2 次元テクスチャ解析を用いた路面摩擦に影響を及ぼす因子に関する研究
Factors Affecting to Skid Resistance of Pavement Surfaces using Two-Dimensional Texture Analysis
土木工学専攻 36 号 本木 新 Arata MOTOKI
1. はじめに
道路や滑走路の摩擦性能は,その上を走行する車両,航空 機の安全性にとって重要な役割を果たす.近年欧米では,す べり摩擦力と密接な関係性を持つといわれているテクスチャを 路面管理に用いており,世界各国において様々な装置や方法 が開発されている.テクスチャをすべり摩擦の測定とあわせて 利用することで路面管理をより効率かつ効果的に行うことがで きるのは明らかである.テクスチャは路面プロファイルの波長に よって〜50µm のマイクロテクスチャ,500µm〜50µm のマクロテ クスチャに分類される.
一般に,乾燥あるいは氷結路面のすべり抵抗は車両の速度 によって変化しないが,湿潤路面におけるすべり摩擦は速度 が速くなるにつれて低下する速度依存性をもっている.速度依 存性は路面形状と接地するタイヤの性質に関係していることが 知られている湿潤路面に速度依存性があるのはタイヤと路面 間に水が介在することで影響を及ぼすからであるが,すべり摩 擦には路面プロファイル以外の要因も関係するため,タイヤと 路面の接地状態がどの様に関連しているかは未だ解明されて いない.また,速度依存性に関して,近年 PIARC(国際摩擦機 構)によって行われている国際摩擦指標(IFI)によると,路面の 各速度におけるすべり摩擦の予測式では 20km/hの摩擦係数 から導きだされる推定式を用いたものが最も高い相関を示して いると考えられている.
そこで,本研究では路面のマイクロテクスチャに注目し,2 次 元プロファイルで抽出したテクスチャを用いて数値解析を行う ことで,タイヤと路面の接地状態を考慮した研究を行い,路面 のテクスチャがすべり摩擦へ及ぼす影響を解明することを目的 とする.
2. 研究方法
路面テクスチャとすべり摩擦の関係性を検討するために,ス ペクトル解析による周波数分析によって関係性の検討を行った また,領域ヒストグラムを数値化した 2 次元パラメータによって テクスチャの検討を行うとともに,得られたパラメータを基に,
IFI 算出のための指数を算出し,各速度におけるすべり摩擦の 推定式を導いた.
2.1 2D-FFT
路面プロファイルを周波数成分に変換することで,路面形状 特性についての検証をおこなった.
2.2 2 次元パラメータ
2 次元テクスチャに対して確率統計的見地から特徴記述と識 別を行い,表面テクスチャの鉛直方向に関する評価をすること で,パラメータの信頼性を検討した.
2.3 IFI
2 次元パラメータを用いて 図-1 に示す国際共同実験 の結果を元に決定されたゴ ールデン値(GS,GF60)の 推定値である速度ナンバ Sp と摩擦ナンバ F60 を算出 した.図における各算出式 を満たす係数a,b および A,
B を設定し比較検討を行った.
3. データ測定概要 3.1 使用供試体
寸法 30cm×30cm×5cm の密粒度,開粒度舗装のホイール トラッキング試験用供試体の配合や混合物を変化させ合計 20 種類を作成し,下記の各種の測定を行った.
3.3 テクスチャ測定
図-2 に示す仕様の非接触式変位レーザーを使用し,すべり 摩擦測定機軌跡上の 2 次元テクスチャを測定した.測定箇所 は図-3 で赤く示した 15240µm 四方の範囲で,供試体表面の DFT が測定する軌跡上に設定した.測定個数は各供試体ごと に 4 点ずつ測定を行った.
図-2 テクスチャ測定装置
基準距離 30mm 測定可能範囲 ±5mm
光スポット径 φ30µm 分解能 1µm データ測定数 256×256
図-1 PIARC モデル
3.4 すべり摩擦係数測定
DFT(回転式すべり抵抗測定器)を使用し,湿潤状態におい て,静止摩擦係数及び,動摩擦係数(10,20km/h)で各 3 回測 定した平均値を摩擦係数とした.
300mm
15240μm
300m m
138mm
15240μm
図-3 テクスチャ測定方法と DF テスター 4. 測定データ
4.1 供試体
本研究で使用したタイプの異なる供試体の外観の一例を図 -4 に示す.供試体①は密粒度,供試体②は開粒度である.
密粒度 開粒度
図-4 供試体表面写真 4.2 テクスチャ
図-4 の供試体①,②の 2 次元テクスチャ測定結果を図-5 に 示す.
密粒度 開粒度
図-5 テクスチャデータ 4.3 すべり摩擦係数
DF テスターによるすべり摩擦測定結果を図-6 に示す.
NO.1 NO.2 NO.3 NO.4 NO.5 NO.6 NO.7 NO.8 NO.9 NO.10 NO.11 NO.12 NO.13 NO.14 NO.15 NO.16 NO.17 NO.18 NO.19 NO.20
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
摩擦係数
供試体No.
