氏 名(本 籍 地)吉 田 健 司(千 葉 県) 学 位 記 お よ び 番 号 博 士(歯 学),甲 第334号 学 位 授 与 の 日 付 平 成27年3月10日
学 位 論 文 題 名
論 文 審 査 委 員
「 骨膜 下 浸 潤 麻 酔 の注 入圧 が 顎骨へ の局所麻 酔 浸潤 に与 え る影響」
(主査)高 田 訓 教授 (副査)米 原 典 史教授 山崎信也 教授 論 又 の 内 容 お よ び 審 査 の 妾 冒
【 研 究 目的 】 高 い浸 潤 麻 酔 効 果 を得 る た め に は, 顎 骨 内 の 局 所 麻 酔 濃 度 を 高 め る必 要 が あ る と され て い る 。 臨 床 で 行 わ れ て い る歯 科 口 腔 外 科 処 置 で は,骨 膜 を剥 離 し,生 理 食 塩 水 等 で 洗 浄 しな が ら 手 術 を 行 う。 そ の よ う な 手 術 で は,浸 潤 麻 酔 の 作 用 時 間 が 短 縮 す る と報 告 され て い る。 顎 骨 へ の 骨 膜 下 浸 潤 麻 酔 の注 入 圧 に 関 す る研 究 で は,注 入 圧 と痛 み に 関 す る研 究 は散 見 され て い る が,注 入 圧 と浸 潤 麻 酔 効 果 は 未 だ 明 らか で は ない 。
そ こ で,骨 膜 下 浸 潤 麻 酔 の 注 入 圧 が 局 所 麻 酔 薬 の 顎 骨 へ の 浸 潤 に どの よ う な影 響 を与 え る か 検 討
した。
【 研 究 方 法 】 日本 白 色 系 雄 性 兎144羽 を用 い た。
酸 素,5%セ ボ フル ラ ンで 全 身 麻 酔 導 入 後,気 管 切 開 を 行 い,そ の 後,酸 素,3%セ ボ フ ル ラ ンで 全 身 麻 酔 を維 持 し た。ま た,大 腿 動 脈 に カ ニ ュ レー シ ョ ン を行 い,動 脈 圧 を 記 録 した 。 右 側 下 顎 骨 の 臼 歯 部 歯 肉 頬 移 行 部 に 局 所 麻 酔 と して,8万 倍 希 釈 ア ドレ ナ リ ン添 加2%リ ドカ イ ン0.5mLを 注 入 圧 を測 定 しな が ら40秒 間 で注 入 した 。 そ の 後,一 定 時 間 経 過 後 に 顎 骨 を 摘 出 し,‑80℃ で 冷 凍 保 存 した 。 ま た,同 時 に採 血 も行 い,血 中 リ ドカ イ ン濃 度 を測 定 した 。 動 脈 圧 の デ ー タ か ら平 均 動 脈 圧 を 算 出 し,浸 潤 麻 酔 前,10秒 後,20秒 後 の 平 均 動 脈 圧 を測 定 し た。 顎 骨 内 リ ドカ イ ン濃 度 の測 定 は,高 速 液 体 ク ロ マ トグ ラ フ ィー(HPLC)を 用 い た。100±50mmHg,200±50mmHg,300
±50mmHg,400±50mmHgの4群 に つ い て,平 均 動 脈 圧,血 中 リ ドカ イ ン濃 度,顎 骨 内 リ ドカ イ
ン濃 度 につ い て 比 較 統 計 を行 っ た 。 統 計 処 理 は, Kruskal Wallis H‑testを 用 い,多 重 比 較 と し て Mann‑Whitney U‑test with Bonferroni correction を 行 っ た。 い ず れ も統 計 学 的 有 意 水 準 はP<0.05 と した 。
【 研 究 結 果 】 平 均 動 脈 圧 は,い ず れ の群 も有 意 な
血 圧 変 動 は 認 め られ ず,ま た,群 間 に お い て も有 意 差 は 認 め られ な か っ た 。
