日本企業の組織変革
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(2) . 4巻 第2号 北海道教育大学紀要 (第1部B) 第4 l 2 i 44 t i &iucat onIB)Vo i ty of] on(Sec ‐ . lof Hokkaido Univers , No Jouma. 平成 6年3月 March ,1994. 日本企業の組織変革. 石. 井. 耕. (北海道教育大学函館校総合科学課程経営科学コース). (The Change of organization ln japanese ComLPany) I ) (KOUISHI. 日本の企業組織. 1. 組織は, 環境の変化・企業行動の変化・組織を構成する人材の変化に対応して, 変化していくも のである. だからこそ, 組織をめ ぐる問題は, 常に経営の根幹問題であり, 組織の構築の仕方その ものを新たに創 造・開発していく 必要がある. 組織変革の進め方自体 が問われていると いうことで ある. 本稿は, 対象を日本の大企業として, 組織変革の進め方につ いて検討することを目的として い る.. 最初に, 日本企業の組織変革を議論するにあたり, いくつかの留意点を挙げておきたい. ( 1 ) 事業創造と組織変革 今日の企業経営においては, 新事業の展開, 事業の構造改編(リストラクチュ アリング) , マーケ ティ ン グの創造 的展開, 人事の革 新, 転換経営のマネジメン ト, そしてトッ プ・マネジメン トの変 「 容等が課題と なっている. これらに共通する基本的 な認識の軸は, 現在は日本の企業にとっ て 事 「 業創造」の時代であるというこ とであり, それに向けて進むこと が重要だということである. 事業 創造」 に向けての組織変革が求 められているのである. 注1) ( 2 ) 日本的経営と組織変革 同時に, これまで, 日本の 企業の競争力の根源ともなっ ていた「日本的経営」 (注2, 例えば, 終 身雇用慣行, 年功序列, 企業別組合あるいはより広く企業間では, 系列取引, 株式持合等々) を前 提としなければならない. 組織変革は, こうした日本的経営の議論と関連させて検討する 必要があ る.. ) 組織変革の 主体 ( 3 また, 組織・人事の課題は, 人事部等特定のセクショ ンだけの課題では ない. 企業のあらゆる部. 署・階層に存在する課題であり, 組織変革は全社共通の基本指針が求められる課題である.. 「日本的経営」 の重要なフ ァ クターの 一つとして, 日本企業における事業部制組織を挙げてもよ いだろう. 複数の事業分野を持つ 日本企業においては, 事業部制組織が主流である. この事業部制 組織は組織間競 争のメカニ ズムによっ て, 組織の活力を生んできた. 利益責任単位を明確にし, 社 内の競争を促す仕組みが, 結果として, 市場での競争力を高め, 日本企業の競争力の根源の一つと I.
(3) . 石 井. 耕. なっ てきたといえる. 組織変革は, こうした日本企業にお ける事業部制組織を舞台に進められる . それでは, 日本企業における事業部制組織は, どのような特徴を持っ ているのであろうか 日本 . における事業部制組織 の定義について考えたいが, それは必ずしも一義的なものではなく 次の3 , 点をどう組織しているかによって企業によっ て異なる性質のもの である . 人事・経理などの機能を, 事業部以外に全社的機能として保持しているか どうか この点に . ついては, 内部資本金制 度を含んだ厳格 な事業部制を敷いている企業は少なく, 事業部は製品 別 (ないし地域別・顧客別 等) に開発・購買・生産・営業をたばねているという性格の企業が. ①. 多い. あるいは, 生産機能を中心とした工場事業部も多い. ② -部 の事業は事業部制を敷いているが, 他の一部の事業は機能別 に管理しているという企業 も日本 では存在する. 特に, 主力製品を機能別 に管理していた組織が かなり異質な新製品分 , 野に多角化した場合, その製品だけを事業部にしている 「併置型」 も多い . ③ 多数の事業部を, 事業本部として統括している企業も最近増加 している 組織の階層 の問題 . である. いうまでもなく, 過大な階層は, 組織の非効率性を招く. また, 事業部制組織 には多くの課題も指摘される. 通常, 指摘される事業部制組織の課題を集約 すると, 次の5点にまとめられる. ① 事業部間“ 縦割” の弊害克服 (セクショ ナリズムの克服) ・技術シー ズ別 の事業部となっており, 事業間の連携がない . ・一顧客に多窓□が対 応 して い る. ・全社戦略にもとづいた, 投資の重点配分ができていない . ・事業部の長が, 常務会メン バーとなっており, 戦略の求心力がない . ・事業部間の人事が, 硬直化してい、 る. ・システム化した新商品・新事業に取り組めない. . ② 事業部“ 細分化” の弊害是正 ・企画機能力坊受立っ ていない. ・事業部の大きさに比例した視 野からの発想しかでない . ・短期的な収益指向に走る. ・どの事業部も取り扱わない領域ができてしまう .. ③ 事業部制を機能させる仕組みの構築 ・事業部の業績評価が, 機能していない. ・効率 (機能別組織) と意思決定のス ピー ド (事業部制) の バランスが灘…しい . ・本社機能の役割が不明確であり, 求心力あるいは独立性の バランスが難1しい . ・複数事業に関わる工場の位置づけが難しい.. 2. . .
