適応指導教室における「心の居場所」づくりに関する研究 : 合宿療法導入の試み
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(2) はじめに. 私は30歳を過ぎたら、一度現場を離れて大学でもう一度学び直したいと考える ようになった。. 8年間の中学校の教師生活を振り返ると、最初の赴任校の4年間はとにかく見 様見真似で先輩教師の言われるままについていこうとした。あまり深くものを考 えず、とにかく私はついていこうとするだけで精一杯であった。まさに「模倣の 時代」であった。次の現任校では、自分なりに考えてやってみたいと思った。あ れこれ試しているうちに、ひとりでいいつもりになることもあった。 「試行錯誤. の時代」であった。しかし、ある時、これではいけないと思うようになった。登 校拒否の生徒に出会ってから、益々自分のしていることに疑問を持つようになっ. た。私は気がついたら教師の重い鎧をかぶり、組織のなかで身動きできない自分 になっていた。生徒が見えない。生徒がわからない。生徒の心に響かない。生徒 が以前より遠くに感じられる…. 。そして、いよいよ自分というものもわから. なくなってきた。 「模索の時代」の始まりなのかも知れない。. そこで、生徒の心を知りたいと思った。生徒の心を動かしている得体の知れな い魔物の正体を突き止めたいと思った。そのためには、すっかり身に染み着いて しまった鎧を一度脱ぎ捨てたいと思った。これが入学の動機である。. そして、私は今ここで魔物を追いかけながら、本当の自分探しをしている。ど こまで、突き止められるかは心許ないが、精一杯自分なりに挑戦しているつもり. である。登校拒否の生徒と直にふれ合い、彼らから学んだことの中にその問題を 解くひとつの「鍵」が隠されているような気がしている。私はその「鍵」を是非 持ち帰りたい。.
(3) 目次. はじめに. 第1章 問題と目的 適応指導教室の現状と課題 ・・・・・・・・・・・… …・・・・・・・・・・・・… 1 第1節 適応指導教室における「心の居場所」づくり ・・・… …・…… 3 第2節 1 2 3. 第3節 1 2 3. 「心の居場所」. 「心の居場所」と自己実現 適応指導教室における「心の居場所」づくり 登校拒否 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 11. 登校拒否の基本的な捉え方 登校拒否の心理機制 登校拒否への援助. 本研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… ■e… 。・・。・・・・・・・… 16 第4節 第2章 合宿療法の短期的効果 意義 ・・。… 。・・・・… ee・・・… 。・・・・… 軸・・・・・・・・・・・・・・・・・… 18 第1節 目的と方法 ・…・… …・・・・・・・・・・・・・・… …・… …・・・・・… 19 第2節. 1 2. 第3節 1 2. 第4節 1 2. 第3章 第1節 1 2. 第2節 1 2 3. 第3節 1 2 3. 第4章 第1節 1 2. 目的. 方法 結果 … …・…・・・… …・・・・・・・・・・・・・… …・・・・・… …… 26. 第1回目の合宿の行動記録 第2回目の合宿の行動記録 考察 ・… ……・…・……・・………・・…・…・… ……・38. 事例の提示 態様別の短期的効果 合宿療法の中長期的効果. 目的と方法 ・・…・・…・…・・・・・・・… …・…・…・……・… 56 目的 方法 結果 ・。・・・・・… 。・・・・・・・… ee・・・・・・・… 。・・・・・・・・・・・・… 。・。58. 参加活動時間の変容 対人行動評定得点の変容 対人行動因子別得点の変容. 考察 ・・・・… …・… ……・・・・・・・・… …・…・・・・・… …… 65. 参加活動時間の変容 対人行動評定得点の変容 対人行動因子別得点の変容 合宿療法導入後の集団に及ぼす影響 目的と方法 ・・……・・………・・・… ………・…・・・・・… 74 目的. 方法. 第2節. 結果 ・・・・・・・・・・・… …・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… …… 77. 第3節・. 考察 … ……… ……・・… ……・…・・……・…・……87. 1 2 3 1 2 3 4. 第1期 第2期 第3期. 第1期 第2期 第3期. 集団に及ぼす影響. 第5章 総合考察 総合考察 … …・・…・………・…・…・…・……●’・’●●’●99 第1節 1 2. 合宿療法の効果とその後の集団に及ぼす影響 合宿療法の導入と「心の居場所」づくり 今後の課題 ・……・…・…・。…・… …・…。……。・… …107 第2節 ..............e..........”...”””””””’”’110 引用文献・参考文献 おわりに. 資料.
(4) 第1章 問題と目的 第1節 適応指導教室の現状と課題 平成4年3月に発表された文部省の「学校不適応対策調査研究協力者会議」 (以下「学校不適応対策会議」と略称)の最終報告では、登校拒否問題へ対応す るため、次の5つの基本的視点が取り上げられた。抜粋すると以下の表1−1−1 ようになる。. 表1−1−1登校拒否問題への基本的視点 ①登校拒否はどの子にも起こりうるものである、という視点に立って登校拒 否をとらえていくことが必要である。 ②学校生活上の問題が起因して登校拒否になってしまう場合がしばしば見ら れることに留意する必要がある。 ③学校、家庭、関係機関、本人の努力等によって、登校拒否の問題はかなり の部分を改善ないし解決することができる。 ④子どもの自立を促し、学校生活への適応を図るために多様な方法が検討さ れる必要がある。. ⑤子どもの好ましい変化は、たとえ小さなことであってもこれを自立のプロ セスとしてありのままに受け止め、積極的に評価する。 上記のような視点に立ち、登校拒否問題へ対応するため、文部省は「適応指導 教室」の整備・充実を推進している。 「適応指導教室」とは「学校以外の場所に. 登校拒否の児童生徒を集め、その学校生活への復帰を支援するために様々な指導 ・援助を行う」機関のことである。具体的な指導・援助としては、カウンセリン グ、学習指導、集団指導等が行われている。学校への復帰を目的としながらも、 「児童生徒の学校生活への適応を図ると同時に、その自立をいかに促すかという. 視点をもって指導することが基本的に重要なことである」としている。これはた だ単に学校へ復帰できればいいというのではなく、それに至るまでの自立の過程 を重視して指導にあたることを強調している。ここでいう自立とは、 「子どもが. 社会の変化の中で主体的に生きていく力を身につけ、豊かな自己実現を達成して いくことである」としている。. 文部省では、平成2年度からこのような適応指導教室の実践的な研究を委託す. る事業を開始し、平成3年度には全国26ケ所、平成4年度には49ケ所に委託 が行われている。太田(1993)の調査によれば、適応指導教室は平成2年度に全国. 84ケ所の設置数であったのに対して、平成4年度には225ケ所となっており、 その急増ぶりを窺い知ることができる。言うまでもなく、この背景には増加の一 途を辿る登校拒否の現状と「登校拒否問題に対する極めて有効な取組の一つにな るものと期待されている」適応指導教室の現状がある。. それでは、今後も設置数の増加が見込まれる適応指導教室の現状と課題はどう なっているのだろうか。この点に関する研究はまだまだ少ないが、それらをまと めてみると、表1−1−2のようになる。 一1一.
