2自由度補償器での感度問題
(平成元年5月29日 原稿受付)
設計生産工学科小林敏弘 設計生産工学科宮浦すが
設計生産工学科(大学院)下本陽一
The sensitivity problem for the control system with two−parameter compensators
by Toshihiro Kobayashi Suga Miyaura
Yoichi Shimomoto
Abstract
In this paper, we deal with the sensitivity problem for the control system with two.parameter compensators. For the control system we can treat more general control laws than the case of one.
parameter compensators. At first, we give the parametrization of the class of two.parameter com−
pensators that stabilizes a given plant Secondly, for the stabilized control system we find a stable and proper two.parameter compensator, which makes the H。。−norm of the sensitivity matrix of the system smaller than a pre.specified value. Particularly we discuss our results in comparison with the results in the case of one−parameter compensators.
このとき,フィードバック則は
1.はじめに
ω=C(μ一y)=Cμ一Cy (1)
H..最適制御は,1981年Zamesによりスカラー制御系
での感度問題として提案された(1×2)。その提案によると, である。従来の感度問題は,図1の制御系の感度行列を
外乱から制縫までの伝達関数の絶対値の最大値を評価 S−(、+PC)−1 (,)
関数にすることで,最も都合の悪い外乱が入ったときの
影響を最小にできると述べている。 とすると,図1の閉ループ系を安定化し,評価関数 Zamesの提案以来, Francis, Doyle, Heltonらにより
H』最適制御はかなり一般的レベルで解決された(2)(3)(4)。
その数学的基礎は,Hardy空間での補間極値問題であ
る。そして,この問題の基本的な解は多変数系も含めて 状態空間法に基づくアルゴリズムが一応完成しているが,最近木村により別の新しいアルゴリズムが提案されてい
る(5)。以下,従来の感度問題を簡単に述べる。
図1のような制御系を考える。ただし,P, Cはそれ
ぞれプラントと補償器の伝達行列とし,μは目標入力,yは出力,ωは操作量とする。 図1 感度問題
30 小林敏弘・宮浦すが・下本陽一
制御系の閉ループ系の安定化について考察を進めていく。
」=ll WSII.. (3)
図2の制御系を改めて図3のように書いておく。
を最小にする安定でプロパーな補償器Cを求めること 図2との違いは,プラントPをRH..上での右既約分解
である(6}。ただし,Wは重み行列でll・1..は仏ノルムP=2VρDρ一1 (8)
を表す。また以下では,安定でプロパーな有理関数行列
の集合をRH。.で表す。本報告では,パラメータを2つ で表している。すなわち,1脇, D。∈RH。。で 含む補償器での感度問題を考察する。
x∧7ρ十y1)ρ=1 (9)
2.問題の設定
となるX,y∈RH。。が存在する。さらに,操作量ωへの
P∈R姻をプロパーなプラントの伝達関数とし,μ, 外乱μ、,プラントの出力y、への外乱μ3を考えている。y∈宮をそれぞれ目標入力とプラントの出力とする。さ 図3の制御系に対する安定性を以下のように定義する。
らに,操作量ωが (定義1)
図3の制御系において,(μ1,μ2,μ3)から(y1, y、)
ω==C1μ一C22ノ (4)
までの伝達行列がRH..に属するならば,図3の制
で表されるようなフィードバック制御系を考える。この 御系は安定である。制御系での感度行列をSとし,εをあらかじめ与えられ この定義は,図3の制御系に内部安定性を適用したもの