(4) . 日本企業の組織変革. ④ 新規事業の組織のあり方の明確化 ・既存事業との違いを管理上明確化できない (例えば, 業績評価基準など) ・新規事業のマネジメントのあり方が明確化できない. (当面, 利益がでない事業に ・ , どのような目標設定ができるか). 研究開発組織と事業部のマネジメントの関連の明確化. ⑤. ・総花的研究開発となっ てしまう ・声の大きい事業部の研究開発テーマに偏って しまう.. こういっ た課題は, 事業部制組織の存在そのものに問題があっ て発生して いるのではなく, 事業 部制組織をどのようにマネジメントするかによっ て生じている問題であるといえよう. すなわち, 利益責任単位を明確にするという, 管理・統制の 手段としてのみ事業部制組織をとらえ, それを事 業創造という目的に向けて ダイナミッ クに展開していくことを怠っていたために起きている課題で あるということである. そう考えると事業 部制組織のマネジメントのあり方として 課題をとらえることが適切である. 具 体的には, 次の三点が挙げられる. ① 権限, 責任の明確化, それにともなう適切な委譲 事業部の責任を問う場合, どのようなものに対して問うのかがまず前提となる. この場合, 対 応する職務や責任に対して十分 な権限が与えられていない場合が多い. また, 実行に際して権限 や責任が明確でないために, 責任を問えない場合もある. 単に一部の責任, 権限を委譲するので はなく, 極端な場合は次のH社のように, 全面的に委譲している場合もある. 事業部 ごとに最も 望ましい賃金制 度, 資格制度, 昇格制度等を導入していくことを計画 しているのである. 「多角化や 経営の グローバリゼーショ ンを進める上で障害となるのは 「日本的経営」 だ. 市場 も, 競争環境も, 技術の成熟度もすべて異なる事業部を一つの管理制度, 人事・賃金制度で経営 することはできない. 各事業部を企業内企業と定義し, 本社は全体の長期戦略, 財務機能, 幹部 人事のみ担当し, 各事業部が独自の賃金体系, 独自の労組を持ち, 自由にやるという方向に当社 は動きだしている.」 (H社社長) ②. 組織のくくり方の妥 当性 (大きさ, 広さ) 蕊織のくくり方をも十分に考える 必要があ 納得のいくものにするには, 管理責任単位としての糸. る. 事業部の場合, まずある程度の規模が必要であることはいうまでもない. そのほかにその事 業特性がどこまでの広さであるかが判断材料となるが, 管理のしやすさ, 管理のための単位と い うことではなく, あくまで事業遂行上組織的柔軟性がどこまで持てるかが大事な要因である. 3.
