Nagoya City University Academic Repository
学 位 の 種 類 博士 (生体情報) 報 告 番 号 甲第1772号 学 位 記 番 号 第19号 氏 名 安井 明代 授 与 年 月 日 令和 2 年 3 月 25 日 学位論文の題名 2色覚の色の見えモデルにおける色弁別閾に関する研究 論文審査担当者 主査: 田中 豪 副査: 中村 篤, 三浦 均, 溝上 陽子(千葉大学)
名古屋市立大学 博士学位論文
2
色覚の色の見えモデルにおける
色弁別閾に関する研究
2020
年
安井 明代
名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科
要旨
ヒトの色知覚には3種類の錐体細胞が関与している.3種類の錐体が機能する場合を3色 覚,いずれか1種類の錐体が機能しない場合を2色覚という.3色覚者と2色覚者では色の 見えが異なる.色は直感的な情報伝達手段として有用であり様々な状況で用いられている が,色を使った情報伝達は3色覚者の見えを標準としていることが多い.地図などの画像に 2色覚者が弁別できない色の組み合わせが含まれる場合,必要な情報が2色覚者に正しく伝 達されないという問題がある. 2色覚者には弁別できない色の組み合せを,弁別しやすい色の組合わせに変換することを 色覚バリアフリー化色変換と呼ぶ.スマートフォンなど,個人で用いるディバイスのディス プレイ上での色覚バリアフリー化色変換を考える.色覚バリアフリー化色変換のためのア ルゴリズムでは,多くの場合,2色覚の色の見えを表現するシミュレーション(以降,単に シミュレーションと呼ぶ)を利用している.シミュレーションは通常,平均的な観測者の色 の見えを表現している.同じ色覚のヒト同士でも色の知覚には個人差があり,シミュレー ションが個々の2色覚者(ディバイスの使用者)に最適であるという保証はない.色覚バリ アフリー化色変換において重要となるのは,使用者が色の組み合わせを弁別できるか否かで ある.すなわち,ディバイスの使用者が色の組み合わせを弁別できる限界(色弁別閾Θ)付 近においてシミュレーションが使用者に適していることが求められる.しかし,この適合性 を検討する手法はこれまで提案されていない. 関連研究として,Θ付近におけるシミュレーションの正確性を心理物理学的測定により検 討したものが挙げられる(以降,参考手法と呼ぶ).参考手法では,段階的に変化させた色 刺激を2色覚及び3色覚の観測者に提示する実験を行う.2色覚者には錐体の反応強度を表 した色空間であるLMS色空間において変化させた色刺激を提示する(提示A).3色覚者 には提示Aで用いる色刺激をシミュレーションしたものを提示する(提示B).提示Aと 提示Bの実験から色弁別閾ΘAとΘBを得る.ΘAとΘBを比較することでシミュレーショ ンの正確性を検討する.なお,この正確性は平均的な観測者に対するものとなる. 本論文では,参考手法に基づいて,(平均的な観測者に対する正確性ではなく)個々の2 色覚者に対するΘ付近におけるシミュレーションの適合性を検討する手法を提案する.提 案手法では,一人の2色覚者を観測者として心理物理学的測定による実験を行うことで,そ の2色覚者に対するシミュレーションの適合性を調べる.提案手法の色刺激は,ディスプ レイの色表示に用いられるRGB色空間において変化させたもの(提示A)とそれをシミュレーションしたもの(提示B)である.一人の2色覚者が提示Aと提示Bの実験を行い, ΘAとΘB を得る.提案手法では,参考手法と異なり,ΘAとΘB の関係性を統計的な方法 で検討する.ΘAとΘB の相関係数及び回帰直線の傾きと切片を求め,ΘAとΘB の一致度 を調べることで,Θ付近でのシミュレーションとの適合性を検討する.民生用のディバイ スのディスプレイのビット深度は一般的に8ビットであり,このようなディスプレイ(標準 的なディスプレイ)上でシミュレーションがディバイスの使用者(2色覚者)に適合してい ることが望まれる.提案手法は,標準的なディスプレイにおいて,使用者とシミュレーショ ンのΘ付近での適合性を十分な精度で判定できることを目的としたものである. 提案手法では,判定結果の信頼性を高めるために,参考手法と比べて以下の違いがある. 参考手法では,2色覚において機能している錐体に着目して色刺激を作成する.具体的に は,LMS色空間において,機能している二つの錐体に対応する平面上でLMS値を変化させ て提示する色を指定する.このLMS値に対応するRGB値は,基本的に実数(非整数)と なる.一方,ディスプレイに表示可能な色は整数のRGB値で表現できるもののみであり, LMS値で指定した本来表示したい色とは違い(丸め誤差)がある.参考手法はシミュレー ションの正確性を調べることが目的であり,ビット深度が十分に大きいディスプレイを用 いている.そのようなディスプレイを用いれば丸め誤差は無視できる程度であるが,標準 的なディスプレイでは丸め誤差を無視することができない.提案手法では,LMS値ではな く,整数のRGB値により色を指定することで丸め誤差を低減している.また,参考手法で は,提示Aと提示Bで得られた結果について,検討対象であるシミュレーションのアルゴ リズム(シミュレーションモデル)を用いてΘを求めている.すなわち,検討過程の計算 (Θの計算過程)に検討対象自体が含まれるという問題がある.一方,提案手法では,RGB 値を変化させたときの変化量を用いてΘを表現するので,シミュレーションモデルはΘの 計算過程に含まれない.すなわち,検討対象を用いて検討するという問題がない.
