過去の出来事と現在の感情との因果連鎖に関する幼児の理解 [ PDF
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(2) 理解に違いが見られるかを「①被験児参加」 「②架空の人物. み木を壊す).積み木を壊した後,被験児に嬉/悲/怒/困の. 参加」という 2 つの条件を設ける事で検討する.. 表情が書かれている画用紙を同時に提示し, 「今,○○ちゃ. また,Lagattuta & Wellman(2001)は考察の中で,現在の. ん(被験児の名前)or この人形はどんな気持ちかな?このお. 状況と過去の出来事の連続性を認識することで,自分自身. 顔の中から選んでくれるかな?」と質問した.被験児が 4. や周りの反応を,今・ここで起きている客観的な状況だけ. つの表情のうちの 1 つを選んだら,実験者は残りの 3 枚を. で予測し,説明するのではなく,過去の活動や経験と関係. 片付け,その後, 「なんで○○ちゃん or この人形はこんな. づけて予測・説明するようになると述べている.そして,. 気持ちなのかな?」と質問した.. この連続の認識は,時間の経過や身体的変化が起こったと. (2)「心の理論」課題:a.標準誤信念課題:ウシとカエルの. しても「自分は自分である」ということを自覚する能力. パペットを使って以下の話をした. 「今,ウシ君が,部屋に. (Povinelli & Simon, 1998)とも関わっていると述べている.. やってきて,赤色のバケツの中から消防車を取り出して遊. Povinelli & Simon(1998)によると,このような,自己を. びました.その後,ウシ君は赤色のバケツの中に消防車を. 「今・ここ」で経験している存在だけでなく,時間という. しまって外に遊びに行きました.ウシ君がいなくなった後,. 因果連鎖の中で連続した存在として認識するためには, 「心. カエル君が部屋に来て,赤色のバケツの中から消防車を取. の理論」の誤信念課題を通過するために必要であると考え. り出して遊びました.その後,カエル君は青色のバケツの. られている,1つの出来事にたいして,多様な表象をする. 中に消防車をしまって外に遊びに行きました.カエル君が. 能力が必要だという.そこで本研究では,標準語信念課題. いなくなった後,ウシ君が再び部屋にやってきて,さっき. と,スマーティー課題を行い,過去の出来事と現在の感情. の消防車で遊ぼうと思いました. 」①誤信念質問: 「さて,. との因果連鎖に関する理解と, 「心の理論」との間に関連が. ウシ君はどちらのバケツの中を探すでしょうか?」(回答が. 見られるかも検討する.. ない場合, 「赤色」 「青色」の選択肢を与えた.)②記憶質問:. 本研究の仮説をまとめると以下の通りである.. 「最初,消防車はどちらのバケツの中に入っていたでしょ. ①対人場面の方が対物場面よりも,過去の出来事と現在の. うか?」③現実質問: 「今,消防車はどちらのバケツの中に. 感情との因果連鎖の理解を促進する.. 入っていますか?」 .. ②被験児が主人公になる方が架空の人物が主人公になるよ. b.スマーティー課題:ポッキーの中にあらかじめ鉛筆を入. りも,過去の出来事と現在の感情との因果連鎖の理解を促. れておき,そのポッキーの外箱を被験児示しながら, 「この. 進する.. 箱の中には何が入っていると思いますか?」と質問した.. ③過去の出来事と現在の感情との因果連鎖に関する理解と. ①スマーティー課題(他者信念質問): 「さっき 1 番仲のいい. 「心の理論」との間には関連がある.. お友達の名前は△△ちゃんって言ってくれたよね?△△ち ゃんは,まだこの中を見ていません.△△ちゃんは,この. 方法 被験児. 箱を見て,何が入っているっていうでしょうか?」(「わか らない」/反応なしの場合は, 「ポッキー」と「鉛筆」の選. 4 歳児 69 名(男児 36 名,女児 33 名,平均年齢:4 歳 7 ヶ. 択肢を与えた.)