血 中 リ ドカ イ ン濃 度 は,す べ て の 群 に お い て 10分 後 に 最 大 値 を示 し,経 時 的 に 減 少 し た。 各 時 間 に お い て,注 入圧 が 低 い 方 が 血 中 リ ドカ イ ン 濃 度 は 有 意 に 高 か っ た 。 ま た,100±50mmHg群
と比 較 し,400±50mmHgの 血 中 リ ドカ イ ン濃 度 は す べ て の 時 間 で 有 意 に低 く,200±50mmHgで は30分 以 降 有 意 差 が み ら れ な く な り,300±
50mmHg群 で は50分 以 降 有 意 差 が み ら れ な く な っ た。
顎 骨 内 リ ドカ イ ン濃 度 は,す べ て の 群 に お い て 10分 後 に 最 大 値 を示 し,経 時 的 に 減 少 し た。 各 時 間 に お い て,注 入 圧 が 高 い方 が 顎 骨 内 リ ドカ イ ン濃 度 は有 意 に高 か っ た。
【 考 察 ・結 論 】 平 均 動 脈 圧 は す べ て の群 に お い て, 浸 潤 麻 酔 後 に一 過 性 の 低 下 傾 向 を示 し,そ の 後 回 復 した。 ア ドレナ リ ンの 作 用 は 認 め られ た が,群 間 に お け る有 意 差 が な か っ た こ と か ら,本 研 究 の 注 入 圧 の 範 囲 で は 注 入 時 の痛 み は少 な い こ と が示 唆 され た 。
血 中 リ ドカ イ ン濃 度 は,低 い 注 入 圧 ほ ど リ ドカ イ ンの 血 中 濃 度 が 上 昇 した た め,低 注 入 圧 の 浸 潤 麻 酔 で は,血 管 が 密 で 血 流 の 多い 口腔 軟 組 織 へ 移 行 して い る可 能 性 が 示 唆 され た 。
顎 骨 内 リ ドカ イ ン濃 度 は,高 い注 入圧 ほ ど 高 い 値 を示 し た こ とか ら,骨 膜 下 浸 潤 麻 酔 の 注 入 圧 が 高 い ほ ど,顎 骨 内 に局 所 麻 酔 薬 が 多 く浸 潤 す る可 能 性 が 示 唆 され た 。 臨 床 で 行 わ れ て い る顎 骨 で の 手 術 に お い て は,浸 潤 麻 酔 時 に は,低 い 注 入 圧 を 避 け,高 い注 入圧 が 得 られ るポ イ ン トを探 っ て 注 入 す る こ と に よ り,よ り高 い 浸 潤 麻 酔 効 果 が得 ら れ,ま た 作 用 時 間 も長 くな る と考 え られ る。 さ ら に,高 い 注 入圧 で 行 う骨 膜 下 浸 潤 麻 酔 に お い て は, 局 所 麻 酔 薬 の注 入 量 を少 な くす る こ とが 可 能 に な る と考 え られ る。
本 論 文 に 関 して の 審 査 委 員 会 は 平 成27年1月 14日 に 開 催 され た 。 審 査 委 員 よ り,本 研 究 の 実 験 方 法 の 再 現 性,本 研 究 の 臨 床 的意 義 につ い て の 質 疑 が あ り,そ の い ず れ に つ い て も申 請 者 か らの 的 確 な 回 答 が得 られ た。 また,委 員 会 に お い て 論 文 の 文 章 お よ び 図 の 加 筆 等 の 指 摘 が あ っ た が,後
日提 出 され た 論 文 で は適 切 に修 正 され て い た これ ら の結 果,本 論 文 で は歯 科 医 学 の 発展 に 寄 与 す る もの と考 え られ,申 請 者 は 学 位 授 与 に値 す る と判 定 した 。
掲 載 雑 誌
Anesthesia Progress.2016;63印 刷 中