〔調査報告〕キルギスの大学におけるシラパスと非
母語話者教師の教師研修について
著者
アサノワ グリザル
雑誌名
言語科学論集
巻
18
ページ
75-88
発行年
2014-12-01
URL
http://hdl.handle.net/10097/58225
言語科学論集第18号2014年
〔調査報告〕キルギスの大学におけるシラパスと
非母語話者教師の教師研修について
75アサノワ・グリザル
キーワード:キルギスの大学、非母語話者教師、シラパス、教師研修 要旨 近年、キルギス共和国では非母語話者日本語教師数が母語話者日本語教師数を 上回り、キルギスの日本語教育の将来を担う人材として非母語話者日本語教師の 役割が重視されつつある。本調査では4大学で日本語教育に携わってきた8名の非 母語話者日本語教師に対し実施した、大学のシラパスと日本語教師の研修に関す るインタビュー調査をもとに、日本語指導上の問題点について報告する。調査の結 果、シラパスに学習項目が多いこと、授業時間数が少ないこと、教師自身に関して 日本語運用力の不安と教授法の不安があることが分かつた。1
.調査報告の背景
海外における日本語教育では、日本語を教える教師数は3万3
千余人に及ぶが、その 約7
割が日本語を母語としない非母語話者教師である(国際交流基金2
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)。日本語授 業においてしばしば、日本人教師が会話の指導を担当し、非母語話者教師が文法を担 当する例が見られるが、キルギス共和国(以下キルギス)では、日本語すべてを非母語 話者日本語教師が担当している場合が多い。 キルギスで非母語話者日本語教師が現場で抱えている問題点は多岐にわたってい る。教材や設備が足りない機関が多いことも問題だが、それ以上に問題なのは教授能 力に関する知識が少ない教師が多いことや大学のシラパスに関することがあげられ る。キルギスの現場では、依然として伝統的な教授法が使われているのが一般的であ る。つまり、教師の講義が授業の大半を占めており、学習者の発言、能力発揮のチャン スは極少ないのが現状である。そして、シラパスに関し、コースの目標達成までの授 業時間数が足りず、教えるべき項目を教えきれないといった不満も近年の教育現場 からは数多く見受けられる。 そこで、本調査では、非母語話者教師の日本語指導について、特に、教師のシラパス〔調査報告〕キルギスの大学におけるシラパスと非母語話者教師の教師研修について 76 と教師研修における問題点に焦点をあて調査を行った。
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キルギス共和国の日本語教育の概要 キルギスの日本語教育はソ連邦崩壊と前後して、キルギス民族大学で始まった。そ の後、日本とキルギスとの交流が深まるにつれ、国際交流基金から、日本語教育専門 家がキルギス民族大学東洋学学部に派遣されはじめ、その他の高等教育機関にも青 年海外協力隊の日本語教師の派遣が開始された。以来、日本語教育は広がりを見せ、 現在、高等教育機関を中心に、約10機関で日本語教育が行われている。日本語はキル ギスの様々な大学において主専攻、第二外国語、そして選択科目として教えられてい る。キルギスでの日本語教育が始まって24年になるが、問題点もさまざまである。そ して、近年キルギスの大学の卒業生がキルギスの日本語教育機関で教師として働く ようになり、日本語教育の現地化も進行中である。3
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調査概要 キルギスの日本語教育現場における非母語話者日本語教師が直面している指導上 の問題点を把握するため、キルギスの首都ビシュケク市で4つの機関の非母語話者日 本語教師8名を対象に半構造化インタビュー調査を行った(2013年6月10日から7月2 日までY
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協力者についての情報を表1
に示す。 協力者の属性 表l 指導する クラスのレベル コースの 教授歴 性別 教師 級 級 級 級 級 級 級 級 中 中 初 初 中 初 初 初 位置づけ 主専攻 主専攻 〆主専攻 主専攻 第2外国語 第2外国語 選択科目 選択科目 14年間 7年間 5年間 4年間 1年間 11年間 2年間 1 1年間 女 女 女 女 男 女 女 女 A Dc
B E F G H言語科学論集第18号2014年 77 インタビュー調査は全てキルギス語かロシア語で行った。調査の時間は一人あた り45分から1時間半であった。インタビュー調査は「コース全体について」、「教師自身 について」という内容を中心に構成した。以下であげているインタビューからの引用 は、ロシア語かキルギス語を筆者が日本語に翻訳したものである。
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調査結果 今回の調査協力者は8名であり、キルギスの日本語教育全体からすれば限られた事 例に過ぎないが、調査に協力してくれた教師が大学のシラパスと教師研修に関して どのような問題点を抱えているかについて報告する。キルギスの高等教育段階にお ける日本語教育は、それぞれの大学によって抱える問題点や課題もさまざまである。 一方で調査の結果からしばしば共通して指摘された問題点があることが分かつた。 よって以下、共通して指摘された問題のうち、日本語コースのシラパスと非母語話者 日本語教師の研修との関係ということに絞って報告を行う。4-1.
