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教育愛についての心理学的検討 : 教員養成課程学生のPACの分析を通して

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Academic year: 2021

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(1)Title. 教育愛についての心理学的検討 : 教員養成課程学生のPACの分析を通し て. Author(s). 乾, 真希子; 伊田, 勝憲. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第42号: 71-81. Issue Date. 2010-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2360. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第42号(平成22年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.42(2010):71-81. 教育愛についての心理学的検討 ―教員養成課程学生のPACの分析を通して― 乾 真希子1・伊 田 勝 憲2 1 2. 釧路町立富原中学校. 北海道教育大学釧路校教育心理学研究室. A Psychological Study of Educational Love:. From the PAC Analysis for Students of Teacher Training Course Makiko INUI1, Katsunori IDA2 1 2. Tomihara Junior High School, Kushiro Town. Department of Education Psychology, Kushiro Campus, Hokkaido University of Education. 要 旨 これまで教育学の領域において取り上げられていた「教育愛」の概念について,個人別態度構造分析(PAC分析)を 用い, 心理学的な観点と手法によりアプローチした。本研究では,相当の経験と熟達によって生じると思われる教育愛が, 教師になる前の段階でどのように形成されているのかについて探索的に検討するため,教員養成課程に学んでいる学生と 大学院生(計4名)に調査を行った。その結果,教育愛に対する態度の構造は調査対象者によって異なるが,共通点とし て,過去の経験をもとに教育愛のイメージ化を図っていることが特徴づけられた。過去の経験には2種類あり,一つは親 子関係であり,もう一つはこれまでに接した教師との関係であった。それをもとに,実践場面への応用や教師と生徒の立 場に言及した回答が見られた。今後の課題として,教育愛の形成過程を発達的な観点から検討するために,横断的研究お よび縦断的研究を行うことが挙げられた。. 問題と目的. を勝ち得ていなければならないという条件がつくだろう。. 教育哲学者の岡田(2002)によると,教育愛とは,教え. 自我が発達しつつある青年期ならではの反抗心や懐疑心を. る者と教えられる者の二者関係において生じ,子どもの成. 受けとめつつ,信頼に足る教師であるという承認を得る過. 長,発展をわが喜びとすることである。岡田は, 「愛と権. 程を経て,二者間に新しい関係が生まれると思われる。こ. 威」を体現する教師のかかわりを4つの類型にまとめてい. のような学校という場で,新しい関係を築き維持していく. る。横軸の左右に「安定調和的関係」 「対立葛藤的関係」,. のは言うまでもなく教師側のリーダーシップであろう。. 縦軸の上下に「縦のかかわり」 「横のかかわり」を配置し,. 社会心理学者の三隅(1966)は,集団機能という視点よ. 対立葛藤的関係で縦のかかわりを示す第一象限を「権力的. りリーダーシップの類型化を行い,課題解決ないしは目標. かかわり」 ,安定調和的関係で縦のかかわりを示す第二象. 達成に関する機能(Performance function, P機能)と,. 限を「権威的かかわり」 ,安定調和的関係かつ横のかかわ. 集団の存続や維持に関する機能(Maintenance function,. りをもつ第三象限を「受動的呼応的かかわり」 ,そして対. M機能)に着目し,PM理論としてまとめている。縦軸に. 立葛藤的関係かつ横のかかわりをもつ第四象限を「認知葛. 集団維持機能(M機能) ,横軸に目標達成機能(P機能). 藤的かかわり」と名づけている。この4つの類型に優劣は. をとり,リーダーがこれらの二つの機能をどの程度果たし. つけられておらず,実践の場では,ひとりの教師が子ども. ているかを部下に評定させ,その平均値に基づいてリー. の年齢や到達度・状況に応じて,この4つのかかわりを柔. ダーシップ を4つの類型に分類したものである。三隅に. 軟にこなしている可能性があると述べている。. よれば,最も優れたリーダーシップの類型は,P機能とM. したがって, 教育愛は, ただ子どもを愛するのみならず,. 機能の両方が高いPM型であると述べている。先の岡田. 時には鍛えなければならない側面があり,愛情に溺れるこ. (2002)における教育愛の概念を教師のリーダーシップと. とのない規範性に合致した道徳的なものでなければならな. いう視点からとらえ直すならば,岡田が優劣をつけなかっ. いと言える。そして,対象となっている子どもからの信頼. た4つのかかわりを柔軟に使いこなしているのがPM型と. - 71 -.

