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学位論文審査の要旨 主査

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 農 学 ) 大 西 一 光

学 位 論 文 題 名

イネ科植物の生活史特性に関する発育形態学的比較研究 学位論文内容の要旨

  イネ 科植 物 には ,イ ネや ムギ類など の作物のほか牧草や芝草など 農業ヒ重要な多くの種が含 ま れる .種 内 や近 縁種 間に みら れ る繁 殖様 式や 植物 体 制な ど生 活史 特 性の 変異は植物の適応 進 化を 考え る 上で 重要 であ るとともに ,作物における収量陸や牧草 における永続性,採種陸な ど 重要 な農 業 形質 と密 接に 関連すると 推察される.本研究では,イ ネ科植物の生活史の差異を 生 活環 にお け る発 育的 変化 として理解 するため,種々の生活史特性 と分げつ発育様式の分化に 関する比較 研究を行った.最初に,典型的なーー年生と多年生を含み異なる生育習性を示すLolium 属3種 にperenne,Lmultiflorumお よ びLternulentm) を 用 い て , 生 活 史 特 陸 の 分 化 に おけ る分 げ つ発 育の 重要 陸に関して 検討した.っぎに,イネ科植 物の中にあって分げつ体系 の 発育 が最 も よく 解析 され てい る 栽培 イネ にお いて ,分げっ矮性 遺伝子(dl乃の作用による分 げ つ発 育と 種 子生 産性 の変 化を調査し た.さらにこれらの知見に基 づいて,Lolium属植物にお け る 分 げ っ 発 育 様 式 の 変 異 と そ の 適 応 謎 慮 義 に 関 し て 詳 細 な 比 較 研 究 を 行 っ た . 1‑ Lolium属における生活史特性の分化 と体制変異

  Loti乙エm属3種7系統 に おい て, エネ ル ギー の分 配様式や種子生 産陸を含む生活史特性の変 異 を調 査し た .地 上部 乾物 重に対する 種子重の割合によって示され る登熟期の生殖幼率は,一 年 生的 系統 ほ ど高 く, この 連続変異は 属内における繁殖様式に基づ いた適応的分化を反映する ものと考え ら抑た.登熟期において,ー年生的系統|ま多年生的系統に比べ出穂茎数は少ないが 高 い出穂茎 率(分げっ総数に対する出穂 したものの割合)を示し,1穂種子重の増加により高い 生 殖効 率と 種 子生 産を 達成 した.それ に対して,多年生系統ではー 年生的系統に比べ出穂茎数 は 多い もの の1穂種 子重 は 減少 し, 種子 生 産を 低下 させた.また生 存する無効分げっが多く出 穂 茎率 は低 く なり ,生 殖効 率は低下し た.これら形質群は生育習性 と関連して連続的に変異し た ,生 殖効 率 は種 子生 産に 関連 す る17形質 の中 で, 出 穂茎 率と 最も 高 い正 の相関を示した.

こ れら のこ と から ,Lolium属では生育 習性の分化に関わる多くの生 活史特陸が,分げつ体系の 発育的変化 と密接に関連して変異する ことカ萌ミされた.

2.イネを モデルとしたイネ科植物にお ける分げっ体系の発育解析

  栽 培 品 種 「し お かり 」お よび 「し お かり 」を 遺伝 的 背景 とし て分 げっ 矮 性遺 伝子(dlのを 導入した分 げつ矮f生準同質遺伝子系統 を供試し,分げっ発育様式と種子生産について比較した.

分 げっ 矮陸 系 統は 「し おか り」に比ベ 顕著に穂数が増加し矮陸の草 型を示した.分げっの発育 運命を分げ っ体系における発生節位に 基づき調査したところ,「し おかり」では発育後期に分げ つ 発生 が停 止 し, 高位 節か ら発生した 分げつで無効化が高頻度でみ られた.一方,分げっ矮陸 系 統で は分 げ つ発 生が より 高位の節ま で継続し,無効分げつは著し く減少した.これらのこと

46 ‑

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か ら, 正常 型の 示 す発 育後 期に おけ る 分げ っ発 育の 強い 抑 制が ,d17により解除 されることが 示唆された. しかしながら,「しおかり」 の有効分げっはすぺて高稔 陸を示したのに対して,分 げ っ矮 性系 統で は 高位 節か ら発 生し た 分げっは有効 化するものの種子稔性は低下 した,種子生 産 性を2種 の肥 料条件下で 比較したところ,「しおか り」では両肥料条件下で高稔 陸を示したの に 対し て, 分げ つ 矮陸 系統 は「 しお か り」に比ベ肥 料レベルの低下による穂数の 減少程度は小 さ く, 旧体 当た り の穎 花数 が増 加し た ものの,無肥 区での種子稔性と種子収量の 低下の程度が 大 きく なっ た, こ れら の結 果か ら, 分 げつ矮陸系統 では分げつの休眠や無効化を 介した発育運 命 の可 塑的 調節 能 の低 下に より ,種 子 生産効率が低 下することが示唆された,す なわち,栽培 イ ネで は, 野生 型 対立 遺伝 子で あるD17が分 げ つ発 育制 御を 介し て効率的な種子 生産を行う上 で重要な役割 を持つことカ'Tされた

