岡大医短紀要,8:43‑48,1997 BullSchHealthS°i,OkayamaUniv
(原 著)
進路指導 を行 う高校教 師の看護職 につ いての認識
太 田武夫 下石靖昭 景 山甚郷 渋谷光一 唐下博子 遠藤 浩
要 約
1993年 に岡山県で行 った先の研究で,高校生の看護課程 の選択にあたって,進路指導 を行 っている教 師の役割が大 きい事 を報告 した。
今 回は3年経 った1996年 に,同 じ郵送調査 を岡山県お よび周辺10県の普通科高校617校 よ り無作為 に選 んだ127校 において実施 した。
64校 よ り得 られた回答 を要約す ると以下の通 りであった。
1.教師が挙 げた看護婦不足の理 由はまず 「勤務 時間が厳 しい (85.9%)」,「仕事 の内容が厳 しい (53.1
%)」 といった仕事 の きつ さで,次いで 「仕事 の割 には社会的評価が低 い (32.8%)」 であった。
2.教 師が学生に肯定的イメー ジとして看護課程 を勧め る理 由は,「まず専 門職 であるこ と (73.4%)」, 次いで 「人に貢献 で きる喜び (53.1%)」 であった。
これ らの結果は前回の結果 と比較 して統計的な有意差 は認めなか った。
3.近年進め られている3年制看護課程 (準学士課程)か ら4年制課程 (学士課程)‑ の移行 に関 して, 教師はこれ らは学生の関心 を呼ぶ とし(79.8%),看護課程へ進学す る者は増加す るであろ うとしてい
る (57.8%)。 またこれ までよ りこの課程への進学 を教 師は勧め易 くなるとしている (56.3%)0 これ らの率 は前回の結果 と比較す ると統計的に有意に高か った。
キーワー ド:看護課程,看護,看護婦,高校教 師,進路指導
は じ め に
近年大学教育による看護職養成が重視 され るよ うになったが, その背景 として,保健 ・医療 ・福 祉の社会的ニーズの高 ま りと発展,少子化 に とも
な う学生人 口の変化,高い質の看護実践能力の必 要性,看護学および看護の専 門性の発展 な どが挙 げ られている。そ して看護教育の理念お よび 目的 としては,医療専 門職 の一月 として他 の関連従事 者 と相補的に連携 をとりなが ら,対象者の 自立 と
自己実現 を援助 で きる高い資質 をもつ人材 を育て ることが求め られている1・2)。この ような社会的要 請の中で,全 国的に従来大 多数 をしめて きた3年 制の看護課程か ら4年制化への移行が次々に進め られて きた。本短期大学部 で もこれ まで将来の移
岡山大学医療技術短期大学部
行 と新 しい看護課程 の構築 に向けて,種々の改革, 討議お よび調査 を行 って きた3
8 ) 。
この うち1993年に行 った岡山県下の高校進路指 導教 師に対す る看護課程お よび看護職 についての 調査7)には,76校 中33よ り回答が得 られた。この結 果 では, 4年制‑の移行 は高校生の関心 を呼ぶ と す るものが51.5%,受験者が増加す るとす るもの が36.4%, そ して進路 として勧めやすい とす るも のが36.4%とい う結果 を得 たが, 「変 わ らない」,
「分 か らない」 とす るもの も多か った。 また看護 婦不足の理 由や看護課程 を勧め る場合 の理 由 を問 う質問に対す る回答 は,生徒 におけ る調査結果 と 比較 して看護観 に違 いが見 られ ることを認めた。
これ らの結果は,今後,高い資質 を有す る看護課
程志望者 を得 るには, 高校 教師‑ の看護 に関す る 十分 な情報提供 も重要 であ るのでは ないか と考 え
させ るもの であ った。
その後,全 国的に地域 医療 計画が急速 に整備 ・ 充実 されて きて, 4年制看護 課程 の新規 開設や看 護要員の充足 も進め られて きて い る今 日, 高校教 師の看護観 を再 評価 す るこ とは今後 の看護教育 の 視点形成 に資す るの では ないか と以下 の研 究 を行
った。
研 究 方 法 1.調査対象校 お よび対 象者
調査 対象校 は全 国学校 総 覧9)を も とに, 中国地 方5県, 四国地 方4県,近 畿地方 で隣接 す る兵庫 県の計10県 の普通科 を有 す る高校617校 よ り5分 の 1の系統 的無作為抽 出で選 んだ127校 であ るDこ れ らの高校 で進学。進路指 導 を して い る教 師に回 答 を依頼 した。
2.調査方法
調査 は 自記式 のア ンケー ト調査 で, 1996年7月 10日よ り9月10日までの期 間に郵送法 に よって行
聖職である
給与がよい
自己を高めることができる
人に喜ばれる
今後益々評価
女性の職業として定着
免許の強み
人と関わることの喜び
人の病気治療に貢献できる喜び
専門職である
図1 高校 の教 師が考 え る看 護婦不 足の理 由
進路指導 を行 う高校教 師の看護職 につ いての認識
