博 士 ( 理 学 ) 後 藤 仁 志
学 位 論 文 題 名
Conformation Search‑Approach to IVIacrolides
(配座探索一マク口リドへの応用)
学位論文内容の要旨
計 算 機 の 目 覚 し い 発 達 に 伴 い , 大き な 分 子 に 対 す る 理 論 計 算 が 可 能 に な っ て き た , と こ ろ が , 巨 大 分 子 の 柔 軟 性 に 起 因す る 多 配 座 問 題 は 計 算 化 学 を 化 学 者 が 直 面 す る 諸 問 題 の 解 析 手 段 の ー っ と し て 適 用 する 際 に 大 き な 障 害 の ー っ と な っ て い る . こ の 研 究 の 目 的 は , 大 き く フ レ キ シ プ ル な 分子 の 低 エ ネ ル ギ ー 配 座 を 徹 底 的 に , か つ 高 速 に 探 索 す る こ と が で き る 新 し い 配 座 探 索法 を 開 発 し , 多 配 座 解析 を可 能に するこ とで ある . ま た , こ の 配 座 探 索 法 を フ レ キ シ ブル な 分 子 , 特 に 生 化 学 的 に 重 要 な マ ク ロ リ ド に 関 す る問 題に 適用し ,実 際に 有用 な知 見を 得る こと であ る.
豊
一 般 に 配 座 探 索 は , 初 期 構 造 を小 さ く 変 形 ( 摂 動 ) した 出発 構造 を構造 最適 化し , 得 ら れ た 構 造 を 重 複 無 く 保 存 す る ,と ぃ う 一 連 の 処 理 を 単 純 に 繰 り 返 す . 申 請 者 は 初 期 構 造 の 配 座 空 間 の 近 接 領 域 を 徹 底的 に 探 索 す る 新 し い 摂 動 と し て , 環 内 結 合 に 対 し てcorner flapあ る い はedge flip( 図1) , 鎖 式 結 合 に 対 し てstepwise rotation を 考案 した ,この 摂動 をー つの 初期 構造 に対 し分 子内 の. フレ キシ プルな 部分 全て に系 統 的 に 適 用 す る こ と で , 一 組 の 新 しい 適 切 な 出 発 構 造 を 生成 する こと ができ る. また , 初 期 構 造 の エ ネ ル ギ ー 準 位 と 摂 動 の大 き さ が 配 座 空 間 の 探 索 領 域 を あ る 程 度 決 定 し て い る こ と に 気 付 い た . そ こ で , 初 期構 造 と し て 最 も 安 定 な 配 座 異 性 体 を 常 に 選 択 す る こ と に よ っ て 配 座 空 間 の 出 発 領 域 内に あ る 最 安 定 構 造 に 素早 く到 達す ること がで きた . 一 度そ の領 域の最 安定 構造 に到 達す れば ,
選 択 す る初 期 構 造 を 徐 々 に 高 エ ネ ル ギ ー領 域 ヘ 移 すこ と に よ っ て , そ の 周 り に あ る全 て の 低 エネ ル ギ ー 配 座 を 徹 底 的 に 見 つ ける こ と が でき , か つ , 配 座 空 間 の 新 し い 領域
一 ―19− ・
Fig. l Illustradons of two type of edge flip perturbations
が 存 在 す る 可 能 性 を 確 認 す る こ と に も な る ( 貯 水 池 注 水 法 ) . そ の 他 様 々 な 手 法 を 取 り
入 れ た プ ロ グ ラ ムC○NFLEX3を 作 成 し た .nー ア ル カ ン の テ ス ト か ら, 低 エ ネ ル ギー 領域 から 高エネルギー側へ配座探索が進むことを確かめた.また,既往の方法と 比べても,中,大員シクロアルカンのテストでは低エネルギー配座を見逃すことなく,
かつ高速に配座探索を行っていることを確認した.
徹底的な配座探索が可能になると,今まで確認できなかったことを明らかにできる.