②スマーティー課題(自己信念質問): 「○. 月),5 歳児 64 名(男児 33 名,女児 31 名,平均年齢:5 歳 6. ○ちゃん(被験児の名前)は,最初この箱を見たとき,何が. ヶ月)が本実験に参加した.. 入っていると言いましたか?」③現実質問: 「本当は今,箱. 実験手続き. の中には何が入っていますか?」. 各年齢群の被験児を, 【対物-被験児条件】 【対物-他者条件】. (3)感情過去理解課題:a.感情過去理解質問:感情状況理解. 【対人-被験児条件】 【対人-他者条件】の 4 条件にランダム. 課題で積み木を壊した対象(人形or ボール)が再び登場する.. に振り分けた.. 被験児に嬉/悲/怒/困の表情が書かれている画用紙をすべ. (1)感情状況理解課題:. て同時に提示し, 「今,○○ちゃん(被験児の名前)は,この. a.表情確認質問(統制質問):これは,被験児が表情と感情. 黄色いボールを見てどんな気持ちかな?このお顔の中から. を合致させて理解できているかを確認するために行われた.. 選んでくれる?」と質問した(無回答, 「わからない」とい. 被験児に嬉/悲/怒/困の表情が書かれている画用紙を1 枚ず. う回答の場合は再質問).被験児が 4 つの表情のうちの 1 つ. つ提示し, 「このお顔はどんなお顔かな?」と質問した.提. を選んだら,実験者は残りの 3 枚を片付け,その後, 「なん. 示の順序は被験児ごとにカウンターバランスした.. で○○ちゃん(被験児の名前)はこんな気持ちなのかな?」. b.感情状況理解質問:各条件でも,積み木を壊す場面設定. と質問した(無回答, 「わからない」という回答の場合は再. とした(対人では人形が積み木を壊す・対物ではボールが積. 質問)..
(3) 通過:レベル 1:感情状況理解課題には通過したが,感情過. 結果. 去理解課題には不通過:レベル 2:感情状況理解課題と感情. 分析対象者数. 過去理解課題の両方を通過.. 120 名が分析の対象となった.. 感情理解課題の達成度と「心の理論」課題との関係. 感情状況理解課題の通過率 分析対象となった被験児の課題通過率をTable1 に示した.. 標準誤信念課題においては,他者信念質問,記憶質問,. 各正答率に対し,角変換を施し,年齢(2:4 歳児,5 歳児)×. 現実質問の 3 つ全てに正答した場合を「正答」とした.感. 対象条件(2:対人,対物)×参加者条件(2:被験児,他者)の 3. 情過去理解課題の通過率において主効果が見られた対象条. 2. 要因についてχ 分布を利用した分散分析(逆正弦変換法:. 件(対人条件,対物条件)と「心の理論」課題との関係を調. 森・吉田,1990)を行った.. べた.Table3 に,対人条件での各レベルにおける「心の理 2. その結果,年齢の主効果(χ = 4.98,df=1,p<.05),対. 論」課題の正答率を示した.. 意であった.対象条件×参加者条件の交互作用については,. Table3 対人条件における「 心の理論」 課題の各質問に対する正答者数 感情理解課題 誤信念課題 スマーティー課題 スマーティー課題 達成レベル (自己信念) (他者信念) レベル0 ( n=6) 1(16.67) 0(0) 0(0) レベル1 ( n=17) 6(35.29) 2(11.76) 2(11.76) レベル2 ( n=37) 21(56.76) 20(54.05) 20(54.05) ( )内は%. 単純主効果検定の結果,他者条件においては対象間で有意. 各レベルにおける「心の理論」課題の各正答率に対し,. なさが見られなかったのに対し,被験児条件では対人条件. Chance Level の検定を行ったところ,すべての正答率でレ. 2. 象条件の主効果(χ = 4.03,df=1,p<.05)及び参加者条件 の主効果(χ2= 26.63,df=1,p<.01)が有意であり,対象条 件×参加者条件の交互作用(χ2= 4.03,df=1,p<.05)が有. 2. が対物条件(χ = 8.06,df=1,p<.01)より有意に高かった. Table1. 