たのか,その分析をベースに次の提案に結びつけることが可能になってきた。商品のレビューをアッ プすることはこれまでの店舗でも可能ではあったが,その取り上げる範囲や持続性それに数の多さ ではデジタルデータにはかなわない。明らかに店舗だけで運営していた時代にはできないことが実 現できるようになってきた3 。 店で現物の商品を確かめ,購入はネットで行うという「ショールーミング」が珍しくない。クリッ ク&コレクトと呼ばれるように,ネットで買っても商品の受け取りは,店舗や駅のロッカーで行わ れることもある。反対に,たくさんの商品や店舗情報をネットで検索して特定の商品やサービスに 当たりを付け,リアル店舗で購入するという「ウェブルーミング」も活発である。これらはスマホ 1つあればいずれも利用できる。ネットで購入しても,店で購入しても,その顧客の購買履歴や嗜 好のデータは両方のチャネルでデジタルデータとして共有されているため,店員も接客に活用でき る状況が整ってきている。顧客自身も,買う前に関心のある商品や店舗のレビューをチェックした り,実際の購入や使用について SNS などで自身の評価を発信し共感したり,ときには否定的な情 報を流すなどアクティブな消費者として行動する場面も増えてきた。そして今,中国で既に実現し ているように,顧客は現金を持たずにスマホ1つでどこでも買物や決済ができる環境が広がりつつ ある。 こうした動向を背景に,近年,流通におけるイノベーションの研究や実践はますます重要となっ ている。フリストフ(Hristov, L.)とレイノルズ(Reynolds. J.)によると,これまでイノベーショ ンは,どちらかというと,製造業の問題として捉えられることが多く,イノベーションが新製品や 製造方法での技術革新という視点でアプローチされており,特に製造に関連した特許や研究開発が 焦点となっていた。これに対して,流通業やサービス業のイノベーションは研究面では決して活発 であったとはいえず,実務的な視点からも流通イノベーションが企業成長に不可欠であるという認 識がますます求められるようになってきたことが指摘されている4 。現在,第4次産業革命という キーワードが使われるようになっており,現実は製造,流通それに情報が融合し一体になって推進 される時代を迎えている。流通イノベーションの前提や対象範囲も従来の業界のボーダーを超えた 形で生み出されており,そうした融合領域でのイノベーション研究が重視されるようになっている。 流通イノベーションの研究において考慮すべき論点は,そのイノベーションの主体についての検 討,イノベーションをどのような手段や仕組みで実現するのかについての検討,さらにはそれによっ てどのような成果や影響が生まれ,社会がどう変わるのかについての検討が不可欠と考えられる。 流通イノベーションは,既存の流通業界のみで発生しているわけではない。米国企業の GAFA(グ ーグル,アップル,フェイスブック,アマゾン),日本企業の楽天,ソフトバンク,メルカリ,ゾ ゾ(2019年9月ヤフーによる買収の発表),中国企業の BAT(バイドゥ,アリババ,テンセント) などに見られるように,インターネットや最新のデジタル技術を活用することで,小売企業に限ら ず,むしろ流通業以外の業種からの挑戦が,従来の流通の競争や生活のスタイルにドラスティック な変化をもたらしている。本論文では,こうした多くのイノベーターの中で,新たなビジネスモデ ルをもって流通業界に最も大きな衝撃を与え続けるアマゾンを取り上げてみたい。まず,ここでは 創業者のジェフ・ベゾス(Jeffrey Preston Bezos)がどのような構想の下で,いかなる戦略によっ て顧客の支持を獲得してきたのかを中心に解明していきたい。
タを機械学習や深層学習(ディープラーニング)にかけることで,煩雑な作業環境において,人間 に代わって意思決定のサポートや人手不足が進行する超高齢社会での医療・介護支援などに利用さ れることが期待される。社会,経営,生活におけるさまざまな課題解決に大きな可能性を与えてい る。先にも触れたように,われわれがスマートフォンや PC,AI スピーカーを経由して,あるウェ ブページを閲覧したり,関心のある商品を検索したり,注文したりするといった情報はすべてデジ タルデータとして収集され,統合される。こうしたデータは分析によってさまざまな用途に分類さ れ,そのユーザー行動について類似拡張や確率による判定が行われ,消費者行動予測や新たなビジ ネスモデルの提案に活用される。 しかし,流通イノベーションの実現にデジタル技術が果たす役割は極めて重要であるが,それだ けで流通イノベーションが完結するわけではない。流通イノベーションとは,流通プロセスで新た な顧客価値を創造し,提供するための取り組みであり,技術的なイノベーションだけではなく,経 営者の構想力と顧客の受容という相互関係によって生み出される新たな社会変化であると認識して いる5 。このことの含意は,流通はわれわれの生活スタイルやビジネスの方法の変化を反映して変 わっていく面と,逆に流通の変化が生活のスタイルやビジネスの方法を変更させるという2側面の 働きが存在している。ここで重要なのは,新たなデジタル技術の利用によって提案された流通の仕 組みが顧客のどのような不便や不満,ストレス(フリクション)あるいは問題を解決したのか,顧 客がそれをどれだけ必要として受け入れたのかという視点が必要であろう。
