博 士 ( 理 学 ) 坂 本 竜 彦
学 , 位 論 文 題 名
Systematic Sedimentary RhythmAnalysis of the Nakayama Formationln Sado lsland in the Japan Sea.
(佐 渡島中山 層の体系的堆積リズム解析)
堆積物や堆積岩の構成要素の律動的な変化である堆積リズムは地球環境の変遷や表層環 境ダイナミクスを明らかにすろための貴重な記録である,中期中新世から初期鮮新世まで の珪藻質泥岩を主体とする佐渡島中山層を対象として堆積リズム解析を体系的に研究した.
堆積リズム解析とは本研究において体系化した以下のような過程で行う研究手法である,
第1は,野外における詳細な調査や言己載および系統的な高分解能のサンプリングである.
本研 究 で は中 山 層の 模式地 である大 佐渡地域 質場川流 域を1/100の精 度で調査 し,中 山層の分布と層序を構築した,サンプルは,地層オーダ一,単層オーダー,カラーバンデ イングオ ーダー, ラミナオーダーの4つの空間スケールの異なるオーダーで採取した,第 2は,採取 した試料 の定量的な組成分析である.ここで組成とは化学組成や鉱物組成など 対象とす る堆積物 の構成要素の組成である.本研究では化学分析には蛍光X線分析を.鉱 物組成分 析には粉 末X線分析 を行った ,第3は,堆積リズムを発生する堆積システムのモ デル化である.化学分析値およぴ鉱物組成との比較検討から,中山層を構成する主成分を 明らかに し,その 含有量を見積る.第4は,深さ領域で表された組成変動リズムを時間領 域の沈積流量(MassAccumulationRate)への変換である.沈積
流量は化学組成(重量%)にかさ比重と堆積速度の積として定義され,ある組成の他に対 する希釈の影響や堆積速度の変化による影響を取り除(ことができるので,単位時間単位 堆積あたりの変量を定量的に評価できる指標であり,海洋学におけるフラックスと単位に おいて等 価である .第5は,沈積流量で表されたりズムの数学的な解析と解釈である.リ ズムの解 析には最 大エント 口ピー法 と最小二乗 最適曲線当てはめ処理を組み合わせたMe mCalcを 使用 し た, 第6は , 沈積 流 量で 表 さ れた り ズ ムが 意 味す る 古 海洋 学 的, 古環 境的な意味の考察と評価である,本研究では生物源シリカ沈積流量として推定される生物 生産性変動,陸源性砕屑物質の沈積流量の変動の復元を行った.また,岩相の変化から推 ‑ 154―
定される底層水の酸化度との関係から中山層の堆積環境を推定した,こうして,中山層の 堆積リズムが記録する表層環境の復元が体系的に行われる.
また, 佐渡 島中 山層 は10 0umオー ダー の白 い層 と黒 い層 からなるラミナ(葉層)が 保存されており,中期中新世から初期鮮新世までの年オーダーの海洋変動の復元のために 重要な意味をもっている.この微細な堆積構造を解析すろために,画像解析を軸とした堆 積 リズム 解析 手法 を開 発し た. まず,堆積物断面をCCDカメラからアナログ入カしコン ピ ュータ ー上 でデ ジタ ル化 する ,デジタルイメージから鉛直方向の面的な濃度(256階 調 )のプ 口フ ァイ ルを 作成 する .このプ口ファイルから長周期(Imm以上の波形)を除 去した後,層厚,白い層黒い層それぞれの濃度などのラミナパラメータを算出する,この パラメータを化学分析や鉱物組成分析などの結果と比較検討することから.画像データか ら古海洋変動を推定することができる.