目次
要旨 3 第1章 序論 1 第2章 色覚と色空間 5 2.1 色覚多様性 . . . . 5 2.1.1 正常色覚 . . . . 5 2.1.2 色覚異常 . . . 5 2.2 色空間 . . . . 7 2.2.1 RGB色空間 . . . . 8 2.2.2 XYZ色空間 . . . 9 2.2.3 CIELAB色空間 . . . . 9 2.2.4 LMS色空間 . . . . 10 第3章 関連研究 11 3.1 LMS変調と色刺激の提示 . . . 11 3.2 色弁別閾 . . . 12 3.3 評価方法 . . . . 12 第4章 提案手法 15 4.1 提案手法の特徴. . . . 15 4.1.1 2色覚の観測者. . . 15 4.1.2 RGB変調 . . . 16 4.1.3 変調量を用いたΘの表現 . . . . 17 4.1.4 統計的な方法による適合性の判定 . . . 18 4.2 実験方法 . . . 18 4.2.1 色刺激 . . . . 18 4.2.2 提示A及び提示Bの変調量 . . . 20 4.2.3 色刺激と弁別閾の計算 . . . 20 4.2.4 適合性の判定 . . . . 23第5章 提案手法の適用例と考察 25 5.1 実験 . . . . 25 5.1.1 観測者 . . . 25 5.1.2 実験の実施までの手順 . . . 25 5.1.3 色刺激の提示 . . . . 25 5.1.4 RGB原色の分光分布と錐体の分光感度 . . . 26 5.1.5 背景色と変調方向 . . . 27 5.2 実験結果 . . . . 29 5.2.1 Weibull関数による近似 . . . . 29 5.2.2 適合性の判定 . . . 31 5.3 考察 . . . . 32 5.3.1 変調方向と色弁別閾 . . . . 32 5.3.2 背景色と色弁別閾 . . . 34 第6章 結論 35 謝辞 37 参考文献 39 付録A シミュレーションモデル 45 関連発表論文一覧 47 関連学会発表一覧 49 解説 51 用語集 55
図目次
1.1 2型2色覚者が弁別しにくい配色の例 . . . . 1 1.2 色覚バリアフリー化色変換結果 . . . 2 1.3 光刺激に対する反応の個人差 . . . 3 2.1 ヒトの色覚 . . . . 6 2.2 混同線 . . . 7 2.3 RGB色空間 . . . . 8 2.4 RGB成分の加法混色 . . . . 9 3.1 Jiangらの手法で提示される色刺激 . . . 11 3.2 変調 . . . . 12 3.3 CIELAB色差及びD-CIELAB色差 . . . . 12 3.4 LMS変調の例 . . . 13 3.5 色弁別閾Θˆ の決定 . . . . 13 3.6 ΘˆA 2 とΘˆB3 の散布図 . . . 14 3.7 D-CIELAB色空間の妥当性の評価 . . . 14 4.1 LMS変調とRGB値 . . . . 16 4.2 提案手法における提示色のRGB値 . . . . 17 4.3 色刺激の構成 . . . 18 4.4 Θ˜ での提示Aと提示Bの比較 . . . . 19 4.5 色刺激の生成と提示 . . . . 19 4.6 色刺激の提示 . . . 21 4.7 異なる色が丸め処理により提示Bでは一致する例 . . . 22 4.8 色弁別閾Θ˜ の決定 . . . . 23 4.9 シミュレーションの適合性の判定の流れ . . . 24 5.1 実験の実施までの手順 . . . . 26 5.2 色刺激の提示と色刺激における小片の位置 . . . . 27 5.3 RGB原色の分光分布とL・M・S錐体の分光感度 . . . 27 5.4 提示Aでの背景色と変調方向(xy色度図) . . . 285.5 MS平面における提示Aでの変調方向 . . . 28 5.6 LS平面における提示Aでの変調方向 . . . . 28 5.7 2AFCの正答率の実測値と推定値 . . . 29 5.8 2名の観測者のΘ˜AとΘ˜B の散布図と回帰直線 . . . 32 5.9 変調方向別のΘ˜ の分布 . . . . 33 5.10 背景色別の観測者1と観測者2のΘ˜Aの比較 . . . . 33 5.11 観測者1のΘ˜ の背景色ごとの比較 . . . 34 5.12 観測者2のΘ˜ の背景色ごとの比較 . . . . 34 1 Brettelモデルの流れ . . . 46
表目次
4.1 提案手法の特徴. . . . 15 4.2 変調色と提示色のRGB値と変調量の例 . . . 21 5.1 背景色O及び白のRGB値・xy色度・輝度 . . . 26 5.2 2AFCの正答率の実測値と推定値のRMSE(観測者1,提示A) . . . . . 30 5.3 2AFCの正答率の実測値と推定値のRMSE(観測者1,提示B) . . . 30 5.4 2AFCの正答率の実測値と推定値のRMSE(観測者2,提示A) . . . . . 30 5.5 2AFCの正答率の実測値と推定値のRMSE(観測者2,提示B) . . . . . 31 5.6 2名の観測者のΘ˜AとΘ˜B の相関係数 . . . 31 5.7 回帰直線の傾きが1である確率と切片が0である確率 . . . 32第
1
章
序論
ヒトの視覚系には,網膜の光受容体細胞としてL,M,Sの3種類の錐体がある.それら は比較的明るい光に対して機能し,色の知覚に関与する.3種類の錐体が全て正常(標準 的)である場合を正常3色覚*1と呼び,正常3色覚でない場合を色覚異常と呼ぶ.いずれか の錐体が標準的に機能しない場合を異常3色覚と呼ぶ.また,いずれか1種類の錐体が機 能しない場合は2色覚と呼ぶ.L錐体が(標準的に)機能しない場合を1型色覚という.同 様に,(標準的に)機能しないのがM錐体である場合を2型色覚,S錐体である場合を3型 色覚と呼ぶ.1型色覚または2型色覚のヒトは,赤系統や緑系統の色について弁別が困難な 色の組み合わせがある.黄色人男性の約5%,白人男性の約8%,黒人男性の約4% がこの ような色覚特性を持っている.また,3型色覚の人は,青系統と黄系統の色について弁別が 困難な色の組み合わせがある[15]. 色は直感的な情報伝達の手段として有用であり,様々な状況で用いられる.多くの場合, 色による情報は標準的な色覚である3色覚を基準として発信されている.3色覚者の知覚に 基づいて情報を色で表現すると,色覚異常者に情報が正しく伝わらないことがある.例え ば,図1.1(a)に示す経路図の2型2色覚者の見えは図1.1(b)である.2型2色覚者はCで 交差する経路を弁別できない.このように,色を用いて情報を伝達する場合に,色覚特性の 違いにより情報が伝わりにくい場合がある. 色覚異常者にも認識しやすい配色・デザインを用いることを色覚バリアフリーと呼ぶ [6]. (a) (b) 図1.1 2型2色覚者が弁別しにくい配色の例(a)原画像(3色覚での見え),(b) 2型2色覚での(a)の見え *1本論文では,特に断らないときは,以降正常3 色覚を 3 色覚と呼ぶ.(a) (b)
図1.2 色覚バリアフリー化色変換結果(a)図1.1(a)の色変換結果例,(d) 2型2色覚での(a)の見え
色覚異常者には弁別できない色の組合せを含む色情報を,色覚異常者に弁別しやすい色情報 に変換することを色覚バリアフリー化色変換と呼ぶ.近年,色覚バリアフリー化色変換アル ゴリズムが種々考案されている [732] .これらを用いることにより,色覚特性が通常と異 なるために弁別できないカラー画像を,スマートフォンやパーソナルコンピュータなどの ディバイス(以降,単にディバイスと呼ぶ)のディスプレイ上で弁別しやすい画像に変換す ることができる(図1.2).色覚バリアフリー化色変換の多くは,色覚異常者の色の見えを 表現するシミュレーション(以降,単にシミュレーションと呼ぶ)[3342]を用いることに よって機能する.アルゴリズムでは,特にヒトが色の組み合わせを弁別できる限界付近(色 弁別閾値Θ)において,色覚異常者の色の見えを正確に表現するシミュレーションが求めら れる. シミュレーションの正確性についてΘ付近で検討した研究にJiangらによるもの[43]が ある.Jiangらは,シミュレーションのアルゴリズム(シミュレーションモデル)[41]と