(3) 乾 真希子・伊 田 勝 憲 言えるのかもしれない。例えば, M機能が横のかかわり(特. ていますか?また,どのような場面で『教育愛』を感じま. に受動的呼応的かかわり)に相当し,それを土台として教. すか?頭に浮かんできたイメージ・言葉・行動を,思い. 科指導等の専門性を生かしてP機能を含む権威的かかわり. 浮かんだ順に番号をつけてカードに記入してください。な. が可能になり,そこからともに学ぶ者として並びあう認知. お,教育愛とは,『子どもを厳しい側面を伴いつつ愛し,. 葛藤的かかわりに至るような教育愛は,PM型のリーダー. その成長・発展を助けることをもってわが喜びとすること. シップなしに示すことは難しいだろう。P機能だけであれ. (岡田,2002)』と暫定的に定義する。」. ば,いわゆる専制的なリーダーシップになり,教育愛類型. 教示の後,調査対象者の前に白紙のカード(9センチ×. の権力的かかわりのみに陥る危険性があり,一方でM機能. 13センチ)30枚を置き,頭に何も思い浮かばなくなるまで. のみであればカウンセリング・マインド的な受容的かかわ. 自由連想してもらい,記入を求めた。30枚以上連想できる. りは可能であっても,いわゆる「なれあい」型の学級集団. 場合には,10枚ずつカードを増やし思い浮かばなくなるま. になりかねず,指導力を発揮することは困難であると思わ. で連想を続けさせた。この後,言葉の意味やイメージが肯. れる。. 定的であるか否定的であるかにかかわらず,調査者にとっ. 民主的なリーダーシップ類型とも言えるPM型での実践. て重要であると感じられる順にカードを並べるように指示. ・ ・ に至るには,省察的実践(Scho n,1983)を通して,紆余. し,想起順位と重要順位の一覧表を作成した。日を改め. 曲折を経ながらの相当な熟練を要するように思われる。一. て,項目間の類似度距離行列を作成するために,ランダム. 方で,教員養成課程としての使命には,実践経験の少ない. にカードのすべての対を選びながら以下の教示と7段階の. 学生にこうしたリーダーシップの力量や教育愛の基礎を培. 評定尺度に基づいて類似度を評定させた。. うことが含まれているように思われる。中央教育審議会. 教示と評定尺度. (2006)の「今後の教員養成・免許制度の在り方について. 教示は,下記の「教示と評定尺度」が印刷された用紙を. (答申) 」 においても, 教職実践演習の新設・必修化にあたっ. 調査対象者に提示し,「 」の部分を口頭で読み上げた。. て,教員として求められる事項の1つめに「使命感や責任. 「あなたが教育愛に関連するものとして挙げたイメー. 感,教育的愛情等に関する事項」が挙げられている。. ジ・言葉・行動の組み合わせが,言葉の意味ではなく,直. そこで本研究では,教員養成課程に在籍している大学生. 感的イメージの上で,どの程度似ているかを判断し,その. に調査を試み,教職を志している学生が「教育愛」をどの. 近さの程度を下記の尺度の該当する記号で答えてくださ. ようにとらえているのかについて探索的に検討したい。分. い。 」. 析にあたっては,内藤(2002)による個人別態度構造分析. 非常に近い・・・・・・・・・・・A. (Personal Aptitude Construct Analysis; 以下,PAC. かなり近い・・・・・・・・・・・B. 分析)を用いる。このアプローチには,ある刺激語に対す. いくぶんか近い・・・・・・・C. る反応を自由回答(連想)により引き出し, その質的なデー. どちらともいえない・・・D. タ(連想語)相互の主観的な距離を尋ねることにより,対. いくぶんか遠い・・・・・・・E. 象者一人ひとりについて,クラスター分析という統計的手. かなり遠い・・・・・・・・・・・F. 法による結果の図式化が可能であるという特徴がある。本. 非常に遠い・・・・・・・・・・・G. 研究で取り上げる「教育愛」という抽象的な概念について の認識をとらえるのに最も適した方法の1つであると言え. クラスター分析及び調査対象者による解釈の方法. よう。. 上記の類似度評定により,同じ項目の組み合わせは0,. . Aは1,Bは2,Cは3というように,0から7点までの 得点を与えることで作成された類似度評定距離行列に基づ. 方法 調査対象者. き,調査対象者別にウォード法によるクラスター分析を. 教員養成系の教育学部および大学院教育学研究科に通う. 行った。また,出力されたデンドログラムの余白部分に連. 学生4名を対象とした。内訳は学部1年生1名(女子) ,. 想項目の内容を記入し,これをコピーして1部は調査対象. 学部3年生2名(いずれも男子) ,そして大学院修士課程. 者が,もう1部は実験者が見ながら,以下の手順で調査対. 1年生1名(男子)である。. 象者の解釈や新たに生じたイメージについて質問した。. 調査時期. まず,実験者がまとまりをもつクラスターとして解釈で. 2009年1月~2月。. きそうな群ごとに各項目を上から読み上げ,項目群全体に. 手続き. 共通するイメージやそれぞれの項目が併合された理由とし. 調査は,個別に大学の研究室で行われた。内藤(2002). て考えられるもの,群全体が意味する内容の解釈について. に倣い,以下のように行った。まず,連想刺激として,以. 質問した。これを繰り返してすべての群が終了した後,第. 下のように印刷された文章を提示するとともに,口頭で読. 1群と第2群,第2群と第3群,第1群と第3群というよ. み上げて教示した。. うに,クラスター間を比較させてイメージや解釈の相違を. 「あなたは『教育愛』についてどのようなイメージを持っ. 報告させた。この後さらに,全体についてのイメージや解. - 72 -.