(5) 表1一レ2適応指導教室の現状と課題(1) 仁木(1992). ①指導スタッフの充実 ②施設・設備の充実 ③適応指導教室 ニ学校・家庭ゲ相談機関との連携. 山田(1993). ①指導スタッフの充実 ②施設・設備・教材・教具の充実 B指導プログラムの充実. 太田(1993). ①指導者の養成 ②施設・設備の充実 ③多様性に対応できる _軟な活動内容と方法 ④学校と適応指導教室との連携 D再登校できるための手段化. 西森(1994). ①担当者の専門性 ②入曽システム ③プログラムの充実 C個人カウンセリングの重要性 ④設立理念と実施方針とのず ?⑤長期化の問題. 上記の指摘は、適応指導教室の歴史が比較的浅く(昭和62年に開設された東 京都板橋区の「ふれあい教室」が発祥と言われている。)、短い期間に急速に全 国各地に普及していった経緯を考えると、止むを得ない現状と課題であると言え よう。適応指導教室の課題は山積しているが、時間の経過と共にハード面からさ らにソフト面へ、そしてより具体的な課題が指摘され増え続ける傾向にある。. 実際に指導に携わっている指導者はこのような状況下でそれらをどのように認 識しているのだろうか。日頃そうした児童生徒との関わりが深いだけに、実践者 としての別の視点からの指摘はより具体的と言える。以下表1一レ3に示す。 表1−1−3適応指導教室の現状と課題(2) 日高(1992). ①家庭との連携の強化 ②通級できない児童生徒への援助 B援助体制の強化 ④学生委託ボランティア制度の導入. 高橋(1992). ①限られたスタッフでの対応 ②入室基準の設定 ③長期化の 竭?④家庭・学校への啓発活動の充実 ⑤学校との連携 E通魔できない児童生徒への援助. 大江(1993). ①個に応じた学習指導・援助の工夫 ②教育相談機会の設定 B生活リズムの構築 ④体力づくり ⑤運動が苦手な児童生徒 ヨの援助 ⑤児童生徒間の人間関係づくり. 緑川(1994). ①指導者の研究的取組の必要性 ②行財政上の支援. 平井(1994). ①学校との連携強化 ②保護者への積極的な援助体制の確立 B専門相談員・関係機関との連携. 花井(1994). ①学級経営の在り方に関する研究の必要性 ②指導者の子ども ノ対する態度・接し方に関する研究の必要性. 一2一.
(6) 現場からは表1−1−2のような現状と課題に加えて、当然のことながらより具体 的で実践的な指導・援助の方法に関わる指摘が報告されている。表1−1−3に掲げ られた適応指導教室は、その実践報告をみる限り、全国でも屈指の先進的な取組 を実施しているところばかりである。もちろん、これから開設されようとする適 応指導教室にとっては、良いモデルになると考えられるが、全国の適応指導教室 の平均的な姿と考えるわけにはいかないだろう。まさに、これから開設しようと している、あるいは開設して間もない適応指導教室は決して少なくはなく、むし ろ、多くの適応指導教室では課題が山積している状況にあると言わなければなら ない。. 第2節 適応指導教室における「心の居場所」づくり 1. 「心の居場所」. 「学校不適応対策会議」が文部省に提出した前述の報告書(1992)は、 「登校拒. 否(不登校)問題について一児童生徒のく心の居場所〉づくりを目指して一」と いう表題になっている。. 「心の居場所」とは「自己の存在感を実感でき、精神的に安心していることの できる場所」とされている。報告書は学校不適応対策の基本的理念として学校に 「心の居場所」としての役割を果たすことを求めている。言い換えれば、学校に おける「心の居場所」づくりが求められている。 適応指導教室においても、心理的に孤独感を深めている登校拒否児童生徒に対 して、 「心の居場所」づくりが希求されている。適応指導教室がそうした役割を 果たすことで、 「登校拒否児童生徒にとって自分の居場所を見出すことは大きな. 喜びとなり、そこでの様々な活動が徐々に自立を促し、集団への適応力を養い、 やがては学校生活への復帰につながっていくことが期待される」としている。. 学校においては予防的な意義が大きく、適応指導教室においては対策的な意義 が大きいことは言うまでもない。. それでは「心の居場所」とは具体的にはどんな場所のことを言うのだろうか。 言葉の定義だけではやはり抽象的であり、それは様々な意味を包含していると考 えられるため、その実像が掴みにくい面がある。報告書のなかでは「心の居場所」. に関連する様々な表現が使われている。それらを拾い出して整理してみると、以 下の表1−2−1のようになる。. 表1−2−1「心の居場所」に関連する表現’ ①教師と児童生徒が人間愛で結ばれ、学校が児童生徒にとって自己の存在感 を実感でき精神的に安心していることのできる場所 ②自らが「必要とされる存在」であることを感じることができる(場所) ③自己を生かすことのできる場 ④個性や能力、自主性や主体性を発揮できる場 ⑤自己実現を図ることのできる場 ⑥心の安らぐ場所 一3一.
(7) これらの表現から理解できるように、 「心の居場所」とは受容的な側面とより. 積極的な側面の、または治療的な側面と教育的な側面の二面性があるように思わ れる。まさに、家庭と学校との中間的な存在であり、教育相談機関と学校との中 間的存在とも位置付けられる。それは、家庭や教育相談機関よりは教育的機能を 持ち、学校よりは治療的機能を合わせ持つ存在とも言える。西森(1994)はこのあ. たりを「入り口としての機能」と「出口としての機能」、具体的には「心理的安 定を促進するための受容的な場」と「社会生活への適応能力を育成するための積 極的な場」と表現している。. 「学校不適応対策会議」の中心的存在であった坂本の「心の居場所」に関する 見解を整理してみることは、 「心の居場所」の実像を把握するためにさらに有益 と思われる。以下の表1−2−2のようになる。 表1−2−2 「心の居場所」に関する見解(坂本,1991,1992,1993) 1991. ①子どもは「必要とされる存在」として、教師や仲間たちから対応さ れることを望んでおり、また、 「必要とされる存在」と感じるのは 、自己を生かす場であったり、自己の能力が最大限に発揮される自 己実現の場であったりする。. 1992. ②教師と児童生徒が共感的関係で結ばれ、学校や学級などが児童生徒 にとって、自己の存在感を実感でき、精神的に安心していることの できる場所、すなわち、 「心の居場所」としての役割を果たすこと が求められる。その原点は、一人ひとりの児童生徒が人間として「 存在を認められる」ということである。 (中略)更に、児童生徒一 人ひとりが自己の能力を最大限に発揮するという「自己実現のチャ ンス」をできる限り多く児童生徒に与えることは、心の居場所づく りにとって基本的なアプロー・・チである。. 1992. ③人間が自己存在感を得ることができるのは、自分の能力を最大限に 発揮し、それを多くの人々によって認められるときである。この自 己実現による自己存在感の獲得が最高であるし、最も望ましいこと である。. 1992. ④もっと一人ひとりに応じた対応ができるはずです。個別性というこ とです。個別的でなければ相手に存在感は与えられません。そうい うことが、結局は、心の居場所づくりにつながっていくわけです。. 1993. ⑤(前略)一人ひとりの子どもに、ある役割を果たすことのできる場 が与えられる。 (中略)そして教師からほめられる。子どもは「役 に立つ」存在として自分を受けとめる。 (中略)子どもは自分の学 校を「心の居場所」と感じうるのである。. 坂本の「心の居場所」に関する見解は、学校を対象に、登校児童生徒を対象に しているためか、 「安心感」というよりは「自己存在感」により重点が置かれて. いると考えられる。そういう意味では、より積極的であり教育的な捉え方に立つ. 一4一.
