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食道癌集学的治療における成績向上と低侵襲手術の確立

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Academic year: 2021

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(1)

食道癌集学的治療における成績向上と低侵襲手術の

確立

著者

亀井 尚

雑誌名

東北医学雑誌

129

2

ページ

159-160

発行年

2017-12

URL

http://hdl.handle.net/10097/00128760

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教授就任記念講演

― 2017年 5 月 25 日(木) : 医学部百周年開設記念ホール 星陵オーディトリアム 講堂

食道癌集学的治療における成績向上と低侵襲手術の確立

東 北 大 学 教 授 亀  井      尚

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2 略 歴 生年月日  1966 年 6 月 6 日 出身地  岩手県奥州市 1991年 3 月  東北大学医学部卒業 1991年 6 月  岩手県立磐井病院外科研修医 1994年 4 月  東北大学医学部第 2 外科入局 1995年 4 月  東北大学大学院医学系研究科博士課程入学 1999年 3 月  同卒業 医学博士号取得(東北大学) 1999年 4 月  石巻赤十字病院外科副部長 2002年 10 月  厚生労働省特別研究員 2006年 4 月  東北大学病院 移植再建内視鏡外科 助教 2012年 4 月  東北大学病院 移植再建内視鏡外科 講師 2014年 4 月  東北大学大学院医学系研究科先進外科学分野 准教授 2016年 12 月  東北大学大学院医学系研究科消化器外科学分野 教授

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教授就任記念講演

食道癌集学的治療における成績向上と低侵襲手術の確立

Improvement of Clinical Outcome and Establishment of Minimally Invasive Surgery in Multimodality Treatment for Esophageal Cancer

亀  井     尚 東北大学大学院医学系研究科 消化器外科学分野 は じ め に 現在,食道癌治療は,手術,放射線照射,化学療法 を組み合わせた集学的治療により,成績向上が図られ ていますが,治療の柱が手術であることに変わりはあ りません.胸部食道癌に対する開胸切除術の世界初の 成功例は,1913 年米国の Torek により報告されてい ます.左後側方大開胸による手術で,切除後の消化管 再建はできず,頸部食道と胃をゴムチューブで連結し た写真があまりにも有名です.この手術から 100 年余 りがたったわけですが,本邦で食道癌手術が本格的に 開始されたのは戦後になります.食道癌外科治療の研 究テーマも,「死亡率減少のための様々な研究」,「成 績向上へ向けてリンパ節郭清の標準化」,「低侵襲手術, 集学的治療の研究」と時代の変遷とともにトピックが 変わってきた経緯があります.私は平成 6 年に第二外 科に入局してから一貫して,食道癌の診断,治療のた めの基礎・臨床研究を行ってきました. 胸腔鏡手術の開発,改良と検証,普及 高度侵襲を伴う食道癌手術において,低侵襲な手術 を適切に行うことは合併症の発症率,治療成績に大き く影響します.教室では 1994 年に赤石隆先生が本邦 初の胸腔鏡下食道切除,縦隔リンパ節郭清術を導入し て以来,この領域をリードしてきました.当初は,開 胸手術の術野を再現する形で,左側臥位による対面 2 モニター法による手術を施行し,呼吸機能の維持,術 後創痛における優位性があり,さらに開胸手術と成績 が同等であることを報告してきました.その後,2012 年から CO2 による人工気胸を併用した腹臥位胸腔鏡 手術へ術式を変更し,出血量の劇的な減少,肺合併症 率の低下,術後炎症反応の速やかな改善をデータとし て確認し,報告しました.現在では,この腹臥位胸腔 鏡下手術を標準術式としてほぼすべての食道癌症例に 行 っ て い ま す. 治 療 成 績 は pStage I 91.1%,IIA 71.1%,IIB 51.2%,III 41.0%,IV 23.4%(術前治療なし,

TNM 第 6 版)と全国平均を大きく凌駕しています. 胸腔鏡手術を安全に行うための 3D シミュレーション の開発,早期リハビリプログラムを導入した包括的周 術期管理なども確立してきました.東北各地の教室関 連病院でも胸腔鏡下食道癌手術を広く行うように指導 教育,普及に努め,現在では全食道癌手術の 80% を 胸腔鏡下に行うようになっています.全国的にも低侵 襲手術が増えていますが,最新の胸腔鏡下手術率は約 40%ですので,胸腔鏡手術が広く行われていること が分かります.現在,開胸手術と胸腔鏡手術の優位性 を検証する RCT が JCOG1409 として行われています.

