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氏名(生年月日)
本 籍
学位の種類
学位授与の番号 学位授与の日付 学位授与の要件 学位論文題目
論文審査委員
今井干美(昭和
エ ミ医学博士 下等455号 昭和56年5月15日
学位規則第5条第2項該当(博士の学位論文提出老)
特発性心筋症の心電図およびベクトル心電図
一肥大型心筋症とうっ血型心筋症の比較検討および心内膜心筋生検と剖検 所見との対比一
(主査)教授 広沢弘七郎
(副査)教授 高尾 篤良,教授 阿部 和枝
論 文 内 容 の 要 旨
研究目的
特発性心筋症は肥大型心筋症とうっ陽型心筋症に2大 別される.本疾患の発見には心電図が糸ロとなることが 多く,両者の鑑別にもまた予後を知る上にも心電図は重 要である.
両病型を心電図およびベクトル心電図(以後ECG,
VCGと略)学的に対比検討した報告は少なく,また心 内膜心筋生検(以後心生検と略)や剖検所見のうらずけ と四病型のECG, VCGを対比した研究はない.そこで 本研究は両病型をECG, VCG学的に対比検討を行な い,またECG, VCGと心生検や剖検所見との関連を系 統的に研究したので報告する.
方法
東京女子医大心研に入院した12歳以上の症例で心室造 影(98例)あるいは剖検(12例)所見によってのみ診断 をした特発性心筋症100例(肥大型心筋症60例,うっ二 型心筋症40例)についてECGおよびVCGの分析を行 ない両病型を比較検討した.また剖検所見あるいは右室 ないし左室から得られた心生検(81例)所見とECG,
VCGの対比検討も同様に行なった.
結果および考按
1) 肥大型心筋症について
左室肥大(38例,63.3%)や,心室中隔前壁部の起電 力増大によって生じるV、,V2のR波の増高などが高頻 度にみられたのは,心生検や剖検で心筋肥大が著明で
あったことと一致する所見であった.心筋肥大に伴って 生じると考えられる昌T,T変化は48例,92・3%にみら れた.異常Q波(15例,25%)の成因は心室中隔肥厚に 基づくと考えられた.VCG上のパターン分類では1eft posterior counterclockwise型(QRS環の主体が左後方 へ向い,反時計回転で戻るもの)が多くみられ15/36例,
42%,anterior cQunterclockwise型(QRs環全体の70
%以上が前方にあり反時計回転をするもの),a聡terior clockwise型(QRS環の主体が前方にあり時計回転する
もの)合計7/36例,19%は本病型の特徴であった,
2) うっ血型心筋症について
広範な心筋病変に起因すると考えられる陰性ないし平 低T波(28例,96.6%)は高頻度にみられた.異常 波
(13例,32.5%)の成因は心筋線維化,変性に基づくと 考えられた.ECGにおける変形の強いQRS波を示し
(11例,27.5%),VCGにみられる不規則なQRS環を 示す心室内伝導障害所見は心室筋全般,特に刺激伝導脚 束を抱合した病変があるために生じたと考えられた.
QRS低電位差(8例,20%), V、, V2におけるR波減高 の高頻度出現ならびに左室肥大所見の低頻度出現(8 例,20%)などは線維化,変性などの退行性病変と関連 づけられた.その他左房拡大(13例,32,5%)などがみ
られた.
VCGではleft posteriQr counterclockwlse型はみられ たが8/33例,24.2%,left posterior clockwise型(QRS 一1076一
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環の主体が左後方へ向い,時計回転をして戻るもの)
11133例,33%やinlegular型(QRS環全体が変形した 通常のQRS環と全く異なるもの)8/33例,24.2%はう っ血型心筋症に特徴的であり,また重症度の強い傾向が みられ,irregular型は予後不良であった.
結論
V、・V2に高いR波があり,且つ,深い陰性T波を示 す左室肥大所見,中隔肥厚をうかがわせる異常Q波,
VCGにおける前方偏位を呈する高電位QRS環などは
肥大型心筋症の診断を可能にする.また低電位を呈し,
且つ広範な誘導:にわたって異常Q波を呈する心電図所 見,不規則な波型を呈する心室内伝導障害所見,VCG における1eft posterior・clockwise型, irregular型な
どはCCMの診断を可能にする所見であり,さらに irregular型を示す例は早期に死亡することが分つた.
以上,特発性心筋症ではECG, VCGのみからも診断が 可能であるのみならず,予後の推測まで行なうことがで きると結論される.
論 文 審 査 の 要 旨
特発性心筋症は従来考えられて来たよりも頻度の多い,従って臨床的に重要な疾患である.しか し,その診断は必ずしも容易でない.そのような事情の中で,この疾患の心電図所見は,高頻度に異 常を示し,診断上重要な判断材料となっている.本論文は特発性心筋症を肥大型とうっ三型に分け,
多数例について心電図上の特徴を示し,病理解剖所見,心筋バイオプシー所見との対比にまで及んだ もので,臨床心臓病学に寄与する価値高き研究であると認める.
主論文公表誌
特発性心筋症の心電図およびベクトル心電図一肥大 型心筋症とうっ同型心筋症の比較検討および心内膜心筋 生検と剖検所見との対比一
東京女子医科大学雑誌 第50巻 第12号 1071~1094(昭和55年12月25日発行)
副論文公表誌
1)特発性心筋症とその類縁疾患一その診断と分類 に関する試察一
厚生省特定疾患特発性心筋症調査研究班昭和49 年度研究報告書 110~127‘(昭50.3.)
2)小児の特発性心筋症とその類縁疾患ことにうっ血 性心筋症の臨床と病理.
厚生省特定疾患特発性心筋症調査研究班昭和50 年度研究報告書 182~195(昭51,3.)
3) 類似した血行動態,心筋生検所見を呈した特発性 非閉塞性心筋症の母子例.
心臓 9(6)510~517(昭52)
4) 心筋バイオプシー像.
臨科学 11(10)1382~1395(昭52.6.)
5)特発性心筋症とその類縁疾患.
日医新報 2701 8~17(昭51.f.31)
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