2色覚者のための D-CIELAB色空間 [43]を提案した.D-CIELAB 色差は,CIELAB色
差[3, 4]の拡張であり,Jiangらが提案したシミュレーションモデルを適用した2色覚の色 の見えから求めたCIELAB色差である.文献 [43]では,D-CIELAB色空間の妥当性を示 すにあたり,心理物理学的測定 [4, 44, 45]を用いた実験方法(Jiangらの手法)を提案して いる.彼らは,14ビットの色深度のディスプレイを用いて,錐体の反応強度を表した空間 であるLMS色空間で,2色覚者と3色覚者のΘを調べることでD-CIELAB色空間の妥当 性を示した.彼らの実験結果は,D-CIELAB色空間で使用されているシミュレーションモ デルが妥当であることを示した. シミュレーションモデルは,平均的な観測者 [4,4650]の色の見えを想定して作成されて いる.色覚のタイプが同じであっても,光刺激に対する反応は個人によって異なる.すな わち,同じ色覚のヒト同士でも色の知覚には差がある(図1.3).色覚バリアフリー化色変 換アルゴリズムは,ディバイスの使用者(以降,単に使用者と呼ぶ)ごとに調整できること が望ましい.そのためには,アルゴリズムに使用されるシミュレーションモデルをΘ付近 で個々の使用者に合わせて調整することが必要であり,Θ付近についてシミュレーション が使用者に適しているか否か(適合性)を判定する必要がある.一般的なディスプレイは8 ビット深度であり,このようなディスプレイを本論文では標準的なディスプレイと呼ぶ.適
図1.3 同じ色覚でも光刺激に対する反応には個人差がある.一般に,シミュレーションモデルは平均的な 観測者を想定して作られており,個々の2色覚者に適合するとは限らない. 合性の判定は(Jiangらの実験 [43]で用いられたようなビット深度の大きいものではなく) 標準的なディスプレイで行えるべきである.しかし,そのような判定ができる手法はこれま で提案されていない. 本論文では,個々の2色覚者に対するシミュレーションのΘ付近での適合性を検討する 手法を提案する.提案手法はJiangらの手法に基づいたものである.Jiangらの手法は,平 均的な2色覚者に対して,シミュレーションが正確であるか否かを判断していた.これに対 して,提案手法では,ディバイスの使用者である一人の2色覚者に対して,シミュレーショ ンがΘ付近において適しているか否かを判定するものである.更に,提案手法では標準的 なディスプレイ上で適合性を判定できる.提案手法は,個々の2色覚者の色の見えにシミュ レーションを近づける手掛かりとなると考えられる. 本論文は,六つの章から構成される.第1章は序論である.第2章では,本研究に関連す る基礎知識として色覚及び色空間について説明する.第3章では,シミュレーションの正確 性の検討手法としてJiangらの手法 [43]を紹介する.第4章では,提案手法とその特徴に ついて述べる.提案手法では,2色覚者のΘを求め,個々の2色覚者の色の見えとシミュ レーションとの適合性を統計的な方法で検討する.この詳細について述べる.第5章では, 提案手法の具体的な適用例として,2名の2色覚者による実験について述べる.第6章は結 論である.本研究の成果を総括する.
第
2
章
色覚と色空間
2.1
色覚多様性
2.1.1 正常色覚 色とは,物体の性質ではなく,眼が受容した光の波長別強度情報をもとに脳が作り出す 感覚である.個人差はあるものの,ヒトは最大で360 nm∼830 nmの範囲の波長の電磁波 を光として認識することができる.波長の異なる光は異なる色として知覚される.例えば, 540 nmの光は緑色,580 nmは黄色,660 nmは赤色として認識される.しかしながら,540 nmの光と660 nmの光を適当に混ぜると黄色として認識されることから,ヒトの知覚は光 の物理的な性質を区別しているのではない [1]. 眼(図 2.1(a))に入った光は,網膜上の杆体・錐体と呼ばれる視細胞によって捉えられ (図2.1(b)),神経の活動電位に変換されて,外側膝状体を経て大脳皮質の視覚野へ,更に連 合野へと伝えられていく(図2.1(c)).錐体はその形態によって3種類(L・M・S錐体)に 分類されるが,それぞれの錐体の分光吸収特性は異なっており,その違いは発現している視 物質の性質に依存している.L錐体(赤錐体)は赤視物質(吸収極大波長558 nm),M錐体 (緑錐体)は緑視物質(吸収極大波長531 nm),S錐体(青錐体)は青視物質(吸収極大波 長419 nm)を発現しており,眼に入った光がどのような波長成分を有するかに応じて,各 視物質を介して各錐体が興奮する(図2.1(d))[2]. このように,ヒトは3種類の錐体の興奮の相対比によって色を知覚している.このことか ら,ヒトの色覚は通常,3色覚である.L・M・S錐体が全て正常な場合は,正常3色覚であ り,正常色覚とも呼ぶ. 2.1.2 色覚異常 1種類以上の錐体が異常である場合,異常3色覚と呼ぶ.異常3色覚において,L錐体が 異常の場合,1型3色覚と呼ぶ.M錐体が異常の場合は2型3色覚と呼び,S錐体が異常の 場合は3型3色覚と呼ぶ.3種類の錐体細胞において,1種類の錐体が機能しない場合は2 色覚と呼ぶ.2色覚は機能していない錐体によって3種類に分けられる.L錐体が機能して(a) (b) (c) (d) 図2.1 ヒトの色覚(文献[1, 2]より転載)(a)眼球,(b)網膜上の視細胞,(c)眼に入った光の伝達,(d) L・M・S錐体の分光感度 いない場合を1型2色覚,M錐体が機能していない場合を2型2色覚,S錐体が機能して いない場合を3型2色覚という.3型色覚者は非常にまれであり,2色覚者のほとんどは1 型あるいは2型色覚者である. 錐体の興奮を介する視物質は,オプシンと呼ばれる視物質タンパク質とビタミン A誘導 体である.L・M・S錐体にはそれぞれ赤・緑・青オプシンが存在する.青オプシンの遺伝 子は第7染色体に存在する.第7染色体は男性と女性ともに二つ持っており,一つが異常 であっても,残りの一つが正常であれば,正常色覚である.一方,赤オプシンと緑オプシン をコードする遺伝子はどちらもX染色体に存在する[1].X染色体は,女性は二つ持ってい るが,男性は一つしか持っていない.男性の場合,一つしかないX染色体に異常があれば 色覚異常になる.このため,色覚異常となる確率は女性よりも男性の方が高い.また,1型 と2型の色覚異常者が多いことになる.1型または2型色覚者は,白人男性の約8%,黄色 人男性の約5%,黒人男性の4% であり,世界中には約2億人いる.なお,2色覚者は色の 弁別に困難が生じるだけであり,視力は正常である [2].
(a) (b)
(c) (d)
図2.2 CIE xy色度図と混同線(a) CIE xy色度図,(b) 1型2色覚の混同線,(c) 2型2色覚の混同線,
(d) 3型2色覚の混同線 色をCIE xy色度図 [4]上に表すと,2色覚者が見分けにくい色の組み合わせは,図上で ほぼ一直線に並ぶ.これを混同線という(図2.2 [1]).赤オプシン遺伝子と緑オプシン遺伝 子の構造は似ており,結果として1型2色覚と2型2色覚での色の見えは似ている.
2.2
色空間
ヒトは光が目に入ったとき色を知覚する.色を定量的に表示するための一連の規定と定 義からなる体系を表色系という.表色系では任意の光を3種類の光の混合量により色刺激 の表示を行う.3種類の色の光の混色したときの混合量をその色による刺激の三刺激値とい う.三刺激値のように,色の幾何学的な表示に用いる空間を色空間と呼ぶ [51].本節では種々の色空間のうち,本研究に関連するRGB色空間,XYZ色空間,CIELAB
色空間,LMS色空間について紹介する.
