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(東女医大三三30巻第3号頁408 411昭和35年3月)
本邦動脈硬化性心臓疾患死亡率に及ぼす
諸要約の統計学的考察
東京女子医科大学衛生学教室(主任吉岡博人教授)
泉 文 雄
イズミ フミ オ
(受付昭和34年12月14日)
第・一章 緒 言
近代医学のめざましい発達により,わが国の死 因別死亡率は著しく変動し,ことに,各種抗生物 質の発見により,伝染性疾患による死亡が激減し た。これ1こ口わって,近年老人性疾患ともいうべ き脳卒中,悪性新生物,動脈硬化性心臓疾患によ る死亡が注目され,種々の研究が行われ,報告さ れている。しかし,これら疾患死亡率に対する自 然及び社会的要因の影響については,ほとんどそ の研究をみない。そこで,著者はききに,脳卒 中,悪性新生物死亡率に対する自然及び社会的要 因の影響について報告したのであるが,今回は全 心臓病死亡率の60%〜70%をしめる1>動脈硬化 性心臓疾患死亡率について,同様な研究を行い若 干の知見を得たので報告する。
第二章 資料及び研究方法 資料
人口・………・・………昭和30年国勢調査報告 (1%抽出推計人口)
動脈硬化性心臓疾患訂正死亡率………寿命 学研究会年報(昭32)
平均気温………・……一・中央気象台月報(昭31)
預金高………財政金融統計月報 64 (昭31)
エ業就業者数_昭和30年国勢訂超査報告 研究方法
わが国において,都道府県別にみた動脈硬化性心臓 疾患死亡率の高低に対する気象及び社会的諸要約は種
々老えられるが,さきに,著者は脳卒中及び悪性新生
物について同様の研究を行ったので,これにならい以 下の5種に限った。
1. 動脈硬化性心臓疾患訂正死亡率 2.平均気温=10g(年間平均気温)
3・人・の都市集中率一匹禦・・・…)
4. 1世帯平均人員
5・冨の面一(全金醒の警鍾)
6・蝶化指数《r講難・・・…)
これらの諸要約は,最近の動脈硬化性心臓疾患の事 情を研究するため,国勢調査の行われた昭和30年度の
ものを用いた。
以上の要約申,動脈硬化性心臓疾患死亡率は,性,
年令構成を考慮:して訂正死亡率を使用した。標準人口 は昭和30年全国人口を用いた。平均気温に対数を用い たのは,度数分布が一方に偏椅しているので,これを 正常に近づかしめるためである。
上記の諸要約と,動脈硬化性心臓疾患訂正死亡率と の関係を部分相関法を採用して,その相関係数を算出 し,いかなる要約が重要な影響を及ぼしているかを検 討した。
部分相関の公式2)はつぎのごとくである。
r12・・54…n一
O呈溜…li証碧穐望三舞議
上の公式において,r12.7J4…nという棚関係数の2 と3の間の点はその点以下の度数54_、1を一定にしてそ の影響をのぞくことを意味してし)る。他の例もみなこ れに準ずる。
零次の相関係数は,つぎの公式5)によった。
Fumio IZUMI(Depart皿ent of Hygiene, Tokyo Women s Medical College):Studies on the factors influencing the death−rate of arteriosclerotic heart diseases in Japan from the standpoint of public health statistics.