例え ばn一ア ルカンの配座異性体の数は,対称性による重複を含めて,それぞれ109, 347,1101,3263個 , す な わ ち3m個 (mは内 部C‑C結 合 の 数 ) よ り も 多い , こ れ は 骨 格 鎖 にGG (+Gauche′+Gauche) の 連 続構 造 が あ る と 非対 称に 歪み ,商 エネル ギー 配座 の数 をほ ぽ2倍に するた めで ある .これらの結果から高エネルギー配座異性 体の 比率 は鎖 が長くなるに連れて著しく高くなると考えられる.また,GG|を持たな い 低 エ ネ ル ギ ー 配 座 異 性 体 の 増 加 率 は わ ず か に2.4mで あ る こ と が 解 っ た . 中 ,大 員シ クロアルカンには非常に多くの配座異性体が存在し,従来のシクロアル カン 配座 に対 する命名法では名称と構造が一対一に対応しないことが解った,そこで 重要なエネルギー極小点を区別できるようにD ale命名法を改良した,この改良命名法 は環 骨格 のね じれ角パターンの局所的特徴を解釈し,配座空間における配座構造間の 近 さ を 推 測 す る上 で も 有 効 に 利 用 で き る .ま た , 配 座 比 較法 とし てCONFLEX3に導 入 し た 配 座 距 離 は 配 座 異 性 体 と 鞍 点 の 関 係 を 適 切 に 評 価 で き る こ とも 解 っ た . 効率的な配座探索法が完成すると,フレキシプルな分子の多配座解析が可能になる.
6‑0 Me
H3)2 Mel/ KOH ‑ or
in DMSO‑THF 11‑OMe
Cmpd R1 鳥 R1 Selecdvity 6‑OMe : ll‑OMe 1 O OH Si(CH3b l:3 2 O H Si(CH3)3 >10:l 3 N‑O‑rllyl OH Si(CH3)! >10:1
― 20−
そ こ で , 抗 生 物 質 と し て 有 名 な エ リ ス .
ロ マイ シン誘 導体 の〇−メチル化反応 に おけ る対照 的な 立体選択性(基質が 1の 時11‑OHが 優 先 的 に 反 応 , 一 方2 や3の 時 は6‑OHが ほぽ 完全に 反応 )に 注 目 し た ( スキ ーム1),ア グリ コン 部 分 で あ る エ リ ス ロ ノ リ ド 誘 導 体
( ENA, ENB, ENA oxime)を モ デ
ル 化合 物と して ,それぞれの配座異性 体 を徹 底的 に発 生した.発生した数百
個 の 配 座 異 性体 を 全 て 解 析 す る こ と は 不 可 能 で あ る た め14員 ラ ク ト ン 環 の配 座 に 基 づ ぃ て ク ラ ス タ ー に 分類 し た . 存 在 確 率 の 高 い17個 の ク ラ ス タ ー 内 に あ る 安 定 配 座を 調 べ る と , 反 応 の 選 択 性 に 関連 し た 大 環 式 分 子 に固有の特徴(C(11)のロ一.水 素原子の配向とC(6),C(11),
Fig.2Calculated populations of tbree conformation bundles:6‑OH reactive(6冫11) C(12)の水酸基とC(1),C(9) 11‑OH reactive(6くく11) and inactive.
のカ ルポニル基間の分 子内渡環
水素結合 )があることに気 付いた.6‑OH(3級)反応型 ,11‑OH(2級)反 応型,
非反応型 の3種類 にクラスター・を東 ねてそれぞれの存 在確率を合計した (図2).
ENAにのみ11‑OH反応型が有 意に存在している こと,および2級水酸基と3級水酸基 の反応速 度の違い(2級冫3級)を考慮すれば ,観察された〇―メ チル化反応におけ る !
立体選択 性の傾向と一致し ている.