た1より小さい正の定数とする。本報告では,上述の制 である。御系において 図3の各変数の関係より(μ1,μ2,μ3)から(y、,y,)までの
伝達行列を求めると
(り 閉ループ系を安定化し
(・i)ll WSIL〈・ (5) μ、
yl 〜
=1V。D− 凡μ、 0旬
を満足するC1, C、∈RH.。を求めることを考える。ただ y、μ3 し,Wは重み行列でどのような周波数帯を考えるかに
より選ばれる。 となる。
3.制御系の構成
まず,考察を進める制御系においてつねに,C1, C、
∈RH。。であるように制御系を構成しておく。
補償器をC=[C、,C、]とし, CのRH。。上での左既約 分解を
C=1)ご1[∧rCl,∧「c2] (6)
μ 十 ω
y
厄、
一
〜Dご P
痘。,
とする。すなわちD・・[1Vcb」Vc2]∈R仏で 図2 制御系の構成 川
〜 〜 XCl
[1VCI,2Vc2] 〜 =∫ (7)
X・・ μ . +21. 22 y2
− Dご1 D万1 」Vρ となるX,、,X,,∈RH..が存在する。したがって
C1=Dご1N。、, C,=D♂11V。,とフィードバック則(4)式よ
り考察する制御系は図2のようになる。4.安定化について c +μ
本章では,2章の問題設定の条件(i)すなわち,図2の 図3 制御系の構成(2)free parameter Q∈RH。。になり,また残りの(y−RAら)−1
ただ一
m司・D−[∴え] (11)ぽ)は1章で述べた従来の と同じ結論
ところで,従来の感度問題と比較するために簡単に従 〜 0 −∫ 0凡= 一 一 来の場合の結論を述べておく,図1の制御系に対する安
ハ「c1 0 −」Vc2
定化補償器は
したがって,定義1より図3の制御系が安定であること 〜 〜
〜 (y−R∧ら)−1(X十RDρ) (1θ
とN。D− 凡∈RH.。は同値である。このことより,次の安定性に関する補題が成り立つ。 で与えられる。ただし,(1V。, D。),(D。,凡)はそれぞれ
(補題)(7) プラントPの任意の右既約分解と左既約分解で,X,
図3の制御系が安定であるための必要十分条件は Y∈RH。。は, XIV。+γD。=∫を満足する行列である。こ
左 ∈RH。.である。ただし のとき,図1のμからyまでの伝達行列は
△−6。D。+痘。、N. (12) }Dρ(X十RDρ):R∈朋..} (1カ
また,既約分解が逆行列もRH..に属するような行列を で与えられる。また,⑮式より図3の制御系において目乗ずることをのぞいて一意であることを用いると次の系 標入力脇からプラントの出力y,までの伝達行列は
が成り立つ・ IN。Q、Q∈R醐 (1⑧
(系)ω
図3の制御系が安定であるための必要十分条件は である。いま,プラントPが安定であるとすると
〜 〜 (P,∫),(∫,P)はそれぞれPの右既約分解と左既約分D,D。+N。,N。=∫ ⑬ 、
解である。さらに,XIV。+yD。=∫を満たすX,γ である。 ∈RH.。は, X=0, yP=1とできるので(1力式と(18式はそ
この補題を用いると,図3の制御系を安定化する補償 れそれ
器をParametrizeできる。 {R:R∈.RHC} (1g
(定理)(7)
{PQ:Q∈RH。。} (2①
Pを与えられたプラントの伝達行列とし,(N。,
D。),(Dp,ハL)をそれぞれPの任意の右既約分解と左既 となり,いずれも同じclassである。すなわち,安定な 約分解とする。X, Y∈RH。。はXIV。+YI)。=∫を満足す プラントの場合,従来の1自由度補償器と本報告の2自
る行列とする。このとき,図3の制御系を安定化する補 由度補償器で実現できる目標入力からプラントの出力の 償器は までの伝達行列のclassは同じである。
〜 〜 プラントが不安定とする。このとき,lDρ1≠0だから
(Y−RNρ)−1[Q X+RDρ] (14)
DρA=D。BとA=Bは同値であることを用いて,1自 で与えられる。ただし,Q, Rはly−R元1キ0である 由度補償器の場合プラントが安定なときと同じclassが
RH..の任意の要素である。 実現できるための条件
(斌の錠傾償器を(〃・・μ・・μ・)から(口・)までの {D。(X+R万。)・R∈肌HD。Q・Q∈肌}¢1)
伝達行列」V。D−11V、に代入すると(μ1,μ2,μ3)から(y1,
y、)までの伝達行列は を考える。⑳式は
D。Nc1 D。D。−1−D。N。、 {X+RD・:R∈RH・・}−RH・・ ⑳