してアマゾン・サバイバー(Amazon Survivors)という指数も発表している8 。それほど,アマゾ ンの一挙手一投足が業界の垣根を越えて話題になり,恐れられるほどの存在になっている。アマゾ ン・エフェクトは,企業や業界に対してだけではなく,経済のマクロ的なレベルでも影響力が検討 されるようになっており,米国でのインフレの上昇率がネット通販の方が一貫して低いという物価 の引き下げの視点から評価する動きにもなっている9 。 アマゾンは小売流通からスタートした企業であり,現在も売上高から見てその業界に軸足をおい ている。しかし,アマゾンにとってわずか数年のスパンで所属業界や成長業態は絶えず進化してい ることも見逃せない。小売流通の業界売上高のトップは,ウォルマートである。ウォルマートの売 上高は,毎年調査が行われているフォーチュン誌の世界の企業売上高500社ランキングで,数年の 例外を除くと継続してトップを維持している(図表2および3参照)。アマゾンは,ネット通販企 業では世界トップの地位にあるが,小売業全体の売上高では,2018年でウォルマートが5,144億500 万ドルであるのに対して,アマゾンが2,328億8,700万ドルであり,倍以上の大きな差が見られる。 しかし,ネット通販市場のシェアでは逆にアマゾンが47%であるのに対して,ウォルマートは5% に過ぎない10 。 このように新しい強力なライバルの登場によって,ウォルマートといえども安泰ではなくなって きた。アマゾンがフォーチュン誌の世界の企業売上高500社ランキングで,初めてランクインした 2008年には,ウォルマートとの差は21倍の開きがあったが,その格差は年を追うごとに縮小してき ている(図表3参照)。2018年時点では約2倍強の差に縮小しており,アマゾンが急速に成長し, ウォルマートに猛追していることがわかる。しかも2018年の利益に限定して見ると,ウォルマート が66億7000万ドルで前年比マイナス32.4%であるのに対して,アマゾンは100億7300万ドルで前年 比232.1%という驚異的な高い伸びを示している11 。時系列で,両社の売上高の前年増加率と500社 に占める順位を見ると,ウォルマートは世界最大の小売業でありながら,その増加率は一桁で推移 しており,ライフサイクルでいえば,既存業態を中心とする限り成熟に陥っている。これに対して 図表2 フォーチュン 500社ランキングの売上高ベスト20位
アマゾンは増加率が2桁台でまだ高い成長が持続しており,さまざまな流通イノベーションを導入 して成長期の段階にいる。 現在,ウォルマートはアマゾンへの対抗戦略を進めて反撃に出ており,ネット通販企業の買収, ネット購買でもリアル店舗での商品受取の融合,さらには買物行動と嗜好分析による品揃えの最適 化を行うことで業績の回復とトップの座の維持に努めている12 。 一方のアマゾンは,リアル店舗(オフライン)中心のウォルマートからの反撃だけでなく,ネッ ト通販企業のライバルの増加や顧客ニーズの多様化それに政府による規制の動きに直面しており, 本論文で詳しく触れるように,リアル店舗の買収や新たなテクノロジーを活用した無人店舗や音声 スピーカーなどへの挑戦を続けている。市場シェアトップであるリーダー企業のウォルマートの反 撃と,チャレンジャーとしてのアマゾンの新しいタイプの企業の戦い方が注目されている。そこで, 以下では流通の世界で,顧客へのアプローチや競争の流儀を大きく変えてきたアマゾンに焦点を当 てて,その創業から現在までの成長プロセスを解明することで,競争優位の源泉を検討したい。 4.アマゾンの創業と顧客重視へのこだわり アマゾンの創業者,ジェフ・ベゾスは,米国プリンストン大学で電気工学とコンピュータ・サイ エンスを学び,1986年に卒業している。卒業して複数の金融会社に勤務した後に,コロンビア大学 で情報科学科の教授をしていたデビッド・E・ショー(David Elliot Shaw)が立ち上げたウォール ストリートのヘッジファンド,D・E・ショー(D. E. Shaw & Company)に転職し,そこで上級副 社長まで務めた。当時,インターネットによるビジネスを調査する中で,インターネットが世界を 変えるほど驚異的な成長可能性を持つことに強い関心を持ち,1994年,ベゾスがちょうど30歳の時 に D・E・ショーを辞め,シアトルでインターネットによる書籍販売のビジネスを創業した。最初
図表3 ウォルマート VS アマゾンの年度別売上高と前年比増加率の比較
簡単に買うことができ,素早く届けられるように,そのためのさまざまな流通イノベーションを実 現してきた。この顧客経験を実現するために,ベゾスは妥協のないほど厳しい経営理念と強力なリ ーダーシップで取り組んできた。 ベゾスは社内の研修会で講師に招いたビジネスコンサルタントのジム・コリンズ(『ビジョナリ ーカンパニー2−飛躍の法則』2001年の著者)からのアドバイスをヒントに,自らのビジネスの成 長のメカニズムを構想した弾み車(flywheel)と呼ばれるメモを残している。それが図表4の好循 環を生み出す成長モデルである。図を構成する要素のどこからスタートしてもよいが,低価格を訴 求して来客数を増やすことで,自社の商品販売だけでなく,多くの売手が魅力を感じて商品を出品 することで品揃えが拡大し,顧客体験の増大に結びつく。結果として大量に販売できる仕組みによっ て調達面や物流面で規模の経済を働かせ,低コスト構造が実現する。さらに低コスト構造をテコに, より低価格商品の品揃えを拡大し,来客数を増やすことで,売手の増加とそこから得られる手数料 収入を確保し,顧客経験をさらに充実させるという好循環を構想している。この循環のポイントは, 顧客体験の向上を実現するために必要な要素を簡潔に可視化していることである。これにはアマゾ ンの成長にとって徹底した顧客重視が原点となっている。 1997年株式上場の際の Annual Report で,株主に向けてベゾス自身がアマゾンの取り組みを的確 に語っている1文がある。それは顧客重視(Obsess Over Customers)というタイトルの項目で, 「創業当初から,われわれの焦点は顧客に魅力的な価値を提供してきた。従って,われわれは,顧 客が他のやり方では手に入れられないようなものを彼らに提供しようとし,まず書籍を彼らに提供
