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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

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Academic year: 2021

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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨 

論文提出者氏名  唐沢  晃一 

論  文  題  目  中世後期のセルビアとボスニアにおける君主と社会−王冠と政治集会の意義−   

審査要旨 

本論文は、中世後期のセルビアとボスニアの君主と社会を扱い、ヨーロッパ世界の周縁に位置するセルビア、ボ スニアにおいても、中世後期にはヨーロッパ世界の影響下、国家の権力を君主と社会との間で分有する現象がみら れたことを論証するものである。そのために本論文では、主として次の二つの問題が、スラヴ語、ラテン語、中世イタ リア語の一次史料を駆使しながら分析される。それは、(1)中世後期のセルビアとボスニアに存在した政治集会が、

西欧中世の身分制議会と類似の性格を有していたこと、(2)王権を象徴する「王冠」の理念が、西欧世界と同様にセ ルビアとボスニアにおいても、個人としての王を超えた、高次の国家概念へと発展していたこと、である。 

まず、第一の問題が第一章と第二章で扱われ、セルビアとボスニアの政治集会である全国集会と側近会議が分 析される。セルビアでは、君主と一部の高位聖職者、大貴族、宮廷高官が参加する側近会議と、全国の高位聖職 者と大小貴族が参加する全国集会が存在した。それらが身分制議会に類似したものか、あるいは「臣民の義務」と しての集会かについては、身分制議会との異質性を認めつつも、貴族を中心にした議会的な側面もあったことが指 摘される。一方、ボスニアの側近会議と全国集会においては、大貴族層が、立法権、王位継承を統制する権利、国 王に対する合法的な抵抗権を保持しており、さらにボスニア王国は、15 世紀に選挙王政に転換したことから、ボス ニアの政治集会は、西欧中世の身分制議会と同質の特徴を有していた、と結論づけられる。 

次に、第二の問題が第三章と第四章で扱われ、セルビアとボスニアの「王冠」理念が分析される。セルビアで「王 冠」は、王個人の装飾物を指す言葉として用いられるとともに、西欧でのように高次の国家概念をも意味した。また

「王座」も、王個人に属するものとしてだけでなく、個人の王を超えた王権を指す言葉として用いられていた。さら に、法典の条文のなかには、ローマ法に起源する「法に縛られる王」の文言が見出されるが、これらのことからも、王 個人の権威を超えた高次の国家概念の存在が見て取れる。一方、ボスニアにおいても各種の史料から、高次の国 家概念としての「王冠」理念が存在していたことが読み取れ、国家の構成員が王冠共同体の一員であると明確に意 識していたことが理解できる。 

第五章では、これまでの議論を総合しながら、中世後期のセルビアとボスニアそれぞれの国家のあり方を比較 し、その相違点が明らかにされる。そのさいとくに、セルビアがギリシア正教世界に属し、ボスニアがカトリック世界に 属するという宗教上の違いに着目しつつ、セルビアとボスニアの国制と政治思想が比較される。ここで一つの重要 な論点として、西欧中世世界で浸透していた国家有機体論の問題が取り上げられる。西欧で国家有機体論は、教 会有機体論から発展したが、同じカトリック世界に属するボスニアには、西欧世界と同様に、王を王国の身体の

「頭」とする国家有機体論の議論が見出される。しかし、ギリシア正教世界に属するセルビアでは国家有機体論の 影響の痕跡はない。このことは、受容したキリスト教の宗教的な差異が大きな原因であると考えられるが、カトリック 世界のボスニアでは、セルビアよりも、君主と貴族による国家権力の分有の程度が進展していたことがここから見て 取れる。 

  終章では、これまでの考察に基づき、中世後期のセルビアとボスニアでは、程度の差はあれ、側近会議、全国集 会が西欧の身分制議会と類似の機能をもち、また、高次の国家概念としての「王冠」の理念も存在したことが結論と して述べられ、また、ヨーロッパの周縁に位置するバルカン半島の両国家が、中世においてはヨーロッパ世界の一 員であったことが提示される。 

  以上が概要であるが、本論文は、中世後期のセルビアとボスニアの「王冠」と政治集会にかんして、一次史料を駆 使し、両国家間の相違にも十分に配慮した個別研究であり、その内容は大いに評価できよう。とくに、史料が乏しく 

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氏名      唐沢  晃一   

先行研究が少ないなか、セルビアとボスニア両国家における君主と社会の関係を明瞭に解明しえた点は、実証研 究として高く評価できる。その上で、本論文が西欧中世の国制および政治思想との比較を試み、高次の国家概念と しての「王冠」理念、王権を支える身分制議会の制度と類似のものをそこに読み取り、また同時に、西欧世界との偏 差も明確にした点は、中世ヨーロッパの比較国制史研究に大きく貢献するものといえる。 

ただし、いくつかの疑問も残った。それは、(1)両国家のあり方の相違が、カトリック世界に属するかギリシア正教世界 に属するかという宗教上の理由を主たる根拠にして説明できるのか、(2)  政治集会の制度と「王冠」の理念とを、同 一の水準の問題として論じることができるのか、(3)論文中で使用される「王冠共同体」などの用語が、定義が不明確 なまま使われてはいないか、といった点である。 

しかし、公開審査における質疑応答を通じて、唐沢氏から、審査委員が出した疑問に対し納得できる説明を得る ことができたので、本論文は、博士学位論文に十分に値するものと評価できる。 

                                         

公開審査会開催日  2011 年 1  月 22  日 

審査委員資格  所属機関名称・資格  博士学位名称  氏  名  主任審査委員  早稲田大学文学学術院  教授  博士(文学)早稲田大学  甚野  尚志 

審査委員  早稲田大学文学学術院  教授    井内  敏夫 

審査委員  早稲田大学文学学術院  教授      大内  宏一 

審査委員       

審査委員       

 

参照

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