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大学生の ADHD を対象としたコーチング ――内容と形態の検討を中心に――

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Academic year: 2021

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41 明星大学発達支援研究センター紀要 MISSION March/2019 No. 4

Mizuho Ando:筑波大学心理発達・教育相談室

安 藤 瑞 穂

1.はじめに

 ライフステージの中でも、青年期から成人期に またがる大学生の時期において、注意欠如・多動 症(以下、ADHD)の特性は学生生活に様々な影 響を及ぼす。大学生になると、レポート課題を締 め切りに合わせて提出することや、テストに備え ることなど、学業の管理には一層の自立が求めら れ、時間割の組み立てのような高度なプランニン グの能力が要求されるようになり、アルバイトと 学業との両立などマルチタスクの管理が必要とさ れる。また、一人暮らしを始める者が急増する時 期であり、食事や身の回りの細々としたことにも 自身で対処していくことが増える。このような大 学生活に特有な状況は、実行機能の支障により一 層困難さが増す。

2.ADHD 者に対するコーチング

2-1.諸外国の状況

 ADHD症状に由来する問題を有する大学生を 含む成人に対して、北米ではコーチングというア プローチが適用されることがある。ADHDへの コーチングにおいて、コーチとクライエント(Cl との関係は、協働関係や非指示的関係を前提とす る。コーチはClとの併走状態を保ちながら進捗 状況を把握し、助言し、励ましながら、双方の合

意のもと締結された目標の達成を目指す支援法で ある(Fevorite, 1995; Sleeper-Triplett, 2010)。

 近年、大学生のADHD者(以下、ADHD学生)

に対してコーチングを適用した研究がいくつか報 告されている。これらの報告で実施されたコーチ ングについて、内容を中心に表1.に示した。以下、

この表の検討から見えてくるコーチングの特性を 説明する。

2-2.誰がコーチになるか

 表1.に報告されているコーチングの実施者で あるが、トレーニングを受講したコーチや、心理 学専攻の学生などが挙げられる。北米において コーチと称するための公的な資格は現在のところ ない。したがって、北米で活躍しているコーチの バックグランドも教育や心理学、社会福祉など 様々である。そのため、幅広い支援者層によるコー チングの活用が見込め、近年増加するADHD 生に対する支援の拡大には有益であると考えられ る。一方、コーチの質やレベルに個人差が生じや すい状況にあることは留意されるべき点である。

2-3.コーチングの内容

 まず、頻度は週1回から2回、時間は30分か 1時間弱と、短時間で比較的頻度の高い実施が コーチングの特徴とも言える。この特徴から、コー チングが時間をかけてClの内面を掘り下げてい くようなアプローチとは異なっていることがうか

【特集:支援としてのコーチング】 寄稿

大学生の ADHD を対象としたコーチング

――内容と形態の検討を中心に――

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42

特集:支援としてのコーチング

がえる。

 では、どのような要素がコーチングに含まれる のだろうか。表1.より、目標の設定や具体的な 行動に関する計画を立てることに内容の共通点を 見いだせる。また、その際にコーチが果たす役割 として、サポートやガイド、方略の提案など、Cl との併走状態を保つうえで必要な援助が提供され る。取り組みの内容は多岐にわたるが、学生生活 や学業に関し、時間管理や締め切り、学習方略な ど実行機能の支障が多大な影響を及ぼす領域が取 り上げられる傾向にある。

 コーチングの実施形態には、対面形式だけでな く、メールや電話などの道具が用いられることも特 徴であるといえる。道具を使う理由として、忘れや すい、わき道にそれるといったADHD特 性を念 頭に置いた対応であることが挙げられる。コーチ との話し合いで立てた目標や具体的な行動も、こ のような特性によって達成困難に陥る蓋然性が高

い。そこで、メールや電話、最近ではiPadとい うようにITを利用し、フレキシブルに対応するのも コーチングの特徴の一つであるといえる。

3.日本におけるコーチングの課題

 これらの報告を基盤として、日本のADHD 生へコーチングを適用する際に考えられる課題は 以下の点にあると考える。ADHDへのコーチン グに関する知識と理解を得るトレーニングを日本 で受ける環境は整っておらず、また書籍も少なく 情報を得にくいことが挙げられる。近年の効果検 証により、日本でもコーチングがADHD者に有 益である可能性が示唆されるが(安藤ら,2018)、