堆積リズム解析の結果,以下のような点が明らかとなった.第1に,中山層は,生物源 シ リカと陸源性砕屑物(デトリタス)を主成分とする2成分系である.第2に,ラミナの 新しい画像解析を開発適用した,電子顕徽鏡観察からは.中山層のラミナは,珪藻の殻か らなる白い層と,珪藻殻以外に放散虫,珪質鞭毛藻などの珪質微化石の遺骸と砕屑物や有 機物質粒子などの混合物からなろ黒い層から構成される.ラミナ解析から得られた白い層 と 黒 い 層 か ら 構 成 さ れ る ラ ミ ナ一 組 の 層厚 のモ ード はO.15 5mmで あり ,珪 藻化 石帯 の 年 代 と そ の 間 の 層 厚 か ら 推 定さ れ る 平均 堆積 速度O.10 7mmと調 和的 で, ラミ ナ一 組 は1年を意味すると結論される.第3に,堆積リズムは時間領域に於いて解析すろ必要 があるので,個々のサンプルについて沈積流量を計算した結果,組成リズムと沈積流量リ ズムとは無視できない相違が認められた.地層オーダーおよぴ単層オーダー(時間として は104、106年 オー ダ一 )で は生 物源 シリ カ沈 積流 量は ほば 一定なのに対し,デトリタ ス沈積流量リズムは大きな振幅で振動する.カラーバンディングオーダ一(時間的には1 02 ̲103年オ―ーダー)では逆にデトリタス沈積流量リズムはほば一定なのに対し,生物 源 シリカ 沈積 流量 は大 きな 振幅 で振 動す る. ラミ ナオ ーダ ー(時間的には100〜102年 オーダ一)は,沈積流量そのものではな(データが他のスケールと等価ではないが,生物 源シリカ沈積流量,デトリタス沈積流量ともに周期的な変動を示す.第5に,古海洋学的 復元として以下のような点が明らかとなった,地層オーダ一(10 '〜106年オーダ`ー)
では,生物源シリカ沈積流量,デトリタス沈積流量変動は底層水の酸化還元の変化と関連 し て い ろ . 特 に ,9.1,8.1,6.3Maこ ろ に 認 め ら れ る 浮 遊 性 有 孔 虫 の 酸 素 同 位
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体から推定される地球規模の寒冷化や海水準の低下と連動している,生物源シリカ沈積流 量は時間の経過ヒともに減少する傾向を示し,デトリタス沈積流量は逆に増加する.この 傾向は底層水の酸化と海水準の上昇の傾向と一致する,単層オーーダー(10イ〜105年オ ーダ一)ではミランコビッチスケールで生物源シリカ沈積流量,デトリタス沈積流量が変 動している.底層水との関連では,デトリタス沈積流量が大きいとき,生物源シリカ沈積 流量は一般に低(,底層水は相対的に還元的である.デトリタス沈積流量が小さいときに は,生物源シリカ沈積流量は一般に高(,底層水は相対的に酸化的である,これらは海盆 内の海水準の変化に対応していろと推定される.ラミナオーダー(100 ̲102年)では・
佐渡島は当時半深海〜深海の海底の堆(バンク)であったと古地理学的な復元から推定さ れるので,底層水が湧昇することで珪藻が繁殖する季節的なブルーミングによって形成さ れたと推定される.
学 位 論 文 審 査の 要 旨 主査 教授 小泉 格
副査 教授 加藤 誠 副査 助教授 鈴木徳行 副査 助教授 多田隆治
( 東京大学大学院理学系研究科)
学 位 論 文 題 名
Systematic Sedimentary Rhythm Analysis of the Nakayama Formationln Sado lsland in the Japan Sea.
(佐渡 島中山層 の体系的堆積リズム解析)
堆 積 リ ズ ム と し て 認 識 さ れ る 堆 積 物 の 律 動 的 な 変 化 は 、 過 去 の地 球 表 層 環 境 の変 動 を詳 細 に 記録 し てい る 。 表層 環 境 のダ イ ナミ ク ス の変 化 は、
生 物 源 物 質 ・ 砕 屑 物 質 ・ 火 山 性 物 質 ・ 化 学 沈 殿 物 質 な ど 堆 積 物 を 構 成 する 種 々 の 要 素 に 変 化 を 与 え 、 様 々 な 変 動 リ ズ ム と し て 堆 積 物 に 保 存 さ れ てい る 。 堆 積 物 の 構 成 要 素 に 見 ら れ る 堆 積 リ ズ ム は 、 生 物 生 産 性 リ ズ ム ・ 砕屑 物 量 の 供 給 と 希 釈 の り ズ ム ・ 構 成 物 質 の 溶 解 の り ズ ム た ど 複 数 の 変 動 が、