日本語コースのシラパスについて キルギスの大学の日本語コースのシラパス作成方法は、まず、大学が定める学習時 間数を計算して表を作成し、使用教科書の各課をそのままシラパスの枠内当てはめ るだけのものが多いと言っても過言ではない。具体的に言うと、シラパスは、①コー スの目標、②実施期間、③授業時間数、④教育内容、⑤試験から成る。 まず、日本語コースの目標について言うと、効果的なコミュニケーションと、学習 者が実際にコミュニカテイブな状況下で日本語を理解し使用できる能力の育成に重 点が置かれている。学習者は、日本という園、日本人、日本人の生活スタイル、文化な ど、日本への理解を次第に深めていくことが求められている。 次に実施期間は、l
学期(9月1日∼1月中旬)と2
学期(1
月下旬∼5月下旬)からと成っ ている。授業時間数は機関によって異なる。教育内容は、特定の教科書の内容である。 つまり、使用教科書の各課がそのままシラパスの枠に当てはめられる。現在、初級ク ラスで一番多く使用されている初級教科書は『みんなの日本語J
I
、II(スリーネット ワーク編)であり、1
年間で主専攻としているl
年生の機関ではだいたい第25
課まで教 え、選択科目や第二外国語としている機関では第15課まで教えている。中級クラスの 教科書は教師によって異なる。そして、試験に関しては、試験の回数と種類は各機関 が定めるが、内容は担当の教師に任されている。そして、日本語コースの実施期間が78 〔調査報告〕キルギスの大学におけるシラパスと非母語話者教師の教師研修について 終了する際、日本語コースと内容について学習者にアンケートが行われる機関もあ る。 今回の調査の対象になっていた8名の教師が勤めている 4機関の状況はそれぞれ違 うが、いずれもシラパスに関する問題点が共通している。それは、シラパスを実施す る際の大きな問題点として、「教えなければならない学習項目が多い」「授業時間数が 少ない」ということが教師のほとんどから挙げられた点である。
4-2.
シラパスに学習項目が多い乙とについて シラパスを作成するのはクラスを担当する教師である。しかし、シラパスに学習項 目が多いという問題点が多くの教師から出されたが、この点について質問した。以下 の回答が示す通り、学習項目の多さは教師だけの問題ではないことが分かった。 教師B
「シラパスを作ったら、上からチェックされます。場合によって、シラパス の内容を加えるようにとも言われます。」 教師D「シラパスはある教科書をもとに自分で、作っていますが、大学から必ずコ ントロールされています。学習項目についてもチェックされます。ということ で、授業は時間の制限でシラパス通りにいかない場合が多いです。J
実は、キルギスの大学のシラパスは、教師が自分自身で指導項目を整理することに 焦点がおかれている。現在、特定の教科書を中心にシラパスを作り、それに従って教 えていく教師がほとんどである。しかし、そのシラパスを作る際に大学の教務課から チェックが入り、シラパスが修正・変更される場合が多い。日本語を1年間で何を、ど のように教えるかということにおいて、教師と大学の裁量とが一致していないこと が分かる。 そして、なぜ教務課はシラパスに学習項目を多く入れるようにしているかについ て質問した。これについて、教師Aは次のように語っている。 教師A「最近、学習者の数がとても減っています。2人か3人ぐらいの学習者がい るクラスもあります。だから、オープンキャンパスや学校などに行って日本語学 科の宣伝をしなければなりません。その時、大学を卒業するまでたくさんのこと言語科学論集第18号2014年 79 ができるなどの話をして、学習者を募集しています。」 すなわち、シラパスは最近日本語学習者の数が減少しているキルギスの現場の、数 多く学習者を募集するための工夫であることが分かる。 しかし、教師の中にはシラパス通りに教えていない教師もいる。 教師C「最近、キルギスで日本語能力試験が実施されるようになってきて、受け たい学習者も多いです。だから、授業中、文法、語葉、漢字も集中して教えていま す。」 上記の回答に関し、シラパスの内容と一致していないのではないかということに ついて聞いてみると、「クラスのほとんどの学習者は日本に留学したいという目標で 大学に通っています。そのために日本語能力試験を受けなけれぺなりません。だか ら、学習者とみんなで話し合って日本語能力試験に向けて、合格できるように授業を しています。その結果