(8) ていると言える。生徒指導においては、 「自己存在感」は「かけがえのない存在」 としての「存在感」とされ、 「自己存在感を得ることなしに、その自己実現は図. れない」としている。つまり、指導者の立場から要約すれば、 C心の居場所」と. は「一人ひとりの子どもの自己実現を支援する場」と考えられる。これは、自立 が「豊かな自己実現を達成していくこと」であり、また「自立をいかに促すか」 という視点が重要視されている以上ご当然の結論と言える。次にこの自己実現の 視点からさらに「心の居場所」を考えてみたい。 2, 「心の居場所」と自己実現. 自己実現を最:も明確に自らの心理学の中心概念として位置づけ展開したのは、 Maslow, A. H.である。彼によれば、自己実現とは「可能性、能力、才能の絶えざる. 実現として、使命(あるいは、天職、運命、天命、職費)の達成として、個人み ずからの本性の完全な知識や受容として、人格内の一致、統合、共同動作へと向 かう絶え間ない傾向」として定義される。そして人間には「自己実現あるいは心 理的健康として、またとくに、それぞれ一面の自己実現や全面の自己実現へと向 かう成長として、総括できるものに進む傾向があり、その方向に成長することを 求めている」とし、人間には自己を実現しようとする本質的傾向があると考えら れている。. Maslow, A. H.(1964)は「人格が欲求の階層組織を中心として形成されている」と. いう人間観に立ち、欲求を大別して「欠乏欲求(求める欲求)」と「成長欲求 (与える欲求)」に分けている。それらの欲求には、 「生理的欲求」、 「安全の 欲求」、 「所属と愛情の欲求」、 「尊重の欲求」、 「自己実現の欲求」がある。. そして、これらが「欠乏欲求」から「成長欲求」へ向かって階層構造を形成して いるという「欲求階層的」を提唱している。より低次な欲求の充足がより高次な 欲求を発現させると考えるのである。 上田(1988)はこの「欲求階層論」の特質を4つ上げているが、それらを抜粋す ると、以下の表1−2−3のようになる。 表1−2−3Maslow, A. H.の「欲求階層論」の特質(畑,1988). ①欲求の段階が低次であればあるほど、人格にとって強力で優先的である。 ②一欲求の満足が、さらに別の高次の欲求の出現をもたらすのであるが、た だ特定の欲求が百パーセント満たされて、はじめて次の一段高次の欲求に 移行するのではない。 ③特定の段階の欲求が満たされると、さらに高次の段階の欲求が意識を支配 し行動の動因となるが、それとともに満たされた欲求は漸次活動をやめ、 ついには意識から消失、また行動に影響を与えることもなくなる。 ④欲求の階層が、必ずしもこの5つの欲求に類別され、また階層順に配列さ れるとは限らない。. 一5t.
(9) Maslow, A.H.が「欲求階層論」を通して「人間の価値は人間の欲求から生ずるこ. と」や「低次欲求の満足を高次欲求の成立条件と考えたこと」は彼の功績と言わ れている。その一方で、現実の欲求が厳密に階層構造を形成しているのかどうか ということや、低次欲求が充足されると高次欲求が自動的に発現するのかどうか ということについては議論の分かれるところである。上田が表1−2−3でその特質 を述べているように、この理論を人格に厳密にあてはめて考えるというよりは、. 人格にはそうした一般的な傾向があるというように考えた方が妥当なように思わ れる。Maslow, A. H.自身も「これまで我々はヒエラルキーが固定した序列であるか. のように話してきたが、実は我々が述べてきた程、とてもそんなに固定的なもの ではない」と断っている。これらの特質を前提にして以下論を進めるものとする。 上記の特質を考慮した上で、Maslow, A. H.の「欲求階層論」と「心の居場所」を. 関連させてみると、図1−2−1のようになる。. 自. 現. 「自己存在感」. →. を求める 尊重. →. s. 欲求 /’. 所属・愛情 安全. 生理的欲求. . 一一 ?e. .H−. ?D. 「安心感」. を求める 欲求. 図1−2−1Maslow, A, H.の「欲求階層論」と「心の居場所」. 図1−2−1のなかの左図はMaslow, A. H.のヒエラルキーを、右図は「心の居場所」. をモデル図にしたものである。右図では「心の居場所」を求める欲求がどの段階 にあっても一定であると仮定している。左図のそれぞれの階層が中央の矢印に従 って右図に対応している。すなわち、自己実現の欲求が強い段階程、高次欲求の 段階程、 「自己存在感」を求める欲求が相対的に強くなり、逆に生理的欲求が強 い段階程、低次欲求の段階程、 「安心感」を求める欲求が相対的に強くなると考 えられる。つまり、 「安心感」を求める欲求が充足されるにつれて、それは漸次. 活動をやめて意識から消失していくようになり、代わりにより高次な欲求である、 「自己存在感」を求める欲求が意識を支配し行動の動因となっていくというわけ である。従って、 「心の居場所」というのは絶対的で固定的な場ではなく、その. 個人の置かれている状況や状態によって相対的で流動的な場になり、個々人にと ってその意味する内容は当然違ってくると考えられる。故に、坂本の「心の居場 所」に関する見解が「自己存在感」により重点が置かれていたのも、ヒエラルキ ーのより上層階層を対象にしているからであると言える。. 一6一.
(10) 3.適応指導教室における「心の居場所」づくり (1)「心の居場所」の形成要因. 登校拒否児童生徒が通書している適応指導教室の「心の居場所」づくりとは具 体的にどのようなことをさしているのだろうか。 「学校不適応対策会議」の最終. 報告書には言葉の定義やそれに関連する表現は幾つかあるが、本会議の検討の基 本的視点として「関係者がそれぞれの立場から登校拒否の問題にいかに取り組め ばよいかを明らかにする」と述べながらも、 「心の居場所」づくりに関して具体. 的な踏み込んだ提案はなされていない。ましてや、適応指導教室となると、「適 応指導教室事業は緒についたばかりであり、指導方法の研究は今後の積み重ねが 必要である」と言及するに留まっている。現在、各適応指導教室が試行錯誤しな がら実践的な研究を進めている段階であり、そうした研究の必要性を痛感する。. しかしながら、僅かではあるが、学校における「心の居場所」に関する調査研 究が行われている。それらを参考にしながら適応指導教室における「心の居場所」 づくりについて考えてみたい。. 北村・西岡・勝木(1994)は、学校において児童生徒は「心の居場所」を対人関. 係のなかに見出しているのではないかと考え、小中学生約3000人を対象にした質 問紙調査を実施し、分析した。その結果、 「心の居場所」は受容感が基盤となり、. 他者受容と学級・学校での所属感に強く結びついていること、また受容感と言語 化が密接に関わりあって積極的な対人関係が作られること、さらに学年が進むに つれて受容感が低下し、学校忌避感情を持つ児童生徒が増加していることを明ら かにしている。 「心の居場所」の基盤となる要因を分析した結果、 「受容感」・. 「不安感」・「交流jの3因子を抽出し、 「受容感」が基盤となり、所属感と安 心感に結びついて「心の居場所」が形成されることをモデルにして示している。 甲斐・光川(1994)は、 「心の居場所」を「安定性レベル」 (安心感に基づく存. 在感)と「活動性レベル」 (連帯感、有能感、達成感に基づく存在感)の2つの. 側面から捉えている。そして、小中学生約1600人を対象にした質問紙による学校 環境への認知調査を実施し、 「心の居場所」について因子分析した結果、それぞ れ5因子を抽出している。「安定性レベル」に関する因子は「緊張感の緩和状態」、 「対教師関係」、 「目標志向の集団活動」、 「自己のペースを保持できる場」、. 「自我主張の場」である。 「活動性レベル」に関するそれはぐ「拘束された学習 活動」、 「対教師関係」、 「緊張感の緩和状態」、 「自主性が発揮できる場」、. 「自分の時間」である。細かく質問項目を検討すると、児童生徒が「心の居場所」. として認知している(「安定性・活動性レベル」が共に高い)学校環境には、級 友との関わりの場面、児童生徒の自由裁量に任される場面が共通する生活場面と して見出されている。逆に認知されていない(「安定性・活動性レベル」が共に 一7一.