1つ の ま と ま り を 持 っ た シ ス テ ム と し て 挙 動 し た 結 果 生 じ た 見 か け の 変 動 で あ る の で 、 過 去 の 環 境 変 動 を 定 量 的 に 復 元 す る た め に は 、 そ れ ぞ れ のり ズ ム の 変 動 効 果 を 評 価 す る こ と が 必 要 で あ っ た 。
申 請 者 は 、 こ の よ う な 背 景 の も と に 堆 積 リ ズ ム を 形 成 す る メ カ ニ ズム を 解 明 し 、 そ の モ デ ル 化 を 行 う た め に 、 中 期 中 新 世 か ら 初 期 鮮 新 世 ま で の海 洋 変 動 を 記 録 し て い る 佐 渡 島 新 第 三 系 の 中 山 層 を 例 と し て 、 (1) 詳 細 な 地 質 調 査 を 行 い 、 中 山 層 の 分 布 と 地 質 層 序 を 確 立 し 、 岩 相 を 詳 細 に 記 載し た 結 果 、 中 山 層 の 珪 藻 質 泥 岩 は ラ ミ ナ の 発 達 す る 泥 岩 ・ 生 痕 化 石 の 発 達す る 泥 岩 ・ 塊 状 泥 岩 に 細 分 さ れ 、 そ れ ら が 様 々 な 組 み 合 わ せ で 互 層 す る こと を 明 ら か に し た 。 ( 2) 構 築 し た 地 質 層 序 を も と に 、 中 山 層 全 体 (formationーscale)に わ た るX線 粉 末 回 析 法 に よ る 半 定 量 的 鉱 物 組 成 の 分
析、 螢 光X 線分 析法に よる 主要 化学 組成の 分析 、お よび 有機炭 素量 測定 を 行った 。そ の結 果、中 山層 を構 成す る主要 成分である生物源シリカとデト リタ ス (砕屑 物質 )の
2成 分の 量比 を決定 し、 組成 成分 系とし ての 堆積 シ ステム をモ デル化した。(3 )全中山層スケール(formation ーscale) 、単層 スケー ル(bed ーscale) 、および葉理スケール(lamina ーscale) に紹ける2 成 分の量比についての組成変動リズムを、試料の乾燥密度(dry bulk density
( g/cm*3 ))と珪藻化石年代値から算出した平均堆積速度に基づき、沈積流 量(Mass Accumulation Rate) に 変 換 して 他成 分に よる 希釈や 堆積 速度 の 変化に よる 影響 を取り 除い た。 その 結果、 葉層は生物源シリカの沈積流量 が 多 い 時 期 に 形 成 さ れ た こ と を 明 らか に し た 。 (
4) 厚 さ が
20〜200um オー ダ の葉理 スケ ール
(laminaーscale) の 断面 を画 像処 理し、 白黒 ラミ ナ の縞状構造を解析する手法を考案した。
申請 者は 、以 上のよ うな 詳細 な分 析結果 に基づぃて次の結論を導きだし た: (
1) 中 山 層 は 生 物 源 シ リカ と デ トリ タスの
2成分 系堆積 シス テム で モデ ル 化でき るこ と。 (2 )堆 積シ ステム の構 成要 素の 変動は 時間 のオ ー ダ に よ っ て 、 そ の 特 徴 が 異 な り 、
100万 年 の 変 動 オ ー ダ (
formationー
scale)では 生物 源シリ カに 対し て砕 屑物量 が大きく変動する。これは、岩 相から 推定 され る底層 水の 酸化 度の 変動と 同調し、当時の日本海の海水準 変 動 や 底 層 水 循 環 と 連 動 し て い る とし た 。
7000年 の 変 動 オ ー ダ
(bedー
scale)では 砕屑 物量は 一定 であ るが 、生物 源シリカが大きく変動する。数
10年 〜 数
100年 の 変 動 オ ー ダ (
laminaー
scale)で は 白 黒 ラ ミ ナ の1 組 が
1年 を 示し 、そ の厚さ が生 物源 シリ カの沈 積流 量と 相関 するの で、 白黒 ラ ミ ナ は 生 物 源 シ リ カ の 年 オ ー ダ の 変 動 を 示 す と し た 。 (
3)
7000年 間 にわた る葉 理ス ケール の堆 積リ ズム から推 定した生物源シリカの変動はフ ラク タ ル構造 を成 すが 、そ の原因 を1 年の ブル ーミ ング を素過 程と した 生 物生 産 を 規 定 す る 海 洋 表 層 水の 厚 さ の自 己組 織的 な変 動であ ると した 。
以上 のよ うに 、本論 文は 堆積 リズ ムの体 系的解析法を具体的な実例に基 づぃて 世界 で始 めて提 示し た。 この 体系は 、地質学的基礎調査・堆積リズ ムを形 成す るメ カニズ ムの モデ ル化 ・堆積 リズムの検出・真の変動リズム の推定 ・リ ズム の解析 、そ して 表層 環境変 動の推定、の各プロセスから構 成されている。