Title
人的資源の概念に関する一考察
Author(s)
照屋, 行雄
Citation
沖大経済論叢 = OKIDAI KEIZAI RONSO, 4(1): 107-127
Issue Date
1980-03-31
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/6669
人的資源の概念に関する-考察
照屋行雄 I.はじめに Ⅱ会計上の資産概念 Ⅲ効益力創出主体説と創出客体説 Ⅳ、個人価値説 V、人的組織価値説 Ⅵ.おわりに Lはじめに 企業は、各種の資源を保有し、それらの有効適切な利用によって経済活動を 展開している。企業が保有する資源のうちでも人的資源(humanresource) が最も基本的で貴重な資源であることについては、企業経営者はもとより企業に一定の利害関係を有する人々が、観念的には比較的早くから認識していた:)
しかしながら、人的資源に関する定量的情報を得るために、これを会計の対象 として考えるということは最近までなかったことである。人的資源会計が企業 会計の-領域として研究の対象とされ、本格的に開拓されるようになったのは、 アメリカにおいては1960年代の後半からであり、また、わが国においては アメリカにおける研究の動向に刺激されて、やっと1970年代に入ってから である。2) 人的資源会計は、企業における人間を会計的手法に従って、貨幣計数的に測 定し、定量的情報として利用者に伝達することによって、その意思決定に役立 てようとする会計システムである。このような人的資源会計の基本的課題は、-107-第一には、伝統的企業会計理論及び会計実践にみられる物的資源や財務的資源 の会計と同一レベルにまで人的資源の会計を引き上げることである。つまり、 端的にいえば、財貨資源への支出額については、その効果が将来に発現される と予想される部分はこれを貸借対照表上の資産として計上し、資産の種類に応 じた費用計算方法に従って費用の合理的な期間配分を厳密に行なっているが、 人的資源への支出は効果の発現の事実に関係なく、殆んど全額を支出のあった 期間の費用として処理しており、適正な期間損益計算を行なう上からは早急に 改められる必要がある。また、課題の第二は、人的資源会計の実践及び情報の 利用を通じて、一方、企業経営者に対して人的資源の企業経営における重要性 を正しく認識せしめるとともに、人的資源の適正配置や有効利用を行なわしめ、 他方、従業員等にやる気と生きがいを起させ、誇りをもたせることである。実 は、人的資源会計の究極の目的は後者にあるのであって、この目的を実現でき る会計システムの構築こそ人的資源会計の中心的課題であり、かつ、特徴であ るといえる。 ところで、人的資源会計システムの形成をはかるに当っては、まず第一に、 会計上の認識・測定の対象である人的資源の概念が明確にされなければならな い。なぜなら、人的資源の概念としていかなる内容あるいは考え方をとるかに よって、人的資源会計へのアプローチの仕方や人的資源会計システムそのもの が異なってくるからである。 本稿では、人的資源会計の測定対象である人的資源の概念について幾つかの 代表的な考え方を比較吟味するとともに、前述の2つの課題を有する人的資源 会計がとるべき適切な人的資源概念について、主として個人と組織との関連及 び会計測定の側面から論述したいと思う。 Ⅱ会計上の資産概念 人的資源会計は、今日一般に、企業内の人的資源を会計上識別し、測定して、 財務諸表に表示し、伝達するプロセスであると理解されるが、その際に最も問 -108-
題となるのが人的資源の資産計上の問題である。伝統的会計では人的資源に対 する資産認識の付与が極めて不満足な形をとってきた。つまり、伝統的会計に おいては、創立費に含まれる使用人の給料・手当や、製造業における製品原価 構成要素としての労務費にみられる、提供された労働用役(消費された人的資 源)に対する支払対価の繰延経理、あるいはこれとは性格を異にして人的資源 の将来用役力を意味する有償取得の営業権に諸要因の複合値の一部として含ま れる形で人的資源の資産計上が認識されてきたわけである。従って、このよう に財貨資源(主として費用性資産)に比較して不公正な取扱いを受けてきた人 的資源に対する会計上の正当な処理を追求することが人的資源会計の基礎的な 作業ということになるが、この際の中心問題が人的資源の資産計上の論拠を探 ることにあるわけである。 人的資源の概念を検討する際の有効なアプローチは、まず、人的資源の資産 性の有無を分析し、その結果資産性が認識されたならば、つぎに、会計測定に 適用される評価基礎との関連で人的資源の内容を吟味することである。 今日、企業会計上の資産(財貨及び権利)の本質的性格を説明する有力な考 え方に潜在用役説(service-potencialstheory)がある。この考えを代表す るものは、古くはキャニング(Canning,JohnB.)であり、最近ではアメリカ会計学 会(AAA)の1957年改訂会計原則及び1964年ステートメント1号、2号である。 まず、キャニングは資産の概念について、「ある対象に資産性を与えるもの は、物的対象の具体的な存在でもなく、また、その存在に必然的に関連するよ うなことがらでもない」として個々の資産の潜在用役を全体として統一的に理 解した後、資産の本質を、「将来の貨幣的サービスないし将来貨幣の転換する ことができるサービス(anyfutureserviceinmoneyoranyfutureservice convertibIeintomoney)」と定義している。3) 一方、AAAの1957年改訂会計原則及び1964年ステートメント1号、 2号では、資産の概念を規定して、「企業経営目的のために特定の企業に投入 された経済資源(economicresources)で、将来の経済活動に役立てられる用
