.or.jp/volunteer/(2020年 1月6日閲覧) ⑶ 日本観光協会(1994) 観光ボランティアガイド 現状と展望、同(1995) 観光ボランティアガイ ド 活動の推進に向けて ⑷ 西村幸夫(2009):『観光まちづくり』、学芸出版社、p. 39. ⑸ 日本観光振興協会ウェブサイト 「平成29年度観光ボランティアガイド団体調査結果」https:// www.nihon-kankou.or.jp/home/userfiles/files/autoupload/h29vg_questionnaire_jtta_hp.pdf(2020年 1 月 6日閲覧) ⑹ 日本政府観光局(JNTO)ウェブサイト 善意通訳組織リスト https://www.japan.travel/en/plan/list-of-volunteer-guides/(2020年1月6日閲覧) ⑺ ぶらっTokyo さんぽウェブサイト https://burattokyosampo.com(2020年1月6日閲覧) ⑻ 公益財団法人東京観光財団ウェブサイト GO TOKYO 東京都観光ボランティアによるガイド サービス https://www.gotokyo.org/jp/guide-services/index.html(2020年1月6日閲覧)

⑼ Tokyo Localized ウェブサイト https://www.tokyolocalized.com(2020年1月6日閲覧) ⑽ GuruWalk ウェブサイト https://www.guruwalk.com/tokyo(2020年1月6日閲覧) (その他の引用または参考資料) TripAdvisor https://www.tripadvisor.jp Viator https://www.viator.com Voyagin https://www.govoyagin.com/ja 辻のぞみ(2015):「地域観光ガイドの組織と活動について」、名古屋短期大学研究紀要第53号、pp.

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113‒125.

辻のぞみ(2018):「日本のインバウンド観光政策の変遷についての一考察」、名古屋短期大学研究紀 要第56号、pp. 135‒150.

表 3 . TripAdvisor に掲載されている東京のウォーキングツアーの例

参照

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