さらに,2013 年から da Vinci surgical system による ロボット補助下胸腔鏡食道切除術を臨床研究として開 始しました.本手術は,3D かつ手振れ補正された安 定した術野が提供されること,7 自由度の関節を有す る鉗子で繊細な操作が可能となるなどの特徴があり, より低侵襲な手術となる,あるいは術後合併症の減少 がもたらされる可能性があります.症例を重ねてその 有効性,安全性の評価を行っていきます. 食道温存治療としての根治的化学放射線療法と サルベージ手術 食道癌手術は消化管構造の変化と高度侵襲を伴いま すので,術後の体重減少,逆流症状をはじめとする消 化器の愁訴,経口摂取に関する慣れ,日常生活の注意 などが避けられません.非手術治療としては,化学放 射線療法(Chemoradiotherapy ; CRT)がありますが, わが国では,高度進行切除不能例や高齢者,全身状態 不良による手術適応外症例に CRT が行われてきた経 緯があります.2000 年代に入り,CRT の成績向上が いくつかの専門施設から報告され,主に内科サイドか ら,切除可能例にも CRT の適応が考慮されるように

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160 亀井 ─ 食道癌集学的治療における成績向上と低侵襲手術の確立 なりました.我々は外科の立場でしたが,CRT 非奏 功例にはサルベージ手術を積極的に行うことで,治療 成績を落とさず,食道温存の恩恵を受ける患者さんが 増えるのではないかと着想し,サルベージ手術を 2 次 治療とした切除可能 Stage I∼III に対する根治的 CRT を前向き研究として進めました.結論から申しますと, 非奏功例を早期に拾い上げ,サルベージ治療にもって いくことを必須とすれば,生存率は手術単独と有意差 がないことを明らかにしました.また,食道温存率は Stage Iでは約 90% と高く,Stage II, III でも 30∼60% の患者さんが食道切除を回避でき,CRT の食道温存 治療としての有用性が証明され,以降の本邦の食道癌 治療体系を変えた研究と言えます.一方,この臨床研 究の中で,サルベージ手術が新しい研究テーマとして 注目されることになります.根治照射後の食道手術は 非常にハイリスクであり,それまでほとんど行われて いなかったため,サルベージ手術は 2006 年に日本食 道学会において「50 Gy 以上の根治目的の(化学)放 射線療法後の非奏功例に対する食道切除」として初め て定義された経緯があります.剥離層の瘢痕化,創傷 治癒の遅延,気道系・消化管の循環障害など外科にとっ ては非常に条件の厳しい手術ですが,多くの症例の蓄 積から,合理的な手術手技,周術期管理と合併症対策, 適応等を明らかにし,報告してきました.現在では, サルベージ手術も胸腔鏡下に行っており,日本で最も 多くの症例を手掛け,この領域をリードしています. これとほぼ同時期,切除可能 Stage II, III に対する根 治 CRT の臨床試験が JCOG9906 として行われました. 5年生存率が約 37% と言う結果で,食道癌専門施設 の手術成績には及ばないという結論でしたが,実はこ の試験ではサルベージ手術が 16% にしか行われてい ません.さらにサルベージ手術が行われたなかで,非 根治切除 R2 手術となったものが多く含まれています. 一方,我々の検討では 5 年生存率は 50% を超え,手 術単独と有意差がないと言う結果でしたが,サルベー ジ手術を約 40% の患者さんに施行していましたので, その差が生存率に直接影響していたと思われます. 我々の結果を受けて,現在,Stage II, III を対象に,根 治 CRT を 1 次治療とし,2 次治療としてサルベージ 治療を付加した phase II 試験が JCOG0909 として行わ れています. 今後の治療戦略と研究 外科における臨床研究のポイントは 3 つあります. 1. 症例数が圧倒的に多い. 2. 成績が圧倒的に良い. 3. 新しい手術,治療体系に取り組む. 症例数は,やはり大都市圏の専門病院のほうが多く, また成績も全国トップクラスではありますが,現状で 圧倒的な差をつけるのは難しい.東北大学としては, 新しい手術や治療手段を組み込んだ治療戦略の研究を 通して,これからの食道癌集学的治療に新しい概念を 提示することが重要と考えます.例えば,前述した JCOG1409,JCOG0909 は東北大学の研究結果から計 画された全国研究といえます.もちろん,この領域は 日本が世界をリードしていますので世界標準の治療体 系を構築することにつながります. 具体的な今後の研究対象としては,CRT の効果予 測に基づく 1 次治療の選択,厳密なリンパ節転移予測 法の確立による治療選択,ゲノム医療に基づく薬剤感 受性など,大きくは個別化医療,precision medicine と言われる研究があります.一方,再生医療や医工学 から生み出される成果の外科への応用,革新的な診断 法,AI による手術手技の研究などは,外科治療に全 く新しい概念をもたらす可能性があります.日々の診 療の問題解決と創意工夫を積み重ねながら,これらに つながる基礎・臨床研究を精力的に展開していきたい と思っています. お わ り に 今回,旧第 1 外科,旧第 2 外科が再編され,大学院 医学系研究科外科病態学講座は消化器外科学分野,乳 腺内分泌外科学分野の 2 分野,3 教授制となりました. この再編の目的は,研究・臨床面で世界的にアクティ ビティーの高い外科教室にすること,教育面で高度な 技量と人間性を併せ持つ外科医を育て,東北地方のみ ならず日本の外科医療を担う人材を輩出することと理 解しています.研究・教育・臨床に教室を挙げて取り 組むことを通して,個々人が楽しく仕事ができ,外科 医として幸せを感じられる教室を作っていく所存で す.

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