(4) 教育愛についての心理学的検討 釈について質問した。続いて,実験者として解釈しにくい 個々の項目を取り上げて,個別のイメージや併合された理 由について補足的に質問した。最後に,各連想項目単独で のイメージがプラス,マイナス,どちらともいえない(0) のいずれに該当するかを回答させた。 結果と考察 各調査対象者の連想項目およびクラスターの分析の結果 はFigure 1 ~ Figure 4のようになった。4名の調査対象 者の連想項目数は11から45であった。内容に関しては,個 人の経験から連想したもの,抽象的なイメージでとらえた ものといった形で個人差がみられた。調査対象者が大学生 や大学院生としてまだ教育を受ける立場にあるために,被 教育者側の視点を持ちつつ検討した項目が多くみられた。 そこで,はじめに各調査対象者の反応や構造を個別に検討 し,その上で各回答の共通点と相違点を比較し,教員養成 課程の学生における教育愛の解釈の構造について考察を進 めることにしたい。 (1)調査対象者Aの事例(Figure 1) 調査対象者Aは,大学3年生男子で,教職に非常に強い 関心を持っており,将来は小学校の教員になることを目指 している。これまでも家庭教師や学習支援のボランティア を経験している。連想項目は,過去の経験を基にした回答 が多く見られる。また,漫画の題名のように具体的な事物 に結び付けて検討している部分も見られる。また,4「信 頼関係が必要だよな」に見られるように,自問自答しなが ら内省したと思われる回答もある。 以下に調査対象者自身による構造の解釈(イタリック部 分)を取り上げ,その後で総合的に解釈する。 調査対象者Aによるクラスターの解釈 クラスター1は, 「H先生」から「体罰という側面を持っ ていることから,現代では消極的になっているかと思う」 までの5項目:教育愛を実践に生かそうとするのに,実際 に出てくる課題とか,現代の教育の理想と相反している点 が社会にどう受け入れられるのだろうか,と。そういう意 味では,H先生は成功者だと思います。体罰はなかったけ ど,ダメなものはダメで,おまけはなかったです。やれば できると励まされてできたのは,うれしい思い出。他の生 徒も厳しいと言っていました。でも,すごさの裏づけがあっ て信頼できる先生でした。嫌ってる人もそれは認めてい た。自分が教師になったとき,近づきたい面もあります。 補足質問:現代の教育の理想とは,体罰の禁止,痛みを伴 う方向には進まないこと,と考えています。 クラスター2は「『教育愛』って厳しい側面が必要なの か」から「実習先の子には,かなり厳しく当たったが,成 長したかどうかは気にならず落ち込まないかの方が心配に なった」の5項目:厳しさというと体罰のイメージが出て きます。でもそれは現代では禁止されていますよね。厳し さを伴うには裏づけが必要。教育愛をうたうには,相手の 成長を思って,やることが裏目に出ないという自信があっ. てのもの。うーん,教育者の自信……。 クラスター3は「信頼関係が必要だよな」から「信頼関 係っていうより,支配関係か?支配関係でも成立するよ な」の3項目:厳しさをもってするとは相手に何らかの服 従を求めていると思います。服従や許容が必要かな……(許 容ではなく)受容と言えばよかったのかな。信頼関係は, 被教育者中心の視点になっていると思うんですよね。それ を中心に教育愛を成立させるなら信頼関係かな,と。教育 者中心の視点だと支配関係かな,と。教育愛の成果が出る 場面だと互いに信頼関係が出来ているかな。補足質問:教 育愛の成果とは,これまで培ってきたものを世間に形とし てだすことです。 クラスター4は「厳しい側面って体罰ばかりではない か。叱責も含まれたりするだろう」から「 『厳しい側面を 伴う』とは,どういうことか。達成する課題が高度なこと が子どもの未熟さを厳しい態度で接することか」までの8 項目:やっぱり教育者と被教育者とはすれ違いが起こるの では?厳しい側面を見せるのは嫌いなものとか辛いものに むける態度だと思うから。好きなものに怒ったりしないで すから。定義の「愛」が自分の中ではっきりしていないか らだと思うんですけど。定義の中で厳しい側面ってあるか らそれをもたなきゃいけないの?と。別に持たなくても教 師は出来るだろうし。定義の中に「わが喜び」ってあるけ ど,その子が喜んでいるのとは別の話だな,と。成長は親 や教育者の中の定義だと思うから,なにを成長とみなすか は親や教育者次第。……ここまで批判的に言っといてなん ですけど,やっぱり必要なことなんだなとも思いますね。 (表情を崩しながら)嫌なことは嫌な態度を示さないとい けないと思うんですよねー。例えば,子どもが泥棒したと き,親がにこにこしたらこの程度なんだとまたやっちゃう と思う。(顔をしかめて考え込み)やっぱ,厳しい態度を とるのは難しい……相手にぶつける根拠が必要だと思いま すねー。 以上の調査対象者の解釈で注目されるのは,教育愛の定 義の中でも,特に厳しさについて着目し思案や検討してい る点である。 「厳しさ」を体罰などの表面的なものととら えて否定している反面,厳しさを発揮する際の「裏づけ」 あるいは「根拠」の重要性に言及している点もあり,多角 的に検討しようとしている傾向が見られる。 調査対象者Aについての総合的解釈 まず,各クラスターの内容について吟味した後で,それ らの関係や全体的特徴について考察する。 クラスター1:クラスター1は,過去に教わった恩師の 名前から始まっている。この項目のイメージは+になって おり,想起順,重要順ともに1番になっている。この恩師 は,調査対象者にとって,教育愛そのものか,または教育 愛を持つ教師を具現化した人物であると考えられる。ま た,クラスター1に属する他の項目についても,プラスま たは0であるという評価をしていることから,<教育愛の 実践>について調査対象者の率直な感想を述べているまと. - 73 -.

(5) 乾 真希子・伊 田 勝 憲. Figure 1 調査対象者Aのデンドログラム まりだと思われる。. が,やはりこのまとまりも,定義の中の「厳しい側面」. クラスター2:漫画や体験といった具体例を通して「教. について取り上げている傾向が見られる。クラスター2と. 育愛って厳しい側面が必要なのか」と自問している様子が. 比べ,より批判的に定義そのものをとらえているのがわか. 見られる。厳しさのなかに体罰のイメージを見ており, 「愛. る。一旦は,「厳しい側面」の必要性を認めつつも,この. のムチ」にマイナスの評価をしているこのクラスターは<. まとまりを調査対象者自身は<教育愛への懐疑>であると. 教育愛のイメージと課題>であるといえよう。. まとめたが,これは自問しつつも,教育愛に内包される厳. クラスター3:このクラスターは, 調査対象者自身が「信. しさに嫌悪感を抱いた結果であろう。ここでは,家庭や親. 頼関係」をキーワードにし,クラスター4と分けた3つの. 子関係を思わせる項目が見られることが,他のクラスター. 項目で構成されている。補足質問において,信頼関係とは. にはない点である。. 教育愛を成立させるものとしてとらえているこのまとまり. 全体として:この調査対象者のクラスター構造は,常に. は,<教育者と被教育者の間に必要な要素>のクラスター. 「厳しい側面」を軸に層を成していることがわかる。厳し. であると考えられる。ここでは,定義の言葉そのものでは. さについて,教育現場での経験から始まり,自分の理解し. なく,教師と生徒の関係性を検討している点が,他のクラ. やすいものに置き換えてイメージを作り,検討している。. スターと異なる点である。. クラスター1の表層的な思考が,クラスター4に向かうに. クラスター4:マイナスの評価をしている項目が多い。. つれて調査対象者の深層を描き出すものになっていると思. また,想起順にかかわらず,長文や自問している文が多く. われる。クラスター4においては,調査対象者の厳しさ観. 見られるクラスターである。クラスター2でも見られる. に影響を与えた経験と思われる父親との関係や家庭のしつ. - 74 -.

