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アクティブ騒音制御による建物換気口の遮音性能の向上に関する研究-周波数特性に基づく航空機騒音と生活音の判別- [ PDF

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Academic year: 2021

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アクティブ騒音制御による建物換気口の遮音性能の向上に関する研究

— 周波数特性に基づく航空機騒音と生活音の判別 —

柴田 拓郎 1. はじめに 近年,省エネルギーの志向から,住宅を始めとする あらゆる建物で高気密・高断熱化が進んでいるが室内 の空気質を適正に保つためには換気量の確保が重要で あり,建物外周部には換気口が設けられる。換気口は 建物の遮音性能のボトルネックとなるため,遮音対策 が必要となってくる。従来の遮音対策としてはキャップ 型フードなどのパッシブ手法が一般的であるが,この 対策は高音域では遮音能力が高いものの,低音になる につれて効果が低下していくという弱点がある。既往 の研究1)において,換気口の中低音域の遮音性能の向 上にアクティブ騒音制御 (ANC) が有効であることが確 認されたが,室内で発生する生活音が ANC システム へ混入すると,アクティブに制御しないときより室内 の音が大きくなるという問題も確認されている。具体 的には,生活音が混入しないときに約 10 dB の効果が 得られたものの,生活音が混入すると効果はほとんど なくなり,逆に室内の音圧レベルが約 10 dB 大きくな るという逆効果が見られた。既往の研究1)では,自動 車騒音と生活音を判別し,制御対象の騒音だけが存在 するときに干渉音を発生させ,生活音の影響を低減さ せる手法を提案し, 約 10 dB の逆効果をほぼ抑制するこ とに成功した。しかし,騒音源は自動車騒音のみであ り,都市部で頻繁に問題となる航空機騒音や鉄道騒音 については検討がなされていない。 そこで,本研究では,航空機が主な騒音源となって いる空港近辺の住宅地などで利用する,生活音の影響 を受けない ANC システムの構築を目指し,航空機騒音 と生活音の判別手法を提案することを目的とする。そ して,提案した判別手法の効果を数値シミュレーショ ンによって確認する。 2. 検討対象の航空機騒音と生活音 福岡空港では年間の離発着回数2)は約 13.7 万回 (国 内線 12.1 万回,国際線 1.6 万回)に及び,機材の種類 や大きさが様々な航空機が飛来してくる。1 日に離発着 する国内線は 332 便 (2010 年 8 月現在)あり,機種の 内訳を見ると,ターボファンエンジンを搭載したボー イング社製・エアバス社製の大型なジェット機が多く, ターボプロップエンジンを搭載したボンバルディア社 製・サーブ社製の中型機も運航している。現在一般的 に使用されている主な旅客機は,福岡空港に離発着し 表-1 検討対象機種 表-2 検討対象音源 ていると思われる。 検討対象として,表-1 に示すように福岡空港からの 距離が 0.1 km,2.5 km,4.5 km の 3 地点で測定した 53 機の航空機騒音を用いる。距離 0.1 km の地点は,空港 傍の滑走路が見渡せる箇所,距離 2.5 km の地点は離着 陸の航路下,距離 4.5 km の地点は,着陸航路の真下で ある。そして,比較対象の生活音として,一般的な住 戸内で発生すると思われる,ピアノの演奏音,男性の 声,女性の声 (表-2)を用いることにした。 3. 周波数特性に基づく制御対象音の判別 航空機騒音は,エンジンのファンなどから発生する 高音で狭帯域な音が大きく特徴的であるが,近年では, エンジンの技術開発が進み放出される騒音が小さくな り,機体から発生する低い周波数帯域の機体空力音が 55-1