静止 動摩擦係数10 動摩擦係数20
図-6 摩擦係数測定結果
5. テクスチャ解析 5.1 スペクトル解析
本研究では周波数解析による評価方法としてパワースペクト ル密度(PSD)を用いた.データを 2 次元で計測していることから,
二次元に拡張したものを使用する.これを 2 次元フーリエ変換 といい,次式で表される.
∫ ∫
∞∞
−
∞
∞
−
+
= f x y e
−dxdy v
u
F ( , ) ( , )
i2π
(ux uy)(1)
2 次元フーリエ変換の場合、1 次元フーリエ変換の場合に考 えた波f(t)のかわりに、2 次元平面上に存在する波を考え、その 場合の波の定義とは、濃淡の繰り返しを波ととらえる事である。
この濃淡の周期の逆数を空間周波数とする.
2 次元スペクトル解析方法を図-7 に示す.本研究ではスペク トル解析結果を定量的に扱うために,左図のようにθ方向の空 間周波数成分を抽出し,右図では空間周波数の r 成分を抽出 することで一定幅を積分したものを中心からの距離の関数とし て置換を行った.この抽出した成分をグラフ化し解析結果とし て評価した.
θ 方向の空間周波数成分 空間周波数rの成分
図-7 2D FFT の解析方法 5.2 解析結果
図-の供試体①,②の 2 次元スペクトル解析結果を図-8 に示 す.
1 10 100
1E-5 1E-4 1E-3 0.01 0.1
PSD(m2/c/m)
周波数(c/m) 密粒度
1 10 100
1E-5 1E-4 1E-3 0.01 0.1
PSD(m2/c/m)
周波数(c/m) 開粒度
密粒度 開粒度
図-8 スペクトル解析結果 5.3 評価方法
本研究では,スペクトル解析結果の各周波数成分での評価 方法として,図-9 に示すように解析結果を周波数 1〜10(c/m),
10〜100(c/m)の 2 つの区間に分解した.分割した類似曲線を
それぞれ s-1,s-2 とする.その後,各周波数帯ごとに累乗近似
を行い,その近似式の次数 b,近似式にその区間の代表値を 代入した値を係数 a とし,スペクトル解析結果の定量評価の一 手法として用いることにした.係数 a によって,その周波数区間 での PSD の平均的な量を表し,次数 b でその周波数区間での PSD曲線の形状を表す.この2定数を用いて各供試体テクスチ ャにおいてどの周波数帯のPSDが摩擦係数に影響するかを検 討した.
6. 2 次元パラメータ 6.1 パラメータ分析
測定したテクスチャの表面特性を検討する手段として,縦方 向の振幅パラメータを使用した.統計学での標準偏差である二 乗平均平方根偏差(Sq)は次式で定義される.
dxdy y x A A Z ( , )
Sq = 1 ∫∫ 2 (2)
高さ分布を示す指標として算術平均(Sa)を使用した.この値 は次式で表すことができ,簡易的に求めることができるため,
IFI を導く指標としても使用した.
∫
=
A
dxdy y x A Z ( , )
Sa 1 (3)
表面の接触変形問題などに対して接触が予想される表面高 さなどを推測する有効な情報として面領域の相対負荷曲線に 基づいて算出されるパラメータを使用した.パラメータ算出過 程を図-10 に示す.これは割線を負荷面積率 40%と設定し負荷 曲線を引いたものである.これにより DF テスターのゴム板と舗 装路面の接地圧と路面のすべり摩擦との関係性を検討するこ とができる.
図-10 負荷曲線と割線
図-10 によって引かれる負荷曲線と図の端部における交点に 基づいて各高さ成分のパラメータを下記のように定義した.各 パラメータと負荷曲線の関係は図-11 に示されるものである.
Sk:コア部のレベル差 Spk:突出山部高さ Svk:突出谷部高さ
Smr1:突出山部とコア部を分離する負荷面積率 Smr2:突出谷部とコア部を分離する負荷面積率
図-11 負荷曲線パラメータ
6.2 IFI
IFI への変換式に基づき,テクスチャの 2 次元パラメータから 得られるそれぞれの値を基に式(4)から速度ナンバ(Sp)を,式 (5)から摩擦ナンバ(F60)を得る各定数を決定した.
Sa b a p = − + ×
S (4)
) ( 60
60 A B DFT 20 Sa
F = + × (5) 上記で算出した Sp と算出したそれぞれの 2 次元パラメータ,
F60 と DF テスターから得られた動摩擦係数 DFT20 を測定速 度60km/h における値に変換したDFT60 20 との関係をそれぞれ 検討した.その結果,算術平均 Sa から算出した値間の相関係 数R 2 は高い値を示した.この 2 変数間の相関を示したものを図 -12 に示す.