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級を合格している学習者も少なくない」とコメントしている。 学習者の希望で、シラパスを少し変えて授業を行っている教師もいたが、シラパスは 変えられない教師がほとんどである。その理由について教師B
は、「毎年コースの最 後に、教務課は学習者に日本語コース全体についてアンケートをとっています。だか ら、簡単にシラパスは変えられませんJ
と語っている。 また、調査対象者の中に次のような問題で困っている教師もいた。調査前にインタ ビューを積極的に引き受けてくれなかった教師Gは、「教師としての悩みと問題はた くさんあります。日本語教育の知識はまったくないからシラパスや教案などの作り 方も分からないですJ
と述べている。どのようにシラパスを作っているかについて聞 くと、「日本語の教師は私しかいないから相談にのる誰もいません。それで、隣の英語 コースのシラパスをみたりしています」とコメントしている。 上記のことから、シラパスの作り方が分からない、あるいはシラパスの目指す理想 と教育現場の状況にギャップが生じていることが分かる。そして、シラパスで定めら れた学習テーマに沿って授業をするのは現場の教師にとって厳しいものである。さ らに、授業時聞が少ないことにより文法説明中心の授業を行うことで、「書く・話す」 の訓練の多くは、学習者に任せて宿題にする場合も見られる。 以上に見られたように、シラパスに規定されている目標が達成できなくなってい80 〔調査報告〕キルギスの大学におけるシラパスと非母語話者教師の教師研修について る点がキルギスの現状の一部としてある。
4-3.
授業時間数が少ない乙とについて キルギスでの日本語の授業時間数は各機関によって異なる。週に5回の授業がある 機関もあれば、週に1回のみの授業がある機関もある。まず、授業時間数について、教 師は次のように語っている。 教師B「日本語が主専攻なのに、週に3回しか授業(1コマ/
100分)がありません。 文法、作文、読解、会話、漢字、翻訳など全て指導しなければならないんですが、週 に3
回だけでは全ての項目を教えきることができません。多くの授業では、文法 と文型練習だけで授業が終わってしまい、他の項目は宿題にする場合が多いで す。そして、1
年間で終了するはずの教科書は、週3
回で終了できず、次の学期に 続けて教える場合もないとは言えないです。J
教師C「日本語が主専攻ですから、週に5回授業(1コマ
/
80分)があります。多く も少なくもないです。」 教師F
「日本語は第二外国語だから週にl
回だけ授業(1
コマ
/
1
0
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分)がありま す。週に1回だけの授業で日本語全体を教えなければなりません。だから、シラパ スを作ることはとても難しいです。」 教師H「週に2回だけの授業 (1コマ
/
80分)はとても少ないです。日本語は選択科 目だからしょうがないと思っています。文法だけで授業が終わってしまい、学習 者を話させる時間もないです。それは宿題にしています。教えるべき項目をどう やってこの時間で教えきればいいかも分からないんです。」 以上の内容から、週あたりの授業時間数に関しては、主専攻としている機関より ー も、第二外国と選択科目としている機関で日本語に当てられる授業時間数が非常に 少ないことが分かる。そして、主専攻としている機関にもこうした時間数の問題が見 られる。 そこで、上記のような問題を解決するために何をしているかについて質問した。言語科学論集第18号 2014年 81 教師B「毎年この問題が取り上げられています。でも、解決されていません。授業 時間数を増やしてほしいといつも言っていますが、逆にだんだん授業時間数も 減っています。5年前は週に5回の授業でしたが、2年後週4固になり、今年から3 回になってしまったんです。」 教師H「教務課からこの問題は解決しますと毎回言われていますが、結果はない です。これは、簡単に解決できないでしょう。」 上記コメントから機関が望んでいるシラパスとその実態は異なっていることが分 かる。
4-4.