役潜在分(service-potencials)の総計である。」と述べている。4)ここに
いう用役潜在分とは企業の経済的要求(収益獲得目的)を満たしうる能力(す-109-なわち有用性)を意味している。 この資産の本質観に照してみれば、人的資源が企業の将来の収益獲得活動に 重要な働きを示す資源であることに問題はないと考えられるので、当然に資産 の範鴫に含まれることになる。しかしながら、現行の公表会計制度のもとでは、 企業の有する個々の資源の資産性を認識するにあたっては、単純にこの資産の 本質に適合するというだけでは不充分であり、実際には幾つかの具体的要件の 充足が必要とされる。それらの要件とは、一般に所有性と客観性ある貨幣的評 価可能性の2つである。従って、企業の有する経済資源のすべてが無条件に会 計上の資産として認められるわけではなく、それらの資源が企業の所有下にあ ること及び、客観的証拠に基づく貨幣的評価が行なえること、の2つの要件に 限定されることになる。ところが、この2つの条件は現行会計の上で必ずしも 絶対的な資産概念の限定条件として作用しているわけではない。たとえば、一 方、「将来の期間に影響する特定の費用」(企業会計原則、貸借対照表原則一 のD及び四Hのc並びに注解15)すなわち繰延資産の資産計上では企業との 所有関係は認識し難いし、他方、固定資産についての減価償却計算は償却が完 了する時点までは大幅な見積計算を妥当な処理として容認されているのであり、 その限りでは客観的な貨幣的評価可能性の要件の適用は厳格でないことがわか る。そこで、伝統的会計における資産概念の基本的限定条件は何に求められる かが問題となる。これについて、嶌村剛雄教授は、所有観念の適合性及び客観 性ある貨幣計算計測性は資産認識の限定条件としては合理性を認めがたく、本 質的な資産限定条件をそこで算定表示される利益の特殊性すなわち分配可能利 益性に求められるべきであるとして、伝統的会計における資産概念は、企業の ●●●●●●●●● 収益力要因たる経済資源のすべてではなく、企業資金の運用形態としての収益 力要因に限定されると分析している。5) 現行の公表会計制度における資産概念を嶌村教授の主張に従って、企業資金 の具体的な投下形態としての収益力要因に限定して考えるならば、投下資金形 態以外の収益力要因(将来の収益獲得活動に参加する部分)を本質的に含む (あるいは含んだものとして考えるべき)人的資源の資産性はどのように認識 されるのであろうか。まず、人的資源の獲得・開発・維持のために支出された -110-
資金投下額については上の資産限定条件に適合すると判断されるので現行公表 会計制度においても資産性が認識されることに問題はない。基本的には、人的 資源に固有の自生価値(あるいは自失価値)をどのような論拠のもとに会計上 の資産として認識しうるかということが重要な問題であるといえよう。実は、 人的資源の概念を検討する課題をもつ本稿の論述の基底を流れる問題意識はこ の点にあるのであって、次節以下の考察の過程を通じて明らかにされる。本節 では、人的資源概念の考察にとって前提的な会計上の資産概念についての認識 を述べてきたわけであるが、ここで改めて会計理論における人的資源会計の位 置づけについての基本的観点を明確にしておく必要がある。先に述べたが、本 稿で前提としている人的資源会計は、基本的には企業内部者のみならず外部利 害関係者にとっても有用な人的資源会計‘情報を測定、伝達する独自の会計シス テムである。そして、このような意味での人的資源会計の研究アプローチとし て、将来に人的資源会計の基本理念及び会計測定・伝達システテムの全体が制 度会計の領域に組込まれていく方向を目指しつつ、そのための重要な第一のス テップとして、財務会計の中での非制度会計領域の問題として認識し、理論を 展開していくこととしているのである。しかも、筆者のこのような考え方の背 後に横たわる基本思想(会計観)は、会計理論形成の中核を、会計'情報利用者 の企業に対する財務的意思決定の質を改善するために、有用な会計』情報を可能 な限り充分に提供しなければならないとする会計情報理論に置くべきであると する態度に存することを強調しておきたいと思う。 Ⅲ、効益力創出主体説と創出客体説 企業が有する各種の資源の中でも、その性質あるいは機能という点では人的 資源とそれ以外の資源とでは著しく異なることが知られる。両者は、端的にい えば、企業の有する土地、建物、機械、原材料、商(製)品などの資産はすべ てが人的資源の統御のもとに経営目的活動に参加する関係にある。しかも、社 会的には、これらのすべて(但し、土地については自然のままに存する限りに -111-
において除く)が、本源的には人的資源の提供する労働用役によって生産され たものである。このことは、-面で人的資源の企業における重要性を認識させ るとともに、他面ではそれらの価値の会計的測定・表示に次元の異なる会計原 則及び手続を必要とするのではないかとの問題意識を抱かせることになる。後 者は当然に人的資源会計における人的資源の概念を考える際に有力な一つの観 点を提起することになる。すなわち、人的資源の会計的認識。測定にあたって は物的、財務的資源に対する現行の会計処理とは異なる次元で新たな固有の会 計処理が必要とされるべきだとする見解である。この観点から人的資源の概念 を検討するならば、人的資源会計が基本的に問題としようとしている人的資源 の収益獲得能力(潜在用役)は他の財貨資源の効益力を生み出す本源的な力で あって、その意味においては財貨資源の潜在用役(価値)とは全く異質のもの
であるという主張が行なわれる。`)人的資源の本質に関するこのような考え方
