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博 士 ( 教育 学 ) 内 田和 浩

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Academic year: 2021

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博 士 ( 教育 学 ) 内 田和 浩

学 位 論 文 題 名

「 自 治 体 社会 教 育 」 の創 造 過 程に関 する実 証的研 究 学 位 論 文 内 容 の要 旨

  本論文における「自治体社会教育」とは、いわゆる「自治体における社会教育行政」や

「公的社会教育」等の狭い意味ではない。既存の社会教育学や政治学・行政学等への批判 の上に、設定した理論枠組みである。それは、地域住民の「地域づくりの主体」形成をめ ざし意図的に組織される地域社会教育実践(「前段実践過程」)と、「地域づくりの主体」

の「協働」による自治体の政策過程一政策研究・政策立案・政策決定・政策執行・政策評 価のサイクル―(「後段実践過程」)を連続的な地域社会教育実践として位置づけ、それ を保障しうる新しい自治体の創造ヘ向けた取り組みを「自治体社会教育」として提起した のである。

  これまで自治体においては、「前段実践過程」は社会教育施設や社会教育行政が行うこ ととされ、「後段実践過程」は企画行政等による「行政過程」として行われることが多か った。また、社会教育学では、「前段実践過程」は社会教育実践として、「後段実践過程」

は制度論又は運動論として論じられ、連続的に論じられることはあまりなかった。政治学

・行政学では、「後段実践過程」を行政における政策決定システムとしてとらえ、そこに いかに市民や自治体職員を参加させるかという視点で論じられてきた。したがって、本論 文においては「自治体社会教育」という新たな理論枠組みを提起することよって、それら を連続的な地域社会教育実践として分析し、これまでの社会教育学、政治学・行政学を超 えた自治体研究への新たな課題を提起することを試みた。

  「自治体社会教育」とは、自治体行政の縦割りの弊害や形式的「住民参加」を克服して、

地域住民が「市民」として自治体の真の主人公となっていく道筋やしくみを、「地域づく りの主体」形成としての地域社会教育実践と捉えなおし保障していく実践過程である。つ まり、「地域づくりの主体」形成という視点から「教育の論理」と「自治の原理」を統一 して再構成しようとする試みである。これらを「前段実践過程」「後段実践過程」と見る のは、そこに連続的な地域社会教育実践が展開し、参加者の意識変革過程が進行すると考 えるからである。本論文では、その過程を「A仲間意識」rB地域づくりに対する限定さ れ た協同的意識」rC地域づくりに対する市民としての協同的意識」rD地域づくりに対 す る公 共的 意識 」rE地 域づ くり の主 体と して の公 共的 意識 」と仮説的に提起した。

  分析の対象としては、八雲町及び白老町で展開している実践をとりあげ、それらのしく みや構造、プロセスを実証的に分析し、「自治体社会教育」の実現ヘ向けた実践的可能性 と課題を明らかにした。

  まず、八雲町の「前段実践過程」では、生活実践・学習実践・地域づくり実践・社会教 育労働の4つの要素の関連構造の変化によって学習過程の展開を捉えた。そして、意識変

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革過程の分析から、リーダー層が「地域づくりの主体」として段階的に「D」を形成して いくことを明らかにした。また、このような意識変革を経たりーダー層は、白らのそれま での学習過程を踏まえ、自覚的に他の住民諸階層に対して学習の組織化、学習内容編成等 の援助を行なうようになっていっており、そこでは社会教育労働の自立化と社会教育労働 の内容と担い手の重層的展開の実態があった。しかし、八雲町における地域社会教育実践 は、結局「前段実践過程」にとどまり「後段実践過程」には展開していかなかった。っま り、リーダ一層は「住民主体の町づくり計画」づくりを求めていたが、「行動する意識」

としての「E」を形成できず、実際の政策過程としての「住民主体の町づくり計画」づく りに関わってはいけなかった。また、そこで地域社会教育実践を主導的に担ってきた社会 教 育 主 事 も 、 「 後 段 実践 過 程 」 を 見 通 し た働 きか けを 行う ことは でき なか った 。   ここに、地域社会教育実践を「前段実践過程」のみと捉えることの限界が明らかになっ た。そこで筆者は、自治体において実際に政策過程に直接関わっている自治体職員に、地 域社会教育実践の担い手を求めたのであり、地域社会教育実践を「学習実践・地域づくり 実践・生活実践と社会教育労働を中核とする自治体公務労働の統ー」と再定義し、政策過 程を学習・教育システムとして捉え返して「後段実践過程」とした。そして、白老町の「元 気まち運動」の展開を「後段実践過程」として実践分析することによって、以下のことを 明らかにしたら

