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Academic year: 2021

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生命保険の比較購買の推進について

亀 甲 美智博

■アブストラクト

不動産の次に高い買物といわれている生命保険の比較購買はほとんど行わ れていない。保険自由化以降,保険商品の種類と情報量は増えており,消費 者が自己責任で生命保険商品選定をすることは現実的ではない。保険料,解 約返戻率などのデータベース化と条件検索による商品ランキングなどの情報 開示をするツールが必要である。とはいえ,単独の代理店が,数十もの保険 会社の保険料や解約返戻金の数値をデータベース化するのは,技術面,費用 面の負担が大きい。このため,保険会社全体で保険料を情報開示する共通の プラットフォームの開設が求められる。保険業法の立法主旨は, 競争原理 の導入 と 情報開示 の実現であり,今後 保険料の比較 は大きな時代 の要請となろう。

■キーワード

生命保険の商品比較,データベース化,情報開示

1.はじめに

⑴ 我が国における保険募集規制の始まり

現在,生命保険の募集時に,様々な規制があるのは周知の通りである。し かしながら,そもそもなぜそのような規制がかけられるようになったか,起 源を知る人は少ない。

*平成22年10月23日の日本保険学会大会(早稲田大学)報告による。

/平成22年11月26日原稿受領。

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昭和4年の大恐慌を端緒にした昭和恐慌および金輸出解禁で,多くの銀行 が合併・破綻などを経て5大銀行(三井,三菱,住友,安田,第一)に集約 された。同じく生命保険業界においても,同様の事態となり,5大保険会社

(日本・帝国・明治・千代田・第一)へ契約が集中するようになったのであ る。その過程の中で,各社の募集競争は激化していった。その結果,他社の 誹謗中傷・虚偽の文書の使用などの不正募集が横行することになった。業界 の信用を著しく害するような事態も生じたため,昭和4年7月に商工省(当 時の監督官庁)は生命保険協会に対し,これらの問題についての諮問を行っ たが,自主規制だけでは不正募集の防止は不可能との結論を下し,昭和6年 保険募集取締規制 を制定すると共に,外務員の登録制を実施したもので ある。

⑵ 今日の募集規制の論拠

昭和初期に発生した過度の募集競争に対する規制と,今日あるべき規制の 姿は,時代背景並びに社会構造が異なるため,当然ながら同一である必要は ない。にもかかわらず, 比較募集をしてはいけない との認識が一般的に なっているのは,旧保険業法改正前の 保険募集の取締に関する法律 によ り,保険会社が消費者に対して 契約条項の一部を比較した事項 を告げる ことを禁じていたことによる。そもそも保険会社間でも,他社との比較を極 端に自粛している傾向にあり,保険業法300条で 同一の保険契約の契約内 容につき他の保険契約の契約内容と比較した事項であって誤解させるおそれ のあるものを告げ,又は表示する行為 を禁じていることを法的根拠とみな し,保険料の比較はしてはいけないとの,誤った認識が広まったものと推測 される。

⑶ 保険料比較の意義

消費者が保険を購入する際に重要視しているものは,まずは加入目的に合 っているか否かであるが,当然掛金が安いかどうかも大切な要素である。同

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じ内容の保険であれば,少しでも安い保険を消費者が選択するのは当り前で ある。その意味でも保険料の比較をすることは,今後ますます消費者利益を 守る意味でも重要であり,保険業法の立法の精神とも合致する。保険料を比 較することを法律違反として排斥することは,この意味からも全く当を得て いないばかりでなく,消費の大原則である 比較購買 をも否定する間違っ た行為である。

以下,この点につき,論じてみたい。

2. 保険料比較 の有用性

⑴ 比較して物を買うということ

買い物をするときに,メーカー名や値段をさほど気にしないのは,いわゆ る日用品の類である。スーパーやコンビニで物も買うときには,まずは商品 のもつ特性や機能が優先されるのであって,購入時に他店の同一商品の価格 を比べてからという行動には繫がりにくい。例えばボールペン1本買うのに,

他のスーパーを巡って値段を比較するという消費行動を通常はしない。無論 1円でも安いものを求める消費者も中にはあるに違いないが,数百円やそこ らの商品に時間と労力を費やすのは,かえって損だと思うのが普通だ。

しかしながら,これが数十万円,数百万円もして,そう頻繁に買い換える ものでもない耐久消費財または高額商品といわれるものについてはどうか。

もし家電製品であれば,大型家電専門店で多くの競合品から,自分のニーズ に叶い,かつ性能対価格バランスで最もコストパフォーマンスのよいものを 選ぶ。ましてや,自動車のようなものになると,スペックや値段の比較に留 まらず,実際の乗り心地や走行性能といった面についても,実際に試乗まで して購買を決意するのではなかろうか。家電製品の値段はせいぜい数十万円,