をここでは効益力創出主体説と呼ぶこととし、他方、人的資源も財貨資源と同 じく、企業との関係(次節以降で述べるが、端的にいえば、経済的には所有関 係に準ずる形の帰属関係として理解することができる。)という観点からみて、 前者にいう抽象的な本源的力によって創出された潜在用役をもつものとして把 握する考え方を、創出主体説に対して創出客体説と呼ぶこととしよう。 創出主体説によれば、人的資源に資産性を与えようとすれば財貨資源とは異 なる概念範嶬でなければならないことになる。そうなれば、一つの会計システ ムの中に資産概念が二種類混在することとなり、もはや伝統的会計理論におけ る資産概念の枠を完全に越えるものとなる。嶌村教授は、人的資源会計にいう 人的資源を、一般に企業目的に対して組織化された人的組織価値とみなす基本 認識を前提にして、「人的組織にみられる収益力要因としての性質は、収益創 出主体の意味におけるものであるのに対して、財貨資源にみられる収益力要因 としての性質は、収益創出客体つまり収益創出手段としての要因であるにすぎ ない」と述べ、両者を同じ資産概念に含めることは、収益力要因としての異質性のゆえに疑問であると主張している。6)ただ、同教授は、他方では伝統的会
計理論における営業権(のれん)に含まれる人的組織価値は、[生きた実体で
ある人間組織が創出した結果としての企業に有利な状況ないしは企業信用とみ -112-るべき」であるとして、制度会計上認められている買入営業権のみならず自己 創設営業権も他の有形・無形の財貨資源(収益力要因)と、会計上の取扱い (資産計上など)において、本質的に異なるところはないとの考えを述べてい る。7) しかしながら、すでに述べたように、本稿で意図している人的資源会計の課 題は、現行会計から欠落した、人的資源に関する資産計上を中心とした会計を 物的、財務的資源の会計のレベルまで引上げるとともに、さらに人的資源に特 有の諸性質を会計システムの中に正しく組み込んで定量的'情報体系(非貨幣的 情報も含め)を構築していくことにある。後者の問題については必ずしも伝統 的会計理論の概念や処理システムの枠内ですべてを解決していけるとは考えて いないが、しかし、前者の問題の解決に当っては、当然適用される会計諸概念 は、人的資源もその他の資源も同一でなければならないわけであり、また、会 計理論の首尾一貫性を確保する上から基本的には両者を統合して理解すること ができる会計理論を追求していくべきであると考える。このような目的観念並 びにつぎのような理由を主たる根拠とすれば、人的資源の本質に関する創出主 体説の主張には同調できないといわなければならない。 まず、第一に、経済学での厳密な理解に従えば、企業における従業員等は商 品としての労働力(人間の生きた個体のうちにのみ存する)を企業に売ってい るわけであり、従って、従業員等の価値とは、本質的には、このような労働力 の企業の生産活動のために発揮し得る価値総体ということになる。勿論、企業 とこれら従業員等との関係は完全な所有関係にあるわけではなく、一定の契約 に基づいて労働力が他の生産要素(経済資源)と協働して、企業の生産活動実 現のために一時的に消費されるという関係として理解されるわけである。とこ ろが「企業は契約によって特定の経済的関係が成立した労働力に対して、-万 当面の生産のために消費するとともに、他方将来の生産を確保するために開発 (経済的価値犠牲を伴って労働力を獲得することも含む)しなければならない。 企業内の人的資源価値を認識して、会計上資産として測定・表示されるものは、 消費された労働力部分(労働力の発現形態としての労働=会計上賃金、給与と して認識される)ではなく、将来において消費されるべき労働力それ自体であ -113-
る。 第二に、効益力創出主体説では、労働用役の創出源泉である労働力が、本源 的には他の財貨資源を生産したのであるから、それらとは異質のものであると 主張するわけであるが、しかし、確かにこの労働力は財貨資源を統御して合目的 的に企業の生産活動を実現していく重要な職能を果すとはいえ、単独で企業目 的を達成する能力を持たないことは自明である。従って、企業にとっては財貨 資源と人的資源が各々の職能を果すことによって自己の生産活動が展開される わけであり、企業目的に対する貢献能力という意味では同一範11濤で認識するこ とができ、また、同質的基盤の上で測定することができる。この場合、企業と の一定の契約関係にある人的資源は、もはや当該企業の生産目的の達成が動機 づけられており、これによって企業の目的活動に従わざるを得ない状況におか れ、所有に準じた帰属関係が生じるのである。そうなれば、自己のもつ労働力 は経済主体一般に対する生産能力一般から当該特定企業に対する潜在的貢献能 力に質的転換がはかられているものと理解しなければならない。この特定企業 とそれに帰属関係を有する人的資源との関係から考察すれば、企業内の人的資 源の本質を、効益力創出主体としての生産能力一般ではなく、企業目的によっ て統合された効益力創出客体として、他の財貨資源と同質的に認識することが 合理性をもつこととなるであろう。 Ⅳ、個人価値説 前節で、人的資源会計における人的資源の概念を、主として人的資源の企業 に対する帰属関係の認識の観点から、物的、財務的資源と同質的な効益力とし て認識することができることを考察した。この考え方を前提として、つぎに人 的資源の内容を具体的に検討することとする。 人的資源会計そのものに対する研究がそれほど多くはないため、人的資源の 概念についての論議もそれほど多くはない。これまで明らかにされている見解 は、基本的には次の三つである。第一は、個人の有する能力や技術を人的資源 -114-
の価値とみなす個人価値説で、フラムホルツ(Flamholtz,EricG.)、ヘキ
ミアン(Hekimian,JamesS)及びジョーンズ(Jones,CurtisH.)、レ
ブ(Lev,Baruch)及びシュバルツ(Shubartz,Aba)などによって主唱され