  まず、さまざまな生活課題から「地域づくり」に自覚的に取り組んでいた住民リーダー たちは、「元気まち運動」での「協働による政策過程」をめざす自治体職員や住民リーダ ー相互の関わりを通じて、学習過程における意識変革を遂げていった。そこでは、「C」 から「D」ヘ、さらに「E」を形成し、自ら「協働による政策過程」に積極的に関わって いく取り組みも見られた。また、そのために他の地域住民に対する「学習の組織化・構造 化」への動きや「地域づくり」ヘ向けた「市民」の「協同活動」が行われていた。さらに、

それらの住民リーダーたちの「地域づくりの主体」形成に影響を与え、また影響を受けた 自治体職員・管理職職員は、自らの自治体公務労働の「専門的自覚」と「市民的自覚」と の統一において、「D」を形成していくことが明らかになった。そして、「D」を形成し た自治体職員は、自らの自治体公務労働には社会教育労働が不可欠であることを自覚する ようになるとともに、「地域づくりの主体」形成ヘ向けた職場や他の職員、さらに住民と の学びあいの場を組織したり、「E」によって「職員と住民の協働の学びあいによる政策 過程」を進め、「協働による政策過程のシステム化」を求めて働きかけていくようになっ ていったのである。

  それらの分析を通じて、「協働による政策過程」とは、「地域づくりの総合事務局」と しての自治体の仕事である自治体公務労働の「協働」、っまり自治体公務労働を「地域づ くりの主体」としての「市民」がアマ・セミプロ・プロとして重層的に担うことであるこ とカs明らかになった。そして、そこでは「市民」同士の「協働の学びあい」が不可欠とな り、「前段実践過程」を含む地域社会教育実践が求められ、したがって自治体公務労働の

「 中 核 的 」 労 働 と し て 社 会教 育 労 働 が 位 置 づ く こ と を 明 ら か に し た の で あ る 。   理論的総括では、「前段実践過程」と「後段実践過程」を貫く地域社会教育実践の展開 は、自治体公務労働の中心内容である自治体計画労働の要としての社会教育計画労働を担 う社会教育専門労働の要の担い手を求めていくことを明らかにした。そして、それは現行 自治体社会教育職員制度の革新として、さらにそれを超えるものとして、そのような社会

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教育専門労働の担い手を自治体内に重層的に位置づけ、創り出していくことであり、その こ と が 「 自 治 体 社 会 教 育 」 創 造 の 実 践 的 課 題 と な る こ と を 提 示 し た 。   以上の分析と総括は「自治体社会教育」という新たな理論枠組みを設定したきたからこ そ明らかにできたことであると考える。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

「自治体社会教育」の創造過程に関する実証的研究

  本 論 文 は 、 「 自 治 体 社 会 教 育 」 す な わ ち 市 町 村 自 治 体 が 関 与 す る 社 会 教 育の 総 体 を 構 造 的 か つ 実 践 的 に 把 握 し よ う と し て い る 。 そ れ は 大 き く 、 社 会 教 育法 (1949年 ) に もと づ き ネ + 会 教 育施 設 や 社会 教 育 行政 に よって 推進さ れる「前 段実践 過程」と 、地域 fキ . 民 と の協 働 に よる 自 治 体の 政 策 過程 ( 政 策研 究 ・ 政策 立 案 ・ 政策 決 定・政策 執行・

政 策 評 価 の サ イ ク ル ) に お ぃ て 展 開 さ れ る 「 後 段 実 践 過 程 」 の2っ に 区 分 さ れ る が 、 両 者 を っ ら ぬ く も の で あ り 、 地 域 住 民 が 「 市 民 」 と し て 「 地 域 づ く りの 主 体 」と な っ     

てい く 過 程 とし て 理 解さ れ て いる 。

  具 体 的 な 社 会 教 育実 践 過 程 は、 地 域 住民 の 意 識変 革 過 程と し て 分析 さ れ てい る 。 そ れは 仮 説 的 に、 (A)学 習 集 団の 形 成 によ る 「仲 間意識 」、(B)一定 の集団 的活動を とお し て 形 成 さ れ る 「 地 域 づ く り に 対 す る 限 定 され た 協 同的 意 識 」、 (C)他 の 集 団と の 対 ヽ ケ や 矛 盾 を 意識 し て 地域 づ く り の合 意 形 成を し て いく よ う な「 地 域 づく り に 対す る 市 民 と し て の 協 剛 的 意 識 」 、 (D) 地 域 づ く りの 主 体 とし て の 自己 を 意 識し 自 治 体の 政 策 過 程 に 積 極 的 に か か わ っ て い こ う と す る 「 地域 づ く りに 対 す る公 共 的 意識 」 、 (E) 自 治 体 の 政 策 過 程 に 実 際 に 参 加 し 、 現 実 に 地 域 づ く り の 主 体 と し て ふ るま う こ とが で き る 「 地 域 づ く り の 主 体 と し て の 公 共 的 意 識 」 の 形 成 と い う 、5つ の 段 階 か ら な る も の とさ れ て い る。

