精密人間モデルを用いた集団避難シミュレーション
1. はじめに
東日本大震災では多数の人々が巨大 津波の犠牲となった.また南海トラフ 巨大地震が起きた場合には沿岸の災害 拠点病院の多くが浸水するとの予測も ある.このため地方自治体は,最寄り の高台や津波避難タワー(図 1)への 避難を中心とした減災対策を急いでい る.これに対応して適切な避難訓練が 重要となるが,多数の人間が参集して の訓練実施は簡単ではない.そのため,
コンピュータでの避難シミュレーショ ンの活用がますます重要となってきて いる.本稿では,集団避難シミュレー ションへの応用を中心に,コンピュー タ上の精密人間モデルの利用例につい て紹介する.
2.精密人間モデル CAShuman
従来からデジタルヒューマンなどの 名称で,人間の動作をモデル化する研 究は数多くなされている.本稿で紹介 す る の は Computer Aided Sports リ サーチ社(以下,CAS 社)が,スポー ツや健康に関する人間の動作解析のた めに開発した運動学ベースのソフト ウェア“CAShuman”であり,最大 の特徴は中高生でも簡単に使えること にある. 図 2は CAShuman の概略であり,下肢のつま先から上首部まで全身総計 で 44 自由度の関節を持つ.モデルに は順および逆運動学入力が可能で,さ らに横臥する人を介助者が抱き起こす などの複雑な協調動作も再現できる.
CAShuman を 含 む 一 連 の 機 能 は CASstation シリーズとして提供され ており(1),その応用分野としてはス ポーツ動作以外に集団避難,介護動作,
機械運転操作など広範囲で,さらに手 話動作を音声に変換する斬新なインタ フェースデバイスにも応用されている.
3. 学校における集団避難訓練 シミュレーション
CAShuman の避難応用では,特殊 な状況で不可避な動作パターンに対し て自律的に主には直線や曲線歩行そし て階段昇降など上下左右の移動であ る.個々の避難者動作は一律ではなく,
混雑状況に応じて停止・再開し,横に 空きがあれば S 字に曲がり追い越す こともある.従来からあるマルチエー ジェントなどによるシミュレーション 法に CAShuman を導入することで,
このような瞬間の判断が数百,数千人 の規模で発現し,リアルなシミュレー ションが可能になる.
図 3は,高校における集団避難訓 練の例であり(2),上は避難行動開始か ら 180 秒後のグラウンドの様子を撮影 した写真,下は対応するシミュレー
ション結果である.実際に存在する制 限や条件のすべてを考慮していないシ ミュレーションではあるが,集合の様 子や避難者が整列場所を目指して移動 している様子など,両者はよく一致し ていることがわかる.
4. 負傷者の搬送と
津波避難タワーへの避難
実際の避難では健常者だけでなく,子供や高齢者の歩行,また数人で負傷 者を搬送する協調動作も不可避とな る(3).いずれの場合も移動速度が重要 となるが,平地での単独歩行を除けば 実験データは少ないため,さらなる実 験検証が進められている.
図 4は,背負い搬送 1 組を含む避 難者 8 名による 4 階建て津波避難タ ワーへの避難を想定したシミュレー ション例である(4).この場合,先頭は 単独避難時と大きな差異はないが,そ れ以後の避難者は階段での輻フ ク輳ソ ウにより 次第に遅れはじめ,最後には背負い搬 送者が大きく遅れて 4 階へ到達する.
実験によれば背負い搬送も単独ではそ れほど遅くはないが,集団での安全確 保を考慮した歩行調整となれば全体で の避難時間も増大することがわかった.
5. おわりに
現在スポーツや CG エンターテイメ ントの世界ではモーションキャプチャ が必須となりつつあるが,市販装置は
高価でその扱いも簡単ではない.この ため,カメラとノート PC だけで機能 する CAShuman は,ソフトモーショ ンキャプチャという有用なツールとし て教育現場での活用が期待されている.
(原稿受付 2013 年 8 月 27 日)
〔瓜井治郎 CAS リサーチ〕
●文 献
( 1 )CAS リサーチ社
http://www.cas.fussa.tokyo.jp/
( 2 )瓜井治郎・ほか,精密人間モデルの導入に よる 3 次元集団避難シミュレーションの高 精度化,日本機械学会論文集,76-769, C
(2010),2176-2185.
( 3 )Kakizaki, T., Urii, J. and Endo, M., A Three-Dimensional Evacuation Simulation Using Digital Human Model With Precise Kinematic Joints, ASME Journal of Com- puting and Information Science in Engi- neering, 12-3(2012), 93-102.
( 4 )Kakizaki, T., Urii, J. and Endo, M., An Ex- perimental Investigation for Accurate Evacuation Simulation using 3D Kinematic Digital Human Models, Proc. of ASME 2013 International Design Engineering Technical Conference and Computers and Information in Engineering Conference,
(2013-8).
図 1 津波避難タワーの例(静岡県富士市)
図 2 CAShuman モデル
図 3 集団避難訓練例とそのシミュ レーション例
図 4 避難タワーへの混合避難シミュレー ション例
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日本機械学会誌 2013. 11 Vol. 116 No.1140 795