3. Lolium属 における生育習性の連続変異 と分げつ発育様式の分化

  前章 まで の結 果 から ,イ ネ科 植物 で は分げっ発育 様式が生活史特性の分化にお いて重要な適 応 ロ勺 意義 を持 つ こと が示 唆さ れた た め,Lolium属3種7系統を用いて分げっ発育 様式を比較し た ,本 実験 で供 試 したLolium属 植物 に おいても,イ ネの場合と同様,分げっの発 育運命は母茎 に おけ る発 生節 位 に依 存し て変 化し た .すなわち, 母茎と分げつは,分げっが生 じた節から数 え てほ ぼ同 数の フ ァイ トマ ーを 形成 し た後に花芽を 分化させた.しかしながら, 多年生的系統 で は母 茎に 比べ て 分げ っが 形成 する フ ァイ トマ ー数 が増 加 する 傾向にあった, 一年生を除く5 系 統で は, 登熟 後 に休 眠芽 と無 効分 げ っの生長が促 進されるが,多年生的系統ほ ど無効分げつ の 寄与 が高 かっ た .登 熟後 の再 生分 げ っの発育運命 は生育習性の違いによって著 しく異なって い た. 一年 生的 系 統で は母 茎と 分げ っ 間でファイト マ一数の関係を維持しつつ穂 を形成するの に 対し て, 多年 生 的系 統の 分げ っは 栄 養生長へと転 換した.これらの結果は,分 げっの発育運 命 の 変 換 が Lolium属 の 適 忠 的 変 化 に 重 要 な 役 割 を 持 つ こ と を 示 唆 す る . 4. Lolium属 における生育習性に基づいた 分げっ発育戦略

  生育 習性 に関 連した分 げつ発育戦略をより詳細に解 析するため,多年生系統( 己perenne cv.

Ruanui)と 一年 生的 系統(L. multfflorurn cv. Progrow)の2系統 における分げ. つ発育を市卿 環 境下 にお いて 比 較し た. 穂揃 い後2週 目に す べて の穂 を切 除し ,再生を促進し たところ,ー 年 生的 系統 は再 生 後も 母茎 と分 げっ 間 でファイトマ ー数の関係を維持しつつ出穂 を継続するの に 対し て, 多年 生 系統 の大 半の 再生 分 げっは栄養生 長ヘ転換した.一年生的系統 では出穂後無 効 分げ っの 枯死 が 進行 し, 再生 は休 眠 芽から新たに 発生する分げつに大きく依存 しており,大 半 の休 眠芽 は再 生 前に すで に花 芽を 形 成していた. 一方,多年生系統では再生に おいて無効分 げ つの 寄与 が高 く ,無 効化 する 分げ つ は出穂の進行 に伴って出葉速度が低下する ものの,穂切 除 によ り生 長が 促 進さ れた .一 年生 的 系統では再び 再生を促進させた場合でも, 再生分げっは 母 茎上 での 発生 節 位に 依存 して 花芽 形 成を継続する のに対して,多年生系統の再 生分げっは花 芽形成を促進 する長目条件下においても栄 養生長を続け,春化処理により再びす芭茅を形成した.

こ れら の結 果か ら ,Lolium属で は生 育 習性の差異に 基づく異なる発育的戦略が, 発育過程にお け る 分 げ つ の 発 育 運 命 制 御 機 購 の 変 更 に よ り 成 立 し て い る こ と が 示 さ れ た ,

  以 上の 結果 か ら,Lotium属と 栽培イネにおいて分げつ体系 の発育様式はエネルギー分 配様式 や種 子生 産性 な ど適 応的・農業 的に重要な生活史特性と密接 に関連しており,生活史の 差異が 分げ つ体 系の 発 育的 変化として 捉えられることが示された, このような発育形態学的視 点に基

(3)

づく比較により分げつ発育様式の多様陸とその適応的意義を理解することは,植物の適応進化 を理解する上で重要なだけでなく,栽培イネ科植物の生育予測や形質の育種的改変の基礎とし て有用な知見を提供するものと考えられる.

‑ 48―

(4)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 教授

中嶋 喜久田 佐野 高橋

学 位 論 文 題 名

    

博 嘉郎 芳雄

英樹( 総合博物館)

イネ科植物の生活史特性に関する発育形態学的比較研究

  

本 論 文 は, 図

20

,表

16

,引 用 文 献133を含 み ,

6

章 か ら なる 総 頁 数

111

の 和文 論 文 である.別に参考論文2編が添えられている.