(5) . 石 井. 耕. ③ 情報の整備 事業部制組織をマネジメントしていく上で, 正確にその部門の現状を理解しておくことが重要 である. しかし, 現実には日本の一流企業といわれている企業でさえも, タイムリーに事業部の 情報が把握され,トッ プマネジメントの意思決定に資するようなものができることはあまりない. そのため現在,統合オンライ ン情報ネ ッ トワークシステムを構築している企業が多くなっている . こうし た点が, 日本企業の事業部制組織のマネ ジメントの主要課題である. 組織変革は, こうし たマネジメントの課題を解決する方向 で進めることが求 められる.. 2. 事業部間を横通しする本社機能の構築 事業部制組織といえども, 事業部からだけ成り立っているわけではない. いくつかの事業がポートフォ リオを構成しリスクを分散させながら経営全体を存続させていく半. 面で, そのそれぞれの機能を本社機能組織が担い, しかも機能組織は強力に効 率を追求し, 集中力 を発揮する. こうした相反する性格のものを接合したものが経営体である. このいずれが欠けても 経営の存続は危うくなるために, 機能組織に事業を従属させてもいけないし, 事業に機能組織を従 属させてもいけないことになる. そのために, 事業部という形で事業を統括する存在と, 機能組織 部という形で機能組織を統括する存在の二つが必要になる. 前者は事業の存続と利益を確保し, 後 者は機能の効率を追求するが, この二つをまとめるのがトッ プマネジメントということになる.. なお, 本社機能は政策的機能と共通実施的機能に二分される. 政策的機能は全社的立場から統一 的に行動することにより戦略性を発揮する機能であり, 共通実施的機能は事業部単独でも行える行 動について共通的に実施することにより, 効率を高める機能である..
(6) . トッ プマネジメ ント. 機能戦略. 事業戦略 (事業部). (機能組織部) SBU I. SBU2. …経理政策 経理政策 …. …営業政策. …. 研究開発政策 …研究開発政策 …. …. …人事政策 人事政策. i ー “ ー ー . ー ー ー ー ー ー ー → ー ー - - ー . -. ー ・ ー ー ー ー ー ー ー ー ー - - - - - - - - .. …. …情報政策 情報政策. 実行計画 (各担当組織部門). SBU3.
(7) . 石 井. 表一1. 耕. 機能戦略の目的と効果 (営業機能の例). 目. 的. 効. 果. 政策的機能 □交渉力を高める ・規模の効果を発揮 できる. □訴求力を高める ・統一による企業意思の 明確化. 例 ☆大ユーザー との交渉. ☆価格体系. ・統一による全社的. 普遍性 口全体を見る. ・思わぬすきまができない ・相互に比較ができる. ☆業績評価. ・ノウハウ分散防止. ☆営業推進. ・森を見ることができる. □理念の実現. ・統一による企業意思の. ☆海外営業推. 進 口社内外への情報 ・統一によるホモジニティ ☆系列店政策 ・統一による企業意思の 源一元化 明確化 □全社目的の確実 ・統一によるホモ ジニティ ☆政治的事項 権威づけ への対応 な実行 ☆業績評価・ 監査 口トレー ドオフの ・エ ゴの調整 ☆営業投資配 分 解消 ☆海外の担当 ・全社的視点から見る □正負の縄張り争 いの解消 規程 ☆製品担当規 明確化. 程 共通実施的 □費用の節約 機能. ・資源の稼働率向上. ☆共通顧客D B ☆営業マン教育. ☆受発注V州 □事業部ではでき ・全社資源 (大規模な) ないことをやる 投資 注:本表は, 筆者との共同 プロ ジェクトにおいて, 主に三菱総合研究所志賀敏宏研究員によって作 成された‐. 6.
(8) . 日本企業の組織変革. 3. トッ プ・マネジメントと事業部の意思決定システム. 日本の企業組織の特質は, 「意思決定の二重構造」 とでも呼ぶべ きデュアル・システムを根幹とし ていることである. その 一つの柱は, 社長を頂点とし, 実質的最高経営機関という性格が強く なっ. た常務会と, 最高意思決定機関から社長ないしは常務会での実質的な意思決定を承認する機関へと 機能変化していった取締役会とで構成されるトップ・マネジメント組織である. このトッ プ・マネ ジメント組織の中で, 経営の重要案件につ いては意思決定がなされ, それはトッ プ・ダウンという. 形で組織の下部へ下されていくのである. 注3) もう一つの柱は, 現場の ポテンシャ ルの高い中間管理層, 柔軟性に富んだ職務規定, 非硬直的な 組織構造, 弾力的に運用された票議制度などが相 乗的に機能を発揮した ボトム・ア ップ (実際には ミ ドル‐ア ップ) の意思決定システムである. 日本の企業の意思決 定の特質は, この 「意思決定の 二重構造」 が, その時々 企業内・外の環境に応じて, 巧みに バランスを保ちつつ運用されてきた点 にあるといえる. 