(15)
凡N・・ 1V・D・ −1WV・・ と同値で,さらに⑳式は
で与えられる。この定理の結果は次のようになっている。 〜禰の(賦は釦、無関係なので厄1にあたる部分は {RD・:R∈Rぬ=R仏 ㈱
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と同値である。⑳式が成り立つための必要十分条件は を満足する。(2,2)blockの関係より⑳式は δ万1∈RH。。である。したがって,従来の1自由度補償器 〜
ll泥(y−AらR)ll..<ε、 ⑳
では,Pが安定な場合と同じclassが実現できない。こ
れに対して,2自由度補償器では(18式よりプラントの安 となる。ここで,追従問題では,
定不安定にかかわらず実現できるclassは変わらない。
Tl=陥, T,=酩∧ら, T、=∫ ⑳
すなわち,2自由度補償器ρ場合目標入力からプラント
の出力までの伝達行列はプラントの極の制限を受けない。 とし,外乱抑制問題は
5.最適化について Tl=鵬y,τ・=鵬凡, T・=1). ⑪
G1:目標入力から出力までの伝達関数 とおくと, T1, T、, T,∈RH.。でG、:外乱から出力までの伝達関数 ⑳式,(29式はそれぞれ このとき,追従問題と外乱抑制問題はあらかじめ与え
られた1より小さい正の定数ε1,ε,に対して ll T一丁2QT ll°°<ε 聞 (り 追従問題 ll TrT、RT,ll。。<ε、 ㈱
ll叱(∫−Gl)ll。。<ε、 ⑭
となる。すなわち,安定化補償器のパラメータQ,Rに (11)外乱抑制問題 ついてaffineな関係になっている。ただしQ, R∈R仏
ll脇1L<、, ㈱である・これは・従来の仏髄制御の髄化のアルゴ
リズムが利用できることを示している。
となる補償器を求めるという問題になる。ただし,隅,
6.数値例 既は重み行列を表し,隅,泥∈RH..でOuter行列と
する。慨,隅は考慮する周波数帯によって選ばれる。 前章まででこの論文で考察する問題は,あらかじめ与 従来の1自由度補償器では,安定化補償器のパラメー えられた1より小さい正の定数εに対して
タが1つしかないので追従問題と外乱抑制問題を同時に
解くことができない.これに対して,本報告で考察して llZ−T・QT・ll・・〈・ β4
いる図3の2自由度補償器を用いた制御系において, を満足するQ∈RH。。を求めることに帰着された。本章
μ1を目標入力,μ,をプラントの出力に対する外乱と考 では,具体的なプラントの伝達行列に対して前章までの えると,⑭式,㈲式はそれぞれ次のようになる 論議を適用した例を示す。与えるプラントは簡単のため スカラーとした。したがって,⑭式において1臨(∫一∧1ρQ)ll・・<ε1 ¢θZ, T、, T、∈肌はスカラーだから
〜 T2QT3=T、T3Qとなり, T,T3を改めてT2と考えると ll酬∫一凡(x+RD川..<・, ⑳
⑭式は
¢賦・蹴を見ると・安定化補償器のノぐラメータQ・ II T1−T,Qlr..<, 岡
R∈RH。。がそれぞれの問題に独立に入っている。した
がって,⑳式,⑳式を別々に考えることで,追従問題と となる。そこで 外乱抑制問題を同時に解くことができる。
一一 φ(ε)一ゆ:φ=T1−T、Q, Q∈朋.。, llφll..<1} ⑯
また,(1Vρ、 Dρ),(D。,凡)の既約性から
としたとき,本論文で考察する問題は以下に帰着される。
ρ。−x Y x (・)φ(ε)が空集合でないεの範囲を求めよ。
凡f+D。=∫ ⑳ (、)φ(。)が空集合でないと細式を満足する
Q∈RH..を求めよ。
この問題は,木村らによってConjugatlonという概念を
用いて考察された。したがって,アルゴリズムは木村ら とする。また,T1, T2は によって提案されたものを用いる。
躰的なプラントの伝達関数Pは 兄一、∫寺ii。 ⑰
P(・)−i:≡}1当 ⑬カ
ち一((8十100)(8−1)(8十2)108十100)(8十1)(8十3) ㈲
で不安定な零点を1つ持つ。Pは安定なので,左右の既
約分解は次のようにできる。 となる(1)同様のアルゴリズムを用いて⑬式を満足する
〜 R∈RH..が存在するε、の範囲を求めるとDρ=Dρ=1 (38
0<ε2<0.818 (49)
炉元一P−6〒}1㌶} G旬である^81としたときのR∈R脳
また,㈱式を満足するx・y品?∈R仏は R一欝藷講 6・
X=X=O Y=y=1 (4◎
である。