  

植物 の生活史 は様々な 形質の 変異を組み合わすことで成立しており,生活史の多様性 を理解するためには,個々の生活史特性の適応的意義を明確にすることが重要である.イ ネ科植物には農業上重要な多くの種が含まれ,繁殖様式や種子生産性などの生活史特性は,

植物の適応進化を考える上で重要であるとともに,作物や牧草における収量性や永統性な どの農業形質と密接に関連すると推察される.本研究は,生活史特性の変異を生活環にお ける発育的変化として捉えることにより形質の適応的・農業的意義を理解することを目的 として,数種のイネ科植物において生活史特性と分げっ発育様式に関する比較研究を行っ たものであり,得られた主な結果は以下の通りである.

1

. Lolium属における生活史特性の分化と体制変異

  

典型 的な一年 生と多年 生を含 み異なる生育習性を示すLoliLエm属3種(L perenne,L・

multinorum

およ び

L

.temulentum)7系 統 に おい て , 工 ネル ギ ー の分 配 様 式や 種 子 生 産性を含む生活史特性の変異を調査した.地上部乾物重に対する種子重の割合によって示 される登熟期の生殖効率は,一年生的系統ほど高く,この連続変異は属内における繁殖様 式に基づいた適応的分化を反映するものと考えられた,生殖効率は,種子生産に関連する

17

形質 の中で ,出穂茎 率と最 も高い正 の相関 を示した ,これら のこと から,Lolium属 では生育習性の分化に関わる多くの生活史特性が,分げつ体系の発育的変化と密接に関連 して変異することを明らかにした.

2

. イ ネ を モ デ ル と し た イ ネ 科 植 物 に お け る 分 げ つ 体 系 の 発 育 解 析

  

栽培 品種「しおかり」および「しおかり」を遺伝的背景として分げつ矮性遺伝子(dlカ を導入した分げつ矮性準同質遺伝子系統を供試し,分げっ発育様式と種子生産について比

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(5)

較した,,「しおかり」では発育後期に分げっ発生が停止し,高位節から発生した分げっで 無効化が高頻度でみられたが,有効分げっはすべて高い稔性を示した.一方,分げっ矮性 系統では分げっの発生がより高位の節まで継続し,無効分げっは著しく減少したが,高位 節の有効分げっで種子稔性は低下した.また分げっ矮性系統は「しおかり」に比ベ肥料レ ベルの低下による穂数の減少程度は小さかったが,種子稔性と種子収量の低下の程度は大 きくなった.これらの結果から,分げつ矮性系統では休眠や無効化を介した分げっ発育の 可塑的調節能の低下により,種子生産効率が低下することが示唆された.すなわち,栽培 イネで は,野生 型対立 遺伝子で あるD17が分げ っ発育制 御を介して効率的な種子生産を 行う上で重要な役割を持つことを明らかにした.

3

 Lolium

属 に お け る 生 育 習 性 の 連 続 変 異 と 分 げ つ 発 育 様 式 の 分 化

  

分げっ 発育様式 が生活 史特性の分化において重要な適応的意義を持つことが示唆され たため 同じ7系統を 用いて分 げっ発育 様式を 調査した ,Lolium属植物においても,イネ の場合と同様,母茎と分げっは,分げっが生じた節から数えてほぽ同数のファイトマーを 形成した後に花芽を分化させた.登熟後の再生分げっの発育運命は生育習性の違いによっ て著しく異なっていた,すなわち,ー年生的系統では再生後も出穂を継続するのに対して,

多 年 生 的 系 統 の 分 げ っ は 栄 養 生 長 へ と 転 換 す る こ と が 明 ら か と な っ た . .

4

. Lolium属における生育習性に基づいた分げっ発育戦略

  

多 年 生 系統

(L. perenne)

と ー 年生 的 系 統

(L. mult:iflorum)

の2系統にお ける分 げ つ発育 を制御環 境下で 比較した .穂揃 い後2週目にす べての穂を切除し,再生を促進さ せたところ,一年生的系統は再生後も母茎と分げっ間でファイトマ一数の関係を維持しつ つ出穂するのに対して,多年生系統の大半の再生分げっは栄養生長へ転換することを見い だした.一年生的系統では出穂後無効分げっの枯死が進行し,再生はすでに花芽を分化し た休眠芽から発生する分げっに大きく依存していた.一方,多年生系統では再生において 無効分げっの寄与が高く,再生分げっは花芽形成を促進する長目条件下においても栄養生 長を続け,春化処理により再び花芽を形成することが示された.これらの結果から,Lolium 属では生育習性の差異に基づく異なる発育的戦略が,分げっにおける発育運命制御機構の 変更により成立していることを明らかにした.

  

以上の ように ,本論文 はイネ科植物において生活史特性の変異を生活環における発育 的変化として捉えることで,その適応的意義を明確にした.この成果は,植物の適応進化 を理解する上で重要であるのみならず,栽培イネ科植物の生育予測や形質の育種的改変の 基 礎と し て 有用 な 知 見を 提 供 する も の であ り , 学 術的・ 実用的に 高く評 価される ,

  

よって 審査員 一同は, 大西一光が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有す るものと認めた.

50―

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