ZnO針状結晶破断面のイオン衝撃痕
久保為久麿・戸北凱惟
(昭和42年12月1日受理)
Ion Damage on Pairs of Opposite ZnO Crystal
Surfaces Separated Ikumaro KUBO and Yoshinobu TOKITA
Abstract
The polarity of the ZnO crystal is studied by means of ion bombardment.
The difference between the traces of ion damage on pairs of opposite crystal surfaces separated is observed both optical and electron microscopically.
The experimental result confirms the dangling bond theory on Ⅱ‑Ⅵ compounds, 1) and has the deep relation with the problem of the growth process of ZnO crystals. 2)
緒言
ZnO結晶はwurzeit型の六万格子を呈し0原子の並んだ面とZn原子の並んだ面とがC 軸に垂直に交互に積み重なりuc‑1.96A,相隣るZnO分子の間隔は3.21AであるZnO単 結晶の結晶学的偏極に関するdanglingbondの理論t)によれば,結晶表面(0001)上にある 0原子には二個のdanglingelectronが付随する0‑万結晶表面(0001)上にあるZn原子 にはこのようなelectronはなくて,Zn原子のbondのtetrahedralsp3対称からの歪みは o原子のそれよりも遥かに大である。従ってZnO単結晶は偏極してZn
(O)原子面が結晶表面
になれば,その表面は(晋)に帯電する。
MarainoetalはZnO単結晶のbasal面(0001),(0001)とC軸を対称軸とする錐面
ならびにプリズム面(10すo)を表面腐触の方法により調べて,basal面(0001)はより表面エ ネルギーの小さい0原子面よりなり,成長速度の大きいときにできる錐面は表面エネルギーの
†応用物理学関係共催講演会で昭和42年4月5日講演
*長崎大学教育学部
* *広島大学大学院教育学研究科
より大きいZn原子が表面を小さくしようとすることによってできると説明した3)。岩永ら は同じく,c軸方向によく発達したZnO針状結晶の破断面の対を表面腐触の方法で調べて,
成長端が平坦である場合も,錐面である場合も成長方向と同じ向きの破断面は常にZn原子 面で,それに対する破断面は常にO原子面よりなることを報告した4)。
本論文では岩永らと同じく久保の方法5)で作製しだZnO針状結晶を用いて,イオン衝撃の ZnO針状結晶の破断面の対に与える衝撃痕を光学顕微鏡的ならびに電子顕微鏡的に調べたこ
とについて述べる。即ち成長端が尖っている場合は成長方向と同じ向きの破断面はZn原子面 であるが,たとえ成長端が平坦であっても成長方向と同じ向きの破断面はZn原子面とは限ら ず,O原子面の場合もあることおよび結晶成長の際ZnとOはZn−0またはO−Znの積み 重ねを反復して発達することがあることを述べる。
試 料
久保の方法によって作製したZnO針状結晶(0.1×0.1×20バ)を手で破断する。結晶の 成長端と同じ向きの破断面およびこれの対向面をそれぞれAおよびBとする。(第1表Re−
ference参照) 第1図に示す写真は破断面の対にみられる模様である。多数の試料について 観察した結果をまとめてみると,殆んどのものは第1図に属し,中央部に数条の波紋がみられ
る。又破断の源は六角形の一頂点であり,波紋の起伏の著るしい領域,その波紋が結晶のプリ ズム面の縁と交わる位置,それらと破断の源との関係位置は共通している。また第5図(a)
に属するものは第1図に属するものよりも起伏が少く,破断時の条件によっては,このように かなり平坦な破断面が得られる。試料の破断の際の轡曲によって,破断の源にあたる対向面に 最大の張力が生じ,それに対する六角形の縁に最大の圧力が生ずることが破断面の写真からわ かる。破断面の各部分の方位決定は行われなかった。又破断面は結晶のc軸に垂直な一つの平 面ではなくてwavyである。
実験装置および実験要領