R2 = 0.9649
0 100 200 300 400
0 1 2 3
Sp =-20.31+691.26×Sa
Sa(mm)
Sp
R2 = 0.9571
0.2 0.4 0.6
0.2 0.4 0.6
F60 =0.10+1.76×DFT60(Sa)
DFT60(Sa)
F60
図-12 パラメータ算出結果と IFI の関係
7. 結果と考察
7.1 テクスチャ解析結果
20 種類の供試体の 2 次元スペクトル解析結果全体に対する 累乗近似曲線から得られた係数 a,次数 b と測定速度 20km/h におけるすべり摩擦係数(DFT20)との関係を図-13 に示す.
1 10 100
1E-5 1E-4 1E-3 0.01
0.1 S-1 S-2
y=ax
bPS D(m
2/c/ m)
周波数(c/m)
図-9 スペクトル解析評価方法
R
2= 0.6465
0 1 2 3 4
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 すべり摩擦係数(20km/h)
スペクトル係数(a)
R
2= 0.0759
-2.6 -2.2 -1.8 -1.4 -1
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 すべり摩擦係数(20km/h)
スペクトル係数(b)
図 - 13 累積近似曲線とすべり摩擦の関係
スペクトル解析から得られる係数 a とすべり摩擦係数との関 係では相関係数R 2 の値は0.65と比較的高い値をとった.通常 高い PSD 値を示すプロファイルが高いすべり摩擦を示した.次 数 b とすべり摩擦の関係においては高い相関が得られなかっ た.これにより,2次元テクスチャによるプロファイル解析では周 波数解析結果の形状とすべり摩擦の関係は低くなると考えられ る.また,高い相関を得られた係数 a とすべり摩擦を s-1,s-2 それぞれの区間で比較した結果,s-2 における相関が高いと いう結果を示した.これにより,低速域(20km/h)におけるすべり 摩擦係数には 10〜100c/m の周波数,すなわち 0.01〜0.
1mm の波長が影響を及ぼしていると考えられる.
7.2 2 次元パラメータ解析結果 (1)算出結果
テクスチャから算出した標準偏差 Sq とすべり摩擦係数との相 関係数は 0.23 と低い値となった.この結果から鉛直方向のパ ラメータを用いてすべり摩擦を説明することは困難であると考 えられる.算術平均Sq については IFI を算出するための変数と して相関係数 0.86 という高い値を得られたことから IFI を導く ための変数として使用した.
負荷曲線パラメータにおいては負荷面積率を 40%に設定した 時に得られたコア部のレベル
差 Sk とすべり摩擦の相関は 図-14 に示すように最も高く相 関係数 0.72 となった.これに より路面とタイヤの接地面積 率が 40%の時のコア部のレベ ルの高さがすべり摩擦に最も 影響を及ぼすと考えられる.
(2) IFI
図-15 は算術平均 Sa を説明変数として,DF テスターの測定 速度 20km/h において計測されたすべり摩擦係数 DFT20 を用 いて 60km/h におけるすべり摩擦係数F60 の推定を行ったもの である.
NO. 1 NO. 2 NO. 3 NO. 4 NO. 5 NO. 6 NO. 7 NO. 8 NO. 9 NO .1 0 NO .1 1 NO .1 2 NO .1 3 NO .1 4 NO .1 5 NO .1 6 NO .1 7 NO .1 8 NO .1 9 NO .2 0
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
摩擦係数
供試体No.
F60
図 -15 2 次元パラメータによる F60 の推測値
本研究では 30cm四方の供試体を使用しているため,60km/h におけるすべり摩擦を計測することができなかったが,実道で 測定されたすべり摩擦と今回と同様にして 2 次元プロファイル データから推定した F60 を用いて検証した結果ほぼ同等の数 値が得られた.よってこの推定式は信頼性のあるものだと考え られる.
8. まとめ
本研究では,異なる骨材配合を基に作成したホイールトラッ キング供試体の路面プロファイルである 2 次元テクスチャを周 波数解析し,2次元パラメータを算出することで,路面形状がす べり摩擦に影響する因子について検討した.また算出された 値を用いて国際摩擦指数(IFI)の推定式を導き出した.これによ り,次のことが言える.
1. 周波数解析結果より,路面の波長のうち 0.01〜0.1mm の 成分を多く含む舗装が路面すべり摩擦が高くなる.
2. 面領域の相対負荷曲線によって導き出されるパラメータよ り,コア部のレベルの高さが 6000mm 以上であれば高いす べり抵抗性をもった舗装であると考えられる.
3. 今回導き出した定数 a,b 及び A,B と算術平均 Sa を変数と することで IFI を算出し,任意の速度におけるすべり摩擦を 推定することが可能となった.
【参考文献】
1) PIARC Final Report: International PIARC Experiment to Compare and Harmonize Texture and Skid resistance , PIARC Paris 1995
2) ASTM: Skid Resistance of Paved surfaces Using a Full Scale Tire,
Standard No . E274-97 , ASTM 1997
3) 中村佳大: 路面テクスチャとすべり摩擦間の関係性の検討 土木学会第 55 回年次学術講演会講演概要集, 第 V 部 , V-206
pp.412-413, 2000 年 9 月
R2 = 0.7167
5000 6000 7000 8000 9000
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
すべり摩擦係数(20km/m)
Sk(mm)