現在困難を抱える学生に幅広くコーチングを提供 するにあたっては、臨床研究に基づくノウハウが 示されることや、システムの整備が喫緊の課題と いえる。

Parker &

Boutelle (2009)

北米 大学生 ADHD and/or LD N=54 場所:大学内

週1回、1時間以内 第1回~3回目コーチング

・目標設定(関心領域:オーガナイゼーション、時間管理、課題 の締め切り、ストレスマネジメント、学業と生活のバランス)

内容

・質問を通して、サポート、構造化、戦略、ガイドを提供する

・目標に向かって行動を起こす

・目標は学業成績の向上、学習を深める、キャンパスでのQOL 強化

対面 メール 電話

コーチ

(コーチトレーニング受講者)

N=4

Wentz et al., (2012)

スウェーデン 大学生(16-26歳)

ADHD and/or ASD N=10

場所:児童神経精 神科クリニック

チャット+コーチング

8週間(週2回) 1回につき30分~1時間 初回対面時

・8週間取り組んでいきたい具体的な問題点を話し合う

・勉強方法、日々のルーティン、物事の完遂が主たるテーマ チャット

・コーチの助言は具体的

・生活管理の方略を提案する

・平日2時~4時にチャットルームに1~3名のコーチが待機

対面×2回 チャット×14回上限 チャットの合間にメール

臨床心理士 心理療法家

Prevatt &

Yelland (2015)

北米 ADHD and/or LD N=148 場所:大学内

実行機能障害がターゲット 8週間・週1回・費用100ドル 内容

・心理教育

・長期目標設定(2~3個)

・短期目標設定(週当たりの目標)

・セッション間の課題(BSA)の書き出し

テキストメッセージ メール 電話

・BSAの内容や目標のリマインダー

・手帳使用への置き換えによりリマ インダーは減らしていく

博士後期課程学生

(カウンセリング心理学・学校 心理学専攻)

N=26

Goudreau et al.

(2018) 北米 ADHD and/or LD 場所:大学内

実行機能コーチング 初回(30分~45分)

・脳機能障害の説明・ポジティブな側面についての対話

・学期ごとに学生生活およびアカデミックな目標の設定

・過去にうまくいった方略への気づき

・守秘義務およびClの親との連絡に関する話し合い 以降(30分、週1回)

・実行機能スキル、学習方略、優先順位付け、自己啓発、自己 効力感、独立の領域から、各Clがコーチングアジェンダを作成

・アジェンダには週当たりの計画が含まれる

・アジェンダの振り返り

・目標達成時の報酬の設定

・iPadや携帯電話へのリマインダー の設定

・授業へのコーチの派遣

コーチ(トレーニング受講者)

N=9

注 BSAはBetween Session Assignmentを示す.

表 1. 大学生のADHD 者を対象としたコーチングの内容

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43 大学生の ADHD を対象としたコーチング

【文献】

安 藤 瑞 穂,武 田 俊 信,熊 谷 恵 子(

2018

):

ADHD

のある成人に対するコーチングの効果-

10

名の

ADHD

成人への臨床研究-.

LD

研究,

27

3

),

290

300

Favorite, B. (1995) Coaching for adults with ADHD: the missing link between the desire for change and the achievement of success. ADHD Report, 3, 11–12.

Goudreau, S.B. & Knight, M. (2018): Executive Function Coaching: Assisting with Transitioning From Secondary to Postsecondary Education.

Journal of Attention Disorder, 22(4), 379-387.

Parker, D.R. & Boutelle, K. (2009): Executive function coaching for college students with learning disabilities and ADHD: a new approach for fostering self-determination.

Learning Disabilities Research & Practice, 24(4), 204-215.

Prevatt, F. & Yelland, S. (2015): An Empirical Evaluation of ADHD Coaching in College Students. Journal of Attention Disorder, 19(8), 666-77.

Sleeper-Triplett, J. (2010): Empowering Youth w i t h A D H D : Yo u r G u i d e t o C o a c h i n g Adolescents and Young Adults for Coaches, Parents, and Professionals. Specialty Press, Florida.

Wentz, E., Nydén, A., & Krevers, B. (2012):

Development of an internet-based support and

coaching model for adolescents and young

adults with ADHD and autism spectrum dis-

orders: a pilot study. European Child and

Adolescent Psychiatry, 21(11), 611-622.

表 1. 大学生のADHD 者を対象としたコーチングの内容

参照

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