時として, 日本における意思決定は 「おみこし経営」 といわれ, 現場のミ ドルの活力が強調され, ともすればトッ プの役割の 影が薄かっ た. しかし, トッ プ・マネジメントの役割は決してアメリカ のトッ プ・マネジメントに劣るものではない. アメリカの企業組織のように, 精巧かつシステマチ ッ クなものではない が, 企業全体のレールを敷き, 急カーブを曲がり, その組織が最も力を発揮 す るような知識を駆使してきた. 日本の企業組織を動かすには, その中でしか使えないノウハウ・論 理があり, それを使ってこそ, フレクシビリティ に富んだ対応が可能なのである. 一方で, レールを敷いたり, 急カー ブをまがっ たり, トッ プ・ダウンの意思決定をしながらも, 他方で, 組織が最も力を発揮するよう, ミ ドル・ア ッ プの意思決定を活用する. こうした デュアル・ システムが日本の企業組織を動かし続けてきた. こう したデュ アル・システムと して日本の企業の意思決定 をとらえると, 意思決定プロ セスで問 題になるのは, トッ プマネジメントの発議と事業部提案事項の2つのタイ プの意思決定プロ セスで ある. 注4) トッ プ・マネジメントの発議 戦略的意思決定につ いては, 目標の明確化 (レールを敷くこと) と不連続な環境変化への対 応 (急カー ブを曲がること) の2つの 内容がある. このいずれにしても, 社長自身のアイ ディ アが. ①. 発議の中心になることが多い. こうした発議が, 常務会等の最高意思決定機関へ付議される.. 常務会に付議された案件は, 案件別に該当する会議体に諮問され, 随時開かれる会議体で実質 審議される. その上で常務会に答 申され, 社長が最終決定する.. ② 事業部提案事項 事業部提案事項は, トッ プ・マネジメント糸蕊織に付議されるか, 票議書が使用される. トッ プ・ マネジメント組織に付議される場合は, 担当役員 が常務会に付議する. 禦議は, 担当部署へ根回 しされたのち, 票議のプロセスで審議され, 案件によっ ては社長か担当役員 が決裁する. トッ プ・ マネジメント糸亜織に付議された場合は, トッ プ・マネジメントの発議と同様の経過をたどる.. いずれにしても, 実質的決定 (決裁) された案件は, 取締役会に付議される. 重要事項は, 多数 決か全会一致によって, 形式的決定がされ, 常務会決定への承認と, 企業全体への伝達がされる. ‐. 7.
(9) . 石 井. 耕. 非重要事項は報告されるにとどまる. こうした プロ セスをた どるのが, 日本の企業の一般的な意思決定プロセスである. こうした流れ は, いくつかの長所や短所をもつ. 長所としては, こうした プロセスのいずれかに参画することで, コンr センサス, モラールや衆知の結集力坤辱られやすい. 一方, トッ プ・マネジメントの発議もチェックを受けながら決定されるので, 全体の方向性も明 確になる. トッ プ・マネジメント組織 への付議の比重が高まり, 会議体を活用することによって, 票議制の, 社長が全ての事項に関わらなくてはならないという短所が取り除かれる. 一方, 短所としては, 相変わらず時間がかかる. 権限と責任があいまいである. しかし, 日本の 企業組織においてこれらは必ずしも致命的な弱点とはならず, そうしたことへの要求も低かった. 環境の変化に伴っ て, トッ プ・マネジメントの発議事項が増加 したのは重要な事実である. その 場合に必要とされるのは, 前述したように, 第一に目標の明確化であり, 第二に不連続な全社的環. 境変化への対応である. 目標の明確化について, トッ プ・マネジメントのイニシアティ ブが重要なことはいうまでもない. ここで重要なことは, 事業部提案事項との対比である. これまで進展してきた, 事業部提案事項に ついての分権化 が逆流しているという現象がある. すなわち, 日常の業務上の承認事項がトッ プ・ マネジメントまで上がっ てきす ぎ, その対応でトッ プ・マネジメントは忙殺されるということであ る. このことは, 実はトッ プ・マネジメントのレベ ルにおいて目標が明確化されていないことの裏 返しの現象といわざるをえない. そこで, トッ プ・マネジメントに最も望まれる能力が将来の洞察力・指導力なの である. トッ プ・ マネジメントは, 全社的立場における経営のガイ ドライ ン提示を行うのがその役割である. 具体的 には, 年頭所感や中長期経営計画の基本方針という形で, ガイ ドライ ンは出される. さらに, 重要 なことは, ミ ドルマネジメントの人事, 組織の編成替えによっ て, そのガイ ドライ ンの具体性が示 されることである. このようにして出された基本的な目標をふまえて, ミ ドルが具体的な事業部提 案事項として煮つめることに, デュ アル・システムの活力を生む大きな要因があることは今後も変 わりない. トッ プ・マネジメントの発議事項の第二は, 全社的な環境変化への不連続な対応である. これに は選択的なものと受動的なものがある. 