年齢. 4歳 n=60 5歳 n=60. 感情状況理解質問の通過数 対人 対物 被験者 他者 被験者 他者 12(80.00) 14(93.33). 6(40.00). 14(93.33). 13(86.67). 9(60.00). 15(100). 15(100). ( )内は%. ベル 0 とレベル 1 は偶然の水準よりも低く,レベル 2 は偶 然の水準内であった(誤信念課題:56.76%,z=0.66,ns,ス マーティー課題(自己信念):54.05%,z=0.33,ns,スマー ティー課題(他者信念):54.05%,z=0.33,ns). 次に,Table5 に対物条件での各レベルにおける「心の理 論」課題の正答率を示した.. 対象条件(2:対人,対物)×参加者条件(2:被験児,他者)の 3. Table4 対物条件における「 心の理論」 課題の各質問に対する正答者数 感情理解課題 誤信念課題 スマーティー課題 スマーティー課題 達成レベル (自己信念) (他者信念) レベル0 (n=16) 7(43.75) 7(43.75) 6(37.50) レベル1 (n=23) 7(30.43) 5(21.74) 8(34.78) レベル2 (n=21) 16(76.19) 15(71.43) 15(71.43) ( )内は%. 要因についてχ2分布を利用した分散分析を行った.. 各レベルにおける「心の理論」課題の各正答率に対し,. 感情過去理解課題の通過率 分析対象となった被験児の課題通過率をTable2 に示した. 各正答率に対し,角変換を施し,年齢(2:4 歳児,5 歳児)×. 2. その結果,年齢の主効果(χ = 10.25,df=1,p<.01)及び 2. df=1, p<.01)が有意であり, 対象条件の主効果(χ = 10.16, 2. Chance Level の検定を行ったところ,すべての正答率でレ ベル 0 とレベル 1 は偶然の水準よりも低く,レベル 2 は偶. 年齢×対象条件の交互作用(χ =4.223,df=1,p<.05)が有. 然の水準よりも高かった(誤信念課題:76.19%,z=2.18,. 意であった.年齢×対象条件の交互作用については,単純. p<.05,スマーティー課題(自己信念):71.43%,z=1.75,p<.05,. 主効果検定の結果,5 歳児では対象間で有意な差が見られな. スマーティー課題(他者信念):71.43%,z=1.75,p<.05).. 2. かったのに対し,4 歳児では対人条件が対物条件(χ =13.74, df=1,p<.01)よりも有意に高かった.また,対人条件では 年齢間に有意な差が見られなかったのに対し,対物条件で 2. は 5 歳児が 4 歳児(χ =13.82,df=1,p<.01)よりも有意に 高かった.. 年齢. 考察 感情状況理解課題について 年齢,対象条件(対人―対物)および参加者条件(自分自身 ―他者)が,感情を状況から推測する際に影響するかを検討. Table2 感情過去理解質問の通過数 対人 対物 被験者 他者 被験者 他者 4歳 8(53.55) 9(60.00) 2(13.33) 2(13.33) n=60 5歳 9(60.00) 11(73.33) 7(46.67) 10(66.67) n=60. ( )内は%. 感情理解課題の達成度. したところ,4 歳児の感情状況理解課題の通過率と 5 歳児の 感情湯状況課題の通過率の間に差が見られたことは,4 歳児 は状況よりも表情で感情を理解するが,5 歳児は表情よりも 状況で感情を理解するようになるという笹屋(1997)の結果 と一致するものであった. 自分自身がストーリーに参加する条件では,積み木を壊. 課題通過の難易度のレベルを以下のように設定した.. される対象が人形(対人条件)のほうが,ボール(対物条件). レベル 0:感情状況理解課題と感情過去理解課題の両方を不. の場合よりも課題通過率が高かった.この原因は,積み木.
