博 士 ( 医 学 ) 横 井 久 卓
学 位 論 文 題 名
心筋Na ゛チャネル遺伝子変異は無症候性Brugada 症候群 に お ける 突 然 死リ ス クの 予 測 因子と なりうるか
学位論文内容の要旨
背景基礎疾患の合併なしに心室細動(Ventricular fibrillation: VF)をきたす特発性心室細 動のうち, 心電図Vl‑3のST上昇を特徴とする一群はBrugada症候群と呼ばれ最近注目され ている.Brugada症候群患者の一部には心筋Na゛チャネルQサブュニッ卜(SCN5 4)の遺伝 子変異が報告されており,「心筋Na゛チャネル病」という疾患概念のーつと考えられている.
そ の変 異チ ャネ ルの 多 くは 電流 の低 下を きた す機能異常(loss‑of‑function)を示す.
Brugada様心電図はこのような致死性不整脈の原因となるBrugada症候群だけに見られる のではなく,健常者の約0.1 ‑ 0.7%にもみられることが知られている(無症候性Brugada症 候群).無症候性Brugada症候群は一般に予後は良好と考えられているが,必ずしも良好で はないとする報告もある.確かに無症候性Brugada症候群のなかには,症例数は多くはない ものの,経 過観察中に突然死する症例があり,予後不良の一群があることは事実である,
また有症候性Brugada症候群の治療法は,植え込み型除細動器(Implantable cardioverter defibrillator: ICD)の植え込みである.しかし無症候性Brugada症候群には,病的意義に関し ても突然死 予防方法にも関しても統一した見解がなく,リスクを階層化するための非侵襲 的で効率的 な方法論の確立が望まれている.現在電気生理学的検査におけるプ口グラム電 気刺激(Programmed Electrical Stimulation: PES)は不整脈の重症度判定や,治療法を決定す るための非常に有効な不整脈診断法であるが,PESによる致死性不整脈の誘発性が無症候性 Brugada症候群の予後を推定しうるか否かについては一定した見解がない.Brugadaらは致 死性不整脈の誘発性が予後不良の予測因子となると報告しているが,逆にPrioriらはその有 用性に疑問を投げかけている.
対象 と方 法我 々は , 無症 候性Brugada症候 群の少なくとも一 部には不顕性のSCN5A変 異を有するものがあり,その変異の存在は突然死のりスクの予測因子となりえると推測し,
無症候性Brugada症候群患者の遺伝子ス クリーニングをPCR‑SSCP法およびシークエンシン グにて施行 した.無症候性Brugada症候 群40例中1例に心筋Na゛チャネル遺伝子|SCN5Aの ―604―
新しい変異(2つのミスセンス変異(K1527R十A1569P: KR/AP))を認めた,この症例は失 神等の症状および家族歴はないものの右心室流出路二連発プ口グラム電気刺激で致死性不 整脈が誘発され,Na゛チャネル遮断薬負荷試験も陽性であった.この変異Na゛チャネルの機 能を,tsA‑201細胞を用いた一過性トランスフェクションの後パッチクランプ法で解析する と,不活性化の膜電位依存性が過分極方向 へ偏移し,また遅い不活性化(Intermediate inactivation: IM)が亢進していた.結果,これまで報告されてきた有症候性Brugada症候群 の 機 能 異 常(loss・of‑ function)と 同 等 の 機 能 異 常 を 有 す る こ と が 判 明 し た . 結語 無症 候性Brugada症 候群 の少 なく とも 一部には,有症候性Brugada症候群と同様の Na゛チャネル機能異常を潜在的に有する症例がある.SCN5A遺伝子スクリーニングおよびそ の機能解析は,無症候性Brugada症候群における非侵襲的なルスクの予測因子として役立っ 可能性があり,loss‑of‑functionをしめす.SCN5A遺伝子変異の存在は,予防的な植え込み型 除細動器植え込みの判断基準の1っになる可能性がある.