(6) 教育愛についての心理学的検討 けに触れた項目がみられる。それがトラウマとなり,厳し さについての一面的なとらえ方を生んだものと考えられ る。 (2)調査対象者Bの事例(Figure 2) 調査対象者Bは,大学3年生男子で,他の仕事も考えて いるが,一番なりたいのは教師だという。学校での教育実 習以外に,例えば学習塾などで児童や生徒に教えた経験は ない。逡巡する様子はなく,比較的短時間で一気に書き終 え,少し考えたあと迷いなくペンを置いた。その後のイン タビューでは,一つひとつの項目について時間を取りなが ら説明を加えた。項目の中にマイナスのイメージのものは なかった。視点を教師側に置き,肯定的に「教育愛」の言 葉そのものをとらえた結果であると思われる。. Figure 2 調査対象者Bのデンドログラム 調査対象者Bによるクラスターの解釈 クラスター1は, 「教師と子どもの信頼関係」から「子 どもも,教師の教育愛を感じとれる」までの3項目:この. クラスターは,教育愛の「愛」の部分について強く説明し ている感じです。信頼関係があるから,子どもに「時にや さしく時に厳しく」が感じられる。信頼があるから,偽り の愛ではない。愛といっても教育的なものが強いなぁと, 教育に限定した愛ではあるなぁと,親子とか異性間にはな い愛だなぁと,思います。あとは,まぁ……教育愛……逆 に信頼関係がなければ成立しない。子どもが恨みに思った り愛を感じとれない,そういうこともおこるんではない か,と思います。補足質問:何をもって愛なのかというと, 信頼関係がすべての元だと考えています。 クラスター2は, 「ほめる」から「教師から子どもに向 けられるもの」の3項目:教師と子どもの関係,特に教師 と子どもの上下関係を表したグループだな,と思います。 ほめる,しかるは教師が子どもに行う教育的な方法,指導 だな,と思います。このグループから教育愛とはどういう ものか具体的に表してる。ほめる,しかるは教師の温かい. 面,厳しい面,両方を表してるんじゃないか,と思います。 子どもが未熟なものと前提でとらえていて,教師が自ら伸 ばす,いうイメージ。教師から子どもに向けられるもの, 行動だけではなくて影響も与えてしまうのかと思います。 クラスター3は「親が子に対する愛とは質が違う」から 「しつけ」までの3項目:1(クラスター1)と似ている ような性質を持っていると思いますが,教育愛が他の愛あ るものとは違うものなんだというのを説明しているグルー プだと思います。えー,それでー,……それも教育愛の中 身をイメージしやすい。上下関係で行われるもの,親子と 違うというか,教師は動かない位置にいて上から厳しさも 厭わないしつけ……無理やり直させるイメージが……普通 の愛とは違って,教育愛らしさを感じます。補足質問:教 師の動かない位置とは,線引き(という言葉)に似ている。 親子は持ちつ持たれつだけど,教師も子どもに助けられる ことはあっても基本的に上下関係。助けたり助けられたり という関係でないところから,権威的なもの,権力的なも のがないと教育愛の実行は難しい。親子とも構造上は近い けど,(親からの)しつけとは違うと思います。教育愛の ほうが厳しさはあるような。 クラスター4は,「なれ合いにならない愛」「無償の愛」 の2項目:教育を離れて広く愛についてまとまっているグ ループです。もしかしたら,何かの関係にとらわれずに存 在しうる愛の考えなのかな,と。まあ,無償の愛が命をもっ てしても,というのなら,親子だけじゃなくその人自身の 考え方で実践されうるものだと思います。で,なれ合いに ならない愛というイメージはなれ合いになった時点でその 関係は破綻しているような気がしますね。2つは逆ってほ どでもないけど,愛というものについて常に配慮という か取り繕いがあるように感じられる。無償の愛のはずが, 配慮しないとなれ合いになる,というか,愛そのものを肯 定していない,手立てがあって成り立つ……あ,そういえ ば,矛盾しているのかもしれないですね。どちらがいいの か,今,自分はわからない状態です。冒頭にも言いました が,教育的なものは感じられません。あと,なれ合いにな らない愛は冷たいというか距離がある気がします。なれ合 いにならない愛と教育と友情は密接につながっていて,特 に上下関係をともなうものには必要なものです。例えば, 子どもへの愛を持っているが,なれ合うと十分な教育活動 がおきなくて,身動きが取れなくなる……教育は目的が必 ずあって,それを果たすのに障害になります。友情につい てもなれ合いになると破綻します。恋人や夫婦は依存関係 になりやすいけど,依存しすぎると離反することになりま す。そういう意味でも馴れ合いにならないのは重要。 以上が調査対象者の解釈であるが,教師と生徒の関係を 上下関係でとらえているのが特徴的である。さらに,教え 導くという教師の役割意識が明確である。そのときに介在 する愛について,親子間に見られる情愛と比べつつ検討し ているように見られる。ここに実験者の解釈を加えつつ考 察したい。. - 75 -.