ている。第二は、個人を構成員とする人的組織の有する生産能力の価値を人的
資源価値とみなす人的組織価値説で、リカート(Likert,Rensis)、ハーマン
ソン(Hermanson,RogerH)、プラメット(Brummet,LeeR.)、パイ
ル(Pyle,WilliamC.)などによって主唱されている。また、第三は、第二
の人的組織の有する生産能力の価値と顧客信用の価値の複合値をもって人的資
源の価値とみなす考え方である。この第三の概念は、主としてリカートによっ
て主張されているところであるが、彼は顧客信用の価値を決定する要因として、
①管理者行動、②従業員の動機づけと行動、及び③製品やサービスの価格と品
質の3つをあげており、とくに③の要因は人的資源価値を問題とする限りにお
いては概念的には除外されなければならない性格のものである。,)それ故、こ
の第三の考え方は、このうちに含めて概念化されている顧客信用価値を切り離
して、第二の人的組織価値説に統合して理解することができるであろう。ただ、
第一と第二の見解の関係については、若杉教授が述べているように、相互に排
他的な関係ではなく、「第一次的な認識・測定の対象を個人価値とするか、そ
れとも人的組織価値とするかのちがい」であって、必要なら、測定された個人
価値を統合して人的組織価値を計上できるし、また逆に、人的組織価値を構成
員個々人に分配して個人価値を計上することもできるわけである。'0)このよう
な基本認識を踏えて、各々の見解の内容を吟味するとともに、両説のうち、人
的資源会計理論の展開に当ってより適切と思われる人的資源概念とその論拠を
明らかにしたい。そこで、まず、個人価値説について考察しよう。 ヘキミアン及びジョーンズは、個々の経営管理者の有する経営管理能力や従業員の業務執行能力はこれを会計上資産とみなして処理すべきであり、そうす
ることによって人的資源に関する合理的な計画設定や人材配置が行なえることになると説いている。'1)彼らは、具体的には、企業内に幾つかの人的資源獲得
のための投資意思決定部門(investcenter)を設置して、企業内従業員市場における投資部門相互の鋤により他部門従業員のスカウトを行なう方法を基
-115-礎として人的資源会計の展開を試みている。そこでは、セリによってつけられ た最終値を当該従業員の測定値として用いることになる。 つぎに、個人価値説に立つ有力な論者の一人であるフラムホルツによれば、 人的資源会計研究の基礎的単位(BasjcUnii)は企業内の個人におくべきであ るとされる。その理由として、彼は次の二つを,穴している。すなわち、第一に、 企業の経営意思決定(従業員の採用、訓練、配置、作業計画、昇進、報酬等に 関する決定)の殆んどが個人に焦点をあてており、その意思決定の効率を高め る上で個人価値の測定値が有用であること、及び第二に、人的組織価値総体を その構成要素である個人に分割して、個人価値を求めることは不可能であるの に対して、個人価値の測定結果(measures)は原則として、部門や事業部さら には企業全体のような一定の人間集団(人的組織)の価値を測定する際に総計 されうること、の二点である。彼は、このような考えに基づき、個人価値こそ 最も妥当な人的資源の基本概念であるとして独自の人的資源会計モデルの構築 をはかっている。 以上個人価値説に属する二つの見解を述べたが、個人価値説とは、要すれば、 企業内の個人をもって人的資源の内容とみなし、従って、測定・伝達の対象を 個人におこうとする考え方をいうのである。勿論、この主張の中にも、個人価 値の測定結果を総計することによって、必要に応じて人的組織価値を算定表示 しうることが含意されていることにt前述の通りである。 個人価値説の特徴は、先のフラムホルツの第一の理由に端的に示されている ように、人的資源に関する企業内の経営意思決定の中心的対象か人的組織の構 成員個々人にあるところから、それに関する合理的な意思決定が行えるために は個々人についての定量的』情報が作成されうる`会計システムが織築されオ[けれ ばならず、従って、人的資源会計の測定対象は個人価値でなければならないと いう点に存すると理解される。しかしながら、このような個人価値説の論拠に は幾つかの点で問題があるといわなければならない。以下ではこれらの点につ いて考察してみることにする。 まず最初に6人的資源会計情報の利用目的はこれを、企業内部の経営管理目 的にとどめず、外部の利害関係者による利用にまで拡大することが基本的に要 -116-
請されており、そのためには企業全体(さらに必要があればプロフィット・セ ンター別等)の人的組織価値の測定表示が必要である。個人価値説によれば、 個人価値の測定値を集計することによって人的組織価値を表示することになる が、個人の価値の総計が単純には組織全体の価値とはならないのであって、個 人価値説ではこの点の理解が欠落している。 つぎに、個人価値説は経営学等における企業組織の本質に関する研究成果に 注目しておらず、従って、また、人的資源に関する真の経営管理目的を理解せ ず、人的資源会計の機能を、単に人的資源たる個々人の募集、採用、訓練、配 置、昇進等の快走に関する'情報提供に狭く解する結果となっている。経営学に おける近代組織理論の創始者であるバーナード(Barnard,Chesterl.)は、 ●●●●●●●●● 組織を定義して、「組織とは、二人叉はそれ以上の人間の意識的|こ調整された ●● ●●●●●●●
行動又は諸力のシステムである」(頭点筆者)と述べている。'2)バーナードは
組織をこのように理解した上で、組織の生成と存続のための基本的要素の一つに「共通の目的(③。ommoppurpos。)」をあげていろ。'3)そして、各人が組