イオン衝撃装置の概略を第2図に示す。整流回路には二本の1B5GT管を使用する。放電 管の寸法は内径1.5伽,長さ20粥である。またA1製の陽極は直径1.4碗の円板で,A1製の陰 極はピンセットになっており,試料の保持具を兼ねる。放電管内の真空度は10噛2〃2吻Egで,
ふんいきは空気である。また放電電圧(700〜1200V)はスラィダックで調節し,放電電流は 0.5〜4吻Aである。 試料を陰極で保持するとき一本の試料の一対の破断面A,Bが同時に同 じ条件でイオン衝撃されるようにする。イオン衝撃の開始直後は放電管内の放電状態の変化は かなり激しいが, 2〜3分間経過すると放電状態はかなり定常的となる。 印加電圧が700−
1000Vで衝撃時間が犯分のときA,B面の衝撃痕の程度に差があることが判定可能である。破 断面A,Bの模様のイオン衝撃前後の比較は光学顕微鏡で観察し更により詳細な観察を電子顕 微鏡で行った。破断面は一般に平坦でなくその面積も狭い(1×1観2)ので光学顕微鏡の焦 点調整および電子顕微鏡観察のためのレプリカの作製は困難を伴う。
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第2図 イオン衝撃装置
(a)整流回路 (b)放電管の陰極にセットされたZnO針状 結晶の破断面の対を陽極に向ける。
実 験 結 果
放電管の印加電圧が大に過ぎるとA,B面共に同程度の甚しいイオン衝撃痕を生じてその葦 を判定することが難しい。イオン衝撃による影響の有無が光学顕微鏡で観察して判定できる臨 界電圧の測定は未だ行なれていない。印加電圧が700〜1000Vの場合は, A,B面の傷痕の差 が判定でき,著るしい破断面の損傷痕はその面全体に亘っている。平坦な成長端面,成長端が 尖って錐面であるものおよび平坦なものの破断面A,Bのイオン衝撃前後における光学顕微鏡 観察の結果をまとめると次のようになる。
(1) 成長端が尖っている場合は供試数12本共Bの方がAよりも損傷が著るしい。
(皿) 成長端が平坦な場合は供試数7本のうちAがBより損傷が甚だしい場合が5本,また
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B yes A nol 努 %
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第 1表 その反対の場合が4本である。
(題) 平坦な成長端そのものについては供試数15本のうち,損傷を受けたと認められるもの が5本,損傷を受けなかったと認められるものが10本ある。
以上の結果をまとめたものが第1表である。この表の中で分母は供試数,yesとあるのは損 傷がより著るしいもので,その数が分子に示してある。noは反対にそれ程損傷が著るしくな
いか,殆んど認められないもので,矢張り分子にその数が示してある。
そのほか成長端が尖っている結晶を三本に破断してできた二組の対A,B面についてのイオ ン衝撃痕も調べた。その結果は何れもB面の損傷痕がA面のそれよりも著るしい。
イオン衝撃前後の破断面A,Bの光学顕微鏡写真の一例を第2図に示す。損傷を受けた面の 電子顕微鏡写真の例を第5図に示す。数条の略々同心円的な弧の一部が写真に現われている。
また,損傷痕の形状はまちまちであることがわかる。更に倍率を大きくした電子顕微鏡写真を 第4図に示す。これらの写真は上述のまちまちな形状をもつ損傷痕に対応するものである。
考 察
試料の破断面は起伏し,且つc軸に垂直ではないが,basa1面が少しづつずれて断面A,B に顔を出していると判定する根拠は次の通りである。
(1)破断面はどの試料につ酔ても殆んど共通的な外貌を持つ。 (第1図)
(2)破断面の対A,Bがイオン衝撃によってyesかnoの正反対の影響を受け,しかも損 傷痕は面全体に一様に分布しており,noの面は全体的に殆んど損傷を受けていない。(第5
図)
(3)破断面上にステップ状の数条のほぼ同心円的な曲線がほぼ等間隔に現れている。 (破断 の機構の考察はr別の場所」で述べる。) (第4図)
放電管の印加電圧が大に過ぎるてイオンの運動エネルギーが大に過ぎる)ときはA,B面と もに同じような損傷痕を生じ, その印加電圧が小さい時にはA,B面の損傷の程度に差を生 ずるのは,前者ではイオンの機械的なエネルギーが,また後者では,クーロンエネルギーが大 きな役割を演ずることを示す。後者の場合のイオン衝撃痕のより著るしい面は負に帯電してお
り,その面の対向破断面は正に帯電していることになる。
(i) 成長端が尖っている結晶