一408一
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E (xy)
「κy「マS。S声
上の公式において,rxyは二つの度数XYの聞の相 関係数で,Sx Syはそれぞれの標準偏差, x, yはX,Y におけるそれぞれの平均からの偏差で,Nは観察数で ある。相関係数rが有意であるか,有意でないかはそ の標準誤差の2倍以上ならば有意であり,それ以下な らば有意でないとした。その公式は,
1
零次 S.E.r 12=・
Avi N−1
融 SEr 1甲山》論。Pt
上の公式中S・E.r!2, S.E.r 12.54…nは標準誤差で,
Nは測定数,Kは影響を除外した要素の数である。
第三章 研究の結果及び考察 第一節 平均気温との相関
気象的要約には種々あるが,平均気温をその代 表として検討してみることにする。老人性疾患と
しての心臓疾患死亡の季節的変動については,武 田4),荒井5),宮入,大橋6)等の研究があるが,
いずれも寒冷期に高く,三期に低いことを報告し ている。そこで,動脈硬化性心臓疾患訂正死亡率
と平均気温の零次の相関をみると,
r i2 =一e. 301±O. 149
有意の逆相関である。すなわち,平均気温の低い ほど死亡率は高くなっており,さきに報告した脳 卒中の場合と同様である。つぎに,他の諸要約を 順次に一定にしてみると,
r i2. s =一〇. 2t84±O. 151
r i2,4 = 一〇. 091±O. 151 r i2, s == 一〇. 280±O. 151
r i2.6 =一〇. 284±O. 151
すべて逆相関ではあるが,有意ではない。
そこで,これ門門要約を全部同時に一回目して,
その影響をのぞいてみると,
r 12, s4s6 = 一〇. 143±O. 156
逆相関ではあるが,やはり有意ではない。すなわ ち平均気温という気象的要因は動脈硬化性心臓疾 患死亡率に対して実際には影響を与える因子では ないといいうる。零次において有意であるかのよ
うにみえたのは,平均気温と1世帯平均人員が有 意の逆相関であり,しかも,後に述べるように1 世帯平均人員は動脈硬化性心臓疾患死亡率に対し て影響を与える重要な因子であるため,その影響 をうけて有意にみえたのである。
第二節 人口の都市集中率との相関
人口が密集し,雑音の激しい都市に動脈硬化性 心臓疾患の死亡率は高いのではないかと想像され る。これについて,宮入6)は市部は郡部に比し て高率となっているといっており,同じ宮入7)は また米英においてもやはり都市の方が郡部より高 く,近来の都会地における日常生活の複雑化が心 身のストレスによって影響をうけやすい本疾患の 発生を助長するものであろうといっている。吉岡,
諸岡8)等の研究によれば昔は,都市の:方が高率 であったが,昭和5年以降わずかながら都市の方 が低いといっている。そこで,動脈硬化性心臓疾 患訂正死亡率と人口の都市集中率との零次の相関
をみると,
r is =一〇. 112±O. 149
逆相関ではあるが,有意ではない。つぎに,他の 諸要約を順次に一定にしてみると,
r is.2 =一〇. 043±O. 151 r is.4 =十〇. 206±O. 151 r is. s =一〇. Oe9±O. 151 r ls,6 =一〇. 04−7±O. 151
1世帯平均人員を一定にしたものをのぞいてすべ てほとんど相関はない。しかし,1世帯平均人員 を一定にしたものも,順相関ではあるが有意では ない。つぎに,これら諸要約を全部同時に一定に してその影響をのぞいてみると,
r ls. 24s6 =一〇. 05±O. 156
ほとんど相関はないといってよい。すなわち,人 口の都市集中率そのものは,動脈硬化性心臓疾患 の死亡率に対して影響を与える因子ではないとい いうる。都市に死亡率が高いという前記諸家の報 告やわれわれの想像に反するものであるが,それ は都市の中に存在する人口という因子以外のある 因子の影響であろうか。今後の研究にまつもので あろう。
第三節 1世帯平均人員との相関