った。調査 内容 は前回岡山県下 で行 った調査 の と 同 じもので, 1)看護婦不足の理 由, 2)進路 と しての看護課程 を進め る理 由, 3) 4年制看護課 程に対す る見通 しに関す るものである。設問項 目 および回答の選択肢 は全 く同 じものである。
デー タの分析 には統 計パ ッケー ジHALBAU (現代数学社) を用 いた。比率 の比較 はカイ2乗 検定によったが,少数 の頻度の場合 はフィッシャ ーの直接確率計算法によった。
結 果
回答 を得 られ たのは回答 を依頼 した127校 中64 校 で, 回収率 は50.4%であった。 うち公立高校 は 51校,私立高校 は13校 であった。 この対象校 には 生徒 に対す る調査 も同時に依頼 し, その52校 にお け る結果は別報にまとめたが,本報の調査 にのみ 回答 している高校 があるためやや 回答数がそれ を 上 回っている。
1.高校教 師の考 える看護婦不足の理 由
10項 目の回答肢 にたいす る多項選択によって挙 げ られた回答数 を,頻度の高い順 に1993年の調査
危険なことが多い
閉鎖的職場である
教育期間が長い
汚い仕事が多い
人間関係が厳しい
精神的消耗が強い
給与条件が低い
仕事の割に社会的評価が低い
仕事の内容が厳しい
勤務時間が厳しい
図2 高校 の教 師が学生 に看護課程 を勧め る場合 の理 由
結果 と対比 させ た ものが図1で, ほぼ 同 じ傾 向が 認め られ る。前 回同様仕事 の さっ さ とその割 に社 会的評価の低 いこ とが上位 に挙げ られ てい るC
調査対象に違 いかあ るので,安 易な比較 は危険 であ るが,前 回の結果 とカイ2乗検 定 で比較 して
も有意の差 は認め られ なか った。
2.教 師が学生 に看護課程 を勧 め る場合 の理 由 図2に示 した如 く, 一定 の 資格 に裏付 け られ た 専 門職 であ るこ とと, 人 と人の病 気 に関 わ り貢献 で きる とい う4項 目が上位 に挙 げ られてい る。前 回 との比較 でみ る と 「人に喜 ばれ る」 とい う項 目 で今 回は1%以下の危険率 で高 くなってい るのが 特徴的 であ る0
3. 4年制看護課程 を志望 す る学 生の動 向に関す る教 師の意見
表1 進学希望者の4年制大学看護学科 に対す る関心 調査年 1996 1993
合 計 64 33
関心 を呼ぶ 51(79.7) 17(51.5) 変わ らない 9(14.1) 8(24.2)
( 1内は%
表1に示す よ うに, 4年生看護学科 は学生 の関 心 を呼ぶ とす る回答 は前 回の回答 に比 し79.7%と 顕著 に増加 してお り,両者 間に1%以下 の危険率 で有意 の差が認め られ た。 また受 験者数 も,表2 に示す よ うに増加す る とす る珂答が増加 してお り,
5%以下 の危険率 で有意 の差 が認め られ る。
表2 4年制大学看護学科増設に伴 う 看護 系受験者数の増加
調査年 1996 1993
合 計 64 33
増 える 37(57.8) 12(36.4) 変わらない 13(20.3) 12(36.4)
( )内は%
今 回の対象 を普通科 を有す る高校 に限 った こ と に もよろ うが,広域 での調査結果 として, 4年制 看護課程 が高校 か ら素質 の あ る学生 を求め得 る可 能性 を示 してお り, 注 目で きる。
表3 進路 としての 4年制大学看護学科 の勧めやす さ 調杢年 1996 1993
合 計 64 33
勧めやすい 36(56.3) 12(36.4) 変わ らない 22(34.4) 9(27.3)
( )内は%
また表3に示 す如 く, 教 師 自身が進路 として勧 めやす い と答 える率 も増加 してお り, 前 回に比 し て1%以下 の危険率 で有意 の差 を認め た。
4.公 立高校 と私 立高校 の教 師に よる意見の違 い 上記1‑ 3のつ いて公立高校 と私 立高校別 の教 師の意見 に相違 が あ るか ど うか を比較検 討 した結 果 では, いずれの項 目につ いて も有意 の差 は認め
られ なか った。
考 察
看護教 育の改革 に早 くか ら着手 した米 国 では, 早 い時期 か ら病 院 を基盤 に した看護婦養成 か ら大 学教育 に よる教 育 に切 り替 え,1978年 には既 に教 育施設の4分 の 3が短大 もし くは大学 に なってお り,現在 の我が国の状 況 を も上 回 って いた10)oそれ に もかか わ らず西暦2000年 にお いて も大学 の看護 課程 を卒 業す る看護婦数 は需要 を下 回 り, しか も 高校 生数 の減少傾 向 と新 しい女性 の職 業 の広 が り か ら,素質 のあ る学生 を看護 界 に如何 に呼 び込 む か とい う問題 が懸案 とな ってい る。Lippmanll