とする。 (1)(皿)より(14式の2自由度補償器は
(1)追従問題
重み関酬は 厄F諸鵠 6D
隅一1語、 ㈹
鵡一一1』書瑞ξ皇2) 圃
とする。また,T1, T2は肌一、∫詳、 ⑫ R一芸剖;1) ⑬
となり,制御系は図4のようになる。
㍗一 i(8−1)(8+2)
P08+1)(8+3) ⑬
となる。木村らのアルゴリズムを用いて働式を満足する Q∈RH。。が存在するε1の範囲を求めると
0<ε1<0.818 (44
である。ε1=0.81としたときのQ∈RH..は
Q−一苔鵠) ㈲ 妬
図4 設計例
である。
(n)外乱抑制問題
重み関数鵬は
鵬一1ぎ縄io ㈲
μ1 十21 〜Dご1 ω Z2 y2
厄,
一
D万1 1Vρ
十 厄、
十 μ3
34 小林敏弘・宮浦すが・下本陽一
7.おわりに よいアルゴリズムになっている・そのようなアルゴリズ
ムを利用して,実際の設計仕様なども考慮にいれた制御 本報告では,2自由度補償器での感度問題を考察し以 系の設計などH。。最適制御の応用面についても考えたい。
下の結論を得た。 参 考 文 献
(1)G.Zames Feedback and Optimal Sensitivity:Model Re−
1 プロパーなプラントの伝達行列P(s)が与えられ fe「ence T「ansf・mati叫Muliplicative Semin・・ms and
. . Approximate Inverse , IEEE Trans. Automat. Contr.,
たとき,Pを安定化する2自由度補償器は AC.2g.g,788/793(1g81)
〜 〜 (2)B.A. Francis and G Zames On Optimal Sensitivity (y−R∧ら)−1[Q X十R1)ρ] 54) Theory for SISO Feedback Systems , IEEE Trans. AC−
29−19/16(1984)
で与えられる。ただし,(1Vρ, D。),(Dρ,1協)はPの (3)J・C・D・yle Synthesi・・f R・bust C・ntr・ller and Filters ,
任意のそれぞれ右概約分解と左概約分解鷲(、)芸2=㌶1㌫A輌.㎞,_,_
y∈RH。., X凡+yD。=∫を満足する。またQ, R D・main:An H.、 Appr・ach t… nt・・1 , IEEE Trans. AC−
∈R仇は1γrR瓦1≠0を満たす任意の行列であ 30−14 1154/1170(1985)
(5)H・Kimura Directional Interpolation in the State Space , る。 Systems&letters Vol.10317/324(1988)
2 目標入力からプラントの出力までの伝達関数につ (6)B F「ands A C°u「se in H』C°nt「°l The°「y SP「inge「一
いて・従来の・自由麟償器を用いた場合Pが不安(,)㍑;182醐下本陽二.2自由度補償器での感
定ならば実現出来ないclassが存在するが,64式の 度問題タ,第7回計測自動制御学会九州支部学術講演会予2自由度補償器を用いた場合はPの舵不安定に(、)鷲、d−⌒肌K、_噺岨。。n _Uト
かかわらず実現できるclassは変わらない。 certain Liner Multiva・iable Systems , Aut・matica V・1.22
3 54式の2自由度補償器を用いた場合,パラメータ N° 185/94(1984)Q,R∈RH..を追従問題と外乱抑制問題にそれぞ れ独立に利用でき,2つの問題を同時に解くことが できる。
4 木村が提案したconjugationをもとにしたH..最 適化のアルゴリズムを利用し,1〜3の結論を具体
的なプラントで確かめた。つぎに,この論文に関してこれからの課題を簡単にま
とめる。
本報告では,プラントのパラメータの変化などに対す るロバスト性は全く考慮されていない。一般にH..最適 制御はロバスト安定化問題と密接に関係していて,ロバ スト安定化問題も本報告と同様の問題に帰着されること が分かっている(8)。そこで,プラントの伝達行列が与 えられたとき,ロバスト性を補償しながら感度を最適化 する問題も提案されている。そのような問題に対して2 自由度補償器を用いた場合どのようになるかなどロバス
ト性と関連させた問題を考えたい。
次に,H..最適制御は,アルゴリズムの複雑さのため に実際の制御系に応用された例は極めて少ない。本報告