(7) 乾 真希子・伊 田 勝 憲 調査対象者Bについての総合的解釈. ては保護者とも向き合う」の10項目:うーん,なんという. クラスター1:教育の場における教師と児童・生徒の二. か,気の持ちようというか,心がけというか……(額に手 をやり考えながら)。誰のかっていうと,教師側の,なん ですけど,ぱっと見て何でこれがここにあるんだろうって いう項目があるんですよね。具体的に指導するというか, 指導場面……。1と2と11は,普段,自分が心がけようと しているというか,対人関係の留意点というところです ね。(「1 見た目で判断しない」「2 ある一面でのみ人 を判断しない」「11 先入観を持たない」)具体的な場面で 言うとー……中学時代の先生のイメージです。1,2年は 怖いっていうか近寄りがたかったけど,3年になってか かわりが深まって怖さがとれた。先入観がとれたのかな。 厳しさが後になってからわかるという感じです。その先生 は,パワフルで,教師!って感じで,自分が教師を目指し たきっかけです。部活の顧問で,音楽の先生で, (自分の) モデルですね。……(沈黙)……だから, (クラスター1は) 自分はこうでありたい,それは教師でもいいし日頃の行動 でも,というまとまりですね。 クラスター2: 「見下さない」から「理想を追う」まで の7項目:なんていうか,教科指導に当てはまらない感じ ですが……理想って感じですね。こうだったらいいという か。空回りというか,不完全燃焼というか,信念を曲げな い,理想を追う,という項目とかは一方通行になりがち。 良かれと思ってしているけれども,それが押し付けがまし くっていう言い方は違うなー……思惑通りにいかないとい うか,そういう意味で空回りしやすそうなっていうのか なぁ(腕組みして揺れながら)なんか,必死さ,とかそう いう感じですかね。 クラスター3: 「自分の手柄にしない」から「フォロー する」までの8項目:なんていうか,……こうであってほ しい,というまとまりかな……ここも理想……。過去にこ うだったらよかったな,かも。うーん,過去の先生につい て思うことですね。高校のときの部活の顧問の先生は,自 分の中では反面教師です。上から目線の俺様タイプで,自 分が気に食わないとき,「俺の言う通りにしたら全国大会 にいける」が,口癖で……自分はこうはならない,と。軍 隊の上司みたいで叱られてもプラスにならず,部員もどん どん減っていきました。だから,このまとまりは,理想で はあるけれど反面的なところからきた理想です。1(クラ スター1)との違いは,理想が先にあってそれに向かって 到達したらゴール。3(クラスター3)は目を背けた後か ら出てきた理想,でしょうか。 クラスター4: 「報われるかどうかは気にかけない」か ら「媚びない」までの17項目:なんていうか,……全体的 に……厳しい感じですよね。厳しいというか冷たいという か,必要悪っていうか,すごい苦い薬みたいな。そんな感 じかなー(腕組みしつつ)。一般的な教師像,自分の中の ステレオタイプ,一般論,という感じです。 クラスター5:「卒業式」から「親を呼ぶ」の3項目: 全体のゴールをイメージします。フルマラソンで言うと卒. 者関係を浮き彫りにしたまとまりである。教育愛が教師か ら生徒にむけられる愛であると明確に意識しつつも,子ど もからの信頼を勝ち得なかった場合の帰結も想定してい る。よって,このクラスターは<信頼によってつながる教 師と生徒の関係>と結論づけられよう。 クラスター2:「ほめる」も「しかる」も具体的な行為 である。それらは, 「教師から子どもに向けられる」。クラ スター1と比べて,ベクトルの方向が明らかである。調査 対象者は,クラスター1より実践的な項目がクラスター2 であると答えた。よって,このクラスターは,<教育愛の 実際の方法>とまとめられる。 クラスター3:クラスター2が表に出現する面の羅列で あるとすると,クラスター3は内面的な質を考えたもので あると思われる。親が子に向ける愛と比べ,親の愛との共 通点として,上から下へのベクトル,しつけをするという 面を挙げつつ,教師からの愛は計画性や意図といった条件 が付いたうえでの限定的な愛である,と考えている。そし て,権威や権力といったものの付随があってはじめて生徒 の行動に変化を起こさせるものであり,逆に子ども側の視 点に立つと,それは信頼を勝ち得た教師でないと成立しな いことと同じである。よって,このクラスターは<教育愛 の成立の条件>であるとまとめられよう。 クラスター4:愛について一般的に考えているまとまり である。逡巡し,答えが出ない様子が表れている。無償の 愛という一方的に与えるのみの愛を挙げつつ,なれ合いに なると破たんすると考えている点において,与える側や上 の立場に視座をおいて検討していることが窺える。よっ て,このクラスターは,<与える側からの愛の種類>が述 べられていると思われる。 全体として:この調査対象者のクラスター構造は,上の 立場の者から与える愛情について述べている群3つと愛を 受ける側の立場も考慮したクラスター1つから成ってい る。また,前3群は,方法,条件,種類といった教育愛を 形成する要素を検討しており,二者を意識しその関係性に 触れたものは1群であった。視座を教師側に置きつつ,そ こで行われる現象について要素を並べて多角的に検討しよ うと試みているように感じられる。 (3)調査対象者Cの事例(Figure 3) 調査対象者Cは,大学院修士課程の2年生男子である。 教員以外の仕事も考えており,教員は選択肢の一つである という。これまでは,学習塾での講師,家庭教師をしたこ とがある。伝えたい事柄を図式化したり,さらにインタ ビュー中何度もその図を書き換えたりするなど,言葉に頼 るのではなく感覚的なイメージで回答した。項目数は,45 個と多かった。その内,プラスのイメージは25個,マイナ スのイメージが13個, どちらでもないものが7個であった。 調査対象者Cによるクラスターの解釈 クラスター1は, 「見た目で判断しない」 から 「場合によっ. - 76 -.

(8) 教育愛についての心理学的検討. Figure 3 調査対象者Cのデンドログラム. - 77 -.