選択的なも のは自ら求めて多角化や国際化を行っ た場合に 必要となる. そこで求められるトッ プ・マネジメントの能力は, 創造性, 進取性といっ た企業家精 神の発揮である. 決断した後に, 目標の明確化と同じく, 全社的立場における経営のガイ ドライン の提示 が必要である. 受動的なものとして, 原油価格の高騰や円高といっ た経済環境の大幅な変化 への対応である. 一方, ミ ドル・ア ッ プの意思決定 プロセスの長所は次の2点である. ①意思決定に関する 「実際の」 権限をかなり低い階層まで認め, ふさわしい地位が伴っていない 有能な人間に, その能力を発揮する機会を与える. ②意思決定のプロセスでミ ドルの参画意識を持たせ, 調整と意思疎通の機能を果たし, その結果 コンセンサスが得られ, 実施もスムースになる. この②の問題 が, デュ アル・システムの バランスの上では重要な問題になる. というのは, 事業 部提案事項の比重が非常に高いときは, こうしたコンセンサスは意思決定 プロセスで自然に得られ るが, トッ プ・マネジメントの発議が多くなると, そしてそれがヒエラルキーを通した指令である と, コンセンサスは得られなくなる. そこで, デュアル・システムの バランスは崩れる. 一方, 不 連続な環境変化は, トッ プ・マネジメントの発議を要求する. 8.
(10) . 日本企業の組織変革 日本の企業の 意思決定 プロセスが, いくつかの変更でこうした問題にあたるうとしているのはあ まりに大きな変化を 強制すると, コンセンサス力坤辱られなくなるか らである. これまで述べたよう に, 発議の段階では, 社長が 「これを検 討してくれ」 ということ が多くなっ たが, 審議-決定の プ ロセスでは, コンセンサスを重視した形をとり 続けている. それを可能にする意思決定 プロセスの 具体的変更例としては, 機能別に事業部間 を 「横通 し」 にすることが求 められているのに対応した, 問題対象の異なる多様な会議体の 設置である. ますます頻度の高まっ た, 不連続な環境変化に, こ のように して対応し, デュアル・システムのバランスを維持している.. 4. 日本企業における組織の編成替え. 日本の大企業の 経営において, 組織を変革するとは, 何を指すのか. 従業員 が, 企業経営の主体 である 「従業員 主権型企業] としての日本 企業では, 人間の集団である経営組織の 変革は, 企業活 動において重要 な意味を持つ. 組織を組織構造の 意味でとらえた 時, トッ プマネジメントは, 非常にしばしば組織の編成替えを 行う. これは, トッ プにとっ て, 裁量権からみても, 最も行 い易いとともに, 組織の編成替えに, 次の経営戦略の意図の表現をしうる からである. 従業員特にミ ドルマネジメント以上のホワイ トカ ラーは, 組織の編成替えに込められた意味を解 釈することを試み, 自らの行動規範あるいは思考の 枠組みを補正していく. 組織変革は, 組織構造の編成替えの連続あるいは非連続の積み重ねであり, 一回一回の編成替え だけをとらえて も, その意味を 汲み取ることは難しい. 多くの企業では, 半期決算に対応した 組織 の編成替え が行われているが, その理由が直前の半期の決算に基づいている, あるいは次の半期の 戦略のために行われるとは限らない. 2年前の責 任をとらされることもあれば, 5年先のことをに らんで行われる こともある. 社長の交代や, 経営戦略の 大幅な変更があっ た時には, 非連続な組織 の編成替え が行われる時もある. 組織変革が, 企業の経営成果に結びつくとも限らない. 単なるトッ プの思いつきで組織の編成替 えが行われるこ ともあるし, 人事のやりくりのために組織の編成替えが行われる 時もある. 十分に 企画・人事スタ ッフによっ て考えぬかれた糸蕊織の編成替えであっ ても, 環境の大きな変化にあっ て あえなく 潰えさっ てしまうときも ある. 事業創造を成功させることや経営革新を実らせることは, 組織の編成替えだけでは行えない.. 5 組織変革の具体例 日本企業において, 経営成果に結びつく組織変革がどのよう に行なわれるかを検討するために具 体例を2例提示する. 以下の具体例は, 実際の 企業の事例だが, その企業での特殊解として説明を するのが目的ではないため, 抽象的な例示とする. 注5) ( 1 ) A社の例 A社は従業員1万人を超える大メーカ ーであり, 多角化によっ て, 複数の事業本部 からなる組織 構造を持っ ている. 成熟した事業分野から成長が見込まれる事 業分野への資源の再配分 を継続的に.