図表4 弾み車としての成長の要素
し始めた。われわれは顧客に物理的な(リアル:筆者加筆)書店以上に多くの選択をもたらし,し かも24時間,365日オープンしている店舗で,利用しやすいように簡単な検索で,さらにすぐに閲 覧できるフォーマットで提示している。われわれは顧客の買物経験を良くするという粘り強い目標 を持っており,そして1997年には実質的にわれわれの(オンライン:筆者加筆)店舗を強化した。 われわれは現在,ワンクリック・ショッピングでギフト券(gift certificates)を顧客に提供し,ま た非常に多くのレビュー,コンテンツ,閲覧オプション,さらにレコメンデーション機能を提供し ている。われわれは劇的に価格を引き下げ,さらに顧客価値を高めている。クチコミはわれわれが 持っている最も強力な顧客獲得のツールとなっており,しかもわれわれは顧客がわれわれに寄せて いる信頼に感謝している。Amazon.com をオンラインの書籍販売で市場のリーダーにするために, リピート購買やクチコミが融合し合って効果を発揮してきた。」15 ベゾスの顧客重視での説明にも示されているように,アマゾンが急速に,しかも大規模に成長で きたのには,顧客経験を重視する徹底した経営理念とそれを実現する仕組みが原動力となっている。 Annual Report でも「われわれは地球上で最も顧客中心的(カスタマーセントリック)な会社を目 指している」と強調しており,彼の妥協のない野望,徹底して顧客の買物経験を重視するためのデ ジタル技術の絶えざる活用が組み込まれていた16 。デジタル技術を通して,顧客がオンラインで購 入したがるあらゆるものを発見し,最も低い価格で顧客に提供することを追求する会社になろうと していた。しかも創業時の初心を忘れず,常に Day One(まだ一日目,始まったばかり)という 気持ちで,当初は良いサービスと受け取られても,すぐにライバルに追いつかれ,顧客に飽きられ てしまうという戒めの意味を込めて,こうした言葉がアマゾンでは理念となって伝えられている。 しかも獲得した利益の大半は,上場企業でありながら株主への配当ではなく,顧客視点から値引き や無料配達,物流網の構築,業務改善や研究開発などへの積極的な投資に向けられ,イノベーショ ンを生み出していることもアマゾンの経営の特徴になっている。短期の利益を追うのではなく,将 来の企業価値を高めるために長期にわたるフリーキャッシュフロー(自由に使える資金を意味し, この金額が多いほど戦略的な事業に振り向けることが可能となる)を重視する姿勢を貫いているこ とがわかる。アマゾンの研究開発費は2018年の世界研究開発費ランキングで288億ドル(約3兆円) であり,世界トップである17 。投資家の多くはアマゾンの将来の儲けを期待して現在の利益からの 配当を我慢している。それほど将来に向けた投資と成果に期待しているということでもある。
ベゾスの経営姿勢を知る手掛かりとして,2013年 Harvard Business Review におけるチーフエ ディターのイグナチアス(Adi Ignatius)とのインタビューでの発言が興味深い。そこでは創業初 期に,ある出版社の役員からモノを売ってお金を得ているのだから,わざわざ批判的なカスタマー・ レビューを公開するのは,ベゾスは経営者としてビジネスというものがわかっていないという怒り の手紙が寄せられたことをとりあげて,ベゾス自身がその真意を述べた。これに対して,ベゾスは 「モノを売ってお金を得ているというのではなく,われわれは顧客が購買決定するのを手助けして お金を得ている」という彼の経営の基本姿勢を明らかにしていた。さらにこうした考えの前提には 長期的な経営の姿勢が貫かれていることも,彼の経営を特徴づけている。実際に,短期的な会計の 成果だけでキンドル,AWS(Amazon Web Services),それにアマゾンプライムを評価していたら, こうした新たな取り組みは事業化できなかったことを強調している。ベゾスの経営姿勢で強調され てきたことは,顧客にとって何がベストかということを長期的な視点で考え,実行する挑戦心であ る18
取り込んでいつでもどこでも読書を可能にしたことで,これまでの本の読み方を変え,紙媒体で発 展してきた出版社や書店に衝撃を与え,書籍業界の構造変化を引き起こすことになった。これはこ れまでの小売企業が PB 商品を開発提供するのと現象的には類似しているように見えても,世に先 駆けて新たなデバイスを提供するという意味で役割が異なっている。しかし,アマゾンはこうした 活動に取り組んではいるが,すべて順調に進んできたわけではない。 デバイスの開発という点では,失敗例も見られる。それは2014年6月に発売されたアマゾン初の スマートフォンとなる Fire Phone は,発売当初から機能的な面で魅力に乏しく,高価格との批判 が相次ぎ,199ドルから99セントへと大幅な値下げを行うも,売れることはなかった。Android の カスタムバージョンであったが,iPhone やその他同価格帯の Android 端末と比べて,アマゾンの 強みを生かすことなく,最低限の機能(アプリストアとプリインストールのソフトウェア)で市場 の反応は厳しかった。しかし,ベゾスは,2018年の Annual Report のなかで,この失敗が次の開発 に学習効果となって活かされている点を強調している。