(9) 乾 真希子・伊 田 勝 憲. 業式がゴール。スーパーマリオでいうと1から4(クラス ター1からクラスター4)はアイテムで同窓会がスペシャ ルボーナス。具体的にやったらこうなる,ここに着くって いう。45(「親を呼ぶ」)に関しては,ゴールなんだけど, 片や地獄,片や天国。同窓会に親がいるのは想像できない ですけど,卒業式を想定した場合,ハッピーエンドなら親 がいるほうがより感動的。子どもにとって厳しい場面は親 を呼ばれることは避けたいと思いますし。 クラスター間と全体の比較について:1(クラスター 1)と2(クラスター2)は並列の関係です。1も2も自 分の中では大事で,理想。1つでもいいくらいだけど,1 はより実現可能で2だとちょっと努力が必要,かな。1と 2は横並びで,1につながっているのが,3(クラスター 3)です。1も3も「こうありたい」は同じでも3のほう がよりこうでありたい,という感はあります。で,具体的 にどうするか,っていうのが4(クラスター4)です。1 が中枢で4が末端という感じ。1,2,3はつながっている けど,4は離れている。5(クラスター5)は,どうして もゴールというイメージなので……。1から4が自分の中 にあるとするなら,5は自分の外にある感じです。 調査対象者Cについての総合的解釈 クラスター1:このクラスターは調査対象者の<理想> を掲げたものだという。教育者としてはさることながら, 調査対象者が人としてこうありたいという項目が集まって いる。さらに,これは,各クラスター間の関係を形作る根 幹となっている。調査対象者が習ったある教師をイメージ した項目があるとのことだが,調査対象者がその教師の教 育態度だけではなく人間性も含めてミメーシスしているこ とがわかるクラスターである。教育の影響が一時的なもの にとどまらず影響を与え続けている一例であると見ること ができる。 クラスター2:調査対象者は, クラスター1とクラスター 2を並列で似た関係であるととらえているが,その違いを <願望>が含まれているか否かだと考えている。理想のう ちではあるが,より具体的な目標が集まっているまとまり だといえよう。 クラスター3:このまとまりは,教師として律すべき事 柄を示した項目が多い。調査対象者はすべての項目にプラ スの評価をしている。このクラスターも,教師としての理 想を追求したまとまりのようではあるが,そのうちでも教 師としてなすべきことが並べてあるため,<課題と責務> がまとまっていると考えられよう。 クラスター4: 「甘やかさない」 「叱咤する」など,教育 愛のうちの厳しさが感じられる項目が入っている。また, 教師の内面を表す「報われるかどうかは気にしない」や「思 い通りにいかずともめげない」といった項目も入ってい る。クラスター3とは距離も近く,項目も似ているが,よ り具体的な場面を想像できるものが多い。そのためここは <具体的な教育場面における一般的な方略>とまとめる。 クラスター5:<教育の結果>をイメージしたまとまり. である。具体的な状況を意識した回答である。 「親を呼ぶ」 でマイナス評価をつけているのは,生徒指導場面を想起し て回答したものと思われる。これも一種の結果ととらえて よいであろう。 全体として:具体的な教師や場面をイメージして回答し た項目が多い。過去にミメーシスした教師と反面教師の両 方から,理想的な教師を追求している。調査対象者Cが, 教育愛に肯定的なイメージを持っていることが読み取れよ う。しかし,クラスター1の<理想>やクラスター2の< 願望>といったように,教育愛を理想として掲げている 点,またクラスター3や4の一般論を述べている点からみ て,教育愛実践の当事者というよりは客観的に検討した結 果であるように思われる。 全体として:理想や願望といった大きな枠で教育愛をと らえているのが特徴である。これは調査対象者が教育愛を 理想的なものとしてとらえているからであろう。具体的な 状況を想像したり実際にあった出来事からのイメージを記 述したりしたが,クラスターごとにまとめるときに具体性 が消滅したのは,項目が多いゆえに抽象度が増したからだ と思われる。 (4)調査対象者Dの事例(Figure 4) 調査対象者Dは,大学1年生の女子である。まだ1年生 ということもあり,教職に就くことにそれほど強い関心を 持ってはいない。教員養成系の大学に入学したのは,そこ で行われている授業内容に魅力を感じたからだという。大 学に入ってから学習支援のボランティアを始めた。連想項 目は,温かなイメージをもったものが多く見られる。項目 の評価も全25項目中プラスが21項目で,その他はプラスで もマイナスでもないもの,マイナスイメージはゼロであっ た。これまで出会った教師に嫌な思いを持っていなかった という経験に基づくものと「推測される。解説では項目一 つひとつについて丁寧に説明した。 調査対象者Dによるクラスターの解釈 クラスター1は「自分の考えを受け入れてくれたとき」 から「大きい」までの6項目:プラスのイメージがありま す。あとは…(考え込む)…やっぱり,いいイメージ…16 (「大切なもの」)と20(「大きい」)があるじゃないですか ……いいイメージが大体として,あたたかなイメージも。 1(「自分の考えを受け入れてくれたとき」)と5(「自分 の可能性を信じてもらったとき」 )はすごくうれしいこと ……だと思うし……そういうことは大事なことで,その人 にとって重要な役割を果たしていると思います。可能性や 考えを受け入れてもらうのは自分の存在を受け入れてもら うっていうか,そういうことでうれしく思ったりするし, それが成長や喜びになっていくと思うので。補足質問:17 「おだやか」とは,どちらかといえば生徒側からみた視点 です。 クラスター2は「子どもの気持ちを理解しようと努める とき」から「怒られたあとに優しくしてもらったとき」の 6項目:どちらかというと自分が教師だったらこういう人. - 78 -.