(11) . 石 井. 耕. おこなっ ており, Bプロジェ クトやCプロジェ クトという名前 で社内外に認知されている 特に重 . 要な組織の編成替えが1 87年に行わ れた.Bプロジェ クトやC プロジェ クトの成功は 87年の組織 9 , 構造の編成替えを抜きにしては語れない. それは 成熟分野の有力事業本部 (代々の社長もこの事 , 業本部の出身である) を分割して, 成長分野の事業本部 にその一部を統合したのである . この組織変革のプロセスは, その1 0年前の7 6年に始まっ ている. A社の企画スタッフが, 新社 長のもとで充実されたのである. この時に総務部から人事異動となっ たD氏と元から企画部にいた E氏は, その後次のような 人事異動の道をたどったのである . D氏. E氏. 80年. 企画部長. 成熟事業本部事業部長. 84年. 成長事業本部F事業部長. 取締役企画部長. 8 6年 取締役成長事業本部G事業部長 常務成長事業本部F事業部長 91年. 有力子会社社長. 専務. 同じ企業の中 でも, 組織文化の大きく異なる事業本部の分割・統合という組織変革 を成し遂げる には, これだけの長期間のプロセスが必要だっ たのである . ( 2 ) X社の例 X社は, 中堅の部品・材料メーカーであり, 多くの技術志向の新製品を開発している 77年まで .. は, 営業・生産・技術開発の機能別組織であった. この機能別組織を市場志向の事業部制組織に編 成替えを行い, 新製品開発のスピー ドアッ プを図るのに X社は89年ま での12年間を要し 3 , , 段階のステッ プで行っ た. 第一段階は, 課長レベルの生販技の代表からなる製品分野ごとの会議体の創設である これは . , 情報共有にきわめて大きな役割をはたしたが, 意思決定権限を持たなかったため 限界があっ た , . 第二段階は, 84年に, 各製品分野別 の プロダクトマネージャーを置いた 部長レベ ルの採算責任 . を持てる人を任命し, 投資配分に関する権限も持たせた ただ 直属 の部下がおらず 組織を動か , . , せなかっ た. 第三段階は, 89年の本格的な事業部制 の実施である プロ ダクトマネー ジャ ーのうち 多くの人 . , が, 事業部長に就任した. 長期間の組織変革 の プロセスによっ て, 事業部長クラスの人材が養成され 社内に 「事業部制 し , かない」 という共通認識が醸成 されたのは確か である 機能別組織を 製品分野ごとに事業展開し . , うる事業部制 へと変える組織変革は, このようにして実現した .. 6 組織変革の仕組み 以上の具体例のよう に, 日本企業の組織変革には, 変革する側にも 変革される側にも 中心的 , , 役割を果たす人々がいる. ここで重要なのは, その人々が優秀だから 組織変革 が経営革新として , 実っ た, あるいは経営成果が高まっ たという伝記的解釈ではなく その人々を活用する仕組みであ , る. こうした仕組みは, 日本の従業員主権型の大企業では, 一般に存在すると考えられる . こう した人々を実権リーダーと呼ぶと,実権リー ダーを活用する仕組みは次のように考えられる . ライン (X社) にしてもスタッフ (A社) にしても, 課長クラスのミ ドルマネジメントの時に そ , 10.