2.2.1 RGB色空間
RGB色空間の概念図を図2.3に示す.RGBとは,赤(red)・緑(green)・青(blue)の
略称である.この三つの色は光の三原色である.通常のディスプレイでは,このRGBの成
分を加法混合することでさまざまな色を表示する(図 2.4).三つの成分の値が0の時,混
合した色は黒である.反対に,数値が増えると白に近づく.sRGB(standard RGB)色空
間[4,52,53]は,国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission)が1998 年に策定したものである.これは一般的なディスプレイ,プリンタ,デジタルカメラなどの
色表現のために策定された規格である.ディジタル画像のRGB値(ファイルに記録された
値)は,ディスプレイ上で適切な明るさとなるようにγ 補正が施される.γ 補正したRGB
値をノンリニアRGBと呼ぶ.
8ビット([0, 255])のノンリニア値(R′8bit, G8bit′ , B8bit′ )から[0, 1]のリニア値(R, G, B)を
求める計算をR成分を例にして説明する.リニア値Rは, R = RsRGB′ 12.92, R ′ sRGB≤ 0.03928, ( R′sRGB+ 0.055 1.055 )2.4 , otherwise, (2.1) R′sRGB= R ′ 8bit 255 (2.2) 図2.3 RGB色空間
図2.4 RGB成分の加法混色 で得られる.逆に,リニア値Rからノンリニア値R′8bitを求める式は以下の通りである. R′8bit= 255R′sRGB, (2.3) R′sRGB= 12.92R, R ≤ 0.00304, 1.055R1/2.4− 0.055, otherwise. (2.4) 2.2.2 XYZ色空間
CIE 1931XYZ標準表色系(XYZ色空間)[4, 52]は国際照明委員会(Commission
Inter-nationale de l'Éclairage:CIE)が1931年に定めた表色系である.このXYZ色空間は,色
空間を相互に変換するときの基本的な色空間として広く使われている.XYZ色空間の3要 素XYZは,[0, 1]に規格化したリニアRGB値から以下の式により計算できる. X Y Z = M1 R G B . (2.5) ここで, M1 = 0.4124 0.3576 0.1805 0.2126 0.7152 0.0722 0.0193 0.1192 0.9505 (2.6) である. 2.2.3 CIELAB色空間 RGB色空間やXYZ色空間 [4, 52]における2色間の差(色空間の距離)はヒトが実際に 感じる色の差を反映できていないという欠点がある.これは,色の値が同じだけ変化したと き,ヒトがそれを見たときに感じられる変化が等しくないという意味である.この問題を
解決するため,ヒトが知覚する色の差を反映するようにCIELAB色空間[4,52]が規定され た.なお,CIELAB色空間はCIE 1976 L∗a∗b∗色空間とも呼ばれる. L∗a∗b∗ 色空間におけるL∗,a∗,b∗ 成分は L∗ = 116f (Y /Yn)− 16, (2.7) a∗ = 500[f (X/Xn)− f(Y/Yn)], (2.8) b∗ = 200[f (Y /Yn)− f(Z/Zn)] (2.9) で定義される.ここで, f (x) = x1/3, x > 0.008856, 7.78x + 16/116, x≤ 0.008856 (2.10) である.なお,Xn,Yn,Zn は,対象と同一照明下の標準白色に対する三刺激値である. Yn = 1に標準化した場合,色度座標から計算したそれぞれの三刺激値はXn = 0.9505, Yn = 1,Zn = 1.0891である.
また,CIELAB色空間における二つの色の差であるCIELAB色差∆Eab∗ は
∆Eab∗ =√(∆L∗)2+ (∆a∗)2+ (∆b∗)2 (2.11) で定義される.ここで,CIELAB色空間における二つの色を(L∗1, a∗1, b∗1)と(L∗2, a∗2, b∗2)とす るとき,∆L∗ = L∗1− L∗2,∆a∗ = a1∗− a∗2,∆b∗ = b∗1− b∗2 である. 2.2.4 LMS色空間 LMS 色空間は,ヒトの 3 種類の錐体の光に対する反応の強度を表現する色空間であ る[4, 5].どのような色空間でもXYZ色空間に変換することができる.LMS色空間に関し ては,ヒトの複雑な色覚をモデル化していることから,様々な変換行列が定義されている. 本論文では文献 [54]の変換式行列(2.13)を用いた.XYZ値とLMS値の変換式は以下のと おりである. L M S = M2 X Y Z , (2.12) M2 = 0.38971 0.68871 −0.07868 −0.22981 1.18340 0.04641 0 0 1.00000 . (2.13)
第
3
章
関連研究
Jiang らはシミュレーションモデルを提案し [41],そのモデルを用いて CIELAB色空 間[3,4]を2色覚に拡張した色空間(D-CIELAB色空間)を提案した[43].また,D-CIELAB 色空間の妥当性を心理物理学的測定による実験によって示した[43].その実験では,2色覚 と3色覚の観測者それぞれに対して調整した色刺激をディスプレイに表示した.以降では, 色刺激をディスプレイに表示することを提示と呼ぶ.色刺激は図3.1に示すようなものであ り,観測者は小片の位置が+印に対して上か下かを二者強制選択(two-alternative spatialforced-choice:2AFC)で回答した.Jiangらは正答率をもとにΘを計算し,D-CIELAB色 空間の妥当性を検討した.
3.1 LMS
変調と色刺激の提示
本論文では,ある色を基準にして色空間内の一定方向に色を少しずつ変化させることを変 調と呼ぶ(図3.2).変調により指定された色を変調色と呼ぶ.図3.1に示すように,色刺激 は背景と小片で構成され,小片の色は背景色の変調色である.2色覚では一つの錐体が機能 しておらず,その錐体はLMS色空間の一つの軸に対応する.その軸方向に変調した色は当 該2色覚者には全て同じ色に見える.2色覚者にとって意味のある(異なる色に見える)変 調色は,機能する2種類の錐体に対応した平面上での変調により得られたものである.例え ば,L錐体がない1型2色覚では,MS平面上での変調だけを考えればよい.MS平面のよ (a) (b) 図3.1 Jiangらの手法で提示される色刺激(a)固視点+の上に小片(この例では橙色の正方形)がある 場合,(b)固視点の下に小片がある場合図3.2 変調:背景0の色を基準に,円の色は1, 2, 3, . . . と少しずつ変化している.
(a) (b)
図3.3 CIELAB色差及びD-CIELAB色差(a) LMS値からCIELAB色差を求める計算,(b) LMS値 からD-CIELAB色差を求める計算 うに2色覚者にとって有効な平面を(3色覚者との)共通平面と呼ぶ.以下では,LMS変 調とは共通平面上での変調を意味することとする.ある色とその変調色の組合せによる色 刺激を観測者に示すことを提示Aと呼ぶ.提示Aで用いた色刺激をシミュレーションした 色刺激を観測者に示すことを提示Bと呼ぶ.一般に,変調色の成分は実数(非整数)であ る.一方,提示される色(提示色)の各要素は整数のRGB値でなければなならない.