(10) 教育愛についての心理学的検討 います。先生とかと関係なく,この子のために何ができる かを考えたとき,自分がされて嬉しかったことをどう子ど もにしようかなーみたいな……。あと,全体的に側にいるっ てまとまり…誰かと近い距離にいるなって思います。教師 としてだけでなく,人として。13( 「自分のことで喜んで くれたとき」 )や9( 「自分のことで泣いてくれたとき」 ) は友達でもありえるし…。嬉しいイメージ。喜びとか…… ですねー。これをされるとすごく明るくなる感じ。叱られ たとき暗くなりますけど,叱られるっていうのはちゃんと 自分のことを考えてしかってくれるととらえて。補足質 問:子どもがそういうとらえができるかっていうよりは, 「私が」ですね。「怒る」だと感情的で,「叱る」だと教育 的だと思うからです。 クラスター4は「多様」から「難しい」までの3項目: 3つまとめて多様で難しいなーみたいな。ほめてどうなる かは多様だし,難しいなみたいな……。ほめ方も多様だ し。……自分では出してみたものの上のグループに比べて 重要じゃないなって。教育においては大切と思うけど,ほ めてくれなくても上のグループにあることがあればいいの かも。うーん,でもほめて伸びる子がいることを思えば, 重要とも思える……難しいですね。 以上の調査対象者自身の解釈で注目されるのは,立場を 教育される側において検討している項目が目立つことであ る。調査対象者が教える側に立って日が浅いことが大きく 影響していると考えられる。 調査対象者Dについての総合的解釈 クラスター1:1「自分の考えを受け入れてもらったと き」や5「自分の可能性を信じてもらったとき」といった Figure 4 調査対象者Dのデンドログラム. 受動的な回答が続く。そして17「おだやか」や20「大きい」 のように,成熟を感じさせる項目もある。成熟した大人に. でありたいというまとまりです。21の怒られたあとに優し. 生徒が頼るというイメージを感じさせるまとまりであり,. くされるというのも今までの経験をもとにしているので。. 調査対象者が過去の経験をもとに,教育愛を受け取る側の. 過去の経験を通して,自分が教師になったときそういう心. 気持ちやイメージをまとめたと考えられる。よってこのま. 持を持っていたいなって。中学校,高校のころは人数も多. とまりは,<生徒が感じる教育愛>とまとめられよう。. くて目を向けられていなかったし,先生も忙しそうで,表. クラスター2:ここでは,視点が教師にあることを感じ. 面上良し悪しを決める感じがして。先生に悪い子と思わ. させる項目が多い。調査対象者自身がクラスター2はクラ. れたくなかったので,できるだけ生活態度をきちんとしよ. スター3と比べて意志的な行動と述べている。教師が大人. うとしてました。でも,小学校3年から6年のころの先生. の視点で子どもを導いたり見守ったりする姿勢が感じられ. は,目を向けてくれていて,憧れで,こういう先生になり. る。ここは,<教師からの働きかけ>とまとめられよう。. たいと思いました。その先生は,30代半ばの体育の男の先. クラスター3:調査対象者はクラスター2の教師の意志的. 生だったんですけど,子どもを楽しませたいって思いが強. 行動に対してクラスター3は自然に現れる行動だと述べて. くて,面白くて,勉強ばっかり言わないし,やりたいよう. いる。子どもと一緒に泣いたり喜んだりといった共感的な. にやれって言うけど,けじめはしっかりしていて。時々こ. 感情を持つことが教育愛をもった教師のイメージであると. わくてたたくときもあったけど,信頼関係ができていて,. とらえている様子がわかる。よってここでは,<共感性>. みんなも受け入れていました。常識にとらわれない教育っ. とまとめることにする。. て感じで,親やほかの先生と比べても何よりもまず生徒っ. クラスター4:調査対象者はクラスター4について感情. ていうような人。. を伴ったイメージがわかないという。ただ,ほめることに. クラスター3は「この子のために何ができるかと考えた. ついては懐疑的な部分もあり,調査対象者の<疑問>が素. とき」から「叱られたとき」までの10項目:自分がどんな. 朴に並べられているクラスターといえる。. ことをされるとうれしかったかを具体的に書いてあると思. 全体として:あたたかなイメージをもって理想の教師像. - 79 -.