破断面Bは悉くAよりも著るしい損傷を受けている。また結晶を三部分に破断して,できた 二組の破断面の対についての実験結果によれば,成長端と同じ向きの破断面の衝撃痕は,成長 端と反対側の破断面の損傷痕ほど著しくない。このことは成長方向と同じ向きの破断面が正に 帯電していること即ちZn原子面であり,従ってその成長端はZn原子がその表面エネルギー を小さくしようとする傾向をもつためにsharpになったことを示す。この実験結果の解釈は Mariano et a1の結論および岩永らの実験結果の一部と一致する。
(ii) 成長端が平坦な結晶
破断面BはAよりも著るしい損傷痕を受けることもあり,その反対の場合もある。成長端面 自身も損傷を受けることもあるし1受けないこともある。従ってこの実験結果からだけでは直 ちに破断面の対A,Bについても,成長端面についても一義的な極性が対応づけられないよう にみえる。然し乍ら,我々の実験に用いたZnO針状結晶は久保の方法によって得られたもの であってその作製方法の特長からみて次のことが考えられる。即ち結晶の成長途上にるつぼ内 の状態が局所的にか全体的にか乱される可能性がないとは云えない。このような突発的な成長 条件の変化によって,局所的にか全体的にか結晶の成長端の前進速度が鈍化するか,または中 止する。従って本来ならば尖った成長端をもつように成長すべき結晶であっても,実際に得ら れる成長結晶の成長端は平坦になることもあり得る。事実成長端が錐台を呈する針状結晶もで きる。このような謂わば不具の結晶の破断面Bは当然0原子面となって著るしいイオン衝撃痕
を生ずることになる。当然このBの対面AはZn原子面となり,成長端面もZn面としての振 舞をする。 またZnO結晶核が生成される時の初期条件によっては,ZnO分子の積み重ねは O一一一Zn++一〇一一Zn++……の順ばかりでなくZn++一〇}一Zn++一〇}…・一の順に 繰返しを行なって段々結晶が成長することが期待される。このような立場に立てば,(灘)は 成長端がゐ原子面となり,破断面Aもまた同じように溶)原子面となる。斯かる可能性の あることが実験結果第1表に示されている。
岩永らはZnO結晶破断面を化学的腐蝕法によって調べ,その平坦な成長端面がMariano et a1の結果と矛盾してZn原子として振舞うこと,どのような形状の成長端をもつ結晶であ ってもその破断面の極性は一義的であり,成長方向と同じ向きの破断面はZn原子面でその対 向破断面は0原子面であると指摘している。また結晶の最終的外貌としてZn原子面が現わる か,消えるかはその面の表面エネルギーと他の結晶学的な面のそれとの相対的な大きさに依 存すると述べている。岩永らが平坦な成長端がZn原子面としての振舞をしたのを認めたの は,久保の方法によって作製したZnO針状結晶を用いて実験をしたことによるものと思われ
る。
本稿を草するにあたり,助言を賜わった広島大学教授吉田鏑博士ならびに長崎大学教授倉 石典博士に感謝の意を表します。又久保研究室出身の山中利子嬢,木寺治男君,土屋力君の助 力によることが多かったことを強調したい。本研究に使用した電子顕微鏡は久保の参加した昭 和40年,41年度の文部省科学研究,機関研究費によって長崎大学水産学部に設置されたもので
ある。
参 考 文 献
1)H.C.Gatos and M,C。Lavine:」。Electrochem,Soc,107(1960)427.
2)1.Kubo=JapanJ。apPL Phys。4(1965)225−226.
5)A.N。Mariano and R.E.Hameman:」.apPL Phys.34(1965)584.
4)H.Iwanaga and N。Shibata :Iapan。J。apPL Phys。6(1967)415.
5)1.Kubo:J.Phys。SocJapan。16(1961)2558。
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第 5 図
ZnO針状単結晶の破断面の対のイオン衝撃による影響
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(a)
イオン衝撃前の破断面の対 第1図の破断面に比べて起伏がすく
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(b)
イオン衝撃後の破断面の対
断面上に一様に班点を生じている方(左 方)が,より甚しい衝撃痕の面である。
1観
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