ベゾスによると,この失敗は後に触れるア マゾン・エコー(Echo)とアレクサ(Alexa)を構築する努力を加速させ,さらには機械学習とク ラウドの能力向上にも活かされたと述べている29 。 アマゾンはこうした失敗にめげることなく,次々と新たなデバイスを投入し,イノベーションを 加速させてきた。2015年3月から「ダッシュ・リプレニッシュメント・サービス」(DRS:Dash Re-plenishment Service)を導入し,例えば,プリンターのインクがなくなりそうになると,プリンタ ーに搭載された DRS が自動的にアマゾンにインクを発注する仕組みをクラウド・サービスとして 展開している。また,これと類似したサービスとして,例えば洗濯機に洗剤用のボタンを貼り付け ておき,洗剤がなくなってきたらボタンを押すことで,スマートフォン上のアマゾンのアプリを経 由して注文を済ますことができる「アマゾン・ダッシュ」(Amazon Dash)というデバイスを提供 している30 。 その前年2014年11月には,AI スピーカーのアマゾン・エコーを発売している。その頭脳となる アレクサはクラウドベースの音声サービスであり,音声による呼びかけに反応し,話しかけるほど 語彙が増えるとともに,話し方や好みを学習するため,日常生活での様々な情報収集や管理に活用 でき,効果的なコミュニケーションとして応用が期待されている。具体的には,エコーは音声認識 のマイクとスピーカーから構成され,アレクサはエコーの音声認識アシスタント機能を果たすため に開発された。アレクサ(Alexa)の名前の由来は,古代エジプトのアレクサンドリア(Alexandria) に建てられた図書館の名前から付けられたと言われている31 。 利用者は,音声を発するだけで,アマゾン・エコーを操作でき,手がふさがって入力できない状 態でも簡単便利に使える(ハンズフリー)。スキルと呼ばれるアプリを必要に応じてダウンロード することで応答の内容を増やせるため,買いたい商品の注文,天気予報の確認,タクシーの手配や 聞きたい音楽の再生などができる。スキルは現在も顧客のさまざまな要望に応えられるように,そ のジャンルや種類が増加している。アレクサは AWS(Amazon Web Services)が提供する AWS Lambda と連携して動作する仕組みとなっている。AWS Lambda は,クラウド上でアプリケーショ ンを実行するためのものである。ベゾスによると,スピーカーであるエコーというデバイスは頭脳 に当たるアレクサによって支援され,AWS クラウドの中で活かされているとしてそれぞれ3つの 技術の関係を明らかにしている。そして現在では,アレクサが Amazon.com の音声認識プラット フォームという位置づけとなっている32
きる。これに対して,業界・業種を問わず不特定多数の企業もしくは個人に向けてクラウドコンピュ ーティング環境をオープンに提供するサービスのことをパブリッククラウドと呼んでいる36 。 オンプレミス型は,自社内で構築・運用するため,自社に最も適合した形で自由にカスタマイズ できる利点がある。機密情報や個人情報の漏洩リスクの管理面で,利用者が特定されていることも 含め,従来は外部にクラウドが発展していなかったこともあり,オンプレミス型が一般的であった。 しかし,ICT の急速な進歩,半導体や通信回線の性能が急速に高まり,クラウドの処理能力の向上, 個々の企業レベルでのデータ取り扱いの爆発的な増加,しかも中小企業やスタートアップ企業に とっては自社でのサーバーの保有や更新の負担が大きいなどで,次第にデータ処理を外部のクラウ ドにアウトソーシングする方が割安で安定的に利用できるようになってきた。自社でインフラやソ フトウェアのすべてを用意するよりも,クラウドで必要な機能のみを利用できることで,コストの 引き下げや,余力を新たな顧客開拓に向けられるメリットも大きい。アマゾンの AWS が提供する クラウドを利用すると,そのような設置のコストや手間も不要で,アマゾンの貸し出す能力を必要 に応じて利用できるようになる。こうした要因がクラウド市場を拡大させてきた。AWS は,パブ リッククラウド市場をリードしてきているが,そのほかにもホステッド型に該当する個別ニーズに 対応したサービスを“バーチャルプライベートクラウド(VPC)”と称して提供している。この場 合は,パブリッククラウドの既存のシステム資源の一部を特定のユーザー企業に占有利用させてお り,ユーザーの多様なクラウドのニーズに柔軟に対応している37 。 しかも AWS の先発優位性が作用して利用者が増えるにつれて,規模の経済が働きやすくなって いる。利用料金は,サービス開始の2006年から通算67回も値下げが行われてきており,後発の参入 を難しくしている38 。 こうして AWS は,ユーザーに対しては自前の投資を回避させ,固定費ではなく変動費となる利 便性を提供しており,ユーザー数が増えるほど規模の経済性が働きやすくなり,クラウドが多くの ユーザーにデータ利用のプラットフォームとして機能することになる。さらには,値下げだけでは なく,巨額の投資を繰り返しており,処理能力や機能の拡充が続いていることも,ユーザーを増や している理由である。アマゾンは日本のクラウド市場でも着実に浸透してきており,ユニクロを展 開するファーストリテイリングに対して衣料品の生産や販売についてのデータを利用した機械学習 のシステム開発を支援している。しかもアマゾンは,日本でもスタートアップ企業を対象とした支 援のための新設備を準備しており,サーバーの負担を軽くしたいスタートアップ企業に対するクラ ウドを活用したサービスやシステム開発の無料相談などに取り組んでいる39 。