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目立つ3)ようになった。また,離陸時の近距離では機 体空力音とともにファン音が大きく,距離が離れると空 気吸収などの影響により高周波成分が低下して機体空 力音が主となる4)と言われている。このように,一般 的に航空機騒音は広帯域雑音に狭帯域の音が重なった 騒音である。一方,人の声などの生活音は純音成分で構 成されており,両者の周波数特性は大きく異なると思 われる。そこで,音の短時間 (0.1 s)の周波数特性に着 目することにより航空機騒音と生活音を判別すること が可能ではないかと考え,以下のような検討を行った。 3.1 航空機騒音の周波数特性のグループ化 周波数分析の条件は,サンプリング周波数:8,000 Hz, バンド幅:1/3 オクターブバンド,分析周波数:40∼ 3,150 Hz(20 バンド),分析時間:0.1 s(800 サンプル), である。本研究では,騒音と生活音の周波数特性を音 のエネルギー密度 E [J/m3] で表すこととする。また, 音のエネルギー密度は非常に小さな値であるが,短時 間 (0.1 s) のエネルギー密度を 1.0 × 104J/m3に基準化 し,周波数特性を相対値で表現することとする。 前述のように航空機騒音は,着陸時と離陸時,そし て航空機の距離によってその周波数特性が異なる。そ こで,“着陸/離陸” と “近距離/遠距離” というファク ターに着目することで,航空機騒音の周波数特性を 4 つのグループに分類できるのではないかと考えた。そ こで,検討対象の全 11,537 データの周波数特性をクラ 図-1 短時間 (0.1 s) の音圧レベルの出現頻度分布 (上 図; 着陸,下図; 離陸) 図-2 航空機騒音 (左図; 着陸—遠,右図; 着陸—近) 図-3 生活音 (ピアノ) スター分析 (k-means 法) により 4 分類して,各クラス ターがどのようなデータ (着陸/離陸,近距離/遠距 離) から構成されるか検討した。 4 つのクラスターごとの音圧レベルの出現頻度分布 を,着陸/離陸別に図-1 に示す。図-1 より,クラスター 1 と 2 はそれぞれ,主に着陸時,離陸時のデータから 構成されていることが分かる。クラスター 3 と 4 は離 着陸時のデータが混在しているが,クラスター 3 は離 陸時,クラスター 4 は着陸時のデータが相対的に多い。 そして,着陸時のクラスター 1 と 4,離陸時のクラス ター 3 と 2 は,出現頻度が最大のときの音圧レベルが 異なっていることから,それぞれ近距離,遠距離のデー タから構成されていると考えられる。近距離と遠距離 の境界は図-1 には明確に表れていないが,本研究では 85 dB で区別することにした。 3.2 航空機騒音と生活音の周波数特性 航空機騒音の周波数特性の例 (ボーイング 777-200; 着陸) を図-2 に示す。着陸—遠距離 (左図) のときには広 帯域な周波数特性を示し,着陸—近距離 (右図) のとき にはファン音の特徴が大きく表れ,狭帯域の周波数特 性を示す。しかし,図には示していないがファン音の 帯域はその時々で異なっており,特定することはでき ない。他方,生活音 (図-3)は複数の純音成分 (複合音) で構成され,複数の帯域が大きい特性を示している。 3.3 航空機騒音の周波数特性モデル ファン音の帯域が定まらない航空機騒音の周波数特性 をモデル化することは容易ではない。しかし,図-2(右 図) においても,ファン音が強く寄与していると思わ れる最も大きな帯域を 1 つ無視すると,図-2(左図) に 示すような広帯域な機体空力音の周波数特性と類似す 55-2

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図-4 モデル (実線) と標準偏差 (破線)(上左・右図; 着 陸—近・遠,下左・右図; 離陸—近・遠) 表-3 各モデルの定数および提案式の決定係数 るのではないかと考えた。そして,すべての航空機騒 音の周波数特性を広帯域と見なすことができれば,そ うではない生活音と区別することができると思われる。 そこで,その時々で帯域が異なるファン音を除外して, 広帯域な航空機騒音の周波数特性モデルを作成するた めに,各グループの周波数特性をそれぞれ加算平均す ることにした。 全 11,537 データを,着陸/離陸,音圧レベル 85 dB 以上/未満別の 4 つに改めて分類し直し,各グループ のデータを加算平均して求めた航空機騒音の周波数特 性を図-4 (• シンボル) に示す。想定どおり広帯域な周 波数特性となった。 さらに,実測データから求めた各周波数特性を平滑 にするために,数式で表現することにした。最小 2 乗 法によって得た提案式は次のとおりである。 xi= a· e−0.5{(i−c)/b} 2 (1) ここで,xiは各帯域 i の音響エネルギー密度 [J/m3], a,b,c は各モデルの定数 (表-3) である。ただし,帯 域 i は i = 3 · log2(fc/1, 000) + 15 から求められる。こ こで,fcは中心周波数 [Hz] である。図-4(実線) に,提 案式による 4 つの周波数特性モデルを示す。また,各 モデルに対する提案式の決定係数を表-3 に示す。 3.4 判別尺度 航空機騒音と生活音を区別するための判別尺度を決 図-5 尺度値分布:着陸—近モデル (騒音,ピアノ,男 性の声,女性の声) 図-6 閾値と正答率の関係:着陸—近モデル 定する。前節で述べたように,航空機騒音の判別のた めの尺度は,狭帯域なファン音の影響が最も強く現れ ている帯域を除外しなければならない。そこで 20 バン ド中で音響エネルギー密度が最大になる帯域 k を除外 して,19 バンドの周波数特性を用いて距離を求める, 次式に示す判別尺度を提案する。 d = v u u tX20 i=1 ½ xi P20 i=1xi × µ yi− xi σi ¶2¾ (i ≠ k) (2) ここで (i ≠ k) とは,i = k のときは加算しないこと を意味している。xiは (1) 式から求められる値,また, yiは判別すべき音の周波数特性の各帯域 i の音響エネ ルギー密度 [J/m3] である。σ i は周波数特性モデルの 帯域 i の音響エネルギー密度の標準偏差 [J/m3] である (図-4(破線))。尺度値 d が小さいほど,航空機騒音の周 波数特性モデルに似ている。 3.5 閾値の設定 騒音と生活音を区別するために,d に関する閾値を 55-3

