博 士 ( 環 境 科 学 ) 藤 原 忠 誠
学 位 論 文 題 名
ドップラーライダーを用いて検出した都市域に発生する ダストデビル的構造をもつ鉛直渦と
気流の組織構造の観測的研究 学位論文内容の要旨
地表面から大気への運動量・熱・物質の輸送は,主に舌し流によって行われている。近年平原 や森休などで行われた観測やLarge Eddy Simulation (LES)などの数値モデルを用いた研究から,
舌慌輸送の大部分は様々なスケールの組織的気流構造が担っていることが明らかとなってきた。
しかし,大気境界層過程の改良に重要なこれらの組織的構造の発生条.時空間変動や生成発 達維持過程に関する研究は,従来の手法では観測的制限が多く,体系的な把握がなされていな いのが現状である。特に都市域は,他の陸面(平原,海上,森榊|こ比べて観測が困難でかつ地 表面形状が複雑であるため,組織的気流構造に関する体系的な研究がほとんどなされていなぃ。
そこで,都市における大気境界層中に発生する様々な組織的気流構造とその成因を明らかにす るため,札幌の北海道大学構内に設置した三次元走査型のコヒーレントドップラーライダー(3 D‑CDL)を用いて,風の3次元分布観測を行った。
まず,2005年4月から2007年7月にかけて行った3D‑CDLの長期間観測とLESを用いた計算結果 との比較から,「網目状」と「ストリーク」などの組織的気流構造が,都市上空においても普遍 的に存在することを明らかにした。また,網目状構造は日中の弱風時(高さ59.5mでの風速 が 約2m〆以nに, ストリ ーク構造 は比較的 強風時 (約5ms.1以上)に観測され,気流構造 は主に風速に依存することが明らかとなった。
次に,これまで砂漠や平坦地などで観測されてきたダストデヒンレと呼ばれる小スケールの鉛 直渦に酷似した構造を有する鉛直渦(Dust devil‑Like vortices; DDV)を,都市域で初めて多数
(合p+50個)検出することに成功した。DDVの特性は,直径30へ120m,最大鉛直渦度0.26ヂ,
反 時計回 りと時計 回りの 回転方向を持っDDVの個数比は2対1であった。DDVは,境界層高度 が比較的高い日中の弱風時に観測され,網目状構造の収束線,また収束曦の交差点で発生してい た。都市域で検出されたDDVの特性,環境場及ぴ発生時周辺の気流構造は,これまで砂漠や平 坦地で観測されたダストデヒンレ,及び,高顕熱・地表面一様条件下でLESによって再現されたダ ストデヒンレの構造と合致した。
網目状溝造に伴うダストデビルには,時計回りと反時計回りの両方が同時に存荏しうるが,D DVの全てが反時計回りという観測事例があった。この事例では,DDVの回転方向と環境場の 風の回転方向とが一致していたことから,DDVの回転方向はメソスケールの環境場の影響を受 けていることが示唆された。さらに,DDVの3次元構造とその時間発展の観測にも成功し,渦の
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鉛直方向への発達と渦度の強化が一致していることが確認された。この事実から,DDVの鉛直 渦度は,網目状溝造の収束域に存在する上昇流によるストレッチング(引き伸ばし)によって 強められていることが示唆された。
札幌では,上記の網目状構造とは異なった原因,すぬわち,局地前線(海風前線,フェーンな めに よっ てもDDVが 発生 しうることが明 らかとなった。局地前線起源のDDVは,観測期間 中に90個検出され,網目状構造に伴った事例と比較して直径および鉛直渦度ともに大きく,直 径は40〜220m,最大鉛直渦度は0.43〆であった。DDVの回転方向は90%以上反時計回りであ り,局地風と一般風の間に作られる環境場の回転方向と一致した。
海風前線に伴った.DDVの発生条件,及び海風前線の水平・鉛直構造を明らかにするため,DD Vが発生した海風前線と発生しなかった海風前線に着目して詳細な解析を行った。その結果,以 下 の3つ の 条 件 が 海 風 先 端 部 で の DDVの 発 生 に 重 要 で あ る こ と が 分 か っ た 。 (1)前線の先端での水平シアが大きいこと(7.4 ms‑1以上)
(2)境界層高度が高いこと(900m以ち
(3)海風前線の前方下層の鉛直シアが,海風先端部の温度傾度により作られる水平渦度にバラ ンスするような向きを持っこと
(1)の条件は,海風先端部での水平シア不安定による初期渦の発生において重要であり,(2), (3)の条件は海風前線先端部における上昇流を強め,ストレッチングによる渦の強化を起す上で 重要であると考えられる。これらの条件が満たされた場合前線の先端部はほぽ直立して厚く なり,上昇流も強くなり,数100mスケールのFKelVjnーHelH出o舷波」あるいは「階段」状の 水平構造が現れ,DDVが検出された。
以上のように,3D−CDLを用いた観測によって,DI)V,網目状構造やストリークが、都市域に おいても普遍的に発生することを世界で初めて実証した。観測上の制約が大きい都市域で太 気中の運動量;熱,物質の輸送を担うとされる組織的な気流構造の長期間観測,時空間観測に成 功し,その発生条件や発達過程を議論できた意義は大きい。今後,本研究の知見とタワーフラッ クス観測やLESと組み合わせることで,都市域の組織的気流構造のカ学的メカニズムや;組織的 気流構造による乱流輸送量の定量的評価の進展が期待される。
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学位論文審査の要旨
主査 教授 藤吉康志 副査 教授 渡辺 力 副査 助教 川島正行
副査 准教授 竹見哲也(京都大学防災研究所)
学 位 論 文 題 名