学位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査 教 授 白 濱 晴 久 副 査 教 授 村 井 章 夫 副 査 教 授 佐 々 木 不 可止
副 査 教 授 大 澤 映 二 (豊 橋技 科大)
学 位 論 文 題 名
Conformation Search ‑ Approach to Macrolides
( 配 座 探 索 ― マ ク ロ リ ド ヘ の 応用 )
本論文はフレキシプルな分子の低エネルギー配座を徹底的かつ効率良く探索するこ とができる新しい配座探索法を開発と、この方法を使って新たに見出された事象につ いて述ぺたものである。一般に配座探索は初期構造を変形(摂動)して出発構造を発 生し、これを構造最適化して得られた構造を重複無く保存するとぃう一連の処理を繰 り返す。そこで、初期構造から適切な出発構造を生成することができる新しい摂動と して、環内結合に対してはcorner flapとedge flip、鎖式結合に対しstepwise. rotationを考案している。また、保存構造の中からまだ初期構造として選ばれていな い最も安定な配座異性体を常に初期構造として選択することによって、探索を素早く 最安定配座に到着させ、その後徐々に高エネルギー領域ヘ移行できる貯水池アルゴリ ズムを考案した。その他様々な手法を導入したプログラムCONFLEX3を作成した。
このプログラムを用いてロ―アルカンとシクロアルカンのテストから、既往の配座探 索法と比べても高速に、かつ重要な配座異性体を見逃すことなく低エネルギー領域か ら配座探索を行っていることを確認した。
CONFLEX3による配座探索からぬーアルカンの配座異性体の数は、非対称GG 構 造を持つ配座が存在すると新たに高エネルギー配座が発生し、これまで認められてい
た3n個より多くなることがわかった。ここでnは分子内に存在する束縛回転結合の本 数である。高工ネルギー配座の比率は鎖が長くなるに連れて著しく高くなり、GG.を 持 た な い 低 エ ネ ル ギ ー 配 座 の 増 加 率 は わ ず か に 2.4nで あ っ た 。 CONFLEX3探索で得ら れたシクロアルカンの重要な配座異性体に対して、従来の Daleの環配座命名法では配座名と構造が一対一に対応しないため、これを改良した。
改良命名法は環骨格配座の局所的特徴を一層合理的に表現し、類似配座を明確に区別 することができる。
CONFLEX3の 応 用 と し て 、 エ リ ス ロ
6‑OMe マ イ シ ン 誘 導 体 の 〇 − メ チ ル 化 反 応 に H3)2 Mel/KOH
ー ― シor お け る 対 照 的 な 位 置 選 択 性 に 注 目 し た |n DMSO‑THF
11‑OMe ( schemel) 。 エ リ ス ロ ノ リ ド 誘 導 体 を モ デ ル 化 合 物 と し て 配 座 探 索 し 、 得
Cmpd. Rl 鳥 R、 Selectivity ら れ た 数 百 個 の 配 座 異 性 体 を 骨 格 ラ ク ¢ OMe: ll‑OMe
erythromyclnA o OH Si(CH3)3 1:3 erythromydnB o ' H Si(CH3)3 >10:1
erythromycln A allyloxlrne N‑O‑allyl OH Si(CH3)3 >10 : 1
scheme1
トンの環配座に基づぃてクラスターに 分類した。存在確率の高い17種類のク ラスターの配座解析から、多くのクラ ス ターは6‑OH(3級)選択 型の構造を持っているが、11‑OH(2級)選択型構造を している環骨格配座を持つクラスターがーっだけ見出された。クラスターを6‑OH選 択型、11‑OH選択型、及び非選択型の3種類に分類してそれぞれの存在確率を合計し たところ、エリスロノリドA誘導体にのみ、溶媒中で反応性が高いと考えられる11位 選択型が有意に存在していた。従って、エリスロマイシンにも同様な分布が成立する ならば、エリスロマイシンA誘導体には反応性の高い11選択型配座が存在するため 11‑0メチル体が多く生成したと考えられる。
以上のように、新たに開発したCONFLEX3はフレキシプルな分子の重要な配座異 性体を見逃さずに効率的に発生できる。これを応用した結果、エリスロマイシンに今 まで見逃されていた新しい配座異性体を見出し、〇―メチル化反応における特異的選 択性を説明できるような知見を得ることができた。
以上の成果は、18報の論文として国際誌に発表され、高く評価されている。審査員 一同は、申請者が博士(理学)の学位を受けるに十分な資格を持っものと認めた。
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