自動車といえども数百万円である。

しかるに,不動産の次に高い買い物といわれている生命保険の場合,いか なる消費行動をとっているのだろうか。家電製品や自動車の場合と同じよう に,いろいろな生命保険会社の保険商品の比較購買をしているのだろうか。

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答えは,否である。

⑵ 保険はなぜ比較して契約しないのか

言わずもがなだが,消費における大原則は 比較購買 である。ところが,

生命保険という商品の購入時にはほとんどの契約者が,そのような消費行動 を取らない。というより,正確に言えば,比較したくてもできない環境下に ある。生命保険という商品のもつ特性,①目に見えない(直感的に分かりに くい) ②保険という仕組みの難解さ ③適正な保障額の論拠があいまい

④契約形態で税制が変わる ⑤死亡時対応といったネガティブなイメージ 等々があって,消費者が保険購買に対し,いささか腰が引けているというか,

消極的である。片や,積極的に比較をしつつ,最適でかつ最も効果の高い商 品を選定したくても,自ら保険商品に関する情報を入手するチャネルが整備 されていないうえに,自ら保険会社にダイレクトに資料請求しても,各社の 情報を整理分類してランキング付けするといった専門知識を持ち合わせてい る方はほとんどいない。要は,身近に保険の比較をしてくれる販売チャネル でもない限り,自分で比較するには物理的なハードルが高いという状況なの である。

⑶ 情報開示の必要性

金融における大原則の一つ オウンリスク=自己責任 を実現するに当り,

同様に語られるべきものが ディスクロージャー=情報開示 である。保険 商品に関しても,消費者は商品購入時に保険内容,保険料,解約返戻金など に関し,十分な情報を与えられるべきであり,その情報によって,他の商品 との相違点が明確に認識される必要がある。即ち,各保険会社の募集時に使 用される設計書,提案書だけではなく,それらをデータベース化し,瞬時に 横断的に条件検索できる技術的な販売手法が要求されるのである。保険商品 の選択肢が多くなるほどに情報量も増えており,それを消費者に自己責任で 商品選定をさせるには無理があるし現実的ではない。そこで必要になるのが,

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保険情報(保険料,解約返戻率など)のデータベース化と条件検索による商 品ランキングなどの,情報開示をするツールではないかと思う。

3.保険料比較の実態

⑴ 乗合代理店チャネル

保険料を比較しつつ保険販売をするビジネスモデルは,名目上,複数の保 険会社の保険販売をする乗合代理店チャネルということになる。(保険会社 直属の営業職は,比較したくても比較のしようがない)。20社あまりの保険 会社から,お客様の要望にそって最適な保険を選択できるということを看板 に掲げている来店型保険ショップもかなり多く出店しつつあるが,実際に,

20社数十パターンの商品を瞬時に比較する体制が整っているのであろうか。

もし顧客のリクエストに対し,瞬時に保険料や解約返戻率のランキングが出 せるようであれば,それに基づいて顧客は自分でどの保険会社の商品にする かを判断できることになる。しかし現実には,そのような仕組みを作り上げ ている代理店はレアケースである。むしろ売りたい商品を予めラインアップ しておいて,あたかも20社から厳選したかのようなイメージで販売している 代理店が一般的ではないか,と思われる。

中には,手数料を優先しつつ,販売している代理店もあるようだ。その理 由としては,乗合代理店と保険会社間の代理店委託契約上の様々な締付けが あるからだと思われる。乗合代理店は, 販売のノルマ=資格維持基準

代理店コミッションランクの査定 ボーナスの査定 などの保険会社の要 求にさらされ,本来あるべき 顧客の代理店 から 保険会社の代理店 と して営業せざるを得ない面があるのである。このような制度も改善されなけ れば,保険比較を実践する真の乗合代理店自体が減少せざるを得ないと考え られる。

⑵ 保険料比較の難しさ

そもそも保険料を比較するということ自体が,極めて難易度の高い作業で

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ある。そのため,各社の保険料を瞬時に比較検索できるようなシステムの開 発が不可欠である。いわゆる,保険料のデータベースを構築せざるを得ない のだが,数十の保険会社の保険料や解約返戻金の数値をどうやってデータベ ース化するかという大きな難題が生じるのである。単独の代理店1社で,こ の問題に立ち向かおうとすると,①システム開発 ②保険会社・保険商品情 報の出力 ③同情報のシステムへの入力 ④保険料率変更時のメンテナンス といった技術面,費用面の負担がかなりのものになる。