(11) 低い)学校環境には、教師と直接接する場面が共通する生活場面として見出され ている。. すなわち、自由で解放的な雰囲気の中で仲間と交流する場面が、あるいはあま り拘束されない状況で仲間と共に自主的に活動できる場面が、児童生徒にとって は「心の居場所」として認知される傾向にあると言える。また、どちらかと言う と、仲間と交流することは「安心感」の形成に、仲間と共に活動することは「自 己存在感」の形成に関係があると推察できる。いずれにしても、心の居場所づく りは、 「解放的な雰囲気の中で仲間と交流し、仲間と共に自主的に活動できる場」 づくりと考えられる。. 以上のように「心の居場所」に関する先行研究からは対人関係の重要性を指摘 することができる。Wapner et al.(1973)は物理的環境、対人的環:境、社会文化的. 環境がそれぞれ独立にではなく、1つの生活空間として互いに関連をもって生活 体に影響を与えることを主張しているが、とりわけ、「心の居場所」に関して言 えば、対人的環境が最も大きな形成要因になっているのではないかと考えられる。 (2)「欲求階層論」に基づいた「心の居場所」づくり. 適応指導教室の「心の居場所」というのは、学校生活に適応できなかった子ど もたちが学校以外の場所で生活を共にする場であることを考えると、Maslow, A. H.. の「欲求階層論」に依拠すれば、基本的には学校生活で満たされなかった「所属 と愛情の欲求」を充足する場であると考えられる。もちろん、まだ不安が強く適 応指導教室に適応できない段階にあれば、より低次の「安全の欲求」を充足する 場に重点が移ってくるし、既に十分に適応できる段階にあれば、より高次の「尊 重の欲求」を充足する場に重点が移ってくる。 上田(1976)は、この「所属と愛情の欲求」を「集団の一員として、’人々から愛. されたい。また人を愛したいという欲求で、人びとを互いに結びつけ、人間社会 を作りあげる典型的な社会的欲求」と説明している。換言すれば、社会的な関係 を結ぶ欲求と言える。適応指導教室にあてはめると、指導者と子ども、そして子 どもどうしの人間関係の絆を結ぶ場が、こうした欲求を充足する場になると考え られる。その場合、溝口・山崎(1989)が青年期の発達課題のひとつとしてとりあ げている、 「機会的交友」から「共感的交友」へと発展することが望まれる。何. らかの機会で結ばれた交友関係から、より親密で共感的な関わりができる交友関 係を結ぶことが、発達課題になると述べている。これは、Sullivan, H. S.が述べて. いる「親密性(intimacy)」の感情の体験であり、まさに「仲間(chum)との親密な. 交わりを介しての共感性の確立」に相当すると言えるだろう。. 適応指導教室における「心の居場所」づくりとは、基本的には登校拒否児童生 一8一.
(12) 徒の「人間関係を構築する場所」づくりと考えられる。具体的には、指導者と子 どもという「タテ関係」から子どもどうしの「ヨコ関係jが構築される場所づく りと言える。家庭生活から学校生活への適応が困難であるという登校拒否児童生 徒は、人間関係に着目した池田(1988)の論に依拠すれば、家族という異年齢集団. による「タテ関係jから学校という同年齢集団による「ヨコ関係」へ適応できず、. 家族という「タテ関係」の中へ逃避している姿と考えられる。したがって、「人 間関係」を構築することは、学校で十分に満たせなかった欲求を単に充足すると いうだけでなく、自己の在り方や人間関係の在り方について学ぶことができ、自 立への援助になりうるものと期待できる。 適応指導教室に適応できない段階では、 「安全の欲求」の充足を求める傾向が 強くなる。上田(1976)は、「安全の欲求」を「苦痛、恐怖、不安、不快、傷害な. どの危険を避け、安定した人格状態を保とうとする欲求」と説明している。登校 拒否児童に見られる閉じこもりは、ある意味では「安全の欲求」を希求しそれを 自ら充足させている姿と捉えられる。石郷岡(1993)はそれを「誰からも脅かされ. ずに済む、自分だけの自由な、今の自分らしい世界を作ってく本物の自分〉を模 索し、取り戻そうともがいている状態」としているが、自己を脅かす刺激を外界 から遮断し自己防衛しているという意味で、やはり「安全の欲求」を自ら充足さ. せている姿と考えられる。適応指導教室に通嬉している子どもたちは、そうした 時期を乗り越えどちらかと言うと回復途上にあること、集団に参画面るだけのレ ディネスを少なからず持っていることを考えると、むしろ富盛初期の段階にf安 全の欲求」への充足が強くなると思われる。まさに西森(1994)の述べた「入り口」 の段階に該当する。. 適応教室に十分に適応できる段階では、 「:尊重の欲求」の充足を求める傾向が 強くなる。上田(1976)は、 「尊重の欲求」を「ある程度まで安定し、基礎の確立. した自己に対する高い評価や承認、尊敬を求める欲求で、自尊心もこの中に入る」 と説明している。またその特徴として「人びとよりは一一段と高位にあって、人び. とから高い評価を受けるとか、自己の価値を自ら認めて自信や自尊心を高める」. としている。やがてこの適応教室を離れ、学校生活へ復帰したり、社会生活へ適 応していかなければならない子どもたちにとっては、こうした欲求の充足が重要 である。まさに西森(1994)の「出口」の段階に該当する。. 西森(1994)は、適応指導教室の「出口としての機能」に着目し、社会生活への. 適応能力を育成するためのデイプログラムモデルを提示している。さらにそのな かで「自己効力感」の向上に関わるモデルを考案し、指導者の指導・強化により 「達成動機」と「自己主張能力」を高め、成功体験(直接体験・代理体験)を与 えることが、 「自己効力感」の向上となって現実生活への適応を促すことを示唆. 一9一.
(13) している。そして特に「自己効力感」の向上がその鍵になるとしている。「自己 効力感」とは「ある行動を起こす前にその個人が感じるく遂行可能感〉」とされ る。. 「自己効力感」の高い人間は、それだけ自分の能力を信頼し、それだけ自分自 身を価値ある存在として認める傾向にあり、その意味で健全な自尊感情をもった 人間であると考えられる。故に観点こそ違うが、「自己効力感」の向上と「自尊 感情」の向上には共通する方向性があると言える。 適応指導教室における「心の居場所」づくりを、Maslow, A. H.の「欲求階層論」. に依拠して「人間関係を構築し、自己実現を支援する場所」づくりと捉え、その 全体像をモデルにすると、以下の図1−2−2のようになる。. 〈心の居場所づくり〉 「安心感」を求める欲求 「自己存在感」を求める欲求 「安全欲求」. 「所属と愛情の欲求」. //. @「尊重の欲求」. 「タテ関係」の構築 「ヨコ関係」の構築 コ. ロ. 〈信頼関係(ラボール)〉 : <機会的交友>. 1 〈共感的交友〉. 指導者と子どもの信頼i機会的交友関係の形成を図i共感的交友関係の形成‘ 関係の形成を図る場。 :る場。 1を図る場。 ・積極的に受容するこ:・お互いの感情を共有する1・仲間体験への援助と とで、子どもの心理 1 仲間体験を経験できるよ1 同時に、統制可能な 的な安定を図る。 1 うに援助する。 l 経験(成功経験・達 ・個人的な援助を重視 i・補助自我的な役割を果たi 成経験・克服経験等 )への援助をする。 し、子どもの理解に l し、子どもどうしの仲間; 努める。 1 づくりを援助する。 i・集団活動に重点 ユ. ・個人活動に重点. ロ. i・集団活動に重点の移行 :. ・学習活動に重点. 図1−2−2適応指導教室における「心の居場所」づくり このモデルは主に図の左から右へ向かって発展的に「心の居場所」づくりを考 案したものである。この図から理解できるように、 「人間関係を構築し、自己実. 現を支援する場所」づくりとして「仲間体験」を重視している。それは人間関係 を構築していくためには、お互いの心がふれ合うr’ フ験」を通してしか身につか ないところがあると考えるからである。. 「生活体験に乏しいことが精神発達の未熟さを招来し、種々の問題の要因とも なっている」ことが指摘されて久しい。 「学校不適応対策会議」においては、適 応指導のための取組のひとつとして「自然体験活動や集団宿泊活動を通じた指導」 を掲げており、 「生活体験」の不足を補うことが適応指導のひとつの大きな柱に. なっていると考えられる。この点で、このモデルは様々な「生活体験」を通して 「仲間体験」の不足を補うことを重視しており、 「学校不適応対策会議」の適応 指導の取組と方向を同じくするものである。 一le一.