(12) . 日本企業の組織変革 の人々は, 重要な役割が与え られはじめる. それまでの 「おそい昇進方 式」 の中で培っ た人事評価 の査定における高評価 が, その起用に大きな役割を果たして いることは間違いない. それまでの業 務専門家としてのキャリア パスをふまえて, その時々の経営課題 に対応すべく, プロ ジェ クトリー ダー・中枢スタッフとして, ゼネラリス トとしての役割を果た しはじめる. ミ ドルアッ プの意思決 定 プロセスにおいて, 能力を発揮する機会が与えられるのである. 注6) 実権リー ダーは, 経営課題の解決にどの程度貢献したかを評価されつつ, 昇格と人事異動を伴い ながら, 多くの役割を果たしていく. トッ プマネジメントの大きな方向性の提起のもと, 具体的な 戦略立案と実行を担っ ていくのである. A社の具体例では, 成長分野への資源配分 という大きな方 「 向性のもとで, D氏とE氏は, 企画スタッフと事業部長の職責をはたしな がら, 組織変革の 地均 プ し」 を行っ ていくのである. X社の具体例では, 製品分野ごとの事 業展開という トッ の方向性の もと, 77年に生販 技の会議体に参加 したメンバー は, その後 プロ ダクトマネージャー・事業部長の 職責を担いながら, 組織変革の 「地均し」 を行っていくのである. 実権リー ダーは, 戦略立案と実行の両方の役割を順次果た すということも大きな 特徴である. 本 社機能のスタッフとしての役割と事業部の管理職と しての役割の両方を順次果たすのである. A社 0年間の方向性は書き 6年から80年までの間に企画スタッフとして, その後1 の具体例でいえば, 7 終えていたのであろう. 80年以降その戦略計画に従っ て, 自ら実行する側にまわっ たのである. 製 品開発の成功 プロセスにお いて, 開発者が事業部に移り, 製品化を担い, 事業部長になっ ていくと い う キ ャ リ ア パ ス を と る こ と が 多 い と い う の も 同 じ パ タ ー ン であ る.. 長期間の組織 変革の プロセスは, 実権リーダーを速い速度で昇格させていくプロセスでも ある. 5年後 A社の具体例では,76年の企画スタッフの充実の段 階では,部長でもなかっ たD氏やE氏が1 にトッ プマネジメントとなっ ている. 実権リー ダーは, 経営課題の解決にどの程度貢献したかを評 価されつつ, 昇格と人事異動をともないながら, 多くの役割を果た している. 課長クラスまでは, 「おそい昇進方 式」 で表面上は格差がほとんどつかない日本企業の人事制度も, それ以降は昇格格 差が急速についていく. 少数の実権リー ダー達による激しい競争に変っていくのである. そのうちに, 実権リー ダーが起用される組織の編成替えは, 経営戦略の 重要な表現であることが, 企業の内部では認知されてくる. 当然のことではあるが, 組織の編成替えには, 人事を伴うのであ る. 特に一部の課長クラスを含めた上級ミ ドルマネジメントすなわち実権リー ダーの人事は, 組織 変革の重要 な手段となる. トッ プマネジメントの最重要な意思決定は, 経営戦略の立案では なく, 人事と なるのである. 実権リー ダーを競わせ, 登用 し, 育成していくのが, トップの役割である.. 実権リーダー達は, 激しい競争を続け, 内部昇進型の企業では, 強力かつ全社的視点を持つ実権リ. ーダーは, 成功の積み重ねによっ て, 次期のトッ プマネジメントを担うこととなる. A社の例では, D氏は有力子会社の社長となり, E氏は本社専務となっ た.. 7 経営成果の格差 実権リー ダーの仕組みによる 組織変革は, 多くの日本の大企業で一般に行われている. それでは, ある企業では, 組織変革が経営成果を高めるのに, ある企業では経営成果に結びつかないのは何故 だろうか. 経営環境など他の条件が大きく変化しないとき, 組織変革の プロセスに経営格差を生む要因が内 在している. その最大の要因は, トッ プマネジメントのチェ ンジメカニ ズムである. 実権リー ダー 11.