(11) 乾 真希子・伊 田 勝 憲 としている。生徒側からと教師側の両方を考えているが,. 思われる。. それは対立的なものではない。共感性が柱となると同時. 調査対象者Cの事例は,愛を理想的な実践としてとら. に,両者をつなげているパイプでもあるといった構造が見. え,現実の教育と比べつつ検討していることがわかる。理. える。. 想的ではあるが,かなり具体的な場面を想像できる回答が 多くある。実践するには何らかの技術が必要であることが 総合考察. 感じられる。Fromm(1956)が指摘するような愛するこ. 本研究の目的は,教員志望学生の教育愛の構造について. とは技術であるという意味にまで深化しているかどうかは. PAC分析を用いて検討することであった。本論文で取り. 別として,教職の専門性という視点を含めた分析可能性が. 上げた4つの事例は,今回の調査対象全員であり,典型的. 残されているように思われる。. な例を抽出したものではない。また,調査対象者と実験者. そして調査対象者Dの事例は,生徒の立場,教師の立場. は調査時においてほぼ初対面であり,内面を開示するのに. の両面から検討した。共感性をもとにあたたかなイメージ. 必要な信頼関係が十分に形成されていたわけではない。し. を抱いていることがわかる。教師としての視点と生徒とし. かし,各調査対象者のプロトコルを見ると,それぞれPA. ての視点が入り混じっているのは,調査対象者の教える側. C分析の手順にしたがって「教育愛」への態度を回答して. としての日の浅さを表しているといえよう。三隅(1968). いる様子である。ただし, 内藤(2002)が指摘するように,. のPM理論の視点では,M機能が優位であると考えられ,. PAC分析は内面深くに隠されていた否定しようのない現. 教員養成課程の学生の発達プロセスとして,どの程度一般. 実に,無防備に直面・対決させる危険性があるため,特に. 化できるのかについてさらなる調査が待たれる。. 個人的経験に関わる側面についての過度な明確化は行わな. また,これらの事例について大局的に見るならば,教育. かった。自己形成史と教育愛形成のプロセスの関係につい. 愛をイメージする視点には大きく分けて2種類の柱がある. ての検討は今後の課題である。以下,今回の調査の範囲か. と言えるかもしれない。1つは,調査対象者Aと調査対象. ら読み取ることのできるデータに基づいて,総合的な考察. 者Cが主に意識した実践場面でのあり方である。方略や要. を試みたい。. 素といった具体的なものをイメージし課題を挙げ,結果に. 今回調査したどの学生も,多かれ少なかれ親からの愛情. 至る。結果には懐疑であったり,卒業式や同窓会といった. と教育愛の比較検討をしていること,過去に習った教師に. 完成された結末といった違いはみられる。もう1つは,調. 触れていることなどから,過去の経験は個人に大きな影響. 査対象者Bと調査対象者Dが,教師から生徒へ施されるも. を与え,自己の教育愛の構造や意味づけにも影響を及ぼし. のという上下の関係性や立場に触れている。これもひとつ. ていることが共通点として認められた。これは,自身もま. の視点であろう。教示文にも上下関係を示唆する部分はあ. だ被教育者の立場にあること,Erikson(1959)の心理社. るが,項目回答でも立場が明確にわかる回答もあり,調査. 会的発達理論における第V段階(青年期) ,すなわちアイ. 対象者Bは教師となった場合をシミュレートして,調査対. デンティティ確立を目指す途上にあることなどが背景とし. 象者Dはこれまでしてもらったことを基準として答えてい. て考えられる。特に教職に向けてのアイデンティティ形成. る様子がわかる。こうしたボトムアップ的なアプローチに. には個人差が大きいと考えられるため,今回の調査では大. よって学生が抱く教育愛の類型化を試みることも研究の方. 学生の持つ教育愛を一般化することは難しい。しかしなが. 向性の1つとして考えられよう。. ら,自分の被教育経験を重ね合わせ,各調査対象者独自の. 本研究では,PAC分析において,連想刺激を出発点と. 特徴的な心理構造がそれぞれ明確に表れたことは一定の成. して自由連想とまとめを繰り返すことにより,個人の内面. 果と言えるのではないだろうか。. を掘り下げ,考え方の型を抽出する作業を行い,個人のも. 調査対象者Aについていえば,教師という職業選択が明. つ教育愛について,態度構造という視点からとらえた。今. 確であり,各クラスターをまとめたものも具体的かつ実践. 後は,教員養成課程の学生としての発達プロセスを想定. 的である。項目を整理しながらの構造解釈を通じて,厳し. し,教育実習の経験前と経験後の比較等,個人差にも焦点. さへの一貫した否定やそれが過去の特に父親との確執から. を当てつつ,より一般化可能な「教育愛」の形成過程に. くることに調査対象者自身が言及するという現象があっ. ついて検討することが課題である。その際,例えば岡田. た。自己形成史との関連からのさらなる分析可能性がある. (2002)の教育愛の4類型にしたがって個人の思考傾向を. と言えよう。. プロットすることや三隅(1966)のPM理論にみられる. 調査対象者Bの事例では,教師から生徒へ,という位置. リーダーシップ類型との関連づけなどが課題であると考え. 関係が明確で,愛が成立するにも条件があると考えている. られる。さらに,現職教員への調査を含む横断的研究,今. ところが明らかになった。一つひとつの項目からは,ある. 回の調査対象となった学生が実際に教員になってから「教. 意志や意図をもって生徒に接する教師像が明らかである。. 育愛」への考えをどのように変化させていくのかといった. まさに三隅(1966)のリーダーシップ類型におけるP機能. 縦断的研究が求められるだろう。そして,久冨(2008)が. とM機能の両面につながる連想項目が見られ,教師のリー. 指摘するような教師の仕事の難しさと専門性,教職アイデ. ダーシップと教育愛とをつなぐ視点が含まれているように. ンティティの問題をどのようにとらえるかという課題につ. - 80 -.

(12) 教育愛についての心理学的検討 ながると思われる。 引用文献 中央教育審議会 (2006). 今後の教員養成・免許制度の在 り方について(答申) Erikson, E. H. (1959). Identity and the Life Cycle. NY: W. W. Norton & Company. ( 小 此 木 啓 吾( 訳 編 )(1973). 自我同一性 誠信書房) Fromm, E. (1956). The Ar t of Loving. NY: Harper & Brothers Publishers.(鈴木 晶(訳) (1991). 愛す るということ 新訳版 紀伊國屋書店) 久冨善之 (2008). 「改革」時代における教師の専門性と アイデンティティ―それらが置かれている今日的文 脈と、民主的文脈への模索― 久冨善之(編著)教師 の専門性とアイデンティティ 第1章 勁草書房 pp.15-29. Maslow A. H. (1968). Toward a Psychology of Being. 2nd ed. (上田吉一(訳) NY: Van Nostrand Reinhold Company. (1998). 完全なる人間―魂のめざすもの― 第2版 誠信書房) 三隅二不二 (1966). 新しいリーダーシップ―集団指導の 行動科学― ダイヤモンド社 内藤哲雄 (2002). PAC分析実施法入門[改訂版]「個」 を科学する新技法への招待 ナカニシヤ出版 岡田敬司 (2002). 教育愛について かかわりの教育学<3> ミネルヴァ書房 ・ ・ Scho n, D. A. (1983). The Reflective Practitioner: How. Professionals Think in Action. NY: Basic Books.(柳沢 昌一・三輪建二(監訳)(2007). 省察的実践とは何 か―プロフェッショナルの行為と思考― 鳳書房). - 81 -.

(13)

Figure 3  調査対象者Cのデンドログラム
Figure 4  調査対象者Dのデンドログラム でありたいというまとまりです。21の怒られたあとに優し くされるというのも今までの経験をもとにしているので。 過去の経験を通して,自分が教師になったときそういう心 持を持っていたいなって。中学校,高校のころは人数も多 くて目を向けられていなかったし,先生も忙しそうで,表 面上良し悪しを決める感じがして。先生に悪い子と思わ れたくなかったので,できるだけ生活態度をきちんとしよ うとしてました。でも,小学校3年から6年のころの先生 は,目を向けてくれていて,憧れ

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