人体における放射性物質の経口摂取による実効線量に関する水文学的アプローチ THE HYDROLOGIC APPROACH TO ESTIMATE THE EFFECTIVE DOSE BY INGESTION OF RADIOACTIVE SUBSTANCES IN THE HUMAN BODY
土木工学専攻 42 号 米田 駿星 Hayase YONEDA
1.緒言
1.1 研究背景
2011 年 3 月に起きた福島原子力発電所の事故は放射性 物質の漏洩を引き起こした.漏洩した放射性物質の食品 への混入,土壌・水系への流入に対して国民の多くが過 剰な反応を示している.放射性物質への過剰な反応の一 因は放射性物質及び放射線への基礎的な知識の欠如によ るものと考えられる.図‐1 には 2011 年 3 月から 2013 年 12 月までのセシウム 137 の月間降下量を示したもので ある.例えば「このセシウム 137 の降下量が人体にどの 程度影響を及ぼすのですか?」と質問を受けた時,正し く返答できる人は僅かであると考えられる.しかしなが ら,関東地方で育成された作物すら科学的な根拠のない 風評被害を受けている.では,なぜ専門家以外は放射性 物質による人体への影響について正しく理解することが 出来ていないのであろうか.原子力発電所をはじめ放射 性物質と関わる機会のある土木技術者ですら,十分な知 識と理解を持ち得ている人は少ない.その一因に,既往 の 研 究 に 用 い ら れ る 放 射 線 防 護 委 員 会 (ICRP:
International Commission on Radiological Protection)による 放射性物質による人体への影響を求めるモデル 1) は厳密 であるが複雑すぎており,専門外の人が理解することが 困難であるという問題がある.また複雑なモデルである ために全体像を理解することも難しく計画論に用いるに は適していない.そこで,山田・佐々木らは水文学の観 点から人体における放射性物質の影響を保存式のみを用 いて求める理論を提案した 2) .この理論を用いて人体に おける経口摂取による預託実効線量係数を求め,国際放 射線防護委員会 1) によって定められた預託実効線量係数 と比較した.その結果,図‐2 に示すように本理論によ る計算は複雑な理論による結果と同等の精度を持つこと を示した.
1.2 研究目的
本研究は放射性物質に対する正しい理解の助成のため に,我が国の主食である白米を摂取した時の人体におけ る放射性物質による影響を水文学的アプローチにより明 らかにした.本研究では山田・佐々木の理論 2) を水田に
適用することにより,水田における放射性物質の残留量 の計算を行った.移行係数を用いることにより,水田に て育成された白米に含まれるセシウム 137 の算出をおこ ない,その白米を摂取することにより人体が受ける影響 を,人体が吸収する原子核崩壊により放出され放射線の エネルギー量を求め,安全か否を明らかにした.
2. 人体における放射性物質の保存式の導出 2.1 放射性物質の保存関係に関する理論構成 放射性物質の保存関係に関する山田・佐々木の理論 2) は3つの理論に基づき構成されている.1 つ目は,放射 性物質はそこにある量に比例して減少するという性質を 持つこと 3) . 2 つ目は放射性物質の減少を表現するパラ メータで一般的に知ることが出来るのは半減期のみであ り,半減期は理論的・実験的に求められている 3) . 3 つ 目は放射性物質の保存関係に,水文学の降雨流出解析理 論を適用できるということである.これまで放射性物質 による内部被曝を計算するモデルは,人体を臓器ごとの 部位に分割し厳密な計算をおこなっていた 1) .そのため に厳密であるが故に非常に複雑であったため,山田らは 水文学の研究成果を応用し簡便な保存式のみを用いて内
図‐2 国際放射線防護委員会(ICRP Publ.72) 1) に よって定められた預託実効線量係数と山田・佐々 木の理論 2) によって求められた預託実効線量係数 の比較
ICRP Pub l. 7 2
によって定められた 預託実効線量係数(m Sv /Bq )
本研究の手法で求められた預託実効線量
(mSv/Bq) 10 -7 10 -6 10 -5 10 -4
137 Cs 131 I
90 Sr
65 Zn
60 Co
59 Fe
40 K
32 P
14 C
10 -7 10 -6 10 -5 10 -4 ICRP Pub1.72
の手法を用いて 計算した預託実効線量係数(m Sv /Bq )
山田・佐々木の理論を用いて 計算した預託実効線量係数(mSv/Bq)
図‐3 人体とタンクモデルの対応関係 r fout (t)
q p (t)
q b (t) q(t)=q p (t)+q b (t)