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表-4 各モデルに対する閾値と正答率 [%] 図-7 ANC システム図 決定する。航空機騒音 (例として,着陸—近)および 3 つの生活音 (ピアノ,男性の声,女性の声)について, 0.1 s ごとに求めた d の頻度分布を図-5 に示す。航空機 騒音の d は全体的に小さいが,3 つの生活音の d は比 較的大きい。つまり,前節で提案した判別尺度によっ て,航空機騒音と生活音がある程度は判別可能である ことを示している。しかし,騒音と生活音の分布は一 部重なっており,騒音と生活音を区別できる閾値を一 意に決めることはできない。そこで,次のように考え て閾値を決定する。 図-6 に,仮に閾値 (横軸)を設定したときの,各音 源に対する正答率 (縦軸)を示す。閾値として大きな値 を設定すると,航空機騒音の正答率は上昇するが,生 活音の正答率は下降する。そこで,航空機騒音も生活 音も極端に間違えることがないような閾値にするため, 航空機騒音の正答率と,生活音の平均の正答率がほぼ 一致する値 1.45 J/m3を閾値とした。各モデルの閾値 と正答率を表-4 に示す。 4. 判別手法を組み込んだ ANC の効果 判別手法を ANC システムに組み込み,生活音の影 響をどの程度抑制できるか検討した。 建物換気口と ANC システムの参照点・2 次音源の位 置関係を図-7 に示す。騒音は換気口の屋外側から,生 活音は室内側から到来すると考え,換気口を通過した 生活音が,建物の屋外側に位置する参照点へ入射して ANC システムに混入するという状況を想定した。 ANC シミュレーションに用いた音源は,判別フィル タを構成するときには用いなかった航空機騒音とテレ ビの音である。航空機は頭上を通過していくボーイン グ 777-300,テレビの音は女性キャスターがニュース原 稿を読み上げる声で,それぞれ 20 s 間である。 図-8 判別フィルタによる改善効果 (SN 比 : −6 dB) SN 比 :−6, 0, +6 dB の場合について,判別手法を組 み込んだ ANC システムの効果を検討したが,紙面の 都合から SN 比 : −6 dB の結果のみを図-8 に示す。SN 比 : −6 dB の場合,16 s 過ぎに,航空機騒音を生活音 と誤判断したことにより ANC 効果が低減し,判別手 法が逆効果に働いた (図-8; 下図 マイナスの箇所)が, キャスターの声が大きいために ANC が逆効果に働い ていた多くの箇所が,判別手法を組込むことによって 大きく改善された (図-8; 下図 プラスの箇所)。SN 比 : 0, +6 dB でも,キャスターが特に大きな声を発してい る 1 s∼5 s で,ANC の逆効果が抑制された。 5. まとめ 生活音の影響を受けない ANC システムを構築する ために,航空機騒音と生活音の周波数特性の相違に着 目して制御対象騒音を判別する手法を提案した。その 手法を ANC システムに組み込むことによって生活音の 影響をある程度抑制できることを数値シミュレーショ ンにより確認した。 参考文献 1) 柴田拓郎, 穴井 謙, 平栗靖浩, 藤本一寿, アクティブ騒音制御に よる建物換気口の遮音効果に及ぼす生活音の影響 —その 5 周 波数特性に基づく制御対象音の判別手法の改善—, 日本建築学 会九州支部研究報告 第 49-2 号, 17—20, 2010. 2) 例 と し て, 全 日 本 空 輸 株 式 会 社 - ホ ー ム ペ ー ジ http://www.ana.co.jp/ 3) 飛行機の百科事典編集委員会編, 飛行機の百科事典, 丸善 (株), 2009. 4) 木村 翔, 井上勝夫, 塩川博義, 航空機騒音の機種分類別による 周波数特性の基準化の検討, 日本建築学会大会学術講演梗概集, No. 4027, 1983. 55-4

参照

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