織の共通の目的を理解するところから協同への意思(動機づけ)が生起し、高 まるのであり、そこに経営者の重要な職能が存すると主張しているのである。 このようなバーナードの理論を援用すれば、人的資源の管理についての究極の 目的は、組織目的活動に対する協同の意欲を高めることにあり、そのためには、 会計的測定に基づく人的組織価値情報の利用による人的組織(企業全体及び部 門別)に対する経営意思決定、及び組織の相対的価値情報の、当該組織構成員 への提供が最も重要となる。このような意味において、人的資源の測定対象を 個人価値におく個人価値説には問題があるといえるのである。 最後に、これは上の二つとも密接に関連するが、個人は企業内の特定の人的 組織に配置され、そこで特定の共通目的とそれを遂行するに必要な物的手段が 与えられてはじめて企業組織に対する生産能力の発揮(貢献)が可能となるの である。従って、当該組織内の客観的な環境条件が当該個人の能力発揮(個人 価値)にかなりの程度影響を及ぼすことになる。たとえば、管理者のリーダー シップが秀れ、組織内のコミュニケーションが円滑に機能しているような組織 の生産能力(人的組織価値)は、単に構成員個々の価値の総和にとどまらず、 -117-それをはるかに上回った価値をもつであろう。また、逆の場合には総和が当該 組織価値を正確に表わすとはいい難いであろう。従って、このように考えるな らば、フラムホルツのいう個人価値の第二の特徴点は、逆に、人的組織価値の 個人への分割は合目的的に可能となるのに対して、個人価値の総計をもって人 的組織価値とみなすことができるのは例外的事項に属するといわなければなら ないのである。 V・人的組織価値説 人的組織価値説は、企業における人的資源の価値測定の第一次的対象を、企 業が全一的組織としての実質を有するところから、構成員たる個人の価値にお くのではなく、人的組織の価値に求める考え方である。かかる人的組織価値説 の主張の基本は、個人の有する能力(knowledge)や技術(skill)が企業目的 のために発揮されるのは、当該個人が企業内の特定の組織に配置されるという 事態に至ってからであり、従って、個人の能力や技術それ自体が独立に価値を もつものとして認識・測定されることは妥当でないとみるところにある。この 考え方を代表する論者はリカートである。 リカートの認識する人的資源概念には、人的組織の有する生産能力の価値と 顧客信用の価値の二つが含まれているが、ここでは後者の顧客信用価値の側面 は切り離して考えることとする。リカートは、企業内の人的資源の価値の大き さは個人の属する特定組織の状況(特性)に大きく左右されるとして、人的組 織価値の測定に当ってはまずこの組織特性が調査分析されなければならないと 主張する。そして、組織の特性を規定する要因(原因変数)として「リーダー
シップの質」ほか’1個の変数をあげている。'4)勿論、この場合の測定の対象
は、人的組織への投資額(原価)も含まれるが、さらに特定時点における人的 組織価値(現在価値)に重点がある。 このように、リカートの主張に代表される人的組織価値説の特色は、組織と の不可分な関係において個人の価値を認識し、かつ、これらの個人価値が企業 -118-の全体組織あるいは単位組織の組織活動の中で統合されて生み出される人的組
織の価値を第一義的にとらえる点にあるといえよう。これはまた、人的資源会
計の本来の目的が、企業組織の構成員たる個人をして所属する組織への帰属意
識(忠誠心)を高めさせ、結果として経営効率の向上を目指すというところに
あることに照して合目的的な概念であるということができるであろう。 他方、人的組織価値説にはこのようなメリットの存する反面、フラムホルツなど個人価値説に立つ論者が一様に指摘するように、とくに内部管理目的のた
めに必要とされる、総体としての人的組織価値の個人への分割が極めて困難で
あるという問題がある。人的組織価値を個人に配分するに際しての合理的な基
準が容易にみつからないというのである。しかしながら、人的資源会計`情報の
作成目的からすれば、企業の全体組織あるいは部門組織の人的要素のもつ組織
価値が、他の財貨資源も含めた企業全体の価値の中でどのようなウエイトを占
めているかについての定量的情報を企業内外の関係者に伝達することが最も重
要であるため、ここでデメリットとして問題とされる個人情報は第二次`情報要
求に属するといわなければならない。しかも、第一次的に測定された人的組織
価値を構成員個々に分配する基準の開発は、個人価値の総計によって欠落する
協同の価値(特定の組織に所属する個々人が、相互に相手の決定や行動を意識
した上で行なう諸活動によってもたらされる企業への貢献)の測定よりははる かに容易であることが認識されるのである。さて、人的資源会計の研究の焦点が人的資源の歴史的原価及び現在
価値の資産計上の問題にあることは前述した通りであるが、人的資源
の概念を検討するに当っても、一般に、それが現行会計上の資産要件を充
たし得るかどうかが一つの重要な判断根拠とされている。'5)一般に会計上の資
産要件としては所有観念への適合性と貨幣的計測可能性があげられている。し
かし、この点については、前述した通り、必ずしも絶対的要件ではない。すな
わち、今日の企業会計では、一方繰延資産の計上によって所有性要件が、他方
引当金の計上によって客観的な貨幣的計測可能性要件が、企業会計の目的であ
る期間損益計算の適正化の前に、それぞれ相対化されているのである。従って、
人的資源の概念に関する諸見解を比較検討するに際しては、このような資産計
-119-上要件への適否をその論拠の一つにすることはそれほど重要な意味をもたない といえる。むしろ、そこでは、人的資源会計の実施目的に従って、より合目的 的な人的資源の概念規定を行なうことが必要であるといえる。 先に、個人と組織との関係を正しく理解する側面から、個人価値説の問題点 を幾つか示したが、それは同時に、人的組織価値説の優位点を説明する根拠と もなるわけである。企業外部の禾晴関係者にとっては、企業の過去の業績を知 ることに重大な関心があることはいうまでもないが、それと同時に、企業内の