N(t) r fout (t)
q p (t)
q b (t) 図‐1 東京都と福島県と千葉県のセシウム 137
の月間降下量の変化
2011 1 2012 2013 2014
100 10
410
6時間 年
放射線強度【
Bq m 2・ m on th
】3月
東京都(新宿区) 福島県(双葉市)
千葉県(市原市)
1960年代の月間降下量の最大値約600Bq/m
部被曝を計算する理論を提案した.水文学の降雨流出解 析にはシンプルな流域を用いる集中型モデル(Lumped model)と,対象流域を複雑な流域に分割する分布型モデ ル(Distributed model)がある.山田らはこれまでの研究に より流域の多数の地点の流量を求めるためには分布型モ デルを用いる必要があるが,流域の懸案地点のみの流量 の求めるためには集中型モデルでも十分に,分布型モデ ルと同等の流出計算精度を持つこと示した 4) .このこと から, 図‐3 にしめすように人体を細分する ICRP のモデ ル 1) に対し,人体を一つの統合した組織と捉え,簡便な 式を用いて放射性物質の保存関係を理論化した.本理論 を言い換えれば,人体の放射性物質の動態を水文学の降 雨流出過程と捉え,一段タンクモデルを適用させて解析 しているとも言える.またこの理論の特徴として,水文 学におけるタンクモデルは流域に応じたモデルパラメー タの同定が必要となるが,放射性物質の場合には恣意的 に決めるパラメータはなく,放射性物質の種類に応じた 半減期からパラメータが一義的に定めることができる.
2. 2 人体における放射性物質の保存式の導出 人体における放射性物質の減少は主に 2 つの要因によ るものである.1つは放射性同位元素の原子核崩壊によ る減少であり,もう1つは人体の代謝・排泄による体外 への流出である.はじめに人体における放射性物質の減 少が原子核崩壊のみの場合の保存式を導く.時刻 t の時 の体内に存在する放射性物質の原子数を N(t)とし,流入 量は単位時間における放射性物質の流入フラックス(放 射性同位元素の原子数)r fout (t)とする.放射性物質の原子 核崩壊による原子数の減少は体内内の残留量に比例する ため,崩壊定数を α p とすると放射性物質の原子の崩壊数
は α p N(t)となる.よって人体を一つのシステムと見なす
ことにより,システム内の放射性物質の原子数に関する 保存式は(1)式になる.減衰定数 α p は放射性物質の物理的 半減期(原子核崩壊により原子数が半減する期間)より定 まることを示す.物理的半減期を T p とすると体内の放射 性原子数が 1/2 になるのは T p の時であり, (1)式において 流入量が無い時は,減衰定数 α p は(2)式で示される.
) ( )
) (
( r t N t
dt t dN
p
fout
…(1)
p e
p T
2
log
…(2)
(2)式から半減期を与えることにより,唯一のパラメー タである減衰定数を定めることが出来る.しかし,実際 に我々が知りえる情報は計算を行うのに必要な放射性物 質の原子数 r fout (t)ではなく,放射線強度フラックス(Bq) α p r fout =h(t)である.よって(1)式の両辺に α p をかけること により,α p r fout (t)は放射線強度フラックスとなり知りえる 値となる.また α p N(t)は単位時間に崩壊して消失してい く原子数であり,かつ発生する放射線強度 h(t)=α p N(t)で ある.ここで α p r fout (t)を体内に流入する放射線強度フラッ
クス r(t)とすることにより,(4)式を得る.(1)式と(4)式か
らわかるように体内の放射線強度も体内の放射性物質の 原子数と同様に保存量として扱うことができる.
)) ( ( ) )) (
(
( r t N t
dt t N d
p p fout p
p
…(3)
) ( ) ) (
( r t h t
dt t dh
p
…(4)
実際の人体における放射性物質の保存関係を取り扱う には,代謝や排泄による体外への流出を考慮しなくては ならない.よって,人体における放射性物質の保存式は (4)式の右辺へ代謝・排泄による人体からの流出項 α b h(t)
を考慮した(5)式となる.代謝・排泄による排出を表す減 衰定数 α b は生物学的半減期を用いることで定まる.また
(5)式の右辺を放射線強度 h(t)でまとめることにより(6)式
となり,α p と α b を足し合わせた減衰定数を α e とすると,
α e と表現する半減期 T e は減衰定数と半減期の関係から
(7)式となる.この T e は人体における放射性物質の原子核
崩壊による減少と,代謝・排泄による排出を考慮した半 減期であり,一般的に実効半減期とされている.