) ら
は この点 につ いて,一般 の 人々は専 らマ ス メデ ィ アに よって与 え られ るステ レオ タイプ な看護婦像 に よって,看護 の否定的 な イ メー ジを与 え られ て い る とし, 高校 生 の進路指導 にあた るカウンセ ラ ー の看護観 を重視す る必要 が あ る と述べ てい る。
著者 らの調査の意図 も, 高校 の進路指 導教 師に 十分 な情報提 供 が重要 であ る とい う前報9)の結 果 の通 り,基本 的 に これ と同 じ観 点 に立 ってい る。
今 回の調査 結果 は総 じて前 回に比べ て よ り4年制 看護課程 に対 す る期 待 が高 いこ と,教師 として も 進路 として勧 めや す い結果 を認め たが,今 回の調 査 が よ り広域 の調査 であ り, 回収数 も多い こ とか
らよ り意義 の あ る結果 ではないか と考 え る。 また, この間に急速 に増加 して きた4年制看護課程 の増
進路指導 を行 う高校教 師の看護職 についての認識
加 に よる,看護教育 に対す る理解 の変化 とも理解 で き,将来の この分 野‑ の人材確保 に好 ましい情 報 である。
しか し進路指導教 師の看護観 につ いては前 回に 比べ て殆 ど差がないこ とを考 えあわせ ると, 人生 の進路 としての看護職 に対す る意義づ けが好転 し た とい うよ りは, 3年制 よ りは4年制,専修学校 よ りは大学 での教育 といったこ とに認め られ る利 点 を評価 しているのではないか と思 われ る。唯一 有意差 を認めて今 回高率 であった「人に喜 ばれ る」
とい う献 身的な看護婦像 が, これ まで よ りも生徒 に進路 として 「勧 めやす い」 とい うこ とと相 まっ て,生徒 の将来 を考 える立場 にある教 師 として表 現 しやす くさせ てい るのであろ うと考 え られ る。
米国の進路指導 カウンセ ラー の看護観 の調査11)
では看護の 自立性,専 門学校教育 と大学教育の違 い,看護教育 を受 け るための知性 (brain)の必要 性が明確 に示 されてお り,1990年 の時点 では メデ ィアによる否定的 な影響 を受 けていない とされて い る。我が国で も3K (危険, きつ い,汚 い) あ るいは6Kといわれ る否定的な面が社会 的に とり あげ られて きたが12),今 回の調査 で も「勤務 時間が 厳 しい」,「仕事 の内容 が厳 しい」とい う 『きつ さ』
と関連す る項 目が看護婦不足の理 由 として高率 に 挙 げ られ るように,教 師か ら見れば看護業務 には まだ まだ否定的 な側面が強 い こ とが伺 われ る。 ま た勧 め る理 由 を肯定的 な側面 と考 えれば,「人の病 気治療 に貢献 で きる喜 び」,「人 と関わ るこ との喜 び」 といった献 身的な面や主観 的 な満足感 では高 い率 を示すが,専 門職 であ る としなが らも,「今後 益々評価 され る」,「自己を高め るこ とがで きる」,
「給与が よい」 といった客観 的評価 と関わ る面 で の評価 が低 い点が特徴 的であるO おそ ら くこれは 両 国の看護 の歴史 と実状 の違 いに よるもので虜)ろ うが,我が国の高校 の進路指導担当教 師の積極 的 な看護課程へ の勧 め を得 るには まだ まだ陸路が残 されてい るといえよう。
Lippmanll)らは, また,看護界に よき人材 を得 るために,看護職 にあ るものが,教 師や生徒, そ れに生徒 の両親 とよ く接触 し,情報 を提供 す るこ とが必要 であると述べ てお り, この点は これ まで
本学の調査 で指摘 してい る事 と一致 し, その努力 は看護 界にあ るものの責務 であ る といえよう。
さらに前報 で も指摘 した如 く,教 師の考 える看 護職 の社会 的評価 の低 さを変 え る改革 もまた, 同 時に重要 であろ う。
ま と め
岡山お よび近隣9県の普通科 高校進路指導教 師 64人の郵送法 に よる調査 で,教 師の看護業務 に対 す るイメー ジは前報 におけ る結果 と変化 はないが,
4年制看護課程へ の期待 は さらに高 まっているこ とを認め た。 この よ うな高校教 師や生徒 の期待 の 変化 を通 して,看護 の社会 的評価 の重要性 を指摘
Lf=C
文 献
1)大学基準協会看護学教育研究委具合 :21世紀の看護学
2)厚生省健康政策局看護課 :看護教育 カ リキュラムー21 世紀 に期待 され る看護職 者の ため に‑.6‑9,第‑ 法 規,東京,1988.
3) 岡山大学医療技術短期大学部 :自己点検 ・評価報告善 一現状 と課題.1994.
4)岡山大学医療技術短期大学部 二自己点検 ・評価報告書
5)荒川靖子,小野 ツル コ,小 原ル リ子,伊東久 恵,喜 多 嶋康一 :岡大看護学科への進路決定 に影響す る要員の 研究. 岡大医短紀要2 :97‑104,1991.