AWS のサービスは世 界的なレベルでインターネット関連のスタートアップ企業を生み出しており,アマゾンをエブリシ ングストアからモノの販売以外の広がりの中でエブリシングカンパニーやテクノロジー企業へと進 化させる,より戦略的なツールとなっており,競争優位性のあるプラットフォームとなってきた。 アマゾンが,このクラウド・サービス事業で業界のトップシェアを持っていることも注目できる。 1位はアマゾン(Amazon Web Services AWS)であるが,2位はマイクロソフト(Azure アジュ ール),3位がアリババ(Alibaba Cloud),4位がグーグル(Google Cloud Platform GCP),5位 が IBM(IBM Cloud)の位置づけになっている(図表7参照)。最近ではマイクロソフトのクラウ
ドであるアジュールの成長が目立っている(図表8参照)。マイクロソフトは,業務ソフトからサ
でなく,さまざまな企業や行政へのデータサービスの提供によって市場を拡大し,コンスタントに 好調な業績を確保している。図表9から,国際の赤字を北米と AWS でカバーしている関係が見ら れる。セグメント別に見ても(図表9参照),2018年度の AWS 売上高は全体の構成で11%のシェ アでありながら,営業利益では6割近いシェアを確保している。事業別売上高の推移(図表10参照) をみると,オンラインストアの売上高のシェアよりも,AWS やリアル店舗分の売上の追加,それ にその他の広告サービスなどのシェアが順調に伸びており,AWS の成長は利益を生み出す稼ぎ頭 となっていることが分かる。 図表9 アマゾンの業績
(出所)2017amazon Annual Report , pp.69―70. 2018amazon Annual Report pp.66―67.
図表10 事業別売上高の推移
ֻۜ ߑർ ֻۜ ߑർ ֻۜ ߑർ ΠϟϨΩ χς άϨη ೖຌ ͨଠ ܯ ʤୱҒʁຬχϩɼ֦೧ౕ݆ೖʥ ธࠅ また国別では(図表11参照),米国が圧倒的に大きなシェアを持って増加傾向を維持している。 日本を含む他の先進国もコンスタントに売上高を増やしてきているが,次第にそれ以外の国の割合 が増加する動きが見られる。しかし,数値には表れていないが,中国のように,大きな市場だから と言って順調に拡大するとは言えないところもある。むしろアマゾンは巨大な消費市場へと変貌し ている中国で苦戦している。アリババ集団や JD ドットコム(京東集団)など現地大手 IT 系企業 との競争に押されており,2019年4月には中国の国内向けネット通販事業からの撤退方針を明らか にしている。中国ではネット通販の成長の煽りを受けたテスコ,カルフールなどかつて中国におけ る流通の近代化に貢献したグローバルリテーラーの撤退が目立つようになっており,その分,中国 政府の国策と合致した現地のニューリテール企業が躍進する場面が増えている。中国では,アマゾ ンはネット通販だから強みが発揮できるというほど単純にはいかない事情を示している。 8.アマゾンのプラットフォームの発展と競争優位性について アマゾンには,自前の小売事業やマーケット・プレイスから膨大な顧客の購買履歴データが常時 収集されており,顧客の生活に関係する詳細なデータが把握されることで,一人一人の事情に合わ せ,なおかつ興味や嗜好に基づいた新たな提案やレコメンデーションが行われている。そこには様々 な事業成長のチャンスと競争優位の源泉が存在している。そのキーになるのはプラットフォームを ベースに顧客価値を向上させる戦略である。 プラットフォームという用語は論者によってさまざまな理解がされている。広く捉えれば,プラッ トフォームは売手と買手,もしくは利用者同士を結び付ける場である。モザドとジョンソン(Alex Moazed and Nicholas L. Johnson 2016)は,プラットフォームを「消費者とプロデューサーを結び 付けて,モノやサービスや情報の交換を可能にする」と捉えている44 。しかしここで重要な点は, その場の運営者がデジタル技術を活用して,マッチングのために膨大なデータを処理する能力を飛 躍的に向上させ,異なるサイドの利用者同士を迅速に,低コストで,かつ円滑に結び付けることで 従来にはない新たな価値を創造できるようになったことである。プラットフォームがどのような対 象を取り扱うかによって,モザドとジョンソンは,交換型プラットフォームとメーカー型プラット 図表11 国別売上高とその構成比
フォームに大きく分類している(図表12参照)45 。 この分類から言えることは,プラットフォームはその対象によって実に多様なタイプが構成され ている点である。単なるモノづくりのメーカーとプラットフォームをベースにしたメーカーとの違 いは一見すると分かりにくい。しかしメーカーでも,例えばノキアはかつて携帯電話を単にハード の電話端末としてのみ捉えて販売したため,事業の撤退に追いやられてしまった。それに対して, アップルやグーグルは iPhone や Android をプラットフォームとして捉え,そこに様々なアプリや コンテンツの開発および提供のチャンスを用意し,単なる端末ではなく,アプリやコンテンツの利 用を通じた新しい経験を顧客に実感させ,メーカー型プラットフォームとして新たな価値を創造し, 今日の成長を可能にした。プラットフォームをベースにした企業の成長はさまざまな業界で,また 既存業界の枠を飛び越えた形で実現されている。企業によっては,同時に複数のプラットフォーム を運営し,グループ企業として展開していることも少なくない。 アマゾンは,これまで述べてきたように,創業当初は書籍をネットで販売するため自社で仕入れ て販売を行う小売業からスタートした。さらにはそれぞれの顧客の購買履歴をベースにレコメンデ ーション機能を駆使して顧客の興味関心のある書籍を提供し,次第に書籍以外の商品への拡張を実 現する。それは従来の小売企業と異なり,インターネットの販売窓口をプラットフォームとして発 展させ,そのプラットフォームで様々な商品を提供するビジネスモデルを実現した(図表13参照)。 2000年になって,他社の商品も販売できるオンライン・プラットフォームとしてマーケット・プレ イスをスタートさせた。この時期からアマゾンは,さらにさまざまなプラットフォームへの取り組 みを進めてきたことがわかる。 図表12 プラットフォームのタイプ