人的資源の貢献度さらには人的資源たる従業員の企業に対する忠誠心(貢献意
欲)の状態に対しても、それらが将来の企業の業績に決定的な影響を及ぼすも のだけに重大な関心をはらわざるを得ないといえよう。従って、かかる人的資 源に関する定量的'情報が人的資源会計情報に求められていると理解される。ま た、企業内部の経営管理者にとっても、企業内の各単位組織の企業目的への貢 献意欲がどの程度まで高まっているかということを観察することが最も重要な管理職能となっており、その点からも人的組織価値の測定。伝達が最優先の有
用性をもつこととなるのである。個人の貢献能力が組織の状況によって大きく 左右されることについてはすでにミシガン大学の社会行動研究所(Insiitute ofSocialResearch,ISR.)の長年にわたる膨大な調査結果によって実証さ れている。リカートの指導のもとに行われた同研究所の組織特性に関する調査 結果より導き出された結論として、彼らは「システム4の原理」として知られる独特の経営管理システムを開発・提唱している。この中で彼らは、まず、組
織特性を規定する諸変数を、原因変数(独立変数)、媒介変数(中間変数)及
び結果変数(従属変数)の3つに大別している。そして、これらの変数間の相
互関係は、まず、組織構造及び経営方針、経営管理者による決定、リーダーシ ップの方法、機能及び行動などが独立に当該組織の業績を左右する原因変数と して作用し、それが、従業員の企業組織に対する忠誠心や動機づけなどの媒介変数を通じて組織内環境条件を規定し、それによって最終的に組織の生産性、
収益などの組織業績としての結果変数が示されることになる。これら3変数間
の単純化された相互関係は次のような図式によって説明されている。'6)
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-121-このように、個人と組織との関係からみる限り人的資源概念として人的組織 価値説の立場がすぐれていることが理解される。 つぎに、人的資源の測定の側面より人的組織価値説の特徴を考察することに よって人的組織価値説のもつ人的資源会計の目的への適合性を確認し、結論と して人的資源概念としての適切性を論究したい。 人的資源会計の課題は、手続的には、人的資源投資額に対する期間的費用配 分手続と将来における潜在的効益力(効益価値)の資産化手続の二段階に区別 して理解されている。従って、このような課題をもつ人的資源会計では、人的 資源の内容を個人価値に求めようが、人的組織価値に求めようが、測定。伝達 される対象は「原価」と「価値」の両方におかれることになる。このうち「原 価」は、物的、財務的資源と同じく、人的資源の獲得・開発・配置に要した支 出額であり、それを基礎として人的資源の評価額が測定・表示されることにな る。人的資源が財貨資源と同じ性質をもつものであれば財貨資源の上に行われ ている支出原価に基づく測定。表示をもって満足な会計といえるであろう。従 って、その限りにおいては、伝統的会計の拡大によって人的資源投資額の資産 化と費用化の処理を行えばよいことになる。実際、人的資源については、かか る支出原価を評価基礎にした資産化。費用化の処理がこれまで行われてきてい ないために、この処理のレベルにまで人的資源の会計をまず引き上げることが 先決であるとする問題意識が人的資源会計展開の出発点となっているといって 間違いないのである。そして、この問題は、人的資源会計の実施に際して当然 に直ちに解決されなければならないし、また、比較的容易に解決されうる性質 のものである。しかしながら、人的資源たる従業員等は企業に採用された後、 研修を受け、配属され、さらに現場訓練を受ける諸過程で、それの有する能力 (経済価値)が大きく変化していくという特質をもっている。これは財貨資源 と根本的に異なるところである。一般的には、長期の一定時点までは企業への 貢献能力が高まる傾向にあるといえるが、しかし、それを左右するのは、外的 要因としては所属組織の状況(すなわち、構成員にやる気と生きがいを与え、 生産意欲を高めるような組織であるかどうかの程度)であり、他方人的資源そ れ自体の内的要因としては、組織の状況に大きく影響された動機づけの程度と -122-
いうことになる。かかる人的資源の特質を正しく認識するならば、人的資源の 測定基礎を支出原価に求める会計からもたらされる人的資源会計情報は人的資 源に関する部分的`情報にすぎないことがよくわかるであろう。人的資源会計が 独自の問題領域を開拓していく上でより重要な課題は、このような人的資源の 特質を反映した、人的資源の価値の測定。表示にあるといわなければならない。 けだし、人的資源への支出額は単なる経済価値の犠牲部分を示すにとどまり、 いかなる時点あるいはいかなる意味においても人的資源の価値を表わすもので はないからである。なお、この場合の価値は、人的資源が有する潜在的用役で あって、将来一定の期間継続して企業業績に対して貢献し得る経済的価値を意 味する。いま、一方、経済資源の獲得等のために支出された対価を犠牲価値と 呼び、他方、将来における収益獲得能力のことを効益価値と呼ぶとすれば、人 的資源の原価は犠牲価値に属し、また、価値は効益価値に属すると言いかえる ことができる。'7) さて、人的資源を犠牲価値をもって測定することによって人的資源の企業に 対する効益力を充分に表現することができ、従って、人的資源会計の真の目的 が充分に達成できるということであれば、人的資源の概念として、個人価値を とろうが、人的組織価値をとろうが、それを前提として構築される人的資源会 計システムに本質的な相違は生じない。否、むしろ人的資源の概念に関する両 者の立場について議論すること自体が不要であるといえよう。今日、人的資源 会計の理論的フレームワークを構築するための基礎的概念の一つとして真っ先 に人的資源の概念の問題がとり上げられているのも、また、本稿でかなり詳細 に論究しているのも、結局は人的資源会計の中心課題が、それの有する効益価 値を測定・表示することでなければならないとの基本認識に立っているからで ある。 そこで、このような人的資源価値の測定の面から考察すれば、人的資源を人 的組織のもつ生産能力の経済価値とみなす人的組織価値説が個人価値説に比べ てはるかに適切な概念であるといえよう。その主たる論拠は次の通りである。 第一に、個人の有する能力や技術は、当該個人が企業内の特定の組織の活動 目的によって統合されてはじめて企業に対する効益力として発揮されるのであ