(14) 第3節 登校拒否 1.登校拒否の基本的な捉え方 本論文では、 「学校不適応対策会議」の登校拒否の定義に準じ、 「登校拒否と. は、何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童 生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にあること(但し、病気や経 済的な理由によるものを除く)」とする。また、登校拒否の対象を本事例の適応 指導教室の実情から、主に登校拒否中学生とする。以下、登校拒否中学生の場合 は「登校拒否生徒」と記す。. 池田(1988)は「タテ関係からヨコ関係への発達」を青年期の精神発達課題とし. てとりあげている。彼の論を要約すれば以下のようになる。子どもの行動が親や 大人に準拠しており、 「タテ関係」優位の構造にあるのに対して、大人は同僚や. 配偶者や社会一般との「ヨコ関係」優位の構造にある。この「タテ関係」から rヨコ関係」への質的転換を迫られるのが青年期である。さらにその重要な契機 となるのが友人関係であり、この段階で挫折し、退却せざるを得なくなった姿が 登校拒否であるとする。. この池田(1988)の「タテ関係からヨコ関係への発達における挫折」という捉え. 方は、視点を変えれば、登校拒否生徒は家族のなかの「タテ関係」に縛られた状 態であり、家族や親からの分離・独立に挫折した姿とも言える。福島(1992)は、. 登校拒否を「イエというウチの世界から、学校とか仲間集団というソトの世界へ 巣立つことができないから、巣立ちの病のひとつなのである」と述べている。ま た、河合(1992)は、 「不登校の子どもたちと接していると、そこにく自立〉とい. うテーマを感じさせられることが多い」と述べている。これらは、 「タテ関係」. の癒着が「ヨコ関係」の参入を阻害しているという面と、 「ヨコ関係」への挫折 が「タテ関係」へ退行させているという両面が考えられる。また、 「ヨコ関係」. に挫折したものの、以前の「タテ関係」にもその虚構性が見える故に戻れず、内 閉的な状態に陥る面も考えられる。すなわち、学校にも家庭にも居場所がない状 態である。. 佐藤(1988)はr分離一独立のプロセスにおける一時的挫折が登校拒否」である とし、また佐藤(1994)は登校拒否を「発達過程に見られる挫折経験による自己の. 拡散の危機」としている。すなわち「タテ関係」に支配された自分を一時的に解 体し、 「ヨコ関係」に参入できる自分につくり直すという新しい自己の形成に挑. 戦している姿と考えられる。それは一面では、主に親から獲得してきた価値観に 疑問を抱き、自分らしい独自の価値観を新しく形成する作業とも言える。. 一11一.
(15) 2.登校拒否の心理機制 (1)自己概念論の限界 Rogers, C. R.(1959)は心理的不適応の機制を自我と経験の間の不一致として捉え. ている。すなわち、生活体が重要な経験の意識化を拒否したり、歪めて意感化し たりして、経験が正確に象徴化されず、自己概念に組織化されない状態を生む。 この自己概念と実際の経験とのズレが大きくなると、自己は傷つきやすく不適応 な状態になるというのである。 鐘(1963)はこのRogers,C. R,の自己理論を援用して、次のような自己概念論を提. 唱した。登校拒否児童生徒は自己を過大評価しており、非現実的な自己概念をも っている。この肥大した自己概念は、学校における現実経験とズレを生じるので、. 自己は脅威にさらされる。このような脅威を回避し、安定した自己概念を維持す るために学校状況を拒否するというのである。. しかし、実際の登校拒否児童生徒の現実の自己評価は概して低かったという報 告もある。辻(1987)は、登校拒否児童生徒の認知スタイルの歪みを指摘し、自分 に対して彼らが否定的な評価をする傾向を見出している。甲村(1990)は、登校拒. 否生徒の自己意識として、頼りない自分を認知する傾向と現実自己の受容ができ ない傾向を指摘している。. これに対して、理想があまりにも高いために、理想の自己と現実の自己のズレ が大きくなり、これが脅威となって自己を脅かすという説がある。この説は、悲 観的、否定的な現実的自己像と、その一方で希望的、肯定的な理想的自己像をあ わせ持ち、その間で揺れ動く登校拒否の心理的特徴をよく説明していると考えら れる。しかし、文部省の分類(1988)による情緒的混乱型の登校拒否を説明するこ. とができても、近年増加している無気力型の登校拒否を説明することが困難であ る。なぜなら、後者は前者のような葛藤があまり起こらないと考えられるからで ある。以下、登校拒否の態様を述べるときは、文部省の分類に準ずる。 (2)新自己擬念論 Higgins, E. T. et a1(1986)は、自己概念が「理想自己」、 「現実自己」、 r義務. 自己」の3要素からなるという新しい自己概念論を唱えている。彼らによると、 「義務自己」とは、自己が当然達成していなければならない義務としての自己で あり、義務や責任として最低限そなえているべき自己である。 辻(1988)はこの理論を登校拒否児童生徒に当てはめ、彼らの自己概念の歪みを 指摘し登校拒否を説明する。登校拒否児童生徒は、 「理想」が「普通」であるこ とによづて「義務」と感じられるようになり、 「理想自己」と「義務自己」が密. 着・一体化している。従って、彼らの「現実自己」は「理想自己」に到達してい 一12一.
(16) ないだけでなく、 「義務自己」をも達成しておらず、彼らは大きな自己不一致が. あると感じるようになる。このため、彼らの感情は「現実自己」と「理想自己」 の不一致から生じる失望や不満、不全感と、 「現実自己」と「義務自己」の不一. 致から生じる自責や自己嫌悪\恐怖とが混合した状態になる。いずれにしても、 自己不一致の意識は、自己評価を低下させ、自己概念の統合や一貫性を脅かす。 この脅威から回避した姿が登校拒否であると説明している。. この辻の理論は特に思春期の情緒的混乱型の登校拒否をよく説明している。し かし、辻自身も述べているように「登校拒否児童生徒一般」にあてはまるわけで はない。しかしながら、この理論を援用すると、無気力型の登校拒否も説明がで きると思われる。. 無気力型の登校挺否は「無気力で何となく登校しない型」とされ、 「登校しな. いことへの罪悪感が少なく、迎えに行ったり強く催促すると登校するが長続きし ない」と言われている。この態様の登校拒否にはあまり葛藤が見られず、罪悪感 が少ないことから考えると、「義務自己」が倭小化しているために、 「現実自己」. と「義務自己」のズレからくる自責や自己嫌悪といった感情が生じにくいと考え られる。そして「現実自己」と「理想自己」のズレから生じる失望や不全感をあ. まり抱いていないことから考えると、「理想自己」も倭心化していると考えられ る。まさに、葛藤や罪悪感があまり生じない、理想や目標が見出せない傾向があ り、無気力な状態に陥っていると説明できる。さらに遊び・非行型の態様になる と、前者以上に葛藤はほとんど起こらず、 「義務自己」のさらに欠損した状態を. 想定することができる。情緒的混乱型と無気力型の自己概念の歪みを表現したも のが、図1−3−1である。もちろん、これで登校拒否の全てを説明できるものでは なく、また同じ態様の中にも個人差があることは言うまでもない。 〈情緒的混乱型〉. 理想自. 〈無気力型〉. 理想自己. 〈Si))maea 務自己 現実自. 現実自己 図1−3−1態様別にみた自己概念の歪み. 3.登校拒否への援助 登校拒否を「タテ関係からヨコ関係への発達における挫折」した姿と捉えると き、彼らが「ヨコ関係」へ参入できるように援助することが基本になる。それは 同時に親子関係に代表される「タテ関係」の呪縛からの解放、すなわち家族や親. 一13一.