多数の販売事業者に出品の場所と機会を提供し,このプレイス内で自社商品はもちろん他社で販 売した商品にもフルフィルメント・サービス(FBA:Fulfillment By Amazon)を拡張したことは, 物流活動の一括管理と規模の経済性の発揮にも効果的であった。このことから,アマゾンのプラッ トフォームでは,実に多種多様な品揃えが実現され,ないものがないと言われるくらいにエブリシ ングストアとしての位置づけが確立していく。しかも単に商品を販売するだけではなかった。それ によって顧客や各テナントのデータを踏まえ,売れ筋の動向やロングテール商品の特徴を把握し, 売れ筋情報をもとにアマゾン初の PB 商品や顧客の買物を便利にするさまざまな端末やデバイスの 開発にも取り組むようになる。 こうした商品販売をめぐる顧客との密な関係性の構築は,それだけ個々の顧客の発する大量のデ ータをスピーディーに処理し,取引を円滑に推進する能力が要求されてきた。顧客データの処理だ けではなく,出品企業や商品のサプライヤーの取引データ,マーケティング改善のための新サービ スや広告掲載,さらには決済データなど膨大かつ多様なデータを迅速にかつ効果的に処理するため に,情報投資が常に求められてきた。06年にはクラウドの AWS のサービスを事業化した点は触れ たところである。すでに述べたように現在では,AWS のクラウド・サービスは,ネット通販に加 えてアマゾンのもう1つの顔として定着しつつある。ビッグデータや IoT をクラウドベースで処 理・分析し,活用することによって,これまではわからなかった消費者の生活やビジネスでの問題 が鮮明になり,ネットとリアルの店舗を融合させて迅速にソリューションを導き出すことが可能と なっている。こうしてクラウドを軸にした多層的なプラットフォームを駆使したアマゾンのビジネ スモデルが新たな成長のチャンスを生み出すことにもなっている。 すでに指摘したように,07年には電子書籍のリーダーであるキンドルを発売し,それに合わせて 電子書籍のコンテンツもオンライン書店で販売している。14年にはファイヤー TV スティック,音 声サービスのアマゾン・エコー,15年にはアマゾン・ダッシュといった形でハードのデバイスを提 供し,それと同時にそのハードに乗せるアプリやコンテンツを提供することでプラットフォームと しての効果を発揮させてきた。ここには単にモノを売って顧客にモノを所有させるだけの関係では 大分類のタイプ 中分類のタイプ 小分類のタイプ 交換型プラットフォーム 取引プラットフォーム インターネット通販:B2C マーケット・プレイス:B2B 有店舗:ホールフーズ,アマゾン ブックス,アマゾン・ゴーなど 支援プラットフォーム フルフィルメント物流サービス AWS クラウドサービス メーカー型プラットフォーム デバイスプラットフォーム 各種端末・デバイス:キンドル, アマゾンファイヤー・タブレット, ファイヤー TV スティック,ダ ッ シュボタン,アマゾン・エコーなど 図表13 アマゾンのプラットフォームの重層構造とエコシステム
るだけではなく,その反面で生まれているこうした問題の認識と解決のためのステップを検討する ことが重要である。しかも,これらの問題は日本だけで解決できるものではなく,国際的な取り組 みが必要であり,より公平で公正なルール作りが求められている。 しかも,巨大化するアマゾンのエコシステムは,それぞれのプラットフォームが相互に依存し合っ て発展してきている。その意味で,相乗効果が発揮されるほど,アマゾンの競争力は高まり,ライ バルが簡単には追随できないほどの優位性を発揮している。これまで顧客重視を標榜し,顧客満足 の最大化を実現してきた点は,流通業界にとてつもない変化を生み出し,われわれの買物を簡単便 利にして顧客の支持を得てきた。しかし,巨大化するエコシステムの実態が複雑すぎて,社会にも, 行政にも分かりにくい存在となってきていることも事実である。低価格販売や無料配送は顧客に とってメリットが大きいが,その原資が出品先の企業の犠牲,非正規雇用の低賃金,配当の犠牲あ るいは租税回避の上に成り立っていたとしたらフェアなビジネスとは言えなくなる。アマゾンがさ らなるイノベーションを通して,顧客や流通業界に効果的な影響を与え続けるためには,より開か れた態勢で,これまで指摘してきた問題を解決していくことが必要であろう。顧客重視や顧客満足 が大前提とはいえ,期待を超えた感動を生み出すために,顧客満足にとどまらない流通イノベーショ ンの社会的効果を向上させる企業努力も求められている。 注 1 日本でのインターネットの商業利用は1993年と言われている。総務省(2015)『平成27版情報通信白書』p.63. 2 Friedman, Thomas L.(2016), Thank You For Being Late, ICM Partners,伏見威蕃訳『遅刻してくれてありがとう』
上巻 日本経済新聞出版社 2018年 p.47.