3.2
色弁別閾
L・M・S錐体の反応に対応した主観的な色の見えはCIELAB色空間にてL∗a∗b∗ 値で表 すことができる(図3.3(a)).CIELAB色差またはD-CIELAB色差で表されるΘをΘˆ で 表す.3色覚の観測者のΘˆ はΘˆ3,2色覚の観測者のΘˆ はΘˆ2と示す.Θˆ3 は背景と小片(変 調色)の色差から得られる.Θˆ2は,2色覚の見えにシミュレーションされた背景と小片の 色差から得られる(図3.3(b)).図3.3(b)において,添字dはD-CIELAB色空間における 値であることを意味する. Θは,提示Aまたは提示Bの実験から得られる.提示A及び提示Bから得られたΘˆ は, それぞれΘˆA及びΘˆBと記述する.2色覚者が提示Aの観測者である場合のΘˆ は,ΘˆA2 と記 述する.同様に,3色覚者が提示Bの観測者である場合のΘˆ は,ΘˆB 3 と記述する.3.3
評価方法
Jiangらは,LMS変調により得られた色刺激に対する視覚的な反応が2色覚者と3色覚 者で同じであるという仮定の下に,D-CIELAB色空間の妥当性を示す実験を行った.具体 的には,LMS変調により観測者に提示する色刺激を決め,14ビット深度のディスプレイを(a) (b) 図3.4 LMS変調の例(a) MS平面,(b) LS平面 図3.5 色弁別閾Θˆの決定 使用して,2色覚の観測者には提示A,3色覚の観測者には提示Bの実験を行った.色刺激 の背景は無彩色であり,小片の色は背景色を12方向にLMS変調したものであった.LMS 変調の例を図3.4 に示す.各変調方向について,提示した色刺激における背景色と小片の 色のD-CIELAB色差と,小片の位置の2AFCによる正答率の関係をプロットし,それを Weibull関数で近似した.得られた近似曲線について,観測者の回答の正答率が80%にあ たるD-CIELAB色差をΘˆA 2 またはΘˆB3 と定め(図3.5),これらを求めた.得られたΘˆA2 及 びΘˆB 3 を散布図にて比較し(図3.6),D-CIELAB色空間の妥当性を示した(図3.7). D-CIELAB色空間が妥当性であるということはJiangらが提案したシミュレーションモ デル [41] が正確であることを示しており,この評価方法はシミュレーションの正確性の検 討方法であるといえる.
図3.6 ˆΘA2 とΘˆB3 の散布図(文献[43]の図を修正して掲載)
第
4
章
提案手法
本論文では,標準的なディスプレイ上で,個々の 2色覚者に対してΘ付近でのシミュ レーションの適合性を判定する手法を提案する.提案手法はJiangらの手法 [43]に基づい ている.4.1
提案手法の特徴
提案手法では一人の2色覚者が観測者である.標準的なディスプレイでの実験における Θの精度を維持するために,LMS変調の代わりにRGB色空間での変調を用いる.また, 適合性の判定の信頼性を向上させるために,Θˆ に替えて,RGB色空間での変調量(以下, 単に変調量と呼ぶ)に基づくΘ˜ を用いる.更に,統計的な方法を使用して適合性を判定す る.提案手法の特徴について,Jiangらの手法と比較する形で表4.1にまとめた. 4.1.1 2色覚の観測者 提案手法では,同一の2色覚者が色刺激の観測者として提示Aと提示Bでの実験を行い, 観測者に対するシミュレーションのΘ付近の適合性を判定する.提示Aと提示Bの観測者 は同一であるので,色刺激に対する反応に違い(個人差)はない.シミュレーションが観測 者に適合している場合,ΘA2 とΘB2 は同じである.逆に,ΘA2 とΘB2 が同じ場合に,シミュ レーションが観測者に適合していると単純には結論付けることができない.2色覚者には機 能しない錐体があるので,使用者に適合していないシミュレーションモデルを用いて得た色 表4.1 提案手法の特徴(Jiangらの手法との違い) 検討対象 観測者 変調色の決定 Θに用いる値 評価方法 提案手法 シミュレーション 2色覚 RGB色空間 変調量 相関係数 の適合性 回帰直線 Jiangら シミュレーション 2色覚(提示A) LMS色空間 D-CIELAB色差 散布図 の手法 の正確性 3色覚(提示B)(a) (b) (c) 図4.1 LMS変調とRGB値(a) LMS色空間での色指定,(b) RGB色空間における(a)の色の座標,(c) RGB値の整数化 でも,使用者に適合したシミュレーションモデルを用いて得た色と同じに見える場合があ るからである.提案手法では,シミュレーションの正確性を調べるのではなく,シミュレー ションは(平均な観測者に対して)正確であると仮定して,個人への適合性を判定する.シ ミュレーションの正確性は他の方法,例えばJiangらの手法によって検証することを前提と している.提案手法ではΘA2 とΘB2 が同じでない場合,シミュレーションが適合していない と判定する.そうでない場合は,適合するとみなす. 4.1.2 RGB変調 Jiangらの手法では,変調色は LMS値によって指定され,対応するRGB値は基本的に 実数(非整数)となる.一方,提示色は整数のRGB値でなければならず,四捨五入が必要 となる.すなわち,提示色は変調色とわずかに異なる(図4.1). Jiangらの実験では14ビット深度のディスプレイを用いているので,整数値への丸めに よる誤差は無視可能な程度である.一方,標準的なディスプレイでは,8ビットの整数の RGB値によって色を指定する.Jiangらの手法を標準的なディスプレイを用いて実施する 場合,丸め誤差の発生によりΘの計算精度が低下することがある.その場合,統計的な処 理の判定精度が低下する.すなわち,シミュレーションの適合性の判定の信頼性が低下して しまう. 変調がRGB色空間のいずれかの軸方向で行われ,変調量が整数の場合(以下,この変調
図4.2 提案手法における提示色のRGB値 をRGB変調と呼ぶ),提示Aでは提示色が変調色と一致する.すなわち,RGB変調の場 合,提示Aでは丸め誤差が発生しない.一方,シミュレーションされた色は一般に実数(非 整数)となり,整数のRGB値で表される提示色とは一致しない(図4.2).つまり,RGB変 調の場合でも,提示Bでは丸め誤差が発生する.ただし,発生する誤差の大きさは,LMS 変調の場合に提示Bで発生する誤差の大きさと同程度であるといえる.全体として,LMS 変調に比べてRGB変調では丸め誤差が減少するといえる. 4.1.3 変調量を用いたΘの表現 Jiangらの手法では,D-CIELAB色差を用いたΘˆ2(3.3 節)を用いてシミュレーション の正確性を検討する(図3.7).D-CIELAB色空間はシミュレーションモデルを用いて表現 される.検討対象であるシミュレーションモデルがΘˆ2の計算過程に含まれるという問題が ある.Θˆ を使用してシミュレーションを評価するJiangらの手法とは異なり,提案手法で は変調量に基づいたΘ˜ を使用する.Θ˜ の計算過程では,検証対象のシミュレーションモデ
図4.3 色刺激の構成 ルは使用されない.したがって,Θˆ を使用する場合と比較して,シミュレーションの適合性 の判定の信頼性が改善される.2色覚の観測者の Θ˜ はΘ˜2 と表記する.提示A及び提示B のΘ˜2 は,それぞれΘ˜A 2 及びΘ˜B2 と表記する. 4.1.4 統計的な方法による適合性の判定 Jiangらの手法では,散布図によるΘˆA 2 とΘˆB3 の比較からD-CIELAB色空間の妥当性を 評価した.提案手法では,Θ˜A2 及びΘ˜B2 の相関係数及び回帰直線用いてΘ˜A2 とΘ˜B2 の一致度 を調べることでシミュレーションの適合性の判定を行う.