1世帯平均人員と動脈硬化性心臓疾患死亡率と の零次の相関をみると,
r i4 == 十〇. 682±O. 149
かなり高い有意の順相関をしめす。つぎに,他の 諸要約を順次に一定にしてみると,
r 14.2 =十〇. 645±O. 151 r14.乙=・十〇.694=ヒ0.151
r i4. s == 十〇. 704±O. 151 r i4,6 =十〇. 719±O. 151
一一一 409 一
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すべてかなり高い有意の順相関をしめす。そこ で,これらの諸要約を全部同時に一定にして,そ の影響をのぞいてみると,
r 14.2ss6 == 十〇. 693±O. 156
やはり高い有意の順相関をしめす。すなわち,1 世帯平均人貝の多いほど,動脈硬化性心臓疾患死 亡率は高いといいうる。要するに,動脈硬化性心 臓疾患の死亡率は,1世帯平均入眼の多い農漁村 地方に高いことがわかる。
第四節 富の分布との相関
富の程度が動脈硬化性心臓疾患死亡率にいかな る影響を与えるか文献で明かでないが,今富の分 布と動脈硬化性心臓疾患死亡率の零次の相関をみ
ると,
r is 一一 一〇. 140±O. 149
逆相関であるが,有意ではない。つぎに,他の諸 要約を順次に一定にしてみると,
r is.2 =一〇. 079±O. 151 r is.s =一〇. 085±O. 151 r is.4 == 十〇. 277±O. 151
r is.6 = 一〇. 100±O. 151
1世帯平均人員を一定にしたものの外は,ほとん ど相関はない。しかし,1世帯平均人員を一定に したものも,順相関ではあるが有意ではなく,富 の程度の高いほど死亡率がいくらか高い傾向をし めすという程度である。そこで,これらの諸要約 を全部同時に…定にしてその影響をのぞいてみる
と,
r15.2346==一〇.004=ヒ0.156
ほとんど相関はない。すなわち,富の分布は,動 脈硬化性心臓疾患死亡率に影響を与える因子では
ないといいうる。
第五1節 工業化指数との相関
精密な機械の操作,危険な作業に従事する者ほ ど動脈硬化性心臓疾患死亡率は高いのではないか と想像きれるが,宮入7)はその研究で工業化の 程度に併行するものであろうといっている。安楽 城9)は職業別にみて,販売従事者,農夫伐木夫,
猟師,漁夫,管理的職業の順に高率で,特殊技能 工,生産工程従業者及び単純労働者は低率をしめ すといっている。そこで,動脈硬化性心臓疾患死 亡率と工業化指数との序次の相関をみると,
r16=一〇.106=ヒ0.151
逆相関ではあるが有意ではない。つぎに,他の諸
要約を順次に一定にしてみると,
r16.2=一〇.023二±二〇,151
r i6. s =一〇. 031±O. 151 r i6.4 == 十〇. 328±O. 151
r 16.s =十〇. 036±O. 151
1世帯平均人員をのぞいたものだけが,有意の順 相関をしめす。そこで,これらの諸要約を全部同 時に一定にして,その影響をのぞいてみると,
r 16. 2s4s == 十〇. 209±O. 156
順相関ではあるが,有意ではない。すなわち,工 業化指数は動脈硬化性心臓疾患死亡率に影響を及 ぼす重要な因子ではないといいうる。.
第四章 総括及び結論
動脈硬化性心臓疾患死亡率に及ぼす自然及び社 会的要約の影響について,昭和30年度における都 道府県別にみた動脈硬化性心臓疾患訂正死亡率の 大小と,平均気温,人口の都市集中率,1世帯平 均人員,富の分布,工業化指数の5種の要約との 部分相関を検討したのであるが,その結果を総括 すれば,つぎのとおりである。
(1)平均気温 平均気温と動脈硬化性心臓疾患 訂正死亡率との零次の相関をみると,
r i2 == 一〇. 301±O. 149
有意の逆相関である。つぎに,他の諸要約を全部 同時に一定にしてその影響をのぞいてみると,
r 12. s4s6 = 一〇. 143±O. 156
逆相関ではあるが有意ではない。すなわち,平均 気温は動脈硬化性心臓疾患死亡率に対して影響を 及ぼす:重要な因子ではない。
