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理想的教師特性への自己一致度における大学生と教 師の違い
著者 豊田 弘司, 三木 馨
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 33
ページ 107‑111
発行年 1997‑03‑01
その他のタイトル The differences between the underguraduates and the teachers in degree of self agreement to the traits of ideal teacher.
URL http://hdl.handle.net/10105/6957
理想的教師特性への自己一致度における大学生と教師の違い*
豊田 弘司・三木 馨**
(心理学教室)
要旨:99名の大学生と170名の現職小学校教師を対象に理想的教師像を構成 するの特性が自分にどれだけ備わっているかを評定させた。各因子を構成す る項目の評定値の比較によると、現職教師の方が大学生よりも有意に評定値 の高い項目が多く、大学生に比べて現職教師の方が、理想的教師の特性に対 する自己一致度の高いことが示された。そして、この傾向は、「教師として の資質」、「指導技術」に関する諸特性において強いことがうかがわれた。
キーワード:理想的教師像、大学生、現職教師、自己一致度
豊田・三木(1996)は、大学生と現職教師それぞれに理想的教師に求められる特性(以下、理 想的教師特性)を自由記述させ、両者の理想的教師像の違いについて検討した。その結果、記 述された特性では大学生、現職教師ともに共通して「やさしい」、「明るい」、「いっしょに遊 ぶ」が多くあげられ、杉村(1979)が好きな小学校教師の特性として報告したものとほぼ一致 した結果となった。また、大学生と現職教師が異なる点として、大学生では「対等につきあ う」が多いのに対し、現職教師は「児童を理解する」、「愛情をもって接する」、「教育への情熱 がある」等が理想的教師特性としてあげられた。この結果は、大学生では教師の入伺性に関す
る特性が重視され、現職教師では、児童の理解が重視されることを示し、教職経験を積むこと によって児童・生徒を理解することの大切さに関する認識が高まることがうかがわれた。
さらに、豊田・三木(1997)は、自由記述によって得られた理想的教師特性を項目として用 い、大学生、現職教師に評定させ、小学校における理想的教師像の因子構造をもとめた。その 結果、「人格」、「子どもに対する受容的態度」、「教師としての資質」、「指導技術」といった4 つの因子が抽出された。この因子構造は大学生と現職教師を込みにした全データについての因 子構造であるため、大学生と現職教師の比較には因子ごとの平均評定値および各因子を構成す る個々の項目の評定値の比較によって行った。その結果、因子ごとの平均評定値においては両 群に有意な差のある因子は見られなかったが、「受容的態度」国子を除く全ての国子において 大学生の評定値の方が現職教師より高かった。また因子を構成する個々の項目の評定値では11 項目に有意な差のある項目がみられたが、うち9項目が大学生の方が現職教師よりも高い項目 であった。これらの結果から、大学生の方が現職教師よりも全体的に理想的教師特性に対し高
*Thedifferencesbetweentheunderguraduatesandtheteachersindegreeofselfagreementto the traits ofideal teacher.