) ( ) ( ) ) (
( r t h t h t
dt t dh
b
p
…(5)
) ( ) (
) ( ) (
) ) ( (
t h t r
t h t
dt r t dh
e b p
…(6)
b p
b p
e T T
T T T
…(7)
3.水田におけるセシウム 137 の保存関係
水田におけるセシウム 137 の保存式を導く.図‐4 に 水田におけるセシウム 137 の変動要因を示す.流入量は 水田単位面積(m 2 )当たりへ降り注ぐセシウム 137 の放射 線強度フラックス(Bq/m 2 )を r(t).水田におけるセシウム 137 の減少要因は 4 つあり, 1)放射性物質の原子核崩壊に よる減少を q p (t),2)セシウム 137 の植物への吸収による
減少を q 1 (t),3)表層土に付着したセシウム 137 の流出に
よる減少を q 2 (t),4)下層への浸透による減少を q 3 (t).(駒 村ら 5) の研究より作土層から下層への浸透に関しては,
植物の吸収・移行に影響しない 30cm 以下への浸透とす る).よって水田からのセシウム 137 流出量は(8)式で示さ れ,水田におけるセシウム 137 の保存式は(9)式となる.
) ( ) ( ) ( ) ( )
( t q t q 1 t q 2 t q 3 t q soil p …(8)
) ( ) ) (
( r t q t
dt t dh
soil
…(9)
4.水田におけるセシウム 137 の残留量の計算
本節は駒村ら 5) によるセシウム 137 の水田における経年 変化の実測値と本理論による導出した式による計算値の 比較を行うことにより,本理論が水田へ適応可能かを検 討する.水田による減少要因の総和 q 1 (t)+q 2 (t)+q 3 (t)を
q soil (t)とすると,水田におけるセシウム 137 の保存式は
(10)式となる.また水田における放射性物質の減少が残
留量 h(t)に比例すると仮定し減衰定数を α soil とおけば,
(10)式は(11)式となる.
図‐4 水田におけるセシウム 137 の変動要因
g
-rayb
-ray放射性降下物
原子核崩壊 植物への吸収
表層からの流出
下層への浸透 r(t)
q1(t)
qp(t)
q2(t)
q3(t)
水田からのセシウム137の流出
q(t)=q
p(t)+q
1(t)+q
2(t)+q
3(t)
soil
p t q
q t dt r
t
dh ( ) ( ) ( ) …(10)
) ( ) ( ) ) (
( r t h t h t
dt t dh
soil
p
…(11)
計算条件は駒村ら 5) による 1964 年から 2000 年までの 水田におけるセシウム 137 の実測値と,原子力安全機構 と青山ら 6) による日本における 1964 年から 2000 年まで のセシウム 137 の全国の平均降下量を流入量 r(t)として 与えている.また駒村ら 5) の研究と同様に 1964 年を基準 年 t=0 とし,初期値 h(0)は 1964 年における水田における セシウム 137 の測定値を与えている.パラメータである セシウム 137 の物理的半減期 T p は 30 年, 土壌半減期 T soil を 26 年とした.水田における滞留半減期 T e-soil は(2)式と (12)式から(13)式として計算できる.
) ( ) (
) (
) ( )
( ) ) ( (
t h t
r
t h t
h t dt r
t dh
soil p
soil p
…(12)
soil p
soil p soil
e T T
T T T
…(13)
図‐5 に水田におけるセシウム 137 の実測値と導出し た式による計算値を示す.その結果,計算した 1964 年以 降の両数値は整合しており,本理論により水田における セシウム 137 の減少過程を十分に表現することが出来て いることがわかる.(13)式から水田における滞留半減期
T e-soil を求めると約 14 年となる.駒村らによる水田にお
けるセシウム 137 の滞留半減期(物理的半減期と土壌半減 期の両方を考慮した半減期)は 18.1 年(全国平均値)となっ ており 5) 既往の研究と同等の値を示している.
5.セシウム 137 を含む水田で生育した白米を摂取する ことによる人体への影響
本節ではセシウム 137 を含む水田で生育した白米の摂 取により,人体に蓄積されるセシウム 137 の量を明らか にする.まず,放射性降下物として水田に降り注いだセ シウム 137 が残留し,その水田で育成された白米に含ま れるセシウム 137 を求め,その白米を人体が摂取した時 の人体への残留量を求める.
水田から白米に移行するセシウム 137 の量は,水田に 含まれるセシウム 137 の残留量に移行係数を乗じて算出 する.移行係数とは農作物中のセシウム 137 濃度(Bq/kg) を土壌中のセシウム 137 濃度(Bq/kg)で割ったものであり,
本研究で用いる移行係数は一般的な値である 0.01~0.4 を 用いる 7) .本研究では白米へのセシウム 137 の移行は土 壌からのみとしている.