4.2
実験方法
提案手法の実験では,観測者は2色覚者であり,色刺激に応答する.色刺激は,背景と小 片で構成されている(図4.3).小片の色は背景色をRGB変調して得たものである.観測者 は色刺激における小片の位置を応答する.観測者のΘ˜ は,正答率と色刺激における小片の 変調量から得られる.観測者に対するシミュレーションの適合性は,Θ˜AとΘ˜B を比較する ことで判定される(図4.4). 4.2.1 色刺激 提示Aの色刺激は,背景色と,背景色を6方向にRGB変調した色(変調色)の小片から なる.提示Bでは,提示Aの色刺激をシミュレーションモデルで変換した色を使う.色刺 激の生成と提示の概略を図4.5に示す. まず,提示Aで使用する色刺激について説明する.色刺激の変調色は,六つの異なる方 向からサンプリングされる.RGB色空間の背景色に対してノンリニアRGB成分の一つを 段階的に増減する.Rの値を増加させるときはR+で表し,値を減少させるときはR−で表 す.これらの変調色を用いて色刺激に含まれる小片を形成する.ある背景色をOとし,そ図4.4 ˜Θでの提示Aと提示Bの比較
図4.5 色刺激の生成と提示
の要素を
O =(OR,OG,OB) (4.1)
とする.ここで,OR,OG,OB はそれぞれR,G,B成分の値であり,整数値である.例
えば,背景色O及び小片のRGB値がそれぞれ(204, 204, 204)及び (205, 204, 204)である 場合,小片の色はOR+ 1 と表される.一般に,変調の方向がRである変調色は OR+ i = (OR+ i, OG, OB) (4.2) または OR− i = (OR− i, OG, OB) (4.3)
と表される.ここで,iは変調量であり,正の整数である.GまたはBの値を増減する場合 にも同様の表記を用いる. 次に,提示Bで使用される色刺激について説明する.例えば,シミュレーションモデル Xによって色OCiから変換された色は,OCXiで示される.ここで,Cは変調の方向であり, R+,R−,G+,G−,B+,B−である.OX Ci を提示したとき, [O X Ci]と表記する.[O X Ci]は OXC i と少し値が異なる場合がある.O X Ci の要素と [O X Ci]はそれぞれ次のように記述する. OCX i = (O X Ci,R, O X Ci,G, O X Ci,B), (4.4) [OCX i] = ([O X Ci,R], [O X Ci,G], [O X Ci,B]). (4.5) ここで,OXC i,R,O X Ci,G,O X Ci,Bは実数である.[O X Ci,R],[O X Ci,G],[O X Ci,B]はそれぞれ,O X Ci,R, OCX i,G,O X Ci,Bの小数部分を四捨五入して得られた整数である.なお,提示Aの場合は[OCi] とOCi は同じ色である. 4.2.2 提示A及び提示Bの変調量 提示A及び提示Bの変調量は整数であり,それぞれiA及びiB として示す.これらは変 調色の変調量iから計算する. 提示Aの場合は単純であり,iAは次のように定義する. iA([OCi]) = i. (4.6) 提示B の場合,一部の色刺激は,丸め処理の結果として同じ提示色になる場合がある. 提示Bの提示色が [OXC i]と同じ色である色の変調量j の集合Sを次のように記述する. S([OXC i]) = {j|[O X Cj] = [O X Ci]}. (4.7) iB([OCXi])は次のようにして得る.
iB([OXCi]) = arg min
j∈S([OXCi]) ∑ Q={R,G,B} |OX Cj,Q− [O X Cj,Q]|. (4.8) ここで,arg minは最小値を与える束縛変数(式(4.8)ではj)の値を意味する. 4.2.3 色刺激と弁別閾の計算 色刺激の提示について,例を使用して説明する.色刺激の提示の流れを図4.6に示す.最 初に,背景色OまたはOXと固視点+をディスプレイに提示する.その後,色刺激(1) (小片が固視点の上)または(2)(小片が固視点の下)を非常に短時間提示する.小片が消え ると,背景色と固視点のみを再び提示する.
図4.6 色刺激の提示. 色刺激(1)または(2)をランダムに短時間提示する. 表4.2 変調色と提示色のRGB値と変調量の例.OのRGB値は(204, 204, 204)で,変調の方向はR−である. i 1 2 3 4 5 · · · 提示A [OR− i] (= OR−i ) R 203 202 201 200 199 G 204 204 204 204 204 · · · B 204 204 204 204 204 iA([OR− i ]) 1 2 3 4 5 · · · 提示B OX R− i R 216.9 216.4 216.0 215.6 215.2 G 196.8 196.5 196.2 196.0 195.7 · · · B 204.6 204.6 204.6 204.7 204.7 [ OX R− i ] R 217 216 216 216 215 G 197 197 196 196 196 · · · B 205 205 205 205 205 iB ([ OX R− i ]) 1 2 3 3 5 · · · 表4.2にO = (204, 204, 204)の場合の提示A及び提示Bの小片の色の例を示す.この例 では[ORX− 3 ] と[OXR− 4 ] は同一である.iB([OXR− 3 ]) = iB ([ ORX− 4 ]) = 3であり,i = 4は使 用されない(図4.7). 実験では,各色刺激を10∼15回提示する.色刺激の提示の順序はランダムである.各 小片が固視点の上または下のどちらに提示されるかもランダムである.観測者は2AFCに よって色刺激の小片の位置を答える.図4.8は,Θ˜ の値を決定する方法を示している.横軸 と縦軸は,それぞれ小片の色の変調量と観測者の正答率である.図中の点は変調量ごとの正
図4.7 異なる色が丸め処理により提示Bでは一致する例
答率であり,これらの点をWeibull関数で近似する.Θ˜ の値は,近似されたWeibull関数で
の正答率が80%となる変調量である.このΘ˜ の決定方法はJiangらの手法と同じである.