(13) . 石. 井. 耕. の仕組みで組織変革が行えるという ことは, ミ ドルマネジメントの中での競争があり, 最後に一人 が社長になるということがお互い に明確であるからである. トッ プマネジメントもかつての実権リ ーダーであり, 次の実権リー ダーにその席を譲ることが義務づけられている ところが トッ プが . , 永続政権化を図る, オーナーでもないのに子息を役員に登用する, 親会社や銀行がトッ プの専有化 を図る, ある事業部がトッ プの専有化を図るなどのことがおこると, 競争のメカニズムは働かなく なる. トッ プマネジメントのチェ ンジメカニズムがないと, 実権リー ダーは育たない モチベー シ . ョ ンがないのである. その企業の経営成果は高まらない.. 8. 実権リーダーの仕組 みによる組織変革の今後. 日本の大企業は, これまでこうした実権リーダーの仕組みで, 企業内の組織間競争と個 人間競争 のメカニ ズムを維持し, ミ ドルマネジメントのインセンティ ブを活用し, 組織変革を進めてきた .. 他社よりも優れた組織変革を連続的に行い得た企業は, 企業間競争に勝ち, 高い経営成果を挙げ得 た. また, 国際競争においては, 特に機械・加工組立型産業を中心に外国企業のシェアを奪っ てい っ た.. しかし, こうした実権リーダーの仕組みは今後とも有効に働くのであろうか ′実権リーダーの仕 . 組みが働くいく つかの前提条件が崩れはじめている 特に当面の最大の問題が 団塊の世代が 部 . , , 長クラスの年齢に達してきたということである. 経営組織が, 縦長であろうとフラ ッ トであるうと, ピラミ ッ ド組織である以上 取締役・部長の , 職位は限定される. そこで, 従来から日本企業の人事制度は, 職能資格制度を導入 し その一つの , 機能として, 職位と資格の分離を図っ てきた. 職位につかなくとも専門職として資格相当の処遇を するのである. これまでは, この機能は有効に働いていたと評価できるが 団塊の世代が部長クラ , スに到達したことで, 機能不全を起こし始めた. 一つは職位を増やすことを目的に, 組織を細分化 しはじめたのである. その結果, 組織内の情報効率は急速に低下 している 実権リーダーといえど . も裁量の幅があまり にも狭ければ, 有効な活動はおこないえない もう一つは 大量に発生してい . , る専門職を処遇しきれなくなってきたことである. これまでは, 「おそい昇進方 式」において 、競争 , に参加してきた従業員には, 例外なく相応の処遇を定年までするというのが 人事制度の基本であ , っ たが, 人件費原資からみて困難 になっ てきたのである. 日本の大企業が, 「働きすぎ」 「会社本位主義」 の批判に応え 世界に通用する企業行動の原理を , 確立することを望むのであれば, 実権リー ダーの仕組み自体を再検討 する必要がある . 本稿は, 前職 (三菱総合研究所) における, 多くの企業の方々や同僚との議論をふまえて作成さ れた. 記して感謝したい. もちろん, ありうべき誤りは筆者 に帰属する .. 注1:事業創造については, 吹田尚一 『事業創造の経営』 ( 19 86年, 日本経済新聞社) 参照. 注2:日本的経営についての筆者の見解は, 石井 耕「日本的経営の再点検」『北海道教育大学紀要』第44巻第1号 ( 1 9 9 3年) 参照. 注3:日本企業の最高意思決定については, 石井 耕「日本企業の経営構造とコーポレート・ガバナンス」 『人文論究』 第56号 (函館人文学会, 1 9 93年) 参照‐ 注4:意思決定システムの実証研究については, 石井 耕他 『日本におけるトップマネジメントの意思決定メカニズ 12.
(14) . 日本企業の組織変革 8年) 参照‐ 97 ム』 (通産省報告書, 1 ) との共同研究によっている. 体例については 注5:この具 , 辻淳二氏 (辻システム計画事務所社長 993年) 参照. 注6:実権リーダーについては, 石井 耕 「実権リー ダー仮説」 (組織学会研究発表大会報告, 1. 参考文献一覧 E ECONOMY, INING IN THE JAPAN康S ES INCENTIV1 UMATION, INFOR 青木 昌彦, 1988. ,AND BARGA i ty P i dge Uni Cambr rs r ve e繁.(永易浩一訳 「日本経済の制度分析一情報‐インセンティ ブ・交渉ゲー 2 9 9 卸塵書房, 1 ム」 筑 .) 「 会 8 9 9 今井 賢一‐小宮隆太郎編, 1 . 日本の企業」 東京大学出版 「 変わらぬ原理」 筑摩書房 企業‐変わる経営 人本主義 9 87 伊丹 敬之, 1 ‐ 「 社 9 91 小池 和男, 1 ‐ 仕事の経済学」 東洋経済新報. 13.
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