日本語教師研修について シラパスに規定された目標を実現させるには、教師の役目が極めて肝心である。キ ルギスにおける日本語教育が非母語話者日本語教師に関して直面している問題点 は、次の「日本語教育や教授法に関する不安」と「日本語運用力の不足J
である。教師は 知識の伝授者で、授業の組織者でもある。そのため、教師にとって日本語教育・教授法 は重要であるが、キルギスの場合は、十分な日本語運用力・教授法を身につけないま まに日本語教育に携わっている教師が少なくない。そして、 将来日本語教師になりたい学習者のため、教育実習を行う機関もある。教育実習と は、実習生が1年間週1回日本語教育について学ぶ実習のことである。4-5.
教師の日本悟教育や教授法に関する不安について \ キルギスでは、ほとんどの教師は日本語教育を専門にしていない。 国際関係を専門とする教師C「日本語教育についての正式的な教育は受けたこ とがないです。教師になったころは何を、どうやって教えるかが分からなくてと ても大変でした。」 日本の歴史が専門である教師H「大学を卒業してすぐ日本語の教師になりまし た。正式的な日本語教育は、時聞がかなりたってから、国際交流基金の長期教師 研修で学んできました。今も日本語のセミナーや教師研修に参加していますが、82 〔調査報告〕キルギスの大学におけるシラパスと非母語話者教師の教師研修について これからも、教師を続けていくかどうか悩んでいます。
J
日本事情を専門にしている教師A「正式な日本語教育、教授法に関する知識は、 教師としての2年目で海外日本語教師長期研修に参加した時学んで、そのあと日 本で日本語教育の修士課程で勉強しました。」 アフリカ・東洋学が専門である教師D「教師研修は日本で 1回受けたことがあり ますが、キルギスで行われている教師のための研修、セミナーなどに参加したこ とはありません。これからも参加するかどうか分かりません。ずっと日本語教師 として働けるかどうかは、今自分でも悩んでいます。」 数学を専門とする教師F「今、日本語教育に関わる問題はないと思います。今ま ではいろいろな内容の日本語セミナー、学会、教師研修などに数多く参加した り、自分も日本で研究したり、何回か発表したりしてきていますから。」 上記のことから、日本語教育について勉強したり、研究したりしている教師が1-2
名出てきているが、現在でも多くはいわゆる素人が日本語を教えていることが分か る。そこで、日本語教育に関する問題点をどのように解決しているかについて質問し た。 教師C「今ももちろん難しい点が多くあり、困った場合は、すぐ日本人教師か、経 験のある現地の教師に聞くようにしています。」 教師E「実習生として 8年前に、教育実習をしたことがありますが、大学を卒業し てからしばらく違う仕事をしていてほとんど忘れています。できるだけそれを 思い出すようにしています。自分でもいろいろ勉強しなければならないですが、 時聞がないのでちょっと厳しいです。」 教師D「自分の周りにある本などを勉強しています。研修・セミナーなどには参 加しないです。j言語科学論集第18号2014年 83 教師
B
「自分が担当している日本語の授業は面白くないと感じる場合が多いで す。もちろん、教師研修会などで得た知識を使って授業を面白くするように頑 張っていますが、まだいい結果になっていないです。定期的に研修などを受けた ほうがいいと思っていますが、最近あまり受けていません。」 教師G
「日本語教育についての本がないから、読んで、いません。研修もセミナー も参加していません斗 大学の日本語教師の状況は大学によってだいぶ異なっている。日本人教師がいる 機関もあれば、すべて非母語話者教師一人でやっている機関もある。教師研修やセミ ナーなどを重視して積極的に参加している教師もいれば、逆にその情報を全く知ら ない者もいる。上記で研修・セミナーなどに参加できないと回答した教師たちにその 理由について質問した。 教師G「教師としてのこの2年間で、自分の先生方の授業を思い出して、それに 似たような授業をしています。正直にいうと教科書をそのまま教えています。誰 に助けを求めたらいいかも分からないです。正しく指導しているかも分からな いです。教師研修などは参加したことがないし、それはどこで行われているかも まったくわかりません。参加するかと言われでも今の段階で何も言えません。も し結婚したら日本語の教師をやめるかもしれません。J
教師E「ほかの仕事も持っているから研修などに行く時聞がありませんよ。」 教師D「教師の給料がとても少ないから、ず、っと日本語教師として働けるかどう かは、今自分でも悩んで、います。」 教師B
は「子育てしていますから、時間は作れないです。」 なお、キルギスでは、教師の給料が低いので、教師の仕事をずっと続けていく者は 少ない。教師の待遇が悪いため、複数の機関に勤めたり、アルバイトをしたりしなけ れば、生活できない場合も多い。より待遇の良い仕事が見つかれば、辞めてしまう者84 〔調査報告〕キルギスの大学におけるシラパスと非母語話者教師の教師研修について もいるので、教師の確保は不安定で、あると言える。
4-6.