3 田中道昭(2017)『アマゾンが描く2020年の世界』PHP ビジネス新書 p.112.
4 Hristov, Latchezar and Jonathan Reynolds,(2015)“Perceptions and practices of innovation in retailing : Challenges of definition and measurement”, International Journal of Retail & Distribution Management, Vol.43Issue : 2,pp.126―147. 5 流通イノベーションの捉え方について,先行研究を含む最近の動向については,田口冬樹(2016)『流通イノベーショ
ンへの挑戦』白桃書房を参照されたい。
6 Christensen, Clayton M. Taddy Hall, Karen Dillon, and David S. Duncan(2016), Competing Against Luck 依田光江 訳『ジョッブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』ハーパーコリンズ 2017年 p.15.,p.17., &p.44.
7 Fahy, John and Fuyuki Taguchi(1995), Reassessing the Japanese Distribution System, Sloan Management Review, MIT, Vol.36,No.2.田口冬樹(2001)「わが国における小売業の構造変化と流通イノベーションの展開」,専修大学経 営学会『専修経営学論集』第72号 pp.151―206. 8 城田真琴(2018)『デス・バイ・アマゾン』日本経済新聞出版社 pp.10―11. 9 神谷渉(2019)「アメリカ流通における『アマゾン・エフェクト』への対応策を考える」流通経済研究所『流通情報』 2019・3(No.537)p.4. 10 https : //www.nikkei.com/article/DGXMZO44267220W9A420C1EA5000/ 2019―7―13アクセス,「アマゾン,2位へ浮 上」「NRF 機関誌 19年米小売業トップ100」『日経 MJ』2019年7月12日
11 FORTUNE World’s Largest Corporations2019August F1&F16.
12 林達「テキストデータ解析で変わるデータ・ドリブン経営:大手企業が実践する最先端のテキスト解析技術のビジネ ス活用」世界デジタルカンファレンス2019『データ駆動型社会の実現に向けて∼AI,IoT で変わる社会,ビジネス∼』 2019年7月26日
デジタル・マーケティング』碩学者・中央経済社2019 p.5. 14 Stone, Brad(2013), The Everything Store,前掲訳書 pp.32―37.
15 Bezos, Jeffrey P.1997LETTER TO SHAREHOLDERS in2018amazon Annual Report 16 2018amazon Annual Report p.3.
17 『日本経済新聞社』「研究開発費が『最高』が4割超」2019年9月15日
18 https//hbr.org/2013/01/jeff-bezos-on-leading-for-the.html 2019―8―21アクセス。さらにこの解説は,Peppers, Don and Martha Rogers(2017),Managing Customer Experience and Relationships, Wiley pp.363―364.を参照されたい。 19 田口冬樹(2016)前掲書 pp.27―29. 20 『日本経済新聞』「アマゾン経済圏 情報手中に産業再編 ネット台頭!」2018年1月27日 https : //amazon-press.jp /About-Amazon/Milestones.html https : //www.amazon.co.jp/b?ie=UTF8&node=4967767051 2019年8月14日アクセス 21 佐藤将之「Amazon の経営理念とその戦略」流通経済研究所『流通情報』2019.3(No.537)pp.6―7. 22 『日本経済新聞』2019年9月15日,『ニューズウィーク日本語版』2019年5・21 p.44. しかも,アマゾンはこれま でも買収を通して,将来性のある事業への投資を果敢に行っており,小売事業での水平的な買収だけではなく,AI,コ ンテンツ,電子書籍,SNS,クラウドに関連した企業の垂直や異業種の買収など積極的に進めてきていることも,アマ ゾンの弱点を事前に克服するプロアクティブな戦略を反映している。https : //www.stockclip.net/notes/1540 2019―8― 14アクセス 23 『日本経済新聞』「ネット海外通販 中小支援」2019年7月5日
24 Stone, Brad(2013), The Everything Store,前掲訳書 pp.256―259.pp.418―424. 25 鈴木康弘(2018)『アマゾンエフェクト』プレジデント社 p.76.
26 Galloway, Scott(2017), the four GAFA(渡会圭子訳)『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』東洋経済新報社 2018年 pp.86―87.
27 Barry Berman, Joel R. Evans and Patrali Chatterjee(2018), Retail Management : Strategic Approach, Pearson p.150. 28 Stone, Brad(2013), The Everything Store,前掲訳書 pp.327―329.
29 2018amazon Annual Report pp.3―4.To our shareowners : p.3. 30 田口冬樹(2016)前掲書 pp.30―31.
31 https : //gatten.me/amazon-echo-alexa-smartspeaker 2019―6―26アクセス Galloway, Scott(2017), 前掲訳書 pp.58― 59.
44 Moazed, Alex and Nicholas L. Johnson(2016), Modern Monopolies : What It Takes to Dominate the21st-Century Economy(藤原朝子訳)『プラットフォーム革命』英治出版 2018年.p.15.