ドップラーライダーを用いて検出した都市域に発生する ダストデビル的構造をもつ鉛直渦と
気流の組織構造の観測的研究
地 表 面 か ら 大 気 へ の 運 動 量 ・ 熱 ・ 物 質の 輸送 は主 に乱 流に よっ て行 われ てい る。 近 年平 原や 森林 など で行 われ た観 測やLarge EddySmd面On(LES)な どの 数値 モデ ルを 用いた研究から,乱 流輸 送の 大部 分は 様々 なスケールの組織的気流構 造が担っていることが明らかとなってきた。し かし ,大 気境 界層 過程 の改 良に 重要 なこ れら の 組織 的構 造の 発生 条倦 時空 間変動や生成発達,
維持 過程 に関 する 研究 は従来の手法では観測的制 限が多く,体系的な把握がなされていないのが 現状 であ る。 特に 都市 域は 他の 陸面 (平 鳳海 上 ,森 榊に 比べ て観 測が 困難 でかつ地表面形状が 複雑であるため,組織的気流構造に関する体系的な 研究がほとんどなされていない。そこで,都市 にお ける 大気 境界 層中 に発生する様々な組織的気 流構造とその成因を明らかにするため,札幌の 北海道大学構内に設置した三次元走査型のコヒーレントドップラーライダー(3D−Cpりを用レゝて,
風の3次元分布観測を行 った。
ま ず,2005年4月 から2007年7月にかけて行った3D‐CDLの長期間観測とLESを用いた計算結果と の比較から,「網目状」と「ストリーク」などの組 織的気流構造が,都市上空においても普遍的に 存在 する こと を明 らか にし た。 また ,網 目状 構 造は 日中 の弱 風時 (高 さ59.5mでの風速が約2m 一 以 司 に , ス ト リ ー ク 構 造 は 比 較 的 強風 時( 約5ms.1以上 )に 観測 され 気流 構造 は 主に 風速 に依存することが明らかとなった。
次に,これまで砂漠や平坦地などで観測されてき た,ダストデピルと呼ばれる小スケールの鉛直 渦に 酷似 した 構造 を有 する 鉛直 渦p吋de珊 ―hkeVomces;DDり を, 都市 域で 初めて多数(合計50 個) 検出 する こと に成 功し た。DDVの 特性 は直 径30〜120m,最大鉛直渦度0126S一1,反時計回り と 時 計 回 り の 回 転 方 向 を 持 つDDVの 個 数 比 は2対1で あ っ た 。DDVは 境 界 層 高 度 が 比 較 的 高 い 日中 の弱 風時 に観 測さ れ網 目状 構造 の収 束線 ま た収 束域 の交 差点 で発 生し ていた。都市域で検
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出さ れたDDVの特I生環 境場 及び 発生 時周 辺の 気 流構 造は これ まで 砂漠 や平坦地で観測さ れたダ ストデピル,及び,高顕熱・地表面一様条件下‑CLESによって再現されたダスト デピルの構造と合 致し た。 さら に,DDVの3次元構造 とその時間発展の観測にも成功し,渦の鉛直方向への発 達と渦 度の強化が一致していることが確認された。この事 実から,DDVの鉛直渦度は, 網目状構造の収束 域に存在する上昇流によるストレッチング(引き伸 ばし)によって強められていることが示唆され た。
札 幌で は上 記の 網目状構造とは 異なった原因,すなわち,局地前線(海風前線フェーン など)
に よ って もDDVが発 生し うる こと が明 らか とな った 。 網目 状構 造に 伴っ た事 例と 比較 して 直径 およ び鉛 直渦 度と もに 大き く, 直径 は40〜220m,最 大鉛 直渦 度は0.43Fで あった。DDVの 回転方 向は90% 以上 反時 計回りであり。 局地風と一般風の間に作られる環境場の回転方向と一致 した。
海 風前 線に 伴っ たDDVの発 生条 件, 及び 海風 前線 の水 平・ 鉛直 構造 を明 らかにするため,DDV が発 生し た海 風前 線と 発生 しな かっ た海 風前 線 に着 目し て詳 細な 解析 を行った。その結 果以下 の 3つ の 条 件 が 海 風 先 端 部 で の DDVの 発 生 に 重 要 で あ る こ と が 分 か っ た 。 (1)前線の先端での水 平シアカ吠きレゝこと
(2)境界層高度が高しゝこと
(3)海 風前 線の 前 方下 層の 鉛直 シア が海 風先 端部の温度傾度により作られる水平渦度に バラン スするような向きを持つこと
(1)の 条件 は, 海 風先端部での水平シア不安定による初期渦 の発生において重要であり,(2)と (3)の条件は海風前線先 端部における上昇流を強め,ストレッチングによる渦の 強化を起す上で重 要であると考えられる。これらの条件が満たされた 場合,前線の先端部はほぼ直立して厚くなり,
上昇流も強くなりDDVが 倹出された。
以上のように,3D―CDLを用いた観測によって,DDV 網目状構造やストリークが、都市域におい ても 普遍 的に 発生 することを世界 で初めて実証した。観測上の制約カ吠きい都市域で,大 気中の 運動 量, 熱物 質の 輸送を担うとさ れる組織的な気流構造の長期間観測,時空間観測に成功 し,そ の発 生条 件や 発達 過程を言義論で きた意義は大きい。今後本研究の知見とタワーフラック ス観測 やLESと組み合わせるこ とで,都市域の組織的気流構造のカ学的メカこズムや, 組織的気流構造に よる乱流輸送量の定量的評価の進展が期待される。
審査委員一同は,これらの成果を高く評価し,また研究者として誠実かつ熱心であり,大学院博士 課程 にお ける 研鑽 や修得単位など もあわせ,申請者が博士鰭諺薪‑1)の学位を受けるのに 充分な 資格を有するものと判定した。