(H)人出の都市集中率 人口の都市集中率と動 脈硬化性心臓疾患訂正死亡率の線型の相関をみる
と,
r is =一〇. 112±O. 149
逆相関ではあるが有意ではない。つぎに,他の諸 要約を全部同時1(一一定にしてその影響をのぞいて みると,
r ls. 24s6 = 一〇. 050±O. 156
ほとんど相関はないといってよい。すなわち,人 口の都市集中率は動脈硬化性心臓疾患死亡率に対 して影響を与える因子ではない。
(皿)1世帯平均人員 1世帯平均人員と動脈硬 化性心臓疾患訂正死亡率の零次の的関をみると,
r i4 =十〇. 682±O. 149
かなり高い有意の1頂相関をしめす。つぎに,他の
一410 一一
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諸要約を全部同時に一定にしてその影響をのぞい てみると,
r 14. 2ss6 == 十〇. 693±O. 156
やはり高い有意の順相関をしめす。すなわち,1 世帯平均入員は動脈硬化性心臓疾患死亡率に対し
て影響を与える重要な因子である。
(IV)富の分布 富の分布と動脈硬化性心臓疾患 訂正死亡率の零次の相関をみると,
r is = 一〇. le4±O. 149
逆相関ではあるが有意ではない。つぎに,他の諸 要約を全部同時に一定にしてその影響をのぞいて
みると,
r ls. 2s46 = 一〇. 004±O. 156
ほとんど相関はない。すなわち,富の分布は動脈 硬化性心臓疾患死亡率に対して影響を与える因子
ではない。
(V)工業化指数 工業化指数と動脈硬化性心臓 疾患訂正死亡率の零次の相関をみると,
r i6 == 一e. 106±O. 14[
逆相関ではあるが有意ではない。つぎに,他の諸 要約を全部同時に一定にしてその影響をのぞいて
みると,
r i6. 2s4s == 十〇. 209±一〇. 156
順相関であるが有意ではない。すなわち,工業化 指数は動脈硬化性心臓疾患死亡率に対して影響を
与える因子ではない。
以上の所見により,動脈硬化性心臓疾患死亡率 に対する自然及び社会的要約の影響は,これを零 次においてみると,脳卒中死亡率に対する影響に やや似て,平均気温と1世帯平均人員が影響して いるが,他の要約の影響をのぞいてみると,平均 気温はそれほど影響を与える因子ではなく,ユ世 帯平均人員のみが影響を.与える因子となってい
る。零次において平均気温が影響を与える因子で あるかにみえたのは,平均気温の低い地方は1世 帯平均入員が多く,且つ,1世帯平均人員は動脈 硬化性心臓疾患死亡率に対して影響を与える:璽要 な因子であり,その影響を受けて有意であるよう にみえたわけである。他の3因子についてみる と,これは,すべて,影響を与える因子とはなっ ていない。これる要するに,動脈硬化性心臓疾患 死亡率は,1世帯平均人員の多い地方に高いとい
うことがわかる。
稿を終るに臨み,終始ご懇切なるご指導ご校閲を 賜った吉岡博人教授に謹んで謝意を表する。
交 献
1)安簾城元:最近における府県別死因分類別 心臓疾患死亡に関する研究。東女医大誌272
47 (日召 32)
2) Pearl, R. : lntroduction to Medical Biome−
try and Sta・tistics. 394−406 W.B. Saunde−
rs Co. phila. (1930)
3)吉岡博人;衛生統計学167南山堂(昭32)
4)武田壊寿:老人性死因による死因の季節変動 と年令との関係について。医学と生物学4T1 (昭33)
5)荒井尊皇:老人性疾患としての心臓疾患 腎 臓炎及び老衰の死亡の疫学的研突。統的疫誌
1 (3). 85 (日銀 32)
6)宮入正人:大橋 誠;心臓疾患の疫学。日公衛
誌 4 171 (望月 32)
7)宮入正人:英米における冠状動脈疾患の疫学 的展望。公衆衛生17(3)1(昭30)
8)吉岡埴田・諸岡妙子:本邦都郷軍老年疾患死 亡率について。日人口会記250(昭29)
9)安楽城 元:職業別心臓疾患死亡に関する研 究。東女医大誌S7373(昭32)
一41J一