チタン酸バリウムナノ粒子分散液への電界印加によるナノ粒子の沈降現象
有村 雅司*1 牧野 晃久*1 藤吉 国孝*1 山下 洋子*1 桑原 誠*2
Sedimentation of Barium Titanate Nanoparticles in a Suspension under Application of Electric Field
Masashi Arimura, Teruhisa Makino, Kunitaka Fujiyoshi , Yoko Yamashita and Makoto Kuwabara
ゾルゲル法によって調製したチタン酸バリウムナノ粒子(BT-NP)をエチレングリコールモノメチルエーテル中に 分散させたBT-NPサスペンションを調製し,外部電界を印加した。電界を印加することで一部のBT-NPは電気泳動堆 積(EPD)により負極上に堆積し,その他のBT-NPは,沈降して容器下部で高濃度の分散液を形成した。更なる電界 印加によって,容器下部のBT-NP濃度は電界除去後も高濃度状態が維持される限界濃度に到達し,その後,容器の 底にBT-NPの堆積物が現れた。EPDによる電極上へのBT-NPの堆積も,電極近傍において粒子濃度が限界濃度以上に 上昇していると考えられ,限界濃度が高いナノ粒子分散液は,堆積前に電極近傍で粒子濃度が高濃度となり,比重 差によってナノ粒子の沈降が起こると考えられる。
1 はじめに
電気泳動堆積(EPD)法は,溶液中に分散した帯電 粒子を外部電場によって泳動し電極上に堆積する方法 である。近年,EPD法によって,ナノオーダーの粒子 によるサブミクロン以下の薄膜の作製が検討されてい る。その一方で,ナノ粒子はEPDによって安定な堆積 物が得られにくいとされている。著者らはこれまで,
高濃度の前駆体溶液を出発原料とする高濃度ゾルゲル 法によって,チタン酸バリウムナノ粒子(BT-NP)お よびBT-NP分散液を調製し, EPD法によるBT-NP薄膜の 作製を検討してきている。この検討の中で,EPD中に 電極近傍で下降流が発生し,分散液の濃度不均一化の 発生,それに付随して膜厚の不均一化が起こることを 観察している。本研究では,EPD中に起こるBT-NPの沈 降現象を調べ,電極近傍で起こる下降流の発生原因お よびEPDの堆積メカニズムについて考察した。
2 実験
乾燥窒素雰囲気下で調製した1.0mol/lのBaTiO3前駆 体溶液を-50℃において撹拌しながら加水分解を行い,
その後80℃でエージング処理を行いBT-NPを調製した。
離液を除去後,エチレングリコールモノメチルエーテ ル を 加 え て 超 音 波 に よ る BT-NP の 分 散 を 行 い , 約 4.8wt%のBT-NP分散液を調製した。調製した分散液の
平均粒径は,A液:14nm,B液:24nm,C液:70nmであ った。
BT-NP分散液への電界印加は,図1に示す装置で行っ た。沈降容器内壁に沿って螺旋状に配置した正極と容 器中央に配置した直線状の負極間に,20Vの直流電圧 を3~40時間印加した。所定時間電圧を印加した後,
沈降容器から負極を抜き取り,分散液を液面から順に 所定量ずつサンプリングした。分散液中のBT-NPの濃 度は,サンプリングした液の一部を真空乾燥し,乾燥 前後の重量変化から求めた。
*1 化学繊維研究所
*2 九州大学
H
sedL
depo堆積物
懸濁層
負極
(堆積電極)
正極
(対向電極)
分散液
図1 分散液への電界印加装置概略図 Ldepo: 負極上への堆積物の長さ Hsed : 懸濁層液面高さ
3 結果と考察
電圧を印加することで一部のBT-NPはEPDにより負極 上に堆積し,堆積に関与できなかったBT-NPは,沈降 して容器下部で高濃度化した。8時間以上の電界印加 によって,透明層と懸濁層の明瞭な層境界が現れた。
図2に懸濁液面高さ(Hsed)および容器底部のBT-NP濃
度(Cbottom)の電圧印加時間依存性を示す。電圧印加時
間の増加とともにHsedは減少し,BT-NPの沈降が進行し ていた。Cbottomは16時間以上で飽和し,同時に容器底 部に堆積物が現れた。分散の限界濃度を超えて濃縮し たBT-NPが堆積したと推測され,Cbottomは限界濃度で概 ね一定になったと考えられる。この限界濃度は分散液 の種類によって異なり,また,負極上へのBT-NPの堆 積状態と相関があった。図3に示す負極上への堆積物 の長さと限界濃度の関係から分かるように,堆積長さ (Ldepo)は限界濃度の増加とともに減少する傾向があっ た。この関係は,容器底における堆積と同様に,電極 上への堆積も,電極近傍において粒子濃度が限界濃度 以上となることで起こると仮定すると,次の様に説明 できる。限界濃度が高いナノ粒子分散液は,堆積前に 電極近傍で粒子濃度が高濃度となり,比重差によって ナノ粒子の沈降が起こる。その結果,限界濃度が高い 分散液は,電極上部にはナノ粒子の堆積が起こらず負 極の下部のみへの堆積となり,堆積物の長さが減少し たと推測される。
4 まとめ
EPDによって粒子が電極上に堆積する為には,電極 近傍において粒子濃度を限界濃度まで濃縮する必要が あると考えられる。限界濃度が高い分散液の場合,電 極上に堆積が起こる前に,電極近傍の分散液の比重が 増加して,粒子の沈降が発生する。その為,限界濃度 が高いナノ粒子は,電極上に堆積しにくいと考えられ る。限界濃度は,分散液の特性によって制御可能であ ると考えられる。よって,EPDによってナノ粒子薄膜 を得るためには,分散液の限界濃度を低くする工夫が 必要であると思われる。
5 掲載論文
Key Engineering Materials,Vol.350,pp.11-14(2007)
6 謝辞
本研究の一部は,NEDO技術開発機構平成19年度産業 技術研究助成事業の助成を受け実施しております。
図2 電圧印加時間による懸濁液面高さ及び 容器下部における粒子濃度の変化
0 10 20 30 40 50
0 10 20 30 40 50 容器底部の粒子濃度 C bottom(wt%)
電圧印加時間 (h) 0
10 20 30 40 50 60 70
C B A
懸濁液面高さ H sed (mm)
0 20 40 60 80 100 120 140
10 15 20 25 30 35 40 45 負極上への堆積物の長さ L depo(mm)
限界濃度(wt%)
図3 限界濃度と負極上への堆積物の長さの関係