  こ の よ う な 自 治 体 社 会 教 育 の 創 造 過 程 を 実 証 す る た め に 筆 者 は 、 前 段 お よび 後 段 実 践 過 程 の 典 型 事 例 と し て 、 そ れ ぞ れ 八 雲 町 と 白 老 町 を 選 ん で い る 。   八 雲 町 で は 地 域 づ く り を め ざ す 社 会 教 育 に 取 り 組 ん で き た 社 会 教 育 主 事 を中 心 と す る 実 践 を 取 り 上 げ 、 地 域 住 民 に よ る 「 町 づ く り 計 画 」 を め ざ し て 「 町づ く り へむ け て の 捉 言 」 を 生 み 出 し て い っ た 過 程 を 分 析 し て い る 。 そ こ で は 地 域 社 会教 育 実 践の 歴 史 的 展 開 が 礼 会 教 育 主 事 の 意 識 変 革 過 程 と 結 び っ け て 分 析 さ れ 、 地 域 青年 活 動 、そ れ ら の ネ ッ ト ワ ー ク 化 、 イ ベ ン ト 型 ・ 文 化 創 造 型 実 践 、 協 同 型 地 域 社 会 教育 実 践 、そ し て 地 域 生 涯 学 習 計 画 づ く り の5っ の 段 階 に 整 理 さ れ て い る 。 そ の 上 で 、25人 の 地 域 づ く     18

正 夫

純 志

敏 達

   

授 授

授 授

   

   

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り活 動の りーグ ーを 取り 上げ 、そ れぞ れの 活動にともなう意識変化の過程は、上記実 践に かか わった 時期 やか かえ てい る生 活課 題などによって差異があるが、全体的には

(A)から(D)への展開であったことを確認している。

  こ れら の分析 をふ まえ て筆 者は 、八 雲町 の実践には環境問題への取り組みがあった としても、「行動する意識」としての(E)を形成できず、「住民主体の町づくり計画」

の政 策過 程にか かわ って はい けな かっ たこ と、っまり前段実践過程にとどまっている ことが残された課題であると指摘している。

  こ の課 題への 取り 組み がみ られ ると され ているのが、「職員と住民の協働による政 策過 程の システ ム化 」を めざ す「 元気 まち 運動」を展開している白老町である。その 活動 はCommunity IdentitIy運動にはじまり、職員参加から住民参加へ、そして職員と f辛民の協働による政策提言・政策づく゛り・情報共有・政策過程のルール化、さらには 職員と住民の「市民」`としての協働活動へと展開してきたことが明らかにされている。

  そ の上 で筆者 はま ず、4人 の住 民リ ーダー の地 域づ くり 主体 とし ての 自己形成過程 と学習課程を分析し、1人を除いて(E)が形成されていることを確認する。すなわち、

突際 の政 策過程 にか かわ りつ つ、 「市 民」 としての協同によって問題解決をはかり、

その ため に必要 な学 習を 組織 化し て、 行政 のプロである自治体職員とアマである地域 住 民 をっ な ぐ セ ミ プ ロとし ての 役割 を自 覚的 に果 たし てい る活 動を 分析 して いる。

  次 いで 筆者は 、そ れぞ れ2人づ っの 自治体 職員 と管 理職 職員 を事 例と じて、「地域 づく りの 主体」 とし ての 自己 形成 過程 を詳 細に分析している。そして、それが地域住 民としての活.動からはじまったこと、利害対立や葛藤を理解し合意形成を重視するこ とを学んでいること、意識変化としては(C)があってはじめて(D)へ、それらをふまえ て(E)へ とい う過程がみられること、自治体労働における社会教育労働の重要性を認 識してきていることなどを明らかにしている。

  以 上の 分析を とお して 筆者 は、 「教 育の 論理」と「自治の論理」を統一して、前段 実践 過程 と後段 実践 過程 を貫 く地 域社 会教 育実践を現実化していく必要性を強調して いる 。地 域聿t会教育実践を「学習実践・地域づくり実践・生活実践と、社会教育労働 を中 核と する自 治体 公務 労働 の統 一」 と理 解するその実証的研究は、従来は成人教育 論・ 社会 教育学 と政 治学 ・行 政学 の領 域で 別々に議論されてきたことを、自治体社会 教育 とし て統一 的に 把握 する こと を可 能と し、あらたな理論的・実践的領域を開拓し たも のと して評 価さ れる 。ま た、 実践 的に は、住民参加による総合行政としての地域 生 涯 学 習 行 政 を 推 進 す る 際 に 有 益 な 知 見 を 提 供 し て い る と い え る 。   よ って 筆者は 、北 海道 大学 博士 (教 育学 )の学位を授与される資格があるものと認 める。

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