本研究で想定した計算条件は以下に記すとおりである.
まず,水田に降り注ぐセシウム 137 は 10000Bq/(m 2 ・year) とした,この数値は図‐1 に示した東京都の 2011 年 3 月 から 2013 年 12 月までの降下量の合計約 8200Bq/m 2 を参 考に決めた.駒村ら 5) による日本における水田の滞留半 減期の平均値(18.1 年)と原子核崩壊のみ半減期(30 年)の 2 ケースの場合の水田におけるセシウム 137 の残留量の計 算を行い,比較を行った.
その結果,図-6 に示す通り用いる半減期により水田 におけるセシウム 137 の残留量は異なる.よって人体へ の蓄積量の計算には,水田の滞留半減期は最も危険であ る場合を想定し物理的半減期 30 年とする.人体における セシウム 137 の生物学的半減期は 100 日を用いる 3) .白 米の摂取量は日本人の成人男性の平均摂取量である
60kg/year を用いる.上記の条件で移行係数を 3 ケース設
定し計算した白米の摂取による,人体に蓄積するセシウ ム 137 の残留量の推移を図‐7 にしめす.セシウム 137 の残留量は,水田における滞留半減期よりも人体におけ る実効半減期の方が短いことから,セシウム 137 の人体 への蓄積量は水田の蓄積量より小さいことがわかる.し かしながら,セシウム 137 の蓄積量を表す Bq(ベクレル) は 1 秒間に崩壊する原子数を表しており,定量的に人体 への影響を知るためには,原子核崩壊によって放出され たエネルギーをどれほど人体が吸収するかを求めなくて はならない.
6.放射性物質の崩壊エネルギーの算出
放射性物質による人体への影響は,放射性物質が原子 核崩壊時に放出する放射線を人体が吸収することによる エネルギー量が指標となる.そのためにセシウム 137 の 原子核崩壊による放出エネルギーを求める必要がある.
セシウム 137 を例として,原子核崩壊図より崩壊エネル ギーの計算を行う.原子核崩壊図に示されているのはβ 線のエネルギーは最大値であり,平均的に人体が受ける 図‐5 水田におけるセシウム 137 の駒村らによる
実測結果 5) と本理論による計算結果の比較
1950 0 1960 1970 1980 1990 2000
1 2 3 4 5 6
時間 年
137Cs の残留量の本理論を
用いた計算結果
放射線強度
[k Bq /m
2]
農業環境技術研究所による 水田における137Cs の残留量 の実測値
図‐6 水田におけるセシウム 137 の挙動の比較 (赤線には駒村ら農業環境技術研究所の報告書の
滞留半減期を用いた 5) )
0 10 20 30 40 50
0 5000 10 000 15 000 20 000 25 000 30 000
時間 年
放射線強度
Bq m2
水田へのセシウム137の降下量 10000Bq/(m2・year)(個数/秒)
物理的半減期
30年
水田の滞留半減期18.1年
放射線強度
[Bq /m
2]
放射線強度[Bq /m
2]
0 5000 10000
図‐7 セシウム137を含む白米を摂取するこ とで人体に残留するセシウム137の変化
0 10 20 30 40 50
0 50 100 150 200 250
時間 年
放射線強度
Bq
白米を摂取することで人体に流入する セシウム137の量【Bq(個数/秒)】
白米の放射線強度
[Bq ]
0
500
人体の放射線強度
[Bq ]
移行係数
0.01
移行係数0.1
移行係数0.4
白米を摂取することで人体に残留する セシウム137の量【Bq(個数/秒)】
エネルギーは平均値である最大値の 1/3 程度となる.ま た人体におけるγ線の吸収率は既往の研究より 1/2 であ るから,これを考慮した.以上のことからセシウム 137 により人体に影響を及ぼす一崩壊当たりのエネルギー:
E は(14)式となる.この 0.465MeV はセシウム 137 の一 原子崩壊当たりの人体が吸収するエネルギー量であり,
人体内で崩壊した原子数を乗じることにより人体が吸収 したエネルギー量を求めることが出来る.