(17) からの分離・独立を援助することである。それは言うまでもなく、青年期の発達 課題の克服を援助することでもある。. 登校拒否の心理機制を自己概念から捉えた場合、それはその歪みを是正するこ とが基本になる。そして、その重要な契機となり鍵を握るのが、・指導者の援助を 前提にした「仲間関係」ではないかと考える。. 青年の人格発達理論のなかで同性同年齢関係についてきめ細かい議論を展開し ているのはSullivan, H. S.と言われる。 Sullivan, H. S.によれば、青年期前半に果. たすべき肝要な対人関係的課題は同性同年齢者間に「親友関係(chu皿一ship)」をつ. くることだという。これはこの年齢において初めて完成する真の孤独の体験と、 それに対抗するために同性同年齢の友人との親密な関係を求める試みとも言える。 この親友関係において、Sullivan, H. S.が述べている「親密性(intimacy)」の感情. が体験される。 「親密性」とは「相手の幸福が自分にとっては自らの幸福と同じ. くらい大切なものである」と個人が感じる状態である。それはまさに「同性同年 齢の仲間(chum)との親密な交わりを介しての共感性の確立」であり、それを通し. て社会化の過程を歩んでいく。そして社会性を獲得していくために不可欠なステ ップとして、お互いに自分の情報を照合し確認し合う「共人間的有効妥当性確認 (consensual validation)」が頻繁に営まれるようになる。それは、自分が仲間か. らどのように見られているのかを、相手から学ぶ機会となる。また、以前の生活 の中で形成された歪律(バラタクシス)的歪み(対人関係における不健全な感情や思考や. 行為のパターン)を矯正していくための幅広い機会を提供する。このようにして、. 自己中心性と言われる状態から離れて、より社会的である状態に自分の場所を獲 得するようになる。 Chapman, A. H.(1980)は、このSullivan, H. S.のいう良い「親友関係」を「そこに. 関わる全ての人に対して治療的な作用を及ぼすことが多い」と述べている。. 適応指導教室において登校拒否生徒の「人間関係の構築」を支援していくこと は、Chapman, A. H.が述べているように治療的な作用を期待できると考えられる。 なぜなら、Sullivan, H. S.の理論に従えば、凶賊(ハ。ラタクシス)的歪みを矯正していく. ための機会を提供することになるからである。歪律(バラタクシス)的歪みとは、以前の. 対人関係(主に親子関係)において身につけた不健全な感情や思考や行為のパタ ーンであり、そしてそれが新しい対人状況のなかに持ち込まれるために対人関係 において障害を引き起こすもとになるものである。 それは自己概念(Sullivan, H. S.のいう「擬人化された自己」にかなりの程度相. 当する)に置き換えて考えてみることも可能ではないかと思われる。つまり、我 々の思考や行動のパターンが自己概念に基づいてなされる場合が多いことを考え ると、不健全な行為のパターンは自己概念の歪みとして捉えられ、「親友関係」. 一14一.
(18) は自己概念の歪みを矯正する治療的な場にもなりうると考えるのである。事実、 Sullivan, H. S.はこの種の治療的体験が、一般的に見てその人の「擬人化された自. 己Jの歪みが軽度ないし中等度なものである場合に生じるとしている。具体的に は、健全な「共人間的有効妥当性確認」を通して、密着・一一体化している「現実. 自己」と「義務自己」を分化させたり、欠損あるいは倭小化している「義務自己」. と「理想自己」を再形成したりすることをさしている。もちろん、こうした登校 拒否児童生徒の「人間関係の構築」を指導者が支援したり、個人的な援助をする ことがこれらの前提になっていることは言うまでもない。 稲村(1988)は「友人関係ができるためには心理状態が改善する必要があるし、. また友人関係ができれば結果として心理状態も改善する。その点をくれぐれも配 慮する必要がある。極言すれば、友人関係もできないままで登校拒否が改善する ことなどないとさえ言える」と述べ、登校拒否の改善に対する「友人関係」の影 響の重要性を指摘している。. そこで問題になるのが、登校拒否生徒の場合のように、お互いに自己概念にあ る程度の歪みを持っていると想定される仲間関係に対して、本当に治療的な作用 が期待できるのかということである。 増井ら(1987)は情緒障害児短期治療施設において入所治療を行った登校拒否児. 童生徒47例を対象として治療の経過を観察し、馬所1年後の適応状態を調査し て次のように述べている。登校拒否児童生徒のなかで、小人数集団での親密な対 人関係を十分に学ぶことができた者は、退所後良好な適応状態を示している。. そして、不登校児童・生徒における入所治療では、親密な仲間関係の経験が最も 重要な役割を果たすことを指摘している。. 情緒障害児短期治療施設の入院治療をそのまま適応指導教室に一般化すること は慎重でなければならないが、退所1年後という比較的短期間の予後調査である ことを考慮すると、適応指導教室に通画する登校拒否児童生徒にとってひとつの 可能性を示唆するものと考えられる。態様のあまり違う者同士が仲間関係をつく ることは困難であると予想されるが、比較的態様の近い者同士であれば、仲間関 係をつくることは可能であると思われる。. しかしながら、適応指導教室において「人間関係」を構築することの重要性は 指摘されながらも、現実は決して容易ではないと言われている。 佐藤(1993)は、適応指導教室の指導の段階を①自己の解放期、②友人との協同. 期、③集団での活動期、④集団の成長期の4期に分け、同時に適応指導教室の指 導者の基本姿勢を示している。これは言うまでもなく、集団内の人間関係を重視 した適応指導教室のあり方を示している。西森(1994)は、全国80ヶ所近い適応 指導教室の報告書を文献研究し、 「指導者が集団の凝集性を高めようと非常に苦 一 15 一.
(19) 慮している」とその課題を述べている。花井(1994)は適応指導教室の基本的な考. え方として「人間関係の改善」を第1の目標にしている。花井は集団づくりの難 しさを「両刃の剣」にたとえ、一方でその良さを認めながらも、他方では日常と. 非日常の境界が不明確なため、同胞・両親像の転移及びそれに基づく行動化が生 じ、他者との対立・葛藤といった赤裸々な人間関係が生じること、さらに子ども. の転移に触発され指導者に逆転移が生じると一層集団の維持が難しくなることを あげている。. 筆者自身は、共に楽しみ、共に喜び、共に感情を共有できるような「仲間体験」. を重視している。なぜなら、こうした体験が彼らには大いに不足しており、それ らが彼らの臼己概念の歪みを矯正し、彼らの自立を援助するひとつのアブU 一一チ. になりうると考えるからである。そして、そのためには、徐々に機会的な交友か ら共感的な交友へと仲間関係を発展させていくことが重要であると考えている。. その具体的アプローチとして、様々な生活体験を通して仲間体験が味わえる「合 宿療法」は中核的存在になりうるのではないかという期待を持っている。それを 実現させていくためには、前述の指摘にあるように、指導者としての役割が重要 になってくる。. 第4節 本研究の目的 適応指導教室では「心の居場所」づくりが希求されているものの、具体的な方 法や内容については、明らかにされていない。 「学校不適応対策会議」の最終報 告書では、 「適応指導教室事業は緒についたばかりであり、指導方法の研究は今. 後の積み重ねが必要である」としている。また、同報告書は、適応指導のための 取組のひとつとして「自然体験活動や集団宿泊活動を通じた指導」を掲げており、 「生活体験」の不足を補うことが適応指導のひとつの大きな柱になっていると考 えられる。. 本研究では、適応指導教室における「心の居場所」づくりを、登校拒否児童生 徒の「人間関係を構築し、自己実現を支援する場所」づくりと捉え、 「合宿療法」. が「心の居場所」づくりにどのような効果があるのかを検討することを目的とす る。. 従来より、 「合宿療法」は登校拒否の治療として実践されているが、実施中・. 実施後の短期的効果を検討した事例研究がその中心になっている。また、登校拒 否の態様の違いによる効果については検討されていない。近年、質問紙によって 実施数ケ月後の中長期的効果を検討する研究も見受けられるが、自己概念の向上 と特性不安の低下以外は明らかにされていない。そうした研究では、参加者を公 募にしている場合が多く、以後の追跡調査を困難にしている。適応指導教室にお 一 16 一.