**HiroshiTOYOTAandKaoruMIKI(Departnumtd〜chology.Nam thliversi&qfEducation)
く評定する傾向があるのに対し、実際に教育現場に立つ現職教師は評定に厳しく、低めに評定 する傾向が示された。そこには、教師が大学生よりも複雑な理想的教師像をもつ可能性が考え られた。
さて、上述した研究で明らかになってきた理想的教師特性は、教職に関わる人間にとっては 目標としての意味をもっており、自分がその理想的特性をどの程度もっているかを自己評価す るための基準ともいえるものである。理想的教師特性に基づく自己評価については、小泉ら
(1988)が教師に要求される能力・資質という特性に限って、教育学部学生と現職教師の違い を検討している。そこでは、各項目が示す特性が自己に備わっているかどうかを評定させてい るが、現職教師よりも大学生の方が評定値が低く、教師に要求される能力・資質に関する大学 生の自己評価の低いことが示されている。また、井上(1988)では、大学生に、自己のパーソナ リティと教職に就いたときの望ましいパーソナリティを評定させ、この両者の一致度を検討し ている。その結果、因子構造に違いはみられるものの、自己のパーソナリティと教師として望 ましいパーソナリティを構成する各項目に対する評定値に差はみられず、この両者がかなり一 致していることがうかがわれた。しかし、井上(1988)では、現職教師との比較はなされてい ないので、大学生と現職教師の理想的教師特性への一致度における違いが明確に示されたとは いえない。−飽かに小泉ら(1988)では、現職教師との比較を行らているが、そこで取り上げら れたのは、理想的教師特性の中の教師に要求される能力・資質だけである。
本研究では、理想的教師特性が自分にあてはまる程度(以下、自己一致虔′)における大学生 と現職教師の違いを検討することを目的とする。なお、具体的な理想的教師特性としては、豊 田・三木(1997)において示された理想的教師像の4つの因子(人格、子どもに対する受容的 態度、教師としての資質、指導技術)を構成する項目を用いた。
方 法
被調査者 大学生は第1著者の「発達心理学」を受講した99名(男子24名、女子75名、平均 年齢20.1歳)、現職小学校教師は第1著者の認定講習会における「発達心理学」を受講した170 名(男子88名、女子82名、平均年齢37.7歳、平均教員年数14.4年)であった。
材 料 B5判調査用紙を用いた。大学生を調査対象とした用紙には「あなたが小学校の 教師になったとして、どの程度自分にあてはまるか」、現職教師を調査対象とした用紙には
「教師としてのご自分にどの程度あてはまっているか」といった教示が印刷されており、その 下に、「全くあてはまらない」を1として、順に「あまりあてはまらない」を2、「少しあては まる」を3、「よくあてはまる」を4というように回答すべき数字の意味が示されていた。さ らにその下には、1から29の番号とともに理想的教師特性の項目が印刷されており、各項目の 右横の()内に数字を記入する欄が設けられていた。
手 続 大学生、現職教師それぞれ別に集団調査を実施した。被調査者は、上述の用紙が
配布された後、各自のペースで上述したように数字を記入するという形式で評定を行った。評
定時間はどの被調査者も10分以内であった。
結果と考察
表1 項目ごとの自己一致度平均評定値
項 目 大学生 現職教師
「人格」 α=.72 子どもが親しみやすい おもしろい
やさしい 明るい
楽しい授業をする いっしょに遊ぶ 面倒見がよい
クラスの問題を解決する
3.20 3.18 2.85 2.96 3.00 2.88 3.19 3.18 2.91 2.77
3.53 > 2.66 ***
3.14 > 2.94 *
2.92 < 3.20 ***
「子どもに対する受容的態度」 α=.75 子どもと信頼関係がもてる
子どもを理解する 思いやりがある 相談できる
ひいきしない 心が広い
*
*
*
7 3 1
⊥ 5 9 5 0 1 0 9 3 7 3 3 3 2 3 2
<
4 5 1 4 8 9 0 0 1 0 9 6 3 3 3 3 2 2
「教師としての資質」 α=.68 まじめである
信念をもっている 威厳がある 厳しい指導をする 責任感がある 頭がよい 道徳的である 経験が豊富である 我慢強い
3 8 4 5 7 2 1 0 9
9 5 7 0 1 1 9 9 7
2 2 1 2 3 2 2 1 2