図4.8 に示すように,Θ˜ を決定するには,近似曲線に適した 10個程度のデータが必要
(a) (b) 図4.8 色弁別閾の決定(a) ˜ΘA2,(b) ˜ΘB2 は約50% から100%となり,点の分布はWeibull関数での近似に適している.観測者は 2AFCで回答するので,変調量が非常に小さい場合,正答率は約50%になる. 適切なデータを取得するためには,実験条件(小片の形状と位置,色刺激の提示時間な ど)を調整する必要がある.例えば,提示時間が長すぎると,変調量が小さくても正答率が 高くなり,Weibull関数で適切な近似ができず,Θを適切に決定できない.また,各色刺激 の提示回数についても調整の余地がある.正確な正答率を適切に得るためには,提示回数は 多い方が好ましいが,観測者の作業負荷は大きくなる.変調量が大きい色刺激の場合には 正答率は自然に高くなり,提示回数を減らすことができる.一方,変調量がΘ付近にある (変調量が小さい)色刺激の場合,提示回数を多くする必要がある. 4.2.4 適合性の判定 適合性の判定の流れを図4.9に示す.まず,Θ˜A 2 とΘ˜B2 の相関係数を取得する. ˜ ΘA2 とΘ˜B 2 の相関係数が0.7未満の場合,Θ˜A2 とΘ˜B2 の間に強い相関はない.シミュレー ションは観測者に適合しないと判定する. 相関係数が 0.7以上の場合,強い相関があり,Θ˜A 2 と Θ˜B2 に関連する正の傾きの回帰直 線が想定される.この場合,回帰直線の傾きと切片について検討する.Θ˜A 2 とΘ˜B2 が同じ場 合,回帰直線の傾きと切片はそれぞれ1と0である.したがって,検定の帰無仮説は「回帰 直線の傾きは1である」及び「回帰直線の切片は0である」となる.傾きが1と大きく異な る,または切片が0と大きく異なる(少なくとも一つの帰無仮説が棄却される)と判定され た場合,シミュレーションは観測者には適合していないと判定する.帰無仮説が二つとも棄 却されない場合,シミュレーションは観測者に適合しているとみなす*1. *1どちらの帰無仮説も棄却されない場合,「傾きが1ではないことはない」及び「切片が0 ではないことはない」とは結論付けること はできない.すなわち,「傾きが1 であること」及び「切片が 0 であること」を意味しない.しかし,シミュレーションが観測者に
図4.9 シミュレーションの適合性の判定の流れ
第
5
章
提案手法の適用例と考察
提案手法の適用例として,Brettelらにより提案されたシミュレーションモデル(Brettel モデル)[33]を用いた実験を行った.5.1
実験
5.1.1 観測者 本実験の観測者は 1型2色覚者1名(観測者1)と2型2色覚者1名(観測者2)であ る.観測者の色覚は石原色覚検査表,標準色覚検査表,アノマロスコープで確認した.本 実験は,名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科倫理審査委員会の承認を得て行っ た.承認番号は2017-NCU-NS-51である.実験において観測者として参加した全員からイ ンフォームドコンセントを得た上で実験を実施した. 5.1.2 実験の実施までの手順 実験の実施までの手順は図5.1に示すとおりである.観測者は暗室に入り,部屋の明るさ に慣れるまで5分間待った.ディスプレイの背景色に慣れるために,観測者に背景色が2 分間*1提示された.その後,観測者は提示される色刺激(4.2.1項)における小片の位置を 2AFCで応答した. 5.1.3 色刺激の提示 使用した液晶ディスプレイはColorEdge CG247(24.1インチ,8ビット深度)である. ディスプレイの設定は白の輝度を56 cd/m2 とした他はsRGBに従った.使用した背景色Oは4種類(Gray,Yellow,Magenta,Cyan)であり,ディスプレイ全面に表示した.使用 したO及び白のRGB値,xy色度,輝度を表5.1に示す.輝度はKonica Minolta CS-2000
*1Fairchild らはディスプレイの明るさに 3 人の観測者が順応する(慣れる)までの時間経過を調べている [58].Fairchild らの実
図5.1 実験の実施までの手順 表5.1 背景色O及び白のRGB値・xy色度・輝度 色 RGB xy色度 輝度[cd/m2] R G B x y Gray 204 204 204 0.313 0.329 35.3 Yellow 204 204 153 0.347 0.386 34.1 Magenta 204 153 204 0.315 0.272 24.1 Cyan 153 204 204 0.279 0.329 31.9 白 255 255 255 0.313 0.329 56.0 で測定した.提示する色刺激はMATLABにてPsychtoolbox [5557]を用いて制御した. この実験で使用した色刺激は,図5.2に示すように提示した.ディスプレイ中央に表示し た固視点+の上または下に小片を提示した.小片の中心は固視点の1.5◦ 上または下で, 小片の直径は1.0◦とした.小片の色はOを基準に6方向(R+,R−,G+,G−,B+,B−) に変調した.各方向の変調強度は8∼10段階とした.各色刺激は10∼15回提示し,これら の色刺激はランダムな順で提示した. 5.1.4 RGB原色の分光分布と錐体の分光感度 実験で使用した液晶ディスプレイのRGB原色*2の分光分布とL・M・S錐体の分光感度 を図5.3に示す.L錐体は,R,Gによく反応し,Bにも少し反応する.M錐体は,Gに対 する感度が高いが,R,B にも反応する.S錐体はB に対する感度が高く,Gに少し反応 し,Rには(ほとんど)反応しない. *2原色のRGB 値は,R:(255, 0, 0),G:(0, 255, 0),B:(0, 0, 255) である.
(a) (b) (c) 図5.2 色刺激の提示(a)色刺激(1)または(2)をランダムに提示,(b)色刺激(1)の小片の位置,(c)色 刺激(2)の小片の位置 図5.3 RGB原色の分光分布とL・M・S錐体の分光感度 5.1.5 背景色と変調方向 図5.4は,提示Aでの背景色と変調方向をxy色度図上に示したものである.背景色の決 定にあたり,色域 [52]を考慮した.色域の境界近くの色を背景色とすると,変調の段階を 十分にとれないことがあるからである.また,背景色によっては変調の段階が小さいうちに 正答率が100%になってしまうことがあり,その場合は色弁別閾Θ˜ が適切に求められない.
図5.4 提示Aでの背景色と変調方向(xy色度図)
(a) (b) (c) (d)
図5.5 MS平面における提示Aでの変調方向(a) Gray,(b) Yellow,(c) Magenta,(d) Cyan
(a) (b) (c) (d)
図5.6 LS平面における提示Aでの変調方向(a) Gray,(b) Yellow,(c) Magenta,(d) Cyan
例えば,背景色からRGB値を1増減させただけで色の違いが明確な場合はその時点で正答
率が100%になってしまい,Weibull関数による適切な近似ができない.そのようなことが
起こらない色を背景色として指定した.
図5.5及び図5.6はそれぞれ,提示Aでの背景色と変調方向をMS平面及びLS平面上に
いても,R方向とG方向の変調はMS平面においてM軸にほぼ平行(LS平面においては L軸にほぼ平行)であり,B方向の変調はS軸にほぼ平行であることが分かる.R方向とG 方向の変調ではM錐体あるいはL錐体の反応を,B方向の変調ではS錐体の反応を調べる ことになる.