-123-り、その意味で、企業業績に対して果している個人の貢献は所属する組織全体
としての貢献結果として第一次的に認識されなければならないということであ る。, 第二に、効益価値の測定は、個人については、組織上あるいは業務上の立場の相違により、可能なグループと不可能なグループがある。たとえば、生産や
販売の現業部門に配属されている個人は生産実績や販売実績が直接的に測定で
きるため、将来における収益獲得能力を一応見積ることができる。'8)しかし、 スタッフ部門や経営管理者個人については、そのような測定の基準が得難いことから、将来効益力を測定することは殆んど不可能である。従って、人的資源
の有する将来効益力の測定の可能性からみて人的組織価値により高い合理性が
認められると考えられる。第三に、会計」情報の利用目的に照らせば、人的資源に関する」情報は、財貨資
源と違って、それの発揮する将来効益力を明らかにするのでなければ意味がな
いということになる。人的資源に対する支出額は人的資源の獲得・開発にどれだけの経済価値の犠牲を伴ったかということを説明する意味においてだけ有用
な』情報であって、人的資源個々が組織の構成員となり、組織目的活動に参加す
る過程で形成される人的資源価値は、むしろ、支出された経済価値を上回った
り、逆にそれを下回って企業に存在することが一般的である。しかも、このよ
うな人的資源価値の変化の大きさは所属する組織の状況に決定的に依拠してい
ることが認識される。この点からも、人的資源の測定基礎を効益価値におき、
従って、測定対象を人的組織価値に求めるべきことが結論づけられるのである。
Ⅵ.おわりに以上本稿では、人的資源会計の実践に先立って必要とされる理論的フレーム
ワークを構築する上で重要な問題領域である人的資源の概念について、人的資
源会計の目的、企業組織と個人との関係及び人的資源の測定基礎の諸側面より
操作主義的に考察を行ない、意図する人的資源会計における人的資源の概念と
-124-して適切な考え方を何に求めるべきかという点を論述した。その中で、人的資 源会計の認識・測定。表示の対象としてとり上げられるべき人的資源の概念を、 人的組織の有する生産能力の経済価値におく人的組織価値説に求めるべきであ ると結論づけたのである。そこでとられた方法論的特徴は、会計情報論的アプ ローチであると同時に、近代組織理論的アプローチであるということができる。 今日、展開されつつある人的資源会計の諸課題は、単に伝統的会計理論のフレ ームワークで解決できるものではなく、近代科学の開発した種々のアプローチ を援用することがどうしても必要となってくることは明らかである。このこと は、単に人的資源価値の測定の局面にインターディシプリナリー・アプ ローチが必要とされるばかりでなく、人的資源会計理論の基礎概念の認識の局 面にも他の学問領域で開発された諸概念が導入されることを意味することはい うまでもない。本稿で中心的な論点となった個人と組織との関係を論述する際 に用いられた基礎的考え方は、パーナードを先駆者とする近代組織理論におい て開発された組織概念であったわけである。 本稿で展開した人的資源の概念に関する考察はすでに若杉教授によって論究 されてきており、また、若杉教授によって表明された考え方が今日では一般的 な見解として定着していることは否定できないところである。本稿での考察も かかる若杉教授の見解を基礎にしている。そして、人的資源会計の現在の研究 課題の焦点がもはや基礎概念の考察の段階を越えて、人的資源価値のよりすぐ れた測定方法の開発に移っていることは明らかである。そのような現状認識に もかかわらず本稿で人的資源概念の論究を試みたのは、人的資源会計の実施に よって、一方、企業内外の利害関係者の意思決定の質を高めさせるとともに、 他方、企業内の人々にやる気と生きがいを感じさせることを本来の目的とする 人的資源会計の理論的展開にあたっては、人的資源会計の実践上の意義と研究 上の方向を明確にしておくことが極めて重要であると考えるからである。 若杉教授は、人的資源の概念を個人価値説あるいは人的組織価値説のいずれ の見解が合理的かを一般論として結論づけることは殆んど無意味であると述べ
ているが、'9)意図する人的資源会計システムを構築していくためには、研究の