6)前 田真紀子,高畑晴美,近藤益子,太 田武夫,喜 多鴫 康一 :看護課程志望 高校生 の看護職 に対す るイメー ジ
に関す る研究. 岡大 医短紀要5 :37‑45,1997. 7)高畑晴美,前 田真紀子,太 田武夫,喜 多嶋康一,近藤
益 子 :進路指導 を行 う高校教 師が もつ今後の看護課程 につ いての認識. 同大医短紀要5 :47‑52,1997. 8)太 田武夫,下石靖昭,景 山甚郷,渋谷光一,唐下博子,
遠藤 浩 :医療技術教育 に対す る高校生 の認識 と関心 に関す る研究. 岡大医短紀要7(2):113‑119,1996.
9)文部省大 臣官房調査統計企画課 (編):全 国学校絵覧.
原書房,東京.1994.
10)RoemerR:AnintroductiontotheU.S.healthcare
sysytem,SpringerPublishingCompany,NewYork.
47‑55,1982.
ll)LippmanDT andPontonKS:Theimageofnurs‑ ingamonghighschoolguidancecounselors,Nurs‑ ingOutlook41:129‑134,1993.
12)行天良雄 :看護婦が足 りない.岩波 ブ ックレッ ト,岩 波書店,東京.180,1991.
of senior high school guidance teachers
Takeo OHTA, Yasuaki SHlMOISHl, Jingo KAGEYAMA, Koichi SHIBUYA, Hiroko TOHGE and Hiroshi ENDO
Abstract
A previous study in Okayama prefecture in 1993 indicated the importance of high school teachers' influential rule on student's choice of nursing course.
The same questionnaire survey was sent out by mail in 1996 to guidance teachers of 127 general high schools randomly selected from 617 schools in 10 prefectures, in and around Okayama.
Data obtained from 64 teachers were analyzed and the results were as follows;
1. They suggested that shortage of nursing manpower was due to the harsh working conditions such as long and irregular hours(85.9%) and hard work(53.1 %), and also the low social esteem of nurse(32.8%).
2. The aspect of nursing noted by teachers were job specialty(73.4%) and devotion to people(53.l%).
There were no statistical difference between these results and those of the previous study.
3. The teachers answered that the new four-year nuersing course (baccalaureate) currently being promoted from over the the present three-year course(associate degree) would be an incentive to students(79.8%) and might increase the number of students choosing to study nursing(57.8%). And they also noted that they would more readily recommend this course to students than before.
These rates were significantly increased compared to the results of the previous report.
Key words: nursing course, nursing, high school teacher, high school student School of Health Sciences, Okayama University