45 Moazed, Alex and Nicholas L. Johnson(2016),同上訳書 p.69. 46 Moazed Alex and Nicholas L. Johnson(2016),前掲訳書 p.116.p.142. 47 新日本スーパーマーケット協会『2018年版 スーパーマーケット白書』pp.40―41
48 なお,最恵顧客待遇とプラットフォーム間価格競争の関係については,小田切宏之(2016)『イノベーション時代の 競争政策』有斐閣 pp.209―212.に詳しい。ここでは,顧客向けの価格対抗についての問題なので MFC が適切な表現で あるが,小田切によると,一般的には,国レベルでの通商条約において用いられてきた最恵国待遇条項(MFN:Most Favored Nation clause)という表現が多く利用されているという。その本来の意味は,他のどの国よりも不利でない取 り扱いを受けることを約束する条項のことで,その中でも商取引で売手が顧客に対して,他のどの顧客よりも不利でな い取り扱いを約束する条項を最恵顧客待遇(MFC:Most Favored Customer)とされる。この内容としては,価格,リ ベート,支払い条件,関連サービスなど各種のマーケティング条件が該当する。この条項は,顧客間の価格比較に焦点 を当てており,消費者にとって有利に作用すると思われやすいが,売手間の協調が促進されやすいという弊害も無視で きない。また売手間での価格比較においては最低価格保証(low price guarantee)が働きやすくなり,シェアの大きな 支配的企業ほど有利になりやすく,新規参入が起こりにくくなり,結果的に競争企業を排除しやすくする弊害も指摘さ れている。詳しくは同書第11章所収 プラットフォーム間価格競争を参照されたい。 49 『読売新聞』「米『GAFA 包囲網』強化」2019年9月19日,『日本経済新聞』2019年7月18日,『読売新聞』2019年7月 18日 50 https : //biz-journal.jp/2019/10/post_122246_3.html 2019―10―10アクセス 51 『週刊ダイヤモンド』「アマゾン 20年目の破壊と創造」2019年9月28日 p.140.『日本経済新聞』2019年10月6日 なお,米国カリフォルニア州では,年間売上高2500万ドル(約27憶円)を超えるなど,一定の要件を満たす企業に対し て厳格なプライバシー保護を義務づける新たな州法,「カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)」が成立し施 行は2020年1月からとされる。この法律は,州民が自らの個人情報を保有する企業に対して,収集データの開示,削除, 売却停止などを請求できる権利を認めたことである。すでに18年5月に施行された欧州連合(EU)の一般データ保護 規則(GDPR)にならったルールであるが,カリフォルニア州の消費者プライバシー法(CCPA)は個人だけでなく世 帯を特定できるデータも個人情報の対象となるなど,企業にとっては対応負担が欧州の保護規則よりも重くなることも 予想されている。ニューヨーク州など他州でも同様の立法の動きが広がっており,ベゾスら50社以上の経営者は,米国 での州ごとに異なる規制が生まれる点を問題視し,19年9月に連邦政府レベルの統一ルールを要望する公開書簡を米国 連邦議会に提出している。こうした新たな法律によって,一方では企業の対応コストの増加や個人情報を活用したイノ ベーションが抑えられるという懸念から,消費者保護とイノベーションの両立をどのように実現するかが提起されてい る。『日本経済新聞』 2019年10月16日 52 『日本経済新聞』「AWS 大規模障害」2019年8月24日朝刊,『読売新聞』「アマゾン運営のクラウドに障害」2019年8 月24日 夕刊 53 https : //cpa-exporter.com/blog/amazon-export-sales-tax/ 2019―9―24アクセス 54 https : //www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/02/post-11725.php 2019―9―24 https : //bunshun.jp/articles/−/9678?page=2 2019―9―24アクセス 参考文献
・amazon Annual Report2017,2018
・Berman, Barry, Joel R. Evans and Patrali Chatterjee(2018), Retail Management : Strategic Approach, Pearson
・Christensen, Clayton M, Taddy Hall, Karen Dillon, and David S. Duncan(2016)Competing Against Luck 依田光江訳 『ジョッブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』ハーパーコリンズ
・Fahy, John and Fuyuki Taguchi(1995), Reassessing the Japanese Distribution System, Sloan Management Review, MIT, Vol.36, No.2.
・Friedman, Thomas L.(2016), Thank You For Being Late, ICM Partners,伏見威蕃訳『遅刻してくれてありがとう』上 巻 日本経済新聞出版社
・Galloway, Scott(2017), the four GAFA(渡会圭子訳)『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』東洋経済新報社 2018 年
・Hristov, Latchezar and Jonathan Reynolds,(2015)“Perceptions and practices of innovation in retailing : Challenges of definition and measurement”, International Journal of Retail & Distribution Management, Vol.43Issue : 2
・Metffer, Jurgen and Anand Sawminathan(2017), Digital @Scale : The Playbook You Need to Transform Your Company, 小川敏子訳『デジタルの未来:事業の存続をかけた変革戦略』2018年 日本経済新聞出版社
・Moazed, Alex and Nicholas L. Johnson(2016), Modern Monopolies : What It Takes to Dominate the 21st-Century Econ-omy(藤原朝子訳『プラットフォーム革命』英治出版 2018年.
・Parker, Geoffery G., Marshall W. Van Alstyne, and Sangeet Paul Choudary(2016), Platform Revolution : How Net-worked Markets Are Transforming the Economy,妹尾堅一郎監訳『プラットフォームレボリューション:未知の巨大 なライバルとの競争に勝つために』ダイヤモンド社 2018年
・Stone, Brad(2013), The Everything Store,井口耕二訳『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』日経 BP マーケティング 2014年
・Don Peppers and Martha Rogers(2017), Managing Customer Experience and Relationships, Wiley ・FORTUNE, World’s Largest Corporations,2009―2019