MeV 0.4641
) ( MeV 6617 . 0 2 / 1 851 . 0
) (e MeV 174 . 1 3 / 1 054 . 0
) (e MeV 512 . 0 3 / 1 946 . 0
- -
g E
…(14)
7.人体への影響の計算(実効線量の計算)
最後に,放射性物質による人体への影響として,人体 が吸収するエネルギー量の計算を行う.体内で崩壊した 放射性物質の総数(内部被曝総量)I(t)は一定期間内の放射
線強度 h(t)を積分することにより(15)式より求められる.
t h d t p N t d t
I ( ) 0 ( ) 0 ( ) …(15) 放射性物質から放出されるエネルギー量の計算に関し ては,前節で示したように各核種によって既知の原子核 崩壊図(図-8)を用いてセシウム 137 の一崩壊当たりで人 体が吸収するエネルギー量 E を求めた.実効線量は各放 射性物質により人体が 1kg 当たりで吸収するエネルギー 量であり成人男性の一般的な体重(Body weight)は 70kg を用いた.したがって,(16)式より実効線量を求めるこ とが出来る.実効線量は Sv(シーベルト)という単位で表 されており,一般的な放射性物質による人体への影響を 評価する指標となっている.
(kg) (Sv) t Body weigh
) J/MeV ( 10 6 . 1 ) MeV ( ) ) ( (
13
I t E t
S …(16)
図-9 に水田に,セシウム 137 が 10000Bq/(m 2 ・year) 降下した時に人体が吸収する実効線量(被曝総量)の計算 結果を示す.最も危険な条件である移行係数 0.4 のケー スでも人体が受ける被曝量は 50 年間でも 0.15mSvである.
ICRP によって定められた預託実効線量を用いて計算 8) を行った実効線量は 0.15mSv と同等精度となっている.
50 年間で 0.15mSv という数値がどれ程の値なのかを知る
ためにいくつかの例を示す.一般的に人間は自然放射線 により年間 2.4mSv を受けており,また喫煙者であれば年
間 60mSv 被曝している 9) .このことから東京や千葉の水
田に降下した放射性物質による人体への影響は現在の値 では極めて小さいということがわかる.また図-9 に示 した計算結果は水田の滞留半減期を 30 年と原子核崩壊 のみの放射性物質の減少しか考慮していない危険側の条 件に基づいている.同様の計算を水田の滞留半減期が駒 村らの既往研究から全国平均値である 18.1 年を用いて行 った場合,その結果は移行係数が 0.4 の時は 0.11mSv と なり,移行係数が最小の 0.01 の時は 0.003mSv となった.
これらの計算結果から水田に 1 年間 10000Bq/(m 2 ・year) 降下した場合に人体が受ける実効線量は 0.003≦0.15mSv となった.この実効線量の値の振れ幅は水田の作土の変 化や稲の吸収量の変化を表現しているとも言える.
8.結論
本研究では,水文学の観点から人体と水田における放 射性物質の保存関係を簡便な式を用いて示した.また,
人体と同様の理論と用いて水田における放射性物質の減 少過程を表現することが出来ることを示した.
理論的に導出した式を用いセシウム 137 が 1 年間
10000Bq/(m 2 ・ year)が降下した場合での水田で育成された
白米に含まれるセシウム 137 の蓄積量を求め,その白米 の摂取により人体に蓄積するセシウム 137 の残留量を求 めた.水田に降下したセシウム 137 の量に比べ人体に蓄 積するセシウム 137 の残留量ははるかに少ないことがわ かった.また人体が受ける実効線量は最も危険な条件で 計算を行っても 0.15mSv 程度であり,自然放射線による 影響よりも少なく人体への影響はないということがわか った.
・参考文献
1)International Commission on Radiological Protection: Ann.
ICRP 26 (1), 1995.
2)T. Yamada, T.J. Yamada, S, Sasaki, Proceedings of 2013 IAHR World Congress, Z1003(2013).
3)J.A.TUSZYNSKI, J.M.DIXON, BIOMEDICAL
APPLICATIONS OF INTRODUCTORY PHYSICS(2002) 4) 織田賢太,山田 正ほか:土木学会第 64 回年次学術講 演会講演会,2009.
5)駒村美佐子・津村昭人・山口紀子・藤原英司・木方展 治・小平潔(2006),農業環境技術研究所報告書,24号,
p.1-21.
6)青山道夫・広瀬勝己ら(1996),気象研究技術報告36号,
p.1-34.
7) 農林水産省:暫定規制値を超過した放射性セシウムを 含む米が生産された要因の解析(中間報告)
8)International Commission on Radiological Protection:
Age-dependent dose to members of the public from intake of radionuclides Part 5 compilation of ingestion and inhalation dose coefficients
9)United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation, UNSCEAR 2008 REPORT Vol. 1
図-9 セシウム137を含む水田にて生育された 白米を摂取することによる人体が受ける総被曝量
0 10 20 30 40 50
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14
時間 年
被曝総量 【 m S v 】
移行係数
0.4
移行係数
0.1
移行係数0.01
図-8 Cs137 の原子核崩壊図
137 Cs
55
m Ba
137 56
137 Ba
56 β線の放出エネルギー
の最大値