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学位論文審査の要 旨 主査
副査 副査
教授 教授 教授
北 畠 丸 藤 佐 々 木
学 位 論 文 題 名
顕 哲 秀 直
心 筋 Na+ チ ャ ネ ル 遺 伝 子 変 異 は 無 症 候 性 Brugada 症候 群 にお ける突然死リスクの予測因子となりうるか
基礎 疾患の合 併なしに心室細動(Ventricular. fibrillation: VF)を きたす特発性心室細動のう ち , 心 電 図Vl‑3のST上 昇 を 特 徴 と す る 一 群 はBrugada症 候 群 と 呼 ぱ れ る .Brugada症 候 群 患者 の一 部に は 心筋Na゛ チャ ネル ロ サプ ユニ ット(SCN5A)の 遺伝 子変 異 が報 告されており,
「心 筋Na゛チ ャ ネル 病」 とい う疾 患 概念 のー っと 考 えら れて いる .そ の 変異 チャネルの多く は 電 流 の 低 下を き たす 機能 異常(loss‑of‑function)を示 す .Brugada様 心電 図は この よ うな 致 死 性 不 整 脈 の 原 因 と な るBrugada症 候 群 だ け に 見 ら れ る の で は な く , 健 常 者 の 約0.1 ‑ 0.7% に も み ら れる こと が知 ら れて いる (無 症 候性Brugada症候 群) .無 症 候性Brugada症候 群 は 一 般 に 予 後 は 良 好 と 考 え ら れ て い るが , 予後 不良 の一 群が あ るこ とは 事実 であ る ,有 症候性Brugada症候群の治 療法は,植え込み型除細動器(Implantable cardioverter defibnllator:
ICD)の 植 え 込 み で あ る . し か し 無 症 候 性Brugada症 候 群 に は , 病 的意 義に 関し ても 突 然死 予 防 方 法 に も 関 し て も 統 一 し た 見 解 が なく , リス クを 階層 化す る ため の非 侵襲 的で 効 率的 な 方 法 論 の 確立 が 望ま れて いる .我 々 は, 無症 候性Brugada症候 群 の少 なく とも 一部 に は不 顕 性 のSCN5A変 異 を 有 す る も の が あ り , そ の 変 異 の 存 在 は 突 然 死 のり スク の予 測因 子 とな り え る と 推 測 し , 無 症 候 性Brugada症 候 群 患 者 の 遺 伝 子 ス ク リ ー ニン グをPCR‑SSCP法 およ ぴ シ ー ク エ ン シ ン グ に て 施 行 し た . 無 症 候 性Brugada症 候 群40例 中1例 に 心 筋Na゛ チ ャ ネ ル遺伝子,sc,〃.Mの新 しい変異(2つのミスセンス 変異(K1527R十A1569P:心t′Aめ)を認め た. この 変異Na゛チ ャネ ルの 機能 を ,tsA―201細 胞 を用 いた 一過 性ト ラ ンス フウクションの 後 バ ッ チ ク ラ ン プ 法 で 解 析 す る と , 不 活性 化 の膜 電位 依存 性が 過 分極 方向 ヘ偏 移し , また 遅い 不活性化 (Intermediateinactivation:k)が亢進していた.結 果,これまで報告されてき た有 症候性Brugada症候群の機能異常(loss‐of‐んnction)と同等 の機能異常を有することが 判 明 し た . 無 症 候 性Bmgada症 候 群 の 少 な く と も 一 部 に は , 有 症候 性Brugada症 候群 と 同様 ―606―
のNa゛チャネル機能異常を潜在的に有する症例がある.SCN5A遺伝子スクリーニングおよび その機能解析は,無症候性Brugada症候群における非侵襲的なりスクの予測因子として役立 つ可能性があり,将来的にはloss‑of‑functionをしめす,SCN5A遺伝子変異の存在は,予防的 な植え 込み型除 細動器植え込みの判断基準の1っになる可能性がある.口頭発表に際し副 査の佐 々木教授 からLTQSは様々な遺伝子の変異が報告されているが,Brugada症候群に関 与する遺伝子変異はNa+チャネル変異以外に何が考えられるか.またこの症例はミス変異が 二重にあったのですが,それはCompound Heterozygosityではなかったか.の大きく分けて その2点の質問がなされた.次いで副査の丸藤教授から無症候性Brugada症候群のりスク評 価とし て心筋Na+チャネルの機能異常を報告したが,既存の検査(EPSなど)と較べてこの 遺伝子 スクリー ニングが優位である点,またItoなどの他の心電図ST上昇に関与する電流 につい ての検討 はしなくてよかったのかの2点について質問がなされた.最後に主査の北 畠教授 からBrugada症候群 には30%でNa+チャネル遺伝子変異が認められるがその他の70%
につい てはなに が関与しているか,また心筋Na+チャネル変異の位置によって心電図ST上 昇の形 態学的な 変化はあるかどうか,の2点について質問がなされた.いずれの質問に対 しても,申請者は研究結果に基づぃて,あるいは文献的知識により,概ね適切な回答を行 った.
この論 文は無症候性Brugada症候群の予後予測因子について新たな知見を提言した有意 義な研究として評価され,審査員一同は,これらの成果を高く評価し,大学院課程におけ る研鑚や取得単位なども併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有す るものと判定した.
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