出発点において、それに適合するフレームワークを設定しておくことが不可欠 -125-であるところから、本稿で論述された通り、人的組織価値説の考え方を妥当な ものとして支持する論点と論拠を明確にしておくことが必要とされるわけであ る。 注1)企業経営者における人的資源の重要性についての認識がとくに高まってきたのは テイラー(FrederikWTaylor)の科学的管理法における機械主義的人間観に対 して提起された初期の人間関係論(契幾は、1927~1932年に行われたメイ ヨー(DMaW)やレスリスバーガー(F,J、Roethlisbergar)らによるウエス タン。エレクトリック社のホーソンエ場の実駒の拾頭によるものと理解されてい る。 2)経済学における人間資本についての研究(マクロレベルでの教育投資や医療投資 の効果測定)はかなり以前から活発に行なわれていたカヘ今日の人的資源会計の展 開に直接的な刺激となったのは経営学におけるリーダーシップ論あたりである (RensisLikert,“TheHumanOrganization:ItsManagementand Value,“1967,PP、146-155.三隅二不二訳「組織の行動科学一ヒュ ーマン・オーガニゼーションの管理と価|直|ダイアモンド社、昭和43年(1968 年)、185~195ページ)。 3)JohnB・Canning,“TheEconomicsofAcountancy,鋤1929、p、14,22. もっとも、キャニングは、同著で、将来サービス(貨幣所得)提供能力(の価値) のすべてが貸借対照表上の資産項目として測定。表示されるのではなく、「法律 的ないし衡平法上の権利」の存在という限定を付している(ibid.,p、19)。 4)AAA,CommitteeonConceptsandStandards,‘4AccountingandRe- portingStandardsforCorporateFinancialStatements“,Rev、1957、 (中島省吾訳編「AAA会計原則」中央経済社、昭和33年(1958年)所収原 文p、54)。 AAA,CommitteeonConceptsandStandards,“SupplementarySta- tememtNUl-AccountingforLand,BuildingsandEquipment,“ ‘AccountingReviewb,July1964. AAA.,CommitteeonConceptsandStandards,‘`SaPplementary StatementNbL2-ADiscussionofVariousApproachtoInventory MaeSurement,卿‘ACcountingReviewD,July1964. AAA,l964ConceptsandStandardsResearchStudyCommittee, “TheEntityConcept,TheMatchingConcept,TheRealizationu, ‘AccountingReviewo,April1965.
5)嶌村岡雌著「資産会計の基礎理論」中央経済社、昭和51年(1976年)、
191~193ページ。 6)このような考え方の理論的基礎は、経済学において、商品価値の本質を抽象的人 間労働(abstraktmenschlicheArbeit)に求めるマルクスの労働価値説に見い出すことができる(カール・マルクス著、向坂逸郎訳「資本論・第一巻」岩波書店、
-126-昭和48年(1973年)、45~61ページ参照)。 注7)嶌村岡雌著前掲書195ページ。 8)嶌村剛雄著前掲書197ページ。 なお、営業権(のれん)は、一般に超過収益力要因としての組織価値と理解され、 その内容は、主として人的資源の価値と顧客信用の価値の複合値と考えられている。 今日の公表会計制度のもとでは、貸借対照表に資産として計上できるのは営業譲渡 や合併による買入営業権に限られている。人的資源会計の開発・導入が行われれば、 少なくとも人的資源の価値については区別して処理されることになり、それに伴っ てこのようなあいまいな会計概念(筆者は、営業権なるものは伝統的会計理論の未 発達な部分を証明する典型的な例だと考えている。)の解体が行なわれることにな ろう。 9)Cf・RLikert,。p、Cit.,pp、146-155.(三隅二不二訳前掲書、185 ~198ページ参照。)。 1の若杉明著「人的資源会計論」森山書店、昭和48年(1973年)、45ページ。 11)JamesSHekimianandCurtisHJones,“PutpeopleonyourBa- lanceSheetゲ‘HarvardBusinessReview』,Jan.-Feb、1967,p、106. 12)ChesterLBarnerd,“TheFunctionsoftheExecutive,“1956,p、67. 13)あとの二つは、「協同への意思(wiIlingnesstoco-operate)」と「コミュ ニケーション(communication)」である(ibid,p、82.)。 14)R,Likert,。p、Cit.,p、146(三隅二不二訳前掲書、186ページ) 15)若杉明著前掲書51~55ページ。 なお、そこでは、会計上の資産概念一般の属性(要件)として、①所有性、②将 来効益性、③対価支払性及on④貨幣的評価可能性の四つをあ吠人的資源を個人価 値とみなした場合でも、また、人的組織価値とみなした場合にも、ともにこれら四 要件を充たし得ると論述されている『, 16)R、Likert,。p、Cit.,p、137.(三隅二不二訳前掲書、172ページ)。 なお、「システム4の原理」に関しては、R・Likert,“NewPatterhsof Management,幽1961.(三隅二不二訳「経営の行動科学」ダイヤモンド社、昭和 37年(1962年))を参照のことd 17)若杉明著前掲書、121~129ページ参照。 18)現業部門については個人の貢献度を測定することができるとはいえ、正しくは、 特定の生産部門あるいは販売部門で産出された結果(生産量、販売員など)は各個 人が単独で産出したものではなく、当該部門での全一体的な物的、人的組織の中で、 各人がその-部となって自己に与えられた職責を果すことによって産出されたもの である。従って、厳密にいえIエたとえば、1個の完成品価値の全部ではなく、そ の何分の一かが当該個人の産出した経済価値ということになると考えるべきである。 19)若杉明著前掲書62ページ参照。 -127-