これらの難題を業界全体で解決するには,保険会社全体で保険料を情報開 示する共通のプラットフォームの開設が求められる。しかしながら現状では,

そのような動きは難しいようだ。保険業界全体で今後の消費者への情報開示 に関する共通理解を築く必要があるが,各社の保険料の優劣を開示すること への抵抗も想定され,そう簡単に業界コンセンサスが得られるとは思えない。

⑶ インターネットの保険料比較検索

一般の消費者が自ら保険料の比較を行う場合,インターネットを利用した 比較サイトに情報を求めるケースがままある。実際,多くの保険代理店や FP紹介業者がそのようなサイトを開設している。保険料の比較と謳っては いても,そのほとんどは募集文書の登録不要な通販の認可をとった商品のみ であったり,仮に募集文書の認可を取っていても,条件の異なるものを同列 に扱っていて,消費者に誤解を与えかねかったりするものも数多い。ひとこ とで言えば, 商品の比較ではなく,商品を陳列している という状況であ る。

比較するというのは,保険金額,保険期間,保険料の払い方,等々の条件 をそろえて初めてランキングできるのであって,異なる性質のものを並べて,

保険料の高い安いを論じても,全く意味のないことである。保障の内容や条 件が異なる商品も多く,その場合は内容を同一にするために,特約をはずし たり付加したりという操作が必要になる。保険会社によってはそれらパーツ の脱着が不可能なものもあり,条件をそろえるといったことすら,実際は容

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易ではない。

ということで,現在のインターネット上の保険料比較は,ほとんど消費者 の役には立っていないし,むしろ誤解したり,ミスリードされたりするケー スも多いと考えられる。

⑷ 保険比較販売へのひとつの取組み⎜⎜当社の場合⎜⎜

このような状況なので,顧客自らが各社の保険料を比較して保険選択をす るには,できるだけ多くの保険会社の保険料率等の情報を,代理店サイドで データベース化するしか方法はないと考えられる。そこで,当社では5年以 上前から,乗り合っている25社の生命保険会社各社の設計システムに基づき,

保険商品を一旦設計書として印刷し,その打出された数値を,一つずつ手作 業にて自社のコンピュータにデータ入力した。その結果,約200万件の保険 料(保険種類も主要なものはほとんどカバーした)について,インターネッ ト上での条件検索が可能になった次第である。

その結果,全国どこにいてもいつ何時でも,当社のサーバーにアクセスす ることで,保険料の一括検索が可能となったのである。このようなシステム を構築することなしに,保険料を比較するということは容易ではない。デー タベースがない代理店では,その都度,各社の保険料設計システムを利用し て,それぞれの保険料や解約返戻金を調べるという作業を余儀なくされる。

顧客から保険料の試算を依頼されてから,このような手法で保険料比較を行 なっていては,到底実用に耐えられるものではない。予め,各社の数値をデ ータベース化して初めて,保険料の即時比較といったことが可能になる。

4.おわりに

⎜⎜金融ビッグバンの基本構想 情報開示 の実現のために⎜⎜

生命保険は目に見えないものだけに,消費者が手にとってその商品の価値 を見定めることができない。更に専門用語が多く,ふだん保険について学ぶ 機会のない素人には極めて分かりにくい上に,税制や国の福祉制度なども絡

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んできて,どの選択肢が最適かなどということは,よほどの金融リテラシー がないと,理解ができない。

そのような中,同一条件下で保険料のランキング情報を知ることは,少な くても機会損失を防止することに繫がるのではないだろうか。40歳男性の事 例で,1億円の定期保険に加入するケースで比較してみると,最も安い保険 料(非喫煙優良体)だと年間の保険料が19万円で済むのに対し,最も高い保 険会社では倍の40万円を超えるのである。なぜそのような差が生じるかとい えば,リスク細分料率を適用する保険会社とそうでない保険会社があるため である。年間の保険料で20万円の差が生じると,10年間では200万円の差に なり,契約者にとって保険料を比較して保険加入をする意義は極めて大きい。

金融ビッグバンでは, 自由 公正 国際的 マーケットの確立が基本 的な原則として掲げられた。と同時に消費者には 自己責任 ,金融業者に は ディスクロージャー=情報開示 を要求するものであった。保険契約者 に自己責任を要求するのであれば,当然保険会社は保険料の比較について,

より情報開示の方向に進むべきだし,代理店もより積極的に保険料の比較を すべきである。保険販売チャネルである乗合代理店が, 保険会社の代理店 から お客様の代理店 になれるチャンスでもあると思う。保険業法の立法 の主旨は,まさに 競争原理の導入 と 情報開示 が同時になされること であり,それに沿った 保険料の比較 は避けては通れぬ時代の要請であろ う。

(筆者は株式会社トータス・ウィンズ代表取締役)

参照

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