(20) ける研究はその数が極めて少なく、やはり短期的効果を検討した事例研究が中心 である。. そこで、適応指導教室に「合宿療法」を導入することにより、事例を通して短 期的効果と中長期的効果及び合宿後の集団への影響を検討することを目的とする。. 特に、短期的効果については、合宿中の生徒の変容を考察し、態様の違いによる 効果を検討する。中長期的効果については、合宿前後の参加活動時間と生徒間の 対人行動の変容を考察し、その効果について検討する。合宿後の集団への影響に ついては、参加観察記録より集団の変容を考察し、 「人間関係の構築」の視点か. ら検討する。適応指導教室は参加者が通級児童生徒であるため、合宿導入後の集 団に及ぼす影響が少なくないと考えられる。そこで、具体的には、6ヶ月間に及 ぶ集団の変容過程を考察し、 「合宿療法」の導入がその後の集団に及ぼす影響を 中長期的な観点から事例を通して分析し検討する。. 尚、本研究で述べる短期的効果とは合宿中に認められる効果を言い、中長期的. 効果とは合宿後3ヶ月までに認められる効果のことを言う。また、合宿後の集団 に及ぼす影響とは、合宿後3ヶ月までに認められる集団への影響のことを言う。. 一17一.
(21) 第2章 合宿療法の短期的効果. 第1節 意義 本研究では、 「合宿療法」を「治療者が合宿の生活場面を治療的に構成し援助. することで、参加者の潜在能力を引き出し、人格的成長を促す集団心理療法のひ とつである」と定義する。. 合宿療法は、短期的な合宿活動で、通常は数日から数週間くらいの期間であり、 長い期間をかけた本格的な治療活動である、稲村(1988)の述べるような「宿泊療. 法」とは異なる。キャンプ療法と合宿療法は通常分けて考えられているが、近年 その境界は決して鮮明であるとは言えなくなっている。一例をあげれば、合宿療 法のプログラムにキャンプ療法的な要素が入ってきており、両者の中間的な形態 をとる実践も報告されている。敢えて違いを言えば、前者が自然との体験を前提 にしたプログラムをより重視するのに対して、後者は必ずしもそれに拘らず、プ ログラムそのものをより重視する立場にあると言える。稲村(1988)は「合宿活動」. を「キャンプ療法」と「極短期宿泊療法」に大別している。ここで述べる合宿療 法はこの稲村の「合宿活動」と同義である。筆者が合宿療法としたのは、治療者 の立場から上位概念として「合宿活動」というよりは「合宿療法」の方がより望 ましいと考えたからである。. 「学校不適応対策会議」(1992)では、適応指導のための取組のひとつとして. 「自然体験活動や集団宿泊活動を通じた指導」を指摘している。その根拠として. 登校拒否児童生徒の中に、人間関係づくりが不得手であったり、主体的に何らか の活動を行ったことがなく、達成感や成就感を味わった経験の少ない児童生徒が 多いことをあげている。. 糟谷・清水(1994)は、登校拒否生徒の生育過程に着目して、遊戯行動を中心と. した社会行動を分析し、その特徴を明らかにしている。分析対象は登校拒否の中. 学生29人であり、その母親に質問紙調査を実施している。それによると、登校 生徒の生育歴と比較して登校拒否生徒の男女に共通する特徴として、 「室内遊び. を好み、友達が少なく交友に消極的である」ことが報告されている。これは分析 対象が少数ではあるものの、前述の根拠を支持するものである。 真仁田ら(1981)は、登校拒否に対するカウンセリングの限界を指摘している。. その具体例として、慢性的な登校拒否の治療が長引くこと、来所を拒否すること への手だてに限界があることをあげている。さらに、登校拒否児童生徒を学校不 適応という大枠で考えた場合、 「彼らに共通しているのは様々なく体験〉によっ. て生じる社会性の欠如あるいは歪みという問題に帰する」と考え、〈体験〉の重 要性を指摘している。 一18一.
(22) 特に登校拒否生徒への援助を考えたとき、一般的に中学生という年頃は小学 生程遊戯療法に興味や関心を示さなかったり、高校生程カウンセリングで自分を 言語化できなかったりすることがあり、その移行期にあって難しい年代だと言わ れている。従って、本人が来談しなかったり、一時来談しても継続しなかったり して、治療が長期化することがある。このような自己の洞察を促す治療的援助と. は別に、個人の潜在能力を引き出し、人格的成長を促す「合宿療法」は、彼らの 生活体験の不足を補うという点で意義があると考える。体験的な観点からのアプ ローチは、カウンセリングによる治療の限界を補うもうひとつの治療的援助にな りうると期待される。. 第2節 目的と方法 1.目的 適応指導教室に合宿療法の導入を試みる場合、登校拒否児童生徒を対象にした 先行研究は参考になる。主なものをまとめると、以下の表2−2−1のようになる。 但し、一部長期間に及ぶ実践もあるが、参考のため掲載する。. 表2−2−1 合宿療法の成果と課題 成 果. 課 題. ①性格、対人関係、生活習慣の. ①家族全員の参加による家族治 療としての意図を達成するこ. 研賭・内容. 黒田ら (1970) 2泊3日 家族キャンプ. 9泊10日 合宿. 改善. ②親の子に対する理解と態度の. と. 改善. ③継続治療に力強い契機を与え ること. 黒田 (1973) 月に1∼2回 1泊2日. 親のグループ. ガイダンス 15週間 キャンプ. 真仁田 (1973). ①子どもと治療者との人間関係 の深まり. ②自発的集団活動の高まり ③集団所属に基づく安定感を高 め、社会化を促進し、現実生 活への適応性の向上 ④親の問題解決に対する積極的 な態度の形成. ①子どもの変化は様々で一概に は述べることができない。. 4泊5日 5泊6日 キャンプ. 竹内 (1975) 3泊4日 キャンフ。. ①著しい治療効果 ②日常生活の悩み、不安、束縛 等からの解放 ③ありのままの自分を思いつき り表現できること 一19一. ①治療効果をあげるための集団 構成を検討 ②クローズドシステムによる治 療学級の実施の検討. ①時期 ②場所 ③期間 ④スタッフの構成 ⑤クライエントの選考 ⑥グループ編成 ⑦効果の測定 ⑧プログラム編成 ①参加前の動機づけ ②アドバイザーとカウンセラー の協力体制 ③参加後の指導.
(23) 東山 (1979) 4泊5日 キャンプ. 日下部 (1983). ①軽い内向、引っ込み思案、社 会的未熟の問題行動に著効 ②クライエントとセラピストの マンネリ感をとる刺激剤の役. ①アフターケアー ②インフレーションの後の落ち 込み. 割. ①自立心が養われる。. ①期間が短すぎる。. ②自信の回復. ②スタッフの交代を最小限にす. 2週間. る。. ③費用が高すぎる。. 合宿. 西村ら. ①グループ内の基本的な不安の. ①仲間体験を得る。. 解消. (1987) 3泊4日 キャンフ。. 大沢ら (1987) 2泊3日 キャンプ. ①自己理解や対人関係技術の学. ①スタッフの負担が大きい。. 習. ②同世代の仲間との楽しい貴重 な経験. ①不適応感の軽減と解消 ②人間関係の改善と活性化 ③自己意識の向上. ①スタッフの事前研修 ②参加児童生徒の決定 ③キャンプ指導と各登校拒否児 との適合性 ④キャンプの各活動と各登校拒 否児との適合性 ⑤親と学校関係者の参加. (1989). ①性格・人格の改善 ②不安傾向の軽減. (1990). ③自己概念の向上(特等繭機). ①参加への動機づけ ②アフターケアー ③拒否児の体力・運動能力の問. 富山県総 合教育セ ンター (1989) (1990) (1991) 3泊4日 キャンフ。. 飯田ら. ④社会的場面の態度の改善 ⑤登校状況の改善 9泊10日 冒険キャンプ。. 飯田ら (1991) (1992) (1993). ①精神自覚症状の低下 ②親子関係・養育態度の改善 ③特性不安の低下 ④キャンプ集団内での社会的地 位の向上 ⑤自己概念の向上(特に勧蟻). 8泊9日 冒険キャンプ. ⑥対人行動の向上 ⑦心理的エネルギーの回復 ⑧情緒の安定とパーソナリティ の統合 ⑨登校状況の改善 一20一. 題. ④拒否児と健常児の体力差から くる統合キャンプの難しさ ⑤学校との連携の強化 ①治療場面への導入が困難 ②問題が深刻な場合に本質的な 解決にならない場合がある。 ③運営にあたって、指導者、場 所、費用等が必要であり、実 施が容易ではない。. ④事後指導の充実 ⑤他の治療法を組み合わせた包 括的治療プログラムの開発 ⑥登校拒否児のレベルに合わせ たプログラムの開発.