く く く
>
<
3.Odい 3.02 ***
1.99 **
2.63 ***
3.18 2.05
2.67 **
2.45 ***
2.82
「指導技術」 α=.66 はめ方や叱り方がうまい 子どもの疑問に答えられる 子どもの話をよく開く 話し上手である
子どもをうまくのせる 感情的にならない
2.43 2.44 2.69 < 2.96 ***
3.33 > 3.15 * 2.23 < 2.46 * 2.75 < 2.94 *
2.28 2.33
*p<.05 **p<.01***p<.001
表1には、豊田・三木(1997)によって得られた因子に分けて、各項目ごとの自己一致度評 定値の平均が示されている。なお、自己一致度評定値についてクロンバックによるα係数を求
めたところ、.75から.66までの値を示し、自己一致度評定においてもこれらの因子を構成する 項目はまとまっていることが示された。
項日ごとの自己一致度評定値の比較 各因子を構成する個々の評定値について、大学生と現 職教師間の差に関するt検定を行った。その結果、有意な差がみられたのは13項目であり、そ のうち9項目は現職教師の方が大学生よりも評定値が高く、反対に大学生が現職教師よりも評 定値が高かったのは4項目であった。理想的教師特性として各項目が当てはまる程度を評定さ せた、豊田・三木(1997)では、評定値間に差の見られた11項目のうち9項目において、現職 教師が大学生よりも評定値が低く、現職教師が大学生よりも理想的特性として用いた項Hを低 く評価していることが示された。一方、本研究の自己一致度評定の結果からは、現職教師の方 が大学生よりも有意に高く評定する項目が多く現れ、実際に教職についている教師の方が自己 に一致する程度を高くみることが示されたのである。
各因子ごとに有意差の見られた項目をみていくと、第1因子(「人格」)では「いっしょに遊 ぶ」、「面倒見がよい」において大学生の方が現職教師よりも評定値が高く、逆に「クラスの問 題を解決する」は現職教師の方が大学生よりも高かった。「いっしょに遊ぶ」、「クラスの問題 を解決する」の結果については豊田・三木(1997)においても同様な差がみられている。つま り、大学生における「いっしょに遊ぶ」、現職教師における「クラスの問題を解決する」は、
理想的教師特性としてあてはまる程度と自分にあてはまると考える程度が対応していることに なる。
第2国子・(「子どもに対する受容的態度」)においては「ひいきしない」が大学生よりも現職 教師において評定値が高かった。大学生に小学校時代に嫌いな教師の特性を回想させた研究
(豊田,1996)によると、「不公平」が上位にあげられていたが、現職教師は大学生よりも児童 に公平であることに留意し、それが自分でも可能であるとする意識の強いことがうかがえる。
第3因子(「教師としての資質」)では、「信念をもっている」、「威厳がある」、「厳しい指導 をする」、「経験が豊富である」の4項目において現職教師の方が大学生よりも評定値が高かっ た。豊田・三木(1997)では、この第3因子を構成する項目の評定値は大学生、現職教師とも に全体的に低かったが、それは、「教師としての資質」を当然のこととしてとらえられている ために、理想的教師特性とは意識されにくかったと考察された。本研究の結果とあわせて考え ると、大学生、現職教師ともに「教師としての資質」は理想的特性として当然と受けとめられ ているが、教職経験を重ねた現職教師の方がその諸特性が自分に備わっているという意識が強 いといえよう。
第4因子(「指導技術」)では、「子どもの疑問に答えられる」、「話し上手である」、「子ども
をうまくのせる」という3項目において現職教師の方が大学生よりも評定値が高かった。これ
も現職教師は実際の教職経験が豊富であるために、これらの指導技術に関わる特性を備えてい
るという意識が強くなるのであろうと考えられる。大学生が現職教師よりも評定値が高かった
l −
.
のは「子どもの話をよく聞く」であるが、この特性は指導の技術というよりも指導への態度と いうべきもので、教育経験にあまり影響される特性ではないといえよう。また、現職教師は実 際の多忙な教育活動の中で、個々の子どもの話を開くだけの時間的余裕がないことはよく耳に することである。したがって現職教師の自己一致度の評定も低くならざるを得ないことが考え
られる。
表2 因子ごとの平均評定値
人格 芸芸孟芸雲する教師としての資質 指導技術
大学生 3.09