5.2
実験結果
2名の観測者それぞれについて,Θ˜A とΘ˜Bを決定した.5.1.3項で述べたように,Oが 4種類あり,それぞれについて6方向の変調を行うので4× 6 = 24組のΘ˜AとΘ˜B が得ら れる. 5.2.1 Weibull関数による近似 ˜ ΘAとΘ˜B の決定にあたり,2AFCの正答率の分布をWeibull関数により近似するが,そ の精度について述べる. 2AFCの正答率をWeibull関数で近似した例を図5.7に示す.観測者,提示Aあるいは (a) (b) (c) (d) (e) (f) 図5.7 2AFCの正答率の実測値と推定値(各項目では「観測者,提示の種類,背景色,変調方向,RMSE」 を示している)(a)観測者1,提示B,Cyan,G−,1.1,(b)観測者1,提示B,Gray,G−,7.5,(c)観測 者1,提示A,Gray,G+,13.1,(d)観測者2,提示B,Cyan,G+,19.1,(e)観測者2,提示A,Cyan,表5.2 2AFCの正答率の実測値と推定値のRMSE(観測者1,提示A;単位は%) 背景色 変調方向 平均値 R+ R− G+ G− B+ B− Gray 21.2 12.3 13.1 12.8 11.8 13.0 14.0 Yellow 9.7 21.7 4.4 6.3 16.5 14.3 12.2 Magenta 18.9 15.5 5.4 13.5 12.6 13.3 13.2 Cyan 20.8 19.7 6.7 6.7 10.6 10.4 12.5 平均値 17.6 17.3 7.4 9.8 12.9 12.7 13.0 表5.3 2AFCの正答率の実測値と推定値のRMSE(観測者1,提示B;単位は%) 背景色 変調方向 平均値 R+ R− G+ G− B+ B− Gray 10.8 5.0 7.7 7.5 22.8 15.5 11.5 Yellow 22.8 14.6 11.9 4.7 13.5 13.3 13.4 Magenta 9.6 15.4 4.4 1.3 19.3 12.9 10.5 Cyan 23.3 14.3 13.3 1.1 22.5 20.4 15.8 平均値 16.6 12.3 9.3 3.6 19.5 15.5 12.8 表5.4 2AFCの正答率の実測値と推定値のRMSE(観測者2,提示A;単位は%) 背景色 変調方向 平均値 R+ R− G+ G− B+ B− Gray 2.3 13.5 16.7 11.4 15.7 3.6 10.5 Yellow 20.9 17.8 13.2 11.0 15.6 20.4 16.5 Magenta 13.2 19.2 6.2 13.3 10.0 32.9 15.8 Cyan 25.5 11.1 6.9 7.1 15.3 13.6 13.2 平均値 15.5 15.4 10.7 10.7 14.2 17.6 14.0 B,背景色,変調方向の組み合わせによって正答率の分布は異なり,Weibull関数での近似 誤差の大小が変化する.2AFCの正答率の実測値とWeibull関数での近似値(推定値)の二
乗平均平方根誤差(root mean squared error)をRMSEと表現する.図5.7ではRMSEが 小さいものから大きいものまでの例を示している.
正答率の実測値と推定値のRMSEについて,観測者1については表5.2及び表5.3,観
測者2については表5.4及び表5.5に示す.RMSEは平均的には14%程度である.大きな
表5.5 2AFCの正答率の実測値と推定値のRMSE(観測者2,提示B;単位は%) 背景色 変調方向 平均値 R+ R− G+ G− B+ B− Gray 0.5 18.1 27.9 12.9 27.1 1.4 14.7 Yellow 16.7 12.3 17.9 12.8 11.8 18.5 15.0 Magenta 14.8 19.9 11.6 14.9 16.4 9.6 14.5 Cyan 21.1 3.3 19.1 11.7 48.9 20.5 20.8 平均値 13.3 13.4 19.1 13.1 26.0 12.5 16.2 みであり,多くの場合RMSEは20%以下である.すなわち,たいていの場合は図5.7(a)∼ (d)のような状況であり,RMSEが適合性の判定に与える影響は小さいと考えられる. 5.2.2 適合性の判定 2名の観測者それぞれについて,Θ˜AとΘ˜Bの相関係数は表5.6のとおりであった.どち らの観測者についても相関係数は0.7以上であり,Θ˜AとΘ˜B から傾きが正の回帰直線が求 められる. 2名の観測者のΘ˜AとΘ˜Bの散布図と回帰直線を図5.8に示す.図の横軸はΘ˜Aで縦軸は ˜ ΘB である.観測者1のΘ˜AとΘ˜Bの回帰直線は y = 0.51x + 2.57 (5.1) であった(図5.8(a)).また,観測者2のΘ˜AとΘ˜Bの回帰直線は y = 0.99x + 1.05 (5.2) であった(図5.8(b)).観測者1及び2の回帰直線の傾きについての帰無仮説を「回帰直線 の傾きは1」とし,切片についての帰無仮説を「回帰直線の切片は0」として,それぞれに ついて有意性検定を行った.t検定(両側検定)を用い,有意水準は0.05とした.それぞ れの観測者の有意確率の値を表5.7に示す.これらの結果は,BrettelモデルはOに関して (そのままでは)観測者1には適しておらず,観測者2には(調整の必要なく)適している ことを示している.観測者1の色刺激に対する視覚的な反応は,(Brettelモデルにおいて想 表5.6 2名の観測者のΘ˜AとΘ˜Bの相関係数 観測者 相関係数 観測者1 0.89 観測者2 0.78
(a) (b) 図5.8 2名の観測者のΘ˜AとΘ˜Bの散布図と回帰直線(a)観測者1,(b)観測者2 表5.7 ˜ΘAとΘ˜Bの回帰直線の「傾きが1である」あるいは「切片が0である」確率 観測者 傾きが1である 切片が0である 観測者1 < 0.0001 0.0004 観測者2 0.97 0.39 定されている)平均的な観測者の反応からずれており,モデルの調整が必要であると考えら れる.一方,観測者2の色刺激に対する視覚的な反応は平均的な観測者の反応と一致すると 考えられる.
5.3
考察
5.3.1 変調方向と色弁別閾 図5.8の各点を変調方向により色分けしたものを図5.9に示す.また,観測者1と観測者 2の比較を容易にするために,Θ˜Aを背景色別にレーダーチャートにしたものを図5.10に示 す.図5.9,図5.10より,変調方向によりΘ˜ の分布の傾向が異なることが分かる.観測者 1はR方向のΘ˜ が大きい.観測者1は1型であり,Rの光に最もよく反応するL錐体がな いことからこのような結果となったと考えられる.一方,2型の観測者2はB方向でのΘ˜ が大きく,次にR方向のΘ˜ が大きい.B方向で比べると観測者1よりも観測者2の方がΘ˜ が大きい.図5.3に示したように,B方向の変調による色刺激の変化に主に反応するのはS 錐体である.S錐体は1型と2型で共通に有している.B方向のΘ˜ に差がある理由の候補 として「観測者1と観測者2のS錐体の機能*3に個人差がある」ことが考えられる.これ *3ここでは,S 錐体からの情報を脳に伝達する神経系の働きを含めた意味とする.(a) (b) 図5.9 変調方向別のΘ˜ の分布(a)観測者1,(b)観測者2
(a) (b)
(c) (d)
図5.10 背景色別の観測者1と観測者2のΘ˜Aの比較(a) Gray,(b) Yellow,(c) Magenta,(d) Cyan
は5.2.2項で判定した「観測者2は平均的な観測者の反応と一致するが,観測者1は平均的
な観測者の反応からずれている」ことと矛盾しない.ただし,Bの光に反応するのはS錐体
(a) (b) 図5.11 観測者1のΘ˜の背景色ごとの比較(a) ˜ΘA,(b) ˜ΘB (a) (b) 図5.12 観測者2のΘ˜の背景色ごとの比較(a) ˜ΘA,(b) ˜ΘB じている可能性もある.現状のデータのみでは「観測者1と観測者2のS錐体の機能に 個人差がある」と結論づけることはできない. 5.3.2 背景色と色弁別閾 図5.11及び図5.12に観測者ごとのΘ˜ のレーダーチャートを示す.観測者1及び観測者2 ともに,いずれの背景色でも同様の傾向がみられ,背景色の違いによるΘ˜ の分布の違いは それほど見られない.今回の実験のように,背景色の数が多くなくてもシミュレーションの 適合性を調べられることを示唆している.