(24) 池田ら (1991). q992). ①「共振的体験」を通してファ シリテーターと子どもの本質 的なヨコ関係の形成 ②「自分だけが特殊な存在なの ではない」 「自分も人も同じ. 人間なのだ」という感覚の体 験. 3泊4日. 舗. ③大人への信頼の回復 ④自己の心理的世界を仲間と共 有する体験 ⑤ヨコ関係の中で自己価値を見 出す体験. Rogers, C.R.(1939)は、 「全治療計画の一部として、キャンプを行なった精神科. 医やサイコロジストが異口同音にそれがたいていのケースにおいて非常に効果的 であると述べているのは、おそらく重要なことであろう」と述べている。 稲村(1994)は文献研究を行い、 「不登校児に合宿療法、キャンプ療法は特にわ が国で盛んであり、多くの報告があるが、他国からの報告はあまり見当たらない」 とし、それらの効果について、「概して言えば、対象児によっては効果が大きい」 と述べている。. 筆者は、適応指導教室における9心の居場所」づくりを「人間関係を構築し、 自己実現を支援する場所」づくりと捉え、その中核的アプローチとして「合宿療 法」の導入を考えた。. 先行研究の成果の中に、人間関係の改善等の報告が従来より多くなされ、登校 拒否生徒の人間関係の構築に有効と思われる。また、登校拒否の心理機制のなか で、彼らの自己概念の歪みが指摘されているが、自己概念の向上に関する報告も なされており、自己概念に関わる効果も期待される。 しかし、その一方で課題も多い。飯田(1995)は日本のキャンプ効果の大きな阻 害要因として「期間の短さ」幽 指摘しているが、登校拒否生徒の合宿の期間を考 えた場合、期間の長さは彼らの動機を低めること、すなわち参加への抵抗を高め ることにつながりかねない。結果的に期間の長い合宿は参加生徒を極一部の生徒 に限定したり、あるいは不参加に追いやることが予想される。それなりの成果を 期待するのであれば、それなりの時間と労力、費用が必要になるのは、先行研究 から明らかである。. 本研究は適応指導教室への導入の試みの段階であり、生徒の実情を考えると、 「期間の短さ」は避けられない。もちろん、先行研究に見られるような時間と人 材、費用を投入した集約的な合宿療法は良きモデルではあるが》それをそのまま. 導入することはできない。すなわち、規模はもとより、ある程度ねらいを限定す る必要がある。そこで、短期間の合宿療法を導入することで、人間関係を構築す るためのひとつの契機にすることにねらいを置く。そして、その効果を主に実施 中の生徒の変容を中心に考察し、さらに態様の違いによる効果を検討することを 磨的とする。 一21一.
(25) 2.方法 方法論については池田(1991)の合宿療法を参考にし、適応指導教室の実情に合 うように修正した。 (1)合宿の目的. 自然のなかで日頃不足しがちな直接的体験を積み、仲間と「共にある」人間 関係を通して、自分自身を見つめなおす機会にする。 (2)合宿の治療的意味. ①家庭生活からの分離 物理的にも心理的にも依存している家庭環境から一旦離れることにより、ひと りで自分自身の経験をするということは、自立への自覚を育てる機会になりうる。. ②仲間集団での生活 仲間集団で生活しなければならないことから、人間関係の柔軟性を養う機会と なりうる。また、仲間に共感したり反発したり同一化したりすることによって、 自己理解を図る機会になりうる。. ③直接的な生活体験 様々な不便を伴う直接的な生活体験では、自分の役割を果たしたり、仲間と協 力することが日常の生活以上に要求される。このような直接的な生活体験により、. 困難を克服した後の達成感や充実感、成功感等を味わうことを通して、肯定的自 己像の構築や自信の回復を促す機会になりうる。. ④遊戯的活動の体験 遊戯的な活動を通して、情緒的緊張の解消、欲求不満の解消、感情の解放等の、 カタルシス効果が期待できる機会になりうる。. ⑤自然との接触 情緒的安定がもたらされる機会になりうる。 (3)全体指導構想のなかの合宿の位置づけ. 表2−2−2適応指導教室における全体指導構想 STEP 1:心理的な安定を図り、指導者と生徒の信頼関係を形成する。 STEP 2:日常的活動により主に生徒同士の機会的交友を図る。 STEP 3・t‘t. こてこz盲の、・岩 文。. STEP 4:集団の凝集性を高め、さらに個の良さを認め励ます。 STEP 5:学校生活や社会生活への復帰に対して具体的な援助をする。. 本研究の合宿では、上記の段階の主に第3段階を目指している。但し、個の状 態に応じて目指している段階は違ってくる。 一22一.
(26) (4)指導者の基本的態度. 人間関係を構築していくためには、自己が脅威にさらされない自由で安全な 「心理的風土」が重要である。各自が安心して自分を表現し、それを受け入れて もらえる受容的な雰囲気が、その集団内の相互作用を促進するものと考えられる。. 合宿療法は、他の集団心理療法と異なり・時間と空間・内容等の設定に特徴があ る。すなわち、真仁田ら(1973)が述べているように、それは幅広い時間帯や開放. 的な空間を利用できたり、様々な体験ができる可能性をもっている。これらは前 述の「心理的風土」の形成に有効であろう。しかし、なかでも一番重要なのは、 やはり指導者と生徒の人間関係であることは言うまでもない。それは両者の関係 に留まらず、・集団の「心理的風土」を左右すると考えるからである。そういう意. 味で指導者が生徒にどうように関わるのかが最も重要であり、本合宿では、 Rogers, C. R.(1957・)の述べている治療者の3条件を指導者の基本的態度とする。そ. れを援用し、要約すると以下のようになる。 [1]Rogers, C. R.(1957)の3原則. ①「純粋性」または「自己一致」. 指導者が生徒との関係のなかで、一致した、純粋な、統合された人間でなけれ ばならないということである。それは彼が自由にかつ深く自己自身であり、彼の 現実の体験がその自己意識によって正確に表現されるということである。簡潔に 言えば、指導者にとらわれやごまかしのない素直な心のあることをさしている。 ②「無条件の肯定的配慮」. 指導者は率直な心でもって、生徒をあるがままに尊重して見つめること、ある いは彼のあるがままの姿を認め受容することである。彼に対する関心を持ち、そ れを暖かく示すこと、または彼に対する尊敬の念を持つことである。それは、彼 を自分とは違う、自分から分離した人間として愛することであり、彼が自分自身 の感情を持ち、自分自身の体験を自由に持つことを許すことであるとしている。 ③「共感的理解」. 生徒の私的な世界をあたかも自分自身であるかのように受け取り、しかもこの あたかもという性質を失わないということである。つまり、生徒の混乱に指導者 自身が巻き込まれないようにすることである。実際的には、生徒が感じることを できるだけそれに近い感じ方で指導者自身が感じようとすることをさしている。 [2]具体的な態度. ・事前の話し合いにより、個人の心理的課題を把握し、個人へのアプローチを検. 討する。その上で、基本的に担当する生徒を決定し、共通理解のもとに援助し ていく。. ・指導者は生徒に直接的な関わりをもつ者と指導者を援助して生徒に間接的な関 一23一.
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