教師の日本語運用力の不足について キルギスの非母語話者日本語教師ほとんどは日本語運用力に不足を感じている。 教師A「漢字と上級レベルの文法が難しいです。」 教師B「日本語の漢字は読めますが、書けない字が多いです。授業中、辞書を見て 黒板に書く場合があります。」 教師D「日本語で自分が言いたいことを正しく言えない場合があります。J
教師H「日本語で話す、漢字を書くことは私にとって難しいです。」 教師 Cおよび教師 G「日本語全てが難しいです。」 このことから、教師は日本語運用力に不安を感じていることが分かる。具体的に言 うと、漢字、文法、話す能力のことである。また、日本語すべてが難しいと感じている 教師もいる。その教師達は経験の浅い教師で、著い教師でもある。それで、この問題点 を解決するためになにをしているかについて質問した。 教師E「時間がないので、できません。」 教師G
「必要な本などはないので勉強していまぜん。」 教師A「自分で勉強したり、日本語上級コースにも通ったりしてします。」 上記の他の教師はほとんど自分で勉強していると答えている。自分で勉強してい る教師は、「ひ。ったり合う教材が少ない」、または「教材が古いJ
とのコメントもした。 そこで、キルギスの非母語話者日本語教師に、もし勉強するチャンスがあったら、 日本語・日本語教育・教授法の中で何を勉強したいのかを聞いてみた。 』言語科学論集第18号2014年 85 教師研修などによく参加している教師F「今私が感じている問題はないから、何 を勉強するかもわかりません。これからも自分の研究を続けます。」 教師研修などに参加していない教師
G
「日本語・日本語教育・教授法をすべて勉 強したいです。特に何をと言うと、シラパス・教案の作り方です。」 教師H「漢字と上級レ九ルの文法を勉強したいです。そして、日本語教育や教授 法は、授業中学習者を話させる方法を学んでみたいです。」 教師B「授業を面白くする方法を勉強したいです。」 教師C
「授業中学習者よりも私がよく話しているような気がします。学習者を話 させることがなかなかできません。それの方法などを学びたいです。J
教師A
および教師E
「中級レベルになっても自分の意見を言えない学習者が多 いから、会話の教え方を学びたいです。J
以上、キルギスの非母語話者教師の日本語運用力についてみてきた。上記のことか ら、キルギスの教師の多くは、自分の日本語運用力に不満を感じていることが分か る。チャンスがあれば教師の勉強してみたい項目は、漢字、上級レベルの文法、話す能 力のことである。また、シラパスや教案の作り方を学びたい教師もいる。教師は理論 的な言語知識を身につけていると思われるが、実際の授業場面でその運用力が足ら ないという問題がある。教育の必要な作業をほとんど問題なく自分で進めていくた めには日本語運用力がある程度十分あることが必要である。その問題の解決には、日 本語運用力に不安を感じている教師の育成が必須となる。 日本語力の問題点を解決するために自分で勉強している教師もいるが、そうでな い教師もいる。そして、日本語教育・教授法を勉強するため、日本語能力の向上も必要 であることは言うまでもない。しかし、教師の日本語学習歴は多様でその日本語能力 も一様でないため、日本語能力に関して教師が個々の目標を目指すことが必要であ る。また、日本語をずっと学習していく必要性があることから、日本語コースだけで なく、自律的に日本語学習を行う能力をつけることに重点をおくことが必要であろ86 〔調査報告〕キルギスの大学におけるシラパスと非母語話者教師の教師研修について
つ
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考察 以上、キルギスの大学における非母語話者教師の日本語指導における問題点をシ ラパスと教師研修という観点からみてきた。大学を卒業してすぐに教師になった現 地の教師がほとんどであり、『日本語教育国別事情調査ロシア・NIS
諸国日本語事情j(