(4) を壊した対象が,故意に積み木を壊したのか,偶然壊れて. 験児に,自分自身・友達・お母さん・兄弟が嬉しかった話・. しまったのかということを被験児自身が感じ取ったのかも. 悲しかった話・怒った話をするように求め,その話がどれ. しれない.また,積み木を壊す対象が人形・ボールの両方. だけ正確かという基準で自他の感情理解を調べていた.本. で,他者条件のほうが被験児条件よりも通過率が高かった.. 研究では,被験児に, 「今,あなたは・この人形はどんな気. これは,被験児が「積み木が壊されること=ネガティブな. 持ちですか?」といったように,その場での被験児や人形. 出来事」ということを,一般的には理解していると考えら. の感情を求めていた.このように,今その場での自分自身. れる.この年齢の子どもは,自分自身が経験していない,. の感情を答えるためには,一度自分自身を客観視しなけれ. 仮想のストーリーをされた場合, 「何によって積み木が壊さ. ばいけないのかもしれない.そのために,同様に客観的な. れた」ということは問題ではなく, 「積み木が壊された」と. 判断を必要とする他者条件と差がなかった可能性がある.. いう状況から導き出されるであろう典型的な感情を判断し,. 過去の出来事と現在の感情の因果連鎖の理解と「心の理論」. 説明できるのだろう.. との関係. 年齢と対象条件(対人,対物)による過去の出来事と現在の 感情の因果連鎖の理解の違い.. 実験条件を条件間に差があった対象条件(対人,対物)に 分けて Chance Level の検定をしたところ,対象が物のとき. 年齢と対象条件が現在の感情と過去の出来事との因果連. はレベル 2 になって初めて, 「心の理論」課題に偶然の水準. 鎖の理解に影響するかを検討したところ,5 歳児では対象条. を越えて正答することが明らかになったが,人のときは,. 件に差はなく,4 歳児はやりとりの対象が人であるときが,. レベル 2 になっても「心の理論」課題の正答率が偶然の水. やりとりが物であるよりも有意に理解するということが明. 準を越えなかった.これは,対象が人である場合には「心. らかになった.これは,仮説 1 を支持するものである.. の理論」課題をクリアするのに必要である表象能力を有し. なぜ 4 歳児は,やりとりが人であれば現在の感情と過去 の出来事の因果連鎖を理解できるのであろうか.それは,. ていなくても,感情過去理解質問を通過できるということ を示唆している.. やりとりする相手の中に,意図性などの「心的なもの」を. この結果は,感情の因果連鎖の理解には,人と関わるこ. 認めることができるかどうかや,やりとりする相手に何ら. とが重要であるということを示しているのかもしれない.. かの特性を帰属することができるかということと大きく関. 人と関わり,意図性,感情,特性を含めたやりとりをする. わっているものと考えられる.我々は日常生活において,. ことで人を因果的に連続した存在だと認識する.このよう. 様々な人と接している.そして,接する中で,人というも. に,感情の因果連鎖は,最初は人とのやりとりの中で理解. のは連続性のあるつながりを持った存在であるということ. され,それから一般化されて, 「心の理論」をクリアするの. を無自覚的に理解している.. に必要な表象能力に基づいた理解をするようになるのかも. 5 歳児になると,感情の因果連鎖を対象に関係なく理解す. しれない.. るようになる.これは 4 歳児とは異なり,経験によって因. 今後は,人と関わる経験がどのように心的な表象能力と. 果連鎖を理解するのではなく, 「その出来事に関わっている. 関わっていくのかという研究も進めていくべきであろう.. のが人であれ物であれ,現在の感情に過去の出来事が影響 を与えることがある」という知識を獲得しているからであ. 引用文献. ると考えられる.したがって,ボールが現れたときであっ. Lagattuta, K.H., & Wellman, H.M. (2001). Thinking about. ても,その獲得した知識を使用することで,過去の出来事. thePast: Early Knowledge about Links between Prior. と現在の感情の因果連鎖を理解することができるのではな. Experience, Thinking, and Emotion. Child Development,. いだろうか.. 72, 82-102.. 年齢と参加者条件(自分自身,他者)による過去の出来事と. Dunn, J., & Hughes, C. (1998). Young children’s. 現在の感情の因果連鎖の理解の違い.. understanding of emotions within close relationships.. 年齢と参加者条件が現在の感情と過去の出来事との因果. Cognition and Emotion, 12, 171-190.. 連鎖の理解に影響するかを検討したところ,参加者条件間. Povinelli, D. J., & Simon, B. B. (1998). Young. には差はなく,5 歳のほうが 4 歳よりも因果連鎖を理解する. children’s understanding of briefly vesus extremely. ということが明らかになった.これは仮説 2 を支持しなか. delayed images of the self: Emergence of the. った.. autobiographical stance. Developmental Psychology, 34,. 仮説を支持しなかった理由としては,先行研究との課題 の違いが考えられる.Dunn ら(1998)の行った研究では,被. 188-194..
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