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)には、日本語教師について「大学で日本語を専攻したものの、教授法などの専 門教育は受けておらず、手探りの状態で日本語を教えている場合が多いという。より 待遇のよい仕事が見つかれば、辞めてしまう者もいるので、教師の確保は不安定であ るJ(国際交流基金「日本語教育国別事情調査」)と取り上げられている。今回の調査結 果では、『日本語教育国別事情調査ロシア・
NIS
諸国日本語事情J
(
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0
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)の結果と一致 している点もあれば、少し変わっている点もある。その変わっている点とは、キルギ スの日本語教育界では、日本語教育に関する研修・セミナーによく参加する経験豊か なベテラン教師も徐々に増え、ベテラン教師の中に、日本語教育の研究を行っている 者もいることである。そして、若い教師が教師研修やセミナーを受けて、自分自身の 教授法を確立していけば将来的に、全体の日本語教育のレベル向上につながると思 われる。 一致している点について述べると、キルギスの教師の多くは日本語教育や教授法 の知識が不十分であることが分かる。いまだにその教授法に関して不安を感じてい る教師もかなり多い。日本語の指導が難しくてやり方が分からないという教師は多 いが、教師研修や教授法のセミナーなどに情報不足あるいは子育てや他の仕事に追 われてといった理由から参加できないという教師もいる。キルギスで様々な形態で 行われている日本語の指導が、非母語話者教師の個人的努力に任されている現状で は、教師の役割の再確認を求め、教育の質の向よを求めることには限界があると考え られる。 入山(2
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)では、キルギスの日本語教育の現状を調査し、キルギスの日本語教育に おいて、大学卒業生及び現地人の日本語教師のための日本語力を伸ばすコースの開 設、及び日本語教育専門家の育成方法を改善していく必要があると述べている。こう した内実は今も変わっていないと言える。キルギスの非母語話者教師の状況はさま ざまであって、教師の研修も大学によって異なる。一部の日本語を主専攻としている 大学では若い教師の教育実習を行っているところもある。しかし、第二外国語や選択言語科学論集第18号2014年 87 科目として行われている機関で若い教師は相談する者もなく大変苦労している様子 も見られる。もし日本語力向上や教授法のための養成クラス、セミナーなどを開設し てもらえるならば、キルギスにおける日本語教育水準が確実に向上するであろう。 本調査報告から言えることは、大学の日本語コースのシラパスはどこの大学でも 原則として特定の教科書に基づいて作られるが、授業時間など教育条件が必ずしも 同一ではないので、修正・変更されることがあるということである。また、非母語話者 日本語教師は、シラパスのぽ標で、あるコミュニケーション指導よりも、言語知識の定 着のための文法や文型練習に多く時間をかけていることも顕著な点である。現職教 師の多くが若い教師であるため、その若い教師の養成が大きな課題と言える。 参考文献 入山美保(2010)「キルギス共和国における日本語教育の現状と課題」『筑波応用言語学研究J17. pp. 85-98. 国際交流基金日本語国際センター(2002)『日本語教育園別事情調査ロシア・NIS諸国日本語事情j国際交流基 金日本語国際センター. 国際交流基金「海外日本語教育機関調査」 くhttp:I /www. jpf. go. jp/j/japanese/survey/result/index. html>20日年1月10日閲覧 スリーエーネットワーク(1999)『みんなの日本語初級I本冊』スリーエーネットワーク スリーエーネットワーク(1999)『みんなの日本語初級II本冊』スリーエーネットワーク